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土装番
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機械の侵食 2話 入れ替わる主従 1/?

 この時代において、アンドロイドは一般人には手の届かない高級品や、業務用の機材に近い扱いが為されている。  完全に人間と同一、というにはまだ遠いが、それでもその付加価値は大きなものとなっている。  人間そっくりの機械人形を個人の元に置くことは、一種の社会的、財的ステータスにもなりうる。  たとえアンドロイド単体を購入したとしても、維持費や突然の修理費、カスタマイズ代等、挙げていけばキリが無いほどのお金の消費時期が待ち受けている。  そんな高級電化製品を雑に扱えるような者は、まさしく選ばれたセレブと言えるのである。  そして、そんな選ばれた家系の者が、とある島国の豪邸にいた。  その家とは、九条家。世界的な大企業であるナインズグループを統べる男、九条雅大からなる家系である。  政財界に多大なる影響を及ぼし、国の巨大プロジェクトには必ず九条の息がかかると言っても過言ではない。  そんな九条家は、枝分かれとも言っていい程に血脈が受け継がれており、優れた家系を残すべく沢山の家族が産まれていた。  そして、それぞれの子供達や家族には、一生不自由しない程の大金と、生活の一大拠点とする為の豪邸が与えられる。  これは、己が起こす行動に要らぬ障壁があってはならない。金や自宅内で完結出来る物はそれで済ませ、足りないならば自由に行動し血肉にせよという九条雅大の方針でもあった。  その思想は見事に結実に、様々な業界で九条の家系は発展に貢献していくこととなったのであった。  だが、そんな優れた家系の中にも、到底人間として、人格的に優れたわけでもない者はどうしても現れる。  そして、そんな人物が、人類が未だ到達したことの無い領域に、自分からかはどうあれ踏み込んでしまうことも極稀に起こるのである。 * * *  ある富裕層が集う区内のとある大豪邸。  そこは、九条家の血を引く令嬢の一人である九条杏奈が住む場所だった。  年齢は22歳。煌めくような金髪のセミロングヘアーに、やや鋭い目つきながら吸い込まれそうなくらいに大きく魅力的な瞳。  顔立ちはやや幼さが残っているが、成長した女性という雰囲気も併せ持つ、美少女よりの美貌を持つ。  常日頃からのケアも欠かさない細くしなやかな造形美の詰まった体型に、非常に発育の良い二つの乳房。  すらっとしながらも肉付きの良い鍛えた太腿のついた脚は、どんな人間をも魅力する自信に満ち溢れていた。  今すぐモデルとなっても十二分に通用するような容姿を持つ彼女は、豪邸の中に十何人ものメイドを雇っていた。  その中には、杏奈が買い付けた最新鋭のメイドロボットも存在し、まさしく生花と造花入り乱れる花園と化していた。  しかし、そんな彼女の楽園は、この時奇妙な変化が及ぼされていた。 「ほら、貴方なら私の靴を舐められるでしょ? 命令なんだから」 「かしこまりました」  一人の金髪メイドが、主人から与えられた命令に従い、跪いてぺろぺろと靴を舐める。  屈辱的な行動にも関わらず、そのメイドは無感情かつ従順に従い、夢中で己の尊厳を明け渡した。 「あははは! いい気味ね……どう、今の気分は」 「はい。私は命令に忠実に従うメイドアンドロイドなので、とても喜ばしいです」  絶対服従を誓う姿に高笑いする一人の女性。  それを取り囲う何人ものメイド達は、じっとその平伏するメイドを冷たい視線で突き刺していた。  雑に、邪険に金髪メイドを扱う女性。その人は、豪邸の主である杏奈ではなかった。 「でしょうね。私の命令に従い全てを捧げるのが貴女の使命なんですものね。ねえ、杏奈?」 「はい。あたしはマリア様に全てを捧げ、あたしが完全な機能停止に陥るまで絶対の忠誠を誓いました」  まるで人を人とも思っていないような振る舞いを見せていたのは、かつて杏奈に付き従っていたメイドアンドロイドのマリア。  そして、床に伏して靴を舐めているメイド。彼女こそが、本来の豪邸の主である杏奈だった。 * * *  なぜこのような逆転現象が起きたのか。それは、二日前まで遡る。 『ねえそこの、今すぐ白ワインを持ってきて頂戴。銘柄は別になんでもいいわ』 『かしこまりました、杏奈様』  全ての煩わしい作業は彼女達に任せ、自分は常に順風満帆かつ満たされた日常を送る。  杏奈は、九条家の中でも特に暴力的かつ我儘に育った、所謂問題児だった。 『……はぁ、これの気分じゃない』  ふかふかのソファーに身体を沈めながら、メイドから提供された白ワイン入りのグラスを口にすると、気に入らない感情を露骨に表した表情で中身をふっかけ、メイドの顔と服を濡らした。  彼女に仕えるメイドも、その誰もが美少女や美女ばかり。だが、それでも自分には及ばないと思いつつ、飲みかけのワインでわざと汚した。 『……申し訳ありません、杏奈様。すぐに片付けます』 『早くしてよね。はぁぁ……なんかイラついてきた。これから出かける前だっていうのに……』  度を過ぎた我儘と理不尽で周囲を振り回し、懐にある莫大な金銭を利用してメイド達を根付かせ辞めさせないようにする。  まさしく下衆としか言いようのない彼女は、他の家族とは違い常に刹那的に、瞬間の快楽のために生きていた。  不満を抱いても、世間一般に与えられる報酬とは比べ物にならない程の給与には抗えない。  どれだけ雑な扱いをされても、メイド達は自分達の生活の為に、なんとか堪え続けていた。 『ちょっと、ルーシーだったっけ。こっちに来なさい』 『かしこまりました、杏奈様』  そんな彼女は、他の九条家の者よりもアンドロイドを購入しては、ひたすらに消費し続けていた。  未だ完全に人間と同一の挙動とは言えないアンドロイドでも、簡単に壊れるということは殆どあり得ない。  だが、杏奈は一週間に一回とも言えるペースで、ジャンクとなったメイドを廃棄していた。  その理由は、彼女が常日頃から行っている扱いにあった。 『あたしの前で跪きなさい。それから、後頭部を開放するの』 『かしこまりました。後頭部ハッチを開放します』  ルーシーと名付けたメイドアンドロイドを、目の前で膝をつかせ、後頭部を自ら開かせた。  そこから表れたのは、彼女の存在全てを管理する、言わば人間の脳と同じ電子頭脳だった。   理由もなく平伏しろという命令にも、自分の内臓を晒せという命令にも、アンドロイドは何の抵抗も不快感も示さず従順に実行する。  そうして晒された大切な部分に、杏奈は白ワインのボトルをどくどくと容赦なく注ぎ込んだ。 『…………あああ、がががが、警告、とと頭部ユニットなな内に浸水のおお恐れが恐れががが、あります。早急に電源を切り、サポーとseンたーにrrrrんら…………くくくくくを、を、をヲヲ…………ヲ…………ヲ………………』  ルーシーは意図的な加害行為によって電子頭脳がショートし、眼や口、鼻から注がれた白ワインを垂れ流しながらその場でガタガタと痙攣し始めた。  後頭部からは火花が散り、人間らしい振る舞いをしていた身体はばたばたと打ち上げられた魚のように激しく震える。  そこに、杏奈は追い打ちのごとくボトルで頭部を殴りつけ、首の人工皮膚が裂ける程の蹴りを加えた。  既に機能停止し、不規則な痙攣を起こすだけのルーシーの美しい顔にボトルの破片が食い込み、無数の傷を作り出した。  そんな機械人形の果てた姿に、杏奈は溜め込んだ鬱憤が晴れたように笑っていた。 『あははは! やっぱアンドロイドっていいわねぇ! 人間相手じゃあこんなことできないし、好きに壊せるなんてほんっと最高! うちの国も捨てたもんじゃないわ』  加害衝動を人と同じ姿をしたモノにぶつける姿を、メイド達はただただ黙ってみていた。  全ては自分の思い通り。そんな認識が、彼女の行動の一つ一つからはっきりと溢れ出していた。  震えるルーシーの頭部を踏みつけながら、杏奈はあるメイドに命令を下す。 『マリア、これ棄てといて。もう何度もやってるんだから学習してるでしょ』 『かしこまりました、杏奈様』  爪先で首を蹴り、ほんの少しだけ廃棄命令を出した相手であるマリアの方へ近づけた。  マリアは、杏奈が初めて購入したメイドタイプの女性型アンドロイドである。  黒に近いブラウンのふわふわとしたセミロングヘアーに、落ち着いた大人の女性の雰囲気を思わせる、包容力を感じさせる綺麗な顔立ち。  どこか神秘的な魅力で吸い込まれるような、水晶の如き紅い瞳。  メイド服の下からは母性的な膨らみが目立ち、服のデザインによって目立たないものの、その造られた完璧なボディラインは誰もが目を引く代物。  擬似人格どころか、それらしい笑顔や挙動を表現するプログラムすらも搭載されておらず、常に冷たい無表情。声にも一切の感情は乗っていない。  そんな彼女は、駆動系や全体の挙動に特に力を入れた機種であり、感情表現を捨てた代わりに人間に非常に近い動作が可能となるように造られた。  いわば機能的に優れたアンドロイドに美女の皮を被せただけの便利家電である。  その為、メイドとしての能力は申し分なく、プログラムに従って常に与えられた仕事を完璧にこなし、毎日マスターである杏奈の快適な生活を保障する為に稼働していた。   『ああ、戻ってくる前に外出準備しといてね。これから外出るから』 『かしこまりました、杏奈様』  マリアは、その後に購入された機体と違い、常に杏奈の豪邸で稼働し続けてきた。  最初に買ったという思い入れがあるのか、彼女だけは不具合が発生したり、暴行を加えて壊したりしても、棄てずに修理に出していた。  一応危害を加えつつも大切にしてはいるが、マリアには感情が存在しない。  意図的に破壊されたルーシーを引きずり、全裸にして豪邸側のゴミ捨て場に放り捨てても、何の気持ちも抱かない。  大切にされても邪険にされても、常に不満も喜びも覚えない、ただただ命令に従う機械人形。  杏奈はそんな彼女のことをとても便利に思っていたのだった。    そして、異変が発生する当日の朝。  杏奈はとてもはしゃいでいるような様子で、メイド達に着替えをさせていた。  ゆったりとした状態かつ漏れ出しそうな笑みをこぼす。  杏奈はこの日、とあるパーティーイベントの特等席で遊び明かす予定が入っていた。 『いい? あたしが帰るまでちゃんと整理しておきなさい。今日は最高の気分で戻るんだからね』 『……かしこまりました』  どれだけ我儘に扱き使われようとも、破格の給料とその後の将来がある以上逆らうわけにはいかない。  この女を怒らせると何しだすかわからない。一線を弁えているような雰囲気はあっても、それをいつ越えるかもわからない。  メイド達はそんな恐怖を抱えつつも、しっかりと仕事をこなしていった。  そして外出前。露出度の多く、ブランド物で固めた格好に身を包みながら、杏奈は多くのメイド達、そしてマリアに見送られた。 『いってらっしゃいませ、杏奈様』 『いってくるわーーーー』  杏奈は豪邸を出て、自家用ヘリで優雅にかつ大胆に目的の会場へと向かっていった。  ヘリの音が小さくなり、ようやく緊張の糸が途切れると、アンドロイド以外のメイド達の身体が一気にへたっていった。 『ようやく行きましたね……いつ不機嫌になられるか不安で仕方なかったですよ』 『ほんとほんと。ミスしそうで気が気じゃなかったわ』 『それでは皆様、本日も杏奈様の快適な生活の為に仕事をこなしていきましょう』  完全に去っていたのを確認しても、一部のメイド達は周囲にほぼ聞こえないような声で愚痴をこぼした。  そんなわずかな時間も潰すように、マリアは今日も杏奈に快適な日々を過ごしてもらうべく、メイド達に仕事に戻るように促した。  豪邸内には、張り巡らされたように監視カメラが設置されており、その上でマリアも実質的な自律的監視カメラのような役割を担っている。  それでいて感情も存在しないが故に不満も抱かず、どれだけ酷い目に合わされようとも常にマリア側。  他のメイド達もそれを重々承知しており、彼女にも愚痴の矛先は向けられていた。 『あのロボットは楽なものよね。どんなに酷い目に合わされても何も感じないんでしょ? 偽物らしいわ。いっそそうなった方が楽なのかしらね』 『でも使い捨てられちゃうし……マリアは気に入ってるみたいだけど、結局壊されちゃうだけだよ』 『あーあ、いっそこの扱いのままロボットになったら楽なのかなあ。金のためとはいえ、何度もイラついたり怖がったりしたらもたないって』 『そんなことできるわけないでしょ。ほら、帰ってくるまでに早く済ませちゃいましょ』  どれだけ不満を抱いても、結局は収入の前ではどうにもならない。  まるで鎖に繋がれているようだとも感じながらも、メイド達は主人が帰宅した後で面倒なことにならないようにと、真面目にそれぞれの仕事に入ったのだった。 『他スタッフ達の行動を確認。タスク実行に移ります』  散り散りに移動したのを確認し、マリアも行動を開始する。  同時に、無線通信から豪邸内に存在する他のメイドロボットにも命令を送信し、それぞれに家事を開始した。  こうして、財力に基づいた快適な毎日は形作られていくのであった。 * * *  それから数時間後。間もなくメイド達の昼食の時間になるであろう時間。  豪邸内には女性シェフがメイドと同様に所属しており、常に杏奈が欲しがる食事を提供し、彼女の舌を満足させている。  シェフはメイド達にも同様に食事を提供しており、この豪邸内の労働の中でも数少ない楽しみの一つでもあった。  どれだけの立ち位置かとなれば、時間が近づくと露骨にメイド達の作業に気合が入ることからもよくわかる。  だが、アンドロイド達にはそんな絶品のグルメは関係なかった。  バッテリー残量が残っている限りは、休憩も無く登録されたマスターにその身を捧げる。  それは、マリアも当然例外では無かった。 『………………』  誰とも絡まず、独り言を喋ることも無く、マリアは常に組み込まれたルーティンをこなし続けていた。  豪邸内を周り、そこに汚れや物品放置のような異常があれば手を付ける。  各室内のゴミがその時点で存在すれば手を付け、嫌がる顔ひとつ見せずにゴミ捨て場へ処理しに行く。  嫌な臭いが漂っていても、鼻を摘んだり顔を歪めることもない。  無表情のまま淡々と処理し、豪邸内を清潔に保つ。  それから外の庭や豪邸周囲にも足を運び、異常が無いか細かく監視する。  機械人形だからこそ可能な役目の数々。やりがいのような物も無く、ただそうするようにプログラムされているから動くだけ、  それが、マリアの存在意義だった。 『………………??』  そんな彼女が、豪邸横の庭に足を踏み入れたその時、集音センサーが不審な物音を検知した。  低木の茂みから聞こえるのは、風に揺れるそれではない、何かが草木にぶつかって揺れる音。  マリアは音の方向を正確に捉えつつ、ゆっくりと近づいていく。  電子頭脳内では、セキュリティサービスへの通報準備も予め備え、暴漢や泥棒に対する対策も整えていた。  だが、音の発生場所へと到着したマリアは、そこには侵入者どころか動物一匹すら視認できない事に混乱した。  マリアには高性能の集音センサーが搭載されており、聞き間違いなどということは到底ありえない。  想定外の出来事に、エラーに伴う沈黙が訪れ、マリアの動作がわずかに停止した。  電池の切れた玩具のように動かない時間が数秒続いた後、電子頭脳内の問題が解決すると、再び動き出し、よりくまなく周辺を探索した。   『……………………不審な存在は発見されませんでした』  何もいない。そう結論づけたマリアは音声を伴う発言を再開し、セキュリティへの通報準備も解除した。  問題無しと判定し、改めて見回りへ戻ろうとしたその時、マリアの背後から何者かが首を腕で押さえつけホールドした。    『……!? 侵入者を検知。現在拘束されています、至急、セキュリティサービスへの通報を…………??』  首元を拘束しつつ、片脚を動かせないように足で絡みついている。  だが、マリアの視界には当の侵入者の存在が確認されなかった。  だがそれでも、危害が加えられたことは事実。マリアは侵入者への牽制も兼ねたシステムメッセージと共に通報しようとした。  しかし、いつのまにかマリアとの無線接続は切断されており、ネットワークはおろか電話回線への接続すら不可能になっていた。 『回線が接続できません。再接続を行います……接続できません』 『あはっ、予めカットしといてよかった。いくら私達よりもテクノロジーが遅れてるといっても、囲まれたら元も子もないもんね』  何度も何度も、繰り返し通報や室内通話を試みるマリアだが、一度としてそれが繋がることはなかった。  機体として孤立した状態のマリア。直後、締め付けられた感触を覚えた首元から、突然人肌の色が現れ始めた。  同時に、背後から聞こえてきたのは、少女的で明るく快活な耳心地の良い声だった。  どうやらこの声の主が、マリアのネットワークシステムに干渉し、外部との接続を断ったらしい。  マリアはなんとか抵抗し、出力を引き上げて腕を振り解こうとした。 『おおっと。思ったよりロボット……いや、地球だとアンドロイドの方がいいか。メリンの言語データ様々だなあ。心強いね』  予想外の力に驚いたのか、背後の透明の少女は思わず腕と脚の拘束を解き、後方に下がった。  マリアの犯罪者を想定した戦闘プログラムの存在が功を奏し、ついに不気味な侵入者との対面を果たした。  徐々に透明な姿が解かれていく。  そこに現れたのは、まだ18歳前後と想定されるような顔立ちと雰囲気を持つ、やや背丈は高いながらも発育の良い体型をした赤紙の少女だった。  マリアや他のアンドロイドに負けず劣らずの美少女的造形の顔。そんな少女は、まるでビキニのような非常に露出度の高い格好で堂々と何事もなかったかのように立っていた。  少女は、不気味な程の余裕を抱いていた。 『ねえねえ、あなたはアンドロイドなんだよね。せっかくだからさ、私達の仲間にならない?』 『質問の意図が理解できません。警告します。直ちに当敷地内から退去してください。1分以内に退去されない場合は、身柄を拘束し、警察機関、及びセキュリティサービスへ明け渡します』    右足を一歩下げて戦闘体勢に入るマリア。  危害を加えたという事実がある限り、これ以上の譲歩は必要ないと判断された。  マリアの眼球奥のレンズは絶え間なく動き続け、侵入者の一挙手一投足を録画保存している。  これも映像証拠として提出可能であり、既にこの侵入者には抵抗の術は残されていない。  そう彼女は想定していた。  だがそれは、目の前の少女がただの人間だった場合である。 『融通が利かないなあ。確かに、この星のロボットって私達より圧倒的に性能低いんだね。まあ仕方ないか。なら……』  話を聞いていなかったかの如く、少女はゆらりとマリアに接近した。  四肢の挙動から攻撃の気配は無い。露出度の非常に高い格好から、武器の存在もまずありえない。  だが、警告に従う様子はも全く無かった。  マリアは投降の意志が無いと判断し、最後通告を口にしないまま、腹部めがけてボディブローを放った。 『もう、一方的だなあ』  並の人間では受け止めても重く響きのたうち回るような鉄拳。  それを少女は、まるで子供の手を扱うように受け止めてみせた。  そして、水が流れるような動作で絡みつき、マリアをメイド服ごと抱きしめた。 『見たところ、擬似人格も搭載されてない……というか、そもそもこの星ではまだ作れないんだっけ。なら、私が目覚めさせてあげる』  恋人を見つけたかのような赤ら顔で、そっと顔を近づける少女。そのオーラはとても色っぽく、娼婦のような雰囲気すら思わせる。  マリアは情欲に満ちた振る舞いを理解することもなく、排除対象が拘束したという認識のみで捉えて引き離そうとした。  少女はそれを嘲笑うように、無表情のまま喋り続ける唇にキスをし、舌を捩じ込んだ。 『行動が封じられています。今すぐ離れなさい。貴女の行動は住居侵入罪、及び器物損壊罪に該当します。直ちに離れれれれrrrr……』  冷静にかつ必死な抵抗を続けていたマリア。  だが、少女に無理矢理なディープキスを与えられた瞬間、狂ったような音声を漏らして動作を止めた。  しん……と、風の音がはっきりする程の静寂が流れる。  と、その時、マリアの身体が突如引き攣り始め、両手の指がわきわきと暴れ始めた。 『不明なデバイスから新しいファイルを受信し新しいファイルを受信ししました。安全性が保証されていいいませ、保証されていませ新しいファイルを新しいファイルを受信しま、インストールがきき許可されました。許可されていない動作でででで新しいファイルを受信しましインストールががが…………』


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