激しい鼓動に胸を押さえて、俺は冷たい床に倒れ込んでいる。 赤みを増した肌からは大量の汗が吹き出し、滝のように流れては床へと滴っていく。 「う、くぅぅ……」 苦しんでいる俺の前には、しゃがみこんで柔らかな笑みを浮かべているイクさんがいた 地下倶楽部で玲央奈を救い出した後にVIPルームへと案内してくれた女性だ。 褐色肌のグラマラスなボディに落ち着いた物腰、大人の社交場である高級クラブが似合いそうだというのが彼女への第一印象だった。 その細い首には、金属の首輪がはめられており、彼女がいまだに奴隷の身分でいるのを示している。当然、その主となるのは、地下倶楽部のオーナーであった紫堂であるだろう。 (そして、彼を紫堂さまと呼び、ここを訪れたことからも彼の使者として、まず間違いない……) 厳重な警護で守られている米軍基地の施設に、柔肌も露わな白いボディコンドレス姿の彼女がいること自体が異常事態だろう。 施設内からは人の気配が消え失せているのだが、そんなことに気をまわせるほど俺に余裕はなかった。 この体調不良を起こさせているのはイクさんらしい。彼女の言葉を信じるのなら、身体から放たれるフローラルな甘い香りに強力な媚薬並みの催淫効果があるらしい。その濃度によっては心臓麻痺で死の至らしめるほどの危険性があるという。 (にわかに信じがたい話だけど……) 白いボディコンドレスから溢れ落ちそうな豊乳を前にして、俺の下半身が激しく反応をしめしており、嫌でも体で理解させられていた。 そんな俺を見つめている彼女だが、苦しげに呻いている俺を心配するわけでもなく、ただ柔和な笑みを浮かべてみているだけだ。 (あぁ、この人もか……) 普通なら驚きや焦り、憐れみや憎しみと何かしらの感情が浮かぶはずだ。だが、俺の姿を映し込む瞳からはなんの感情も感じ取れない。 倶楽部へとエスコートしてくれたナナさん最初だったから勘違いをしてしまっていたが、女性のモノとして扱い、倫理を捻じ曲げる異常空間にいる女性たちがマトモでいられる方がどうかしている。 シオへと変えられてしまった蛍さんと同様に、イクさんの心を壊されてしまっているのだ。 このまま俺が死んだとしても、イクさんは変わらず笑みを浮かべて見届けている気がしてならない。 (そもそも、この体質からしても異常すぎるだろう……) 人を狂わせるほどの効果がある体臭。これが生まれつきではなく、後天的に付与されたものだという。 紫堂の配下にある製薬会社による違法な人体実験の成果であり、どれだけの薬物を投与されれば、そんな異常体質に肉体が作り変えられるのか想像するだけでも恐ろしい。 (改めて考えると恐ろしい能力かもな……) 身一つで相手を殺せるのだとしたら、実に暗殺向きな能力だろう。 だが、どうやら今回は俺を殺すのが目的ではないようだ。 深い胸の谷間から取り出してきたスマートフォンを、おもむろに俺の前に置いた彼女からは放たれる成分が弱まっている気がする。 だが、そんなことよりも、俺の注意はスマートフォンの画面に注がれていた。そこに映し出されていたのは涼子さんの姿だったからだ。 (あぁ、涼子さん……) 紫堂らとともに燃え盛るクラブハウスへと消えていった涼子さん。その生存をこの目で確認できた。 その彼女は拘束された姿をさらしており、複数の女性によって弄ばれている最中だった。 三人掛けのソファへと全裸で座らされている涼子さんの裸体には、黒革のボディーハーネスは絡みついており、乳房を根元から絞り出し、ウエストを締め上げて無惨に変形させていた。 両腕は背後で組まされて自由を奪われ、スラリとした両脚も折り曲げるように太ももと足首の枷が連結されている。 さらに開脚棒を噛まされて股を広げさせられ、腕の拘束具と連結された鎖によって引き上げられていた。 画面に向かって秘部をさらした強制的なM字開脚のポーズを維持させられているのだ。 『うふふ……』 国際色豊かな三人の女たちの笑い声がスピーカーから聴こえてくる。 北欧系の透き通るような白い肌の金髪美女、アジア系の細目な黒髪美少女、ラテン系の褐色肌な赤毛の美女と、いずれもが素晴らしい容姿の持ち主だ。 彼女らは全裸となってイクさんと同様に奴隷の証である金属輪を首にはめている。涼子さんに寄り添い、その身体へと手を伸ばしていた。 左右から伸びた二つの手が、涼子さんの乳房を優しく揉み上げていた。女性らしい柔らかなタッチで肉丘へと触れ、マッサージでもしているかのように指を埋めては変形させていく。そのたびに乳首を貫くリングピアスが揺れ、キラリと照明の光を反射している。 残る一人は股間へと顔を埋めてブロンド髪を揺らしながら舌と指で秘部を愛撫をしている。乳首と同じくリングピアスに貫かれた淫核を指で扱き、舌先で転がしてみせる。 『あッ、あふぅぅ……』 細い指が秘溝へと埋められて、掻き出された愛液がソファを激しく濡らしていくたびに、リングギャクを噛まされた口からは熱い息が吐き出される。それは艶めかしい音色となり俺の耳に届いてくる。 さらに女たちによる愛撫は熱がこもり、乳首をつままれ、耳を甘噛みされ、交互に涼子さんの唇を奪っていく。 舌を絡まされて、流し込まれた唾液を嚥下させられる。 そうして女性同士の愛撫を受けているうちに 拘束された裸体がブルブルと震えだす。 『あ、あぁぁン』 『我慢は良くないわよ』 『それ、派手にイッちまいな』 『イッちゃえ、イッちゃえ』 必死に堪えようとする涼子さんだが、卓越した責め手でもある女たちを前にして無駄な足掻きだった。早々に望まぬ絶頂を迎えてしまう。 『あぁぁぁぁ……』 ビクン、ビクンと腰が跳ねて、愛液が周囲にまき散らされる。 絶頂を迎えて全身から汗を滴らせた涼子さんは、ハァハァと荒い息をついている。 だが、射精すれば満たされる男とは違い、同性による責めには終わりはなく、延々と続けられてしまう。 彼女らの責めも当然のように終わることはなく、そのまま涼子さんを責め続けた。 そして、涼子さんを責めているのが三人の女だけではない事に、俺はようやく気がついた。 彼女の下腹部が不自然に盛り上がっていた。それがモゾモゾと不気味に蠢いてみせ、内側から彼女を責めているのだ。 ――リグラー まるで生物のように蠢く物体を思い出す。女体の反応を自己学習して、より効果的に女を嬲り、悶え苦しませることに特化した異形の淫具だ。 それの小型化された新型が、正式な奴隷化の一環として彼女の子宮内に生息させられているのを思い出した。それが今、体内から彼女を責め立てているのだ。 『がッ、ぐあぁぁぁぁ』 まるで体内に潜伏したエイリアンが、腹を食い破って生まれでてきそうだった。 喘ぎとも悲鳴とも捉えられる叫びが涼子さんの口から放たれると、見開かれた目から涙を溢れ出し、顎を跳ね上げる。 三人の奴隷美女たちによるレズビアン責めに加えてリグラーによる体内からの責めが続いた。それを、どれだけの時間、受けさせられてたのだろうか。激しく上気した肌を滝のように汗が流れ、床には水たまりができていた。 淫夢をさまようように彼女の視線は虚ろだ。カメラを向けられていることにも気づいていない。 (あぁ、涼子さんだ……) 正直、素直に喜べる状況ではないはずだが、五体満足である彼女の姿にまず安堵してしまう。 生き延びていると確信していたとはいえ、それでも万が一のこともありえる。炎の中で、火傷をおう可能性もあった。だが、画面にみえる彼女からは怪我を追った様子もない。 目の前のスマートフォンを拾い上げて、思わず涙を浮かべてしまっていた。 『喜んでくれたようだな、ルーキー』 そんな俺の反応をカメラ越しに見ていたのだろう。画面が流れて、紫堂の顔が映る。 彼もまた涼子さんと同じく無事であった。業火の中をくぐり抜けたというのに、火傷ひとつ負ってはいない。 トレードマークである白いスーツを着こなし、ノンフレームの眼鏡越しに鋭い視線を向けてくる。 「やっぱり、無事だったんですね」 『あぁ、流石に今回ばかりはマズイかと思わされたが、こうしてピンピンしているよ』 俺の言葉にシャープな顔立ちに、爽やかな笑みを浮かべてみせる。 (あぁ、まただ……) まるで死んだ兄貴と話しているような奇妙な空気を感じさせられて、胸が締めつけられる。 ギリリっと奥歯を噛みしめる俺に、紫堂は気づかぬまま話をすすめていく。 彼は崩落する地下施設から脱出できたのは、一部の者だけが知る抜け道を利用したからだと語った。 クラブが造られていたのは、山の上に造られたゴルフ場だ。地下とはいえ、そのまま横に掘り進めれば、麓にでるのも道理だ。そこを通り、火事で殺到する消防車両を横目にしながら悠々と脱出してみせたというのだ。 『そちらも、傷がそろそろ完治した頃だろう? そろそろ、また始めようかと思ってな』 その傷を負わせた張本人が、何事もないかのように言い放つが、不思議と嫌な気持ちにはさせられない。 再会すれば、そう言うと予想していたのもある。 「なにを……とは言いませんよ」 『あぁ、それでこそだ』 やはり、紫堂は俺との再ゲームを望んできた。 俺の銃弾を受けて欠けた耳をなぞりながら興奮ぎみに語りはじめる彼は、まるで子供のようだ。 『ルールだが、まずは俺の元へ辿りついもらおうか。もちろん、こちらも邪魔する手立てを用意しておくがな』 「期限は?」 『とくに設けないが、なるべく早くした方が良いだろうな』 意味ありげに笑みを浮かべると、画面が美女たちに嬲られている涼子さんへと切り替わる。 今度は焦らし責めに切り替わったのだろう。愛撫をうけて彼女が達しようとするたびに、一斉にその手を止めてしまっていた。 秘部に触れる指の動きに合わせて腰が前後に揺れ、絶頂寸前で離れていくと自然と指を追いかけてしまう。 『うふふ、イキたいの?』 耳元で囁かれるアジア少女からの問いに、羞恥で顔をさらに赤めながらも必死に首を振って否定しようとする。 そんな涼子さんの反応に、少女の口元に嗜虐の笑みが浮かび、愛撫が再開される。 『あッ、あぁ……あン、あぁぁン……』 『ほらぁ、ここを触れられるの好きなんでしょう?』 『ヒィ、ひゃ、ひゃめぇぇ……あぁぁぁン』 すでに涼子の官能のツボは把握されているのだろう。反応の激しくなる部位を重点的に刺激してくる。そうやって同性を責めることに慣れきった美女たちは、涼子さんは見事なまでに翻弄していった。 執拗に責められては何度も焦らされ、それを繰り返されると、ついには拘束された身体を揺すって、啜り泣きをさせられていた。 『アハハッ、物欲しそうに腰を振ってる』 『でも、ダメよぉ。もっと、もっと焦らしてあげるわ』 『自分がただの牝なんだって、ちゃんと心と身体に刻みつけないとなぁ』 切なげな涼子さんの叫びに美女たちの笑い声が被さる。光景を楽しそうに眺めている紫堂へと画面が再び戻る。 『御覧の通り、俺自身は手を出さないが、こうしてアレはもてなされているわけだ』 「壊れる前に、早く取り返せってことですね」 『あぁ、そういうことだ……だが、少しばかり遅い方がルーキーには、都合がよいかもしれないぞ』 その言葉に込められた意味に、ドキッとしてしまう。 俺の脳裏には、ゴルフコースで一度、涼子さんのマスクを外したときを思い浮かんでいた。朦朧としていた彼女は、俺を兄貴と勘違いしてしまった。 今まで見たこともない甘えた姿をみさせられて、俺は涼子さんの心の中にで、いまだに兄貴の存在が大きいことを実感させられた。 そのことを知っての発言かはわからないが、紫堂の言葉は甘い誘惑となって心の隙間に入り込み、奥底まで染み込んでくる。 (涼子さんを俺のモノにするには、少しぐらい彼女が壊れてくれた方が都合がよい……ってことか……) 実に俺の心をくすぐる甘い誘惑だ。だが、それに同意してしまっては涼子さんが嬲られることを肯定することになってしまう。 確かに美女たちに責められている涼子さんの姿は、俺の嗜虐欲を大いに刺激してくる。 (あぁ、もうゲームは始まっているんだな……) 紫堂は俺に心理的な揺さぶりをかけてきているのだ。だが、それに安々と同意するわけにはいかない。 (それに、どうせ嬲るのなら俺の手でしたい……) それこそが俺の本心だった。我ながらサドらしく強欲にもなったものだ。 だが、それぐらいでなければ紫堂とは渡り合えず、彼も満足はしないだろう。 俺が首を横に振ってみせたことで、彼は不機嫌になるどころか笑みを深めたことで、それが正しいとわかる。 『あぁ、ひとつだけアドバイスしておくが、米軍には期待しない方がいい。時間の無駄だからな』 思い出したように付け足してきた紫堂の言葉に、俺は眉をひそめる。 それが牽制の為であるのなら協力を仰ぐの禁止するべきだろう。そうではなく、期待するなというのが奇妙だった。 「なにか、しましたね?」 『また、邪魔されたら興醒めだからな』 ナナさんが率いる海兵隊の介入によって、二機のティルトローター機が撃墜されて俺は命拾いしている。 その対策として、何らかの圧力をかけてきているのだろう。今回は同じようにはいかないと釘を刺しているのだ。 『その端末は置いていく、充電は欠かないでくれよな』 それだけ告げると、通話は一方的に切られてしまった。 待ち受け画面へと戻ったスマートフォンに視線を向けていると、それまで黙って見守ってイクさんが立ち上がった。 「さて、用事もこれで終わりましたので、失礼しますわね」 お使いは終わったとばかりに立ち去るイクさん。優雅にヒップを振りながら廊下の闇の中へと消えてく彼女を俺はただ見送った。 彼女の遠ざかると、俺の体調は次第に回復をみせた。 「ふーぅ……」 心臓の負荷で体力の消耗も激しい。脱力して、その場で尻もちをついてしまう。 立ち去るイクさんを捕まえようという無粋なことは考えてはいない。 それで紫堂の不興をかうことはないだろうが、きっと彼女には護衛がついている。 そうでなければ、建物の内外で警護していた海兵隊員と諜報部員を排除することは無理だろう。 圧力に対して諜報部はまだしも、海兵隊を指揮する玲央奈の父親がその程度で娘の警護を解くとは思えなかった。猛者たちを排除できる者が近くに潜んでいると見るべきだろう。 「マスター、大丈夫ですかッ!?」 俺は動けずにいると、しびれを切らせた玲央奈が部屋から飛び出してきた。 その手には隠し持っていたらしい拳銃が握られているのを見て、彼女を待機させておいて正解だったと胸を撫で下ろす。 脱出の際には紫堂と俺の間に割って入ったために、危うく撃ち殺されそうになっていた彼女だ。今回も通話の邪魔でもしようものなら問答無用で排除されかねなかった。 周囲を警戒しながら駆けた玲央奈は、座り込んだ俺の無事を確認して、安堵から抱きついてきた。 「あぁ、良かったぁ」 心からの言葉に、俺は優しく抱きしめて応えてみせる。 その一方では、涼子さんのことを思い出していた。 いまだに囚われの身であり、予断が許されない状況ではあるが、それでも五体満足である涼子さんの姿を目にできて、安堵の方が強かった。 (あぁ、本当に無事でよかったよ……) 緊張が解けた反動から、涙する玲央奈につられて俺の目にも再び涙が浮かんでしまっていた。 しばらくして、武装した部下を引き連れて玲央奈の父親であるロイ=スペンサー中佐が駆けつけてきた。 警護についていた者からの定時連絡が途絶え、それですぐさま増援に駆けつけてくるあたり、彼らが荒事に慣れているのがわかる。 残念ながら、建物の外で警護についていた海兵隊員は全員が死体で見つかったらしい。 一方、内部での警護をしていた諜報員たちは、建物の外へと呼び出されていて無事だった。 そのタイミングがあまりにも良過ぎて、実は諜報部が手引きしたのではと疑心暗鬼にもなってしまう。当然のように、両者の間でギスギスとした空気が漂っていた。 こんな状況でありながら諜報部側を指揮するボブ=ホワイトは相変わらず姿をみせない。どうやら、上層部から本国へと呼び出されて、あちらで足止めを喰らっているということだった。 (これも紫堂による工作だろうな……) 彼が政財界にパイプをもつのは米国でも同じようだ。そちらからの圧力をかけているのだろう。 そして、ホワイトが現場を離れているうちに、建物内で警護していた諜報員を遠ざけるように手引した者がいることが考えられる。 (紫堂側に通じている者がいる可能性がある現状では、諜報部は使えそうにないな) そして、どうやら日本の警察が俺の身柄をおさえようとしているとの情報も入ってきた。 燃え盛るゴルフ場にいる俺の映像をどこからか入手したらしく、火事に対する重要参考人として手配しているというのだ。 (警察に捕まってる暇はないぞ) そもそも警察には紫堂らの息がかかっていることから始まった潜入捜査だ。捕まったら、どうなるか分かったものではない。 仮に協力をあおぐにしても握り潰されないようにルートを選ぶ必要があるだろう。 (そして、こちらも問題だ……) 部下を殺され、娘に危害が及びそうになったことでスペンサー中佐と部下たちがいきり立っていた。 諜報部抜きにして過剰な警護をつけようとしていた。 (正直、海兵隊の火力は魅力的だが、今はそのフェーズでないな……) 今は紫堂と涼子さんの居場所を見つけ出すのが最優先事項だ。それに必要なのは情報収集と捜査できる人員だろう。 そして、諜報部に期待できなくなった今、この米軍基地にとどまっている意味はもうなかった。 そんな俺の思惑を玲央奈は感じ取っていたようだ。密かに基地を出るための準備を進めてくれていたことを教えてくれた。 隠してあったバッグには、二人分の荷物がすでにまとめられていた。 「いつの間に、準備なんてしてたんだい?」 「みんなも協力してもらいましたから」 トレーニングに付き合ってくれていた古参の隊員たちが、中佐に内緒で準備を手伝ってくれていたらしい。 厳つい顔の連中だが、幼い頃から玲央奈を知るだけに甘えられると弱いらしい。 「あと、こちらは軍曹から」 追加で置かれたウェストポーチには、射撃訓練で使用していた拳銃に予備弾倉。それに手榴弾まで入っていた。 いずれか一つでも警察に見つかれば逮捕される代物だ。それをホイホイと手渡してくる辺り、俺とは感覚が根本的にズレている。だが、ここは素直に受け取ってべきだろう。 そして、基地から抜け出すのも、その軍曹が手伝ってくれることになっているらしい。 「それで、どこに行きましょうか?」 これまでの話の流れから、どうやら玲央奈は俺に同行するつもりのようだ。 国民的アイドルを危険にさらすことを懸念して言い淀む俺に、玲央奈は頬を膨らませてみるみる不機嫌になっていく。 「まさか、ここまで手伝わせておいて、残れとは言いませんよね?」 「あ……いや……だがな……」 前回、紫堂に撃たれそうになっていたことを説明する。あの時の紫堂は俺を試すためではなく、本気で玲央奈を撃ち殺そうとしていた。 だが、その説明を聞いても彼女は引き下がるつもりはないようだ。 「鷹匠さんへの連絡方法は、アタシだけが知ってますよね?」 「あ……う、うん……」 「基地をでたあとのお金のあては? 財布も鍵も駿河さんって方に預けてますよね? 自宅とか絶対に警察が張ってますよ?」 理路整然と話しながらテーブルには用意しておいたクレジットカードや現金の束を並べていく。 確かに活動資金の問題は大きい。それに、国民的アイドルである彼女の方が、平凡な会社員であるよりも資産を持っているのも事実だ。 反論できずにタジタジとなる俺に対して、玲央奈はドヤ顔をしてくる。 「これを借りて行くというのは……」 「ーーダメですッ」 俺の提案は即座に玲央奈に却下されてしまった。 こうなる事を玲央奈は予測していたらしく、次々と論破されてしまう。 すっかり弱り果ててしまった俺に、彼女は笑みを浮かべて抱きついてきた。 「マスターは、欲望に忠実になったんですよね? だから、玲央奈のことも抱いてくれたんですよね?」 「あぁ……」 「なら、玲央奈はマスターのモノですよね? それなら、手段なんて選んでないで利用してください。大好きな人を救い出したいんでしょう?」 涼子さんへの俺の想いを理解した上で、それでもこの少女は俺に協力してくれるというのだ。 勢いに任せて俺を押し倒すと、満面な笑みを浮かべてみせる玲央奈に、グッと熱いものが胸をこみ上げてくるのを感じる。 (これは、まいったな……) 玲央奈は俺の胸に顔を埋めて見上げてくる。その甘えた仕草に、古参兵たちもこれにやられたのだろう。想像以上の破壊力だった。 「はぁ……わかったよ」 論理的な説得に加えて、こうも甘えられると白旗をあげるしかない。 確かに玲央奈の言うよう、俺には手段を選んでいる余裕なんてなかった。 「 玲央奈、改めて、力を貸して欲しい」 「はい、喜んでッ」 俺の求めに快諾してくれる、ここまでは良かった。問題は続く言葉だった。 「うふふ、これで玲央奈は正式に二号さんってことで良いんですよねぇ」 「あ、いや、それはーーうぐぅッ」 気が緩んだところへの爆弾発言をしてきたのだ。 慌てて反論しようとする俺の口を、玲央奈はキスで強引に封じてくる。 「いまさら、ナシはダメですよ」 それまでとはガラリと雰囲気が変わり、小悪魔的な笑みを浮かべる玲央奈に、タジタジにさせられる俺だった。
久遠 真人
2024-04-04 16:12:46 +0000 UTCくすお
2024-04-04 13:01:45 +0000 UTC久遠 真人
2024-04-01 22:27:37 +0000 UTC久遠 真人
2024-04-01 22:26:44 +0000 UTCわか
2024-04-01 15:30:50 +0000 UTCわか
2024-04-01 12:29:12 +0000 UTC