唐突に海が見たいと思った。
最近何してもうまくいかないし、未来に展望もないし、人間関係も壊滅しかけていたから。
だから海でも見て圧倒的な世界の広さを感じて、自分のちっぽけな存在を痛感することで、あるていど諦めもつくんじゃないかってさ。
で、数ヶ月ぶりに駅とかに赴いて電車とかいうなんか長い乗り物に乗り込んだ。
そこでゆらゆら揺られながらなんとなくどんなプランにするか考えた。
ただ海を見るだけじゃつまらないだろ?
特別な体験にしたい。
なんて思いながら海沿いのまちを歩いていたのだ。だらだらと。
むやみに暑かった。
というかもはや夏だった。
うす着の人たちがたくさんいた。
観光地だからね、腐っても。
そしたらなんかいい感じの店を見つけたんだよ。
ハンバーガーのお店だった。
なんか高級そうな香りがした。
そのとき僕に革新的なアイデアがひらめいた。
このおしゃれな店のうまそうなハンバーガーをテイクアウトで買って海で食べたらめっちゃいいかんじじゃね?
ということに。
そうとなるともう居ても立っても居られない。
看板のメニューを見る。
なんかうまそうなハンバーガーの能書きが書いてある。特性の自家製のソースがなんたらかんたら。いいじゃないか。
1000円?高いね?
でもいいじゃないか。
普段なら、いやーっておもうけど、今日は特別なんだ。特別にするって俺が決めたんだよ。いくらでも財布の紐を引きちぎってやるよ。
で、おされな紙袋に入った熱々のハンバーガーを抱えて海に接近していった私の心境はどのようなものだったでしょう?
そんなの、期待感と未来の展望にワクワクして胸が高鳴りまくりですよ。
そして景色が迫ってくる。眼前に。
水平線がみえる。
真っ青な海。
空はどこまでも広い。
お腹は空いている。
心がちょっと切ない。
でも僕の脇には高級ハンバーガーがある。
そのリッチな味わいが、僕の心を暖めてくれるはずだ。
いい感じに転がってた倒木ベンチにする。
紙袋からブツを取り出す。
一口たべてオイシイと思った。
いろんな味わいがぐわっと押し寄せてきた。
香ばしい肉のうまみ、ソースの複雑な甘み、ピクルスとか野菜のフレッシュな食感が一緒くたになって、バンズにかじりつくと自分の口の中で開花した。
うまい。
もっとたべたい。
ということしか考えられうず、一口、二口、もぐもぐ。
おいしいー、って気持ちが喜びにざわついて、もぐつぎながら、このうめぇもんの見た目はどんなもんじゃい、ってかんじで手に収まってるハンバーガーを見つつ海も眺めてた。
きらきらと光る海はどこまでも続いていて、自由を感じた。
風が心地よかった。まだハンバーガーも半分以上あった。
最高な気分だった。
生きている感じがした。
本当にうまいものを食うと心が満たされるのだ。
いまそれが俺の手の中にあるのだ。
僕は視線を両手に戻した。
ハンバーガーが手元から消えていた。
なにが起きたのか、理解ができなかった。
一瞬おくれて、なにか衝撃があったことを脳が認識した。
背後からバシッという鈍く重い鋭い音がして、僕の手からハンバーガーが消滅したのだ。
えっておもった。
えっておもったあと、なんか自分の右肩の後ろあたりを起点としてなにかがすごい勢いで通り過ぎたことを理解した。
そいつが僕の頭上をはるかたかく飛び去っていったから。
でっけえ鳥だ。
茶色っぽい。翼が大きい。
鳶(トンビ)だ。
やつは僕のハンバーガーらしきものを咥えて、空高く優雅な曲線を描いて消えていった。
僕は地上に取り残されていた。
呆然と空を眺めていた。
なにがおこったんだ。
え、鳥にめし奪われたの?
うそだろ。
こんなことってあるのか?
おい、鳥。
返せよ、おれのハンバーガー。
お前のために店員さんが作ったんじゃねえんだぞ。
俺が1000円はらって海で特別な一日をすごすための神聖な食い物だったんだよ。
お前がおやつ感覚で盗んでいい代物じゃねーんだぞ。
返せよ、おれのハンバーガー。
って思った。
でも無駄だった。
呆然としたまま何もできず立ち尽くしていた。
あまりにくやしくて駆け出した。けど手も届かない。
悲しみが押し寄せてきた。
僕は空を飛べなかった。
広大な海も、いまは自由ではなく人間の儚さを表現しているように感じた。
自分はただなにもできず浜辺に突っ立っていた。
まわりの人々は海に足を突っ込んだりして遊んでいた。
楽しそうな声が聞こえてきた。
僕は波の音とかれらの嬉しそうな声を聞きながらその場をあとにした。
・・・
というわけでみなさんも、トンビには気をつけましょう。
彼らがいる海辺でなにか食べるときは壁を背にするか、
もしくは、傘などで食べ物を隠すといいらしいです。
「鳥にハンバーガーを奪われないために遮蔽物を利用しましょう。」
まったく、アクションゲームかよ。