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永劫に廻転し狂う世界をみつめるたった一人正常な人間の物語

本の良いところは、読む前からきちんとした終わりが提示されているところにある。

たとえ、文章でそれ以降も続く世界が暗示されていようと

裏表紙より先に物語が続くことはない。


今日も何万回、何千回と読んだ本を見つめながら、ふと時計に目をやると12時を廻ろうとしていた。

かち、かち、かち。

秒針はいつまでも変わらないペースで音を立てる。何千回、何万回、終わり無く、永劫に――――


かちり。


12時に魔法が解けるなら、ああ、私は幸福であるはずなのに。

いいや。私は魔法にかかることができなかったから、それ故に不幸であり、幸運である。


時計はまた、4時を過ぎた所である。

本は、何万回、何千回も読んだ128ページを開いている。

私は本を閉じて、幾度も尋ねたので知っているにもかかわらず、

椅子から腰を上げ『世紀の大発見』を自慢するためにラボへ歩みを進める。




埃臭い図書館を出て、庭園をまっすぐ突き進む。

私はかつて発見に心浮かれていたため、気が付かなかったが。

何も対策せずに庭園に踏み入るとくっつき虫は衣服にえらくくっつくし、

貧乏草を踏み折って草木の汁が跳ね返り、抜けるころにはひどい姿になる。

なるほど、だから最初、『博士』にひどい格好だとなじられたわけだ。

本来では得られない解答を知れたのは幸運である。

何度もこの過ちを犯さなければならないのは、度し難い不運でもある。



「……え、今日ですか? うーんと、予定は……ちょっと手帳見ていいですか?

はい。えっと……ああ、大丈夫です。博士の予定は空いてます。

では、本日の19時から……」


このやり取りも何度も聞いた。相手はたしか異国の権威ある学者で、

博士を尋ねてはるばるとやってきたとか、なんとか。

あまり興味がないので初めは聞き逃していたが……

少しずつ、この廻転の意味を紐解けてきた今は、付箋を張りたいほどに重い伏線である。


私はおろかで哀れな道化なので、気づかぬふりをして施設の床にたどり着く。

流石に装いが汚いのは許せないので、ある程度くっつき虫を手で振りはたく。

まあ、博士にひどい格好だとなじられることに変わりない。




私に自由な時間はない。

この短い繰り返しのなかで、一握りは異なる一日を送っているはずだ。

初めて、4時に巻き戻った時……私は現状を認識できず、運良く同じ道をたどって博士のもとへたどり着いた。


その時も『今年一番でひどい格好だぞ。明日の仮装大会にでも出るつもりか?』

……一言一句、まったく同じ言葉を返されて……

私は思い出したように、道化を演じたのが幸いであり、不幸である。


もし、これが人為的な異変で在るというのなら、

私という存在は伏せられたジョーカーと成りうる。

そのはずだが……この日のわたしは、一秒たりとも人の目に映らない時間がなかった。

誰が犯人であるかもわからない状態で、闇雲に探そうとしたところで……

……私という無力な存在が、何を為せるというのだ?


ラボの扉の前に立ち、一呼吸整えてノックする。

返答は何千日も、何万日も帰ってこない。

博士がこちらに語りかけるのは、いつの日も私が無様な姿を晒した時だけである。





玄鳥「今年一番でひどい格好だぞ。明日の仮装大会にでも出るつもりか?」


■■「聞いてくれ、世界の大発見だ! この本によると――――

次に繁栄するのは”イカ人間”らしい。真に【難解】で【柔軟】な発見じゃないか!」




かち、かち、かち、かち。


秒針はいつまでも変わらないペースで音を立てる。何千回、何万回、終わり無く。


壊された本に終わりは無い。

永劫に狂い続ける世界を、私は壊れたように、踊る道化。


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