2月14日のバレンタイン。
昨日の夜遅くまでお姉ちゃんもキッチンで何やらお菓子を作っていたのを見た。
誰か好きな人でもできたのかな?
近くで見物しようとするも、「あんたは早く寝な」と真剣な表情で叱られてしまった…。
朝起きて顔を洗い、リビングで朝ごはんを食べる。
夜遅くまで頑張っていたのか、珍しく眠たそうなお姉ちゃん。
ランドセルを背負い、小学校へと通学する時間。
玄関の前で幼馴染みが待っていた。
「あっ、おはよ~♪ほら、早く行こっ!!」
「おはよう~わ、分かったよ行こ!」
今日はよく晴れた快晴。
2月の半ばともなると、冬の寒さが徐々に和らいでいき暖かな春の気配を感じる。
いつもの通学路を歩いていると、
「ねぇ、少し寄り道しよっか♪」と手を引っ張られて人通りの少ない裏路地に入る。
「ちょっ、どこ行くの!?」
グイグイと引っ張られながら後をついていく。
辺りをキョロキョロと確認する幼馴染み。
そして、手提げ鞄から綺麗に包まれたリボン付の袋を取り出している。
「はいっ、これあげる!バレンタインのお菓子だよ」
「えっ!?ありがとう…!」
まさか朝の通学中に手渡されるとは思っておらず、少しだけドキドキとしてしまう。
「ほら、遅刻しちゃうから早くそれ片付けて学校行こっ♪」
幼馴染みも心なしか恥ずかしそうな顔をして急かすような態度。歩く歩幅も、いつもより駆け足で小学校へと向かっていった。
**
4年1組の教室に入ると、何だかいつもより全体的にそわそわとしたような甘い雰囲気が漂っていた。
ドキドキとした様子で机の中に何か入っていないか手を入れて確認している男子。
一人一人に義理チョコを配り歩いている最中の女子。
窓際にある自分の席にランドセルを下ろして、ふと自分も机の中を確認してみると…
「ん…?何か入って……」
何やら箱のような物が指先に触れる。
机から取り出してみると、ハート型の箱に手紙まで付いていた。
「…ねぇ、それなあに?」
「んあっ!?な、何か机の中に入ってた…あははっ…」
いつの間にか幼馴染みが後ろに立って耳元で囁くように尋問される。殺気を感じる…なるべく刺激しないように、平静に返事をしたつもりだったけれど、どうやら許してはくれなそうだ…。
「ふ~ん…誰から?手紙開けてみなよ?」
「いや…それはちょっと…恥ずかしいというか…」
「いいから貸して。」
箱ごと幼馴染みに取り上げられ、手紙を開封される。
「…4年2組?隣のクラス…?ねぇ、あかりちゃんって誰?『放課後音楽室に来てください♡』って書いてるけど、知り合い?」
「いや…知らない…ほ、本当だって!!」
手紙にあった名前には見覚えも心当たりも無かった。
でも、わざわざ隣のクラスから面識の無い人にプレゼントを渡すとは考えにくい…。
放課後、幼馴染みの付き添いで音楽室へ行く流れになった。
**
キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…
あれから特に何事も無く時間が過ぎていき、あっという間に帰りの会が終わって放課後。
机に入っていた例のプレゼントを持って、幼馴染みと一緒に音楽室の方へと歩いていく。
「本当に面識が無いとしたら、この女何を考えてるのかしら…」
ぶつぶつと呟くように、真剣な横顔の幼馴染み。
何だか修羅場に巻き込まれる予感がして、足取りは重い。
放課後にもなると人の気配も少ない離れにある校舎。
3階の奥にある音楽室。
普段は施錠されており、授業以外では入れない筈だけど…本当に誰か待っているのだろうか。
「付いた!ねぇ、あんたから入って」
「分かった…」
恐る恐る音楽室の引き扉に手をかける。
スルスルと横に動き、鍵はかかっていない。
「ちゃんと来てくれたんだ~♪…あれ?お連れさんもいる?」
ピアノの椅子に腰かけている女子生徒がいる。
ショートカットの黒髪で、身長も高い。
バスケやバレー部に居そうな、明るくスポーツ万能そうな印象を受ける。
「あの…あか…」
「ねぇ、あなたが"あかり"さん?私の幼馴染みの机にプレゼント入れて音楽室に呼び出すなんて、一体なんのつもり?」
自分よりも先に幼馴染みが詰め寄るようにして話を進めていく。一方のあかりさんは、それに臆することなく余裕の表情で幼馴染みを見下ろしていた。
「あら、そっか~二人はそういう関係なんだ♪誤解してるところ申し訳ないんだけど、あのプレゼントを橘香織さんに渡して欲しくてそのお願いをしにきたの。」
「…へ?あ、あぁ~!そ、そうなの!?そっかそっか~ごめん私ってば勘違いしてたのかな、あはは…」
急に焦ったようなテンションでしどろもどろになる幼馴染みは、そそくさと僕の背中に隠れてしまった。
「えっと…お姉ちゃんにプレゼントって…どういうことですか?」
「私、香織さんと同じところで合気道習ってるんだけどね、いつもお世話になってるからその御礼がしたくて…でも、直接渡すのも恥ずかしくて…お願い!私の代わりに渡してくれる?」
「それなら全然…帰ったら渡しときます!」
自分へのプレゼントではなくお姉ちゃんへのプレゼントだったという何だか複雑な気持ち。
幼馴染みの機嫌も治まったようだし、これで一件落着…
「ありがとう~♪助かるよ~♪ねぇ、何か御礼させてよ!あっ、じゃあ御礼にくすぐってあげよっか~?」
「な、なんでそうなるの!?いやいや、御礼なんて大丈夫だから…!!」
目の前から指を見せつけるようにワキワキとさせながら近付いてくるあかりさん。
後退りしようとするも、後ろから幼馴染みに羽交い締めされてしまった。
「そういうことなら私も協力するー!2人でいっぱいこちょこちょしようよ!」
「それいいね~♪ほらほら、観念しなさい!」
2人がかりでゆっくりと仰向けに寝かされて、両腕を万歳させられて幼馴染みに馬乗りされる。
あかりさんは腰の辺りに馬乗りしてしっかりと体重をかけて押さえつけ逃がさないように脚で身体の側面を挟み込む。
「ちょっ、おかしいって!!なんでこうなるのぉぉ!誰かぁぁ助けてよぉぉ!!!」
「ここが音楽室だってこと、忘れちゃった?防音だから外には響かないから安心して♪」
「そうそう、無駄な抵抗しない方が身のためだよ~?」
幼馴染みに顔を覗き込まれ、ゆっくりと指先が身体に近付いていく…
「や、やめろよぉぉや、やめっ!!ひっっぎゃぁぁっんぁぁぁぁぁぁっあはっぁぁぁぁっあははははははははは!!ひぃぃぃっくひゅぐっだぃぃっぁぁぁっっぁぁぁっあはははははははははははははは!!ぁぁぁっむりぃぃっゆるじでぇぇぇっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「ほらほら、こちょこちょこちょ~♪くしゅぐったいでしょ~?私に勘違いさせたお仕置きだからね?」
幼馴染みにニヤニヤと見下ろされながら首筋を10本の指でねちねちとくすぐられる。
首を左右にイヤイヤと振ってみたり首をすぼめたりしても、執拗なまでに指先が這いまわって逃がさない。
ゾクゾクとして力が抜けてしまうようなくすぐったさに、情けなく涎を垂らして笑い悶えてしまう。
「こちょこちょこちょ~♪時々香織さんと組み手する時、いつも勝てずに押さえつけられてくすぐられてるんだよね~。悔しいからその仕返し!ほら、早く降参しなさいっ!」
「ひぃぃっわ、わかったってばぁぁっあっあはははははははははははははははは!!こ、降参するからぁぁぁっやめてやめでぇぇぇっぁぁぁっほんとにくひゅぐっだぃぃぃっぁぁぁぁぁぁぁっあはははははははははははは!!!」
初めて会う隣のクラスのあかりさん。
何だか理不尽な理由でくすぐられている気がするけれど、抗議する余裕も無くあっという間に降参してしまう。
制服の上から腋の下をこちょこちょと素早く責められて、脇腹にも指を這わせて程よい力加減でもみもみとくすぐられる。
一瞬お姉ちゃんの姿が脳裏によぎる。
もしかしたら、あかりさんは普段からお姉ちゃんにくすぐられていると同時に効果的なくすぐり方を習ってるいるのかもしれない…
くすぐりのテクニックはお姉ちゃんには及ばないけれど、同年代の小学生を笑い狂わせるには充分な程の技術を持っていた。
「ねぇ、あかりちゃんと私、どっちの方がくすぐったい?」
「あ、それ私も知りたいな~。もちろん私だよね?違うって言ったらくすぐり地獄に落とすよ?」
少し嫉妬したような幼馴染みから、究極の質問を投げかけられる。正直どっちもくすぐったいし、素直に答えるべきか…
「ぎゃぁぁっど、どっちもぉぉっぁぁぁっ両方くすぐったいからぁぁぁぁっぁぁぁぁっやめてやめてぇぇっ!!!」
「え?なにそれ?ちゃんと答えてくれないの?」
「優柔不断だね~よっぽどお仕置きされたいんだね?」
完璧に誤った解答をしてしまい、さらにくすぐっている指先が加速する。
幼馴染みは耳元で「こちょこちょ~♪」と優しく囁きながら頭を押さえつけて容赦なく首筋をこちょこちょと責め立てる。
あかりさんは服の中に手を入れて、敏感な素肌を直接こちょこちょ~♪と素早くくすぐっていく。
腋の下の窪みをカリカリと引っ掻くようにくすぐられ、時々乳首や胸のまわり、脇腹、お腹もこしょこしょとまんべんなく責められてしまう。
「ぁぁぁぁっぎゃぁぁっんぁぁぁぁぁっぁぁぁっあはははははははははははははははは!!!ひぃぃっむりぃいっぁぁぁぁぁぁぁっじぬぅぅぅっぁぁぁぁぁっごめんなざぃぃぃっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁほ、ほんとにゆるひてぇぇっぁぁぁぁぁぁぁっくひゅぐっだいからぁぁぁぁっぁぁぁぁっあはははははははははははははははははははは!!!!」
顔はすっかりと涙や涎でぐしゃぐしゃになり、身体はじんわりと汗が流れる。
あまりのくすぐったさと恥ずかしさと、誰も助けに来てくれないであろう絶望感で頭が真っ白になる寸前…
「こらこら~、何してるのかな~?」
ピタッとくすぐっていた指先が止まる。
ガラガラと音楽室の扉が開いて誰か入ってきたようだ。
「あっ、せっ、先生!?」
「ご、ごめんなさぃ…!!」
人力拘束から解放され、ぐったりと息を整える…
声の方を見上げると、音楽の先生が立っていた。
「音楽室の鍵を締め忘れたから来てみれば…勝手に入っちゃだめでしょ?…まぁ、今回だけは見逃してあげます。次は無いですからね~?ほら、分かったら気を付けて帰りなさい」
「はい…すみませんでした…」
幼馴染みとあかりさんに無理やり立たされ、そそくさと音楽室を後にする。
**
「あっれ~、おかしいなあ…担任には許可取ったんだけどなあ…」
「も~びっくりしちゃったよ~♪まあでも、楽しかったからいいよね、あかりん♪」
帰り道、いつの間にか仲良くなっている幼馴染みとあかりさんに挟まれながらトコトコと歩いていく。
「私こっちだから、またね~♪あっ、香織さんにプレゼント渡すのよろしく頼むね!」
「ちゃんと渡しとくよ!」
途中あかりさんと別れて幼馴染みと二人きり。
鞄の中に2つのプレゼントを抱え、家に帰っていくのだった。
**
帰宅して自室に入り、幼馴染みから貰ったプレゼントを開けてみる。
中身は…クッキーだった。
ウサギや星の形をした、手作り感のあるクッキーだ。
早速1つ食べてみると、優しい甘さと気持ちのようなものを感じて温かくなる。
…「ただいま~」
玄関の方から物音がして、何となく貰ったお菓子を引き出しに隠す。お姉ちゃんが帰ってきたようだ。
あかりさんから預かった箱を持って部屋から出ようとしたタイミングで、丁度通路側からドアが開いてびっくりする。
「うわっ!?びっくりした…お姉ちゃんおかえり…あのさ、これお姉ちゃんと同じ合気道教室に通ってるあかりさんからプレゼント…渡して欲しいって頼まれて」
「えっ…私に…?ありがとう預かっておくね。それはさておいて、今日バレンタインのプレゼント何個貰ったの?」
「それ渡したやつ除いたら…1個だけど…栞からの」
「ふ~ん、だと思った♪昨日作りすぎたお菓子あるから、これあげるよ。お姉ちゃんに感謝して食べるんだぞ~?」
お姉ちゃんからも何やらお菓子を受け取る。
いつもは怖いお姉ちゃんだけど、今日は何かいいことでもあったのだろうか…?機嫌が良いように見える。
「えっ、ありがとう…!感謝して食べる!」
夕食の後でお姉ちゃんから貰ったお菓子を食べてみると、丸くふわふわとした甘いチョコのクッキーだった。
「…ん…意外と美味しい…」
そう言えば…あかりさんはお姉ちゃんに何を渡したのだろう?明日の朝にでも、お菓子のお礼と一瞬伝えてみようと思いながら甘い舌鼓を打っていた。