新学期が始まり、私の会社にも多くの新入社員が入ってきた。社会人生活に期待と不安を抱いたような、初々しいスーツ姿を見ていると、何だか自分が入社したばかりの頃を思い出してしまう。
私の社会人生活も5年目となり、がむしゃらに頑張ってきたおかげか最近発足した部署のチームリーダーを任されるようになった。
そんな私の下には、新入社員が2人配属された。
一人は元気でやる気の満ち溢れた女の子。
「ほ、本日からお世話になります!鈴木みほです!よろしくお願いいたします!!」
少し緊張しているけど、透き通った明るくハキハキした調子で話すみほちゃん。中々期待できそうだ。
それに比べて、もう1人配属された新入社員の男の子は…
「今日からお世話になりまーす。鈴木こうたって言いま~す。先輩よろしくおねがいしや~す。」
……やる気の無い声に、だらりとした姿勢。
それに、言葉遣いもなっていない…。
どこから指導しようかと唖然としている私よりも先に、みほちゃんがバシッと尻を膝で軽く蹴りあげて注意をしていた。
「いてっ!?何すんだよ姉貴!!」
「こらっ!!駄目でしょもう社会人なんだからちゃんとしなきゃ!…あっ、先輩ごめんなさい、うちの弟が失礼を…ほら、あんたも謝りなさい!」
「いててっ!わ、わかったってば……すみませんでした…」
「あ、えっ、えっと…姉弟なのかな?」
みほちゃんの話によると、どうやら双子で入社したらしい。
同じ大学に通っていて、高学歴のようだ。
後で人事部の同僚に聞いてみたが、弟の方も面接ではきちんと受け答えしていたようで、難なく内定…とのこと。
となると……このやる気の無さはどこから来るのだろう?
配属先に不満があったのか??
私はさりげなく探りを入れてみることにした。
「こうた君は何か目標とか、この会社でやりたいこととかあるのかな?」
「別に無いっすけど?何で急にそんなこと聞くんすか?おばさん?」
「は!?お、おば……!?」
「こらっ!!ごめんなさいごめんなさい!!私も代わりに謝りますからぁぁどうか許してやってくださぃぃ!」
「あ…ぁぁ…。次から気をつけるように!」
怒りで思わず握り拳を作っていたことに気付いた。
みほちゃんは無理やりこうた君の頭を下げさせ、土下座する勢いで謝り倒している…。
大丈夫かな…ちゃんとチームリーダーとしてやっていけるのかな…私。
早くも先行きが不安になりながらも、午前中は軽く部署の説明や、これから行う新規事業について資料を使いながら教育を行うことにした。
「ふむふむ…なるほど…!!」
「………」
私の話に頷きながらしっかりメモを取っているみほちゃん。
こうた君は…ぼーっとした退屈そうな表情を浮かべながらくるくるとペンを回しながら聞いていた。
…さすがに一度、注意すべきだろうか。
「こうた君~?ちゃんと私の話聞いてる?」
「え?聞いてますけど?~こういうことですよね?早く先進めてくださいよ?」
…私が話した内容の要点をまとめて、分かりやすく説明している。どうやら話を聞いていたのは本当らしい。
「そ、そうだね。分かった…」
「は~いおねがいしや~す」
…相変わらず態度が悪いが、そこは一旦保留にして説明を続けることにした。
物覚えは良いようだが、後はもう少し社会人らしいマナーを身につけてくれれば文句は無いのだが…。そこは根気強く教えていくしかないようだ。
**
お昼12時。休み時間になった。
ここは一つ、新入社員と交流を深めるためにランチに誘ってみようと思ったが…
「昼っすよね?外で食ってくるんで~。」
「あっ、ちょっ……」
引き留める間も無く、こうた君はどこかに去って行った…。
まぁ…仕方ないか……え~っと…残るは…
「せ、先輩!よろしければランチご一緒してもいいですか?」
「もちろんいいよ!」
「やったー!嬉しいです♪」
私はみほちゃんと一緒に社員用のカフェでお昼を取ることにした。
二人掛けのテーブル席に座り、サンドイッチを食べながら雑談に華をさかせる。
「あの~先輩…午前中はうちの弟が度々失礼を重ねてすみませんでした…」
「私は気にしてないから大丈夫だよ!…こうた君はいつもあんな感じなのかな?」
「そうですね…大学生になってから、色気付いたのか全然私の言うことも聞いてくれなくなりましたよ~…子供の頃はくすぐり遊びとかして、笑顔で可愛かったんですけどね~…」
「…へぇ?くすぐり遊び?」
みほちゃんの話によると、小学生の頃はよく家で弟とくすぐり合いをしていたそうだ。
当時はこうた君よりもみほちゃんの方が背も高くて力も強く、ほとんど一方的に馬乗りになって降参するまでこちょこちょしていたらしい。
中学生になり、思春期の時期になると次第に姉弟でくすぐり遊びをすることは減っていったそうだが、こうた君は幼い頃に散々姉にくすぐられた影響か、女性に対して距離を取るようになっていったらしい。
もしかすると、こうた君は女性にくすぐられるのが怖いのではないか…?
私に対して怯えたような、反抗的な目つきをしていた気持ちも分かる気がする…さて…どうしたものか…。
あっ、そうだ…!いいこと思い付いた♪
「ねぇ、みほちゃん!とっておきの秘策思い付いたよ!こうた君が昔のように、笑顔になって良い子になる方法♪」
「えっ!?本当ですか先輩!?」
「あぁ。実は、うちの部署である新製品のテストをしているんだが……」
私はみほちゃんに、午後から行うとっておきの"計画"を説明した。
「…と、言うわけなんだが、協力してもらえるかな?」
「任せてください!先輩のためなら…いえ、弟のためにも全力で協力しますね♪」
みほちゃんの協力も得られた。
カフェを後にして、私たちは部署に戻って"準備"に取り掛かることにした。
続きのお話
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