ヘイブン・イン・ザ・フォレスト①
Added 2025-05-10 01:00:00 +0000 UTC時は2157年――悪化の一途を辿る国際情勢により、アジア諸国は北米・欧州諸国と国交を断絶していた。枯渇しつつある資源と限られた非汚染居住可能区域をめぐり大陸同士の抗争は激しさを極め、米国による北海道のミサイル攻撃が発端となり、第三次世界大戦が開幕した。
時代は変われど戦争の、そして人間たちの本質は百年以上前の世界戦争と何ら変わっていなかった。戦闘用アンドロイドなどの無人兵器が発達を遂げたにも拘らず、どの国もそれらを形にする資源も財力もとうに無くしており、結局戦地へ送られたのは生身の人間、国々の若く健康な男たちだった。
故郷から遥か彼方、異国の広大な森を力無く彷徨う佐藤大地も戦争によって日常を奪われた多くの日本人男性の一人だった。
(くそっ!夜中に奇襲攻撃とか、どんだけメリケン共は卑怯なんだ?!早く仲間たちに合流しないと……一体どこに逃げたんだ?そもそも、俺は今どこを歩いている……?)
支給された迷彩服は冬の森林の寒さに耐えるにはあまりにも心許なかった。就寝中に襲撃されたため、佐藤は枕元のライフルを持ち出すので精いっぱいだった。空腹と疲労に加えて極寒にも見舞われ、佐藤は一歩ずつ体の限界に達しつつあった。
月明かりが地面を照らす場所に出ると同時に、佐藤は膝から崩れ落ち、硬い地面に倒れ込んだ。
(まさか、俺はこんなところで終わるのか?こんなくだらない死に方をするために、俺は生まれてきたってのか?)
薄れる意識の中で、佐藤は頬にひたひたと雪の粒が降り注ぐのを感じた。
(……せめて、子供の顔ぐらい見たかったな……俺の人生、なんだったんだ……)
意識を手放した一人の日本兵士に、雪は容赦なく積もり続けた。
~
佐藤が目を覚ますと、頭上には白い天井があった。まだ完全に覚醒していない意識のまま、佐藤は慌てて周りを見渡した。広い寝室には眩しい朝日が差し込み、異様な平穏が漂っていた。
(……俺は、死んだのか?ここは、冥界……?)
ガチャリ。
部屋の扉が急に開き佐藤は身構えたが、持っていたはずのライフルはどこにも見当たらなかった。
「おや、目を覚まされたんですね」
そこに立っていたのは柔らかな微笑みを浮かべる中年ぐらいの白人だった。佐藤が雑誌などで見たことのある金髪・青目で頭の悪そうな白人とは違い、その男は髪も目も濃い茶色で落ち着いた雰囲気をまとっていた。男は丸眼鏡にちょび髭という学者の様な風貌をしており、セーターの上からでも少しだらしない腹のシルエットが窺えた。
「メリケンだな!どういうつもりだ?!俺の銃をどこに隠した?!」
「まぁまぁ、どうか落ち着いてください。私は軍人でも政府関係者でもありません、あなたに危害を加えるつもりはありません。ここは安全です、どうか安心してください」
少し英語訛りではあったが、なんと男は流暢な日本語で返事をした。しかし、混乱している佐藤にそれについて言及する余裕はなかった。
「……メリケンの言うことなんて信用できるわけ――いいから早く武器を返せ!」
佐藤は激情に任せてベッドから飛び上がろうとしたが、その最中に眩暈に襲われ、床の絨毯に倒れ込んだ。
「――大丈夫ですか?!」
佐藤は駆け寄る白人男の腕を振り払おうとしたが、思うように腕に力が入らなかった。
「近、寄るな……クソメリケンが……」
「……可哀そうに……」
抵抗できずにいる佐藤に白人の男はふわりと腕を回し、ぎゅっと抱き寄せた。
「とても怖かったんですね……もう大丈夫、あなたは頑張らなくていい……大丈夫、大丈夫……」
「や、やめ――」
「Shhh…it’s okay, you’re safe now…you’re okay…」
優しく背中をさすられると、佐藤の胸にはそれまでの恐怖と苦しみ、そしてそれらから解放された安堵が波のように押し寄せてきた。気づくと佐藤は嗚咽を漏らしながら大粒の涙を流していた。男は泣きじゃくる佐藤をきつく抱きしめ、落ち着くまで彼の耳元で英語と日本語で優しく囁き続けた。
「……もう大丈夫です、あなたは戦わなくていいんです……」
~
「どうぞ、好きなだけ召し上がってください、食料の蓄えは十分ありますから」
しばらくしてから、佐藤と白人の男はダイニングテーブルを挟んで向かい合っていた。テーブルには数々の料理が所狭しと並べられており、そのどれもが佐藤の空腹を煽った。
「あぁ、毒なんて入ってないですよ。殺すつもりなら寝てる間にできたわけですから。どうぞ、ご遠慮なさらず」
男が食べ始めたのを確認してから、佐藤は恐る恐るフォークに刺した肉を口に運んだ。数か月ぶりに味わう牛肉は疲れ果てた兵士にとっては衝撃的だった。我慢の糸が切れた佐藤はそれからものすごい勢いで料理を頬張り、その美味しさに再び涙を浮かべた。
「おぉ、実にいい食べっぷりですね。誰かと一緒に食事をするのなんていつぶりでしょう」
しばらく二人は話すことなくただ食事を続けた。食べきれないかのように思えた品々は佐藤により見事に平らげられ、その様子を中年の男は満足そうに眺め続けた。空腹が満たされた佐藤はようやく言葉を発した。
「……目的はなんだ?まさかただの人助けで敵国の兵士を助けたなんてことはないだろ」
男は相変わらず優しく微笑んで佐藤の顔を眺めていた。
「敵国、ですか。まずはお互い自己紹介をしましょう。わたしはジェイムズ・マッコール、ジムと呼んでください。あなたの名前は?」
「……佐藤、大地」
「ダイチ……とてもいい名前ですね」
「――あ、あのさ!」
優しい笑顔で褒められ、佐藤はまた調子を狂わされそうになった。
「あんたはなんで日本語が話せるんだ?」
「日本語は祖母から教わりました。私の祖母は日本人でした――昔はこの国でも異国人との結婚が認められていましたから。あの頃は日本にも祖父が経営する会社の支部があったので、将来ビジネスの役に立つだろうと」
白人と会話をすることすら初めてな佐藤は、相手が日本語を喋っていることに更なる違和感を覚えた。
「ダイチは、家族はいますか?」
「……あぁ、妻と……俺がいない間に生まれた息子も……」
「息子?!ダイチは何歳なんですか?」
「……三十」
「Oh!やはりアジア人は若く見えますね……すばらしい遺伝子です……」
「……で?」
佐藤はじろりとジムの目を見た。
「俺に何をさせるつもりだ?スパイ活動か?言っておくが、俺にはそんな器用な真似はできないし、するつもりもない」
「いえいえ、先ほども言いましたが私は戦争とは関係のない人間です。私はただあなたに、『私の見たいものを見せてほしい』だけです。そうしていただけるなら、戦争が終わるまであなたをかくまいます。約束します」
「見たいもの?いまいち話が見えないな……その見たいものってのはなんだ?」
「そうですね……ではまず、ダイチの体を見せてください」
「……はぁ?カラダって――」
すぐに佐藤は言葉の意味を理解した。
「……オッサン、そっちの趣味なのか……」
「ソッチ?」
「あぁ……男が好き、ってこと」
「そうです、私はゲイです。特に日本人男性が好きです、だからあなたをここへ連れてきました」
先ほどジムに抱きしめられたことを思い出し、佐藤は寒気がした。
「まさか、俺のケツに突っ込みたいとか……」
「いえ、違います。私はただ『見せてほしい』んです。私のペニスは大分前から不能なので安心してください」
安心するどころか、佐藤の不安は募るばかりだった。
「もし私の意に添えない場合は、残念ですがここを出ていただきます。ダイチも嫌でしょう、また外へ出て怖い思いをするなんて。ここには暖かい寝床と美味しい食事があります」
「そ、それは……」
自分が安全な部屋で豪華な食事をとっている間、仲間たちはどうしているのだろう?佐藤の胸には仲間たちへの罪悪感があったが、再び外へ出るのが怖いのも確かだった。そもそも佐藤は国の指示で兵士として派遣されただけで、元々軍人ではなかった。
「……わ、分かった。あんたの言うとおりにする。でも、無理な要望ならその時にここを出ていく。それでいいか?」
「Yes, of course!では早速、こちらへ来てください。あなたの本来の姿を見せてください」
「えっ?!い、今、ここで?」
「はい!」
「で、でも……」
ジムの背後、部屋の扉の左右には若いメイドとバトラーが立っていた。
「あぁ、彼らは気にしなくて大丈夫です、僕の指示を聞くだけの人形みたいなものですから。それにあなたが眠っている間に体を拭き、服を着替えさせたのもあの二人ですから、今更恥ずかしがることはありません」
どうりで体がすっきりしていると思った、と佐藤は納得はしたが、気が楽になるはずも無かった。とは言え、どちらにせよここにいたければジムの言いなりになるしかなく、佐藤は仕方なく席から立ちあがり、ジムの傍へ歩み寄った。
「……脱げばいいんだな」
「そうです、まずは下着一枚になってください。怖がらなくても大丈夫ですよ」
「べ、別に、怖がってねぇし……」
言葉とは裏腹に、今まで経験のないおかしな状況に佐藤は確かに緊張していた。佐藤が着せられていた白いTシャツとスウェットパンツを大理石の足元に脱ぎ捨てると、ジムは大層嬉しそうな表情で露になった兵士の肌を物色した。
〆
この続きは【5/24】に投稿予定です!ここまで読んでいただきありがとうございました!
次回予告:変態白人に裸にされた佐藤。体を一通り観察された後、彼はジムの寝室に連れていかれる。そこでジムはとあるゲームを提案する――自分で触れずに射精が出来たら、今日はこれ以上性的なことはしない、と。身の安全のために佐藤はジムの提案を飲み込むしかなく……。
次回⤵