お互いに正体も知らず、ただ任務の為、あるいは生き延びるために共通の敵を倒し、知恵を絞り、勇気を出して乗り越えてきた。
最初は互いに警戒こそしていたが、時間と戦いがその距離をゆっくり溶かしていく。会話も弾み、男は彼の――右腕に巨大な機械の凶器を嵌めた少年の正体を知る。
知ってしまう。
自分の組織と戦う、少年は正義のヒーロー。
そして自分は、スパイとして送り込まれたものの任務に失敗し、組織からも敵からも命を狙われる……業界用語「コウモリ」の1人。
正確には、唯一の生き残り。
その場では誤魔化すも、歴戦の少年は鋭い嗅覚と冴えた頭脳で正解に辿り着いてしまう。が、疑わしきは罰せず。
心に靄を残しつつも、少年と男の奇妙なタッグは続いていった。
そしてついにボス格と対峙し、その口から、聞きたくなかった真実が露呈してしまった。
お前は裏切り者だ。
おい正義の少年、良いのか?横にいるのは紛れもない悪だ。裏切り者だ。ウチの組員だよ。
俺たちとは戦うのに、どうしてそいつはお咎めなしなんだ? そんなのおかしいよなぁ?
いいのかなぁ、そんな正義があって。
不公平な正義は、悪と相場が決まっているんだ。
お前だって人殺しなんだ。悪党なんだよ。
俺たちと、何も変わらないじゃないか。
その言葉に男は激しく狼狽し、少年はただ「きゅ」っと唇を結ぶ。
「まずは、こいつを倒す。話は、——それからだ」
戦闘を始めるも、精彩を欠く2人。
徐々に追い詰められ、少年の体力は底をついてしまった。目の前に迫る、ボス。
「終わりだ」
にやりと笑い、小柄な成人男性ほどもある斧を振り上げ、今まさに振り下ろされようとした瞬間だった。
「う、うおおおおおお!!!」
決死の叫び声と共に、今までのらりくらり逃げてきた男がボスに体当たりをしたのだ。不意のことによろめき、それでも歴戦の猛者は瞬時にその影を捉える。
斧を、捨てた。
このままでは慣性の法則により、倒れてしまうから。
右手を、伸ばした。
男の足を、つかめると思ったから。
地面に伏すのをどうにか回避し、そして男は片手で吊り上げられた。その表情は今までの、困惑し、怯え、恐怖と迷いに満ちていたものではない。
子供のように鼻水と涙を垂らしつつも、真っすぐに目の前の恐怖を睨み返す――男の顔だった。
「どっちが悪とか…」
男は、呟く。
「関係ない…!俺はもう、組織の人間じゃない…!ただの裏切り者…!!」
「だけど…俺はこの少年を…守りたい…!助けたい…!たとえ、このままお前に叩きつけられても…!!」
「俺は、…もう裏切らない!俺を、もう裏切らない…!!」
鼻で笑うボス。
「——消えろ」
すぅっと、男の体が持ち上げられた。刹那。
「お前の方だ」
最後の力を振り絞り、少年は跳んだ。
そして、右手を伸ばす。逆光のボスへ向かって、その先にある輝かしい太陽に向かって。
それはまさに、何かを掴み取ろうとするようだった。もしくは、邪魔する何かを払いのけるようだった。
その右手は、大きい。
取りこぼすことは、ないだろう。
ボスは表情を変えず、斧の代わりに手に持つ男を少年へ投げた。
男と少年の目線が刹那交わり、そして男は目を閉じる。
少年はその男の背を、左手で地面に押した。もちろんただでは済まないが、少しでも勢いを殺すためだ。
そして男の影から襲おうとしていたボスの顔を、その大きな瞳孔に映す。その顔は初めて、驚きに歪んでいた。
「僕は——僕の正義を貫くよ。お前が、お前の正義を貫いたように」
一瞬、ボスを映す目に悲哀の光が浮かび、消えた。
次の瞬間目を覆ったのは、鮮血。
ボスの顔を、
首を、
胴を、
真っすぐ切り裂いた少年の、武器。
鈍く輝く、右腕の、大きな手。
断末魔の悲鳴を上げ、ボスはやがて動かなくなった。
――戦いは、終わった。
「すまなかった、叩きつけてしまって」
しばらくして、少年は頭を下げた。
その向かいには、全身打撲で未だに上手く体を動かせない男。しかし男はゆっくり首を振る。
「あぁしなきゃ、きっと俺は死んでいた。手当までしてくれて、感謝したいくらいだ」
そうか、と、少し呟き、少年は顔を俯かせた。静寂が流れ、そして少年は立ち上がる。
「——村まで、送っていく。そして、そこで別れよう」
「待て…。良いのか? 俺は——」
瞬間、男の目の前に現れたのは。
右手。
大きな、鈍い輝きを放つ、右手だ。
「——お前の正体を知るものは、もうここにはいない。私も、戦いの最中に『何も聞いていない』し、お前も『何もやましいことはない』」
先ほどまでの戦いの眼光はすっかりなりを潜め、いまはむしろ縋るようなそれだ。
「だから、何も喋るな。何も言うな。君の正体が判明したら、任務上君を殺さなければならない」
風が吹き、
「——かも、知れない。仮の話だし、僕は何も知らないけどね」
その言葉に、しばし沈黙し、そして男は黙って頷いた。
これは間違いなく、自分への裏切りだ。身分を偽って、目の前の少年を騙している。
先ほど立てた誓いを、早速踏みつけている。
――しかし、それでもいい。
その方が良い。
自分を裏切ることになっても、目の前の少年は、この少年の、この気持ちは裏切れない。
裏切るわけには、行かない。
そう、思った。
終わり。
あ、加湿器買いました。
以上、しょっちでした!!
しょっち@気ままにやってきます
2025-01-18 09:54:19 +0000 UTC藤原妹紅
2025-01-18 09:16:18 +0000 UTC