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ジェニファー
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G.O.E~第20話【膨らみ溜まる風船地獄】~

共に戦う者を失うということに喪失感を覚えることはない。 だがそれでも…胸の内にモヤモヤとした何かを感じはするものだ。 オウンがどこかへ消え去ってから日がたった。 あれから何体か怪人を作りエナジーを回収させているが、量は大したことなく、すぐにヒーローどもに倒されてしまっている。 俺が作り出す怪人があまり強くないことは分かっていたことだが、自分の無力さに悲しみを通り越して呆れてさえくる。 ……だが、最近は少し事情が変わってきた。 以前オウンに瘴気を分け与えられてからというもの、日に日に力が増大しているのを感じる。 俺の持つ瘴気は無限にも近いほどに膨大であると思い込んでいたが、どうやら違ったようだ。 今はその瘴気が爆発的に膨れ上がっているのが分かる。 これだけあれば……そうだな。 実体化して、人間の世界へ赴くこともできそうだ。 * * * 人間の世界はやけに明るくうるさい。 普段閉じこもっていたあの空間から考えれば至極当然の事なのだが、俺にとってはやけに異質に感じた。 これだけ男が歩いているというのに、何故今までの怪人共はエナジーを満足に回収できないのか。 まぁそこら辺にいるやつらは対して良質なエナジーともいえないが…。 やはり回収できないのは、ヒーローの存在が大きいのだろう。 あいつらさえいなければ…いや、対処さえすることさえできれば、怖いものはない。 俺の作る怪人に戦闘力がないことは変わらない。 ならどうするか? 選択肢は一つ。俺が戦えばいいのだ。 うまくいけばヒーローたちも捕らえることができるかもしれない。 1人考えながら歩いていると、ふと視界に入ってきたものがあった。 それはテレビというものらしかった。 立ち止まり眺めていると、その中にひとりのピエロの姿が映し出された。 細長い風船を膨らませ、器用に形を整えていく……。 …そういえばオウンが言っていた。 エナジーは人間の中で熟成させるのが良い、と。 「…なるほど」 視線を自分の手に向ける。 手のひらから一瞬にして瘴気があふれ出し、この空間に広がっていく。 周りにいる人間どもは、何が起きているのか分かっておらずうろたえるだけ。中には写真を撮っている輩までいる。 「…さて、久し振りの実戦といくか」 * * * * 「なんだ、これ」 怪人が現れたという報告を受けて、変身してから現場に来てみると そこにはいろんな色の巨大な球体が転がっていた。 赤、青、緑、黄色、オレンジ、黒、白…。 その数は数えきれない。 「蒼汰、怪人は?」 「いや、見当たらない」 「何だよこれ」 涼が地面に転がる球体に触れる。大きさは俺たちの背丈ぐらいある。 触ってみた感触は柔らかく、風船に近い。 「あれ、奏多くんは?」 「まだ時間がかかるらしい。とりあえず俺たち四人だけだ」 先に到着した四人だけで、とりあえず周囲の捜索にあたる。 怪人がどこかで暴れている気配はない。 おそらくこの球体は怪人の仕業なんだろうけど、どういう意図があるのかまったく分からない。 普段は人通りの多い道だけに、この巨大な風船が転がっているという風景はやけに不気味だった。 「これって何だろうね。罠?」 「爆発したりするのかもしれねえぞ」 「その時は育也に任せるさ」 「任せて。すぐにバリア張るから」 「た、助けて!」 突然聞こえてきた悲鳴。 一斉に声のした方を見ると、大学生くらいの男の子が走ってこちらへ走ってきていた。 その彼の向こう側から、ピンク色の光線が飛んでくる。 怪人が撃っているのは間違いない。 しかしかなり適当に撃っているのか、直撃する様子はない。 「助けるぞ!」 蓮の掛け声で一斉に走り出す。 光線を撃っている怪人の姿をようやく捕らえることができた。 その見た目は奇抜だった。 全身を小さな風船がいくつも覆っていて、大きなぶどうのような見た目だ。 僅かに人型であることだけは伺える。 「待てー! エナジーよこせー!」 怪人がいやに高い声で叫ぶ。 そんな距離はないはずなのに、転がっている巨大風船が邪魔でまっすぐ進めない。 「もう少しだ!」 思わず叫んだ。 逃げている彼との距離はもうそんなにない! 「いやだ、あんな風にはなりたくない!」 「こっちだ!」 先頭を走っているのは俺だ。 「蒼汰!」 「わかってる!」 男の子の手を掴んで引っ張る。 かばう様に前に立ち、怪人を見る。 いくつも放たれる光線。 その中の一つが、運が悪いことにまっすぐ俺に向かってきていた。 「逃げるんだ!」 男の子にそう伝えることしかできなかった。 頷き、すぐに逃げる彼。 しかしここで俺がどけば光線が彼に当たってしまう。 この距離では育也のバリアは間に合わない。 「くそッ」 その光線をこの体で受け止めることしかできなかった。 直撃した瞬間、ピンクの光が全身を包み込む。 微かな衝撃はあったものの、痛みはない。 「なんだ…今の」 「レッド! 平気か?」 「おぉ、俺は、何とも…ん?」 僅かな違和感。 直後に腹部に衝撃が走って、体を内側から押し開かれるような圧迫感を覚えた。 「うあッ、か、体がッ!?」 光沢を持つ赤いスーツが、空気を注入しているような甲高い音と共に膨張を始めた。 「うああッ!!」 膨らんでいるのは腹だけではなく、腕も太くなり始める。 突然の変化に体は完全に適応できておらず、悶えるような声が自然と漏れてしまう。 「うおッ、あぁッ…」 空気を体内に送り込まれているような…そう、風船を膨らませているような、そんな感覚。 それを自分自身の体で味わっている。 「んほぉぉッ!?」 突き出た腹、膨れた腕。 アンバランスな体型になった俺の体は、バランスを保てずに後ろに倒れ込んでしまった。 「んんんッ!?」 頬まで膨れてしまいうまく話せない。 俺を見る三人の姿が見えるが、何も伝えられなかった。 ・ 「蒼汰! くそッ」 地面に倒れてしまった蒼汰。 変身が解除されることはなかったが、もう動けそうにはなかった。 腹が異様に膨れたその姿では、戦闘はもちろん移動することすら不可能だろう。 「てめぇ、こいつに何した!」 涼が前に立ち叫ぶ。 怪人は体を震わせながら笑い声を漏らす。 「ぷふふー! 俺の光線に当たったら体が膨らんじまうのさ」 「じゃあこの風船もお前の仕業ってわけか?」 「あぁ、そうさ! 何回か光線を当てれば最終的にでっかい風船になるのさ」 「…そんなことして何の意味がある?」 こいつらの目的はエナジー回収のはずだろ? 俺たちを行動不能にするのが目的ならともかく、一般の人たちをこの状態にする理由が分からない。 「バカかお前ら? ただ膨らんでるわけないだろう」 怪人が風船を指さす。 「よく見てみろ!」 俺たちは近くにあった風船を見る。 これが元々人であったとは考えられない。 …だが、その証拠はすぐに見つけられた。 「これは…」 風船にあるものがついていた。 それは男の股間についているソレ。 玉と竿だけが、何故か存在していた。 他の風船も見てみれば、すべてにそれがあった。 「何だよこれ」 「ぷふ! そいつらの体の中でエナジーが溜まっているのさ。満杯になったらそこから出てくる仕組みだ」 怪人は笑いながら、得意げに説明する。 「ほらそれを見てみろ。もう十分溜まった!」 怪人が言った直後、横の風船にくっついているイチモツがビクッと震え、ゆっくりと勃起していく。 「…なんだ?」 何度かビクビク震えたかと思うと、突然そこから白い何かが噴き出した。 その見た目は見慣れたアレとなんら変わらない。 臭いで分かったが、風船についているイチモツは射精してしまったのだ。 「風船の中身がエナジーで満たされれば、自動的に射精する! ぷふふ! 赤い奴にもあと何回かビームを当てればエナジー風船の出来上がりさ!」 地面に転がる蒼汰は、苦しそうに声を漏らし、その顔を恐怖に染める。 奏多もおらず、戦力として一番の蒼汰を失えば…かなりの痛手だ。 三人だけでこの状況を乗り切れるか? ひとまず蒼汰をつれて逃げることもできる…転送機能を使えばーー。 ・ 思考する俺の視界を何かが横切った。 「なんだーーッ?」 呟いた直後、強力な衝撃が俺たちを襲った。 吹き飛ばされる視界の中、蒼汰だけが元の場所に残されているのが見えた。 地面を転がるも、すぐに体勢を立て直す。 急いで視線を向ければ、蒼汰の横に見慣れた男の姿があった。 「…お前」 「意外とあっけないなヒーローも」 そこに立っていたのはオウンだった。 …だが、なんだ? 雰囲気が違う気がする。 見た目は同じなのに、その中身が違うような…。 「またお前かよ、オウン」 涼が吐き捨てるように呟く。 その言葉を聞いたオウンは、眉間に皺を寄せて涼を睨みつけた。 「ふざけるな。俺をあんな奴といっしょにするんじゃねえ。俺はウィル。エデンのトップだぞ」 「は?」 なんだと? どういうことだ? 見た目はオウンそのものなのに、あいつはウィルと名乗り、しかもエデンのトップときた。 仮にオウンとは別の存在だとして、今まで怪人を作って送り出すことしかしてこなかった奴が、何故突然現れたんだ? …理由は分からないが、とにかくまずい。 こんな状況では更に蒼汰の力が必要なのに…今のあいつはウィルの足元だ。 「おいお前」 「あ、はい」 ウィルの呼び声に怪人がすぐに反応する。 その腕を迷いなく下に向ける。そこにいるのは蒼汰だ。 「さっさとこいつも風船にしろ。ヒーローのエナジーは上質だからな」 「か、かしこまりー!」 「させるか!」 涼が風の力を発動させる。 たちまち周囲に強い風が吹き荒れる。 しかし、ウィルはそれを見ても焦る様子はない。 「調子にのるな雑魚が」 俺たちを一瞥すると同時に放たれる瘴気。 目線だけで何という重圧感だろうか。 涼が生み出した風は瘴気によってかき消されてしまった。 「そんな…」 「さっさとやれ」 「はい!」 その一言で、怪人が光線2回放つ。 蒼汰が再び苦しそうに声を漏らし始めた。 「んんぅッ!? からぁ…だがぁッ!」 さきほど膨らんだのは腹と腕だけだったが、今回は背中も膨らみ始めた。 そして足までもが横に太くなり始める。 「あぁッ!? うあッ…ぁぁ…」 全身がまんべんなく膨らみ始めると、ついにスーツが耐えきれなくなり、変身が解除されてしまった。 淡い光と共にスーツが消失する。 意外にも現れたのは、蒼汰の素肌ではなかった。 いや…あれは素肌なのかもしれない。 しかし蒼汰の全身は、顔から下と手足の先を覗いたすべてが赤い光沢を保持していた。 それは…その体が風船になっている証拠にかわりない。 「なんだよッ…これ…うぁぁ…ッ」 止まるところを知らずどこまでも膨らみ続ける蒼汰の体。 頭と手足の先だけが辛うじて残っている。 …もちろん股間のあれも。 平常時でもかなり大きい蒼汰のソレは余計に目立っている。 しかし当の本人はそんなことを気にしている余裕はない。 頬を膨らませながらも視線は怪人と俺たちに向けられている。 「くそ、蒼汰…ッ」 助けてやりたいが…あの怪人だけならまだしも、ウィルがいては不可能に近い。 実際は分からないが、経験で理解できる。 あいつはおそらくオウンより強い。 溢れでるオーラの質が違う。 オウンは常に人を小ばかにしているような雰囲気だったが、こいつは常に怒っているような…そんな感じだ。 「まだ頭が見えてるぞ。完全に埋めろ。こいつらはエナジーを吐き出すだけでいい」 「わかりました!」 怪人がもう一度光線を放つ。 再び膨張を始める蒼汰の体。 「んんぅッ?! やめッ…!?」 何とか抗おうと顎をあげているが、手足もすでにその体に飲み込まれた。 「にげ…ろ…ぉ…ッ」 そして抵抗むなしく、丸々とした顔も見えなくなる。 顔と手足が埋没し、他に転がっている巨大風船と同じ見た目になってしまった。 「さて、お前たちも風船にしてやる」 ウィルは満足そうに笑みを浮かべると、蒼汰を何度か軽く叩いて俺たちを見た。 「撃て、当てろよ」 「も、もちろんです…!」 ウィルのその一言で怪人が両腕を俺たちに向ける。 直後ピンク色の光線がいくつも放たれた。 「2人とも僕の後ろに!」 育也が叫び、すぐさま移動する。 展開される緑色のバリアが光線を防いでいく。 「ぷはぁ?! バリアなんてずるい!」 「…小細工か。くだらねぇ」 ウィルが光線を撃ち続けていた怪人を手で制す。 「合図したらもう一度、狙って撃て」 「は、はいっ」 ウィルが腰を落とし、俺たちを見据える。 刃物のように鋭い視線。 オウンとは違う、異常な力。 鈍い音が聞こえた直後、ウィルは目の前にいた。 踏み込んだ姿勢。 足下のコンクリートにはいくつものひびが走っていた。 硬く握られた拳を打ちだすと、今までどんな攻撃も防いできた育也のバリアにヒビが入った。 「ダメだッ、逃げてーーッ」 咄嗟に動き出そうとするも間に合わず、ウィルの拳はバリアを貫通した。 一瞬にして拳に瘴気を纏い、それが放射状に広がる。 俺たち3人の体を侵食したそれは、最悪の結果を引き起こす。 変身が強制的に解除され、競パン一丁の姿になってしまった。 「うあッ…!」 「今だ撃て!」 ウィルが叫び、姿を消す。 消えた背後から束となったピンク色の光線が現れ、俺たちの体にそれが直撃してしまう。 「うわあッ!!」 「ああ、そんなッ…」 涼が呟き、直後腹が膨れ始める。 必死に腹を手で押さえ込んでいるが、無情にも膨張は止まる様子を見せない。 「くッ、くるしィッ…!」 育也に目をやれば同じように体が変化を始めており、それは俺の腹も同じだった。 更に、へそを起点に肌の色も変化し始めていた。 それぞれが青、緑、黒に変色していき、触れてみるとゴムのような弾力を持っていて、膨らむのを抑えようと手を添えても、へこむだけで意味がなかった。 「うんおぉッ…?!」 体内に直接空気を送り込まれているような気持ち悪い感覚。 ケツの中から胸のあたりまで、強引に押し開かれているような圧迫感。 腕は肘まで、足は膝の部分までが風船になってしまい、起き上がることも叶わなくなった。 「ぁぁッ…うごけ…ないッ」 頬まで膨らみ、ほぼ風船人間になってしまった俺たち3人。 身につけていたはずの競パンは体と一体化してしまったのか、股間の部分にはチンコとタマしか残っていない。 「んんぅ…くそぉ…ッ」 悶えながら、変わってしまった自分の体を見る。 かなりの弾力を兼ね備えた青く染まった肌。 軽く押してみれば、その分へこみ、すぐに元の形へと戻る。 風船の部分はパンパンに張り詰めており、全身を空気で満たされているような感覚だ。 「…ぁぁ、そん…なッ…」 自分の体のはずなのに、自由が利かない。 股間にぶらさがるイチモツだけは染まることなく、その存在を主張している。 育也と涼を見る。 やはりいびつに膨らんだ腹は不気味だ。 自分もあんな体になってしまったのかと思うと、これからどうなってしまうのかという恐怖心が芽生え始めた。 「絶体絶命だな、おい?」 ウィルが足を持ち上げ、俺の膨らんだ腹に押し付ける。 「んーッ!? ぅぅ…やめ…ッ」 「おいッ…やめろ…ッ」 涼がウィルを睨みつける。 しかし、こんな姿の俺たちに凄まれたところで、何も思うことなどないのだろう。 ウィルは鼻で笑うと俺から離れていった。 「やりましたね! まさかヒーローを風船にできるなんて」 「いや、まだ1人いる。そいつも風船にしてやるさ」 怪人を見ていたウィルの視線が突然下を向く。 「ちっ!」 ウィルが怪人の腕を掴み後ろへ高く飛ぶ。 数コンマ遅れて地面が盛り上がり、ウィルたちがいた場所を埋め尽くした。 「…んぅッ!」 これは、奏多か! 「みんな!」 なんとか声のした方を見ると、変身した奏多がこっちに向かって走ってきていた。 「んんッ! く、くるなぁッ!」 叫んだつもりだったが、膨らんだこの顔ではうまく言葉を発音できなかった。 奏多は俺たちを守るように前に立ち、ハンマーを構える。 「蒼汰くんはッ?」 何とか返事しようとしても、呻き声をあげることしかできない。 しかし、ウィルと怪人の隣にある巨大な赤い風船を見て、勘づいたようだった。 「…やられたんだね。またお前かオウン」 「ったく、俺はオウンじゃねえって言ってんだろ」 「なに?」 「…お前は洗脳されてた時の記憶はないのか?」 「あの時のことは…もうあまり覚えてない」 「そうか…まぁいい。やることはひとつだけ」 ウィルが一歩前に出て、大きく手を広げる。 「見てみろこの惨状を。辺りは風船だらけ。お仲間は動けず、そのうち1人はエナジー風船になっちまった。お前1人でどうやって勝つつもりだ?」 「それは…ッ」 「…ぅ、奏多ッ…に、げッ…」 奏多がチラリと俺たちを見る。 聞こえづらくても、通じているはず。 1人じゃ勝てないことも…分かっているはずだ。 「逃げれないよな? ヒーローってのはそういうもんだ」 「ヒーローを…俺たちのことを、知ったような口をきくな」 「は? よく知ってるぜヒーローのことは。昔は何人も倒したもんさ」 「同じようにはならない!」 「ふん。一度こちら側に堕ちたくせに…まぁいい。お前にチャンスをやる」 「え?」 「この怪人を倒せたら、ここにいる奴ら全員元に戻してやる」 「ち、ちょっとウィル様?」 「黙ってろ」 「それは…サシでやるのか?」 「当たり前だろ。公正にな」 ウィルが怪人のケツを蹴り、前に押し出す。 それを見て、俺も一歩踏み出した。 「知りませんからね…負けても俺のせいじゃないんで」 「大丈夫だ」 あの怪人の自信の無さ…戦闘力はあまりないのか? 今までの怪人にも不思議な力を使う代わりに弱い奴は沢山いた。 それと同じパターンなら、俺にも勝機はあるかもしれない…! 「いけ!」 「く、くっそー! どうにでもなれー!」 怪人が走り出し、俺も走り出す。 手に力を込めて、ハンマーを振り上げる。 「ひいッ!!」 怪人が両腕を前に出し、ガードする様に身構えた。 俺は気にせず思い切り振り切る。 怪人が宙へ吹き飛ばされる。 …でも 「ん、なんだぁ? 痛くないぞ?」 地面に落ちた怪人はゆっくりと起き上がり、体を確認している。 「今のは…」 俺は自分のハンマーを見る。 おかしな所は何もない。 ただ、あいつに攻撃した時の手応えは…まったくなかった。 「当たり前だ。そいつの体は風船でできてる。お前のハンマーの打撃は通じない」 「そんな…卑怯だぞ!」 「あぁそうだ。俺たちはいつだって卑怯だった。そうだろ?」 ウィルがニヤリと笑った。 風を顔に感じたと思った瞬間、目の前にそいつがいて、腹部を抉られるような衝撃。 あまりの痛みに声は出ず、俺はなす術なく吹き飛ばされた。 人だった風船を宙に弾きながら、俺はかなりの距離を吹き飛ばされてしまった。 背中から落ち、視界が揺れる。 …痛い、スーツを着てるのに、なんて痛みだ。 宙を舞う巨大風船。 それはゆっくりと地面に落ちていく。 くそ…なんで俺はあんな奴の言葉を信じてしまったんだ。 分かってたはずなのに…気持ちが弱くなっていた。 “ボタッ“ 突然、足に何かが落ちた。 次に腕、腹、マスクに粘ついた何かが落ちる。 「……なんだ、これ?」 マスクについたそれを拭うと、指先から漂ってきたのは不快な臭い。 …嗅ぎ慣れた、イカくさい臭いだ。 慌てて周りを見渡す。 地面に転がっているいくつもの風船から、精液が吹き出していた。 勃起したイチモツが震えるたびに、その中に溜め込んだザーメンを吐き出している。 ……それは宙に飛び上がった風船も同じことだった。 「うわぁ…なんだよ…」 上空から雨のように降り注ぐ精液。 視界を白い線が埋め尽くす。 「悠長にしている場合か? チャンスを逃したんだ。どうなるかは分かるな?」 「…やめろッ!」 怪人は地面に倒れている蓮くんたちに腕を向けていた。 ウィルが合図すると、何発もの光線を3人の体に撃ち込んだ。 「うあぁッ!?」 3人が叫んだ。 空気を注入するような高い音が、3人の体から聞こえてくる。 身を捩り、暴れて体に起きている変化に抗おうとするけれど…それはすべて無意味なんだ。 「いやッ…ふうッせんに…なり…ッ!」 育也君の体が丸く膨らみ、手足が埋もれる。 頬を膨らませた顔を必死に上に向けて、風船に飲み込まれまいとしている。 けれど非情にも膨らむ速度は変わらない。 「おほぉ…ッ…んんッ」 涼くんの顔だけが見える。 アンバランスな雪だるまのようになってしまい、あまりの苦しさに寄り目がちになり、膨らんだ頬と相まって滑稽な表情になってしまっている。 気取っているいつもの涼くんからは想像もできない姿だ。 遂には顔まで飲み込まれ、黒い巨大風船になってしまった。 「おぉぉッ?! がはッ…うほぉッ…」 膨らむ腹を必死に抑えていた蓮くんだったけど、背中まで膨らみ始めてきて体のバランスが取れなくなった。 腕が飲み込まれ、手をジタバタと動かすだけ。 もがいていた足もすべて飲み込まれ、情けない呻き声を漏らす。 最後には苦しそうに目を閉じて、無抵抗で顔を飲み込まれた。 「さぁ、ようやく完成だ」 青、緑、黒…3色の巨大風船がウィルの背後に出来上がる。 「これも忘れちゃいけねえですぜぇ」 怪人が蒼汰くんであろう赤い風船を転がして持ってくる。 皆の名残は、風船にポツンと生えている玉と竿だけだった。 「こいつらもすぐにその風船たちと同じようになる」 そう言われ、俺は辺りを見回す。 殆どの風船が中に溜まったザーメンを吐き出し続けている。 あれだけの大きさを満たす量を…すべて吐き出すのか? みんなも…あんな風になってしまう…? そんなのーーッ ・ 「うっ、なん…だ?」 「…やっと効いてきたか」 あぁ…この感じは… ダメだ…こんな時に…。 体から力が抜け、両膝をついた。 「風船になった人間の体内に溜まるエナジーが普通なわけがないだろ? もちろんそれには瘴気が含まれている」 ウィルが近づいてくる。 けれど俺は動くことができない。 うなだれた俺の視界に映る黄色い股間には、硬くそそり立つ肉棒がしまわれている。 「自分の仲間が風船になるのを見ながら、その身を瘴気に犯されてるとは…なんと哀れな結末だ」 「うぅ…くそッ」 「せっかくだ。風船になったお仲間を気持ちよくしてやれ」 * * * * * …数日前のこと。 支部長室では、支部長である大山と物隙博士が向かい合って座っていた。 「やはりあのオウンとかいう怪人、どう見てもあれは…」 博士が呟き、大山が首を傾げる。 「本当なのですか? あなたが倒した怪人と、あのオウンとかいう奴の見た目がまったく同じというのは?」 「いくら歳を取ったと言ってもまだボケてはいませんよ私は」 「それはそうでしょうが…」 「気になるのは話し方や態度が違うということなんです」 「あなたが知っているオウンはどんな奴だったんですか?」 「あいつはもっと荒々しく…いつも何かに怒っていた。おどけて笑うような奴じゃない。それに…」 博士が大山をまっすぐ見る。 「憎きあいつの名前は、ウィルよ」 * * * * * 頭がぼーっとして、考えるのが億劫になる。 股間で疼く熱が俺の思考を侵食して、理性をかき消していく。 「おっせ、ほいせ」 風船怪人が蒼汰くん達四つの巨大風船を俺の周りに運んでくる。 少しでも気を緩めてしまえば変身が解除される。 そのせいで怪人の行動を止めることすらできなかった。 「どうした、そんなに気持ち良いのか?」 ウィルが風船の隙間から俺を見て呟く。 「いつまでそんなものを着ているつもりだ。さっさと楽になったほうがいいんじゃないか?」 「…ふざ、けるな…」 「ふん。強情な奴だ」 「ウィル様、運び終わりました!」 怪人の声が風船の向こう側から聞こえる。 目の前には青、左に緑、右に赤、背後に黒い風船が置かれている。 …そのどれもが俺に自らの男性器を向けて。 「ほら、目の前の奴のモノを見てみろ」 視線を上げれば目に見えるのは青い風船から生えたチンコとタマ。 …これは、蓮くんのものか。 もうそんな誘惑には負けない。 蓮くんとの問題は…解決したんだ。 昔の弱い俺じゃない。 「何もしないと思うか?」 「…え?」 「まぁ、何かするのは俺ではなく”そいつら”だけどな」 「…そいつら?」 その時だった。 目の前のイチモツがビクッと震えたかと思うと、急速にその身を固くし始めた。 玉がキュッと引き上げられ、亀頭がわずかに膨らんでいる。 他の皆のモノを見ても、同じように勃起していた。 「これは…」 「お仲間のエナジーをその身でたっぷり味わうといい」 「……ッ!?」 駄目だ、こんな状況であれを浴びたら… 逃げないと、逃げないと…ッ! 地面に手をついて力を込める。 歯を食いしばって立ち上がろうとする俺の視界に、白い何かが映り込む。 それはねばついた白濁液。 ゆっくり顔を上げれば、蓮くんのチンコはまるで生きているみたいに揺れながら、その先っちょから精液を吐き出していた。 肩にかかる。 腰にかかり、ふくらはぎにかかる。 風船になってしまった皆が一斉に射精を始めた。 「…やめて…ッ」 ここから逃げなきゃ。 このままいれば、瘴気に…侵されて…。 「うぅッ…あぁ…」 気持ちよくなってきた…。 さっきまで気持ち悪いと思っていたイカ臭さに、興奮してきている自分がいる。 呼吸が速くなる。 自分のチンコの先から我慢汁が溢れている。 黄色いスーツを黒く染めて、少しでも動けば強い快感が全身を走る。 立ち上がろうと中途半端な体勢になっていた俺は、震える足を制御することができず仰向けに倒れてしまった。 放たれ続ける皆のザーメンが、全身に降り注ぐ。 「あぁ…すごい…」 全身に暖かさを感じる。 皆のチンコが喜んでいるみたいだ。 俺が…堕ちるのを…皆が喜んでいる。 * * * * 奏多の全身が淡い黄色い光に包まれたかと思うと、スーツが消え去り競パンだけの姿へと変わった。 その顔には呆けた笑みを張り付けて、浴びせられる四人の精液を嬉しそうに全身に塗りたくっている。 「すっごい…気持ちいぃ…ッ」 股間に精液を擦り付け、自らパンツを脱いでイチモツをしごき始める。 そんな奏多の状態を知る由もない、風船となってしまった四人はただ己の中に溜まっている精液を吐き出し続ける。 「はぁ…はぁ…、うんッ」 奏多は突然体を起こしたかと思うと、育也のチンコに手を伸ばした。 射精し続けるそれを自分側に倒し、間髪いれず口に咥えた。 「んッ…!? んんぅ…」 射精などお構いなしで、奏多は育也のイチモツをなめる。 何か底知れぬ情動に突き動かされるように、一心不乱に頭を動かす。 左手で育也の玉を揉み、右手で自分のイチモツをしごき、口の端からは精液が漏れ出している。 口を限界まで膨らませてフェラをしていた奏多は遂に限界が来たのか、顔を離して大量の精液を吐き出した。 「ごほッ…うぇ…はぁ、はぁ…」 虚ろな目を横に動かし、次に涼のイチモツへむしゃぶりつく。 両手で風船を掴み、腰を擦りつけながら滑らかに頭を動かす。 ジュブジュブと派手な音をたてて、高まった性欲に突き動かされる。 「ひえぇ、あれがヒーローですか?」 「あぁ、よく見ておけ。所詮ヒーローも種を持った男だからな」 怪人とウィルが冷めた視線を奏多に送る。 一方の奏多はそんなこと気にする素振りを見せず、蒼汰のイチモツを舐め始めた。 蒼汰のモノは他より大きく、その肉すべてを口いっぱいに咥えることができない。 入りきらない部分は左手で擦ると、口の中の射精の勢いが強くなったのを奏多は感じた。 「んふふ……」 笑みを浮かべ、自らのイチモツを激しくしごく。 皆が気持ち良さを感じてくれている。 そう思うだけで、奏多の内に秘められた快感は昂っていく。 「んあぁッ!! ああ!?」 顔を離し、後ずさる奏多。 口からだらだらと精液を垂れ流し、快感に身を悶えさせ空を見上げる。 一瞬動きが止まったかと思うと、そのそそり立つイチモツから白い線が迸った。 「あぁ…あッ…あはッ!?」 呼吸が落ち着き、射精の余韻にひたる奏多。 そんな彼をピンク色の光線が包み込んだ。 「…ぇ」 呆然とする奏多の視界に映ったのは、手のひらを自分に向ける怪人の姿。 「あぁ…うあ…そんなッ」 直後、奏多の腹が急速に膨らみ始めた。 苦しそうに頬を膨らませて、その視線は定まらず宙を漂う。 胸が膨らみ、腕もみちみちと音を立てて太くなっていく。 黄色く変色した腹の下には、未だに元気に勃起したイチモツ。 「んんぅ!? 体がぁ…!?」 低く、くぐもった声。 胸と腹を両手で押さえ、尻もちをついた奏多に、怪人は容赦なく光線を3発直撃させた。 「あはぁッ……ごめん…みん…なぁッ…!」 膨らんでいく。無情にも。 口からは懺悔の言葉が出ているというのに、その表情はどこか悦楽に酔っているようにも見えた。 それもそのはず。 その身が風船に変わっているというのに、奏多は射精し続けていたのだ。 手をだらんと垂らしても、地面につくことはない。 背中も膨らみ、手足は黄色に飲み込まれていく。 …四つの風船に囲まれて、その中心で黄色い風船が出来上がっていく。 「んほぉッ…!?」 手足が完全に飲み込まれ、白目をむいた奏多の顔は呆気なく消え去った。 残されたのは五つの風船だけ。 ……どの風船からも伸びる肉棒は、鈴口からたらたらと精液を垂れ流し続けている。 風船の側面を、お互いのザーメンが汚していく。 掛け合う度に、射精する度に、風船が僅かに揺れる。 その反応が、風船になりながらも5人が生きており、意識があるという証でもあった。 元ヒーローであったとは思えないその異質で、情けない姿を見てウィルは満足そうに空を仰いだ。 「あぁ…清々しいなぁ…まったく、良い気分だ」 「よ、よかったですねウィル様」 「あぁ、お前も良い働きをーー」 ウィルが怪人を見ようと向きを変えたその時、突如周囲が轟音と共に砂埃に包まれた。 「なんだ!?」 砂埃の中から退避したウィル。 視界が晴れるのを待ち、全身に瘴気を纏う。 「俺に気づかせず近づいてくるとは…面白い」 狂気にも近い笑みを浮かべ、目の前に降り立った何者かの存在に胸を躍らせるウィル。 風船怪人であった灰が煙の中から見えた。 そして煙が晴れ、そこに立つ者の姿を認識した時、ウィルは目を見開いた。 「お前は……」 「久しぶりじゃない、ウィル」 そこに立っていたのは、白衣をたなびかせた物隙博士だった。 いつものふざけた空気は微塵も感じられず、鋭い眼光をウィルにぶつけた。 「……随分と醜くなったな、ガーディアンゴールド。もうスーツは着ないのか?」 「えぇ。私にはもう必要ないもの」 「生身で俺と戦うか?」 「その必要があるなら」 博士が腰を落とし、構える。 ウィルもそれに応じようと瘴気を溢れさせようとしたが、それよりも先にとてつもない疲労感が彼を襲った。 膝をつき、荒い息を悟られぬよう顔を伏せた。 しかし博士はその変化を見逃さなかった。 「あらどうしたの?」 「……くそッ。まだ実体化できる時間には限界があるか」 ウィルの背後に瘴気のゲートが出現する。 博士はそれを認識ながらも、動こうとはしなかった。 「久しぶりに戦いたかったが、もう時間のようだ。そいつらに伝えておけ。もっと強くなり、エナジーの質を高めろと。またもらいにくる」 「今度は負けるわよ」 「ふッ…楽しみだ」 ウィルの体が瘴気となって形が崩れていく、 ゲートの中へ吸い込まれると、一瞬で姿を消してしまった。 博士は深いため息をつき、辺りを見回す。 風船になってしまった人たちの体がしぼみ始めていた。 それは蒼汰たち五人も例外ではない。 怪人を倒したことでその能力が解除されたのだ。 「…はぁ…戦ってたらやばかったぁ…」 ホッとしたように一息つく博士。 周りの様子を確認しながらも、その視線は風船になってしまったヒーローたちの性器に向けられていた……。 * * * * 物隙博士の研究室で、蒼汰たち五人の視線は博士ただ一人に向けられていた。 「…じゃああのオウンと同じ姿をしたウィルっていう奴は、本当にエデンのボスで、昔博士が倒した怪人なんですか?」 「えぇ、そのはずだったんだけど」 「でもなんであいつはまだ?」 「分からないわ。考えられるのは……倒せていなかったってことだけね。傷が癒えるまで、ずっと隠れていたのかも」 「何でもっと早く教えてくれなかったんだよ?」 涼の苛立ちを含んだ呟きに、博士は申し訳なさそうに笑った。 「ごめんなさい。そうよね。オウンが現れた段階であなた達に伝えるべきだったのかも。混乱させてしまうと思ったから」 「いえ、その通りだと思います。あの段階でウィルの事を知っていても、俺たちにはどうすることもできなかった」 「ありがとう蓮くん」 ともかく! 博士はそう言って言葉を続ける。 「ウィルの強さは皆わかったでしょ。オウンなんか目じゃないほどに強い。私はあいつと戦ったせいで、ヒーローを引退する羽目になった」 「博士…本当にヒーローだったんだね」 「そうよ奏多くん! あの時倒したと思ったけど、復活したのなら、皆に戦ってもらうしかない。頼むわよ」 「もちろんです!」 今はこの五人の若者に、頼るしかない。 自分の力のなさを博士は呪うと同時に、嫌な予感を覚えていた。 何故突然ウィルが戻ってきたのか。 オウンが同じ姿をしているのは何故なのか。 はやく完成させなければ。 心の中で一人呟く。 かつての自分と同じ力を引き出せる、最強のスーツを。


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