今日の撮影はバラエティー番組の雛壇。
それまでに私は分単位のスケジュールで移動と撮影や取材。
メディアや雑誌では"あざと可愛い美女"、"たまに毒舌キャラ"等好き勝手に呼ばれているが、おかげさまで私の知名度と人気は世間でもうなぎ上り。
芸能界に入ってからかれこれ4年目。
最初はモデルとしてスカウトされ、そこから地道な努力の結果仕事の幅を増やしてきた。
22歳となった今では若手タレントとしてテレビに映らない日は無い。段々と眩いライトにも慣れてきたせいか、私はすっかりと初心を忘れてプライベートや控室でも生意気な態度を取るようになった。
「あんたが新人マネージャー?さっさと私の飲み物買ってきなよ!」
「も、申し訳ありません…!」
「チッ…早くしろよ」
楽屋ではこうしてマネージャーにきつい態度を取ったり、理不尽に怒鳴ったりもする。
でも、これは本人のためを思ってのことだからと自分に言い聞かせる。むしろ、私が芸能界の厳しさを教育しているのだから感謝してほしいくらいだ。
もう間も無く収録が始まる。
楽屋を出た瞬間、私は表情をタレントモードに切り替えるのだった。
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収録早々、司会の女性から雛壇の紹介が行われる。一番最初に名前を呼ばれるのは私だ。
「今日のゲストは美舟怜奈さんにお越しいただきました~!」
「レナで~す♪今日もテレビの前にいる皆を虜にしちゃうぞ~♡よろしくお願いしまーす」
事前の打合せで言われていた通り、指先をこちょこちょと動かしてくすぐる素振りをカメラに見せつける。
どうやら最近になって、"女性が男性をくすぐりで支配する"風潮があるのだとか。
政府がどうたらと、よく分かんない話をされたけれど全く私の頭には入ってこなかった。
とりあえず作り物の小悪魔笑顔を浮かべながらくすぐっている動作をしていると"OK"サインが出た。
ある程度構成やお題が決まっているバラエティー番組だけれど、今週は"くすぐりの魅力"を全面的にアピールするような内容だった。
それに伴い、司会者からのフリに他の出演者達は概ね肯定的であったり、芸人は笑いを取るようなコメントを発言していく。
この中で自分に求められているキャラは"あざとさ"と"ヒール役"だ。つまり、わざと逆張りをして話題を小馬鹿にするようなコメントをしていく。
「最近では"くすぐり拷問師"といった国家資格が作られ、悪い人を拘束してこちょこちょ~っ♪と身体中をくすぐって洗いざらい白状させるお仕事のようです♪レナさんはくすぐり拷問師についてどう思いますか?」
「ん~、くすぐり拷問師って言っても、所詮はただのお遊びじゃないの~?馬鹿らしい。そんなの大人だったら皆我慢できるもんでしょ?"拷問師"とかいかつい名前付けてるけど、私は大したことないとおもいま~す♡」
…………あれ………?
ほんの2,3秒、スタジオの空気が氷点下にまで下がってような雰囲気がした。
観客や他の出演者、スタッフ達も何やらざわついてるようだ。…私、何か間違ったこと言ったかな?
「え、えぇ~っと!一旦CMはいりまーす!」
司会が気を取り直したかのように仕切り直す。
その後、慌てた様子のマネージャーが私の元へと駆け寄ってきた。
「れ、レナさん流石に先程のような発言は控えてください…!」
「なんで?てか、私に指図するつもり?」
「問題発言だからです!多分さっきのはカットになると思いますけど、絶対二度とあんなこと言わないでくださいね!」
……は?なにそれ。ムカつく。
いつもおどおどとした態度のマネージャーに強気な口調で注意を受けてイライラとした気持ちになってしまう。
その後も収録は続いたが、私は再度くすぐりやくすぐり拷問師とやらを馬鹿にして蔑む発言を続けていた。
その度にスタジオは変な空気になっていたように思うけれど、もう知らない。ここまできたらどうにでもなれといったような若さ故の怖いもの知らずな態度で挑み続けていた。
収録が終わってから、私は色んな大人達に囲まれて注意を受けたのは言うまでもない。
マネージャーや番組プロデューサーなどから散々きついことを言われたような気がするが、聞く耳を持たずに逆ギレをしてそのまま楽屋から飛び出して逃げるように帰宅してしまった。
__レナが帰った後のこと。
「はぁ……どうします?レナさん帰りましたけど…」
「すみませんすみません!すぐ連れ戻しますので…」
「あ~いいよいいよ!新人マネちゃんの責任じゃないし。あれは完全に天狗になってるんだろうね。…よし、ちょいとここらで痛い目…いや、くすぐったい目に遭って反省してもらうかな。マネちゃんもそれでいいよね?」
「ぁっ…えっと…何をするおつもりで……?」
「来週の収録は生放送にして、もう一度レナを出演させる。そして、本番中に本職の"くすぐり拷問師"にガチ拷問してもらうって企画思い付いたんだよね。上もかなりレナちゃんの態度にはキレてたから、多分通るわ。問題は拷問師の方が出演してくれるかだが…まぁ俺が交渉してみよう。マネちゃんはレナがもう一度出てくれるように説得お願いできないかな?」
「は、はい…!分かりました…!」
「よしっ、それじゃあ善は急げだ。早速準備しようか!」
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あの後、タクシーに乗り込んで自宅まで帰る途中のこと。
着信音が鳴り、相手はマネージャーのようだった。
めんどくさいけれど、渋々と電話に出てみる。
「なに?スタジオには戻らないわよ?」
「れ、レナさん!今どちらにいらっしゃいますか?来週の収録の件でお伝えしたいことが__」
「来週?また明日にしてよね。今日はもう帰るから。」
「ぁっ、ま、待って__」
無理やり会話を終わらせて電話を切ってしまった。
私の何が間違ってたと言うの?
事前の打合せでも"そういう発言"を期待してたじゃない。
まだ腹の虫が収まらない。
「ねぇ~運転手さん。最近くすぐり拷問師とか流行ってるらしいけど、それって単なる子供の遊びだよね?」
「は……え…?子供の遊び…あははっ…ご冗談の上手な方ですね…」
適当に運転手に話しかけてみたものの、何だか投げやりなつまらない返事だ。もしかしてコミュ障?タクシー運転手向いてないんじゃない?という言葉が口から出そうになったけれど、我慢してぼんやりと夜の街並みに目を向けていた。
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この前の収録がテレビで流れるやいなや、私の過激な発言や生意気な態度がSNSで一気に話題となった。
話題といっても好意的なものではなく、「くすぐりを舐めすぎだ」とか「今すぐ謝罪しろ」といったクレームがテレビ局や事務所にまで殺到していた。
当然うちの新人マネージャーもその対応に追われている。ふふっ、何だかいい気味ね。
しかし、私は1週間程自宅で謹慎処分とのこと。
まぁ最近は毎日のように朝早くから深夜過ぎまで働き詰めだったから少し休めるいい機会かもしれない。
何気なくテレビをつけてお昼のニュース番組を見てみると、私の収録での発言を切り抜かれていた。
"いや~この発言は不味いですよ。女性とはいえタレントで知名度もありますから下手をすれば国家反逆罪に問われる可能性があり__"
私はテレビを消した。何が国家反逆罪だ。馬鹿らしい。
私は事実を言ったまで。くすぐりなんてただの子供のお遊びだ。あんなものを大の大人が揃いも揃って真面目な顔をして何を言っているのだろう。気持ち悪い。
ピンポーン、ピンポーーン…
家のチャイムが鳴った。誰か来た?
モニターを見るとマネージャーの姿が見えた。
オートロックを解除して、玄関の鍵を開ける。
「…何の用?」
「レナさん。大事な話がありますので中に入れてください。」
「まぁいいけど…」
何か切羽詰まった様子のマネージャーに気圧されリビングに案内する。
「お茶でいいよね?」
「はい、お気遣いありがとうございます。」
…いつもなら遠慮すると思ったのに。
随分と偉くなったみたいね。
コップに冷たい麦茶を注いでテーブルに置く。
「それで話ってなに?」
「……では、単刀直入にお伝えします。レナさんはこのままだと逮捕される可能性があります。」
「なっ!?はっ??逮捕…?意味分かんないんだけど。冗談なら笑えないし、もしかして私をからかってる?」
「いいえ、冗談ではありません。レナさんはこの数日、SNSやニュースを全く見てないんですか?相当大きな問題になってるんですよ?」
「まぁ多少は知ってるけど…それにしても何で私が逮捕される話になってるのよ!」
マネージャーは真剣な表情で私の目を見つめて話を続ける。それに対して、私の方は背中に冷や汗が流れ、微かに身体が震えている。無意識のうちに怯えているのだった。
「レナさんが収録中に言っていた"くすぐり"や"くすぐり拷問師"を馬鹿にした発言がよくありませんでした。今の社会情勢では、"女性が男性をくすぐりで支配をする"政府が実権を握っています。それに対して反発や疑問を呈する者は国家反逆罪の疑いをかけられて次々逮捕されています。レナさんも、このままでは逮捕されて"くすぐり拷問師"による拷問を受けることになる可能性があります。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!さっきから可能性の話をしてるのよね?まぁ私が逮捕される可能性があるとして、反対に逮捕されない可能性もあるってことよね?そうよね??」
「…はい。その通りです。」
よかった…確実に逮捕されると決まった訳では無いようだ。しかし、マネージャーの顔は浮かない様子だ。
一旦お茶に手を伸ばし、一気に飲み干している姿を私は黙って見つめていた。
「明日の夜、バラエティー番組の生放送を行う予定が決まりました。そこで、レナさんには本職のくすぐり拷問師の方による実演を受けてもらいます。もし、レナさんが出演を断った場合は本日すぐにでも逮捕するとのことです。ハッキリ言いますが、レナさんに拒否権はありません。番組に出演してもらえますよね?」
「……え…?つまり…私が明日、そのくすぐり拷問師とやらに…ん?実演…?もしかして私が本番中にくすぐられるってこと?」
パニックになっている頭を必死に回転させながら話を整理する。私が明日の放送でくすぐられるだけで、とりあえず逮捕されることは無いのだと。
「分かった。明日の放送に出演する。これでいいんでしょ?」
「はい…確かに、出演の意志を承りました。今の会話は録音していましたので、後になって取り止めることはできませんからね。…それでは私は失礼します。今日は明日に備えてしっかり休んでおくことをおすすめいたします。」
マネージャーはそう言い残して部屋を後にした。
誰も居ない部屋の中でさっきの会話を反芻する。
「明日…私がくすぐられる…てか、くすぐり拷問師ってなに?本当に実在したんだ……」
誰かにくすぐられるなんて、それこそ私が収録で言ったように子供の頃に遊びの中でしか経験したことがなかった。
大人になった今、テレビの生放送という場でくすぐられる姿を見せるのは少し気恥ずかしいが…出演しないと逮捕されるのであれば仕方がない。
今はSNSを見る気もテレビを見る気力も起きてこない。
全てが嫌になりかけている、
誰の声も聞きたくない見たくない。
今日はマネージャーの言う通り、ゆっくりとしていよう。
私は寝室へと向かい、ベッドの上で毛布を頭まで被って昼寝をすることにした。
続きのお話

結局昨日は一日中ベッドの中でゴロゴロと過ごしていることしかできなかった。 番組中に私がくすぐられている姿を想像すると、何だか急にとてつもなく恥ずかしい気持ちになってソワソワとしてしまう。 朝起きて冷蔵庫の中を開ける。 中にはペットボトルの水と缶ビールが数本だけ。 何か食べるものが欲しい。 そう言えば昨...