旅館は比較的大きく、綺麗な雰囲気のところだった。受付を済ませてお部屋の鍵を貰う。
「何か旅館の匂いがしますね♪」
「お腹空いてきたね」
「どんな部屋なのかな~?」
ワクワクとしながら部屋に入ってみる。
「おおっ~綺麗な景色見えるじゃん!」
先ほど遊んでいた海を一望できるような窓からの景色。畳張りの部屋も6人にしては少し広く、ゆったり余裕を持って布団を敷くことができそう。
「19時から夕食だから、それまでに温泉入りたい人は行ってきていいよ~♪」
美保さんは早速広縁にある椅子に腰をかけてのんびりとしている様子。
「ねぇレミさん!温泉行きましょうよ♪」
「いいよ~!行こう行こう!アケミとカナちゃんは~?」
「うちも温泉行きたい!」
「じゃあ私も一緒に行こうかしら♪」
鞄から着替えの下着やメイク落としを取り出して小袋に入れていく。後は部屋に用意されたいた室内着を持っていく。
「それじゃあ温泉行ってきます!」
「うん、ゆっくり癒されてきてね♪」
美紗さんと美保さんを部屋に残し、4人で温泉のある1階へと向かう。
「温泉浸かるの久々で楽しみです♪」
「私も~~。というか遊び疲れたから温泉入ったまま寝ちゃうかも」
「その時はこちょこちょで起こしてあげますね」
「葵ちゃん、レミちゃんといちゃつくのは良いけどマナーは守ろうね?」
「じょ、冗談ですよカナさん……」
更衣室へ入ると、自販機に昔ながらの瓶に入った牛乳やコーヒー牛乳が売られているのを見つけた。
まだ夕方のためか、他にお客さんは居なさそう。
服を脱いでお風呂場へ入っていく。
「露天風呂あるんだ!後で行ってみようよ!」
「うちは後でサウナ行きたいかも!」
ひとまず先に身体を洗い、海で遊んだ汚れを落とす。ボディーソープをふわふわのスポンジに染み込ませていると…
「葵ちゃん、背中洗ってあげる♪」
「んひゃっ!?ちょ、くすぐったいですレミさん!」
「じゃあ私は足の裏洗ってあげよっか?」
「い、いいです遠慮しときます自分で洗えますから~!」
「じゃあうちは……いや、何も無いです…」
レミさんやカナさんに後ろからこちょこちょ身体を洗わされそうになる。アケミさんは今日イタズラをして散々お仕置きされた一件があったせいか、だいぶ大人しく控えめになっている気がする。
「とりあえずレミさんには後で絶対100倍返しにしてあへあへさせちゃいますからね!」
「きゃ~♪葵ちゃんのえっち~!へんたい~!」
「私には仕返ししないのかなぁ?」
「か、カナさんは1000倍返しにされそうで怖いです…」
「大丈夫大丈夫♪気絶しそうになったらやめてあげるから♪」
「だ、大丈夫じゃないやつですぅ~…」
さっぱりと洗い終わったところで、アケミさんはサウナへ。カナさんは内風呂へ。私とレミさんは露天風呂へと向かう。
「うわ~♪夕陽綺麗ですね!」
「海も見える!癒される~!」
露天風呂のお湯は熱すぎず、丁度良い湯加減。
美肌に効果があるお湯のようで、レミさんはパシャパシャと顔にかけていた。
「んぁ~生き返る~~」
「気持ちいいですね~レミさん♪」
今日一日の疲れがみるみる癒されていくような感覚に、しばらく言葉を交わさずに身を委ねていた。
「お~露天風呂綺麗だね~!」
「風が冷たくて気持ちいい!」
気付けばカナさんとアケミさんも露天風呂へ来ていた。
「あ~気持ちいい~♪やっぱ露天風呂最高…♪」
「露天風呂しか勝たん…」
赤い夕陽が段々と海の地平線に沈んでいく。
雄大な自然の光景に、しばらくの間4人とも静かに露天風呂を楽しんでいた。
**
「美保さん美紗さんただいま~♪」
「ふふっ、おかえり~♪温泉どうだった?」
「めちゃくちゃ気持ちよかったです!特に露天風呂最高でした♪」
お部屋に戻ると、もうそろそろ夕食の時間に近付いていた。どうやら宴会場での夕食らしい。
部屋を後にして向かってみると、畳の大広間のような場所だった。その長いテーブルがいくつもあり、その一角に私達の席があった。
「何だか合宿みたいな雰囲気ですね♪」
「そう言えば葵ちゃん部活とかやってたの?」
「中高でソフトテニスしてました!」
美紗さん、レミさん、私。
向かいに美保さん、カナさん、アケミさんが座る。
席に座ると、配膳が始まり小鉢や焼魚、お刺身、一人用のすき焼きセット、ご飯やおひつ、お味噌汁が運ばれてくる。
美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。
一通り揃ったところで…
「じゃあ皆手を合わせて♪いただきます♪」
「いただきまーす♪」
何だか学校の先生みたいな美保さん。
いただきますをすると、レミさんは勢いよくご飯を食べ進める。
「おいひい~♪」
「レミ~?そんなに慌てなくてもご飯は逃げないよ」
美紗さんに優しく叱られている姿を見て、クスクスと笑いが起こる。
新鮮なお魚や炊きたてのご飯が美味しいのはもちろんのこと、皆と一緒に食べるのはさらに美味しいと感じた。
ふと目の前にいるアケミさんを見ると、焼き魚を綺麗にお箸で食べている姿に思わずギャップを感じてしまった。
「アケミさん…見かけによらず食べ方が綺麗ですね」
「ねぇ~葵ちゃんうちのこと馬鹿にしてるの~?なーんてね。よく言われる♪結構親の躾が厳しくてさ~、昔っから鍛えられてたおかげかな」
「もしかして、その反動でギャルっぽい雰囲気になったんですか?」
「ま、そんなところかな~?てかギャルっぽいとか言った??やっぱ後で葵ちゃんこちょこちょの刑にしてあげ…ひゃんっ!?」
「アケミちゃん~?まだお仕置きが足りなかったのかな?」
どうやら正座していた足の裏をカナさんにくすぐられたようで、ゾクゾクブルブルとした表情になるアケミさん。
「か、カナさんゆるしてぇぇ…」
「ん~…どうしよっかなぁ~?っひゃっ!?」
「カナちゃんもアケミちゃんも、食事中だから変なことしないでね~?」
カナさんは美保さんに首の後ろをくすぐられたようで、のけ反った姿勢で震えていた。
何だか目に見える力関係の図を見てしまった気分…
気を取り直すように、レミさんの方を見てみると…
「ご飯お代わり!ん?葵ちゃんも入れてあげよっか?」
「え!?あんだけ沢山あったのにもう空になりそう…」
気付けばおひつにあったご飯も、残り1,2杯くらいに減っていた。いつの間に……
「あ、レミさんほっぺたにご飯粒付いてますよ」
「ん~~?葵ひゃん取って~」
「仕方ないですね~」
レミさんの左頬に付いているご飯粒を指で掴み、どうしようか一瞬迷ったけれど捨てるのは勿体ない気がしてそのまま私の口に入れてしまった。
…ところを美紗さんやカナさん、アケミさんに見られてしまった。
「相変わらず葵ちゃんは大胆だね~♪」
「えっ!?そ、そんなことないですよ……?」
「葵ちゃん、部屋に戻ったら私がマッサージしたげるから、覚悟してね?」
「み、美紗さん顔が怖いです……」
視線や威圧感を感じて恐怖する中、レミさんはもぐもぐと美味しそうに食事を続けていたのだった。
**
食事を終えて部屋に戻ると、既に布団が敷かれていた。左側に3つ。右側に3つ。
「さて、皆どの布団で寝たい?私はどこでも大丈夫だけど…」
美保さんがちらりと私やレミさん、美紗さんに視線を向ける。
「じゃあ私端っこが…」
「レミちゃんは真ん中にしとこうか♪」
「ええっ~!?選択権無し!? 」
話し合いの結果、窓に近いところの布団を私が。美紗さんは入口に近い布団で寝ることに。
「なんか美保さんとカナさんに囲まれて寝るのプレッシャーが…」
「あらあら、アケミちゃん私とカナちゃんに挟まれて寝るの嫌なの?何か悪いことした心当たりでも?」
「な、無いです!!無いから指ワキワキやめてぇぇっ!ちょ、誰か助けっぁぁぁぁっあはっ!?ぁぁぁぁっんぐっ!?んんっっー!!!」
「こちょこちょこちょこちょ~♪」
「叫んだら迷惑になるから、手で口塞いどいてあげるね」
アケミさんはうつ伏せに組伏せられ、足首の上に座ったカナさんに足裏を死ぬほどこちょこちょされている。
美保さんは背中の上で寝転んで密着するようにして押さえつけ、片手で口を塞ぎながらもう片方の手で脇腹や腋の下をくすぐっていた。
「今のうちに私はゴロゴロしてやる~♪」
レミさんは我関せずといったような態度で、布団の上にダイブしてゴロゴロ足をパタパタさせてくつろぎ始める。
「あ、そうだ。葵ちゃんにマッサージしてあげる約束だったね~?うつ伏せに寝てくれる?」
「はえっ!?い、いやっ、逆に私が美紗さんをマッサージしてあげますよ~♪」
「先輩に逆らうの?」
「ぅっ……れ、レミさん~助けてくださぃぃ~」
怖くなって思わずうつ伏せになっているレミさんに抱きつくようにして隠れようとする。
「美紗~、葵ちゃん怖がってるよ?」
「葵ちゃん?怖くないよね??私やさしいよね?」
「こ、怖いですぅ……」
「そう…じゃあ怖くないって言うまでこちょこちょしてあげるね♪」
美紗さんに馬乗りされ、くすぐられると思いぎゅっと目を閉じていると……
「ダメだよ美紗?お仕置きね」
「ひゃっ!?んぁぁぁっれ、レミぃぃっぁぁぁぁっひゃめっぁぁぁぁっくひゅぐっだぃぃぃっあはっぁぁぁぁぁっあはははははははははは!!!!」
いつの間にか背後にまわっていたレミさんが美紗さんをうつ伏せにして腰の辺りに馬乗りして脇腹をこちょこちょとくすぐっていた。
両手をバタバタさせて抵抗していたので…
「美紗さん暴れちゃ駄目ですよ~♪大人しくしましょうね?」
「ぁぁぁっあ、葵ちゃんだめぇぇっぁぁぁっは、離してぇぇっぁぁぁぁっわ、腋ひゃめでぇぇぇっぁぁぁぁっあはははははははははははは!!むりむりぃぃぃっしぬぅぅっ!!」
美紗さんの手首を掴んで力ずくで万歳させ、腕を太ももとふくらはぎの裏で挟み込むようにして人力拘束。
無防備になった腋の下をレミさんがすかさず執拗にこちょこちょとくすぐり始める。
笑い声が気になるので、後頭部を押さえつけながら首の後ろをこちょこちょとくすぐってみる。
モゴモゴと布団に笑い声が吸収されるようで、どれだけくすぐったくても近所迷惑になることはない。
そのまま5分くらいくすぐっていると抵抗する力が弱くなってきたので解放してみる。
「っぷはぁっ…はぁっ…げほっ、ごほっ……はぁっ…死ぬかと思った……」
「ご、ごめんなさい美紗さん!大丈夫ですか??」
顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになって、すっかり息絶え絶えになっている美紗さん。流石に先輩に対してすこしやり過ぎてしまっただろうか……
向こうの布団でも、同様にアケミさんがぐったり息絶え絶えになっていた。
「ふ~、お仕置き完了ってところかな♪」
「はひっ…ひっ…ごめんなひゃぃぃっ……」
大の大人が、ちょっとこちょこちょされただけで情けなくごめんなさいして反省してしまう光景はやっぱり少し楽しいと思ってしまう。
「よしよし、美紗も反省した?」
「れ、レミぃぃ…もっとよしよしして…」
「ん、いいよ~よしよし♪」
レミさんに頭を撫でられている美紗さんを見ていると、やっぱり胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚になってしまう。
目を反らして窓を見る。
もうすっかり夏の太陽は沈んで暗い景色が広がっていた。
**
その後は比較的まったりと休憩して、レミさんやアケミさんと1階にある売店へ行ってみることに。
お土産売り場は閉まっていたけれど、自販機にアイスが売られているのを見つけた。
「やっぱ夏と言えばアイスだよね」
「美味しいですね~♪」
小さな休憩室にあるソファーに座りながらアイスを食べる。そう言えば高校生の頃、夏合宿で旅館に泊まった時こっそり夜中部屋を抜け出してコンビニへ行き、先生にバレて徹底的にこちょこちょでお仕置きされたことを思い出した。
「ん?葵ちゃんどうしたの寒いの?」
「だ、大丈夫です!そろそろ部屋戻りましょうか♪」
部屋に戻ると、もう就寝のような雰囲気。
「皆もう寝ちゃうの~?ま、私もちょっと眠いけどね」
「今日はよく遊んだし、ぐっすり眠れそう~」
レミさんもアケミさんも眠たそう声。
歯磨き等寝る準備を済ませ、布団の中に入る。
「明日は7:30から朝食だから、皆早く寝てね♪じゃあ電気消すね~。おやすみなさい♪」
美保さんに電気を消され、本格的に寝る雰囲気に。
布団に入ってから5分も経たないうちに、レミさんの方からすぅすぅと可愛い寝息が聞こえてきた。
「すぅ…すぅ…んんっ……」
私の方へと身体を向け、スヤスヤと眠っている。
襲いたくなるような気持ちをぐっと堪え、私も目を閉じて眠ることに集中する。
遊び疲れていたためか、いつの間にか私も夢の中へと寝落ちしてしまっていた。
どれくらい眠っていたのか分からないけれど、ガサガサと誰かに抱き付かれるような感覚がして目を覚ますと…
「んんっ……すぅ…すぅ……」
(れ、レミさん…!?)
いつの間にかレミさんが私の布団の中に入り込んできて、抱き付かれるような体勢になっていた。
(どうしよう…この状況をもし美紗さんに見られたらくすぐり殺されそう……)
レミさんを起こさないように移動させようと試みるも、しっかりと抱きつかれて離してくれる様子はない。
いっそのこと諦めようかな…
多分そのうちレミさんも気付いて離れるだろう。
スリルのある状況にゾクゾクとしながら、レミさんの背中に手をまわして私も眠ることにした。
**
翌朝のこと。
「あらあら、やっぱりラブラブだったのね~♪」
「葵っち、意外と大胆なんだね…」
「美紗~、気持ちは分かるけど落ち着いて落ち着いて!」
「か、カナ!離してぇぇっ!絶対くすぐり倒してやるぅぅ!」
暴れる美紗さんを羽交い締めにして押さえつけるカナさん。後から聞いた話だと、私はレミさんの胸に顔を埋めるような体勢で脚を絡ませながら眠っていたそう。
朝食を食べている時にその話を聞かされ、私は顔真っ赤。穴があったら入りたい気分…。
一方レミさんはというと、「そうなんだ~、よく寝てたから何も知らなかった~」というような態度でパクパクと箸を進めていた。
着替えをして準備をしていると、あっという間にチェックアウトの時間に。
レンタカーに乗る時、美紗さんが助手席に。
2列目にカナさん、レミさん、私。その後ろにアケミさんが乗り込むことに。
少しだけピリピリとした空気を感じつつ、美保さんやカナさんが場を盛り上げてくれて何とか楽しい雰囲気になっていたように思う。
車は渋滞に引っ掛かることもなく、あっという間に見慣れた町へと帰ってきた。
「葵ちゃんの家、もうすぐ着くよ♪」
「ありがとうございます美保さん!た、楽しかったです!」
アパートの前で車が止まり、少し寂しい気持ち。
アケミさんやレミさん、カナさんが手を振ってくれているのが見えたけれど、助手席にいる美紗さんとは最後まで視線が合うことはなかった。
車が見えなくなるまで手を振り続ける。
「はぁっ……美紗さんに謝った方がいいよね……」
連休明けの仕事に少しだけ憂鬱さを感じながら、自分の部屋へと帰るのだった__。
通し読み(約28,500文字)
