ホテルを出てからカフェで一休みをしていた。
アイスコーヒーをストローで啜りながら、スマホで"渚"ちゃんについて調べてみた。
「ふ~ん…今日会った時、盗撮犯捕まえてたんだ。」
そう言えば婦警に連行されていく男の姿もあったかな。
それにしても…
「私のことを化け物を見るかのような目で見てきたのは許せないなぁ。」
数か月前に行われた"くすぐり執行官"の国家試験での光景を思い出す。試験の内容は面接を担当する"執行官"によって違うようだけれど、あの時私は渚ちゃんに…
「30分間こちょこちょさせてよっ♪その間一度もギブアップしなかったら合格。次に進んでいいよ。どう?簡単でしょう?」
「…ぇ、は、はいっ!!頑張ります!」
全裸になった渚ちゃんを磔に拘束して、30分間ずーーーっとこちょこちょして何度も気絶させてイカせて失禁させて。
全身どろどろぐちゃぐちゃになってもやめない。
5分も耐えきれずにギブアップしちゃったから、ついついがっかりとした物足りない気持ちになって"半壊れ"くらいに抑えながら時間一杯までくすぐってあげたんだっけ。
あの後何をしているのかと思えば、今では"私人逮捕系"YouTuberね…。彼女達にそんな権限を与えた覚えはないし、何様のつもりなのかしら?
どうやらまだ、渚ちゃんにはお仕置きが足りないのかな。
そんなことを考えていると、さっき男の子をくすぐったからこんどは女の子をくすぐりたくなってきた。
丁度タイミング良く、隣に可愛らしい服を着た女子大生くらいの女の子が座ってきた。
「そのお洋服、とっても可愛いですね♪」
「えっ!?あ、ありがとうございます!!」
早速声をかけてみると、多少驚いていたけれど笑顔でいい反応。少し雑談をして…
「ねぇ、もう少し静かな場所でお話しに行きませんか♪」
「ぜひぜひ!私もお姉さんともっとお話していです!」
口角が上がる。この子をどうやってくすぐってあげようか、考えるだけでゾクゾクと興奮して濡れてしまうのだった__
**
月曜日
あっという間に土日が過ぎてしまった。
また今日からお仕事が始まる。
とはいえ、別に仕事は嫌いではなく私にとって天職だ。
私を拾ってくれた"総理"のために、気合いを入れて仕事場へと向かう。
私たち"くすぐり執行官"にも、"拷問師"達程細かくないにせよ一応階級が存在している。
それほど数が多くない執行官の中で、序列が高いトップ5の人達は"特級"と呼ばれ、"総理"の側近としての役割や、この国で最も重い刑罰である"くすぐり処刑"を取り仕切ることができる。
霞ヶ関にある"くすぐり執行官"本部までは部下が運転する車で向かう。
「おはよう♪今日もよろしくね」
「はい、美佐々木様…」
今日の予定を確認すると、朝一から定例の会議。
早く終わるといいなぁ。
指をワキワキと動かして準備運動。
土曜日にカフェで出会ってホテルへと"お持ち帰り"した女の子を思い出す。
優しく身体を撫でてよわよわとろとろに溶かした後、全身をくまなくくすぐりながら快楽責め。
「ぁぁぁぁっ!!イグぅぅぅぅぅっ!!!!」って叫びながら白眼剥いて大量の愛液を吹き出して。
あへあへピクピクと身体を震わせて気絶するまで可愛がってあげた。
"くすぐり執行官"のトップともなると、そう頻繁に"くすぐり処刑"があるわけではないし、どうしても会議や上との調整、部下のマネジメントや指導がメインの仕事になる。
「はぁ…本当はもっと人をくすぐりたいのになぁ…。ねぇ~結香~、時間あったらこちょこちょさせてよぉ~」
「か、勘弁してくださぃぃ…」
ついつい運転をしてくれている部下の女の子にダル絡み。
私に一度でもくすぐられた人間は皆こういう怯えたような反応をしてくる。
ぼんやりとした曇り空を眺めながら気を整え直すことにした。
**
「おはよ~♪おはようおはよう~♪…って、まだ雫しかいないじゃん~」
「おはよう空音~相変わらず元気だねぇ~」
会議室に行くと、くすぐり執行官の同期で比較的仲の良い雨宮雫が1人いた。眠たそうな顔をして、コーヒー牛乳とメロンパンの朝食を食べている姿が可愛らしい。
私も人のことは言えないけれど、体育会系で規律の強い"拷問師"達とは違って、くすぐり執行官の女性はどこか人間的に変わった人が多い。とはいえ、"明確な序列"は存在しており上下関係がある意味ハッキリとしていることには変わらない。
"くすぐりの技術が飛び抜けていれば人間性は問わない"という総理のお考えに基づくものだろう。とはいえ、問題を起こす恐れがある場合は容赦なく切り捨てられる。
数年前に地方にある刑務所で好き勝手していた"双子のくすぐり執行官"を処刑したことを思い出す。
「どうしたの~ぼーっとして?また男遊びのこと考えてたの?」
「ねぇ~人聞きの悪いこと言わないでよね雫!…知り合いにくすぐらせてくれそうな人いない?」
「やっぱ考えてんじゃん…。あんまりやり過ぎるとリーダーに怒られるよ?」
「分かってるけどさぁ~ひゃぅっ!?」
『何を分かっているって?』
小指と薬指を肩に。残りの指を左右から首筋に添えられてそっと撫でられる。たったそれだけなのに、格の違いを思い知らされて冷や汗が止まらない。
「ぁっ…灯凛(あかり)様…ひぃぃっひゃめっぁぁっ!!」
「ねぇ。一昨日また繁華街で男をくすぐったでしょう?"くすぐり執行官"の品格を損なう行動は慎めと、私言わなかったっけ?」
「ごめんなさぃごめんさぃぃやめて…許して…!!」
耳元で囁かれながら、まるで鋭利なナイフを喉元に突きつけるかのようにして爪先で首筋を優しく撫でられる。
トップに立つ5人の"くすぐり執行官"の中で、No.2であり『最恐』と称されるくすぐりの腕前を持つ"二条院灯凛"には、流石の私でも逆らうことはできない。
渚ちゃんが私を見て死ぬほど怯えていた気持ちが少しだけ分かった気がした。
「あかり~、そこまでにしておけよ~。」
「椿さん、私は空音さんの素行を注意しているだけですよ?なんなら、この場で懲罰を下して__」
「灯凛。私が言ったこと、聞こえなかったの?」
会議室の空気が氷点下になる。
リーダーである、椿さんの冷たく威圧感のある声。
「ごめんなさ~い少し遅れました~!ってあれ?何この空気?お通夜??」
入口から明るい調子の声。
No.3である玲光(れみ)さんが会議室に入り、全員揃う。
「ちっ…救われたね。」
ようやく灯凛さんの手が私の首筋から離れ、ふぅ…と息を吐き出すことができた。
この空間の中では、私が一番下の序列だ。
月曜日の朝一から、かなりの神経を磨り減らす。
「定刻だ。それじゃあ定例会を始めようか。」
時計の針が9時を指して会議が始まる。
基本的には皆各自で別々の案件を抱えているため、それらの進捗や計画スケジュールを発表していく。
「…ありがとう。では最後に空音。」
「はい。ご報告ですが、先週の定例にも議題に上がっていた"片桐渚"と一昨日の土曜日新宿駅地下にて接触しました。"私人逮捕系"YouTuberとして活動しているようで、カメラマンを除き3人が現場にいて、警察に連行されていく男の姿も目撃しています。…椿さん、いかがいたしましょうか?」
「彼女達の活動については、警視庁が目を光らせているそうです。もし事が大きくなれば…我々"執行官"の威信にかけて、彼女達に手を下さねばなりませんね。そうなれば空音、雫、玲光。あなたたち3人に"処刑"を任せます。」
「はい、お任せください!」
珍しく、執行官3人がチームで動く。
思いの外椿さんも重要視している案件のようだ。
その後も会議は滞りなく進んでいき、10時30頃解散となった。椿さんや灯凛さんは早々に退出をしていく。
会議室には3人が残って少しだけ作戦会議。
「あ~やっと終わった~…てかお腹すいたから11時から食堂行こうよ!」
「コロッケパン食べたい」
「そ、その前に案件どうしましょうか?彼女達は3人組なので、1人ずつ処刑の担当を決めますか?」
お昼に何を食べるかの話を始める玲光さんと雫ちゃんを何とか議題に引き摺りだしていく。
「私は別に誰でもいいかな~♪てか、誰と誰と誰がいるの?」
私は3人が写った写真を玲光さんに見せながら説明をする。
「中心にいるのがYouTuberのリーダーである渚。動画では"ナギ"と呼ばれています。この子が"ヒナノ"、こちらが"ミユ"という名前です。渚は、以前行われたくすぐり執行官の試験で私が面接を担当していました。よければ彼女は私が…」
「ん、いいよ~。じゃあ私ヒナノちゃん処刑するね」
「じゃあ私は…ミユちゃんくすぐる~~~」
あっさりと話が決まっていく。
案件の話は終わり、少し早めのランチを食べに行くことに。
公務員ではあるが、くすぐり執行官は裁量労働制に近い働き方をしている。地下にある食堂に行くと、私の部下である結香がご飯を食べていた。
「お疲れ様です!」
「お疲れ~♪座ってて大丈夫よ」
比較的自由な空気ではあるけれど、やっぱり上下関係は少し厳しいのかもしれない。
「購買行ってくるよ~~~」
雫ちゃんはピョンピョンと跳ねるようにして、パンが売られている購買へと向かっていった。近くにあるパン屋から仕入れているようで、品揃えや味も良い。
「じゃあ私はカレーとラーメンセットにしよ~♪空音ちゃんは何食べるの~?」
玲光さんはよく食べる。それなのに、身長も高くて割とスラッとしているのが羨ましく感じる。
「私は日替わりと…サラダバーにしときます」
「え~足りる~??あ、でも日替わりも美味しそう…」
雫ちゃんも玲光さんも、いつも割と栄養が偏った食事をしているのに、"処刑"の時には何時間も何十時間もぶっ通しで人をくすぐり続けられる体力がある。
だけど、昼間からそんなに食べて眠くならないのだろうかといつも不思議に思ってしまう。
「お~い席取っとくね~~」
片手に大きめなビニール袋を持った雫ちゃんが奥にあるいつもの席へと座りに行く。
今日の日替わりは油淋鶏の定食だ。
サラダを多めに取ってお会計。
「日替わり定食と麻婆拉麺にしちゃった~♪」
「玲光はよく食べるね~~。私はコロッケパンを買い占めちゃった」
「いや…雫ちゃんこそパンばっかで飽きないの??」
席に着くと、雫ちゃんはコロッケパン8個とフルーツ牛乳を机に置いて待機していた。
隣でじーっと雫ちゃんを見ていると…
「……空音なあに?コロッケパンほしいの??」
「あ、いや、ごめんごめん♪頂きましょうか♪」
「食べよ食べよ~!いただきま~す」
玲光さんの「いただきます」の声で、私も箸を取り食事を始める。ご飯に中華スープ、小鉢2つとメインの油淋鶏。デザートの杏仁豆腐まで付いてワンコイン以内に収まる。
下手に自炊するよりかは安く付くので、夕食も食堂で済ます人も多い。
「あむっ、んん~♪やっぱ何食べても美味しいよね~♪」
玲光さんも美味しそうに頬張って幸せそうな顔をしている。朝少し不機嫌な時も多くやや怖いと感じる日もあるけれど、大体ご飯を食べている時や午後には落ち着いて明るく優しい先輩になる。
雫ちゃんは……
「…もぐもぐ…!!美味しい。このコロッケの絶妙なホクホク感と塩胡椒の効いた味わい。コッペパンのもちもちふわふわ優しい甘さとマッチして北の大地を感じる…!!」
よっぽどコロッケパンが美味しいのか、握り拳を震わせながら食レポをして幸せような横顔を見せている。
「へ~そんな美味しいんだ?私の油淋鶏1個とコロッケパン1つ交換してよ!」
「…油淋鶏2個ならいいよ」
あれ、いいんだ…。
玲光さんも少し悩んだ末、「よしっ、交渉成立!」と言って油淋鶏を箸で掴み、雫ちゃんの口元に腕を伸ばして「はい、あ~ん♪」と食べさせていた。
「ふふっ♪二人とも可愛いです♪」
和やかな光景に、思わず私も笑みを漏らしていた。
「…空音も食べる?半分こしてあげようか?」
「ほんと!?じゃあ私は…ポテトサラダあげるね♪」
私もお箸で掴み、雫ちゃんに「あ~ん♪」と食べさせてあげた。
「…もぐもぐ…うん、こっちのジャガイモも美味♪」
__雨宮雫。18歳という異例の若さで"くすぐり執行官"のトップ5に入る、マイペースで少女のような女の子。
世間では『天才』と評されている彼女の普段の姿。
美味しそうにパンを口に運ぶ可愛い顔を見ることができるのは、ここ最近感じる"執行官"としての特権であり、職場での癒しだと感じているのであった___
~続く