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久遠 真人
久遠 真人

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『淫獣捜査 隷辱の魔罠』 第85話(前半)

 激しい炎と黒煙に囲まれる中、俺は凶弾から玲央奈を守るべく身を盾にしていた。  握っていた拳銃を再び紫堂へと向けるが、先ほどまでとは違い今度は相手も銃を持っている。 ――白銀のリボルバー式大口径拳銃  銃弾数では劣るが、その一撃はこちらよりも大きい。  腕前に関しては俺よりも上手いのは、先ほどの俺の身体を掠るように放たれた銃弾によって証明されている。  通過した衝撃で着ていたスーツは裂けている。もし、下手に避けようとしていたら、もれなく命中していたことだろう。 (いまのは威嚇……というより、また試されたのか?)    シリンダーから薬莢を排出して、クイックローダーと呼ばれる六発を一気に装填できる器具をつかい紫堂は即座に補充してみせる。  その淀みのない動きが、彼もまた武闘派と呼ばれるヤクザの一人なのだと思いしらされる。 ――カキンッ  シリンダーを戻された白銀の銃身がゆっくりと持ち上げられる。  先ほどの威嚇射撃でも俺が退かないとわかり、今度は紫堂も躊躇はしないだろう。 (殺らなければ、殺られるッ)  そう確信すると不思議なほどに俺の心からは怯えが消えていた。震えていた指先もピタリと止まり、相手の胸元へと狙いが定まる。  そのまま導かれるように安全装置を解除すれば、俺の纏っていた空気が変わったのを察知した紫堂は実に嬉しそうに笑う。 「あぁ、そうだ。余計なことは考えなくっていい。あとは、その引き金をひくだけだ……簡単だろう?」  まるで初めてタバコを咥えた後輩に吸い方を教えるように語ってみせると、自身もガチャリと撃鉄を起こしていく。  そんな紫堂にも怯えは見えない。実弾入りの拳銃を向け合っているというのに、俺も紫堂も平然していた。  いや、それどころか口元には笑みすら浮かんでいるのだからどうかしている。 (どうしちまったんだ、俺は……)  自分を一歩引いて俯瞰して見ている俺が、自分の口にも浮かんでいる笑みに愕然としていた。  まるでキャッチボールでもするかのように、気軽な空気が二人を包む。  そして、引き金に掛けられた指が動いたのも同時だった。  轟く銃声が重なり、次の瞬間に俺の左肩に激しい痛みが走る。紫堂は放った銃弾が俺の肩を撃ち抜いたのだ。 「ぐぅぅぅッ」  絶叫を上げたくなる痛みを奥歯を噛みしめて必死に耐えてみせる。  そして、自分の放った結果を確認するが、彼の顔をわずかに左に逸れていた。音速で通過する銃弾の衝撃波で耳が裂けて鮮血がでていだ。  その傷口を指先で触れて、ヌルリとする感触を確かめた紫堂は、吹き出る鮮血によって白いスーツを赤く染めながら、笑みを深めていた。 (苦痛よりも悦びが勝るのか?)  再び銃口を向けてくる彼に合わせて、俺も銃を握りなおして構える。   「さぁ、まだ弾は残っているだろう?」  撃鉄を起こしながら告げられた言葉の通り、弾倉にはあと二発の銃弾が残っているはずだ。  銃弾を受けた左腕は力が入らない。ならば、右腕だけで狙うしかない。 「さぁ、次だ……」  再び、銃声が重なりあう。次は彼の左腕に命中していた。  だが、こちらが喰らったのは左の太ももだ。激痛に立っていることもできず、膝をついてしまう。 「ぐあぁぁぁぁッ」  今度は堪えきれずに絶叫を上げていた。  それでも、どうにか銃を手放すのだけは我慢できた。 「あぁ、そうだ。まだ一発残っているからな」  流石の紫堂も左手に受けた銃弾に、表情を歪めていた。これでも表情を変えなければ、サイボーグかと思うところだ。 「よく狙えよ。それを外したら後ろの女を今度こそ撃ち殺すぞ」 「ご主人さま、もう良いですからッ」  手足に受けた銃弾で血塗れになっていく俺に、背後から泣きじゃくる玲央奈が縋りついてくる。  だが、今となっては彼女がどうこうよりも、男の意地となっていた。  幸いなことにアドレナリンが分泌されて、痛みはまだ我慢できそうだ。  問題は銃弾があと一発ということだ。正直、今のままでは当たる気がしない。 (えぇい、やってやるッ)  右腕だけで銃口を向けて狙いを定め、願いを込めて引き金をひく。  轟く銃声とともに放たれた最後の銃弾。それは大きく外れてしまう。  紫堂の方は今回は撃たなかったようだ。銃声がかき消えると共に、大きな嘆息する。 「残念だな。ルーキーの強運もここまでか」  紫堂は銃を向けたままツカツカと歩いてくる。  その一歩、一歩が俺の死への階段代わりだ。それを見据えて、だた待っているしかできない。  だが、その歩みがピタリと止まったと思うと、背後に飛び退いたのだった。  炎の壁や破り、一台のオフロード車が突っ込んできたのだ。  急ブレーキをかけると俺と紫堂の間に割り込んできた車両は、軍用でも使われている厳ついボディの大型車両だった。  その運転席に座るのは、犬咬 ケンジだった。その脇にはボロボロになった鷹匠 杏子の姿もある。 「よぉ、助けにきたぜッ……と、カッコよく言いてぇところだが、こちらもピンチでな」  運転席から顔をだした彼その言葉の意味はすぐにわかることとなった。 「チッ、もぅ来たよッ」  杏子さんの叫びとともに黒煙を切り分けて現れたのはチルトローター機だった。  大国を中心に配備が開始された最新機で、ヘリコプターと固定翼航空機の特性を組み合わせた特殊な航空機だ。  両翼に備えたプロペラの向きを切り替えることで、ヘリコプターのように垂直への移動も、航空機のような高速巡航も可能とする特性を持っている。  出現した機体には、国籍や所属をあらわす表記の類がいっさいなかった。  所属不明機は低空で旋回すると、紫堂の背後でピタリと停滞してみせた。  二つのローターが生み出す旋風が、周囲を覆っていた炎の壁をかき消していく。  そして、機体の下に設置された機銃がゆっくりとこちらへと向けられてくる。 「くッ、なんか対抗できる武器はないのッ、対空ミサイルとかさぁ」 「無茶いわんでくださいよッ、あんなデカ物相手にするなら先に言っておいて下さいよ」  相変わらずの杏子さんの無茶な注文に、ケンジが眉間に青筋をたてて怒鳴り返している。  いくら軍用車両であっても機銃をうければイチコロだろう。  助けが現れたかと思ったら、先ほど以上のピンチとなって、もう笑うしかない俺だった。 「あははは――痛たたたぁッ……いやぁ、これは参ったなぁ」  玲央奈に肩を借りて起き上がった俺だが、もう打つ手はなかった。

『淫獣捜査 隷辱の魔罠』 第85話(前半)

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