献身的な機械妻 1話先行公開版
Added 2020-02-13 17:20:06 +0000 UTC時代と共に大きく進歩する機械工学。 その進化は人々が想像する以上に留まることを知らず、手元から身の回り、都市から世界中まで、人間の生活には深く機械が関わるようになっていった。 それに連動するように、人々の周囲には少しずつ人間そっくりの機械人形であるアンドロイドが普及し、入り込むようになった。 当初は人間に近いとは言い難い擬似人格や電子音声の完成度も相まって、継ぎ目こそありながら見た目は完璧に近くともアンドロイドだとはっきり解る特徴が存在していた。 時が経つにつれ、技術の飛躍によって次第に機械と人間の境目は薄まり、いつしか人間が機械へと生まれ変わる機械化技術が一般化する程に、世界の常識は進んでいった。 しかし、どれだけ境界が薄まっても人間は人間、機械は機械。姿形は一緒でも根本は違うもの。 機械化は言わば別の存在へと生まれ変わるものである。 それが幸せへと進むか、不幸の一歩になるのか。肉の塊から金属部品の塊になった者にしかわからない。 * * * 「いってらっしゃい、あなた」 「ああ、今日も頑張ってくるよ」 スーツ姿の夫を、いってらっしゃいのキスから笑顔で見送る美人妻。 彼女の名前は紺野美優。夫の紺野博文とは新婚の関係であり、まだ結婚して一年と経っていない。 額を出すように左右に分けた、シルクのような黒髪のロングヘアー。 かすかにおっとりとした雰囲気を帯びながらも大人の色気と見惚れるような造形美を兼ね備えた顔立ち。 エプロン姿からも激しく強調される、ロケットと形容されるような大きく弾力のある二つの乳房。 それでいて体型は引き締まりすらっとしており、女性としては高身長気味の脚が。さらに全身の魅力を引き立てる。 真珠のような白くきめ細やかな肌は、思わず肌を寄せてずっと触っていたくなるくらいにすべすべとして柔らかい。 まさしく誰もが羨むような、完璧な美貌の持ち主だった。 「今日は早く帰ってくるかしら……ふふっ、それまでに綺麗にしておかないとね」 夫が帰ってくる時を想いながら可愛らしく笑みをこぼし、美優は早速朝食を済ませた後の食器を片付けに向かった。 「あっ、もうすぐゴミ回収の時間じゃない。えっと、今から出るゴミは……これくらいなら片付けても間に合いそうね」 てきぱきと作業を進め、テーブルとキッチンの上を雑さの見当たらないほどに整理し、ゴミ袋をいっぱいにしてからしっかりと外へと運び出しに行った美優。 するとその途中、ちょくちょく会話を交わす近所の一人暮らしの女性と遭遇した。 「あら、優子さん。おはようございます」 「おはようございます美優さん。今朝からよく動いてますね」 「ええ、夫が帰ってくるまでに、出来る限り家の中は綺麗にしておきたいですから」 「もう、いっつも美優さんは夫のことばっかり」 「うふふ、それくらい愛してますから、博文さんのこと」 ちょっとした会話の中にも混ざる、大好きな夫との惚気。 声色や幸せそうな表情から嫌味は何一つ感じられず、心の底から夫のことが大好きなんだなぁと思わせられる。 「いけない、そろそろ収集車来ちゃいますね。それじゃ、私はこれで」 少し話し込んでしまったと、申し訳無さそうに眉を下げた後、美優はそそくさと早歩きで改めてゴミ捨て場へ向かっていった。 「……ああいう人を完璧って言うのねぇ……」 背中越しにも伝わる相変わらずのスタイルの良さが、同性から見ても唾を飲み込むような魅力を感じさせられる。 自分もあんな綺麗な女性になれたらなあとぼんやり思いながら、女性はその場を離れていった。 「おはよう博文。今日もしっかり、働いてくれるのを期待してるわよ」 博文が出社するオフィス内。上司である眼鏡を着用した女性型アンドロイドが、鋭い目つきながら信頼のこもった声と表情で話しかけ発破をかけた。 被造物であるが故に男性社員や女性社員に憧れの眼差しを向けられる容姿と体系。 しかし博文は、男の性として気分こそ上がるものの、美優の方がもっと魅力的だと内心で感じていた。 「博文さん、出勤前にたぶんあの人から一斉送信のメッセ届いてますよね? どう思います?」 「うーん……なんとも言えないけどちょっと嫌な予感はするかな」 「ですよね? あたしも届いたメッセの文言だとそんな面倒なパターンなんじゃないかなーって」 隣のデスクに着き、気軽かつ気さくに話してくる同僚の女性社員、杏子。 彼女は機械化手術を受けて全身を金属部品に置き換えた元人間であり、新しく得たスペックをフルに活かし、仕事からプライベートから充実した日々を送るようになっていた。 会話の中に現れたメッセージも、博文には携帯端末内にインストールされたアプリに届けられているが、杏子の場合それは電子頭脳内に受信されている。 外部で誰かと会話交流しながら、脳内で同時に与えられた作業を進行する。といったようなマルチタスクを平然と行えるようになった彼女は、まさしく便利な機材の如く職場で重宝されていた。 「そういえば、奥さんとは相変わらず仲良くしてますか?」 「もちろん。美優と一緒にいると、仕事の疲れも吹っ飛ぶくらいに大好きだよ」 抑え込もうとしても内心の好意が漏れ出している回答に、杏子は生暖かい笑顔を見せた。 「それならよかった。どんな理由で冷めちゃったり仲悪くなるかもわかりませんからね」 「あはは、心配してくれてありがとう。でも今は大丈夫かな」 「油断してると危ないですよ? それに……どれだけ夫婦仲が順調でも、大きく生活が変わる出来事だっていつ起こるかわかりませんからね?」 どこか意味深な、忠告のようなアドバイスのような言葉を向けられ、少しだけどう返答したらいいのか迷った博文。 親切心から言ってくれているのはよく理解しているので、博文は笑って誤魔化した後でお礼を口にした。 人間から機械になった杏子は、汗もかかず人工皮膚は一点のくすみもなく、髪型もショートからロング、髪色まで付け替えることで自由自在。 人間時代から自分磨きに余念がなかった彼女の体型はさらに磨きがかかっており、まさしく大抵の人が思い描く理想の女性とイメージされる存在に他ならなかった。 だがそんな杏子に心を動かされない程に、博文は美優のことをどこまでも愛している。 早く仕事を終えて家に帰れればいいなと思いながら、早速この日の作業に身を投じていった。 日常の家事や炊事をこなしつつ、その美貌を保ちながら夫のサポートを欠かせず行う美優。 そんな夫婦二人にも、性の営みの時間は存在する。 美優と博文はいつも一つのベッドを二人で使用し、お互いにいつでも顔が見合うように、服やシーツ越しに互いの体温を感じられるように、一緒に胸の鼓動を高鳴らせていた。 そしてこの日は、不定期に訪れるそれぞれの好意と性欲を発散する日でもあった。 美優と博文は一糸まとわぬ姿で向かい合い、掛け布団の暗闇の下で身体をそっと本番前に抱きしめ合う。 博文の一物には、しっかりとコンドームがはめ込まれていた。 「なあ美優、胸が潰れて痛くないか?」 「ん……いいえ……私は平気です。あなたの身体をより感じられてる気がして……この感覚は嫌いじゃないの。博文は大丈夫? 私の胸、邪魔だったりしてない?」 「そんなわけないよ。むしろ大好きだ」 「ふふっ……ありがとうあなた。愛してるわ……」 ぎゅっと柔らかく潰れる乳房の感触を互いに感じ合いながら、二人はそっと唇を重ね、少しずつ舌を絡ませ始めた。 舌から伝わってくる妻の唾液の味、口内から感じられる肉体的な湿り気と体温。 肉同士の感触が、液体の絡む音が、柔らかな女性の皮膚との接触が、美優という人間の生の感覚を脳に伝え、興奮を高めていく。 同時に博文は左手を美優の股間へと移動させ、愛液を分泌させるために優しく秘部をいじってあげた。 「ん……あ……む……ぅ…………んん…………あっ……ん……あなた……私はいつでもいいから…………挿れても…………ん……大丈夫よ……」 潤んだ瞳が博文の姿を愛おしそうに映し出す。 美優が抱きしめる腕の力が強まり、もっともっと夫の愛情を求めるように、非力ながらも自分の方へと抱きよせる。 博文はそれに応えるように過半心を揺らして位置を調整し、すっかりと蜜の溢れていた美優の淫らな生殖器へとずぶっと挿入した。 「あっ………あんっ…………あなたのが……入って…………は……あっ…………ん……」 薄いゴムの膜越しにも伝わる、美優の温かくもいやらしく蠢く肉壁の感触。 まさしく夫の肉棒をもとめるが如く挿入された一物を咥え受け入れ、気持ちよくなってほしいとばかりに刺激する。 二人は体勢を変え、正常位の形となって夫が妻に覆い被さる。 逞しく血液のほとばしった一物は美優の肉壷の奥まで進み、膣内に生の刺激を与えていった。 「は……あっ……あっ…………あなた……ぁ…………は……っ……もっと…………ほしいの…………」 お淑やかながら成人女性的魅力に溢れた声が、今は色気と情欲に染まり喘ぎ声を上げる。 博文の鼻に伝わってくる、美優の汗の感触、ニオイ、生物的な刺激、ほんのりと肌から膣から感じる生きた温かさ、熱い呼吸、血液の流れ。 大きく柔らかな乳房に遮られて感じ取りにくいが、ふと身体が谷間の奥と触れる度に興奮で高鳴る心臓の鼓動がはっきりと感じられる。 全身で感じる妻の生と性が博文の心を本能のままに昂ぶらせ、生物的に快感を求めるように腰を振る。 「ん、あっ、あ…………あっ、あっ…………あ……なた……ぁ…………愛してます…………はあ……あっ……あんっ…………」 普段美優自身が知っている優しい夫からは想像できないような突きに、身体中が疼いてくる。 自分が愛されている、大好きな夫と一緒に夢中で営みをしていることがとても嬉しい。 頭の中がふわふわとしてしまうくらいに、博文から与えられる悦びが止まらない。 夫婦二人はこうして、日常生活の中で身体の奥から繋がるような愛情行為を度々行っては、さらなる愛を深めていた。 二人の仲は非常に順風満帆であり、いつまでも一緒にいたいと思える程に不満もなく相思相愛を保ち続けている。 しかし、感情は変わらずとも周辺の環境や家内の事情は時が経つに連れて何かしらの変化が加わることになる。 それは美優と博文の間でも同じことであった。 * * * そんなある日。休日の夜を夫婦水入らずで過ごしていた博文。 ソファーに沈みながら、ゆったりと家内の環境音を耳に入れつつ天井を見上げ、こんな日々がいつまでも続けばいいな……などと考えていたその時、博文の側に美優がゆっくりと近づき、隣の空いたスペースに座り込んだ。 「ねえ、あなた。少し相談があるんだけど……いいかしら?」 背もたれに背中を置かず、綺麗な姿勢で隣の夫を見つめながら声をかける美優。 その雰囲気は仲良く交流するいつものそれとは違い、何か思い詰めているような神妙さを感じるものだった。 「……ああ、大丈夫だよ。何かあったの?」 博文は少しだけ思考を挟んだ後、迷わずに美優の相談に乗った。 信頼の証か、その言葉の後で笑顔がほころぶ美優。 心を整えるように小さく息を吸い、相談内容を切り出した。 「あのね、博文。私……機械化手術を受けようと思うの」 二人の間の時間がわずかに止まったような気がした。 博文は妻の言葉を飲み込んで、冷静にその話題を真剣に聞き続ける。 「驚いたな……美優からその言葉が出るなんて」 「嫌だったかしら……?」 「ううん、そういうわけじゃないよ。けど、どうして機械化を受けようた思ったんだ?」 その言葉を聞いた美優は、少しだけ緊張した表情が緩んだ。 当然ながら信頼していたが、ちゃんと真剣に理由を聞いてくれている。やっぱり私の夫は優しいと、改めて言葉を続ける。 「理由は色々あります。一つはもっといっぱい家庭の作業を出来るようになるため。今でもなんとか家事は出来てるけど……機械化したほうがもっと効率よく進められると思うし、細かい作業も行えるようになるでしょ? そしたら時間に余裕も作れるかなって」 「うん、次は?」 「次は私がずっと若くいたいから。機械になれば容姿はこのままでもいられるし、作り変えることもできるの。博文や色んな人に褒めてもらった私を残しておきたいし、自分も今が大好き。博文も、私が若いままがいいでしょ?」 「僕はどんな美優も好きだよ。けど、どうかと言われたらそうだね」 「ふふ、正直で嬉しいわ。最後は……あなたのため。もっと色んな面であなたのために役立ちたいの。すごく大雑把だけど……こんなところよ。子供もいつか産みたいからちゃんと卵子保存はするわ。……どうかしら?」 「…………わかった。美優の選択なら止めはしないよ」 「ありがとう、あなた!」 考えに考えた末に打ち明けた決心を受け入れてくれた夫に、美優は満面の可愛らしい笑みで身体を寄せて抱きしめた。 腕から脚から服越しから感じる妻の生の温かさが、この時はなんだか特別なものに思えた。 「お金も僕が出そう。そこまで君が負担する必要はないからね」 「本当にありがとう……嬉しいわあなた。私、生まれ変わってくるからね」 これでもっと沢山動ける、もっと夫の為に尽くすことができる。 美優は湧き上がる愛情を発露しながら、選択を受け入れてくれた博文への好意をさらに高めて甘えるようにしばらく身体を任せていた。 一方の博文は、いきなりの打ち明けに未だ戸惑いの感情は抜けきらないものの、彼女が考えた末に出した結論なのだから、それを受け入れよう。どんな姿になろうとも美優が美優であることには変わりない。 そう思いつつ、少しずつ動揺を崩していきながら、しばらく美優と身体をくっつけあっていた。 * * * 機械化手術当日。 手続きを全て済ませ、料金も事前に支払い、民間の最大手機械化施設にて生まれ変わる時を今か今かと待ち続けていた美優。 まるで医療機関とは思えないようなクリアな内装の施設では、人間と人の形をした機械が入り乱れており、ぱっと見ではどれが人間でどれがアンドロイドやサイボーグなのか全くわからない。 目の前を通りすがった高校生程の少女には、一瞬だけちらりと首元に継ぎ目が見え、彼女が人間ではないことが把握できたが、それまでは全くわからなかった。 「私も、ああなるのね……楽しみだけど緊張もするわ……」 自分で言い出したことだが、内心では期待半分不安半分なのも事実。 そうこうしているうちに美優に割り当てられた番号が呼ばれ、アンドロイドスタッフの案内で手術室へと向かった。 そして、手術直前。美優はひんやりと冷たい金属の手術台の上で、一糸まとわぬ姿で仰向けになる。 身体が少々縮こまり、我慢しながらも乳首が固くなる。 周囲にいるのは女性型アンドロイドやサイボーグばかりで見られることに抵抗は無いが、それでもアンダーヘアの生えた陰部や胸を惜しげもなく人様に晒すのは恥ずかしさがあった。 「それではこれより、紺野美優様の機械化手術を開始します。途中、意識を覚醒させることがありますが、作業工程には問題ありません」 いかにも説明口調な女性の声が耳に届くが、どうにも自分がどうなってしまうのかと考えると耳の中を通り過ぎてしまう。 もうすぐ自分は肉の身体ではなく機械の身体になる。こうしていざその瞬間に入ると、生まれ変わるのだという実感が湧いてこない。 「麻酔を行います」 物思いに耽って説明を聞き逃しているうちに、美優の身体へ麻酔の投与が行われた。 周囲の話やネット上の体験記と、機械化後の話は色々と耳にしていたが、自分にどんな新しい生活が待ち受けているのかはわからない。 そんなことを思っている途中、美優の意識はふっと電源が切られたように闇へと落ちていった。 「――――…………ぁ…………」 手術途中、美優が意識を取り戻し、不思議と浮遊しているような視界が飛び込んでくる。 「意識レベル上昇。データ置換作業に問題はありません」 ぼやけた思考が、現在の光景をなんとか処理しようと頭を回す。 自身の目下には、所々に血痕がこびりついた手術台と、その上に乗せられた首のない仰向けの女体。 照らされた灯りに光が反射する程に肌は美しく、まるで芸術作品のような姿を思わせる。 美優はその身体が、手を加えられた自分の身体であることを自然と理解できた。 ということは、今の自分はもしかしたら首だけなのだろうか。首だけで動いているのだろうか。なんだか後頭部に冷たさを感じる。 しかし怖いという感情は浮かばない、むしろ不思議と新鮮な嬉しさすら感じられる。 すると、美優の身体は自分の意志とは関係なくカクカクと四肢を無意味に動かし始めた。 「動作テストを開始します。現時点では各部異常無し」 まるで操り人形のような動作で、虚空に手を振ったり胸や腹に触れたりと、少しずつ動作に人間的な自然さが付与され始めていく。 あれが私の新しい身体、機械の身体なんだと考えていたその時、美優の意識が突然ノイズが走ったような機械的違和感に襲われる。 「これより、紺野美優の全脳内情報の電子データ化を開始します。開始と同時に強制的に意識レベルを低下させ、安全を確保します」 アンドロイド達の逐一行われる報告が、美優の頭に入ってくる。 これから自分の意識は金属部品の中に入った電子情報となる。無数の電極とチップが埋め込まれた生体脳が、未来へと思考を巡らせる。 そして間もなく、生体脳の最後の役割を全うさせるための電流が生体脳へと与えられていった。 「――_&$*#――⬛⬛⬛――!!!???」 美優の頭はぐりんと白眼を剥いて口をぽかんと開き、音として形にならないうめき声を発して震えた。 雑多に混ざりあった頭の中が整理されているような、過去から今までの自分の全てが並べられているような、人生の中で決して体験したことのない奇妙だが心地よい感覚が襲ってくる。 同時に自分には意味のわからない数字や文字の羅列が意識に潜り込んでくる。だが、なぜだかそれは、一度も学習していないのに産まれた時から理解できるもののように感じる。 この数字……文字……コードは子供の頃から、もっと前から理解できるものだったのではないか。過去にそんな例は一軒も存在しないが、そう自然と認識できてしまう。 まるで母からの言葉のように与えられたコードを解読した瞬間、美優の意識は再び闇へと落ちていった。 「意識レベル低下を確認。並びに人格データへの置換を完了しました。これより、記憶データの置換へ移ります」 自意識が肉体の電気信号から、電子部品内の一データへと生まれ変わる瞬間を体感した美優。 だが、今の彼女には自意識や記憶を自分の自由にする権限は与えられていない。 紺野美優という新しい人間が完成するまで、彼女の身体はしばらく外部機器からの命令に従って操作され続けるのであった。 * * * その日の夜。 自宅にて久しぶりに一人でいる時間を過ごしていた博文は、ウイスキーを少しだけ嗜みながら愛する妻が帰ってくるその時を今か今かと待ち侘びていた。 「まだかな……まさか、美優がいない日がこんなに寂しいなんて」 結婚して以降、長らく夜に一人になるということが滅多に無かったこともあって、妻の声と姿がないことがとても空気に穴の空いたように感じる。 機械化手術に関して詳しくは知らないのもあって、もしかしたら帰ってくるのは明日以降になるのだろうかとも思い始めたその時、博文の携帯端末に妻からのメッセージが送られた。 その内容は、もう家の前だけど荷物が多くなっちゃったから少し手伝って、というものだった。 直後、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。 待ってましたと博文は飛び上がり、早歩きで玄関へと向かった。 「ただいまあなた。私、機械になって帰ってきました」 「お、おかえり……美優」 扉の先に現れたのは、いつもと変わらぬお洒落な服装に身を包んだ容姿端麗な妻の姿。 だが、空気に晒されている顔や四肢の白い肌は、以前のような人間らしさを保ちながらもさらに透き通るような美麗さが備わり、衣服の下から現れるボディラインも、さらに引き締まり完璧さに磨きがかかったように感じる。 天使のような妻が、女神のようになって帰ってきた。博文は思わず言葉を失った。 「ねえあなた、さっきのメッセージはちゃんと届いた? 脳内からメッセージを送るなんて初めてだったからうまくいったかわからないんだけど……」 「あ、ああ……ちゃんと届いたよ」 「良かった! 本当に頭の中だけで出来ちゃうのね……あ、それと今から大きな荷物が入ってくるから、押入れの方に一緒に運びましょ」 そう言った直後、背後からやや大きめなダンボール箱が運ばれ、美優はそれを両手で持ち上げ、そそくさと室内へ運び出した。 続けて二つ目が、ぽけっとしていた博文に明け渡される。 ずしっと両腕に伝わってくる荷物の重み。これを妻はあんなに軽々と運んでいたのかと、人間だった頃よりもさらに強くなったなあと思いながら手伝いにくわわった。 揺れるダンボール箱の中から、うっすらと金属同士がぶつかり音が聞こえる。 押し入れ前に横並びに置いていき、それを何度か繰り返して引っ越し直後のような光景を作り上げた。 「すごいな……これ全部美優の荷物?」 「ええ。私の予備パーツから換装用の物まで、色々と私の周辺機器として提供してくれたの。これもあなたがお金を出してくれたおかげよ」 荷物を運び終えた後で、改めて帰ってきたばかりの美優の姿を見つめる。 眩しくお淑やかな笑顔が、出会った頃と変わらない心をくすぐるような魅力を全面に押し出してくる。 何度見ても、これまでよりも余計綺麗になった以外に機械になったという雰囲気が掴めない。 妻の足先から脳天までじっと眺めていると、美優は頬を染めて少し照れ始めた。 「あの……あなた……ちょっと照れちゃいます……」 「ああすまない。けど……本当に機械になったのか? こうして見てる分には、殆ど違いがわからないな……」 「私もまだちょっと信じられませんけど……本当に機械の身体になったんですよ。あっ、ちょうどとてもわかりやすい機能があるから、見せてあげますね」 そう言うと美優は、両手で自分のこめかみを掴むように挟んだ。 まるでキャップを開けるかのやうな振り向きとは違う直線的な動作で首を回転させていく。 そして、人間ではあり得ない真後ろの180度まで首を回し、痛がる様子も苦しむような声も上げない、まるでそれが当然かのような姿を見せた。 「だ、大丈夫なのか美優!? そんな首をそうやって……」 「大丈夫よあなた。全く痛くないし、それにこうやって……」 いつもの日常と変わらない声色で、瞬きすら出来ない程に驚く博文の言葉に応えていく美優。 直後、首元から鳴らされたかちっという小さな着脱音と共に、美優の頭部は首から離れて持ち上げられた。 苦しむような様子もなく、両手で掲げた頭部をマネキンヘッドを扱うように回転させ、正面を向く。 「身体と頭が離れても普通にしていられるの。私も最初は驚いたけど、こうやって繋がってる感覚というか……人間の時には無かった感覚があって今でもすごく不思議」 まるでホラー世界の住人のような、デュラハンのスタイルで微笑んでみせる美優。 生まれ変わったことをこれでもかとはっきり眼の前で明示されたが、彼女の魅力や性格に変わった様子は見られない。いつもと変わらない愛する妻の姿。 そんな彼女を見ているうちに、新しい身体となった美優への欲が感情と下半身に集まってきた。 「そうか……何か悪いことが起きなくてよかったよ。その、ところでさ……機械になってからいきなりかもしれないけど、少し……シないか?」 両手の中に収まる美優の顔は、それを聞いて目を細めて、待ってましたと言わんばかりに妖しい笑みを浮かべた。 「うふふ……試してみる? 私も博文と身体を重ねたいな……って思ってたの」 頭部を回転させ、改めて身体に直接接続し直して、頬を赤らめながらそっと博文の側に寄り添う。 衣服越しに感じる人工皮膚の感触が、博文に新鮮な感覚を伝えて胸の鼓動を思春期のように高鳴らせる。 機械化してからずっと会いたかった夫の身体をいきなり受け入れられる幸せに電子頭脳を熱くしながら、美優は夫と共に寝室へと移動していった。 * * * 結婚する前からも、それからも、幾度となく愛情と肉欲を共有し合ったベッドの上で、機械化してから初めての営みに入ろうとしていた美優。 ベッドインの前に、人間だった頃よりもスムーズな動作で着ていた衣服を下着含めて全て脱ぎ去った後には、天然の美術品に人間の手が加えられた、女神のような女体が姿を現した。 首から下には産毛一本も無く、小さな毛穴すら存在しない。肉裂の周囲に生えていたアンダーヘアも全て無くなりつるつるとなっている。 それでいて乳房や肌のハリは人間だった頃よりも向上しており、見ているだけで触りたくなるような扇情的な質感を示していた。 何度も見たはず、しかし何度見ても飽きることのあり得ない妻の裸が、新たな魅力を備えて帰ってきた。 美優は見せびらかすように博文の前を向き、楽しそうに自分の身体の説明を始めた。 「機械の身体になってからね、人間の時に悩まされたことも無くなったの。生理も無くなったからナプキンも買わなくていいし……また別の物を買う必要はあるけどね。でも、生理痛が来る度に精神的にも辛かったから……これであなたに迷惑をかけなくて済むわ」 「言われてみればそうだね……しんどい要素が無くなるのは良いと思う」 「それに、あなたとセックスする時はいつも避妊具着けてもらったりピル飲んでたでしょう? でも、人工受精しない限りはもう妊娠もしなくなったから、生でしても大丈夫なの。ほら見て?」 そう言うと美優は、小さく色っぽい声を上げて二本指を膣内へ挿入する。 直後、美優の女性器はかちゃりと非生物的な音を立てて前面へ迫り出され、それを右手で掴むとずるりと人間らしい生殖器官を取り出していった。 妻の股間から現れたそれは、周囲の人工皮膚ごと取り外された割れ目の向こうに、ぱっと見本物と見まごうクオリティだが本物の肉程グロテスクには感じない、膣部の役割を果たすピンク色の肉筒。 その先には、自由に取り外し可能な、美優の本物のそれを精巧に再現した子宮ユニットが取り付けられていた。 超高級オナホールのような女性器ユニットは無線で繋がっており、美優が大好きな夫を見つめている影響からか、ひくひくと精巧な割れ目が性を求めるように蠢いていた。 「これが私の生殖器で……この子宮でね、人工受精も出来るんです。液体もある程度溜め込む機能もあるから、あとで洗うことも出来るの。少し触ってみる?」 博文は言われるがままに、渡された女性器ユニットを手に取った。 今までは自身の一物を挿入したり、股間に目をやり見つめていたそれが、両手の中で取り外し可能な部品として動いている。 そっと痛くしないように意識しつつ側面を軽く持ってみると、人間の肉を掴んでいるような感触にシリコン特有の感覚が入り混じったような不思議な柔らかい質感が肌に伝わった。 身体から離れたばかりだからか、ほんのりと人の身体のようにあたたかい。 「ん…………あっ…………」 すると、美優がユニットに与えられる刺激に連動して小さく色っぽい声を出し始めた。 わずかに膝を曲げて股間からの感覚を散らすように太ももを触れ合わせる。 「あっ…………本当に……繋がってるのね…………機能として存在するのは把握してたけど……いざ出してみるのは初めてなの……ん……」 手元の割れ目が、早く性感が欲しいと主張するようにひくひくと動き、子宮ユニットと小刻みに揺れている。 人間らしくはない姿だが、愛する妻の異質ながら情欲に包まれる姿を見て、博文の性欲が一気に高まり始めた。 博文は女性器ユニットを返し、衣服を全て脱いで抱きしめた。 「美優……なんだか、そろそろ我慢できなくなってきた……大丈夫?」 「…………ええ、もちろん。前戯もいらないわ。私が自動で愛液を排出できるから……」 美優の機械の身体から、人間の肉体的な温かさとは違う再現された人体の温もりを感じる博文。 美優は夫の身体の感触を全身のセンサーで感じながら女性器ユニットを装着し直し、性欲値を上昇させて二人ベッドの上へと転がり込んだ。 先程まで身体から離れていた生殖器から人工愛液が滲み出ると同時に、本当の意味で夫の生の繋がりを味わえること、機械としての処女をこれから散らすことに陰核が興奮から反応する。 そして、二人は本能のままに身体を重ね、熱いキスを交わしながら互いの生殖器を組み合わせた。 「ん……あっ……あああっ! あっ、ん……あっ……すごい………あっ……私、キスしながら喋れて……は……あっ…………あなたのおちんちんが…………もっと感じられて…………ああっ! あんっ、きもち…………あっ、あっ……」 生身だった頃よりも明らかに早い、妻の快感を覚え始めるタイミング。 声帯からの発声から、スピーカーから鳴らされる非常に精巧な電子音声へと変わったことで、口を閉じていても明瞭な発音が可能になり、キスを口づけを交わしている間でも己の感情を形にできるようになった。 柔らかく感触の良い樹脂の唇と、人工唾液を纏った舌を重ね交わし合うが、かつて感じた唾液の味は一切感じられない。 妻の体液は無味無臭。ただ粘ついただけの透明な液体が排出されていた。 「あっ……は……はぁっ……ああっ! あなた……あっ………私、こんなに気持ちいいの…………あああっ! もっと、もっと突いてぇっ! はああっ!!」 吐息混じりのような声を、淫らな表情と共に吐き出しているが、彼女の鼻や口からは呼気は一切感じられない。あくまで電子音声を発するスピーカーが、人間らしい吐息声を再現して発しているだけである。 愛おしく求めるように、ぐっと夫の身体を受け入れる美優。 人工的な温かさに染まった女体は、博文に人工皮膚の気持ちよさを叩き込む。 人間だった時の肌と同じようにたわむ体表面。しかしかつてよりも沈み込みたくなるようなクッションの気持ちよさが付加されたように感じる。 美優の特徴であり性的魅力を一段と引き立てる大きな乳房は、その柔らかさとハリが一段と増し、さらにどれだけ弄っても痛みを感じなくなったため、まさしく性玩具のように扱えるようになった。 博文が欲望のままに身体を押し付け、乳首と一緒に潰れる度に、人間の時には存在しなかった未知の快感が電子頭脳へ伝えられる。 「あっ、あっ、あんっ! あああ、ああっ! あなたぁ……大好きよ、愛してます……身体中が熱くて……あ、あ、あっ、ああんっ! こんなの初めて…………はああっ!」 腰を振り、人工愛液に塗れた肉棒で膣を突く度に、人間だった頃のそれと殆ど変わらないどころかさらに洗練されたような美優の膣肉が、夫を気持ちよくするために締め付けられる。 男性器に与えられる快感は、まるで高級セクサロイドと交わっているような天国にも上るような気持ちよさ。 人間の時には感じられなかった程のプログラムによって造られる極上のテクニックが、博文の感覚を鋭くし、妻の感触をさらに肌に感じるようになる。 離れている時には全く聞こえなかったが、妻の内側から鳴らされるとても小さな駆動音が、今の美優が機械であることを感じさせる。 膣内を突く度、キスをする度、子宮に刺激を与える度、その無機質な金属音はペースが早まり、喘ぎ声に隠れて人工皮膚の下から鳴り響く。 機械へと生まれ変わった美優との初めてのセックスは、まるで妻に非常に良く似た何かに身体を許しているような感覚を覚えそうになる。 しかし、今目の前にいるのは間違いなく美優本人。自分と愛する夫のために志願して生まれ変わった機械の女性。 どこか胸中と脊髄に覚える、愛する妻が人間でなくなったことへの小さな背徳感が興奮を高め、さらに肉欲のままに腰を振る。 「あっ、ああっ! あなた、あっ、あんっ…………はぁ……あっ、あああっ! きもちいい……あんっ、あっ、あっ、あっ、あああっ!! あ゛っ! だいすき、すきいい……あはあっ!」 機械化によって全身に感じる性感への処理能力が大きく向上した影響か、これまでに無いほどにお淑やかさを保ちながら淫らな表情をみせる美優。 機械の身体で行うセックスがこんなに気持ちいいだなんて。美優の電子頭脳は初めての快楽信号によって人格データが激しく刺激され、間もなく無機物の処女を散らそうとしていた。 それと同時に、初めて機械の女性器の気持ちよさを味わった博文も、燃えるような興奮の息を吐きながら絶頂に達しようとしていた。 「あ、あ、っ、はあああんっ…………ひああっ!! あっ、あんっ、あなた……あなたあっ! あんっ、ああっ、は、ああっ! あ、あああああああっっっ!!」 女性器ユニットから、人工皮膚下のセンサーから、乳房から感じる膨大な快楽信号が電子頭脳に押し寄せ、夫から初めて注がれる人間の愛欲の結晶を膣内から子宮に受け止め、美優は機械化してからはじめての絶頂を迎えた。 人格データへ与えられた影響を形にするように昇天の声を叫ぶと同時に、電子頭脳のシステムが周辺への影響を考慮し、ボリュームを自動的に低下させた。 放出された精液を一滴残らず吸い取り、溜め込んでいく美優。呼吸の無い彼女の表情は、恍惚に満ちた非常に満足げな熱いものとなっていた。 「あっ…………あ…………ん…………あなた……ぁ……私の……新しい身体…………どうだった…………?」 興奮冷めやらぬまま全身の力を抜き、内部機構を駆動させたまま夫に問いかける美優。 ぽたぽたとこぼれ落ちる博文の汗。一滴も汗の吹き出さない作り物の肌の上に、生物の水滴が乗せられていく。 「あ……ああ…………すごく……よかった…………これが…………うっ…………美優の…………身体なんだな…………」 冷静さを取り戻した博文の目が、それまで写らなかったものをいくつも映し出す。 美優の身体中にとても薄っすらと備わっている無数の継ぎ目、瞳の奥で激しく動作するレンズ、人間に限りなく近く作られてはいるが決して人間のそれではない人工皮膚の表面。 改めて機械となったことを脳裏に刻まれるが、博文の妻を愛する気持ちは変わらなかった。 そしてその言葉を聞き、美優の人格データは感情値が揺れるように変動し、夫の愛情を溜め込んだ子宮をきゅんきゅんと振動させる。 ずっと脳に心に感じたかった愛する博文のDNAが、解析データとして電子頭脳に刻み込まれた。 「よかった…………私、もっともっと……博文のために頑張るわ…………ね……」 「ああ、僕も……こんなに綺麗で可愛らしい妻を迎えられて、とても幸せだよ……」 ベッドの上で愛欲と性欲全て引っくるめて抱き合う、熱愛を保ち続ける夫婦。 自然な生物的体温と作り物の人工的体温が皮膚を通して通じあい、しばらく二人の気持ちを泡に包まれたように優しく余韻に浸らせた。 こうして、人間の夫と機械となった元人間の妻による新しい夫婦生活が幕を開けたのであった。
Comments
ありがとうございます!生物的な営みからの間柄を持った後での機械化、良いですよね……
土装番
2020-02-16 05:22:01 +0000 UTC人妻が機械化するシチュとても好きです!
さな子
2020-02-14 15:15:32 +0000 UTC