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「みっちゃん、私の没日が7月9日なのしってる?」「それと何の関係が?」


命廟「貴方は来る日も来る日も女の子を口説いてはトラブルを起こして…!

今回ばかりはこの右大臣禍原命廟の堪忍袋の尾も限界ですよ!」

雅子「いや~メンゴメンゴ!

好みの未亡人子持ち美女を口説いたとおもったらいつのまにか月面に居てびっくりした!

地球は青かった! ん!今いい詩が…」

命廟「貴方はことの重大さを理解していなさすぎる!

一歩間違えればどうなっていたか!」

雅子「夕月夜 さすや岡べの松の葉の いつともわかぬ恋もするかな…

 おっと最近ではパクリ? コピペ? はいけないんですね~気をつけなきゃ!」

命廟「こ、このっ…万年春頭!!」

雅子「あっはっは~」



雅子「というような感じで怒らせてしまいましてね。なーにがいけなかったんでしょう?

 生前から私、変わってないと思うのですけどね~」

せきと「懲りずにまた地獄にきて、私を口説いているあたりとかかなぁ」

鎌「毎回連れ添ってる女の人が別人なところとかね」

鼬「節操なさすぎだよ~そういうの何ていうんだっけ。ぴ、ぴちぴちぴっち?」

雅子「私はいつまでもどこまでも! ぴちぴちの美少女ですけどねっ!」

せきと「生前は美少女ではなかったと聞いたが…?」

雅子「えっナイスミドルな私のほうがお好みです?

いやーこまっちゃうなー現世でも通用する私のハンサムさ…隠しててもわかっちゃうかぁ~」

せきと「いや全く好みじゃないんだけど」

鎌「生前と変わったのは向こうなのかもね。いやしらんけど」

鼬「いや、生前と変わってるのはお客さんが死んでるかどうかじゃないかなー」

雅子「そういう些細なことでみっちゃんが変わるとは思わないんだけど~」

せきと「人間にとって死ぬのは些細なことじゃないだろうに」

雅子「私はいつも友人だと思ってるんだよなぁ~ 今も……生前も」

せきと「だからこそ、だ」

雅子「それならさあ……私だってみっちゃんに言いたいこといっぱいいっぱいあるってのにさあ……すぅ……むにゃ」

鎌「いいところなのに寝ちゃった」

鼬「ぶろまんすの気配があったのにー」



その日はいつもどおりにしとど降る夜であったが、

ふと音が止んだので、月でも見るかと老体をすこしばかり起こし、見上げれば

手の届かない彼方遠くには、美しい星の階がかかっていた。


おそらく都でも、同じ空が映るのだろう。

目を閉じ、思うのは……

「お前を連れ出すには誂向きではないか」

「……人が穏やかに余生を過ごしているのですが?」


目を開けると久しく会う友の姿が居た。

「まったくいつも変わりませんね、その人を嘲笑するような態度が」

「こればかりは死んでも変わらぬよ」

「そうですね。阿呆は死んでも治らないと聞きますので」

「お前も変わらないなあ」


手で顎をさする癖も、変わらないな、と思う。

眉間に皺が寄っていたのだろう、「お前も変わらない」と言われる。

それが、どうしても懐かしくて、いつまでもこの時が続けば良いとさえ。


庭の草木は露に塗れ、そよ風にゆれ、月光にさらわれそうなほどに侘しい。

「連れ戻そうなどと馬鹿なことを考えているとか。

 意中の女にそう出来なかった、貴方が」

「嫌か?」

「嫌ですね。昔の女の姿を重ねて見るとか貴方は女心をもっと学んだほうが良かった」

「お前は女ではないだろう……それにほら、お前のことは我が子のように」

「気持ち悪い」

「きっ……」

毒を吐くと、目を数度瞬かせては手で覆う。その仕草も、いまでは懐かしい。



「……彦星のゆきあひを待つかささぎの 門わたる橋を我にかさなむ

今でも、お前は都を想っているのだろう」

「私にはもっと個人的な思いしか有りません」

「妻だな」

「……それも、ありますけれど。もしかしてそれを真に受けて来たのですか」


友は答えない。

さてどうしたものかな、と思考を巡らせる。


「狩り暮らしたなばたつめに宿からむ 天の河原に我は来にけり

そう、貴方にはこの歌がお似合いです」

「……それ、お前が機織女にならないか」

「つまり、私はお前に連れられないぞということ」

「当てつけか」

すこし意地悪しすぎたかな、とも思う。

「業平殿は今も、私にとっては彦星のような人です。

 ですので、貴方のようになれればよかったのにというちょっとした憧れです」

「……」

嘘だろ、と目を見開きこちらを見て、

「嘘だろ?」

「はい」

深い溜め息をつかれた。

「帰る」

諦めてくれたのか、友はいつものように踵を返し

おそらくは表に止めた牛車で帰って行くのだろう。


「……本当は」

きっとこれが最後になるだろうから、一つだけ

「この国にはカササギが居ないからこそ、夢物語だからこそ”もう一度”会いたかった」

友は振り返る。

その顔はあの時と同じ、柔和な笑みのままだった。

「よい夜だなあ。歌でも詠みたい気分だ」


彼は星天をゆっくりと牛車で駆けていく。

夜風は勢いを強め、雲が空を閉ざし、草木の露はかき消されると、

雨音が空を閉ざしていく。

このまま帰れなければともに居られるだろうか、そう思い、願うように目を閉じ、

また見開いた頃には、

「私も女子なら、好いていたのだろうか。いや、それだけは絶対にないな……」

そう独り言つ、友よりも年老いた老人が雨天を見上げていた。




雅子「あぁーよくねたー……ってみ、みっちゃん!」

命廟「……」

雅子「ち、ちがうんだこれは他の子たちと宴会をしていたら眠りこけて

 行き倒れというわけではなくあっそんなつめたい目で見下さないで……

 ご、ごめんなさい」

命廟「貴方が酒に溺れるときはいつも女性にこっぴどくフラれた時でしたね」

雅子「いや今回はフラれてないよ、古傷がぶり返しただけ」

命廟「いいですか? 死んで神霊になったとはいえ、いつ消えたっておかしくないんですよ」

雅子「……もしかしてー……もしかしてー……みっちゃんって私が居なくなったら嫌?」

命廟「嫌ですね」

雅子「えーみっちゃん、私のこと好きじゃないでしょう」

命廟「友達として好きですよ」

雅子「ほらやっぱり嫌いって……えっ!?」

命廟「こんな獣道のど真ん中で寝そべってないで、帰りますよ」

雅子「ちょちょと、みっちゃんやっぱり私のこと好きって――――」

命廟「友達としてですよ。これだけは死んでも変わりません」



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