G.O.E 〜第7話 【妖術師の罠】〜
Added 2021-01-31 22:36:09 +0000 UTCガーディアンレッド......。 人間でありながら俺に剣を抜かせた、面白い男だ。 剣の腕は俺の足元にも及ばないが、鍛えれば必ず強くなる。 ......俺を楽しませるぐらいには。 やはり外の世界は面白い。 奴こそが、俺の好敵手になるに違いない。 これは確信にも近い考えだった。 ・ ・ ライトが玉座にたどり着くと、既にそこにはウィルが姿を現しており レフトは立ち上がって彼を見上げていた。 ライトはいつものように膝をつき、頭を垂れる。 「......なぁ、ライト。 俺はお前に聞きたい事がある」 自分の名前を呼ばれても、ライトは顔を上げなかった。 ウィルはそれを少し見つめた後、気にせず言葉を続けた。 「お前は前回、大量の戦闘員を率いて向こうの世界に出た。じゃあどれだけのエナジーを集めた?」 「......」 ライトは答えなかった。 それを見たレフトが、ローブの下でニヤリと微笑む。 「答えないってことは、自覚があるんだよな?」 「......大変申し訳ありませんでした」 「......ふん」 「ウィル様っ」 レフトが一歩踏み出し、すかさず主の名を呼んだ。 自分が信頼を取り戻すにはここしかない。 訪れたチャンスを逃すまいとする意思は行動にまで表れた。 ウィルはゆっくりと視線を横に動かし、レフトを見る。 「私にどうか、今一度お力を...っ。 次こそ、次こそは...忌まわしきヒーロー共も排除し、エナジーを集めてみせます」 「......悪いが俺はお前には何の期待もしてない。分かってるよな?」 「......重々承知しております」 ウィルは頬杖をつき、しばらく彼女の顔を見つめていたかと思うと突然微笑んだ。 レフトはそれを見て、微かに不信感を抱く。 「いいぜ。お前にもう一回任せてやる。 だが分かってるな、これは最後のチャンスだ。 もしまた失敗したら......」 頬杖をついていた手を持ち上げて 掌をレフトに向ける。 渦巻く瘴気が次第に濃くなっていき 歪な骸骨を形作る。 「今度はお前の命を瘴気に変える」 「......もちろんでございます」 「...いいだろう」 骸骨が崩れ、放たれた瘴気がレフトの中へ吸い込まれていく。 全てを呑み込んだレフトは、深く頭を下げてから、踵を返し奥へと姿を消した。 「ライト」 未だ片膝をついたままのライトに、ウィルは声をかける。 「お前は......あぁなるなよ」 ......それは 残された部下への警告でもあり......願いでもあった。 “お前には消えて欲しくない” だが、ウィルは心の片隅にあるその気持ちを口にして伝えることはできない。 瘴気となって姿を消すウィル。 立ち上がったライトは空の玉座を一瞥すると ......ただ鼻で笑った。 今の彼には 主に従うよりも、己の好敵手が強くなることのほうが重要な事だった。 「違うッ! その構えじゃ急な動きに反応できないぞ!」 「わ、分かった...っ」 お互いに木刀を向け合いながら、蓮は俺の構えを見て怒鳴る。 俺は蓮の言うことを聞くのに精一杯で、額の汗を拭ってすぐに構えを正す。 元々剣道をやっていたらしい蓮は、俺の間違った構えや剣の持ち方にすぐ気づいて直してくれる。 「お前俺の話を聞いてるのか? 持ち方がまたおかしくなってるぞ!」 「あれ......?」 「よそ見をするなッ!」 手元を見た瞬間、一気に詰め寄ってきた蓮が俺の首めがけて木刀を振り下ろす。 それに反応できなかった俺は、ただ蓮の動きを見ていることしかできなかった。 首に触れる寸前で手を止める蓮。 俺が思わず大きなため息を漏らすと、蓮は木刀を引いて数歩後ずさった。 「今日はこれぐらいにしよう」 「...あ、ありがとうございました!」 ......蓮との剣の修行は厳しいものになるとは思っていたけど 厳しさは俺の想像を遥かに超えてきて、今日が1回目の修行だというのに、もう何回蓮に怒鳴られたか分からない......。 疲労のあまり訓練場の端に座り込んでいると、蓮が両手に水のペットボトルを持ってやってきた。 「ほら」 蓮は俺に水を手渡しながら、隣に座り込む。 キャップを開けてボトルを口に運んで傾けると 汗で濡れた喉仏が、水を飲み込むたびに上下する......。 ボーッとそれを見つめていると、蓮が俺を見て首を傾げた。 「飲まないのか?」 「へっ? ...あ、の、飲むよ!」 慌ててペットボトルを開けて飲むと、一気に半分まで飲み干してしまって 口からボトルを離すと、胸が苦しくなって思わず手で押さえた。 「おい......大丈夫か?」 「へ......平気...全然平気、だから」 何やってんだ俺......。 見てたの、蓮気づいたかな......? いや。 何も言わない所を見ると気づいてないのかもしれない。 ......よかった。 「とにかく基礎は覚えないとな。ずっと戦っていればどうしても個人のクセというものは出てくる。だけど基礎ができていなければそれは素人と何も変わらないからな」 「なるほど......。 蓮にもクセとかあるのか?」 「あぁ、あるさ。だけどそんなに目立つものじゃない」 「そうなんだ......」 「......」 今この訓練場には俺と蓮しかいない。 つまり、会話が止まれば自然と室内は沈黙してしまうわけで...... 修行の時は気にならなかったけど、こうやってゆっくりしているとどうにも気まずくて変な感じがする。 蓮を横目で見てみると、何か考え事でもしているのか宙をボーッと眺めていて 「なぁ、蓮」 と、声をかけると 修行中の厳しい目つきとは違う、柔らかな目で俺を見た。 何故かそれにドキッとしまって、一瞬言葉を詰まらせる。 「何だよ?」 「......っあ、あのー、ほら...蓮って戦う時氷の力が使えるだろ?」 「あぁ」 「涼は風だし、育也はバリアが張れる。でも奏多は使えないよな? 俺もまだ使えないんだけど、何か条件でもあるのか?」 「条件......は特にないと思うけど。人によって使えるようになるタイミングは違うんじゃないか」 「蓮はいつから使えたんだ?」 「俺は戦い始めてすぐだ。育也も確かすぐ使えていたと思うけど......涼は奏多が入った時ぐらいだったかな」 「うーん...確かにバラバラだなぁ。使えるようになるのを待つしかないのか」 「ただ使うとなるとそれなりに体力を使う。それに頼りすぎてはすぐにバテるから、まずは剣だけで戦えるようにならないと」 「......そうだな」 特別な力......か。 ライトの身体能力は常人のそれを超える。 一瞬の判断力......迷いのない正確な動き。 今思い出しても、あいつは化け物だと思う。 もし俺が力を使えるようになったら、あいつと互角に戦えるようになるんだろうか。 ......いや。 こんな事を考えても仕方ないな。 今は蓮の言う通り、基礎をしっかり身につけないと。 「そろそろ着替えよっかな」 俺が立ち上がって、グッと身体を伸ばした時だった。 突然警報が鳴り響いて、それに驚いた俺は思わず天井を見上げた。 「怪人だ」 蓮がすぐさま立ち上がり俺を見る。 直後、スピーカーから怪人の出現場所が告げられた。 「行くぞ」 「お、おう!」 ...そうか、いつも博士から連絡をもらってたから驚いたけど 基地にいるとこういう風に怪人の事が伝えられるんだな。 ・ ・ ・ ・ ・ 「イエロー、グリーン!」 あらかじめ変身をしてから怪人が現れた場所に向かうと、ほぼ同時に奏多と育也も到着した。 「......あいつは?」 あいつっていうのは、ここにいない涼のことだとすぐに分かった。 「分かんない、多分遅れてるんじゃ......」 奏多が小さく呟くと、蓮は大きくため息をつく。 「多分水泳の練習中だったんだよ、ね?」 育也が宥めるように優しく言うと 「まぁいい。あいつなしでさっさと終わらせるぞ」 蓮は俺たちの前に出て、剣を手に呼び寄せた。 問題の怪人はというと......1人で大声を出しながら走り回っているだけで 被害者も見当たらないし、破壊されているものもない。 「あぁっ!」 俺たちに気づいた怪人が、大げさに俺たちを指差して叫ぶ。 「来たなお前ら!」 ピエロの格好をしたそいつは、赤く塗られた大きな口を横いっぱいに開いて馬鹿にするような笑みを見せる。 「俺たちを待ってたわけ? 何で?」 「どうでもいい。行くぞ!」 奏多の問いを一蹴して、蓮は走り出す。 俺たちも後に続くと、怪人はあわてたように飛び跳ねて踵を返して走り始めた。 「あ、逃げんな!」 「嫌だよぉーだ!」 怪人が勢いよく飛び跳ねて、懐から取り出した何かを地面に叩きつける。 着弾した瞬間、大量の煙が辺りに広がって、俺たちの視界を覆い隠した。 「うわっ、何これ......」 どこからか奏多の声が聞こえる。 「気をつけろ、何か仕掛けてくるかもしれない」 この状況でも落ち着いた蓮の声が、俺たちの警戒心を引き締める。 ......さすが蓮だ。 すぐに冷静になって、俺たちに注意するよう促してくれる。 少しして煙が晴れると、周囲には何も変わったところはなくて 離れたところに立つ怪人は、俺たちを見て大笑いしていた。 「ただの煙だよぉー。ばっかでぇ!」 「あの野郎......」 くっそぉ...あの怪人ムカつく。 格好のせいもあるのか、人を小馬鹿にしたような動きも、更に俺の苛つきを助長する。 「何が目的なんだろう?」 苛立ちを全く感じない育也の呟きが聞こえ、それに蓮が答える。 「時間稼ぎか......それとも陽動か。 何にせよ、油断はできないな」 「なーに話してんだよー。さっさとかかってこいよー」 怪人がやまびこのように口に両手を当てて叫ぶ。 だけど蓮はその挑発に乗る様子もなく、冷静に怪人を見る。 ......でも俺は限界だった。 そんなに強くもなさそうだし、全員で一気に向かえばあんな奴簡単に倒せるはずだ 他に人もいないんだし、すぐにでもーー 「こーの腰抜けぇ! ヒーローだったら戦えー!」 「だぁぁ、もう!」 ダメだ! もう我慢できない! 「おい一ノ瀬ッ!」 蓮の声を無視して、俺は走り出す。 俺の行動を見て怪人はビクッと肩を震わせて、慌てるような素振りを見せる。 「ひぃぃッ!」 剣を振り下ろすと、怪人はダイブするようにそれをかわして俊敏な動きで後ずさる。 「くそ...」 「や、や、やるのか!」 怪人の手には先ほどと同じ煙玉が握られている。 攻撃手段は目隠しだけか? ......本当に怪人なのかよコイツ。 今までの怪人は危険な奴らばかりだったっていうのに 本当に何なんだよ......。 「一ノ瀬!」 蓮は隣に駆け寄ってくると、何も言わずに俺の頭を叩いた。 パンッ、と乾いた音がやけに耳に響く。 「いってぇ!」 「勝手に動くな! 敵が何をしてくるかも分からないんだぞ!」 ......蓮の声音はいつもより低くて 血がのぼった頭を冷やすには充分なものだった。 頭を摩りながら、俺は頷いた。 「...分かった、ごめん」 ......修行の時とは違う その声は本当に俺を心配してくれているんだと分かるものだったからだ。 「でも俺もイライラするよ。あいつ一体何がしたいわけ?」 「時間稼ぎか陽動......でもなさそうだよね。 他に怪人はいないんだし」 「そんなケチいことするかよ!」 奏多と育也の言葉を聞いて、怪人が言う。 「だったら俺の本気見せてやるぜ」 手に持っていた煙玉を捨てると、懐から新たに取り出したのは数本のナイフだった。 やっと武器を取り出しやがった。 もしかして今までの行動は俺たちを油断させるためのものだったのか? 「ピエロのナイフ投げ! とくとご覧あれ!」 器用にナイフを指の間で掴むと、すべてを一気に投げつける。 しかしそれは育也の作り出したバリアに防がれた。 「あ、あれ?」 ......いや。 やっぱコイツ弱いな。 「くぅぅ......これでもくらえ!」 足元に落ちていた煙玉をすぐさま拾って、また地面に叩きつける。 大量の煙が俺たちを包み込んだと思ったが、突然強い風が吹いて煙を吹き飛ばした。 「これって......」 「何だよ、まだ終わってないのかよ」 聞こえた声に振り向くと、変身した涼が立っていた。 「......遅いなブラック」 蓮が振り向かずに言うと、涼は軽い足取りでやってきて奏多の肩に寄りかかった。 「しょうがねえだろ。俺って結構忙しいんだぜブルーさん」 「重いよ、涼くん」 「まぁいい。5人揃ったことだし、終わらせるぞ」 蓮の一言をきっかけに、俺たちの間の空気が変わる。 怪人はその変化に気づいたのか、顔を引きつらせて一歩後ずさる。 「な、何だよ急に......」 ゆっくりと離れようとする怪人が突然動きを止める。 驚いた顔で振り返り、そっと両手を出す。 怪人が触れたのは薄緑の壁。 それは育也が奴を逃さないように作り出したものだった。 「おらっ!」 一気に近づいた奏多がハンマーを振るう。 だが怪人はそれを屈んでかわし、壁にぶつかったハンマーは重い音を鳴らす。 横に這うように逃げた怪人は、目の前に立つ足を見つけゆっくりと見上げる。 「逃げんなよ」 涼に襟を掴まれ、喚き暴れる怪人。 何とか押さえようとしている涼の見えないところから、怪人はナイフを取り出す。 「ナイフだブラック!」 俺の声で気づき、突き出されるナイフをかろうじてかわす涼。 「危ねえだろ!」 怪人の腹を蹴り飛ばし、倒れてきたところに俺がすかさず斬りかかる。 しかし器用に身体をくねらせて回避した怪人は素早く立ち上がって走り出す。 ......だが逃げた先は危険地帯だ。 「うわぁ!」 足を滑らせて派手に転んだ怪人の前に、蓮が立ちふさがる。 氷の上でツルツルと手足を滑らせながら、額に冷や汗を浮かべて怪人は蓮を見上げる。 「いや、あの......」 「これで終わりだ」 剣の切っ先を怪人に向け、蓮が腕を引く。 「ひぃぃッーー何つって!」 ......何? 怯えた表情していた怪人が突然笑みを浮かべた。 蓮もそれに気づいた。 けど、繰り出した攻撃はもう止められなかった。 剣が怪人の身体に刺さった瞬間、奴の身体から眩い光が放たれる。 「蓮ッ‼︎」 咄嗟に走り出して、蓮の腕を掴んで引っ張る。 しかし俺の行動よりも早く、光が俺たちを包み込んだ。 ・ ・ ・ ・ 怪人が突然強力な光を放った直後...... 光が消えるとそこに蒼汰と蓮の姿はなかった。 何が起こったのか......わけが分からず慌てる奏多の隣で 対照的に涼は落ち着いた様子で一歩踏み出す。 「おい、あいつらどこにやった?」 睨みつけてくる涼に、怪人は貼り付けたような笑みを見せる。 「へへっ。あいつらは今頃レフト様の所さ」 「誰だそれ.......とにかく2人をここに戻してもらおうか」 「そりゃあ無理な話だな! レフト様があいつらを解放しない限りは戻ってこれないぜ!」 先ほどの態度とは一変し、怪人の声音には余裕が感じられた。 まさしく道化のように...... 怪人は掴めぬ態度で涼たちを嘲笑う。 「ど、どうするの? 2人はーー」 「落ち着いてイエロー。僕達はとにかく、今できることをしよう」 どんな時でも柔らかな育也の声が、奏多を落ち着かせる。 彼の肩に手を置いて、安心させるように数回撫でた。 「でも......できることって?」 「ボコボコにする。だろ?」 涼の言葉に、育也が頷く。 「そういうこと」 ......ナイフをジャグリングのように弄ぶ怪人を睨みつけながら、育也と涼が戦闘態勢をとる。 その2人に習って武器を構える奏多。 そして、投げられたナイフを皮切りに戦闘が再びスタートした。 ・ ・ 眩い光が視界を真っ白に染め上げる。 掴んでいた蓮の腕の感触がなくなるのが分かったのに、あまりの眩しさに目を開けることはできなかった。 「くっ......そ。何だこれ...」 しばらく待つと、ようやく目を開けられるようになってきて 景色が色を取り戻し始める。 ......俺の身体に何か異常が起きている感じはしない。 辺りに目を走らせると、さっきまでいた街中ではなく どこまでも広がる闇の中に俺は立っていた。 視界の奥を見れば、2つの人影がそこにはあって 1人は全身真っ黒なローブに身を包んだ誰か。 そしてもう1人は...... 変身が解かれ、競パン一丁の蓮だった。 膝立ちの状態で、両手を後ろに拘束されている蓮。向こうも俺に気づいて目を見開く。 その蓮の様子を見て、黒ローブも俺の存在にようやく気付いたようだった。 「おや......もう1人」 声からしてあいつは女か? 「まったく、ここに連れてくるのは1人ずつだと言ったのに」 「お前! 蓮を返せっ!」 「ふっ...断る」 ......だったら 力ずくでも取り返す! 剣を握りしめて、走り出す。 しかし怪人は焦る様子もなく俺をただ見続けている。 「予定外ではあるが......まぁいいだろう」 ローブから伸ばされる白い手。 「うわっ!」 目の前には何もないはずなのに、俺は何かにぶつかった。 「何だよこれ......」 目では確認できない透明な壁が、俺の行く手を遮る。 剣でどれだけ攻撃しても、ヒビどころか傷一つすらつけることができなかった。 「貴様はそこで見ていろ」 俺に向けていた手を...怪人は身動きの取れない蓮へと向ける。 「やめろッ!」 「くっ......」 蓮の顔が歪む。 何かに耐えるように歯を噛みしめ、全身を強張らせるのが分かった。 「蓮ッ! お前蓮に何してる!」 「ふふっ......エナジーを頂く。狙いはそれだけよ」 「......ぁぁッ」 蓮の口から、微かな喘ぎ声が漏れる。 何もされていないはずなのに...蓮のイチモツは青い競パンを押し上げていた。 「やめろ! おい!」 「うるさい男......そうね......」 蓮に向けていた手を下ろして、怪人は俺に向き直った。 「どうしてもやめてほしいなら、あなたに条件を出すわ」 「条件?」 「えぇ」 その瞬間、俺の背後から物音が聞こえた。 振り向くとそこには、この前見た黒い怪人達が20体以上も蠢いていた。 「これは......」 「その戦闘員達を30秒以内に倒しなさい。そうすればこの男を解放するわ。でもーー」 怪人が再び掌を蓮に向ける。 「もしできなかったら、この男に快楽を与えるわ。あなた達のエナジーは特に渡したくないでしょ?」 目の前には戦闘員と呼ばれる黒い怪人達。 こいつらが弱いのは知ってる。 でも、これだけの数を30秒以内で倒す? そんなの......無理だ。 「どうする? 仲間を助けるにはこれしかないわよ」 ......蓮を助ける。 今あいつを助けられるのは、俺しかいない。 やるしか......ない。 「......分かった」 「そう。じゃあスタートよ」 「くッーー!」 大きく踏み出し、1番近くにいた敵を切り裂く。 ・ ・ ・ ・ 煙のように姿が消えるのを待たず、次の敵へ走る。 斬る。 斬る。 斬って、斬って...... 何の抵抗もしない戦闘員達を、俺は斬りまくる。 あと5体。 こいつらを倒せばーー。 「時間切れよ」 「なっ...⁉︎」 残っていた戦闘員達が一瞬にして姿を消す。 怪人の声に振り向けば、そいつは蓮に手を向けながら俺を見ていた。 「残念ね。あと少しだったのに」 「お前っ......!」 「約束は約束よ」 「うぁぁっ......ぁぁ」 何もされていないはずなのに...蓮はその口から卑猥な声を漏らす。 惚けた表情......どこを見ているのかも分からない瞳。 白かった肌はほんのり赤く染まり 競パンからはイチモツが顔を覗かせて、透明な液体をトロトロと溢れさせていた。 ......蓮は全身を快楽に包まれて、今までに見たことのない痴態を晒していた。 「......蓮」 「もう一回やってみる?」 何かから解放されたように身体を前後に揺らす蓮。 直後、怪人は俺を見てそう呟いた。 「もちろんさっきより厳しいものよ」 俺はすぐに背を向けて剣を構えた。 「...そう。じゃあ始めましょうか」 黒い地面が盛り上がり、それが人の形に作られる。 「時間は同じ30秒」 さっきの数の2倍はいるか。 これを30秒......? 「......くそっ」 今の俺にはとにかくやるしかなかった。 気を散らしたかった。 ......股間で疼く熱が全身にまで行き渡り、俺の呼吸を荒くさせた。 あのまま...... あのまま蓮の姿を見続けていたら、俺までおかしくなってたかもしれない。 そんなこと....あっちゃダメだ。 身体の熱を...... ......目に焼きついた蓮の表情を振り払うために 俺は走り出した。 ・ ・ 「お前の仲間は馬鹿ね。本当に私が言う通りにすると思っているのかしら」 ......俺の側に立つ怪人が、微かに見える口を歪ませた。 必死に戦闘員達を倒す蒼汰を嘲笑い、俺の頬に指で触れる。 怪人が何らかの力を行使しているのか、俺は跪いた状態から動くことができない。 舐めるようにねっとりと動かされる指に抵抗することもできず 俺はただ......蒼汰を見つめることしかできなかった。 「どんな気分かしら......抵抗することも、仲間を助けることもできず、ただ私にその身体を蹂躙されるのは?」 「......黙れ」 「...ふっ。お前達は本当にしぶとい」 「ぁあッ!」 まただ...... 全身に得体の知れない衝撃が走り、それは俺の身体の全ての性感帯を刺激する。 「ぅぅ......」 「おい! 話が違うぞ!」 こっちに気づいた蒼汰が、動きを止めて叫んだ。 「うるさいわね。 喋る暇があったら......あら残念、時間切れだわ」 「待てっ! おい、やめろ!」 女の手から......目に見えない何かが放たれ、俺の全身を包み込む。 「ぅ......ぁ、んッ......」 何かが乳首を撫で、肌に柔らかく触れる。 股間で疼く肉棒には手で扱かれているような刺激が与えられ、鈴口からは大量の汁が競パンを伝って下に落ちていく。 ......俺達ヒーローの精液は、他の人間よりも質が高いと言われている。 その差は......約100倍。 敵の手に渡れば、その影響は大きいものになる。 絶対に射精しないために全身に力を込めて、歯を食い縛る。 「......結構耐えるのね」 「くッ......はぁ...はぁ......」 身体を覆っていた力が途端に消え去り、口から思わず声が漏れた。 「蓮ッ! てめぇ......ッ!」 「喚くな若造が。己の力の無さを私にぶつけても何の意味もないぞ」 ......蒼汰が頑張ってくれてるのは分かってる。 でも、これ以上されたら......もう我慢できない。 「くそ! くそッ、このッ!」 俺達との間に立ちはだかる壁を 蒼汰はがむしゃらに斬りつける。 意味がないことは分かっているのに......それでも腕を止めない。 「貴様に壊せはしない。諦めろ」 「ふざけんなッ! 仲間が目の前にいるのにッ...諦められるか‼︎」 「......ふふふッ」 怪人から漏れる笑い声が、暗闇に響き渡る。 「なるほどね......ライトが夢中になるわけだわ」 「......ライト?」 「貴様のような人間は珍しい」 怪人はそう呟いた後、右手を俺に向ける。 「だから......苦しむ姿が見たいわね」 蒼汰には聞こえない小さな声で呟いた直後、俺の身体に見えない力が降りかかる。 「......ぁ」 口が...喉が勝手に動かされる。 「たす......けーー」 やめろ。 蒼汰を......苦しめないでくれ...。 「助けて......くれ」 「蓮ーーッ!」 「ほら、仲間が助けを求めているぞ?」 「......お前、絶対に許さないぞッ」 再び姿を現す戦闘員達......。 先ほどとは比べ物にならない量のそれが蒼汰の前に立ちはだかる。 「30秒で全てを倒しなさい」 無理だ。 蒼汰......無理だ。 なのにお前はどうして戦えるんだ? 「絶対助けるからな、蓮ッ!」 戦闘員の群れに突っ込んでいく蒼汰。 「さぁ、無理だと分かっていながら戦うお仲間を鑑賞しましょう?」 許せない......。 憎悪の念を込めて怪人を見上げれば 奴は...口元に貼り付けたような笑みを浮かべて、俺を見下ろしていた。 ・ ・ 消えていく。 目に入った黒い奴らをとにかく斬りまくる。 「くそッ!」 消えない。 こんなに斬っているのに 敵の数が減っている気配がしない。 これじゃ...蓮を助けられないーーッ 『助けて......くれ』 微かに聞き取れた蓮のか細い声が耳に焼きついて離れない。 あんなに弱った蓮を初めて見た。 どうにもできないと心の片隅で理解していても あんな姿を見てしまったら黙って見ているわけにはいかない。 もしかしたらどうにかできるかもしれない。 自分にそう言い聞かせて......敵を斬りまくる。 頼む...... 頼むからーーッ。 「......終わりよ」 目の前にいた敵が全て消えた。 振り上げた腕が停止した。 恐れていた言葉が耳に飛び込んできて、呼吸が止まった。 「嘘だ......っ」 「嘆きなさい。己の無力を」 怪人の手が蓮に向けられる。 そしてすぐさま蓮の表情が快楽のそれに変わる。 「...ぁぁ......はぁ...ッ」 「蓮! くっそッ、 やめろ‼︎」 「エナジーは頂くわ。そこで黙って見てなさい」 「やめ......ッ、うんーーッ」 蓮の呼吸が荒くなり、表情が蕩け始め 身体を時折ビクンと震わせて、淫靡な吐息を漏らす。 ・ さっきまであれだけ助けたいと思っていたのに 今の蓮の姿を見た瞬間、目が離せなくなった。 上気した頬が...ぴんと立った乳首が...... 窮屈そうに顔を覗かせる蓮の肉棒が、俺の視線を釘付けにする。 俺......何やってんだ。 蓮が目の前で捕らわれてるのに ......何で蓮に欲情してる? 「ぁぁ......み...るな...ッ」 蓮の声が聞こえていたはずなのに 俺は目を逸らせなかった。 ......いや、逸らさなかった。 蓮の痴態に俺は興奮していたから だから俺はーー。 「ぁぁあッ!」 脈の浮かび上った首筋を仰け反らせ、蓮が悶えた。 光の宿らない瞳を上に向け、口元からは一筋の涎が垂れる。 吐き出された精液は一度勢いよく宙へ飛び出し、やがて勢いを失い絞り出されるように漏れていった。 「...はぁ......ぁッ」 「蓮......」 「まだよ」 怪人の青い瞳が俺に向けられ、口元の布が微かに揺れる。 「もっと苦しめーーッ」 「......あぁぁッ⁉︎」 蓮が目を見開き、突然大声を発した。 顔は快楽に染まった先ほどとは違い、与えられる耐え難い刺激を堪えているようだった。 「な、何してるんだお前⁉︎」 「射精した直後のお前達の性器は敏感になっているのだろう? それを刺激してやってるのだ」 「あぁぁッ......やめ...ろ!」 掠れた声で蓮は......怪人に哀願する。 「頼む......もうそいつを苦しめるのはやめてくれ‼︎」 「自分を恨むのね。力の無いお前のせいで、こいつは苦しむ」 「あぁぁッ‼︎」 蓮の叫び声が響き渡る。 動かせない身体を限界まで捻り、今受けている耐え難い刺激に悶えている。 次第に瞳の焦点が定まらなくなり、呼吸のペースが上がっていく。 肌はより赤く染まり、蓮の身体の熱の昂りを知らせる。 「......はぁッ、もうーーッ」 「お前の仲間は......本当に役立たずだったな」 「ぁぁぁ...ぁッ⁉︎」 液体が......精液とは違う、滑らかな水が蓮の肉棒から吹き出た。 勢いよく、それは途切れることなく放たれる。 床に音をたてて飛び散り、全てを吐き出し終えた蓮は横に倒れた。 身体は痙攣し、虚ろな瞳がゆっくりと動かされ......俺を捉える。 ......何かを伝えることもなく その目は閉じられた。 「......蓮?」 「お前に力があれば、こうはならなかった」 俺に向かって一歩踏み出した怪人が、蓮を指すように手を向けた。 ......全部、俺のせいだ。 俺があの戦闘員達をすぐに倒していれば 蓮が苦しむことはなかった。 俺にもっと力があればーーッ 柄を握りしめる右手に力がかかり、痛みさえ忘れて壁の向こうの怪人を見た。 ・ ・ ......熱い。 さっきまで感じていた熱さとは違う。 右手が......焼けるように、熱い。 視界に赤い何かがちらつき、次第にそれは増えていく。 「お前......それは」 ふと右手に視線を下ろせば、俺の剣は燃え盛る炎に包まれていた。 炎の存在を認めた瞬間、感じていた熱さは消え失せ、その身を爆発させた。 空間中に広がる炎が見えない壁に遮られ、横に広がっていく。 「馬鹿な......なんだこの力は?」 「これ......?」 この炎......俺が出してるのか? 無限に溢れ出てくる炎が、まるで壁に噛みついているみたいにくっついて離れない。 俺の攻撃ではビクともしなかった壁にヒビが入り、それが徐々に広がっていく。 「お前のどこにそんな力が......?」 これなら、壁を壊せる。 この力があれば...蓮を救えるッ! 「うあぁぁぁッ‼︎」 刃に纏った炎を、目の前にぶつける。 熱風が俺を包み込み、地が...空間が揺れるのを全身で感じる。 一筋のヒビが入り、俺は腕を引いて切っ先を向ける。 そして荒れ狂う豪炎と共にそれを打ち込んだ。 硬い何かを貫いた感覚ーー。 そこから噴き出した炎が怪人めがけて突き進む。 「ありえない、私の力がーーッ‼︎」 怪人の姿が炎に包まれ 俺の視界が赤一色に染まった。 ・ ・ 「きかねぇよーだ!」 「何でだよッ...」 怪人から距離をとって、すぐに身構えた。 奴に突き刺したはずのナイフには、血の一滴さえ付着していない。 まるで粘土にナイフを差し込んでいるみたいに手応えはなくて かといって、ナイフ以外の攻撃もダメージを与えることができず、こっちの体力が消耗する一方だった。 息を切らした奏多を庇うように前に立って、気味の悪い笑みを浮かべる怪人を睨みつける。 「何してもダメだ......。蓮くん達がいなくなって時間も経つし、このままじゃヤバイよ涼くん」 「......わかってるよ」 ...くそ。 久しぶりに頭フル回転で働かせてるっていうのに、この状況を打破できる策が一つも思い浮かばねぇ。 このままじゃジリ貧だぜ......。 「さぁーて、このナイフを次はどいつにーーッ」 そこまで喋った怪人の動きが突然止まった。 慌てて口を押さえて、呻き声を漏らしながらその場でジタバタし始めた。 「なんだ......?」 「うぅぅ...! レフト様これは一体......⁉︎」 すると突然、怪人の身体が膨張を始めた。 もはや原型は見受けられず、それは巨大な球体へと変貌する。 「うぅぅッ... レフト様ぁッ‼︎」 そう叫んだ瞬間だった。 服の中から赤い何かが見え、怪人の身体を突き破ってそれが飛び出してきた。 「2人とも下がって‼︎」 育也が俺達の前に立ちバリアを展開させる。 爆音と共に飛び出してきたのは大量の炎。 緑色のバリアに衝突し、横へと流れていく。 「うぅッ......強すぎ...!」 「育也耐えろ!」 「...わ、分かってる!」 育也の突き出した腕が...小刻みに震える。 こいつのこんな顔初めて見た。 それほどまでにこの炎は強力なのか? 何なんだよこの炎......。 怪人の様子から考えても、あいつの攻撃だとは思えない。 だとすれば......誰が? 「もう少しだ育也」 「......うんッ」 炎は次第に勢いを弱め、段々とその姿を小さくしていく。 完全に炎が消滅すると、辺りのコンクリートは黒く焼け焦げていて、嫌な臭いが充満していた。 「ぁーーッ」 「育也っ!」 バリアを解いた育也は地面に座り込むように倒れてしまい、慌てて身体を支えた。 「ねぇ、あれ......」 奏多の足が視界に映り、その声に顔を上げて前を見た。 ......奥に見えたのは赤い背中。 立ち上がって、こっちに向かって歩いてくる蒼汰の腕には 気を失った蓮が抱えられていた。 ・ ・ ・ もう時間は24時を回り 医務室にいるのは俺と蓮だけだった。 でも目を覚ましているのは俺だけで、蓮はベッドの上で眠っている。 俺は蓮の横に座り、ただじっと胸の辺りを見つめていた。 ......何でか、蓮の顔を見るのを躊躇ってしまう自分がいて かといって何かするでもなく......俺はただ座っているだけだった。 あの炎のおかげで蓮を助け出すことはできたけど その時にはもう蓮は気を失っていた。 もっと早くに俺があの力を手に入れていれば、蓮にあんな苦しみを味あわせずに済んだのに。 ......俺が弱かったから。 ライトの時もそうだ。 俺には力が......仲間を救う力さえない。 「......ごめんな」 自分から出た声は思ったよりも小さくて、その声に自分でも驚いてしまった。 「...はぁ」 「......なんて?」 「えっ?」 突然聞こえた声に顔を上げると、身体を起こす蓮と目が合った。 「起きたのか」 「あぁ......それより、何て言ったんだ?」 「......何でもないよ。ただの独り言」 「...そうか」 「まだ寝ろよ。疲れてるだろ」 「育也達も帰ってる。何でまだいるんだ?」 「それは......」 蓮の問いに何て返したらいいのか分からなくて、顔を伏せて黙り込んでしまった。 そんな俺を見かねたのか、蓮はため息をついて微かに笑みを漏らした。 「俺のことなら気にするな。油断してた俺が悪いんだ」 「違う......俺がーーッ」 「蒼汰」 蓮が俺の言葉を遮って、言葉を続ける。 「最初お前と会った時は、単純な奴だと思ってた」 「......何だよ、それ」 「でもお前としばらく一緒にいて気づいたんだ。お前、変な事でいちいち悩むよな」 「...は?」 「気にしなくてもいいようなことを、グチグチ悩んでる」 「そんな事......ない」 「そんな事あるんだよ。 とにかく、俺の事はもう気にしなくていいから。わかったな?」 「......分かった」 正直、何も分かってなかった。 ただ何を言えばいいか分からなかったから、反射的にそう言ってしまった。 「...じゃあ俺寝るから。もう遅いし、隣のベッドでも使えよ」 「うん。お前もちゃんと休めよ」 「分かってる」 蓮が布団に潜り込んで目を閉じたのを確認してから、俺は立ち上がった。 ......俺の悩んでる事は、変な事なのか? 俺にとっては......大きな事なんだ。 ...分かんない。 蓮の言ってる事......分かんないよ。