一から造った機械との同棲 1話先行公開版
Added 2020-01-14 09:54:35 +0000 UTC現代よりも少しだけ遠い未来の人間世界。 長年のAI研究、機械工学等多岐に渡る分野の発達によって、人間と殆ど変わらないと言っても過言ではない、自然な振る舞いや言動を見せるアンドロイドが製造されるようになった。 人の腹からではなく、工場や個人制作によって造られていった機械人形達は、姿を現し始めた当初は奇異の目で見られていた。 時が経つにつれて、他の人間達と同様に人間社会にも自然に溶け込むようになり、いつしか大多数の人々に受け入れられるようになっていった。 その一方で、モノ扱いの空気が完全に消え去ったわけではなく、金属部品によって一から工場で造られる姿や、店売りの部品で個人製作が可能という点からも、自分達人間とは形は同じでも違う存在だと、しこりを残している一面も存在する。 だがそんな空気も、肉体から機械の身体へと生まれ変われるサイボーグ技術の成長によって、同じ存在となることを身近に感じることでだんだんと薄れ始めていた。 人間時代の生活をそのままに、機械としてのメリットを享受できる機械化は一躍人気を集め、若者を中心に人間の肉体を捨てる者が続出した。 これは、そんな時代のある一人の女性とアンドロイドの話。 * * * 「こちらのベルが鳴りましたら、カウンターまでお越しください!」 都内のとあるファーストフード店に勤める、人間の女性店員の伊藤有沙。 栗色のふわふわとした綺麗なセミロングヘアーに、大人びた雰囲気としゅっとした綺麗な顔立ちでありながら、どこか若い幼さを残した笑顔輝く魅力溢れる顔。 同年代の中では比較的身長が少々高く、カウンター越しに隠れているのが勿体ない美脚、無駄な贅肉がついた様子が殆ど感じられないボディラインに、制服越しに男性客の心を鷲掴みにする豊満な乳房。 シンプルながら可愛らしさも備わっている制服に身を包んでいても、その身体の魅力は隠せなかった。 「お疲れ様でしたー。昼は結構人入りがすごかったね」 「連休のど真ん中ですもんねー。注文入力するにしても、いつ変なトラブルとか起きちゃわないかって不安で不安で」 その日の夕方。有沙は夕方以降のスタッフと入れ代わりで退勤した。 ロッカーで制服を脱ぎ、シャツ一枚から盛り上がる胸が自然と強調されながら、同僚と楽しく業務時の話をしつつ服を着ていく。 「そういえば、途中変なのいましたよね。有沙さんの胸に手伸ばそうとしてた人とか」 「あーあの男ね。あの時はなんとか穏便に解決できたけど、内心後ろの列見てみろって言いたくなっちゃった。触られたら思いっきり殴ろうかと思ってたもの」 「ですよねー。私もいつ通報アラーム鳴らそうか考えちゃいましたもん」 有沙の愚痴にも近い話を聞いていた後輩が、笑い合うどさくさに紛れて両手で下から有沙の両胸を持ち上げた。 「はーでも……気持ちはわからなくはないんですよね……この柔らかさと弾力というか……」 「ちょっと、すごく流れるような動作で反応遅れちゃったけどなにしてんのよ……」 ゆさゆさと重量感を持って服の上から遊ばれる乳房。 有沙の口調は最初少々怒りを込めた声色になっていたが、まあ彼女にならいいかと、気を許している相手なのもあってどこか満更でもない様子でもあった。 「だって、たぶん有沙さんの生おっぱい触れるのって今日が最後ですよね? その前に思い出に刻んでおきたいなって」 「あー……まあそういえばそうかもね」 伊藤有沙は以前から機械化を考えており、それに向けての貯金を以前から少しずつ継続していた。 そして、ついに目標金額である、機械化しても懐にちゃんと余裕のある額が残る程度の貯金額を達成した。 この日の勤務は、数日間の休みを開けるということもあって機械化前の最後の出勤であり、その旨は同僚にも既に打ち明けていた。 「だからって、そんなにがっつくことないでしょ。機械化したって私は変わりないんだから」 「そうですけど……それとこれとはまた別の感情がありまして……」 「はいはい。それじゃ、私はそろそろ行くから手を離してね」 少し寂しそうに手を離す後輩。持ち上げられていた両胸が、服越しの形を取り戻す。 「それじゃ、また今度ね。お疲れ様」 「お疲れ様でしたー!」 両手を腰の横で小さくわきわきとさせながら、後輩は去っていく先輩の姿を笑顔で見送った。 「さてと、予約時間まであと一時間か……余裕で到着できるかな」 既に機械化手術を受ける為の手続きは済ませており、あとは施設へと向かい施術を受けるだけ。 以前から様々な動画や評判、カタログを見ては心を躍らせていたが、いざ今までお世話になっていた人の身体を捨てるとなると、まるで十何年以上も心を癒やしてもらった住居と別れるような、何か胸元を締め付けられるような感情を覚える。 しかしそれ以上に、自分の知らない世界へと踏み込む期待が心の中を埋め尽くす。 「私もああいうことできるようになるんだなー……」 駅へと向かう道中、有沙は家電量販店の入口で、街灯に煌めく美脚を晒しながら商品宣伝を行う女性型アンドロイドスタッフを目撃する。 「新商品の多機能ハウスワークアームオススメですよー! こちら付け替えるだけで即使用可能、換装時に対応ソフトもインストールされるため、余計な設定もいりません!」 スタッフの右腕は、人間らしい左腕とは対象的に人工皮膚の被せられていない無骨ながらもスタイリッシュな物となっていた。 自然な電子音声で右腕を商品としてアピールしつつ、丁寧に機能実演を行いながら道行く人々の購買意欲を煽っていく。 アンドロイド向け商品のため今の有沙には関係ないと通り過ぎるが、それも今日までの話なんだなと、歩みを進める度に街の景色がちょっと違ったものに見えてくる。 「そこのお姉さん! 今日から新商品のチーズクリームたい焼きが発売したんですけど、おひとついかがですか?」 通りすがりのゲームセンターに併設されたたいやき屋スタッフの女性型アンドロイドが、僅かに向いた視線を捉えたのか、有沙に近づきいっぱいの可愛らしい笑顔で客引きする。 「うーん……それじゃ一つもらおっかな」 「ありがとうございます! お会計は電子マネーですか? 現金ですか?」 「電子……あっ、足りないか……現金で」 「かしこまりました。商品受け取り時にお支払いくださいね。たいやきいかがですかー!」 会話の最中、スタッフの瞳のレンズが細かく動作しているのが見える。 その中でもスタッフ間での通信が行われているのか、一つもらうと注文した直後にたい焼き作り担当のアンドロイドが、スムーズな手捌きで注文商品を袋に詰めていった。 有沙との意思疎通が途切れた直後、客引きスタッフはぶつ切りにも感じる切り替えで再び人々行き交う道に魅力的な声を振りまいていった。 「どうぞ、おまたせしました。チーズクリームたい焼きです。ありがとうございましたー!」 プログラムの塊である自然で快活な声と表情と共にスタッフから手渡される熱々のたい焼き。 なんだか自分の新しい門出を祝われてるような気もしてくる。 「せっかくだし、早めに行っちゃお」 彼女達を見ていると、なんだか早く変わってみたいなんて感情が沸き起こってきた、ような気がする。 有沙は人間としての最後の食事とばかりに酸味と甘みの調和したチーズクリーム餡を味わいながら、足早に歩みを進めていった。 * * * 「あの……この拘束って必要なんですか?」 「申し訳ありません。肉体を原材料にして加工を行いつつ金属部品へと置換していく都合上、場合によっては身体が無意識に反応し作業の妨げになる恐れがあります。なので、基本的には拘束させていただいております。作業の際には全身麻酔を行い意識を落としますのでご心配なく」 職場から直接施設へと赴き、手術室へと案内された有沙は、ガイドの通りに衣服を全て脱ぎ、全裸で手術台の上に寝かされるという恥ずかしい状態となっていた。 呼吸の度に発育の良い胸が上下に揺れ、先端と乳輪部分を空気がくすぐる。 スタッフ全員が女性型アンドロイド、または機械化した女性のみで構成されているため、羞恥心はやや抑えられてはいるものの、やはり赤の他人に自分の裸をまじまじと、しかも開放的に晒されているのはどうしても顔が赤くなってしまう。 「ところで有沙様、こちらに来られる前に食事をなさいましたか?」 「えっ、まあはい……ちょっとだけ。何かまずかったですか……?」 「いえ。ただ、内容物処理の工程が加えられますので、終了予定時間に少々の差が生じます。ご了承ください」 なんだか淡々ととても恥ずかしいことを知らされているような気がして、思わず顔を反らす有沙。 天然の反応なのか、感情面を抑えられて作られたのか、女性型の一体は笑顔を絶やさず見つめている。 その間にも次々と準備は勧められ、周辺の動きが落ち着いたところで、応対していた女性型の表情がふっと変わり、周囲に次々とスタッフが集まってくる。 「施術開始時間となりました。それではこれより伊藤有沙様の機械化手術を開始します」 ついにこの時が来た。ずっと心待ちにしていた生まれ変わる瞬間が目の前までやってきたのだ。 これから意識が落ちるのかもしれないが、次に目を覚ました時はどんな世界が広がっているのだろうか。 そんな夢想を繰り広げていた最中、有沙の思考は断ち切られたように突然無に落ちた。 「意識レベルの低下を確認。全身置換の後、脳髄置換及び脳内情報の電子データ化を開始します」 眠りについたことを確認したスタッフ達は、プログラムされた手順に従いてきぱきと作業を進め始める。 生体脳に人工血液を循環させつつ、脳死状態にならないように処置を施しながら四肢を切断し、少しずつ彼女の生まれ持った身体から生体部分を無くしていき、冷たい金属部品を組み込み、加工し、ついには樹脂と金属部品の塊へと生まれ変わっていく。 こうして、伊藤有沙の人間としての時間は、あっさりと終わりを告げたのであった。 * * * 「予約注文来ました! 12:45にジャークチキンサンドセット二人前です!」 機械化手術を受けた二週間後、有沙はこれまでと何も変わっていないかの如く、元気に笑顔を振りまき仕事に従事していた。 その裏では、電子化した脳を店舗の注文システムと接続し、ほぼノータイムで同僚への連絡を行えること、バッテリー切れさえ起こさなければほぼ休憩なしでも余裕で動けること、いざとなればインストールされたレシピに従って調理部門のヘルプに向かえる等、人間だった頃よりも行動の幅が非常に大きく広がっていた。 かつ、彼女の元々持っていた美貌はさらに輝きを増し、産毛やシミひとつ無いきめ細やかな人工皮膚と金属骨格や内部機構による矯正によって、天然と人工両方の魅力を兼ね備えた天使とすら思える女性となっていた。 「了解でーす! 他に何か注文来てたりはしてないですか?」 「今のところは……あっ、いらっしゃいませ!」 「すみません、BLTサンドとメープルビスケット、あとコーラのMサイズをお願いします」 「かしこまりました。こちらサンドとドリンクはセットにしますと割引されますが、どうなさいますか?」 「あー、じゃあそれで」 「かしこまりました」 後輩と客への応対で180度変わる、本来の声をサンプリングした電子音声による声色。 人間だった頃もそれだけの切り替えは行えていたが、機械化して以降はさらに素早くかつはっきりと違う応対となっていた。 それはまるで、専用の返答プログラムでも組まれているようだった。 「では、こちらのベルが鳴りましたらカウンターまでお越しください。ありがとうございます!」 「先輩、機械化してからすごいよく働いてますよね……疲れないんですか?」 「うん、まあね。まだバッテリーも充分だしキャッシュデータも溜まってないから、まだまだ行けそうかな。やる気あるのは身体の色々を試したいのと、なんか心機一転って感じかな」 「へえ……前から先輩すごかったですけど、もっと離れた存在になったような気分ですね……」 「もう、そんな大袈裟よ。もしよかったら、貴女も機械化受けてみたらどう? 勤務時間たしか私より多かったし、お金の余裕はあるんじゃない?」 「あー……興味はちょっとあるんですけどね、私はまだ大丈夫です。色々やることがあって」 「そうなんだ……もしやる気出てきたら相談に乗るからね! 先輩として、そこは任せておいて」 人間から機械となったことで、自身の状態に使う単語にも変化が起きたが、彼女にとってはそれは些細なこと。 機械化してある程度の期間が経ち、それなりに新しい生活にも慣れて新鮮な楽しみを全身に浴びていた有沙だったが、彼女には一つちょっとした悩みが現れ始めていた。 職場から自宅までの道中、有沙は電子頭脳内で動画サービスを利用して映画を視聴しながら、眼球ユニットから得た視覚情報を処理して正確に人にぶつかることもなく歩いていた。 その際に生じた人格データの反応も脳内で処理し、表情には出さず、マルチタスク機能を内々に楽しんでいる。 そうして自宅であるマンションの一室に到着し、赤外線カメラで暗い自宅の中からスイッチを確認して押し込む。 日常の一つ一つにも自身が文明の利器となった瞬間を感じられ、日々に新しい刺激が入り込んでくる。 しかし、今日の彼女はちょっとだけ浮かない顔をしていた。 「はあぁ……」 感情を表すために作られた溜息を吐きつつ、首筋の充電端子にコンセントから伸びる充電ケーブルを差し込む。 自身の意志に関係なく、システムの一つとして全身がぶるっと震える。 それからややどんよりとした空気を帯びながらベッドの上へと転がり込んだ。 「近くに仲間がいないの、なんだか寂しいわね……身近に同じ機械がいないのがこんな寂しいなんて」 有沙はここ数日、身近にアンドロイドがサイボーグがいないことにちょっとした寂しさを感じるようになっていた。 この時代にしては珍しく、彼女の職場には偶然にも生身の人間しかおらず、知り合いや友達にもそれらしい人物はいない。 友達の友達ともなるとさすがに遭遇することはあるが、頻繁に話をするような仲である相手はいなかったのである。 その為、機械にしかわからない気持ちやあるあるを共有できず、溜め込んだ日常を発散することが出来ずにいた。 SNSで発露することまで可能だが、人間の感性を残している彼女が求めているのは眼と眼を合わせながらの対面会話や声と声での通じ合いであり、とりあえず放言することではない。 そろそろそんな知り合いが欲しいなーと思いながら、有沙はディスプレイを乗せた机に向かい、首筋のもう一つの接続端子にケーブルを繋ぎ、もう一方をディスプレイへと差し込んだ。 「あー映った映った。これって私の脳内をそのまま映してるようなものよね……なんか変な感じ」 画面内に映し出されたのは、有沙が電子頭脳内でリアルタイムで動かしているブラウザ。 表示されているホームページは、アンドロイド用の部品が中古から新品まで揃えられた最大手オンラインショップだった。 普通は存在しているような矢印も無く、自分の思考を形にした画面内を面白く感じながら、少しずつスクロールさせてぼんやりと眺めていく。 「そっか……こういう部品も私に関係あるようになったんだなぁ……付け替えも出来るし、増設とかも……」 人工頭髪から足先の付け爪まで、ファッション感覚で換装できる自分の身体。画面内に広がっているのは全てが自分の身体候補。 やろうと思えば目の色や髪色、胸の大きさや手足の長さ、顔の造形まで全て変えることができる。 人間の時には決して手軽に得られなかった自由度を感じつつ確認していたその時、有沙の脳裏にある一つのアイデアが浮かび上がった。 「……そっか、いないんなら造ればいいのよね」 周囲にいないならば造れば良い。非常にシンプルだが思い浮かばなかった考え。 今はお金さえ出せば人間と同等の存在が自宅でも生み出せてしまう時代なのだから、自身もその時流に乗り出せばよかった。 早速有沙はショッピングサイトへとアクセスし、カテゴリとして存在しているアンドロイドの項目へと飛んでいった。 「ああそうそう……何度か見たことあるけどこれくらいするわよね。組み立て済みだとこんなにするんだ……」 次々と現れる販売品ページのサムネイル。 組み立て済み製品のページには、笑顔で楽しそうに稼働している姿の写真や内部機構を惜しげもなく晒すアンドロイドの姿が載せられている。 思わず手を伸ばしたくなるが、その値段は改造を受けたばかりの有沙には手が届かない。 ページを進めていくと、必要な部品のみを集めた組み立てセットも表示され始め、そちらの値段はユーザーが完成させる分リーズナブルとなっていた。 「こっちなら私も手が出せそうだけど、うーん、どうしよう」 改造後も懐に余裕があるようにと残していた貯金だが、今ここで使っていいものだろうかと内心のブレーキがかかる。 が、様々な商品を見ていく中で、有沙は現在の残金である程度の余裕を残せる金額の女性型アンドロイド製作セットを発見した。 「あら、これいいじゃない! 値段もちょうどいいし、スペックは……流石に劣っちゃうけど、後から換装すればなんとかなるかな。しかもアシストソフトまであって……よし、これにしよっと!」 商品説明を確認すればする程、購入しない理由が見当たらない有沙にとっての優良商品に出会えた。 有沙は実装する人格データと容姿のリクエストを済ませると早速カートに入れ、手元からの操作よりも圧倒的に早い電子頭脳からの操作で決済を確定。脳内に届く確認メールを閲覧すると、ケーブルを取り外して再びベッドの上へと転がり込んだ。 「到着予定は明日っと、あは……これで私のもとにも新しい友達が…………って、これある意味衝動買いよね。機械になっても変わんないなあ」 彼女の表情は先程までと違い、購買欲と願望の一つが同時に満たされた爽やかな顔つきになっていた。 たとえ中身が変わっても、本質が急激に変わるわけではない。人格や記憶が電子情報となった分簡単に弄ることは可能なのかもしれないが、自分でそのアイデンティティに手を付けようなどと考えたことはまだ無い。 「あんまりすることも無いし、シャワー浴びて体液補充済ませたらからスリープモードに入ろっと」 激しくはないがゆらゆらと変動した感情値が、人格データをセンチメンタルにさせる。 こんな日は気分をリフレッシュさせて眠るに限ると、有沙は明日のことを想いながら浴室で体表面を簡単に洗い流すことにした。 * * * 「これが組み立てセットかぁ……予想はしてたけど、結構スペース取るじゃない」 予定していた到着時間よりもやや早めにアンドロイド製作キットが到着し、埋め尽くされた玄関のスペースを見てやや途方に暮れる有沙。 荷物運搬を担当していたのも殆どがアンドロイドであり、その中には女性型も何人か混じっていた。 涼しく元気な顔で運んでいる姿を見て力持ちだなあとぼんやりと考えていたが、予想外の荷物の数にその思考もやや抜け落ちた。 だが、この中に新しい友達、または家族の元が詰め込まれていると思うと、中枢部が活性化してくる。 ひとまず運びやすいように無数の箱をある程度整理した後、有沙はその中で一番小さな箱に手を付けた。 そこに封入されていたのは、説明書変わりのQRコードと、同じ内容がインストールされたUSBメモリだった。 人間とアンドロイド両者にサポートされている手厚さに、親切だなあと両方の世界を体験している有沙は深く感心した。 「これを差し込んどけばいいのよね…………外部メモリが接続されました。自動的にファイルをインストールします」 カメラアイからQRコードを読み取る事もできるが、ここはお手軽に電子頭脳にインストールしようと首筋に差し込むと、有沙は感情の無いシステムメッセージをぼそりと無表情で呟いた。 2〜3秒そのまま静止した後、何事もなかったようにふっと生気を取り戻した。 「あーこれ自動なんだ……セキュリティソフト入れといてよかった」 突然の自動操作に驚くが、何も大きな変化がないことに安心した有沙。 新しく組み込まれたファイルを確認すると、そこには女性型アンドロイドの構造図と説明書、そして自動組立プログラムという予想外の代物が確認できた。 「あれ、もしかしてこれって……私がやらなくても勝手に身体が動いてくれるってこと?」 元来有沙はそこまで機械系に強いわけではなく、インフラであるインターネットや携帯端末、PCなどの機器は普通に扱えるが、専門外の機器やプログラミング系統の分野はさっぱりだった。 機械となったことにより、人間的な思考からではなく直感的に機械言語を理解できるようになっていたものの、それでもまだ苦手意識は抜けきれていない。 そんな彼女に、自動操縦とも言えるこのプログラムは天啓とも思える代物だった、 「こんなの使うしかないじゃない……えっと、このソフトをアクティブにして……」 便利道具を使わない理由は無いと早速有効化させると、有沙の身体はまるで外部から操縦されているかのように動き始めた。 「まずは箱を全部開いて……これが最初に扱う機材ね……えっ、すごい……私知らないはずなのに理解してる……!」 自分の知識にないはずなのに、わからないのに理解しているような不思議な感覚。 一つずつ中身を開けていくと、ばらばらの金属骨格、脳の形を模した電子頭脳、人間らしい外見を作り出すシリコンスプレー、今にも揺れ動きそうな眼球ユニット、美容室のマネキンに被せられていそうな艷やかでさらさらとした人工頭髪、胸部に備え付けるであろう柔らかなシリコンバッグ、バッテリー、やや生々しい見た目の女性器ユニット、その付属品らしき子宮部、無数の配線類など、女性型アンドロイドを構成する数え切れない数のパーツが詰められていた。 これを組み上げていけば、今の自分のような人型が生まれるのだろうか。この部品の一つ一つから自分も造られているのだろうか。 高まる期待にCPUを熱くしながら、有沙はプログラムに従って製造作業に入っていった。 * * * 作業開始から数時間後、外はすっかり月明かり照らす闇夜に包まれていた。 バッテリーが続く限り休み無しで作業を続け、操られているかのように手を動かし、たった一日で大量の機械部品は人の形へと生まれ変わっていた 「ちょっと一旦中断して……あの大量のパーツからここまで形になるなんてね」 家にあるテーブルを組み合わせて即席で作成した作業台の上に寝かせられているのは、見た目麗しい大人の雰囲気に満ちた女性の上半身と、配線によって断面から繋げられた綺麗な下半身だった。 冷たい金属で造られた骸骨はきめ細やかな樹脂の白い肌に覆われ、見た目には非常に精巧な人間そっくりにしか見えない。 美人らしさを主張する鎖骨に、有沙のそれに負けない程の豊かな乳房。その先端部にはしっかりとピンク色の乳首が備わっている。 ぐったりと力なく横たわっているしなやかな両腕は、ずっとべたべた触っていたくなるほどに情欲を煽り立てる。 そんな容姿端麗な人間の上半身、その断面から覗かれる無数の接続部と機械部品。 配線の伸びる先にある下半身は、ただ両足を作業台の外へ垂らしているだけでも色気に満ち溢れていた。 だらんとだらしなくぶら下がる脚の隙間から見える女性の象徴は、今にもひくひく動き出しそうな程に精巧なクオリティ。 うっすらと節々に見える継ぎ目と、繋がれていないが故の剥き出しの金属部を除けば、どこからどう見ても人間の成人女性。 有沙はうっとりとした目で見つめながら、眠り姫の頬を優しく撫でた。 「見た目だけだと私より歳上よね……こんな人が、私の家で…………」 同じ素材で作られた肌同士を擦り合わせ、冷たくも柔らかな感触をじっくりと堪能する有沙。 つい数時間前までは無数の金属部品だったとは思えない、その集合体である麗しい女体。 今の自分の身体が、この機械人形と同じ部品の集合体であると思考すると、感心とも興奮とも取れる、不快ではないざわざわとした感情が電子頭脳から下腹部まで走ってくる。 じっと視界に映し出し触れているうちに、彼女が動いてる姿を今すぐにでも見たくなってきた。 バッテリーの容量は初回起動の為にある程度充電されてある。近くにコンセントも備わっているため、充電しようと思えばすぐにでも出来る。 「まだ繋げてないけど……今の段階でも起動できるし、電源入れてもいいわよね」 乱れ変動する感情値が収まらず、人格データの反応に合わせて表情が緩んでいく有沙。 早くこのアンドロイドと初めての顔合わせをしたい。有沙は早速首筋に備わった電源ボタンを押し込んだ。 すると、アンドロイドの身体は一瞬だけぴくんと震え、断面部から微小な駆動音が静かな部屋に響く。 そして、ゆっくりと目蓋を開き、綺麗な無機物の瞳を空気に晒した。 「初回起動を確認しました。購入者情報を確認。購入者、伊藤有沙。顧客分類、機械化済みヒューマノイド。登録された個人情報を照合します」 眼球の奥に赤い光が灯り、レンズを細かく動作させた後、仰向けのまま眼だけを動かして有沙の顔を確認する。 顔認証を終了させると、二回瞬きをしてから再び口を動かし、見た目に似つかわしいお姉さん的声質による無機質なシステムメッセージを喋り始めた 「伊藤有沙様を確認しました。この度は登録番号AML013204組み立てセットを購入、並びに手を加えていただき誠にありがとうございます。これから伊藤有沙様のパートナーとしてお世話になりますのでよろしくお願いします。なお、現在作業工程は94%となっております。付属の人工体液を補充し、有線接続ではなく直接上半身と下半身を接続し、最後に付属の擬似人格データをインストールしてください。それを以て、全作業は終了となります」 一方的にまさしく製品的な言動で一気に喋り切ったアンドロイド。 現時点で動いているのは瞳と口だけで、それ以外が動く気配は今の所感じられない。 残り6%分の作業は、あえて有沙が意図的に止めているもの。まずは完成仕切る前に今の姿の彼女を少しだけ体験し、人ではなくモノとして少しだけ楽しみたい欲望が芽生えていたのであった。 「ねえ、あなたって今の人格のままでも一応稼働できるの?」 「はい。現在当機体は基本人格にて稼働しています。伊藤有沙様がお求めになれば、このままでも稼働は可能です」 「ふーん……それじゃあ後で残りの作業は済ませるから、ちょっとの間だけ今のままで動いてて。えっと……あなたの名前はフィーナで」 「かしこまりました。基本人格にて稼働します。並びに、当期待の固有名称を登録しました」 感情の存在を感じさせないひたすら淡々とした無感情な返答を受け続ける。 クールな美女というのは有沙にとっては非常に好みだが、いささかクール過ぎると思える。 流れるように名前を登録し、早速有沙は頬に優しく触れて首を傾けた。 メモリ内に残っている金属の骸骨姿が、今の人間らしい樹脂の肌に包まれた姿とのギャップを感じ、得も言われぬ熱い感情を呼び起こす。 「冷たいけど、すべすべして柔らかくてきもちいい……なんだか、美人過ぎてどきどきしちゃうわ」 「ありがとうございます有沙様。私の容姿は有沙様のリクエストにより……」 「そういうのいいのよ……ねえフィーナ、下半身って今動かせる?」 「はい、可能です。どうぞご覧ください」 断面の接続部から微小な駆動音を鳴らし、台の外にぶら下がった両足がゆっくりと上下に動いた。 非常に遅いバタ足のように上げては下ろすだけの単純な動作だが、人工の生脚が行う所作が妙に色っぽく思えてくる。 と同時に、自分が組み上げた機械がこんなにも綺麗に動く姿に、ちょっとした感動を覚えた。 人間的な情動とモノに抱く感情を同時に抱く有沙。それに重ねて、彼女の歪ながら肉感的な雰囲気にだんだんと劣情を催し始めていた。 単調な動作を続ける美脚に、自然と無意識に伸びていく有沙の両手。 そして、左手で太ももを撫でながら、好奇心から右手でつやつやな綺麗な肉裂に指を挿入した。 すると、作業的に動いていただけの両足がぴんっと指先まで張り、小さく震えた。 「………………っ…………有沙様、性感機能をご使用ですか?」 感じているような動作を見せても、上半身は全く身震いする様子もなく、未だ淡々と無表情でシステムメッセージ的報告を続けるフィーナ。 人間と殆ど変わらないのだがら当然ではあるが、あの金属の塊がこんな官能的な姿になるなんてと、有沙の常識に電撃が走ったような感覚を受けた。 「ねえフィーナ、擬似人格とか入ってなくても、気持ちいいって感じられるの?」 「はい。現在私は、有沙様からの愛撫により快楽信号を受信し、電子頭脳にて処理しました。擬似人格データがインストールされている場合、擬似人格に応じた最適な反応を演算し、それを表現致します」 淡白に説明しているが、つまりそれは人間と同じかそれに類似した快楽を感じられることを示している。 それを聞いた今の有沙は、なんだかもっと弄ってあげたいと人格データが嗜虐的な反応を示した。 「そう、そうなんだ……そうなのね…………じゃあ、もうちょっと色々してあげるわ」 有沙は一旦女性器ユニットから手を離し、今度は上半身側に手を伸ばし、右手で乳首を摘みながら乳房を優しく揉みしだき、何を思ったか左手を接続部の内部機構に伸ばして破損しない程度に弄り始めた。 「はい、あ、ありがとうござ……います有沙様。現在左胸部から快楽信号が発生しています。エラー、胴体部の破損の恐れがあります。接触の中止を推奨します」 偽物の肉に手が沈み込む感触が伝わり、心地よい感覚が電子頭脳を刺激する。 ピンク色の乳首を指で摘むたびにぴくっとフィーナの背中が人間のような快感の反応を示す。 同時に内部機構を弄られる度に発生するエラーが、愛撫の度に発生するそれとは違う硬質的な痙攣を引き起こした。 性感やエラーそのものは全身に伝わっているのか、視界外で下半身もぴくぴくと小さく震えていた。 人間と機械の特徴が表れた震えに、有沙の嗜虐心と性欲がどんどんエスカレートしていく。 左手で水気の無い膣部を扱う傍ら、右手はいつの間にか自身の女性器ユニットへと移動していた。 自身にも発生した快楽信号に人格データが影響され、割れ目から分泌された人工愛液が下着を濡らす。 二人だけの空間に漏れる、くちゅくちゅと淫靡な音。だんだん有沙の喉奥のスピーカーから嬌声が溢れ始めた。 「あっ……ん…………私…………あっ、あっ、ん…………ね……え……フィーナ……」 「はい、なんでしょうか有沙様」 「きもち……いいかしら…………? あんっ……ん………あっ……………は…………」 「はい。現在有沙様の手淫により、女性器ユニットから快楽信号が発信されています。人工体液が補充されていないため、愛液の分泌ができません。人工体液を補充してください」 下着をずらして艶めかしい生物的なオナニーを続ける有沙と、内部機構を断面からは晒しながら、快感を覚えながらも無感情に報告のみを続けるフィーナ。 同じ機械の中身同士でも大きく現れる違い。有沙の気分はどんどん高まっていき、性器を弄る両方の手がエスカレートしていく。 「あっ、あっ………ん…………ぅ…………ああっ…………ああっ! あんっ、あんっ…………」 電子頭脳に走る快楽信号を何度も何度も処理し、人格データに生物的な快感をもたらす。 CPUが熱くなり、作り物の息が口から漏れ、両手の動作が激しくなり、ブレも強くなる。 それでも有沙の機械としての能力が、割れ目に備わったクリトリスを正確に刺激した。 フィーナの両足はピンと張り震えるが、上半身は規則的にがくんと揺れるも相変わらずの無表情のまま。 身体を捩らせながら、自らが生み出す性感に震える有沙とは完全に正反対になっている。 「あっ、あんっ、あんっ……ああっ、あああっ! きもち……いい…………ん……ああっ! あはあああっ!!」 自分が組み立てたフィーナへの好意と溢れる情欲が性欲値を際限なく上昇させていき、思考を快楽行為でいっぱいに埋め尽くしていく。 人工愛液は下着の前面ではもう吸いきれない程に滲み出し、床をじんわりと濡らしていく。 有紗の人格データがさらに指の動作を、激しく動作を加えながら加速させ、間もなく迎える絶頂へと一気に追い込んでいった。 「は、あ、ああっ! あっ、あっ、ああっ! フィーナ……ぁ……ぁ…………あはああんっ!!」 「なんでしょうか有沙様」 「あっ、ああっ! あっ、あっ、あああああっ!!」 途中の呼びかけにフィーナが律儀に返答しながら、有沙はその横で快楽に満たされた絶頂の声を上げた。 作業台にぐったりと上半身を寝かせながら、左手の動きを止めないまま性感から作り出された息を吐いて、電子頭脳いっぱいに埋まった快楽信号を処理し続ける。 「はあ……はぁ………ふ、フィーナ……ぁ…………ごめんなさいね………私……なんだか…………フィーナのこと思い始めた………身体が疼いちゃって…………ん…………」 「問題ありません。現在私も、有沙様から与えられた快楽信号を処理しています。現在CPU使用率が95%となっています」 「そう……なのね…………ふふ……そろそろ……繋げてあげるから……ちょっとまっててね……」 「かしこまりました」 やや身勝手にも近い欲望を発散した有沙は、最後の工程を済ませるために、擬似人格データが入ったUSBメモリを探しに無数に積み上がった箱の方へと動き出した。 こころなしか、有沙の動作はどこか緩慢でふらふらとしている。 有沙が背を向けたアトモ、フィーナは購入者の背中をじっと無表情で見つめながら上半身と下半身をばらばらにがくんがくんと震わせた。 「体液は後で補充するから……まずは身体を繋げて……」 「下半身との接続が切断されました」 接続部から伸びていたケーブルを抜くと、下半身の動作がだんだん小さくなっていき、ゆっくりと人間であれば耐えるのが厳しい体制で停止した。 太ももを両手で持ち、それぞれの間に作られていた隙間を縮め、かちっと接続音を鳴らして離れていた身体を繋げた。 「下半身が接続されました」 残存している快楽信号が再び下半身の動作を呼び起こし、割れ目をひくひくとさせながら両足を震わせる。 「それで…………あとはこれで人格をインストールすれば…………」 右手で背中を持ち上げて首筋の接続端子を晒し、そこにUSBメモリを差し込んだ。 直後、それまでの性感による振動とは違う無機質な痙攣がフィーナの身体に発生する。 「新しいデバイスを認識しました。外部ストレージと判断。当機体に適用する擬似人格データを確認。自動インストール後、擬似人格を起動します」 何も言わなくとも自動でことを済ませてくれる姿に、システマチックながらも優しさを感じた有沙。 それから長い時間を置かず2分程経った頃にフィーナの瞳の光が消えた。 そして、再び光が灯ると、フィーナの表情にとても人間らしい柔らかさが生まれた。 「…………おはよう有沙。あたしを造ってくれてありがとね」 名前の呼びが呼び捨てに変わり、声色も淡々とした無感情なそれから人生経験を重ねた大人の女性の雰囲気を帯びたものへと切り替わった。 直線的だった身体の動作も曲線的な部分が増え、擬似人格が組み込まれただけでぐっと人間らしさに満たされた。 「こんなに変わるんだ……改めてよろしくねフィーナ。これから私こそ……と……いっ……しょ……に…………」 ついに新しい友達であり家族が完成し、達成感に満たされた有沙。 しかし、笑顔で顔を近づけようとしたその時、魂が抜けたかのように動きがゆっくりとなり、そのまま首を傾けて動かなくなった。 「有沙? どうしたの?」 「現在バッテリーが残り1%です。現在セーフモードを起動しています。早急に充電を行なってください」 有沙はフィーナの組み立てからその後の余韻を楽しむために、自身に発される通知を一時的に全てオフにしてしまっていた。 その上で多量に電力を消費する自慰行為や信号処理を長時間行ってしまったことにより、一旦人格データをオフにしなければならない程に消耗してしまっていた。 「あら……危ないじゃない。ギリギリであたしが起動して良かった。もう、擬似人格がインストールされる前からこんなにあたしを楽しんで、そのままこうなっちゃって…………」 フィーナは作業台から滑らかな動作で身体を下ろし、足を地面につける。 そして、荷物を運ぶようにして有沙を腹から肩に抱え、充電ケーブルが差し込まれたコンセント付近まで運び出し、端子にケーブルを差し込んだ。 その時既に、有沙の瞳からは光が失われていた。 「もう、すぐにこれだなんて世話が焼けるわね……ふふ、でも……こうして今のうちに肌を触れ合わせられるんだから、役得かも」 ぐったりとした有沙の頬を指でつつ……となぞりながら、服越しに胸に触り、優しく頬を重ねる。 フィーナの快楽信号は未だ完全に処理されたわけではなく、擬似人格に影響を及ぼすほどに残存している。 それが人間的な性欲となって現れ、肌を触れ合わせることによって改めての発散を行っていた。 「これからもよろしくね…………ふふっ」 ある程度安心して稼働できる所まで充電されるまでの間、フィーネはずっと有沙の側で寄り添い、コードが生み出す愛情を小さく満たしていった。 こうして、やや慌ただしい始まりをもって、二人の機械仕掛けの女性による生活が始まった。
Comments
ありがとうございます! 生まれ変わった女と1から造られた女の機械同士の交友!
土装番
2020-01-17 14:20:59 +0000 UTCおお!何が尊い!
R.G
2020-01-14 21:06:11 +0000 UTC