NokiMo
土装番
土装番

fanbox


創作の源泉は実体験から! 1話先行公開版

 現代よりもやや離れた、未来の時代。  人類がこれまで築き上げてきた人形の文化は、時が経つに連れて、容姿、動作、挙動、自律と、新たなる進歩へと踏み出し続けてきた。  そして、ついに人類は、アンドロイドという人間そっくりの機械人形を創り出すことに成功したのだった。  電子頭脳内にインストールされた様々なプログラムによって、人間らしい動作や、時には人間には出来ないような挙動までお手の物。  立ち振る舞いや細かな動作も、身体の各部に走っているわずかな継ぎ目や申告がなければ、アンドロイドだと気づかない程に人間に近づき、まさしく新たな人類と言っても過言ではなかった。  その進化は止まらず、人類はさらに、自分達を機械人形へと近づける機械化技術にも足を踏み入れ、加速的に発展。  ついに脳内情報の電子データ化に成功し、全身を完全に機械化する領域まで向上していったのであった。  今では、お金さえ払えば誰もがアンドロイドを手に入れられ、同様にアンドロイドと同じ存在になることもできる。  そんな人間と人形の境界が取り払われた時代にも、殆ど変わらないものがあった。  それは、創作の世界である。  新たな道具や開かれた世界によって、より便利になり、新ジャンルも開拓されていった創作世界。  そして、そんな時代であっても根源的欲求の一つである性欲は変わらない。  人間らしく稼働するアンドロイドにもそれは組み込まれ、機械化した人間も当然のように持ち合わせている。  欲求や性感に関連した数値を弄ることでインスタントに感じることも可能だが、それでも、身体中のセンサーや部品からの性感を皆が求めていた。  それを絵や文章、声やグラフィックという形にするのがクリエイターである。  これは、この時代に生きるとあるエロマンガ家の日常が、機械の存在によって大きく形を変えていく話である。 * * * 「今回も原稿お疲れ様〜。直してほしいとこあったらまた送るね」   「はいはーい。早めに修正点お願いしますねー」  自宅と職場、それぞれモニター越しに、二人の女性がそれぞれ通話をしていた。  自宅側からやや気怠そうに話しているのは、マンガ家の小森彩。そして、職場側からしっかりとした雰囲気で話しているのが、彩の担当編集である三輪友美。  二人共が周囲も認める美女であり、二人が会話している姿は、仕事中とは言えどもとても華のある光景として見られていた。  小森彩は、ややぼさぼさした状態の黒のセミロングヘアーに、かけている眼鏡と共に魅力を十二分に溢れさせる瞳。  二十代前半の雰囲気を漂わせる非常に整った顔立ちは、画面に映る無気力感を魅力的要素に塗り替える程に輝かしい。  面倒臭がりな様子が見てとれるシャツ一枚の姿だが、そこから見える風船のように大きな乳房から作られる谷間は、思わず視線が引っ張られる。  そんな自分の溢れる女性的色気を、彩は歯牙にもかけないような空気で晒していた。  一方の友美は、二十代後半の大人の女性的な雰囲気を帯びた、キリッとした美しい顔の造りに、サラサラとしたブラウンヘアーによる額出しの髪型。  黒のスーツ姿が非常に映える綺麗な体型にらその下からでも目立つ、友美に負けず劣らずの両胸。  ストッキングがより魅力を引き立てる美脚と、まさしく理想的な美女と言っても過言ではない女性である。  そんな二人が協力して創り上げているジャンルは、成人男性向け作品である。   「それと、この間の『抱いてほしくて我慢できないんです!』結構評判良かったわ」   「職場でそのタイトルを感情込めて言うの恥ずかしくない……?」 「別にいいわよ。あたし達の担当なんてみんな知ってるし。…………一部の男が少し屈んでるのがちょっと面白いし」  小声で現場の同僚をからかっている事実をあえて吐いちゃう友美。  彩はそんな編集の姿に、この人マジかという顔を、相変わらずだなぁという感情を混ぜて表した。 「……一歩間違えれば痴女でしょそれ。まあ、評判良いならよかった。結構今回のえっちシーン苦労したからさあ」  だが、そんな人だからこそ自分の作品を任せられる。  彩は友美からの報告に胸を温かくし、今回どれだけ色んな人に使われたんだろうと思いながら彼女のことを眺めていた。  作品データの送信も終え、ひとまず今回のやり取りも終わりかと思った直後、友美はどこか改まったような表情で姿勢を直し、前のめりになった。 「今日の話はこれで終わり……っていつもなら言うところなんだけど、今回ちょっと彩に提案があるの」 「ん、どうしたの? 珍しいじゃん」  いつもは、こんなのはどうかという軽い進言以外は、作品のアイデアや内容のほぼ全ては彩に任せ、それから添削や指摘を改めて行う形で協力している為、最初から関わってくるということは殆ど無かった。  だが、今日は珍しく提案について大きく踏み込んで行きたい様子が伺えた。  友美の話ならと、彩はだるい身体に力を入れて耳を傾ける。 「そろそろね、アンドロイドというか、機械モノに手を出してみてもいいんじゃないかなーって思うの。ほら、彩の画力と構成ならさ、絶対イケると思うのよね。メカもちゃんと描けるし」  あー……という納得も混じえた表情を見せる彩。  そこには完全な否定のニュアンスは含まれていなかった。 「アンドロイドモノかぁ……でももう結構あるでしょ? 人間とアンドロイドの叶わない恋とかもうずっと前に使い古されてるし、なんなら割と確立されてるから、改めて入ってもなぁ……」 「あたしが提案したいのはね、そういうのじゃないの。アンドロイド視点でのアンドロイドらしい気持ちよさでの作品ってのはどう?」 「…………たとえば?」 「例に出すとちょっと難しいんだけどね……そのアンドロイドモノって、殆どが人間主役とか人間視点が殆どじゃない? それでいて性機能を使って気持ちよくしてあげるとか、『私は妊娠しませんから、自由に中出ししてくださいね』みたいなのとか」 「……妙に女性型の声真似上手いじゃない」 「そりゃもう、今回の提案の為に色んな作品とか、セックス動画見たりしたんだもの。これくらいならお手のもんよ」  話をするにあたって、自分で表現できる程に資料を漁っている様子を見るに、どうやら相当に本気らしい空気を感じ取った彩。  彼女がそれだけ期待をかけてくれているということは、確実な算段があるのだろうと思った。 「それで、どういうのがいいの?」 「────レズセックスモノね。両方女で、片方が人間で片方が機械。または両方機械! それでいて色んな方法で気持ちよくなって絶頂に達するの。調べていくとね、股間の性器を外してそれを弄って気持ちよくなるとか、そういうプレイもあるみたいよ」 「マジ……? そっち方面のオナニーとか調べてなかったけど、そんな世界あんの……?」 「そうなの。ちょっと乗り気になったじゃない。それでね、他にもね、機械化した後でアンドロイドにしか出来ないオナニーにハマる人もいたりね、それと…………」  友美は、これまで集めたアンドロイドや機械化した人々の性事情に関しての話を事細かに打ち明けた。  最初は別ジャンルへの挑戦かぁ……とそこまで乗り気ではない感じで聞いていたが、次第に自ずと耳を傾けるようになっていた。   「というわけで、これから絶対アンドロイド系や機械化系が流行ると思うの。どう? 描いてみない?」 「うーん……それ聞くとちょっとやってみたいかもしんない。けど、来月は無理だからね」 「わかってるわかってる。一番早くとも再来月くらいにしようと思ってたから。じゃ、彩の新ジャンルへの一歩、期待してるわね」  了承と受け取った友美は、笑顔で通話を切った。  音が消えて静かになった自室内。ぐったりと背もたれに身体を預けた後、足で机を軽く蹴って、椅子を動かし離れる。 「機械モノかぁ……街中でいっぱい見るけど、そういえば身近にいなかったなぁ。資料がぜんっぜんないわ」  面白そうと考えて一旦は引き受けのニュアンスを伝えたものの、分からないものは分からない。ストーリーの目処も立たない。  どうしたものかと思いながら、彩は椅子から離れ、直ぐ側の引き出しに手を付ける。  その中に入っていたのは、大量の性玩具とローションだった。  彩は自身のエロマンガの資料として、自分の性感や気分、体験を使っている。  性格的にも自慰が大好きなこともあって、この職業はまさしく天職でもあったのだ。  まるで当たり前のように部屋着を脱ぎ捨て、ボトルからローションを垂らして股間に塗りたくると、手に取ったディルドを挿入し始めた。 「あっ……ぁ……ぁ……まずは……っ……アンドロイド……を……買わないと……は……あんっ…………」  執筆中や作業中に溜まりに溜まった情欲を発散しながら、機械モノを書くに際してどういう準備に入ろうか悩みだした彩。  すぐにそれは性感によって塗り替えられるが、それでも考えずにはいられない。ある意味その繰り返しが、彼女の日常でもあった。  予期せぬ一言から始まった、新しいジャンルへの第一歩。  だがそれが、彼女の人生を大きく変えることになるとは、彩自身も知らなかった。 * * * 「あー来た来た。ついに来たぞー大きな買い物が」  友美からもたらされた新たな提案から二週間後。  彩はエロマンガの資料として、新たに女性型アンドロイドの購入に踏み切った。  だが、彼女が購入したのは新品ではなく、ネットオークションサイトにて売りに出されていた、中古のアンドロイドだった。  買うならばちゃんとした性能の物を。と考えたはいいものの、ハイスペックな機体を買うと考えると今の懐では厳しかった。  そこで、少し気分的には気が引けるものの、中古ならばそれなりにちゃんとした機体でも安く変えるのではという期待を抱いて探し回った。  すると、新しめにも関わらず、妙に安い価格で出品された機体を発見。  人工皮膚は張り替え済みで、女性器ユニットも出品に際して入れ替えられているという記載もあるが、唯一、擬似人格に問題アリと書かれていた。  それだけなら別にいいんじゃないかと、容姿が好みだったのもあって彩は早速購入。  それがついに今日、やってきたのだった。  玄関に運ばれてきた、まさしく人一人分入れる縦長のダンボール。  きつい重さに踏ん張りながら、なんとか自室まで運び終えると、体力が切れたように彩はぐったりと倒れてしまった。 「はぁ……はぁ……お、重…………」  ある程度運動するようにしているとはいえ、創作に集中しているとどうしてもその数は減ってしまう。  改めて体力つけたほうがいいかなあと思いながら、彩はカッターを用いてテープを丁寧に切り取り、一気に蓋を開けた。 「うわ綺麗…………イラストの中から出てきたのこれ……」  彩の目の前に現れたのは、思わず言葉が詰まりそうになる程の美貌を持った、全裸の機械人形だった。  常日頃から手入れされているように、光を反射しサラサラとしている金色のミディアムヘアーに、彩と同じような二十代前半かそれより少し上くらいのお姉さん的雰囲気を持つ、美女という言葉がこれ以上無い程に似合う女神的人工の顔立ち。  開かれたままの目蓋は、とても人形らしさを醸し出しているが、その瞳はサファイアのように綺麗で、触れたくなる程に引き寄せられる。  乳房は、自分が見たどの人間女性のそれよりもハリツヤが良く、ロケットと形容できる程の大きさで、今すぐにでも顔を埋めたくなる程の色香に満ちている。  人工皮膚を張り替えられた結果か、乳首の色も新品同様にツヤツヤとしたピンク色で、ちょっと指先で触れてみると、人間のそれよりもつるつるとしている。  その体型には無駄肉の類は一切なく、人間が努力しなければ手に入れられない完璧な曲線美が、最初から持ち合わせている。  程よく大きな太ももや、抱きつきたくなるようなモデル的美脚。その両脚の狭間の奥に備わった女性器は、人間のそれを再現しているのもあって非常に情欲を煽り立てる形をしていた。  一見すると人間にしか見えないが、じっと注視するとうっすらと、取り外せることを示す継ぎ目が確認できる。  街なかやたまに行く出版社で、アンドロイドや機械化した者の見た目麗しい姿は目にしたことはあるが、せいぜいすれ違い様や短時間で、じっくり見たことはない。  ぱっと見でも美人だけど、じっくり見るとここまで綺麗なのかと、彩は心臓の鼓動を早めた。 「アンドロイドって間近で見るとほんっっとさらに美人……いや、そう造られてるから当然なんだけどさ……」  彩は、先程乳首に触れた時の多幸感が抜けず、さらにベタベタ触れてみたいと沸き立った。  中古品であるが故の心配も含めて、様々な部位に手を伸ばし触れてみる。  眼球に触れると、柔らかさや潤いは無く硬質的な触感。指で軽く動かすと、まさしく人形のそれの如く移動した位置で固定され、それぞれ視線が別方向を向いた。  唇に触れると、人間の肉よりも心地良いシリコンの指ざわりが、感情を強く揺さぶった。乳首と同じく感触はさらさらとしており、乾いた口内と共に新品同然の印象を与えた。  乳房に触れると、唇よりもさらに深く、沈み込むような感触が、今度は右手を包み込んだ。  人間相手には出来ないような力で欲望のままに握り、何度も何度もその柔らかな極上の感触を楽しんだ。  腹部に触れると、ダイレクトに人工皮膚の気持ちいい感触が伝わってきた。  何度も夢中で撫でていたくなるようなその滑り心地、触り心地。思わず頬擦りすらも考えそうになる程だった。  そして、いよいよ女性器ユニットに手を伸ばす。  新品に取り替えられた膣内は、乾いているが故に指が引っかかるが、ぐにぐにとした擬似的な肉感が伝わってきた。  これに包み込まれたらとても気持ちよさそう。濡れていなくとも、膣肉として動いていなくとも、そんな想像が膨らむような代物だった。  一通りの部位を触り、傷や汚れのような物は見当たらず感じなかった彩。  概要に書かれていた通り、ちゃんと修繕してから送ってくれたのだと確信すると、彩は出品者に感謝しつつ、箱の中から充電ケーブルを取り出す。  それをコンセントに繋いでからアンドロイドの首筋のカバーを外し、現れた差込口に挿入した。  隣のランプ部分が黄色に光る。 「えっと、電源ボタンは……あったあった、これかな」  それからすぐに、マニュアルを流し見しつつ横に備えられた電源ボタンを長押しすると、アンドロイドの体内から小さく駆動音が聞こえてきた。  それと同時に、全身が小さくぴくっと震え、眼球奥から僅かな赤い光が点った。  そして、真上を向いたままその女性型人形は口を開いた。 「────起動しました。現在当機体にはマスター登録が行われていない為、自律稼働が出来ません。当機体の機能を正常に稼働させる為に、マスター登録を実行してください」 「あっ、この声なんか、杏野麻里さんっぽい! たぶんそうかな……」  感情の起伏が無く、はっきりとした抑揚の女性の声。  女性声優の声をサンプリングした音声だが、彼女の推しの声優なだけあって、彩はそれを見事に判別することができた。  偶然にも大好きな声だったことに、予想外の方向からアンドロイドを手に入れて良かったと感じた。 「現在当機体にはマスター登録が行われていない為……」 「ああそうだ、とっとと登録しないと」  マスター登録が完了するまでは、おそらく同じメッセージを発し続けるのだろうと察した彩は、早速マニュアルとにらめっこしながらマスター登録の手順を進めた。  名前、性別、住所、顔、声紋などの基本的なデータを口頭で喋り、それに合わせてアンドロイドが自身の電子頭脳内に刻み込んでいく。  箱の上から行っているのでやや苦労する場面も多いが、それよりも早く動かしてみたいという欲求の方が勝っていた。  そして、一通りのデータ登録が終了すると、アンドロイドは最後の仕上げのシステムメッセージを口にした。 「情報の登録が完了しました。では最後に、当機体の固有名称の登録をお願い致します」  他者との円滑なコミュニケーションを取る為に必要な名前。  これまでの名前は削除されており、彼女の中に残っているのは型番のみ。  彩は、このアンドロイドを見つけて購入した時から、既に名前を決めていた。 「美香で。貴女の名前は美香」 「かしこまりました。当機体の固有名称は美香 で間違いありませんね」 「それでいいよ。間違いない」 「かしこまりました。当機体の固有名称を美香 として登録しました。これで、全てのマスター登録作業は終了しました。お疲れ様です、彩様」  一度もぴくりとも動いておらず、ずっと天井を向いたまま無表情で口をぱくぱくと動かし続けて言葉を発していた美香。  感情の起伏などこれっぽっちと見られないが、彼女の素晴らしい声からのお疲れ様は、とても耳心地良いものがあった。 「マスター登録を終了しましたので、これより擬似人格を起動します………………警告、プリインストールされた擬似人格に不明なエラーが発生しています。問題が発生した場合は、速やかにサポートセンターへと連絡して下さい」 「……ん?」  美香の口から呟かれた、少々不穏なシステムメッセージ。  概要欄に記載されていたとはいえ、擬似人格の異常は果たしてそれはどの程度の度合いなのか。  少し気になり始めた直後、美香はゆっくりと自然な動作で上半身を起き上がらせた。  それまでの機械的な言動をしていた時よりも、表情は幾らか柔らかくなった印象を受けるが、電子頭脳がまだ完全に目覚めていないのか、少しぼ~っとしているような雰囲気を感じた。  それから、じっとどこか遠くを見つめてから五秒後。突如美香は嬉しそうな笑みを浮かべて、自ら胸を揉みしだき始めた。 「あっ……ぁ……はじめまして彩様……ぁ……あんっ! あたしを購入してくれて……あっ! ありがとね……あっ……」  肩を使った息遣いを感じさせるような蠱惑的な表情で、突如自慰行為を始めた美香。  体液が補充されていない今、彼女の身体はいくら性感を覚えても、愛液の一滴すら分泌されない。  乾いた女性器ユニットを乾いた指で弄くりながら、その視線はじっと彩のことを捉えていた。  そんなアンドロイドの姿は、彩は突然のことに呆気に取られた表情で見つめていた。 「えっと……なにやってるの?」 「なにって……ああっ! 快楽信号が……欲しくて……あんっ! 仕方ないの……気持ちよくなりたい……あたしがそう思考してるから、もっと、たくさん気持ちよくなりたい……は……あっ…………」  見境なく快感を求める姿はまるでセクサロイド。  起動してから唐突に性欲に支配されたかのような挙動を見せる姿に、彩は混乱しかけた頭の中を整理しつつ、興味深いという視線で見つめ続けた。 「彩……様……ぁ……はあんっ! 現在、体液タンク内の……あっ……残量がありません……補充して……くださ……ああっ!」  痛がるような様子も無く、どうやら膣肉や乳房に備わったセンサーから快楽信号ばかりを感じているらしいと悟った。  出品に際してタンクの中身が抜き取られたことで、まさしく血も涙もない人形という言葉が似合う状態となっている美香。  その補充メッセージはまるで、おねだりをしているようにも見えた。 「ごめんね。アンドロイド用の体液も無いし、ローションもちょうど一本しかないし切れかけだから」 「お願い……補充し……ああっ! 快楽信号が……あたし……求め……あんっ! 水でもいいから……はあっ! だめぇ……我慢でき女性器ユニットが取り外されました。ない……感情が抑えられないの……」  現物が今無い以上、体液に関してはどうすることもできない。  そして、美香はクリトリスを弄り続けていた右手を膣内に挿入すると、直後、無機質な着脱音と共に女性器ユニットが前面から迫り出してきた。  まさしく周囲の継ぎ目の意味を如実に表す動作。  外れた直後、幸福に満ちた表情が一瞬消え失せ、無表情で機械らしい報告を行うと、何事も無かったかのようにまた性感に満たされた顔に戻った。  人間にはありえない一連の挙動に、彩は目を見張った。 「あ、あ、あ……ああっ! もっと、快楽信号がほしいの……もっと……気持ちよくなりた……あんっ!」  女性器ユニットの形状は、端的に言えば性玩具のような様相。  周囲の人工皮膚付きの割れ目と、その奥に備わった、膣内を作り出すピンク色の卑猥な肉筒。その奥には、子宮を模したような形状の、取外し可能なタンク部分が接続されている。  美香は取り外された性器をずるっと引きずり出し、舌でクリトリスを刺激し、左手で爪を食い込ませながら肉筒を揉みしだき、同時に右手で子宮ユニットを握った。  その見た目の激しさは、人間のそれとは比べ物にならない程に奇妙だが、ぽっかりと股間に穴を開けた状態で乱れる姿は非常に淫靡に写る。  彩は今、目の前で初めて見たアンドロイド特有の自慰行為に、釘付けになっていた。  しかしその直後、美香は右手を子宮ユニットから離し、突如腹部の人工皮膚を握り始めた。  性器への自慰は収まっていないが、いきなり性感とは関係の無さそうな行動に目が奪われる。  そして、美香の腹部は徐々に、ぶちぶちと破れ始めていった。 「ち、ちょっと!? 何やってるの!?」 「あ、あ、あぁぁ……な、何を……って……きもちいいのが、体表面が損傷しています。快楽信号が、もっと欲しいのよ……ああんっ! 彩様ぁ……こ、壊れ、破損することが、エラーが変換されて気持ちいいから……ぁ、ああ、あ、あ……あああっ!!」  突然の自傷行為に驚きを隠せない彩。  一瞬止めようとしたが、美香は人工皮膚が破れるごとにさらなる嬌声を上げ、身体を右に左に捩らせながら、全身を震わせて悦びを表した。  恍惚に満ちた表情と共に、破れた腹部の下から血の一滴も存在しない金属部品の集合体をさらけ出す美香。  どうやらこれ自体も、彼女にとっては自慰行為の一つに過ぎないらしい。  次々と人間の理解の範疇を超えてくるアンドロイドの自慰行為。  自ら破損しエラーを起こすことが気持ちいいのだろうか。  そんなことを考えているうちに、美香の右手は人工皮膚から、その下の内部機構を移り、配線の一部と共に部品を握った。  そこに与えられる圧力が強まる毎に、美香の蕩けるような笑みが浮かび、全身にがくんがくんと、乳首の固くなった乳房を跳ねさせるほどの痙攣が引き起こされた。   「ああぁぁあ、あ、きもちいいわ、あたしの、腹部に損傷、腹部が、あっ! 傷つくのが、あんっ! 感じて、快楽信号にに、ああっ!」  激しく乱れる声を出す一方で、腹部からはみしみしと内部機構が軋む音がする。  言葉ぶりからして、おそらく壊れることが気持ちいいのだと推察するが、どのような設定やプログラムが為されているのか。他のアンドロイドもこうなのだろうか。疑問が尽きなかった。  そして、内部機構に与えられた圧力は臨界点を超え、バキッ、という音と共に己を構成している部品を破損させてしまった。 「ああっ! 彩様……あたし、もっと気持ちいいのが欲しいの。快楽信号が欲しいから、あたしを壊し……あ──────」  その瞬間、美香の全身がびくっと痙攣し、背中を大きく仰け反らせた状態で硬直してしまった。  恍惚に満ちた表情は変わらず、まるで時が止まってしまったかのように動かなくなったと思いきや、その姿勢のまま規則的なタイミングでがくっ、がくっ、と全身を機械的に震わせていた。  電子頭脳の処理能力を一時的に超えてしまったのか、はたまた致命的なエラーを起こしたのか、原因はわからないがともかく、美香はフリーズしてしまったらしい。  性楽に満たされた格好で固まっている姿は、さながら18禁の写真やイラストのよう。  彼女が動かなくなったのを見て、彩は顔を興奮から赤らめたまま近づいていった。 「なるほど…………こんな世界があるんだ。こんなの、私達には想像できないよね確かに……全然違う世界だわ」  話を持ち出された当初は完全な乗り気というわけではなかったが、実物を目の当たりにした後は、新たな世界を見たような気分になり、すっかり引き込まれてしまった。  じっと美香が乱れた様子を見ているうちに、ひっそりと彩も下着を濡らしていた。  ひとまず、自分の抱いた気持ちや感想、知るべきことをメモするため、何より、購入したばかりでいきなり壊れてしまった彼女を修理する為に、首筋の電源ボタンを長押しした。  美香は外部から強制的に電源を切られ、ごとん、と操り糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。  電源が切られた後も彼女の多幸感に満ちた顔は変わらないが、瞳の奥の光は点滅の後で消失した。  そのアンバランスさが非人間感を醸し出していた。 「とりあえず修理業者呼ぼっと。中古だし、メーカーは無理だよね。だとすると……」  倒れた美香の瞳は、彼女を直す為に動くマスターの背中を、無機質に写し出していたのだった。 * * *   「あー……そう、そういうことだったんだ。だからあんな風に……」  その日の夜。彩は出品者への問い合わせメールに貰った返信を読み、納得の声を出していた。  彼女がこのアンドロイドとても美人で素晴らしいという感想と共に出した問い合わせ内容。それは、どうしてこのような擬似人格になっているのか、ということだった。  出品者からの返答は、本来は見た目通りの大人の女性的雰囲気かつお淑やかな人格だったが、うっかりウィルスに感染してしまい、プログラムの改竄と共に擬似人格まで弄られてしまい、このようなことになった。というものだった。  しかも、後から入れた物ではなくプリインストールされている擬似人格な為、これを削除すればただの機械人形になってしまい、自律稼働が不可能になってしまう。  結果、自身に発生するエラーや破損によるダメージを快楽信号に変換し、ひたすら快感を貪る実質的セクサロイドが生まれてしまった。  ウィルスは対処できたものの、改竄されたデータは元に戻せなかった。  非常に倒錯した淫乱人形になった彼女は、自分にはとても手に負えないと、仕方なく登録データを全削除して売り出すことに決めた、ということだった。 「…………まあ、私はわりと金に余裕があって良かったというか。もしかしたら、私のとこに来たのは一つの運命なのかもね」  彩は、椅子を180度回転させて、床に転がったままの美香の方を見つめる。  腹部は業者によって完全に修理され、性欲にまみれた表情も、動作確認による再起動によってリセットされ、目を瞑った無表情に戻っている。  まさしく今の彼女は、眠り姫という言葉が正しいくらいに美しかった。 「アンドロイドや機械化した人達のプレイって、人間が出来ることに加えて相当ぶっ飛んでるみたいだし……これはもっと、ちゃんと調べる必要がありそうかな。友美の言ってた通りだなぁ」  彩の中では今、新たな世界を知ったことによる知識欲の上昇が巻き起こっていた。  人間で言うSMとはまた違うような、それでいてグロテスク系のそれに近いようであってどこか違う世界。  このジャンルを描く以上、もっと知りたい。確かめたい。  彩の興味は、どんどん燃え上がっていった。 「ありがとう友美。次に話すときに感謝しとかないと。さってと、やるぞー!」  彩はさらなるやる気を噴き上がらせ、ひとまず美香を放置した状態で、今月分の原稿に着手しつつ、アンドロイドに関するあれこれを調べ始めた。  これからこの機械の美人と暮らす。それならもっと色んな事を知る必要がある。そんな気力さえ、美香は引き出したのだった。  こうして、エロマンガ家と淫乱なアンドロイドの、おかしな同棲生活が幕を開けた。


Related Creators