価値があるとすれば、それは想像だ。
◇
森の中、一人の妖精が鼻歌交じりに歩いていた。
「ほんほほんんほほへへへんへ~ん~♪ んむっ! いい枝発見あるっ!」
どこにでもいる普通の妖精だ。ちょっと好奇心が旺盛なだけの、普通の妖精。
彼女は拾った枝を背中に背負った籠にしまいこみ、また鼻歌を歌い出す。
「るーるる、るるるる~るる~♪ んむっ! ナメクジ発見ある~!」
どこにでもいる、普通の妖精である。
「ほわー! すっごいでっかい茸の群生あるねぇ……
うーん……顧客めもに確か……んおーあった! 蛇のいくちが欲しい!(by光の三妖精)
これは、高く売れるある! ということで、一個だけいただきます。ごめんねー」
ちょっと違うのは、彼女は商いを営んでいる、ということだ。
◇
「ごちゅーもんの品を届けに来ましたあるー!」
「ありがとー!」
「お支払いは、妖精コインと円とどっちがいいのかしら?」
「今は円安だから、コインのほうがお得あるねぇ」
「円安なのに円は安くないんだねー はいよお」
「ひぃふうみい…ありがとあるー!」
「今日は鍋パよー!」
「ねえマーシェ、お酒と野菜とあとこんにゃくはあるかしら?」
「あるよあるよー! アゴ出汁もあるよ~味噌もあるよ~」
「くうぅコインがもう無くなっちゃうわ」
「まけとくあるよ~いつもご贔屓感謝ある」
「よっ太っ腹!」
「私腹を肥やした大商人!」
「妖精きっての大悪人!」
「褒めても、ツケはツケあるよ」
◇
妖精たちの間ではどうやら、人間の通貨に取って代わる妖精コインで物を取引するのがブームになっているらしい。
材質は黄鉄鉱、イリジウム、琥珀の三種類。黄鉄鉱で出来た貨幣はもっとも価値が高いらしい。
黄金の代わりだろうか? それにしては、金よりももろいのが玉に瑕であるが……
「えっほ、えっほ! おまたせあるよー! 今日も、松茸もってきたあるよー」
「今日は随分と遅かったけれど……時計の読み方はもう忘れたの?」
「んやー、今日は引く手あまたというか~! いや~私商売の天才かもしれんある!」
「まあ、そうね。間違いなく才能だね、貨幣経済を一人で作るんだから、まさに」
「ほ、褒めても松茸はもう在庫がないある~!」
「妖精なんだから、生育の促進とかできないのかね……」
「ダメあるね~私マツタケの妖精じゃなっ……いやマツタケの妖精あるけどぉ~」
「嘘を付く才能はないね、壊滅的だ」
「うぐうぅ……!」
まあ、私としては妖精が経済活動をしようが、この秋の味覚を労せずに手に入れられるのならどうでもいいことだ。
その果てに、彼女たちが自然から外れた存在になろうと……知ったことか。
◇
「デパートをね、作ろうかと思ってるある」
私は飲んでいたアップルティーを派手に零した。
「ただね~安く買った建設予定地がど~も水害に弱くて地盤も良くなくてぇ~
しょうがないので山の神様と業務提携契約を結んだまでは良かったんだけどぉ」
「ま、待って。何? デパート? え? 土地? 不動産に手を出したの……!?」
「やっぱり商品を売り歩くにも限界を感じていたある。やっぱり私もお店を構えたいある~!」
「それでいきなりデパートッ!?」
「うん。本当はショッピングモールをつくって従業員の妖精の住処の提供も兼ねたかったあるけどー」
「福利厚生を考えている?!」
「んでね、店内に神棚を置いとく事になったんだけどどうせなら商売の神様も誘致したいある」
「そ、そう……なら恵比寿神、なんて良いと思うよ。あの神は”余所者”を無碍にしないからね」
「さっすがー! 相談してよかったある! んじゃこれでっ」
「えっ神呼ぶ手段にはあてがあるの……!?」
「麓の巫女に金積めばばんばんじーある!」
「万々歳ね!? だ、大丈夫かな……!? 巫女に逆に成敗されたりとかしないかな…!?」
◇
されなかった。
巫女もまた、彼女の顧客であり、妖精の経済活動をむしろ見逃す側だった。
「これが……金のきのこビル!」
「いや~河童にも協力要請をしておいてよかったある~! 円安のうちに円を貯めといて良かったぁ~」
「そ、そう……なんだかスゴイことになっちゃったな……
これから商品の仕入れはどうするつもりなの? 妖精が何人集まっても所詮限度があると思うけど」
「それは心配いらんある。この反重力スムーズ手押し猫車を使えば非力な妖精でも簡単に物を運べる!」
「監修したのはもちろんわしじゃよ」
「こ、コイツかっ!変な入れ知恵していたのは!」
「いや、わしはへんてこ発明しか手伝っておらんぞ」
「自分でへんてこだと自覚しているのか!」
「んま~これで、私も晴れて一国一城の主ってやつある。これからがんばるあるー!」
「頑張るのじゃー!」
「不安だなあ……」
その不安は杞憂だった。
彼女は妖精コインを第二の通貨として里に普及させ、まさしく妖精の国を作り上げたのだ。
誰もが妖精のままごとだと侮っていたそれに、誰もが価値を認めたのだ。
◇
◇
◇
「ねえ、それ。どこで見つけてきたの?」
とつぜん話しかけられた。
わたしにはわからない。
人間のことば、ほんとうはよくわからない。
みんなが話しているのを、ちょっとおぼえているだけ。
みんなはそうじゃないみたい。だから、わたしはきっとできそこない。
だからこうして、いつもの通り遊んでいたのだけど。
「ん」
でも、きっとこのひとはわたしが遊びに使っているものがすきなんだとおもう。
そういうひとは、前にもいたような。
「ありがとう。またね」
またね。きいたことがある。
きっと前もこうして、手を振っていた。
姿が見えなくなって、そのうち。
なんで遊んでいたのかも、わすれた。
◇
「わたしは妖怪。あなたは妖精。でも私は××××という名前があってね。貴方の名前は何?」
???
「やっぱり、難しいか……いや、それとも名前がないのか……?
妖精って自分から名前を名乗ってる印象しかないんだけど……」
むずかしい顔をしている。
なまえ。なまえ。
わたしもたぶん、むずかしい顔をしている。
「……まあ、思い出せたら教えてね。それで、いつも貰ってばかりだから……
今日はお土産を持ってきたんだけど。はいこれ」
きらきらしている石をもらった。
「多分気にいると思う。太陽に透かしてみて、虫が見えるでしょ?」
きらきらしている。
「もしも、なにかに困った時……あのへんに居を構えている道具商にでも売りつけなさい。
きっと高く売れるから。またね」
きらきらしている。
今まで見たなによりも、きらきらしている。
◇
「ねえ。貴方のそれって……もしかして琥珀じゃない!」
知らない妖精だ。
「それ頂戴! っと言いたいところだけど……クールな女王様はカツアゲなんてしないわ。そうね……これあげるっ」
きらきら、ぴかぴかしている石を見せてくれた。
やだ。
やだやだ。
「ぐぬぬ……じゃ、じゃあこっちの虹色の石なんてどうかしらっ!」
れいんぼー。
やだ。
「わ、私の財宝に興味が無いですってぇー!」
「弱い者いじめは女王様らしいよー」
「ら、らしくないっ! そんなの私が求める女王様なんかじゃないんだけどっ!」
「こっちの虹色の石ね。たぶんその琥珀よりも高く売れると思うよ。わらしべ長者ってやつ。どう?」
やだ。
「私は、何かあった時高く売れるほうが良いと思うんだけどなー。でもしょうがないか。
私の名前はサマリーローズ。こっちの女王様はアキナライトちゃん。また会えたら会おうねー」
「だからちゃん付けはやめろっての…! またね! こんどは頂戴ね!」
やだ。
これ、わたしのだもん。
◇
◇
◇
「しかし、こんなに金を稼いで……一体何をするつもり?」
「失せ物探しあるよー。物流を掌握すれば、見つかりやすいある。
結局の所、お金は副産物だけどあって困ることなんてないあるし」
「失せ物ねえ。幻想郷で無くなったもの、なんて……もうどこにもないかもよ」
「そんなわけ、ないある。私にとっては忘れられない大切な宝物ある。だからきっと今も、どこかにあるはずあるよー」
「はあ。そういうものかなあ……で、どんなやつなのさ」
「えー……ひーみーつー! これは自分でやるって決めたことある!」
「はあ……まあ頑張りな? どうなっても知らないけど……私はどうでもいいけど……」
「にははー」
「ここがあの茸のハウスねっ!」
「アキナちゃん、扉を開く時は優雅に華麗に大胆にをもう忘れたんですか?」
「おひさーっす」
「むにゃむにゃ……」
「……あぁーーーー!! 見つけたあるぅうううううう!!!!! 私の琥珀ううう!!!」
「紹介するね、こっちの姫騎士がフユナクライト、こっちの寝てるほうがコハルアンバー」
「妖精になってるううううう!!!! あ、あるるるるるぅぅぅ(ぶくぶくぶく……」
「しっかりしろっ……!!」
想像は価値を創造する。
思いは幻想を形作り、また新しい価値を生み出すのだろう。
「そう言えば、適当に採掘した琥珀あげたこともあったな……
一銭にもならないからって嘘ついて押し付けて、酷いことしたかもなあ」
「価値は、あるるるる……るぅ……(がくぅ」
これからの彼女の短い一生は、果たして本当に価値があるのだろうか。
それを決めるのはやはり、彼女自身なのだ。
https://www.pixiv.net/artworks/45345059
非公開にしていた過去絵を一枚、再公開しました