新しい機械人生 一話先行公開版
Added 2021-02-20 17:33:21 +0000 UTC現代よりもやや時代の進んだ未来の話。 その時代では、人間そっくりに造られ、見分けのつかない程に自然に稼働する機械人形、アンドロイドが、先進国を中心に世界中に溢れるようになっていた。 百貨店のスタッフや、アタッチメント機能を取り付けられた工事現場での作業要員。 OLや看護師、受付嬢、友人や恋人、家族、自宅での召使いと、その用途は多岐に渡り、人間社会に深く寄り添う存在となるまで浸透していった。 その一方で、並行して研究を続けられて来たのが、人間の機械化技術である。 四肢や上半身、下半身、さらには頭部、果てには脳まで、時が経つに連れて、生身から機械に置き換えられる箇所は次々と増えていった。 そしてついに、全身機械化技術は確固たる物へと到達した。 当初は金持ちにしか手が出せない程の高額であったが、脳死状態や全身不随、身体障害者に向けた機械化から派生し、ついには一般人に手が届く程の物になりつつあった。 アンドロイドに憧れ、お洒落として、美貌を求め、様々な理由で機械化したいと思い始める人が増えつつあったこの時代。 この物語は、とある病弱な女性が生まれ変わり、殻を破る話である。 * * * 「おはようございます、麻里佳さん」 「おはようオリヴィア……ありがとね、毎日毎日……」 「構いません。麻里佳さんのサポートと看病が私の役目ですから。バイタルチェックを開始します」 ある病院の一室にて、弱々しい雰囲気を放ちながらベッドに寝込む一人の女性と、そんな彼女を気遣う一体のアンドロイドがいた。 女性の名前は片瀬麻里佳。清楚な雰囲気と煌めきが見えるような美しさのセミロングヘアー。 顔立ちもクールな空気が漂う、思わず見惚れてしまいそうな美人ぶり。 スラッとした体型に衣服の下から膨らんでいる大きな胸。 彼女は元から病弱ではあったものの、高校の頃までは他の人々と変わらない日々を過ごせていた。 しかし大学進学から一年後に体調が急変。当初は動ける状態だったが、次第に少し動くだけでも苦しくなり、まともに歩くことすらできなくなっていった。 それから二年後、とうとう余命ニヶ月と宣告され、残されたわずかな人生をベッドの中で全うしようとしていた。 そんな彼女に寄り添い、世話をしているアンドロイドの名前はオリヴィア。 大学進学に伴い、一人暮らしをするようになったのを契機に購入した女性型アンドロイドである。 簡易的な擬似人格しか搭載されていない為に、機械的な反応がところどころに目立つが、比較的新し目の機種となっている。 容姿は二十代中盤程で、常に無表情ながらもそれが美しさに変換される程の、綺麗な成人女性的顔立ち。 無駄な肉の無い綺麗な体型に、麻里佳よりも大きく張りのある乳房。 まさしく人工の美に満ちた容姿に造られた、理想の機械人形とも言える存在であった。 オリヴィアは額同士を合わせ、唇で呼吸を感じ取り、手首と首にそれぞれ手を当てて体調を確認する。 毎日行われていることだが、オリヴィアの顔が近づく度にドキドキする。 「現在の体調に問題はありません。比較的良好です」 「……そっか、ありがとね」 「余命が近くては、やはり健康でも嬉しくありませんか」 「まあね。健康だって言われても、ずっと身体が弱いからそんな実感が無いの。元々みんなより身体も動かないし、すぐ疲れちゃうし…………もうずっと前から、歩くことすらままならないし」 その声は、どこか悲しさと苦しさが入り混じっているように感じた。 オリヴィアは表情も声色も変えないが、そっと衰えた手を握って、先程とは違う意味を込めて顔を近づける。 「私は稼働可能である限り、麻里佳さんの側にい続けます。せめて寂しくないように」 「…………ありがと、オリヴィア。そんなこと言われると……あたし、まだ生きていたくなっちゃうなあ」 電子頭脳が演算の末に紡ぎ出した言葉が、麻里佳の胸に響いてくる。 オリヴィアとまだ一緒にいたい。まだ勉強したいこともある。したいこともある。諦めきれない。 諦めるしかなけど、受け入れたくない。受け入れたくなくなった。 一筋の涙がこぼれ落ちたその時、病室に麻里佳の担当医が足を踏み入れた。 その後ろには、女性型アンドロイドの看護師がついている。 「今の気分はどうですか?」 「…………少し憂鬱ですね」 「そうですか。ややタイミングの悪い時に来てしまいましたね」 担当医が麻里佳の側まで移動する一方で、看護師はオリヴィアに近づき、首筋のカバーを外した。 「患者の体調データを取得しますね」 「かしこまりました。外部機体との接続を確認。認証された機体です。指定されたファイルの送信をリクエストされました。送信を開始します」 機械らしさが剥き出しのシステムメッセージを淡々と喋るオリヴィア。 それまで笑顔が作られていた看護師の表情も、アンドロイド同士でのやり取りが開始すると、ふっと感情が消えてマネキンのような無表情となった。 「あの、今日は何かあったんですか?」 「ああいえ、今回は一つ……というより、改めて提案を行おうと思いまして」 「改めて提案……ですか?」 「はい。現在の医療では、麻里佳さんの病を完全に治療することはできません。しかし、別の分野の力を借りて生きることはできます。以前からやんわりと断っているのは知っているのですが……」 「……それって、機械化の話ですか?」 「はい。全身機械化を行えば、生身は失ってしまいますが、少なくとも完全回復は出来るでしょう。当病院は機械化手術を受け持つフィルゲート社と提携しているので、安全性は確立されています。許可さえいただければ、いつでも始められますが……どうですか?」 以前にも提示されたことのあった、機械化手術の案。 だが麻里佳は、一度それを断っていた。 視線を反らし、複雑な表情を見せながら口を開く。 「……あたし、以前から機械化自体に抵抗があるんです。ほら、生まれ持った身体を捨てるってなんというか……怖いじゃないですか。あたしがあたしじゃ無くなるんじゃないかって、そういうことはしない方がいいんじゃないかって」 少し身体を起き上がらせ、自分の心情を吐露する麻里佳。 間もなく灯火が消えるという意識もあるからか、自分の気持ちが素直に喋ることができる。 不思議とそんな感覚があった。 その横では、二体のアンドロイド同士のデータ共有が終了していた。 「…………けど、少し考えたんです。あたしにはまだまだしたいことがあるなあって。まだ死にたくない。色んなことがしたい。それなら、このままベッドの上で死んじゃうよりも、自由になれた方がいいかなって……最近はそう思うようになりました」 「それでは……」 「……はい、機械化手術、受けようと思います」 彼女の中にあった機械化への抵抗感は、長い間の入院生活の中で、少しずつ積み重なる願望に塗り替えられていった。 生身を捨ててもいいから生きていたい。自由に身体を動かしたい。 そうして、間もなく命尽きるという時期に、麻里佳は最後の決断を下したのだった。 「わかりました。私としても、何も手を尽くせないのは辛いものがありましたから……生きる決断をしてくれたことはとても嬉しいです。体調面のデータは既に揃っているので、あとは機械化時のリクエストも提出していただければ、早くて二日後にでも始められますが」 「じゃあそれで、お願いします。出来れば、少し遅めの時間で……心の準備を整えたいので」 「わかりました。では二日後、またよろしくお願いします」 そう言うと担当医は、少し安堵したような表情をわずかに見せて去っていった。 去り際に、看護師のプログラムされた綺麗な笑顔が輝いていた。 再度、麻里佳とオリヴィアだけの空間になる。 オリヴィアはじっと麻里佳を見つめて、優しく手を握った。 「実のところ、麻里佳さんが機械化手術を受けるとは、以前までは考えられませんでした。しかし、最近の様子を見るに、わずかにその可能性も浮かんでいました」 「あはは、オリヴィアにはバレちゃってたのね……生身が無くなるのは寂しいけど……ずっとここで過ごすうちにね、友達とも、あなたとも居られなくなるのはもっと寂しいと思ったの」 麻里佳は、これまでずっと握り返さなかったオリヴィアの手を、ぎゅっと意思を込めて握った。 「……もうすぐ、あなたと一緒の身体になるのね。実感湧かないなあ……まあ今日決まったばかりだしね」 「それにしては、予測以上に落ち着いているようにも見えますが」 「……いつかはこんな日が来ると思ってたのかもね。ねえ、抱きしめてもいい?」 「構いませんよ」 麻里佳はオリヴィアの身体を抱き寄せ、その造られた、人工皮膚と服越しの人間的体温を感じ取った。 同様にオリヴィアも、現在の生身の感触と体温を、メモリー内に重要データとして保存した。 独り立ちを始めてからずっと側にいた一人と一体、生身と機械の大きな境界があった。 それが取り払われ、機械同士となる。 まだ実感は湧かないが、生身である残りの時間を楽しもうと、麻里佳は手術の時まで、自分なりの楽しみを満喫したのであった。 * * * 機械化手術当日。 麻酔を射たれた麻里佳は、作業台の上で何の懸念も無いように安らかに眠っていた。 下着すらない一糸まとわぬ姿を晒しているが、その全身はやや痩せこけており、明らかに食欲も著しく無かった様子が見て取れた。 筋肉も衰え、全体的に不健康であり、衰弱している姿が痛い程伝わってくる。 その縛りから、彼女を解放する。 手術室にて立ち会う、一人の担当医師と看護師アンドロイド達。 加工中も死なせないように外部機器である無機質な人工心肺が、麻里佳の直ぐ側で待機する。 彼女の身体を切り刻む準備は整った。 「それではこれより、片瀬麻里佳さんの機械化手術を始めます」 「バイタル安定。問題ありません。脳波の電子データ変換の基準値キープしています」 「よし、では早急にかつ、決して患者を死なせないように最善を尽くそう」 「了解しました」 こうして、麻里佳の機械化手術が始まった。 首元から胸部までの切開が行われ、看護師の正確無比な手付きによって、人工心肺との迅速な接続が開始される。 麻里佳の身体から出てくる、生きている証の赤い血液。 酸素と血液を脳に送る役目は人工心肺へと譲られ、機械の中で循環していく。 そして、麻里佳の首に刃が入り、胴体と頭部が離れ離れになってしまった。 これは、データ変換中に身体が拒絶反応を示した場合、異常な程に全身が暴れ始め、変換中の脳に危険が生じる為である。 中枢部を失い、首なしの状態となった身体。 反射的な動作か、四肢がぴくぴくと震え、ひとりでに動いている。 医師は後頭部にメスを入れ、頭皮と頭蓋骨を切り取り外していく。 その間に看護師が、痙攣する身体を抑えて下腹部にメスを入れ、子宮部から卵子を取り出し冷凍保存を行った。 露出した脳に、彼女の過去全てや人格、片瀬麻里佳という人間全てを構成する情報を全て電子化する為のチップが埋め込まれていく。 首だけの麻里佳は、目を瞑っていながらもぴくぴくと震えていた。 「今の所は順調だな。あとは……」 その直後、ちょうど手術室に運ばれてきた一つの女体。 それは、麻里佳の身体データとリクエストを元に作成された、生身の存在しない彼女の新しい身体。 人工皮膚に覆われ、首や肩、股間、太もも、胴体など、ところどころに分割線が見えている。 全身の体型も今より肉付きがよく、痩せこけた印象のない健康的かつ理想的な身体。 全データの読み取りが終われば、あとはバックアップを作成しつつ電子頭脳に組み込む作業が待っている。 「もうすぐですからね、麻里佳さん」 意識が闇に落ちた麻里佳が、次に目覚める時は生まれ変わった後。 口からほんのわずかに唾液を垂らしながら震えているが、突如覚醒し暴れる気配もない。 こうして、麻里佳の新しい人生への一歩は、進められていったのだった。 * * * 麻里佳の機械化手術から数日後。 動作系統やプログラムの調整、機械の身体に慣れる為のリハビリを終えた後、麻里佳はついに退院を果たした。 長い間の病院生活に、まともに遠出すらも出来なかった麻里佳。 そんな彼女は今…… 「やったー! もうお日様の下で走るなんて、一生できないと思ってた! もう全身の感覚が心地よいわ!」 機械としての生を存分に満喫していた。 肉付きを取り戻した身体に、久しぶりの病院服以外の服がとても似合う。 ファッションモデルと言われても、誰もが納得するだろう。 そんな彼女の手には、担当医から渡されたアタッシュケースがあった。 「おめでとう、麻里佳さん。私も嬉しいですよ」 もう来ないとも想定していた退院に、素直にお祝いの言葉を向けたオリヴィア。 百合の花のように綺麗で眩い笑顔が、眼球のカメラに収められる。 「ありがとうオリヴィア。あなたが居てくれなかったら、きっともっと辛かったでしょうね」 「力になれたのなら幸いです」 「ふふ、もし壊しちゃっても、保険証があれば格安で修復してくれるなんて、機械になってもそういうの適用されるなんて知らなかったわ」 「機械化後の保障も様々な物があるので、あとで確認してみましょう。帰宅してからじゃなくても、脳内からファイルを読み込むこともできますよ」 「あっ、そういえばそういう使い方もできるのよね……ちょっと色々試してみようかな」 道中、機械の先輩であるオリヴィアに、アンドロイドだからこそ出来る動作や機能について教えてもらう麻里佳。 今までとはもう何もかもが違う自由の世界。 その笑顔は、誰の目にもとても輝いて見えた。 そして、年単位ぶりに帰ってきた自宅。 彼女の部屋は一人暮らしにしてはやや広く、PC環境や防音設備、オートロック式など、とてもしっかりとした部屋だった。 「ただいま! あぁ……あたしの家だ……もう懐かしいって思えちゃう……」 「部屋の様子を見るのは、私が撮影した画像越しだけでしたからね」 それまでよりも明らかに身振り手振りが大きく、溜め込んだ気力が有り余っている程に無駄な動作が多い。 そんな麻里佳の身体からは、耳を澄ますと聞こえる程度の駆動音が、各部からきゅい、きゅい、と鳴っていた。 「なんでもっと早く機械化しなかったんだろうってくらい快適ね! ああもう、今までこんなテンション無いってくらいに嬉しい!」 「本当によかったです麻里佳さん。明日には予備パーツも届けられる予定のようなので、それまでは自宅でのバックアップ設定なども済ませましょう」 オリヴィアの労いの言葉が、電子データとなった人格に温かく響く。 ここから先の人生は、人間だった頃から大きく異なる。 食事は娯楽以外でする必要もなく、稼働するエネルギーは充電から。 体液は外から補充しなければならず、自動的に生成されることはない。 人体にはあったはずの機能、そして機械だからこそ付加された機能、失ったものと得たものがそれぞれ存在する。 それでも、生き続けられるという喜びには代えがたい。何よりそんな身体の新しい要素を、麻里佳は楽しみつつある。 この先、何が起きてもなんとかなる気がする。麻里佳はそう思考していた。 こうして、年齢としてはかなり早い第二の人生が幕を開けたのであった。 * * * 「無線操作でPC起動できるなんて、本当に便利ね……この身体」 麻里佳が機械化してから二日後。 それまでの死に直面していた病弱体質はどこへやら。この世の春が来たとでも言わんばかりに新しい生活を満喫していた。 自宅にある不必要になった物はあらかた処分し、これから必要になるであろう物品を購入。 携帯端末で行っていた操作は、全て電子頭脳内で簡潔し、電子マネーで支払うにも何かを取り出す必要も無い。 読み取り機器に手をかざすだけ。 それ以外にも、スリープモードでいつでも睡眠に入れる。腕や首を外してみても苦しくないし痛くもならない。 痛覚信号こそ存在していても、それはいつでもオフにすることができる。 これまでの常識がことごとく覆されるような出来事の数々に、まるで非日常の中に飛び込んだかのように思えた。 そんな人生の絶頂機とも言える毎日を過ごし始めた麻里佳は、オリヴィアが買い物に向かっている間、PC前に座りネットの様々なコンテンツを楽しんでいた。 電子頭脳からネットに接続は可能だが、脳内で完結するのとモニター越しに閲覧するのは感覚が違うとして、マウス操作だけ自分で行うことにした。 それまで触れることすらなかった機械言語が理解できる。頭に入れることも無かった機械化関係の情報が、するすると記憶データに溜め込まれていく。 「へえ、アップされたMODをインストールして、人格の調整や新しい動作の学習ね……そっか。電子情報になったから、あたしの人格も記憶も感覚も弄れるんだ……」 機械化した記憶や人格は、全てアンドロイドの擬似人格と同じコードの塊と同等の存在となる。 以前は強い抵抗感があったが、いざ変わってみればなんてことはなかった。 感覚の違いや多少あれど、人間だった頃とたいして変わらない。むしろ出来ることが多い。 体感する事のどれもこれもが新鮮で全く飽きない。 楽しい毎日をこの二日だけでも強く実感しながら新しい世界を漁っていると、麻里佳の視覚に気になる情報が飛び込んできた。 「破損することで、エラーや痛覚信号の代わりに快楽信号と認識して処理するMOD……? えっ、どういうこと?」 それは、これまでの常識からはとても考えられない代物だった。 機械に生まれ変わっても、傷つけば痛いのは変わらないはず。痛覚信号のカットは可能だが、それが快感変えられるなんて。 麻里佳は強く興味を惹かれ、それの説明文を読み込んだ。 「破損により発生する快楽信号は、通常の自慰やセックスよりも高い水準を誇る。ただ人間と同様に手淫を行うよりも女性器ユニットを取り外して弄る方が気持ちいいのと同様に……えっ? そうなの……?」 その文言に思わず釘付けになった麻里佳は、迷わず身につけている部屋着を全て脱ぎ捨てていった。 入院して以降、基本的に性欲発散はオリヴィアに頼んでいた。 自分の手では満足いく性感が得られず、性機能を持ったオリヴィアに、度々女性器を弄ってもらっていた。 そういえば機械化して以降は一度も自慰行為をしていないと、思い出しつつ記憶データから参照する。 興味本位のままに全裸になると、身体中に継ぎ目が刻まれた極上の女体が空気に晒された。 サイトを確認しつつ、麻里佳の右手は股間へと移動し、割れ目の周囲についた分割線に爪を引っ掛ける。 「ん……こういうの、元の身体には無かったものね……肌の感触は柔らかいのに、なんか変な感じ」 かつては存在しなかった物を認識すると、人間とは違うものになったのだと実感する。 そんな取り外せることを示す隙間に触れた瞬間、わずかに電子頭脳に快感があたえられた。 まだメインの箇所にも届いていないのに。 麻里佳は自身の操作で軽く人工愛液を噴出させ、それを二本指に纏わせる。 放出の瞬間、股間を中心に響くような気持ちよさが伝わってきた。 「あっ……ん…………自分の操作で……出せる…………は……あっ……それで、指を挿れて…………」 人工愛液の影響で、彼女の割れ目は既に何かを受け入れたそうに濡れている。 そこに少し抵抗感を持ちながらも二本指を挿れ、分割線の上部に親指を当てた後、内部操作で女性器ユニットを取り外した。 かちゃりと、人体からは決してなり得ない機械的な音をたてて、人間と同じ生殖器が前面に迫り出した。 人体ではまず存在しない性器の側面は、まるで肉の筒のような形をしており、肉々しいピンク色となっている。 その奥からは、体液タンクと繋がった細長い管と、単体でも稼働できるように小型バッテリーに電力を送り込むケーブルが顔を出していた。 いやらしい肉筒の先には、麻里佳のそれを再現した子宮ユニットが備わっている。 数本の線を残して外れた女性器ユニットを見て、なんだか性欲値が上昇しつつある麻里佳。 引き起こされた衝動のままに、麻里佳は右手でずるりとそれを取り出し、PCの操作を行いながら器用にユニットを弄りだした。 「あああぁぁ……あっ……あんっ! な……にこれ……はぁ……あっ……きもち……いい……こんなに……きもちいいの…………初め……てぇ…………ああんっ!」 人差し指でクリトリスを弄りつつ膣壁も軽く刺激を与え、残りの手で肉筒に爪を立てたり握ったりと、人生で一度もしたことのない自慰を始める麻里佳。 その感覚は、何度も密かにしていたオナニーよりも、オリヴィアがしてくれたものよりもとても気持ちいい。 身体が痺れて嬌声を上げるのが我慢できない。 そんな思わぬところから見つけた快楽信号に身を委ねながら、麻里佳は鮮明にページを読み進めていく。 「あっ……あんっ! あ、ぁぁ……あう……破損した時の……か、快楽信号……は……それよりも……さ、さらに……膨大で……はああっ! そんなに……きもちいいの……あんっ! あ、あたしが今……してるのより……?」 現在の女性器ユニット弄りでさえ未知の領域なのに、これ以上とは一体どんな世界なのか。 快楽信号の処理に連動し、人工愛液がとろとろと溢れ、ピンク色の乳首が固く勃ち上がっている。 そんなとんでもない物、体験しないわけにはいかない。 麻里佳はページの先に載っていたリンクにアクセスし、破損や誤作動、エラーを快感に変換可能になるMODをダウンロード。 すぐさまインストールしようとすると、顔を赤らめ乱れていた麻里佳の表情がふっと消え失せた。 「あ、あぁ……あんっ! こんな……の……おかしくな…………不明なファイルをインストールしようとしています。出自不明のファイルは、機体の動作に影響を及ぼす可能性があります。インストールしますか…………インストールを開始します」 麻里佳自身ではなく、基本システムからの音声が、麻里佳と同じながら抑揚のはっきりした感情のない声で口から流れる。 自身でファイルを入れる決定を行うと、再び表情は戻り、倒錯的な手淫を再開した。 「ああっ……あんっ…………システムが介入……してくるの……少し……変な感じね……あっ、ぁ……ああ…………」 まるで自分ではない何かが勝手に喋り思考をしているかのような、機械にしかない不思議な感覚。 まだ慣れていないが、その基本システムも含めて今の自分なのだ。 それよりも、今はこの初めてを感じていたい。 新しいプログラムが自身の中に加えられていくのを感じる。自身のアップデートが感覚的に理解できる。 電子頭脳内で進行度を確認しつつ、女性器ユニットを玩具にし続け、何度も一人でよがり続けた。 人工愛液の分泌が止まらないと同時に、麻里佳の胸から、母乳代わりに水道水がたらたらと漏れ始めた。 これは、彼女に備わった胸部タンクが、まだ使用する機会はないけど補充してないとなんだかスッキリしないということで、自分で入れた物だった。 本来ならば母乳が出てしまう程の気持ちよさを体感し、さらに人格データが蕩け始める麻里佳。 そして、インストール終了の通知を確認すると、待ってましたとばかりに初心者向けガイドを読み進めた。 「はぁ……あっ……あんっ……初心者……は……ぁ…………壊すまで……いかなく……ても……あっ……電子頭脳に……衝……撃を……与えたり……あはっ……あっ……傷つけるだけ……でも……ん……快感が……ああんっ!」 言うなれば、自傷行為が直接性的快感に直結するという主旨のもの。 果たして本当にそんなことが起きるのか。 女性器ユニットを扱い、時に乳首をつまみながら胸を揉みしだくだけでも、溶けてしまいそうなくらいに心地よい。 もう少し続ければ、絶頂に達してしまいそうな程に。 「じゃあ……あんっ……ちょっと……だけ……ぇ……あ、ああぁ……」 麻里佳は、お手軽に衝撃を与えるならひとまずこれでいいかと、机の角に向けて自分の頭を振り、こめかみにぶつけた。 静かな室内に、金属の衝突音が鳴り響く。 直後、彼女の身体はこれまでに体験したことのない快楽信号に襲われ、全身が大きく痙攣した。 「ひあああっ!! あああっ!! あ、あ、あ、な、なにいま……の……あっ、ぁ……こんなに、損傷が……き、きもちいいの……?」 元は生身の肉体だった彼女にはわかる。これは脳が焼けてしまいそうな程の快感だと。 機械の身体だからこそ受け止められる、機械だけの特権。 無意識に麻里佳の表情は綻び、一瞬にして自損オナニーの虜になってしまった。 「ああっ! あんっ! あんっ! ここ、こんな、はあんっ! 損傷しし、して、気持ちいいのが……気持ちよくて、あっ、あはあっ! あ、あ、あたし、お、おかしくなっちゃ、ひあああっ!!」 人工の呼気が興奮によってとても激しくなり、女性器ユニットを弄る手が止まらなくなる。 何度も何度も、自分の頭部を机の角に叩きつけ、股間から離れた生殖器をひくひくとさせながら、気持ちよさそうに潮を噴く姿は、まるで故障し狂ったロボットのよう。 周囲を水浸しにしながら、倒錯的な性感に溺れる麻里佳は、機械化してから初めての絶頂に達しようとしていた。 「あっ! あ、あ、あ、ひぎあっ! あんっ! き、きもちいい、いいわ! ああっ! こ、こんなの、生身だだだったら絶対に、はあっ! あんっ! あっ、あ、頭がヘンになっちゃうう! あんっ! あ、ああああああっ!!!」 そして、麻里佳の人格データは複数箇所から発生した快楽信号の影響を受け、魂が吹き飛ぶような解放の声を上げた。 どくどくと肉壷からは愛液が漏れ、秘肉はひくひくといやらしく蠢いている。 乳頭から排出される水道水はだだ漏れになり、周囲の床を水浸しにしていった。 ぽかんと口を開き、ぐったりとした姿勢と共に悦びに満ちた顔を晒す麻里佳。 人工唾液がだらしなく口端から垂れ、あまりの気持ちよさに人工涙液の雫がこぼれる。 そこには自然の体液は存在せず、全てが人工物。 それらが組み合わさって造られた人型の淫靡感。 びくっ、びくっ、と痙攣する彼女の口からは、今にも事切れそうなくらいに切なげな色に染まった声が漏れていた。 「あ、あ…………あんっ…………き、機械……の……身体って…………こんな……あんっ……きもち……いいの……ね……あっ……ぁぁ…………」 こんなにも電子頭脳内を埋め尽くすような事象が起きたのに、人間の時のようにくらくらもせず、未だ状況認識がはっきりしている。 機械の身体が、今にも全てが無に帰す所だった麻里佳を、新しい世界へ引き上げたのだった。 「あはっ…………あた……し…………いま……とて……も…………しあ……わせ……ぇ…………あんっ…………」 余韻に入っても、快楽信号の気持ちよさが留まる気配が無い。 手に握られた女性器ユニットは、愛液を分泌しつつ、まるでバイブのようにひとりでに震えている。 今の彼女の姿は、傍から見ればまるで打ち捨てられたセクサロイドのよう。 そんなだらしなく壊れたような姿でも、今の彼女にとっては幸福な時間でしかなかった。 こうして、片瀬麻里佳の新しい人生が、一つの非人間的な要素を加えて始まったのであった。