「ぶんぶくちゃがま」についての話
Added 2024-09-22 12:56:12 +0000 UTCえー、突然ですが、僕が知る中でも「業」の取り扱いがトップクラスに美しい「ぶんぶくちゃがま」という物語について喋らせて下さい。
いきなりなんでだよとお思いでしょうが、理由は単に、最近実家に帰った折に読み返したらうっかり号泣してしまったからです。
昔話で号泣するおじさん、かなり嫌だな。
ちなみにこのぶんぶくちゃがまという物語、明確な作者が存在しないことの多い日本昔話の例に漏れず、かなり多くのパターン違いが存在します。
僕の知るぶんぶくちゃがまはその中でもかなり独特の改変がされていて、特にキャラクターの動機づけに悪意がないことが大きな特徴だと思います。
1994年刊行のものでしたので、果たして今読む方法なんてあるのか…?と思っていたのですが、Twitterで電子版の存在を教えていただきましたので、そちらのURLを置いておきますね。
僕の持っているそれとは文章の細部が違いますが、内容としてはほぼ同じです。
以下、上記「ぶんぶくちゃがま」の内容についての言及とネタバレを大いに含みますので、ご興味ある方は是非一読の上、僕のお喋りに付き合っていただければ幸いです。
さて、ここからは、「僕の知る、僕の好きなぶんぶくちゃがま」の物語を理解している前提で話していきます。
この物語において最も美しい点はやはり、父狸の取り扱いではないでしょうか。
以下、その特徴について箇条書きします。
・茶釜に化ける動機は「生活に困窮し、家族を飢えから救うため」という、極めて同情的かつ自己犠牲的なものである。
・全編通して悪事を働くことはなく、騙した対象である和尚と商人についても、前者にはきちんと謝りにいき、後者にはお金儲けに協力することで一定の落とし前をつけている。
・父狸を含めてこの物語には悪役と呼べるポジションの人物がおらず、また、父狸の行為を糾弾するものもいない。
・その上で、明確な理由なく父狸が、茶釜から元の姿に戻れなくなる。
・.物語の最後まで、誰も不幸になっていない。
これらの、一見なんの抑揚もない平坦な物語になりそうな設定によって何が起こるかと言うと、最初に提示される「お金を手に入れるために茶釜になることを選んだ、父狸の業」が自然の応報として最後に戻ってきてオチになるという、極めてシンプルな、それでいて決して言い逃れを許さない納得感の強い物語構造になっている点にあります。
当然です。茶釜になることは、父狸自身が選んだことなのです。
茶釜になることで得られるメリット(この場合は、家族を養う経済力)を享受したのなら、茶釜であることから逃げることは許されない。
そこに理由は必要ありません。誰も父狸を憎まなかった。父狸には同情に足る理由もあった。そんなことは関係ないのです。
父狸が自分で始めた物語なのだから、自分で落とし前をつけなければならない。
これは、自分で選び取った運命に対する、責任の物語なのです。
その責任に殉じた父狸はしかし、家族の誇りとなり、大事に寺に安置され、人々から拝まれる存在になりました。
責任を果たし死んだ男に残されるものは何か?誇りです。己の運命に殉じることでのみ得られる誇りこそが、人の魂を死後まで守る唯一のものだと、この絵本は教えてくれるのです。
父狸の父性と責任、そこに秘められた厳しさと優しさ。
そして、父狸の死後から今までの長きにわたって守られてきたものを(概ね勝手に)感じ取って、僕はぼろぼろと泣いてしまったのでした。
ぶんぶくちゃがま、名作です。おすすめ。
Comments
丁度Kindleで無料で読めたので僕も読んでみました いい話だなぁ程度に思ってたんですが言われてみれば頷ける解釈ばかりでびっくらこいてる最中です。 因果応報系の話は童話でもかちかち山みたいにそこまでする?みたいな展開が多いのでこういうのはほっこりしますね。 人に限らず悪意が存在すると途端にドロドロし始めるので因果応報と言っても自然に発生するのがやはり美しいのかなぁとか 茶釜で一生を終えるお父さんもちょっとかわいそうですが あ、ちなみに僕は青春のアフターを先月読んで以来先生の大ファンです(唐突)
ゲストさん
2024-09-24 11:58:08 +0000 UTC僕は今でも先生の作品。ガールズオンザブルーフィルム愛読させていただいてます。
John-Hoon
2024-09-22 13:43:01 +0000 UTCいただいた→下さった です。すみません。
緑のルーペ
2024-09-22 13:30:49 +0000 UTC修正するまでもないのでここで軽く補足しますと、最後に魂を死後まで守るものとして「誇り」という言葉を使いましたが、これは父狸とそれにごく近しい家族の個人的な内的感情に配慮した言い回しで、おそらく文脈としては「名誉」という言葉の方が伝わりやすいかと思います。 っていうか、これを踏まえてラストのオチで「その茶釜は今でも実際に残ってて大事にされてますよ」って教えてくるのずる過ぎませんか?現代まで、父狸の誇りは褪せることなく受け継がれてるって…お前それ大河ロマンのオチだろうが! いや久しぶりに読み返してめちゃめちゃ良かったので完全に勢いで書きました。本当にすみません。ここまで読んでいただいた律儀な皆さん、ありがとうございました。
緑のルーペ
2024-09-22 13:13:41 +0000 UTC