フルルの日常……1
Added 2023-03-23 12:36:38 +0000 UTC「ふぁ……ん」 氷海。氷と雪に囲まれた、美しくも不毛な大地。その洞窟を縄張りとする飛竜娘……フルルはゆっくりと起き上がる。 長めの前髪を揺らしながら大きな欠伸をする。あどけなく整った顔だが、表情は常に眠たげだ。髪には稲妻を型どったアクセサリーがあり一見すると普通の女の子のように見える。しかしその巨体とブヨブヨした翼、丸みを帯びた尻尾が飛竜の証だった。 「……………ん」 周りを見渡し、辺りの匂いを嗅ぐ。特に生き物の気配はなく、ゆっくりと寝床から降り立つ。 くるるぅー 「……お腹空いた……」 昨日はランポスくらいしか食べていない為、フルルは空腹を覚える。とりあえず朝食の獲物を探しにのっそりと動き始めた。 天井に張り付きながら移動するフルル。ゴツゴツとした岩石や氷石があるなか慣れた様子で移動する。 「………今日は居るかな」 彼女が目指しているのは水辺のあるエリア。そこには、生き物がよく集まる。フルルの鼻がすんすんと動く。獲物の匂いを嗅ぎ付けたフルルは、にやりと笑った。 ~都合によりケルビくん達は擬人化しております~ 「ふぅ、生き返ったー」 「大袈裟だよ……」 二匹のケルビが水を飲みながら談笑していた。棲息地を変えながら生活する彼らにとって安全な水は貴重だ。 「この返りは寒いし早く抜けたいね。ってまだ飲んでるの?」 「うん。先行ってていいよ」 「じゃあ、外行ってるね」 一匹のケルビがその場から離れる。食事も摂れればいいなと考えながら歩く。 「なるべく早く………あれ?」 振り向くと先程よりまで水を飲んでいた筈の友人が居ない。この先には水辺しかなく、行ける場所はない。 「どこに行ったの………?」 水に落ちたのかと思って駆け寄るが、水の中に何もなくそもそも水音すらしなかった。 「…………どこ?」 忽然と消えた友人に不安になるケルビ。 びちょ、じゅうっ 「あつっ……な、なに?」 粘性の強い液体が肩にかかる。慌てて上を向くとそこには友人がいた。宙吊りになり下半身しか見えない状態で。 「ひっ!」 友人は巨大な何かに咥え込まれていた。宙吊りになった足がバタバタと暴れる。 くちゅくちゅと湿った音が響く。しばらくは激しく動いていたが、びくんっと何回か跳ねるとその力を失う。ぐったりとした下半身をちゅるりと吸い込む何か。粘りとした液体が撒き散らされる。そして、 ………ちゅぷ……ごくりっ その音が響きケルビは理解させられる。友人はその巨大な何かに呑み込まれたのだと。 ずしんっ。 巨大な影が降りてくる。それは巨大な白い竜……彼らの天敵とも言える飛竜娘のフルフルだった。 「あ、あああ………」 ケルビは完全に腰が抜けてしまい、動けない。友人を丸呑みにしたフルフル娘は満足そうにお腹を撫でている。その腹からぐるるーと不気味な蠕動音が響く。 その瞳がしっかりケルビの方を見つめる。べろりと舌舐めずりをしながらゆっくり近づく。 「ひ、ひぃ……や、やだ……」 「……さっきの子は、お友だち?」 お腹を撫でながら、ケルビに問いかける。先程よりお腹の音は大きくなる。 こくこくと頷くケルビ。後退りしながら、なんとか離れようとする。 「…………一人ぼっちは寂しいよね。君もお友だちの所に、送ってあげる……」 唾液を纏わせながら、口が開く。唾液に溢れた口内がケルビの前に広がる。 「……いただきます……」 「や、やだやだやだやだ……そんなのやだぁ……たすけてぇ!」 這ってでも逃げようとするが、フルルには逃がしてあげる義理はない。フルルにとっては主食の1つだからだ。 にちゃ…… 「ひぅっ!?」 お尻に異様な感触。見ると臀部がフルフル娘の口に咥えられていた。 じゅぷっ、ずる、じゅぷっ、ずると湿った音を立てて引きずり込まれていく。 「あ、ああ……たべないでぇ……!」 胸の辺りまで呑み込まれると舌が下半身を嫐り始める。 「や、やめ……ひっ、ち〇んちん舐めないでぇ………」 快感に無理矢理支配されていく。やがて、全身を口内に収められていき、 「んちゅ………くちゃ、くちゅ……おいしっ♪」 「や、やだ………」 全身が弛緩していき、やがて頭が快楽に犯され惚けて言って 「…………んっ」 湿った音を立てながら嚥下された。喉がぷっくり膨らんで降りていった。あっという間に二匹を呑み込んだフルルは満足そうにお腹を撫でた。 「………あぅ………」 食道に締め付けられながら胃袋に落ちていくケルビ。やがてぼすんと胃袋に落下する。 「う………!」 胃袋に漂う酸臭に惚けた頭が覚醒する。 「やだ……フルフルのお腹の中……なんてぇ……!」 じゅう………しゅううー 何かが溶けているような音がしている。その方向を見ると、 「…………あ、あ………た、たす………け」 「ひ、ひぃい!」 溶けかけている友人が居た。粘液に包まれ真っ白に融解した皮膚に真っ赤な内臓なのかでろりとはみ出していて。おぞましいのはまだ生きているという事で……… 「ひ、ひ……やだ……やだぁ……」 胃液がたらりとケルビにかかる。皮膚が溶ける痛みにケルビの心は完全に壊れてしまい 「やぁあああだー!やめてぇえええ!いやあああああ!」 狂ったように暴れ始めた……… 「………ん……げぷっ……」 お腹の中で動く感触を楽しみながら、優しくお腹を撫でる。満腹とはほど遠いが、朝食には丁度いい。 「ごちそうさま………」 くんくんと鼻を動かす。まだ外にはケルビの群れがいるようだが、食べ過ぎはよくない。運の悪かったケルビ二匹を消化しながら、住みかに戻る。 「…………?」 その途中で、フルルの鼻がとある匂いを捉えた。 「はぁ!はぁ!」 息を切らせながら二人の子供が走っていた。耐寒の強いマフモフコートで身を包んだ二人は、汗だくになりながら走る。 二人を追うのは白いトカゲのようなモンスター、ギアノスだ。 「あぅっ!?」 一人が、足をもつらせ転ぶ。フードの下はまだまだ幼い男の子だ。ボサボサの黒髪に、可愛らしく女の子のような顔立ちを持つが、今は恐怖にひきつっている。 「あきらっ!」 もう、一人が倒れた男の子に近づき支える。同じ年代くらいの女の子だ。ショートカットの黒髪の女の子でつり目が特徴的でお転婆そうな印象を受ける。 「………フロウちゃん……僕を置いて逃げて、僕走れない……」 判断としてはそれが賢明だろう。少なくともフロウと呼ばれた少女は助かるだろう。しかし、見捨てるなんて少女には出来ない。 「私がたたかうからにげて!」 地面に落ちていた細い枝を握り構える。そんな貧弱な武器では、ケルビですら追い払えないだろう。増しては相手は獰猛な肉食獸、大人ですら、囲まれると危険だ。 そんな少女の勇気を嘲るようにギアノスは吼え、彼女に向かって飛び掛かった。 「!!」 恐怖から目を瞑るフロウ。しかし、なんの痛みも感じない。 恐る恐る目をあける。 「!」 フロウが見たのは宙吊りになるギアノス、ギィギィと耳障りな悲鳴をあげる。正確にはギアノスは、巨大な何かに銜え込まれていた。 「!?」 いつの間にかそこに居たのは、白い巨大な少女フルフル娘だった。 暫く銜えこまれたギアノスは必死に暴れていたが、ちゅるんと吸い込み見えなくなる。 「……………」 あまり美味しくないのか、少し嫌な顔をするフルフル。次の瞬間、ごくりと音を立てて嚥下した。 「ギっ!」 逃げようとしたもう一頭のギアノスもつまみ上げ、口に放り込み、呑み込んだ。 お腹を撫でながら、屈みこみ二人の子供をじっと見る。 ギアノスの何百倍も危険な飛竜種……フルフルの少女がそこにいた。 「う、う……」 恐怖で怯える少女達。そしてフルフル娘は二人に顔を近づけ、 「こわかったよー!!フルルおねえちゃーん!」 その顔に抱き付いた。 いきなり抱き付かれ、少し困惑した表情になるが、二人を安心させるように指で撫でる。 「…………二人共……ケガしてない?」 「うん。へーき」 見たところ特に怪我はしていないようだ。あきらの方も、少し汚れているだけで外傷はない。それに安堵し、胸を撫で下ろした。 「………もう、大丈夫だよ……?」 フルフルに抱きつく二人の子供。端から見ると戦慄の走る光景だが、二人はフルルに懐いていてフルルも愛しげに二人を撫でた。 「………二人とも、どうしてこんな所に……まさか二人で来たの?」 ようやく落ち着いた二人に事情を聞く。二人は近くの村に住む姉弟で時折、大人達と来ていた。元々村に縁のあるフルルは二人とも遊んであげていたのだ。 「ううん。にゃん兄と」 「釣りに行くって言ってたから着いてきたの」 「でも、フロウちゃんが飽きて、ちょっと冒険しようって」 「それで…フルルおねえちゃんに会えればいいなって……」 その二人の言葉でフルルは理解する。フロウはお転婆で無謀なところがある。あきらは気が弱いから無理矢理連れ出されたのだろう。 「………そう。フロウ、駄目だよ……ここは危険なの……二人に何かあったら村のみんなが悲しむ……私も悲しいよ。……もう二人だけで来ちゃダメ。……分かった?」 「うん、ごめんなさい……」 「……ごめんなさい」 しゅんとする二人に、フルルは一度溜め息を吐いてぽんと指で優しく叩く。そして、優しく微笑みながら、 「………今度二人だけで来たら食べちゃうからね?」 冗談混じりにそう言った。 「はーい。ごめんなさい」 「………………」 「あきら………?」 「ぼ、ぼくフルルおねえちゃんになら、食べられてもいいから!」 「あ、あぅ?……じ、冗談だよ、あきら……?」 「あ、……そうなんだ……そうだよね」 「な、なんで残念そうなの?」 困惑するフルルに顔を真っ赤にしているあきら。そんなあきらをみてフロウは。 「………ヘンタイ」 弟に見も蓋もないことを呟くのだった。 落ち着いた二人は、積もった雪で遊んでいる。フルルはそれを微笑ましく見ながら、そっと呟く。 「………居るんでしょ?にゃん兄」 そう問いかけるフルル。物影から小さな姿を現したのはネコのような外見を持つメラルーだ。普通のメラルーとは違い、ぼろぼろの外套を纏い、背中には刀。右目には刀傷がついていた。 「ニャ。バレてたニャ?フルル嬢」 「……匂いで分かるよ。見てたなら何で直ぐに助けなかったの?」 非難するように、問い掛けるフルルに対してにゃん兄と呼ばれたメラルーは目を細め笑う。 「ニャ。多少は怖い目に遭わないと懲りないニャ」 「……………」 「そう睨むニャ。ケガしそうになったは助けるつもりだったニャ」 肩を竦め、人間のような仕草をする彼にフルルもくすり笑う。彼の性格から、二人が怪我をするような事になるなら飛び出していただろう。恐らくフルルが居たことも気付いていたのだ。 「それにしても、二人は釣りの良さが分からないのかニャ?」 呆れたように首を振るにゃん兄に、ジト目を向けるフルル。 「……にゃん兄が下手すぎてつまらないんだと思う……」 「にゃ!?た、たまたま調子が悪いだけニャ」 「……うそばっかり……今日もボウズなんでしょ?」 脇にあるバケツには当然のように何も入っていない。釣りの弟子であるあきらより下手だ。 「………昔から下手だよね?……こんなに上達しない人居ないよ?」 「う、うるさいニャ!たまたま釣り場と相性が悪いだけニャ!」 誤魔化すにゃん兄が微笑ましく、フルルは笑った。 (……ちゃんと笑えるニャ……良かったニャ) 昔程笑顔を見せなくなったフルルをにゃん兄は憂いていたが、少し安心した。ぴくんとにゃん兄の髭が動く。 「ドスギアノスニャ。さっくり狩ってくるニャ」 「………ん……それくらい、私が……」 「ニャ。フルル嬢は二人と遊んでやるニャ。遊べる機会はあまり無いしニャ」 「………ん、ありがとにゃん兄……」 「気にするニャ……それと、分かってるニャ?」 歴然の戦士のように鋭い瞳に、フルルはにゃん兄の言いたい事を直ぐに理解する。 「………二人を食べるくらいなら……飢えて死んじゃうよ」 「ニャ。それなら良いニャ。オレも二度とフルル嬢に刃は向けたくないニャ」 「…………うん。ごめんね……にゃん兄」 「オレの方もすまないニャ。フルル嬢を疑ってる訳ではないニャ」 「………」 心を刺すような痛み。刺さって消えない傷痕に未だにフルルは苛まれている。 「あと何回も聞くようだがニャ。村に帰ってくる気はないかニャ?旦那も心配してるニャ」 「………ごめん。にゃん兄……」 「………ニャ」 悲しそうに一声鳴くと、にゃん兄は走り去った。 (私に、そんな資格ないから……) お腹を撫でながらフルルは悲しそうに呟いた。 「………可愛いなぁ」 無邪気に遊ぶ二人を見て、微笑むフルル。二人は雪合戦を始めるが、一方的にフロウがあきらにぶつけているだけに見えるが、何故かあきらも嬉しそうだ。 くるるー。先程のケルビ達を消化し終えたのかお腹が鳴る。 (おいし……そう) 人間を食べたのは、3日前だ。久し振りに食べたくなる。フルルの理性よりフルフル娘としての本能が支配していく。 (こんな小さな子供は、まだ食べたことない……あきらは、小さいけど食べ応えありそう、きっとおいしい。フロウは、雪みたいに柔らかくて、甘くて……) どれほど美味しいのか、二人がどんな顔をするのか、どんな声で鳴いてくれるのか。想像するだけで涎が溢れてくる。 (一口だけ……一口だけ……) ゆっくりとゆっくり近づく。そして……… 『フルル』 脳裏に響く声……優しく懐かしくもう居なくなったはずの声。誰よりも愛しかった声がフルルを正気に戻した。 「えいっ」 飛んできた雪玉がフルルに当たる。 「冷たい………」 「フルルおねえちゃんも遊ぼっ」 『フルル……遊ぼうよ!』 フロウの姿と誰かの姿が一瞬だけダブる。 「…………うん……」 (………まだ居るのかな……ここに……ユキカ………?) お腹を撫でながらフルルはもう居なくなった少女の名を呟いた。