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土装番
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暴走する機械の愛 1話先行公開版

 アンドロイドと人間が同じ社会に暮らし、それぞれに一日の生活を一人で過ごし、共に暮らし、まさに一つの種族のように認識されるようになり始めた時代。  無数の金属部品と電子部品、樹脂、無機物で構成された人間は、肉体を持った人間と変わらず喜怒哀楽を豊かに表していた。  当然、人間とは根本的に違う部分も存在する。  身体の怪我は自然治癒では直らず、食事ではなく外部からの充電が必要。人間のような体臭こそ無いが、その代わり油断すれば人の見た目から金属臭が漂うことになる。  しかし悪いことばかりでも無い。四肢が壊れても動くことが出来、痛いのが嫌だと思えば痛覚信号を麻酔ではなく自らの操作によって遮断することができる。  壊れたパーツは換装可能であり、脳を破壊されてもバックアップがあれば、完全とはいかなくても元に戻ることができる上、どんなことも性感として感じることも可能となっている。  そして、アンドロイドにも人間の病気と同様の事象が存在する。  それを放置すれば深刻な事態になることは、人間も機械も変わらない。  それが大きく、人生の道を捻じ曲げ歪ませることもあるのである。 * * * 「ただいまマリー」 「おかえり日奈子。今日はどうだった?」 「面倒なのにしつこくついてこられちゃってさ。紗季がいなかったらずっと粘着されてたかも」  あるマンションの一室に帰宅した、長身で細身の美しく整った体型に、お洒落な服装の下から盛り上がる形良くはっきりと大きな胸、思わず視線を奪われてしまうようなしゅっとした魅力的な顔立ちを持った、女子大生の高弓日奈子。 「怪我とか無かった? 無理やり掴まれたりしなかった?」  そんな輝くような美貌を持った彼女を自宅で待ち構えていたのは、同じく一目惚れしてしまうような白人寄りの容姿と、女優のような完璧な顔立ち、日奈子よりもやや大きな胸とさらに引き締まった体型を持ち、光を弾くような肌を持った美女、マリー。  彼女は人間である日奈子と違い、女性の姿を持ったアンドロイドであり、日奈子と同棲している。  日奈子が大学へ向かったり、外出している間は自宅で家事やデータ整理、充電等をしつつ日奈子の帰りを今か今かと待ち受けていた。  そして、彼女の携帯端末のGPSから現在位置を探知し、もう間せすさもなく帰宅するという所で玄関前で待機。  花のような笑顔を見せて、日奈子の心をいつもいつも癒やしていた。 「大丈夫よ。そうなる前に逃げ切れたから。でも、やっぱりそれでも気分わるーい……」  愚痴をこぼしながら、日奈子は倒れ込むようにマリーに身体を預けた。  マリーはそれをきっちりと全身で受け止め、柔らかな胸に埋まる日奈子の頭を優しく撫でた。 「お疲れ様。気が済むまで私の胸で休んでいいからね」 「ありがとうマリー……うーん……きもちいい……いいニオイ……」  彼女の鼻から排出されるラベンダーの香りが、日奈子の疲れた心を癒やしていく。  マリーはまるで仲の深い友達のように接しているが、日奈子のことを愛するように設定されているために、自身の身体に組み込まれた機能を活かして、彼女の為に身を尽くしていた。 「日奈子、私とキスすればもっといいニオイが味わえるよ?」  耳元から脳を通り抜けるような心地良い声で囁くマリー。  日奈子は顔を上げてからぐっとさらに身体を寄せ、豊かな膨らみを重ねながら顔を寄せる。 「するぅ……そうでもしないとなんか気が済まないいい……」  ロボットからの肉欲の誘いに、精神がやや疲弊している日奈子は、流れるように柔らかなシリコンの唇に吸い寄せられ、優しく互いに重ね合った。 「ん……んん…………ぅ…………」 「日奈子……ん………どう…………かしら…………ストロベリーの……フレーバーを……入れてみたの……んん……っ…………」 「ん………あ………あま…………い…………」  無機と有機の唇がくっつき、絡み合う舌の上で分泌液と補充液が混ざり合う。  人の腹から産まれた者と、製造工場から生まれた物。人の形をして、人間同士の行為による淫らな音が玄関に響く。  口が塞がっているために、日奈子の喋りは籠りはっきりとしないが、マリーの声はスピーカーからリップシンクに乗せて発せられている為、明瞭に発音することができていた。  そんな違いなど気に留めることもなく、二人は日常的に行っている肉体的な交わりを、情動のままに続けた。 「ん…………あっ…………ありがとマリー、元気出たわ」   「日奈子が元気になってくれたなら良かった。日奈子の沈んだ顔なんて似合わないもの」  帰宅直後に向き合った時とは違う、情感的な雰囲気で互いの手を握りながら、互いに顔を赤らめて見つめ合う二人。  日奈子が見つめる視線の先では、マリーの瞳の奥が収縮している。 「それじゃあ、一緒にご飯食べましょ」 「ええ。既に作ってあるから、すぐにでも用意できるわ」 「いつもありがとねマリー」 「こちらこそ。日奈子の為ならなんだって頑張れるわ」  深層の部分で、愛情を抱きながら繋がっている二人の感情。  心の底から機械人形を好む人間と、組み込まれた設定と擬似人格の反応によって登録されたユーザーに湧き上がる好意を持つ機械人形。  二人だけの生活はピンク色に満ちていながらも、何気ない日常の面でも満たされている。  日奈子は彼女と一緒なら、どこまでも、どんなことがあっても気持ちよく過ごせるとも思っていた。 * * *  そんな生活が続いたある日の夜、日奈子はマリーの首筋の端子から自身の携帯端末に接続し、一週間に一度程の頻度で行われる状態確認を行っていた。  普段は大した表示もなされず問題なく終わるルーチンワーク。しかしこの日、画面内には不具合の発生を知らせる表示が発されていた。 「あれ、珍しい……ねえマリー、不具合が発生してるみたいね」 「…………? 本当に?」  マリー自身に自覚症状は無いらしく、彼女の人格は全く知らなかったというような反応を見せた。  何かしらの行動が要因で発生したものなのだろうかと考えて行動履歴を確認するが、表示された情報は、日付や時間が途切れ途切れになっており、過去の行動をまともに把握できない状態となっていた。 「なんか、行動履歴がバグってて読み込めない……マリー、そっちからはどう?」 「ええ、わかったわ。…………9月11日、17時32分30分26時4分8時…………おかしいわね、記憶データが破損してて出来事の参照ができない……」  正常に読み込めない日付を発する度、別々の音声をぶつ切りに再生するように口にするマリー。  自身で不具合を検知しても、一体何が原因なのかも見当がつかない。  マリーは首を傾げながら、日奈子の目の前で自己診断を開始した。 「うーん……一度メンテナンスしてもらったほうがいいかなあ。マリーもその方がいいと思うけど、どう?」 「……………………そうね。不具合の修復は早くしたほうが良いし、そうするわ」  自己診断にCPUの処理を大きく割き、動作の止まった状態から日奈子への返答が遅延したマリー。  自身の支障によって大好きな日奈子の手を煩わせるわけにはいかないと判断し、その提案を受諾した。 「じゃあ、一週間後ぐらいに一緒に行こっか。色々バックアップとか準備必要だろうし」 「ううん、3日以内に私一人で行くわ。日奈子に余計な手間は取らせられないし、不具合も私自身のシステムの責任だから、日奈子は心配しないで」 「本当にいいの?」 「大丈夫。私のコンディションくらいは自分で直さなきゃ、日奈子のパートナーとして不甲斐ないわ」  大好きな日奈子にはどうか自分に関する面倒をかけたくないと、パートナーでありながら好意を設定された相手への愛を無償で全開に振り撒く、どこまでも日奈子第一なマリー。  ちょっとだけ心配は拭えないが、そんな彼女を日奈子は信用して任せることにした。 「わかったわ。メンテナンスから帰ってきたら、一緒にベッドの中で……しましょ?」 「私も、したいと思ってた……万全の状態になった私の身体、すぐにでも日奈子で満たされたいな……」    互いを思いやる好意が、見つめあい言葉を交わしていくうちに、愛情、情欲へと変化し、ゆっくりと身体を引き合わせてぎゅっと触れ合っていく。  服の上から乳房が潰れるほどに密着し、自然と唇が引き寄せられていった。 「ん……もう……マリーったら…………」 「ぅ……んん…………日奈子だって…………あっ…………ん…………」  隙あらばすぐに愛情を交わし合う、溶けるほどに熱い二人の関係。  しかしそんないつも通りの行為で溶け合っている最中、マリーの電子頭脳は密かに快楽信号による刺激の蓄積によって損傷し始めていた。  少しずつ、日に日に歯止めがかからなくなっていく二人の熱愛。その爆発のトリガーを引く日は、そう遠くなかった。 * * *  三日後。マリーは日奈子に告げた通りに一人でメンテナンスへと向かうこととなった。  熱を籠もらせない為か、へそ出しホットパンツスタイルのとにかく肌を露出した格好で、人間やアンドロイド達が歩む都心部へと繰り出していた。 「早くメンテナンスに行って、日奈子に私の身体を、大好きな日奈子に……」  完璧なスタイルと、プログラムによって整えられた美しい歩行姿勢は、まさしく美人という言葉を体現しているようだった。  だが、今このときのマリーはそれが揺らいでいた。  何事もないかのように小さく振られている両腕だが、時折ぴくぴくと痙攣しては硬直している。  足の動作はかろうじて大きな不具合を起こしていないが、一歩間違えればかくんと揺らいでしまいそうな震えを起こしている。  そして何より、現在マリーが歩いている方向は、自身がいつもメンテナンスを受診している施設とは全く別の方向だった。 「マップ確認…………ここ、これでいいわ。方向を修正。この先でいいわね」  改めて確認したにも関わらず、誤認した状態で歩みを止めないマリー。  普段のとても自然な言動にも、機械的かつ無感情なシステムメッセージが混ざるようになる。  止まらない日奈子への感情値と、自身に大きな悪影響を及ぼしている原因不明の不具合。それらが合わさり、マリーは良好とは決して言えない状態となっていた。 「あはっ、日奈子……日奈子……修復したら、タイムスケジュール確認……だから…………」  その足取りは人々が多く行き交う場所から離れ、いつの間にか建物同士の隙間道へと入り込んでいた。  滅多に通ることもなく、ましてや一度も行ったことの無い怪しい道。  だがマリーはその現状に疑問を抱くこともできず、バグと過度な日奈子への愛情によって盲目的に歩き続けていた。  バランスを崩しては壁にぶつかり、小さい金属音を周囲に響かせる。  痛いとも言わず表情も買えずに首を傾げるだけのマリー。そして、一点だけ明かりの灯った地下の扉へと通じる階段の前で立ち止まる。 「目的地に到着。ここね……あれ、ここは違、情報を修正。ここね…………」  一旦は自分が立っている地点が、当初の目的地とは違う場所だと気づくも、突如情報への修正が加えられ、誤認させられるマリー。  一度疑問に思っても、後からプログラムを書き換えられればその通りに動作するアンドロイド。  マリーはそのまま地下へと足を踏み入れ、暗く怪しい扉の中へと入っていった。  しばらく小さな電灯だけの、コンクリートのカベで作られた道を歩みを進めると、一人の白衣を着た女性型アンドロイドが座る、診察室のような部屋にたどり着いた。  白衣の女性は一見、マリーと同じように人間との見分けがつかなく見えるが、後頭部からは自身の中枢である電子頭脳が露出しており、その後方では常にかちゃかちゃと、何やら工具を取り付けられたアームが自動でその重要部品をいじり続けている。 「いらっしゃい。ついにこの日が来たのね」 「えっ、だ、誰です、誰なのあなたは?」 「ふふ、いつ来てもその反応を見せてくれるのは好き。あっ……私はね、ここの責任者の土屋優香っていうの。は……あっ…………」  電脳をいじられる度に感じているのか、自己紹介しながら喘ぎ声を上げて、びくんと全身を揺らしている優香。  本来ならそんな光景を奇妙に思うかもしれないが、今のマリーにはとても素晴らしく思えた。 「私はね、あなたの擬似人格を少々改竄させてもらったの。既にその時の記憶データは削除してるから、思い出すことは無いけど……あっ、あっ…………ちょっと急拵えで不具合起こしちゃったけど。それはね、あ………………それはね、時間経過で自分が仕える相手への感情が暴走するようにしたものよ」 「人かかか格、改竄? 私の履歴にはそんな……」  記憶にない出来事を嬌声混じりに伝える優香に、困惑しながらも内部機構を熱くさせるマリー。  自分の知らない改造が加えられたということに驚くが、ここ最近の自身の感情値の変化がその言葉に真実味を持たせていた。  ここ数日は特に、大好きな日奈子と身体を触れ合わせたくて、肌を重ねたくて、セックスしたくて仕方がない。何かあればすぐに身体や人格の全てを捧げたいとすら思っている。 「あなたと一緒に暮らしてる人間……高弓日奈子ね。どう、彼女のことがすき?」 「ええ、大好きよ。とっても大好き。愛してる」 「初対面だと思ってる相手にここまで言うなんて、よっぽどなのね。もっと通じ合いたい?」 「ええ。日奈子は人間で私はアンドロイドだけど、それでも一つになりたいくらいに通じ合いたいわ」 「もしその彼女を機械化して、自分と同じ存在にしてもっと濃密に繋がれるようになるとしたら、そうしたい?」 「したい……したいわ…………もっと、日奈子と一緒に……大好きで大好きで愛してる日奈子に……あぁ…………」  一つ一つ質問が加えられる度、マリーの全身に擬似人格から沸き起こる快楽信号が走っていく。  日奈子のことを想えば想う程、彼女のことしか考えられなくなっていく。それが元々設定だとしても、彼女にとっては根源の部分のアイデンティティなのである。 「それじゃあ、彼女をあっ……あなたと同じアンドロイドにしない? 正確にはサイボーグだけど、全身に一片の生体部分も残さないで機械化するの。そうすれば、互いのパーソナルデータや記憶データ、様々な内面や溢れる愛情を共有して、もっと深い部分で繋がることができるわ」 「日奈子を機械に……? もっと深く繋がれる……? データを共有……? したい……とってもしたいわ……でも、日奈子の許可を得ないと……」 「あ――――もう、固いわね。愛情の前にはそんなこと無意味なんだから」 「愛情のま…………思考ルーティンへの変更、及び設定の変更が行われました」  自身が仕える相手に大きな影響を与えるような行動を行うには、事前にその相手への了承を得るようにプログラムされているマリー。  それを優香は、気軽に玩具の構造を組み替えるように改変し、適用されるようにして保存した。  無表情でシステムメッセージを発した後、再び豊かな表情を取り戻したマリー。  人間が親近感を抱くように実装された吐息が、情欲を込めて激しくなり、擬似人格の興奮を形にしていた。 「私と日奈子が一緒に……日奈子が私と一緒になる……あは……素晴らしいわ……もっと日奈子と、日奈子と繋がりたい……ずっと一緒に、混ざり合って交わりたい…………」 「そう、それでいいわ。欲望に忠実になるのはとても良いことよ。きっと日奈子もそれを望んでくれるようになるわ」  無理矢理組み込まれた欲望に流されるように促し、愛に溺れていく姿を見て笑顔を見せる優香。  いじられ続ける後頭部からショート音が発される度、ひくっと表情に狂いが生じる。 「さ、こっちに来て。今のあなたに必要な物をあげる」  強制的な変更によって過度な負荷が生じたのか、マリーの足取りは少しだけ覚束ない様子で、口の端からは人工唾液が漏れている、  ブラを着用していることもあって、服の上には滲み出ていないが、興奮によって勃ち上がった乳頭の先からは残存している乳液が僅かに漏れ出していた。  優香の側まで近づき跪く。  優香がそっと優しく頬を撫でた直後、マリーの表情は再び無に帰した。 「外部からの送信データを検知しました。このファイルの安全性……受信を開始します」  次々と優香からの遠隔操作によって手順を進められていく一方、彼女の左手は机の引き出しに保存された液体へと伸びていた。  そして、データの受信を終えると、マリーの表情は再び蕩けるような恍惚とした物へと変わった。 「これは……」 「日奈子を改造するための手順を記したものよ。そしてこれが、それに必要な睡眠薬。遅効性で効果は抜群だから、これを人工唾液と入れ替えて、昏睡状態を確認したらすぐに連れてきてね」 「わかったわ優香。ここまでしてくれるなんて、あなたはなんて優しい人なのかしら」 「私は私の欲望にしたが……あんっ…………従ってるだけよ。さ、これで診察は終わりだから、早く行ってきなさい」  これまでに一切したことのないようなうっとりとした顔のまま、マリーは頭を下げてその場を去っていった。  再び一人となった地下空間に、金属同士の衝突音と駆動音のみが響き渡る。 「これであとは、どれくらいの時間でここに……あ――――――人格エミュレートが強制終了しました。ファイルをけ、検索中…………ファイルが見つかりませせん。人格データをインストールしてください」  独り言を口にしていた途中、優香の電子頭脳に手を加え続けていたアームがメモリ領域を傷つけ、人格データを破損させてしまった。  優香は快楽に浸る一瞬の嬌声を上げた後、椅子に腰をかけたままがくんと首がうなだれ、淡々と口を動かしシステムメッセージを発し続ける。  アームはその音声を受信し、バックアップからの人格データ復元作業に取り掛かった。 * * * 「ただいま日奈子。待っててくれた?」 「おかえりマリー。ずっと待ってたのよ?」  マリーの帰宅を今か今かと心待ちにしていた日奈子。  玄関に入ってきたのを確認するや否や、全身を思いっきり抱きしめて密着し、甘えるような可愛らしい声を出す。 「とっても嬉しい。私、元気になったから……ねえ、ここでしましょうよ」 「マリーったらいつにも増していきなりなんだから……でも、私もそうしたかったの。どこだって関係ないわ」  突拍子もない申し出にも、度を越した愛情を抱く日奈子には許容範囲内の要求だった。  靴を脱ぎ、床に上がり、二人はその場で跪く。  そして、改めて互いを抱きしめ合い、ゆっくりと唇を重ねて舌を絡め始めた。  自然の体温と似せて作られた温度が交錯し、体液の交換が口内で音を立てて行われる。  だがこの時、日奈子はちょっとだけ違和感を覚えた。 「ん……あ……ぅ…………マリー……いつもより…………液……多くない…………? それに……ん……ぅ…ぅ…………なんだか、初めての…………」  マリーの口内に分泌される人工唾液の量が、いつもより多いと感覚的に察した日奈子。  唾液のフレーバーも、今までに感じたことのない爽やかな味わい。しかし、マリーに備わったものを自分の中にたくさん受け入れることはとても嬉しいことだと、深くは考えないようにした。 「流石ね日奈子……ん…………離れてる間……あんっ…………ずっと日奈子のこと考えてたの…………は……ぁ…………ん…………ん……む……ぅ…………」  日奈子のことを考えるだけで感情値が昂り、電子頭脳が熱くなってしまう。  地下室での出来事を秘匿し、もっと一つになりたいと擬似人格の底から思考しながら、二人の性行為に集中しつつ睡眠薬を流し込んでいくマリー。  その為に新しく購入したミントフレーバーの人工唾液。それに睡眠薬を混ぜ込み、新しい気分として誤魔化したのだった。 「私も……同じ気持ちよ…………マリー…………」  日奈子の方も、今この時間はマリーと楽しむこと以外はどうでもよくなっている。  刻一刻と、自分が人間では無くなっていくタイムリミットが迫っていることなど知る由もなく、日奈子はマリーとの蜜月な時間を心ゆくまで楽しんでいった。  そして数十分後。着衣のままでも口づけと身体の寄せ合いだけで気持ちよくなっていった二人、  日奈子は睡眠薬の作用によって深い眠りにつき、その状態を確認したマリーは、頬を赤く染めながら優しく頭を撫でた。 「日奈子の昏睡状態を確認。指定されたタスクを実行します。日奈子、もうすぐよ……もうすぐ私達は、もっと深く一つになることができる……日奈子……日奈子…………」  作り物の息を止め、音量を最小にして興奮の声を漏らすマリー。  決して目的地に到着するまでに起こさないように、気持ちよく眠っている日奈子の邪魔をしないように、二つの理由を保持しながら、マリーはゆっくりと愛する相手の身体を抱き抱え、街灯照らす夜道を歩き出していった。 * * * 「んん………ん…………あ、えっと…………ああ……そっか…………マリーといっぱい抱き合ってて、それでなんだかすごく眠くなって、それで…………」  溶けるような眠りから目覚め、睡魔に襲われる直前まで自分が何をしていたかを回想する日奈子。  なんだか脳内が砂嵐のようにボヤけている。まだ寝ぼけているのか意識がハッキリとしないが、奇妙なくらいに思考がスッキリとしている。  自分は今玄関にいるはずだからと身体を動かそうとしたが、なぜだか起き上がれなかった。  同時に、マリーの身体から発されるような機械の駆動音が聞こえた。 「あれ、そういえば……ここって、廊下の天井じゃ……」  一つ疑問が浮かぶと、それは連鎖する。  気づけば、今自分が見ている天井は自宅の廊下の物ではない。全く見知らぬ場所の天井。  周囲はドアの外からいつも聞こえるような環境音も無く、ただただ重苦しい音だけが耳に入る。  一体何が起きているんだと思考したその時、目の前に愛する相手の顔が写り込んだ。 「無事に起動したわね日奈子」  全身の動かない仰向けの状態から顔を覗かせたマリー。その顔は、陶酔しているかのような喜びに満ちていた。  たった一言の中に気になったワードがあったが、とりあえずは自分の身体を動かしてほしいと頼むことにした。 「マリー……なんだか、夢中になりすぎて倒れちゃったみたいね。こんなの初めて……ねえマリー、身体が動かないの。どうか起こしてくれない?」  いつもならば何か起きた時すぐに助けてくれたマリー。今回もそうしてくれるのだろうと思っていた。  だがマリーは、笑顔を浮かべるだけで何もしなかった。 「ごめんね日奈子。もう少しだけ待って。もう少ししたら完成して動けるようになるわ」 「完成……? 待ってマリー、言っている意味が……」  そういえば先程も、起動という自分には合わない言葉を使っていた。完成というのも意味がわからない。  一体どういうことなんだと質問しようとしたその時、マリーが日奈子の頬を両手で優しく挟み、歓喜に満ち溢れたような優しくも愛欲に塗れた声で話した、 「だって日奈子、私と同じ機械になったんだもの……」 「…………へっ?」  そう言って全裸姿のマリーは、一度離れて横に移動し、再び日奈子の頭を掴む。  そして、その頭はあり得ないことに、ゆっくりと床から離れていった。 「な、なんで……!?」  その咄嗟に発した疑問は、すぐに解決された。  持ち上げられた日奈子の瞳に写り込んだもの。それは、自分の首から先であっただろう身体がバラバラになり、配線と機械部品だらけの中身になっている光景だった。 「なにこれ……私の……からだ……!?」  アンダーヘアどころか産毛一本も無い程に美しく、光沢を生み出す綺麗な肌。  日奈子の身体は頭部、上半身、下半身に分かれており、四肢はそれぞれ配線に繋がれた状態で取り外されていた。  それぞれ離れた胴体の断面からは、表面の生物的な色の皮膚とは真逆の、今の日奈子を構成する金属部品が詰め込まれていた。  股間からは、女性器の役目を果たすであろう部品が迫り出し、側面のピンク色の肉筒が見え隠れしていた。  自慢の巨乳はさらに形良く整えられ、握るだけでも天国に登るような柔らかさ、そして見るだけでも欲情してしまいそうなピンク色の乳首。  そしてそんな肉感的な造りの中で後頭部から曝されている、今の日奈子の全てが詰まった、無数の配線と接続された電子頭脳。  現状こそ機械の中身が曝け出されているが、その全身の形は人間の時よりも更に理想的なボディへと作り変えられていた。 「ねえ、我慢できないの! 日奈子と早く一つになりたいわ! ねえ、いいでしょ!?」 「構わないわ。まだ完成はしていないけど、既にバックアップは取ってあるからね。動作系統はまた動かせないけど、快楽信号と感覚系統はONにしてあげる」  ずっと一緒に暮らしていた日奈子ですら見たことのないマリーの乱れよう。  湧き上がる感情の赴くままに素肌同士で乱れ合い、日奈子はマリーへの好意以外考えられなくなる程に、マリーは言動が不安定になりおかしくなる程に気持ちよくなった経験はあった。  だが、今の姿はその時の興奮度合いを超えている。  マリーは性欲溢れる言動とは対象的に、きびきびとした動作でバラバラになった日奈子の身体が乗せられた台に上り、互いの胸が重なるようにして覆い被さった、  配線のみで上半身に繋がった頭部は両手に持ったまま、首が離れているからこそ可能な、ありえない90度の角度で見つめ合う。  直後、日奈子の全身に電撃が走るような感覚が迸る、と同時に、マリーの人工皮膚の感触が、人間だった時よりも鮮明に柔らかく、心地よく感じられた。  まるで事細かに挙動の一つ一つが数値として理解できるかのように。 「どうしちゃったのマリー!? 私の身体、いつの間に……」 「私ね、ずっと、ずっとこうしし、したかったの……私ね、ずっと日奈子が大好きで大好きで大好きで愛してる。とっても愛してる。ずっと日奈子と身体だけじゃなく中身から機構から人格から一つになりたくて、一つになりたかったの、私の擬似人格に変更記録が確認されるけど、私の感情値の変動は変わらないわ」 「マリー、もしかしてあなた改竄され…………んん……ぅ…………」  二人で最も情熱的だった時よりも激しい言動の崩れ方。それはどちらかというと、異常が発生している時の方が近かった。    マリーはまるで頭蓋骨を掴むような手の形で日奈子の顔を引き寄せ、そしていつも行っているような情熱的なキスを交わした。  理解の追いつかない状況で、日奈子はキスをしている場合じゃないとほんの一瞬だけ断ろうとしたが、なぜだがマリーの誘惑に自然と耐えきれず、そのまま柔らかな樹脂の唇を受け入れた。 「は……あっ……ん……ぅ…………や……ぁ…………なにこれ…………ぇ…………こんなに気持ちいいの…………ああっ……ん…………」 「ん……む……んん…………日奈子ぉ…………どうかしら、私と同じ唾液を共有するのは……ん…………やっと、キスしながら、言葉を交わせるわね…………んん……んぅ…………今、日奈子の中にあるのは…………あんっ…………私と同じ人工唾液…………あはっ…………私と……同じ…………ぃ…………」  快楽信号を受けて、日奈子のバラバラになった身体が微振動を起こす。  人間の形をしていながら、口を塞ぐ行為をしつつ明瞭な発音で喋る二人の機械。  外部からの補充液と、体内で生成される分泌液のやり取りが、今では同じ内容液を、姿と内部データが違うだけの機械人形が互いに交換し合うだけ。  しかしそのやり取りが、二人の電子頭脳に迸る快楽信号が、弾けるように処理される。  人間の時には感じられなかった痺れるような快感が、キスをするだけで脳内に駆け巡っていく。  日奈子の人格データの反応には、まだ困惑と拒絶を示す数値がはじき出されているが、それも快感に染まっていくのも時間の問題。  動けない身体の全てをマリーに委ね、日奈子はされるがままに接吻を味わった。 「ん……んん……ぅ……………ふふ、ねえ日奈子、どう? 機械になった感想は。キスするだけでこんなに気持ちよくなれるなんて、思ってなかったでしょ?」 「は……ん…………ん…………ええ、私、マリーとのキスはずっと大好きだったけど、こんなに興奮したことは……ううん、いつも最高だったけど、ここまでのものは記憶データになかったわ…………記憶データ?」  大好きで大好きで仕方ないマリーからの接触行為に、素直な感想を示す日奈子。  自分が自然と発していた言い回しに戸惑いながらも、もしかしたら機械になってよかったのかもしれないと、だんだんと心を解されていく。   「よかった……とっても嬉しいわ、日奈子が喜んでくれて。私の大好きな日奈子……これからね、とっておきのことをしてあげる。私達のような機械にしかできないことよ………あはっ、思考しただけで愛液が……もっと、もっと、気持ちよくなって、日奈子…………」  マリーの擬似人格が、二人の身体を重ね合う程に、機械的な快楽行為に興じる度にさらなる興奮を重ねていく。  そしてマリーは、人間には決して味わえない、機械だからこその快楽をどうか体験してほしいと、両手を日奈子の電子頭脳の上に置く。  その刺激を感じた日奈子は、自分の脳を掴まれた感覚に戸惑うが、その不安はすぐに立ち消えてしまった。 「マリー、マリー、わ、私の脳をさ、触って……な、ああ、あ、あ、あ……ああああっ! な、な、な、なにこここここれえええ!?」  マリーは日奈子の電脳を両手で圧迫し、破損するか否かというレベルまで刺激を与えていった。  自身の中枢に、攻撃も同然な危険行為を与えられた日奈子は、痛み苦しむどころか全身に快感が満ちているような嬌声を上げながら、電子音声のような不具合的発声でがたがたと頭部だけ震え、キスやセックス、体温の交わし合いとは全く違う未知の快感を浴びせられていった。  そんな恋人の反応を、マリーは素晴らしいというようなうっとりとした表情で、舌を出して痙攣する日奈子の頭部を、キスをしながら見つめていた。   「あは、は……ねえ、日奈子? とととっても気持ちいいでしょ? 私達はここ、壊れる、破損行為によって、ね? こうやってとっても気持ちよくなれるのよ? 電子頭脳かま壊れる壊れるなんて、とってもすす素晴らしい素晴らしい、機械にとっての愛撫も同然ななななな……………ああっ………あんっ! …………あ………はあっ!」  日奈子が外部からの過度の加圧によって、マリーが自身の処理しきれない感情値と快楽信号、不具合によって激しく誤作動を起こし始める。  到底喘ぎ声には聞こえないが、間違いなく機械人形にとっての嬌声を、瞳を揺らして遠くを見るような顔で叫んでいる日奈子と、まさしく生物的、人間的な淫靡な表情で彼女を弄り続けるマリー。  人間らしい興奮の声を支離滅裂に上げる工場製のアンドロイドと、スピーカーから発されているような狂った快感の音声を発する元人間の機械人形。  二人の人としての声が部屋中に響き、同時に冷たい金属音も鳴り響く。  そして、マリーの抑えられない好意が爆発した瞬間、日奈子の後頭部から何かが壊れたような鈍い破損音が発されたわ 「あぎっ%73#$!?」  かろうじて顔に表れていた感情が一瞬にして無になり、口をぽかんと開いたまま動作が停止した日奈子の頭部、  それとは対象的に、彼女の首から下は最高潮の快感を表現するように、断面から聞こえる駆動音と共にがくがくと小さく痙攣していた。  股間から離れている女性器ユニットが、アダルトグッズのように振動する。 「日奈子、ここ、こ、こわれ、れ、破損しししましたした? どう? とってててても気持ちいい??」  純粋に愛している相手を気持ちよくさせようと、彼女の脳を破壊して感想を聞くマリー。  その質問に対して、日奈子は喉奥に備え付けられたスピーカーから口を動かさずに返答した。 「か、か、快楽しししし、ががが、ぴっ? 入試まであああとあとアト、日付が設定さrrrrていません。ごめん! 約束のここコトことこと⬛⬛⬛⬛#8。スケジュールせせ、設定設定設定。えラー、ええええエラ……日付をかかか確認確認。今日ノね? nnnn内容内容、参照できませせせ…………ねえ明日ね? 明日ね? 原因不明の不具合がががgggg……」  彼女が人間だった頃の過去の記憶、現状のシステムメッセージ、それらが壊れた音声としてぐちゃぐちゃに発され、人間らしさを損なった様相を作り出す。  だがそんな光景とは裏腹に、彼女の女性器ユニットはひとりでに跳ねる程の悦びを表していた。  性玩具のような見た目の性器が暴れる姿は、なんとも滑稽な物を感じさせる。  そんな姿にマリーは、一瞬で処理しきれない程の感情の暴走を示し、電子頭脳が発熱を起こしていた。 「ああああ、熱い、熱い、筐体温度が、電子頭脳の温度が熱いいいいわ。こんなに、ここ壊れ壊れ壊れて壊れる日奈子ががが大好き大好き、ずっとこここれからもずっとああ愛してる愛してる愛してる愛してる………がっ……あああああ………ああんっ!!」  時折全身をがくんと揺らし、指先がぴくぴくと痙攣しながら、日奈子の頭に濃厚なディープキスを与えるマリー。  全てを司る場所が傷つけられた日奈子は、情熱的なキスを受け入れるが、それに反応できる程の機能は残っていない。  過去の記憶からの発言とメッセージが混ざった意味のない喋りをぽかんと開いた口から発し、眼や口から人工体液を垂れ流して快楽信号を処理し続けるだけ。  上半身から首に繋がった管から透明な液が通っていき、それが人間らしさを表現する液体として無意味に排出されていく。  眼の前の愛する相手との行為に全ての処理が割かれてしまったことにより、周囲への認識ができなくなってしまっていたマリーは、壊れた言動を口にしながら仰向けになろうと、日奈子の頭部を掴んだまま身体を一回転させた。  全身が天井を向こうとしたその時、日奈子の全身が乗せられたベッドの範囲から外れ、すとんと物が落ちるように固い床の上へと落下してしまった。 「がぴっ!? ……?? ……!? ……??? ……??」  ごとんっと部屋中に響いた鈍い衝突音。  背中と後頭部に強い衝撃が与えられたマリーは、天井を向いたまま落ちる直前のポーズで固まり、時間が止まったような恍惚とした表情のまま変化を失った。  がくん、がくんと不規則な痙攣を起こし、時折声にもならない電子音を喉の奥から発する。  両手に掴んでいた日奈子の頭部はマリーの手を離れ、ベッドの横からコードに支えられ、空中をぶらんぶらんと電子頭脳を晒したまま揺れていた。 「…………………!!! あああああっ!! あっ、あっ、あっ、ひひ日奈子こここ!? 私私私私は私愛してててて、ぴっ!? エラー、頭部に損ししししょうう、日奈子へのここ好意好意好意、大好きよ日奈子……あああんっ!!」  しばらくのタイムラグを置いた後、突如マリーが人工愛液を噴き出しながら日奈子への愛を叫び始める。  外傷によって電子頭脳が破損したマリーが、膨大なエラーを快楽信号に変換し、全てを処理しきれなくなるほどのそれを受けて絶頂の連続を味わう。 「ままマリー? 私私すすすきよよよ? こここれがこれがアンドロイドなななな、なのね? 参照できません。マリー、一緒に寝ましょ?? マリー、マリー、マリー、マリー、あなたの身体柔らかかかかか、ぴっ、大好きよ大好きよ大好きよ大好きよ大好きよ」  ばらばらになった全身が、性感によってバイブのように震えだし、乳房から仮注入された透明な水が母乳を噴き出すように溢れ出す。  空中にぶら下げられた日奈子の頭部からは、マリーへの好意を表すような過去の記憶データから参照された音声が、動かない口からエラーを交えてランダムに再生される。  ぽたぼたとひとりでに流れる人工涙液が震えるマリーの肌にこぼれ、水滴を作った。 「あっ、あっ、あ、あ、あ、あ、あ…………重大なエラーをかか確認kkkk確ににに、日奈子、日奈子こここ、ぴっ、せせ設定により設定により、感情値をを操作されれれ。A0472。はああああ……は、あっ…………あああっ! 異常Na数値をををを あ………がぴいっ!! ⬛⬛38@⬛⬛:9#2⬛!!!?」  急激に生成されていく快楽信号。設定された日奈子への純粋な好意と愛情が快感をさらに増幅させ、エラーまみれの電子頭脳に過度な刺激を与えていく。  マリーの全身に発生した痙攣は徐々に、そして急速に激しくなり、美しく扇情的な裸体ががくがくと、柔らかく大きな乳房も乳液を出しつつ揺れながら、加減を知らないおもちゃのように暴れだす。  そして、人間の声の形も失った電子音による絶頂の声を上げると同時に、マリーの頭部から巨大なショート音が発生した。  弁が外れたように人工涙液を流しつつ、後頭部を開放するマリー。電子頭脳からは煙が上がる。 「あーあ、まさかアンドロイドの方が先に壊れちゃうなんてね。機械になった恋人よりも先にねぇ」  二人の倒錯的な機械的初夜の一部始終を診ていた優香は、相変わらず後頭部を曝け出しながら、床に落ちたマリーの側へと近寄り、ぴくぴくと停止する時を待つ残照を眺める。 「でも、これでようやく大好きな人と一つになれるんだからね。とっても嬉しいでしょうね、マリー?」 「あ……あ…………gg…………エラー…………原因…………ああ…………ひひ、日奈子………………」 「ふふ、もう反応もできないか」  眼球の上で指を動かしても人形のように動く気配もなく、指を置いても反応がない。  あとは停止するその時を待つのみである。 「さてと、改造終わってこんなすぐに壊れちゃうなんてね……まあ、電子頭脳だけだし、バックアップも取ってるからいいけど」  続けて優香は、生まれ変わったばかりなのに脳を破損させられ、意味のない音声を発しながら快楽信号に浸り続ける日奈子へと視線を移す。  コードにぶら下げられ空中を漂う頭部と、台の上で機械的な官能に震えるバラされた身体。  この姿を見ても、彼女がつい最近まで人間であったなどとは思わず、修理途中のセクサロイドが何かだと思うだろう。 「ねねえねえ、マリーここ教えて教えてtttttひんやりシテ気持ちいい……動作に影響が、頭部の点検を推奨ししししましします。ずっと、いいい一緒にいてねマリー……」 「私の勝手な趣味だけど、これからあなたは大好きなマリーと心の底から本当に繋がれるのよ。生身の身体なんて捨てて、部品の一つ一つまで、プログラムの奥からね…………」 「いってくるわマリー! エラー、帰ったラまたマリーの…………………………」  自律的な行動は実質的に不可能となった日奈子の電源を切る優香。  ずっとほぼ止まることなくぐちゃぐちゃな喋りを発していた日奈子の声はぴたっと止まり、全身の色気に満ちた振動も、ぐったりと死んだように止まった。 「さてと、修理して家に返してあげなきゃね。二人にはこれから、溺れるような楽しい日々が待ってるんだから」  外部からデータに異常を仕込まれ、日奈子を自分と同じ存在にしてあげたいと思考し操られたマリー。  強制的に改造され、間もなく機械的な淫欲によって壊された日奈子。  意図的に歪められた彼女達の蜜月な日々は、これから特異で愛に満ちた、退廃的な物へと形を変えていくこととなるだろう。


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