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ジェニファー
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G.O.E 〜第8話 【覚醒の炎】〜

漂う瘴気はいつも以上に濃く、足取りは鉛のように重い。 玉座に集結する瘴気は人の形を象り、実体化してもなお集まっていく。 主は......ウィル様は怒りに染まっている。 空気が震えていると勘違いするほどに強烈な殺気が......俺の身体に纏わりつく。 「......レフト」 瘴気の中から聞こえた声に、レフトは肩を震わせ視線を向ける。 「ウィルさーーッ」 レフトの言葉を待たず放たれた膨大な量の瘴気が彼女の身体を一瞬にして包み込んだ。 「アァァァッ‼︎‼︎」 耳をつんざくような悲鳴が響き渡り、レフトを包む瘴気が渦巻き高く昇り始める。 これが...... 『今度はお前の命を瘴気に変える』 ウィル様が言っていたことなのか? 「......ぁ.........ッ」 瘴気の動きは次第に遅くなり、昇っていたものもすべてレフトの中へと吸収されていく。 「......これほどとは」 命を糧にすることが果たしてどれだけの力の増幅をもたらすのか、訝しんでいた所があったが ......これは想像以上だ。 両手をついて胸を上下させるレフトからは、苦しげに喘ぐ呼吸が聞こえる。 しかし、弱々しく見えるその姿に反して、内包されている瘴気は禍々しい。 より凝縮され熟成した瘴気が......レフトを支配していた。 「お前は力を使い切れば死ぬ」 玉座に姿を現したウィル様が、レフトを見下ろして呟いた。 「だがその分、強力な力を得た。 せいぜい......最後は思う存分暴れてくれよ」 「......この命、ウィル様に捧げることができて本望でございます」 呼吸も落ち着いてきて、ゆっくりと立ち上がったレフトがウィル様を一瞥する。 「必ずや大量のエナジーを集めてまいります」 そう告げて、背後に現れた瘴気の中へレフトは姿を消した。 ......悲しいわけではない。 奴に対してこれといって親しみのような感情は抱いていなかったからだ。 ただ...... 一応は仲間だった。 その仲間が死に行くのを見るのは、やはり複雑だ。 「ライト」 立ち尽くしていた俺にウィル様が声をかけた。 向き直ると、ウィル様は玉座に深く腰掛けて俺を見つめていた。 「お前は大丈夫なんだろうな?」 「......はい。あちらの世界に残っている怪人を使ってとある計画を進めております。多くの人間を集めたのでそろそろG.O.Eの連中にバレる頃だとは思いますが......レフトが暴れてくれればその隙に更に集められるはずです」 「そうか。失敗するなよ」 「......もちろんでございます」 果たして俺の身を案じているのか それとも、レフトの二の舞になりたくなければ......という意味なのか。 あの無愛想な表情からは読み取りにくい。 ......まぁいい。 失敗して己の命を糧にされたとしても、その強大な力でガーディアンレッドと戦うのも......悪くはない。 ** 博士から連絡をもらったのは、少し遅めに起きた休日の朝だった。 他の4人も集まるということだったので、すぐ行くとだけ伝えて急いで準備にとりかかった。 ・ 湯気が立ち込める浴室の中で お湯を頭から浴びながらボーッと立ち尽くしていた。 頭も身体も洗って、やることはすべて終えたというのに、何故か頭が働かない。 早く行かなきゃいけないのは分かっているのに...... 俺が思い浮かべていたのは蓮のことだった。 やっぱり...... 気にするなとは言われても、俺にはあの時のことを無視することはできない......。 『助けて......くれ』 蓮のか細い声が...どうにも耳から離れなくて すぐに助けてやることができなかった自分への苛立ちと後悔が、いつまでも心の中で渦巻いていた。 「......はぁ」 あの時のことを思い出すと......同時にどうしても蓮の痴態も思い出してしまう。 ダメだと分かっているのに......俺の肉棒はギンギンに勃ち上がってしまって 手はゆっくりと......でも迷いなく伸びて、水に濡れたそれを扱きあげる。 「......ぅ...っ」 目を閉じて、動かす手を速める。 『ぁぁ......み...るな...ッ』 快楽に悶える蓮の顔が、やけに鮮明に思い出される。 呼吸も段々速くなってきて、絶頂が近いのを知らせる。 「ん......ッ!」 絶頂を迎えると同時にイチモツが膨らみ、先端から大量の白濁液を吐きだした。 あまりにも長く続いた快感に、思わず壁にもたれかかってしまった。 「はぁ......はぁ......」 ......何してんだ俺。 捕まった蓮の姿を見て...興奮して...... 自分がしてしまった行為に、一気に罪悪感と嫌悪感が押し寄せてきた。 「......最低だ」 ずっと下に向けている視界には、出したはずの白濁液は見えない。 大量の湯気がそれを隠しているんだ。 ......それでよかった。 もし視界に捉えてしまえば、俺の中の罪悪感が大きくなるだけだ。 「......ぁ」 倦怠感の中、博士に呼び出されていたことを思い出して、すぐに身体を洗って浴室を出た......。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「あら蓮くん、一番乗りじゃない」 「そうみたいですね」 「もう身体は大丈夫なの?」 「何日前のこと言ってるんですか。とっくに元気ですよ」 「そう。良かったわ」 ミーティングルームに入ると、博士はコーヒーを片手に自販機の前に立ちながら何かの資料を見ていた。 俺が席に着くと、博士は自然な感じを装って隣に座ろうとやってくる。 「...博士」 「何かしら?」 「隣はダメです」 「......蓮くんのいけずぅ」 普段は頼りになる良い人なんだ。 ......激しいボディタッチさえなければ。 「あれ、蓮くん早いね!」 次にやってきたのは奏多だった。 博士がどいて空いた隣に座ると、面白い写真があるといって携帯の画面を見せてきた。 しばらく話していると育也、涼がやってきて それから少しして、最後に蒼汰が来た。 俺の前の席に座った蒼汰に、おはようと声をかけたが 軽く頷き返されただけで、何故か目を逸らされてしまった。 「やっと皆揃ったわねぇ〜。じゃあお話始めるわよ」 「休日の朝にわざわざ集めて話すことなんだろうな?」 「そうよ涼くん。とっても大事なこと」 博士は手に持っていた小さなリモコンを操作する。 照明が暗くなり、天井からモニターが降りてきてそこに1人の青年が映し出された。 「......誰そいつ」 「君島章吾くん、21歳」 「..博士のお気に入りの男を見るために俺達は来たのか?」 「違うわよ涼くんっ。これを見て」 博士は手に持っていた書類を俺達全員に一枚ずつ配る。 目を通すとそこには男性と思われる名前が大量に書かれていた。 「彼を含めて50人以上の男性が行方不明になってる。この一ヶ月ちょっとでよ」 「それは......変ですね」 育也の呟きに、奏多が眉間にしわを寄せながら口を開く。 「変っていうか、もうこれエデンの怪人の仕業だよね?」 「えぇ。私も怪人の仕業だと思うわ」 「何か手がかりは?」 俺が聞くと、博士は首を横に振った。 「それがまだ詳しいことは何も。全員最後にいた場所が新宿の近辺ってことぐらいなの」 「じゃあ何で俺達呼んだんだよ?」 「皆に協力して探してもらおうと思って。だから一旦ここに集まってもらったわけ」 「外で待ち合わせてもよかったじゃんかよ」 「いいじゃない! こっちは機械と紙とにらめっこしてばっかでたまには目の保養が必要なのよ!」 「あんた完全に自分のために俺達呼んだんじゃねえか!」 「そうよ悪い⁉︎ いいじゃないのこれぐらい!」 「何開き直ってんだこのオカマッーー」 「オカマ?」 「...あっ」 「バカッーー」 思わず呟いた言葉。 どうして涼は学習しないんだ......。 「マズイッ」 瞬時に立ち上がった奏多に続き俺も立ち上がると、突如として警報が部屋に鳴り響いた。 「......ちっ。怪人よ、皆行ってちょうだい」 「この、舌打ちしたろ今!」 「涼くん! どうせ勝てないんだから行くよほら!」 奏多と育也が涼を羽交い締めにし、強引に外へ引っ張っていく。 タイミングが良いのか悪いのか......とりあえず一安心だ。 俺も急いで出ようとすると、ゆっくりと出口へ向かう蒼汰の背中が目に入って、後ろから声をかけた。 隣に立って一緒に歩いても、蒼汰は俺をチラッと見ただけでそれ以上の反応は示さなかった。 ・ あの時のことを気にしてるのは分かる。 医務室で気にするなとは言ったものの こいつがそんな簡単に忘れられるほど単純な奴だとは思っていない。 放っておいたほうがいいのか...... それともちゃんと話をするべきなのか...... いや、話をするにしても怪人を倒してからだな。 まったく 手のかかる奴だ、こいつは。 ......あの時から。 ・ ・ ・ ・ ・ 「これは......」 支部長室の椅子に座り、机の上のモニターを眺めていた大山は 自らの身体に感じた違和感に眉をしかめた。 モニターに映った怪人に、何故自分は見覚えがあるのか? 見たことはない。 だが見覚えはある。 デシャヴにも似た奇妙な感覚が、彼の思考を支配する。 「......ッ」 何も起きていないのに、何故か突然苛立ちを覚えた。 ......同時に喪失感も。 「訳が......分からん」 奇妙な感覚。 相対する二つの感情。 一気にこれを受け取った大山は頭を抑え顔を伏せた。 『まだだよ』 「誰だ......私は一体?」 聞こえた声に顔を上げた瞬間 彼の記憶は消えた。 ** セレクトショップが立ち並ぶ通りは、休日ということもあって、多くの若者でごった返していた。 奇抜な服を着た者が多く見受けられるが、中には楽しそうに歩く普通のカップルの姿もある。 突然甲高い悲鳴が上がったかと思うと、通りの真ん中に大きな空間ができた。 何もない場所から発生する黒い煙から逃れようと、人々は押し合いながら距離をとる。 煙の中から現れた、黒いローブに身を包んだ人物の姿に感嘆の声が漏れると 人々は一斉に携帯を取り出して写真を撮り始めた。 ......レフトはあまりのおかしさに笑みを浮かべた。 非力な生物のくせにこいつらは逃げようともしない。 鳴り響くシャッター音を意にも介さず、レフトはゆっくりと右手を持ち上げて、1人の高校生らしき女子に掌を向けた。 「女に用は無い」 掌から紫の光線が放たれ、女子高生に直撃する。 直後、彼女は目を閉じて地面に崩れ落ちてしまった。 再び捲き起こる悲鳴。 1人......また1人と逃げ出す人々を気にすることもなく、男女構わず近くにいる者達にレフトは光線を放つ。 「由香ッ!」 光線に当たり倒れた女性に、金髪の彼氏と思われる男が駆け寄る。 「テメェッ!」 「ふっ......愚かな」 次なる標的になったにも関わらず、男はレフトを睨みつけなりふり構わず走り出す。 放たれた光線が身体に当たった瞬間男の全身を包み込み、一瞬で光が消えた。 「うッ......あっ、な...んで......ッ」 直後、男は動きを止めて眉間にしわを寄せ、喘ぎ声を漏らしながら膝をついた。 身体をビクビクと震わせて、男は焦点の合わない瞳で宙を見つめ続ける。 「さぁ......すべてはウィル様の為に」 レフトが軽く額を押すと、男は抵抗することもなく後ろに倒れた。 恍惚に染まった男の顔を見下ろしながら レフトは更なる力を得るため、内に秘める瘴気を解放した......。 ・ ・ 「何だよこれ......」 怪人出現の報せを受けて現場にやってきた俺達が目にしたのは 地面に倒れる大量の人々だった。 場所のせいもあるのか、倒れているのは若い人達ばかりで 「大丈夫ですか?」 育也と奏多が倒れている人達に声をかけるが、誰からも反応は返ってこない。 女性は眠っているかのように地面に横たわり...... 男性は誰しもが股間部分を膨らませて、惚けた表情で喘ぎ声を漏らしていた。 目は開いているのに、こちらが何をしても反応しない。 「一体何があったんだ?」 「分からない......こんな事は始めてだ」 俺だってG.O.Eに入ってこんなに大量の犠牲者は見たことが無い。 蓮や涼でさえ見たことが無いこの状況は......おそらく今までで1番マズイ状況に違いなかった。 「これ......普通の怪人の仕業じゃないよね?」 「さぁな。怪人は全員普通じゃないが......今までの奴らよりも危険なのは確かだ」 普通の怪人じゃない......。 俺の頭にまず浮かんだのはライトだったが、あいつがこんな事をするとは思えない。 ......こんな事をするのは 『お前に力があれば、こうはならなかった』 俺を見つめる青い瞳が 蓮を苦しめたあの女の......レフトの姿が脳裏に蘇る。 直感で理解した。 あの女が、今度はこっちの世界に現れた。 「空気も淀んでる。臭いだけのせいじゃない。 何か......受け付けない何かでこの空間が満たされてるみたいだ」 栗の花の臭いが漂うこの場所は 涼の言う通り、いつもとは違う雰囲気が漂っている。 「......ッ」 まるで重力が強くなったみたいに身体が重くなって、呼吸が苦しくなる。 負に満たされた空気が更に濃くなり ......あの女が近づいてくるのを知らせる。 「......ぁッ」 曲がり角の先から聞こえた声に俺達は一斉に目を向けた。 角から姿を現したのは若い男。 しかしそいつは地面に倒れると、他の犠牲者達と同じように動かなくなってしまった。 「随分と遅い登場だったな」 現れたのはこの前と同じ姿のレフト。 黒いローブで全身を覆い隠し、隙間から覗く青い瞳は、俺を捉えて細められる。 「久しぶりね、赤と青」 「一ノ瀬ーーッ」 「......俺は...大丈夫だから」 駆け寄ろうとする蓮を手で制して、俺は呼吸を整えてからレフトを見る。 ......この前とは違う。 姿は同じなのに 何もかもが違う。 あいつに......一体何が起こったんだ? 「......蓮、あいつ」 「分かってる。力が増幅してる......まるで別人だ」 レフトの以前の力を知らない他の3人も、あいつの力の強大さに驚いているようだった。 「何なのあいつ......ヤバいよ」 「何ビビってんだよ」 「ビ、ビビってなんかーーッ」 「大丈夫だよイエロー。僕も怖いから」 「ちよ、 怖くないってば!」 「ごちゃごちゃ喋るな。来ないならこちらから行くぞ」 レフトが僅かに動きを見せると、喋っていた3人は彼女に視線を向ける。 涼と奏多が武器を呼び寄せ、隣を見れば蓮も剣を手に持っていた。 「一ノ瀬、武器を持て」 「...分かってる」 最後に俺が武器を召喚すると、レフトはおもむろに自らの顔に手を伸ばして、覆っていたローブを脱ぎ捨てた。 晒されたのは陽の光を浴びて輝く、腰まで垂れる金髪。 陶器のように白い肌には青い瞳が映え、絶世の美女を思わせるその風貌は妖美な雰囲気を湛えていた。 「......怪人じゃなけりゃぜひお友達になりたかったぜ」 「ふざけるな涼」 「冗談だよ」 妖しい笑みを浮かべるレフトは掌を俺達に向ける。 「私の全てを......貴様らにぶつける」 瞬間、彼女の身体が紫の光で包まれる。 「ウィル様の為にッ‼︎」 姿を消したレフト。 しかし彼女は一瞬にして俺の目の前に現れた。 俺達の間に、奴は瞬間移動したんだ。 「後ろだ!」 蓮の声に気づいて振り返った涼と奏多がレフトの姿を見つける。 掌から放たれた光線を辛うじてかわし、2人がすかさず攻撃を仕掛けるが、レフトは身に纏っているローブを優雅に翻してそれを回避した。 レフトを中心に距離を取り、俺達は散る。 こっちには俺と蓮、育也が。 レフトを挟んで向こうには涼と奏多が立っている。 囲まれているというのにレフトは口元の笑みを絶やさず、その瞳は俺達一人一人の動きを見ている。 ......思わず剣の柄を握りしめ、唾を飲み込んだ。 ライトの時とは違う恐怖が......俺の思考を支配する。 俺は勝てるのか? こんな力を持った奴に......俺は。 「はぁぁッ‼︎」 奏多が振り下ろしたハンマーを肩を引いてかわし、涼の突き出したナイフを手で払ってレフトは後ずさる。 蓮が剣で斬りかかるが、レフトは屈んでそれをかわす。 ーー今がチャンスだ。 剣を振り上げ、レフトを捉える。 「...ふふっ」 「ーーッ⁉︎」 レフトの青い瞳に見つめられた瞬間、全身の筋肉が一瞬硬直してしまう。 しなやかに伸びる手に、紫の光が宿る。 ーーやられるッ そう思った瞬間、目の前に緑色の透明な壁が現れ、レフトの行動を遮るために蓮が斬りかかった。 「大丈夫?」 「あぁ......ありがとう育也」 ......見つめられただけだっていうのに 俺は指先さえ動かすことができなくなった。 俺を心配そうに見る育也。 俺達を背にして立つ蓮も、僅かに俺の事を一瞥する。 ドクドクと心臓は速く脈打っているというのに、俺の身体は氷水を浴びたように冷え切っていた。 ・ ・ ・ ・ 蒼汰の様子が明らかにおかしかった。 攻撃のチャンスを逃すほど、こいつは鈍くない。 ......いや、この怪人が相手では無理もないか。 まだあのトラウマから立ち直れていないこいつには、この女の相手はキツすぎる。 蒼汰が落ち着くのを待つ間、涼と奏多が相手をしてくれているが、いつまでもあの2人に任せるわけにはいかない。 かといって蒼汰と育也だけにするわけにもいかず、俺は武器を構えたまま見ていることしかできなかった。 ・ ・ 「はぁッ‼︎」 振り下ろしたハンマーはレフトに当たることはなく、勢いのまま地面を打ち砕く。 飛び退いた隙をついて涼くんがすかさず素早い攻撃を繰り出すが、それさえもまるで踊りのように軽やかな身のこなしでかわしていく。 「全然当たらない......ッ」 「2人だけじゃやっぱ限界があるぜ......」 肩で息をする俺達を見ながら、レフトは動きを止めて口を開く。 「......何故あの3人は戦わない? 貴様らだけで私に勝てるとでも?」 「あんたのせいで仲間がめんどくさいことになってんだよ」 涼くんがそう言うと、レフトは鼻で笑って嘲笑を浮かべた。 「なるほどね......哀れな男」 ......哀れ? 蒼汰くんはお前のせいで苦しんでるっていうのにーーッ 「黙れ! お前のせいでーーッ」 「落ち着けイエロー」 「あ、ちょーー」 動き出そうとした俺の視界が突然何かに覆われて、こねくり回すようにそれが動かされる。 涼くんの手だと気づいて、すぐにそれを払いのけた。 「やめてよ!」 「挑発に乗るな」 「乗ってなんか......」 「乗りまくってんだよ」 涼くんってすぐ俺をバカにしようとするんだ。 ...いや、まぁ今回は完璧に俺が悪いけど。 「挑発? 私がお前達ごときに挑発すると思うか?」 レフトは両手に紫の光を纏い、ニヤリと笑った。 「......あの男を苦しめるには、やはり仲間が1番効果的だな」 「...は?」 「少し本気を出してやろうか」 レフトの纏う雰囲気が一変し、瞳にギラついた光が灯る。 あの顕著な身体から発せられる圧力が、俺達を押し潰さんと襲いかかる。 「来るよ」 「......あぁ」 腰を落として、レフトの一挙一動に注目する。 同じように構えていた涼くんは、ナイフを逆手に持ち替えてノーモーションで走り出した。 放たれた光線を涼くんがかわすと同時に、レフトは姿を消す。 また瞬間移動かーー⁉︎ 俺の目の前にレフトが現れ、俺を見たまま後ろ手で光線を放つ。 「うあっ!」 その光線は振り返った涼くんに直撃し、彼の変身が解けてしまった。 「くそッ!」 突き出したハンマーをかわされ、レフトに詰め寄られた俺は首を掴まれて動けなくなってしまった。 「あッ...離せッ!」 レフトの手が紫に光り、それはすぐに俺の身体を包み込んだ。 「......うっ」 涼くんと同じように変身が解け、レフトから解放された俺は地面に膝をつく。 「あ......なに、これ」 下半身に感じた違和感に視線を落とすと、何の刺激も与えていないはずなのに、俺のイチモツは大きく勃ち上がっていた。 熱がどんどんそこに集まってギンギンに硬くなっていき、触ってもいないのに快感が高まっていく。 競パンからはみ出る亀頭からは透明な汁がドクドクと溢れ、そして間髪入れず白濁液が飛び出した。 「あッ⁉︎」 あまりの衝撃に腰が引けて、片手をつく。 一度射精したはずなのに、絶頂直前の快感が消えることはなく、いつまでも俺のイチモツはビクビクと震え精液を吐き出し続ける。 「うぅ......」 ...先に光線を浴びた涼くんを見れば 競パンの中で肉棒の形をくっきりと浮かび上がらせて、吐き出された精液は足の付け根の隙間から漏れ出ていた。 表情は既に快楽に染められて、微かに開く口からは喘ぎ声が漏れ、射精する度に身体を跳ねさせていた。 「私の術は貴様らを強制的に射精させる。しかも感じる快楽は普段の10倍だ。もはや動くこともできまい」 「もぅ......ムリ...ッ」 ついに膝をついているのもキツくなり、地面に倒れこむ。 射精しながら悶える俺を見下ろして、レフトは貼り付けたような笑みを浮かべた。 「存分にエナジーを吐き出せ」 踵を返して歩いていくレフトの姿を見ているのもままならず 押し寄せる波のような快楽に俺は悶えることしかできなかった。 「2人ともッーー」 育也の叫び声が聞こえて顔を上げると 視界の奥で地面に倒れている奏多と涼の姿を見つけた。 「......ぁ」 俺が......こうしてる間に、また仲間がやられた。 俺がちゃんと動けていれば、育也と蓮が俺に気をとられることもなくて 5人で戦えたはずなのに...... 俺がみんなの足を引っ張って......俺のせいで...。 「......レッド! ......蒼汰くんッ!」 自分のせいでまた仲間がやられた。 その事ばかりに意識がとられて、育也が俺の事を呼んでいるのに、こんなに近くにいて気づかなかった。 「育也......おれーーッ」 「今蓮くんが戦ってくれてる。もう2人もやられたんだよ? 戦わなきゃ、僕達までやられちゃうよ」 ......ダメなんだ。 俺じゃ、何もできないよ。 俺がいても......皆を守れないから。 「蒼汰くんッ!」 「俺は......」 俺の肩を掴んで、必死に語りかけてくる育也の姿を見ても...... 俺は動くことができなかった。 俺が何の反応を示さないのを見て、育也は肩から手を離して小さくため息をついた。 「......ごめん。つらいのは分かってるんだけど」 「うあッ‼︎」 何かが擦れる音と蓮の声が聞こえ、俺達は前を見た。 レフトに吹き飛ばされた蓮は育也の足元まで転がり、痛さのあまりすぐには立てないようだった。 「弱いな」 紫に光る右手をレフトは俺達に向ける。 光線が放たれ、育也がすかさずバリアを張って蓮の前に立った。 その時、レフトは口元に微かに笑みを浮かべる。 「育也逃げろッ!」 何かあると気づいた俺はすぐに叫んだが、もう遅かった。 紫の光線はバリアにぶつかることなく貫通し、そのまま育也に直撃した。 「あっ...!」 スーツが一瞬にして消失し、競パン姿になった育也が片膝をついて喘ぎ声を漏らした。 「育也......」 「くっ...2人とも、逃げて」 振り絞るように俺達にそう言って、育也は倒れ込んでしまう。 涼と奏多と同じようにイチモツを勃たせ、快楽に顔を歪めて、精液を勢いよく吐き出していた。 「その程度の障壁では私の術は防げない」 ゆっくりとした足取りで近づいてくるレフトは、倒した育也達には目もくれず ......俺をじっと見つめて、そしてその視線が下がり蓮に向けられる。 「蒼汰ッ!」 俺の腕を掴み蓮は走り出す。 逆らうこともせず、引っ張られるがまま...蓮は建物の間の狭い通路に入って、足を止めることなく進んでいく。 ・ ・ かなりの距離を走った俺達は、昼間でも暗い路地裏に身を隠した。 俺の手を離した蓮は前方と後方を確認し、レフトの姿がないか警戒していて...... 俺は壁に背をもたれて、そのままズルズルと地面に座り込んだ。 「このままじゃ......」 蓮の呟きが聞こえても、反応する気にはなれなかった。 「蒼汰......動けるか?」 「......もう無理だよ」 「は?」 「無理だよ。2人だけじゃあいつに勝てない」 もう嫌だ。 戦いたくない。 仲間がやられるのは見たくない。 ......このままどこかに逃げたい。 「何言ってんだ、お前らしくもない」 俺の前にしゃがみ込んで、マスク越しに蓮は俺の顔を覗き込む。 彼の表情は見えないが、容易く想像することはできた。 「お前は強い。剣のセンスだって悪くないし、炎の力は俺達が持つ力の中では1番だ」 「......」 「他の3人がやられたのはお前のせいじゃない。重く考えるな」 「......俺のせいだ」 「......お前だけじゃない。俺のせいでもある。お前1人だけの責任じゃないんだ。だから一緒にやろう」 ......蓮は俺の炎の力を1番だと言ってくれたけど 俺はまだその力を制御できていない。 1度試しに基地で力を使ってみたけど、その時は溢れ出る炎を抑えきれずに実験室一つを黒焦げにしてしまった。 もし炎の力を使ってしまえば......一緒にいる蓮も傷つけてしまう。 ......そうか。だったら、 「......俺1人でやる」 「え?」 「もう......嫌なんだ。仲間がやられるのはこれ以上見たくない。だから、俺1人であいつと戦う」 「お前何言ってーー」 「俺はまだ炎の力を制御できないし...使えばきっと蓮も傷つける」 俺1人だけで戦うなら、力を存分に使える。 仲間も傷つかない。 これは......最善の選択だ。 「蓮はここに隠れててくれ。俺があいつを倒す」 剣を握りしめ、立ち上がろうと足に力を込める。 でも蓮は俺の右手を上から押さえ込んで、動けないように身を乗り出した。 「蓮、どいてくれ」 「ダメだ。1人だけでは行かせない」 「...何で、分かってくれないんだよ」 「分かってないのはお前の方だ」 「俺はッ! ......俺は蓮に...皆に傷ついてほしくないんだよ」 右手にどれだけ力を込めても、蓮の手はビクともしない。 けれど...... 何故か蓮は手を離すと、立ち上がって俺を見下ろした。 「......お前何様のつもりだ?」 「...え?」 蓮の声音が一変し、俺の意識をかっさらう。 俺を見つめる蓮の瞳から...目が離せなくなった。 「お前は俺の保護者か? 何でお前に俺の行動を決められなきゃならないんだ? ......俺が捕まった時の事を気にしてるなら、さっさと忘れろ」 蓮の言葉は徐々に語気を増していく。 「いいか、俺達はチームだ。誰かがやられても、誰か1人のせいじゃない。チーム全体の責任だ。勝手に1人で背負おうとするなバカ」 「......」 「絶対に1人で行かせないぞ。何があっても一緒だ」 ・ どうしてだろう。 蓮の言葉は俺の中へすんなり入ってきて ガチガチに固まった俺の考えを...溶かしていく。 そして 俺は1人じゃないんだと 俺には蓮がいるんだと思うと......どこからか力が湧いてきた。 仲間を救えないことに怯えて、傷つくのを恐れていた......俺は仲間を信用していなかったんだ。 それじゃ...ダメなんだ。 恐れていてはダメなんだ。 仲間を守りたいと本当に願うなら 俺は......仲間と一緒に戦わなきゃいけないんだ。 ・ 俺が落ち着いたことに気づいたのか、蓮は手を差し出した。 「......蓮、俺」 「分かったなら立て。レフトを倒さなきゃならない」 「...あぁ」 ......なんだよ。 なんか冷たくなってない? いや、いいけどさ...。 手を掴んで立ち上がると、蓮は辺りを警戒しながら俺に作戦の内容を話し始めた。 作戦といっても単純なもので、蓮がレフトの気を引いて、俺がその隙にありったけの炎をぶつけて倒すというものだった。 「俺のことは心配しないでいい。お前はタイミングだけを考えろ」 「あぁ、分かってるよ」 「よし......行くぞ」 蓮と俺は、路地の先に見える光に向かって歩き出す。 レフトを倒す。 あいつを倒さなきゃ...俺はきっと本当の意味で今までの事を乗り越えることはできない。 大丈夫。 俺には仲間がいる。 もう......怖がらない 必ず、勝ってみせる。 ** 「ふむ......やはり戻っていないか」 蒼汰と蓮が逃げた後、レフトは2人を追うことはせずエナジーの回収に努めていた。 別の場所でも大量の男達を襲い、ある程度の目処をつけて元の場所に戻ってきて 蒼汰達の姿がないことに若干ガッカリしていた。 ーーやはり後を追うべきだったか。 己の欲望に従っておけばよかったと後悔していた彼女の視界に......気になる何かが映り込んだ。 ......育也と奏多は 他の犠牲者達と同じように既に意識を失い、収まることを知らない快楽に喘いでいるだけであったが ...涼だけは、未だに精液を吐き出し続ける肉棒を握りしめて、快楽地獄に堕ちないよう歯を食い縛っていた。 「まだ気を失っていないのか」 レフトは彼の傍まで歩いていき、冷めた目線で見下ろす。 涼は喘ぎながらも彼女を睨みつけ、やり返すように笑った。 「はっ...ぁ......こんなんじゃ、全然気持ちよくなれねぇからな...」 「強がっているつもりか? 別に私はお前の意識があろうが無かろうがどうでもいい。エナジーさえ出してくれればな」 「だから......んッ...出さねぇようにしてんだろうが」 「......好きにしろ。お前1人が足掻いたところで何も変わらない」 強気に言ってはみたものの 涼の頬はほんのりと上気し赤く染まり、肉棒を握る手からは徐々に力が抜けてきていた。 もうこの手を離して楽になってしまいたい...... その考えが何度頭を過ぎったことか。 ーーもう、ムリだ。 快楽を理性で抑えつけるのも限界になり、涼が手を離そうとする。 ...その時だった。 「おいっ!」 聞き慣れた声が聞こえ、涼はゆっくりとそちらに顔を傾ける。 そこにいたのは......青いスーツに身を包んだ蓮1人だけ。 蒼汰の姿はなかった。 「赤いのはどうした? ......逃げたか」 「......だったらどうした? お前ごとき俺1人で十分だ」 「そうか。己の力に相当自信があるようだな」 蒼汰の姿がないことに失望はしたものの、レフトは悲観してはいなかった。 あの青いのも術にかければ、必ず赤いのは戻ってくる。 彼女の中には確信にも近い考えがあった。 「こっちに来い!」 蓮が走り出しレフトがその後を追いかける。 意識を手放そうとしていた涼は再び歯を食いしばり、手に力を込めた。 ーー蓮が諦めていないってのに、俺が諦めるわけにはいかない。 蒼汰だって......逃げるはずがない。 今の涼を支えていたのは理性ではなく 仲間に対する信頼だけだった。 ・ ・ ・ ・ ・ 蓮がやってきたのは、人のいない大きな広場だった。 ここならば、力を使っても被害は出ない。 蓮が剣を構え、レフトは両手に紫の光を纏う。 「かかってこい」 「......ふん、お前に興味はない!」 レフトが両手を突き出し光を放つ。 蓮はそれをかわし走り出す。 ーー愚かな レフトが微笑み、その姿を消す。 蓮の背後に移動し、右手を向けるが そこには彼女に剣の切っ先を向ける蓮の姿があった。 刃に冷気を纏わせ、迷いなくそれを突き出す。 放たれた冷気は一瞬にして膨張し、レフトを覆うと一気にその姿を透明な氷に変えた。 分厚い氷に閉じ込められたレフトだったが、その氷に間を置かず亀裂が走り、粉々に砕け散った。 瞬間移動で距離を取ったレフトは、思いもよらぬ反撃に初めて焦りの色を浮かべた。 「瞬間移動は便利な力だが、お前はそれを奇襲にしか使わない......というか、それしか使い道がない。目の前に現れなければ、必然的に背後にいることは予想できる」 「......だからどうした? 私が貴様に1度でも術を当ててしまえば、それで勝利が決まる」 「......当たればの話だろ」 蓮が斬りかかり、レフトが身を引いてかわす。 お互いに氷と光線を放つが当たることはない。 だが、蓮の素早い剣捌きと無駄のない動きにレフトは徐々に圧倒され、後退するしかなかった。 ......ここまでは作戦通りだ。 蓮がレフトを誘導し、俺がトドメを刺す。 炎の力は限界まで発動しない。 あまりに強力すぎて使った瞬間バレてしまうからだ。 あと少し......。 「くぅッ、小賢しいィ!」 苛立ちの声を上げながら放ったレフトの光線が当たることはない。 そして蓮は、地に沿うようにして刃先を走らせ、巨大な氷の塊を創り出した。 針山のように連なった無数の突起がレフトめがけて突き進む。 回避することしかできなかったレフトは横に飛び、よろけて地面に手をついた。 ーー今だッ! 剣の柄を握りしめ、俺は宙に飛び出す。 ......身を隠していたのは広場の上の通路。 真下までやってきたレフトの頭上で、俺は腕を振り上げ剣を構える。 まだだ...炎の力はギリギリまで使わない。 こいつが気づいてもかわせない距離までーーッ ・ ーーッ⁉︎ 僅かに聞き取れた息の漏れる音。 俺の存在に気づいていないはずのレフトの右手が俺に向けられていた。 「そこかッ!」 紫の光が掌に集中する。 咄嗟に炎を発動させ放つと、光と衝突した瞬間膨張して爆発した。 視界が一気に赤く染まり、爆風で俺は紙のように吹き飛ばされる。 地面に強く身体を打ちつけ、鈍い痛みに包まれて全身の感覚が無くなった。 ...炎の中から黒いローブを纏ったレフトが姿を現す。 あれだけの炎の中にいたというのに、レフトの身体には汚れ一つ見当たらず、口元には相変わらず薄い笑みを湛えていた。 「くッ......」 地面に手をついてみても、指には力が入らず立ち上がることができない。 このままじゃ...やられる。 「お前の存在はこの肌でしっかり感じていたぞ。一芝居打った甲斐があったというものだ」 ...俺のことは最初からバレてたのか。 「クソ...立てよ......」 やられるわけには...... こいつは絶対倒さなきゃならないのに......ッ 「貴様も堕ちろ」 光が...放たれる。 まっすぐ、俺に向かってーー ・ 視界に何かが入り込んだ。 光と俺の間に立ち塞がったのは......蓮だった。 「蓮......ッ、ダメだ!」 俺の言葉なんて、聞こえていなかったのかもしれない。 蓮は俺を見ることもせず......何も言わず その身体で紫の光を受け止めた。 纏っていたスーツが消え、プツリと糸が切れた人形のように蓮は崩れ落ちた。 「あぁ......蓮ッ」 力を振り絞って膝をついて、這いずるようにして蓮に近づく。 「ぁ......はッ...」 苦しそうに喘ぐ蓮も他の皆と同じように、競パンの中でイチモツを勃たせて、既にその太ももには白濁液が飛び散っていた。 言葉を失い呆然としている俺の腕を......蓮はゆっくりと手を伸ばして、ガッシリと力強く掴む。 「あいつを...ぁ、倒せ......分かっ...てるな」 今その身体に抗いがたい快楽を味わっているはずなのに 蓮の瞳には確かな光が宿っていて......それは俺に大きな力を与えてくれた。 「......あぁ。分かってる」 俺はもう悲観したりしない。 今の俺がやるべき事は レフトを倒して、皆を救い出すことだ。 「さぁ、今はどんな気持ちかしら」 楽しそうな口調で喋りかけてきたレフトを睨みつけ、俺は立ち上がった。 「......もう俺は逃げたりはしない。お前を倒して、全員助ける」 「......残念」 外国人のようにハッキリして整った顔を歪ませて、レフトは嫌悪感を表す。 「お前はもう私を楽しませることはできないな」 「楽しませるつもりなんてーー」 ふざけんな......。 俺はお前のおもちゃじゃない。 「最初からないッ‼︎」 地を蹴り走り出した俺は、すぐに刀身に炎を纏う。 あの光線は育也のバリアを貫通したが、俺の炎は貫通しなかった。 ......何でそうなのかは分からないけど、さっきよりも強い力でぶつければ打ち消せるかもしれない。 放たれる光線に剣をぶつければ、思った通り貫通することはなく、俺が強引に押し返すと光は消えた。 「...ッ⁉︎ 馬鹿な、私の術は強化されているはずなのにーー!」 ...レフトの光線は俺の炎で消せる。 これならまともに戦える! 「くそっ!」 俺をあれだけ弄んでいたレフトは今は防戦一方で 彼女の青ざめた表情は今の俺達の力関係を如実に表していた。 「ありえない、くッ......私は、命を犠牲にして力を得たのにッ‼︎」 よろけながら後ずさったレフトは、息を乱しながら俺を睨みつけて吐き捨てるように呟いた。 ......容赦するつもりはない! 「ここで必ずお前を倒す‼︎」 赤く染まった剣から大量の炎が溢れ出し、空間を埋め尽くす。 炎に囲まれ逃げ場を失ったレフトは、憎悪のこもった瞳で俺を睨みつける。 「貴様などに...貴様ごときに......ッ‼︎」 「はあぁぁッ‼︎」 剣を振るうと、荒れ狂う炎が一斉にレフトに襲いかかった。 「アァァァッ‼︎」 レフトの断末魔が......炎の中から響く。 黒いローブも、輝く金髪も...何もかもが炎に飲み込まれ、そして悲鳴も聞こえなくなった。 これで......皆が元に戻る。 俺の中の何かが消えていくのを感じる。 すべてが終わった。 ーーかに思えた。 突然感じた禍々しい気配。 荒れ狂う炎がすべて掻き消され、その中心に立っていたレフトが姿を現した。 白かった肌は所々黒く焦げつき、金髪は縮れて見る影もなかった。 「まだだァ......私の命をすべて懸ける‼︎」 美しかった顔を醜く歪ませて、獣のような唸り声をあげる。 レフトの力は何倍にも膨れ上がり、一瞬にして姿を消した。 何とか目で追えたのは黒い影。 ......今のは瞬間移動じゃなく、あいつ自身の脚力だ。 目では追えても身体が追いつけず、首を片手で掴まれ強引に押し倒された。 馬乗りになったレフトは俺の首に手をかけ、腕に脈が浮かび上がるほどの力で締め付けてくる。 「貴様は殺すゥ......私をコケにした貴様だけはァァッ‼︎」 歯を剥き出しにして、血走った目は完全に獣のそれだった。 マズイ......。 視界がボヤけてきた。 腕を動かしたいのに、力が入らない。 あと少しなのに...こんな形で負けるのか? 嫌だ......そんなの嫌だ。 動け、動いてくれッ‼︎ ・ 「どけっ‼︎」 「うあっ⁉︎」 腹部に感じていた圧迫感がなくなり、気道に一気に空気が流れ込んできた。 むせる俺の身体を抱き起こしたのは もう動けないはずの蓮だった。 「蓮、どうして......?」 「お前がピンチなのに黙って倒れてるわけないだろ」 膝をついて、苦しそうに俺を見る蓮。 膝をついていることさえ辛いはずなのに、蓮は笑って顎でレフトを示す。 「さっさと倒せ」 「......分かってる」 急いで立ち上がって、レフトの前に立つ。 焦点の合わない瞳で何とか俺を見つめる彼女は既に狂気に支配され 獣のような唸り声を出しながら俺を指差した。 「殺す......死ねッ‼︎」 ......さっきと同じ力じゃレフトは倒せない。 剣を中段で構え、意識を集中させる。 より強力な炎......いや違う。 一瞬だ。 一瞬だけ、爆発的に力を増幅させて敵を圧倒する。 刀身の炎を......飛び散りそうになる炎を抑え込み、剣に凝縮する。 あぁ......今にも意識が飛びそうだ。 額を伝う汗がやけにむず痒い。 耐えろ、限界まで......! 「オラァァァッ‼︎」 大きく踏み出したレフトの足が、地面を打ち砕く。 異常に膨張した右腕を振り上げ、俺めがけて拳を突き出す。 よく見ろ......そしてーー ーー斬るッ‼︎ 拳を掻い潜りレフトの腹に刃を打ち付ける。 間髪入れず、留めていた炎を解放し爆発させた。 限界まで凝縮された炎は何倍もの力を持ち、いとも容易くレフトの身体を斬り裂いた。 「...ぁ」 掠れた声を漏らしたレフトの身体が宙を舞い、その輪郭がぼやけ始める。 瞳から光が消え、そしてすべてが煙となった。 俺をあれだけ苦しめた敵が ......跡形もなく消えた。 「......終わった」 心の中にずっと燻っていた黒い何かが、あの煙と同じように形を無くしていく。 俺を今まで束縛していた鎖は解け、俺の身体は自由を手に入れる。 長かった俺の戦いは......ようやく終わりを迎えた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ......ゆっくり目を開けると 見えたのは濁った白。 ここが医務室だと気づいて、身体を起こして辺りを見渡した。 涼、育也、奏多の3人がベッドで寝ているが、蒼汰の姿は見当たらなかった。 病衣のままベッドから降りて、薄暗い部屋を壁に手をついて歩きながら扉へ向かう。 医務室から通路に出ると、時間が遅いこともあってか人の姿は見受けられなかった。 最低限の照明で照らされる通路を歩いて、ミーティングルームへと向かう。 思った通りガラス越しに誰かがいるのを見つけて 俺は扉を開けて中に入った。 「あら......?」 俺の存在に気づいたのは物隙博士だった。 隣には誰かがテーブルに突っ伏していて、背中の動きから見てどうやら眠っているようだった。 「蓮くん...もう動いていいの?」 「俺が怪人の術にかかっていたのは少しの間だけですから」 「そう。ごめんね、蒼汰くん眠ってるの」 ......あれは蒼汰だったか。 「蒼......一ノ瀬は大丈夫なんですか?」 「大した怪我はしてないわ。ただものすごく疲れちゃったみたい。 ほら、今回は被害者の数が多かったでしょ? いつもなら5人でやってもらうのに蓮くん達は動けなかったし、蒼汰くんは戦いの後で疲れてるっていうのに私達の手伝いをしてくれて......今は泥みたいに眠ってるわ」 博士は立ち上がり、テーブルに置いていたカップを持ってきて俺に差し出した。 「蒼汰くんにコーヒー作ったんだけど代わりに飲んじゃって」 俺はそれを受け取り、一口だけ啜った。 「じゃ、私はまだやることがあるから。 蒼汰くんが風邪引かないように医務室に連れて行ってあげてね」 「...分かりました」 博士が出て行くのを見送ってから、俺は蒼汰の隣に腰を下ろした。 ......眠ってるな。 試しに肩を叩いても、揺すってみても反応はなかった。 これだけ眠りが深いなら ......なにしても起きなさそうだ。 「......なんてな。バカか俺は」 さっきよりも強く蒼汰の身体を揺らすと、ようやく目を覚ました。 「ぅぅ......ん、何?」 寝ぼけ眼だった蒼汰は声をかけたのが俺だと気づくと目を見開いて、俺の肩を掴んだ。 「蓮! もう動けるのか?」 「......手を離してくれ」 「あ、ごめん......」 心の底から落ち込んでいるのか 蒼汰は眉を八の字に持ち上げて、困ったように視線を逸らした。 その横顔を見つめていると、ふとある考えがうかんだ。 「蒼汰」 俺を見る蒼汰の顔は どうしてこんなにも……。 「……蓮、どうした?」 「…何でもない」 手の中に収まっているマグカップに視線を落とす。 ・ 自分の中に湧き上がる感情を ぬるくなったコーヒーと一緒に、グッと飲み込んだ。


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