電通に入社したサークルの同期から何故か連絡があって、時間を合わせて新橋のすしざんまいに行きました。
彼女は日本に住んでいたら誰でも見たことがある、すごい大企業のすごいCMを作っているようでした。
在学中から彼女のコミュニケーション能力と空気を読む能力はとんでもなくすごいと思っていて、電通で圧迫面接をされても「私に興味ある!ラッキー!」と思ってテンションが上がった!と言える陽キャっぷりも、僕にないものですごく良い友人でした。
その昔、嫁と付き合う前、僕が嫁のことを気になっていることを電通の彼女に察知されて、kainownはいいやつだ!と嫁にプレゼンをしてくれたそうです。
電通マンなんか日本で一番嫌味なヤツが集まりそうなものだけど、彼女からは「美術」の王道ルートから外れた僕を見下す空気も、憐れむ空気も感じませんでした。
僕は人の悪意に敏感な自信があるので、本当に彼女には一切ないのだと思いました。
(そういう人だから電通に入れたんだろうな)
現状を報告し合って「このままだと緩やかに死んでしまう」というような相談をしました。
僕が人に相談出来るタイプではないのに相談されたことに少し驚いていましたが、「それならやっぱ描くしかないんじゃない?何描くかは知らんけどさ」と言われました。
ちなみに彼女は結婚式で友人代表のスピーチもしてくれました。
「ここに長居すると絵描きとして死んでしまう」という危機感は
製作するべきものが大体仕上がる朝5時から、製作物にチェックが入って修正をする朝8時までの過ごし方を変えました。
今までは落書きをしたり、FGOの周回をしたりしていたのですが、
この時間をTVに使えそうにないヲタクイラストを描くことにしました。
もう一度芸術アニメーションを作るのか、ヲタクイラストを描くのか、
最後の最後まで悩んだのですが、僕が作った芸術アニメーションで何か仕事になるビジョンが持てませんでした。
相変わらず世間に対して言いたいこともなかったし。
対してヲタクイラストは実はまだ本気でやったことがなかったし、キー局の中でさえ一番絵が上手いという事実は、多摩美で粉々に粉砕された自信を少なからず回復してくれていました。
「美術」では絶対に勝てないということは大学生のときに痛いほど身に染みて分かったので、ヲタクイラストだったらまだ勝負になるんじゃないか、という打算がありました。
僕の基礎画力だけでヲタクイラストで勝てる!とは思っていませんでしたが、腐っても多摩美に受かるレベルの基礎画力を持ってヲタクイラストを描いている人はやっぱり少ないだろうと思いました。
ヲタクイラストというジャンルを選んだのは「美術」から逃げた結果で、この頃は特別好きなわけではありませんでした。
ただ、美術よりも才能が集まっているようには見えなかったし、「何を描いても良いので(何なら立体作品でも時間芸術でも良いので)良いものを作ってください」と言われている美術より、
「この枠の中で描いてください」という規定が明確なヲタクイラストは絶対に美術より簡単だろうという確信がありました。
僕くらいの才能でも戦えるように見えました。
そして、TVのイラストはどれだけ頑張っても名前が売れることはないけれど、
ヲタクイラストは頑張れば名前が売れるんじゃないかと思いました。
「名前が売れる」という言葉は、有名になりたい!という意味がゼロだったわけではないですが、本物の芸能人を毎日見ていると、自分がカメラの向こう側にいることが向いているようには考えられなかったし、
有名になりたい!よりも「kainownさんに描いてもらいたい!」という仕事が1つでもあればいいなという意図で「名前が売れたい」と思っていました。
なるべく早く仕事を終わらせて、勤務時間内に空きを作る。
修正が入るギリギリまで、とりあえず何かしらヲタクイラストを描く。
そうじゃないと、僕はここにいても緩やかに死んでいくのだと思いました。
ようやく現状を変えるエネルギーが精神的には沸いてきたのですが、肉体的にはそうではありませんでした。
毎日毎日どんどん寝ることが難しくなり、せっかく作った勤務時間の空き時間に居眠りをしてしまうことが増えてきました。
この時期のLINEを見返してみると週5勤務なのに平均週4回遅刻していました。
体調不良に次ぐ体調不良で、有給は全部使ってしまいました。
僕が欲しいものはこの場所にないことは確認出来たし、
流石に週4回遅刻するのは迷惑だし、
遅刻したら電車が終電で終わってしまうので品川駅からお台場までタクシーで向かうことになり、遅刻のタクシー代は自腹で払うことになるし、
僕より1ヶ月先に入社した先輩の研修を何故か僕がやっているし、
NONSTOPチームで性格的に合いそうだと思った先輩は辞めてしまい、やっていけなくもないかな?と思った先輩は時折不機嫌な日があって不機嫌な日は0時〜朝6時まで一言も喋らず挨拶もせずムスッとしている日があるし、
全然寝れないし、
辞めようと思いました。
この絵あたりはそんな危機感の中描いた絵です。
会社で完全に趣味の絵を描くと流石に怒られるかもしれないので、背景だけ放送するのが常套手段でした。