トワの住む九条の島は、個よりも家を重視する傾向が非常に強く、家の存続のためには個の人生が犠牲にされることも厭わないのが普通である。
結婚相手を自由に決めることはできず、女は家が決めた相手に嫁ぐのが定め。
自由恋愛をしたければ駆け落ちすること、すなわち家を棄てなければならない。
アラヤの娘と仲良くしていることを快く思わないトワの生家は、たびたび見合いや縁談話をちらつかせてきたが、今回は一足飛びで婚約まで取り決めてしまった。そこにトワの意志は一切関わっていない。会ったことすら無い相手であった。
そして初めて顔合わせしたときに絶望的な感覚を味わった。到底受け入れがたい、関わりたくないタイプの相手。ましてや一生その伴侶になるとは考えたくもない。
だが相手は性格こそ最悪でも、家柄はとても良いので、断るという選択肢は存在しない。
あるとすれば、家を棄てることだけだった。
駆け落ちして二人で生活するならまだしも、女一人で生きていけるほどこの島は甘くはない。
セツナは今、反物屋の修行で頑張っており、邪魔はしたくない。
それでトワは単身クジョウの島を離れ、アオイの島の温泉街に身を寄せていた。
しかしわずかな所持金はみるみる減っていき、いよいよ覚悟を決める。
家を棄てたということは、貴人の能力も使えないことを意味している。完全に力を失ったわけではないものの、せいぜいいくつかの結界の呪法を扱う程度である。以前のように戦うことはできない。
ギルドに登録はしていたものの、戦闘の伴う任務は受けることができない。そうなると必然的に限られてくる。
そういえば以前、一度手違いで、遊郭で一週間だけ働いたことがある。
鬼を狩るという任務だったのだが、その鬼を焙り出すために遊郭で遊女のふりをして働くことになった。その時の体験が忘れられなかった。
*
「トワと申します。よろしくお願いします……」
正式に遊女になるつもりはない。
だがギルドの任務には、遊女の生理休暇を埋めるために、臨時で働く枠がいくつかある。このアオイの島には特にそれが多い。
宿泊費を節約しつつ、生活費を稼いでいくにはこの方法しかなかった。
セツナのようになりたい夢があるわけでも、ツキミのように商売の才があるわけでもない。だが幸いにもこの身体は男性達からの受けが良いようで、ただ重いだけだと思っていた大きな胸にも、遊郭を訪れる客達には大変評判が良い。
「ん……っ、はあ…っ…」
知らない男性と身体を重ねるのは、あまり気分のよいものではない。
ましてや、相手はほとんどが年が二倍以上離れた中年以上のおじさんである。
そこに愛情が生まれることはない。
だがそこに逆に安心感もあった。
若い男となるとどうしても逃げ出してきた結婚のことが思い浮かんでしまう。
自分とは決して結ばれることがない相手だからこそ、一夜限りの逢瀬もこなすことができる。
そしてこうして誰かと身体が繋がっていると、自分が必要とされていることを実感できてなんだか嬉しかった。将来の不安で陰鬱な感情に閉ざされている時も、繋がっている時だけはそれを忘れることができる。
「ああ……出てます……たくさん……」
ただ、体内に精液が注がれることだけはあまり喜ばしくなく、引き抜かれた穴からどろりと白濁がこぼれ落ちて来るのを感じると、一気に夢から現実に引き戻された。
*
気がつけば、この仕事でお金が溜まっていき、一ヶ月の稼ぎで半年くらいは自由に暮らせるくらいの貯金ができていた。
自活して生活していけることがわかって、少しだけ自信がついていた。
もう家に戻ることはしない。
自分が生きたいように生き、自分がやりたいことをしよう。
でも今まで目の前のことだけで一杯で、自分が本当に何をしたいのかあまり考えたことがなかった。
「これから、どうしましょうか。」
トワはこれからの事を考えていた。
ねこトトラ@猫虎屋
2022-09-05 16:00:08 +0000 UTCみょん
2022-09-04 07:59:31 +0000 UTC