12月10日発売の『ヤングコミック』2025年1月号に、エッセイ漫画が3ページ掲載されています。『ヤンコミのちょっとHなバズらない話』という巻末エッセイ企画で、さまざまな作家さんが子供の頃に体験した「フェチはじめて物語」を語ってもらうという内容です。
自分の場合は子供の頃に読んだ『手塚治虫&藤子・F・不二雄』という二大巨頭の作品について描かせていただきました。今回の記事は、そのメイキングの【後編】となります。前回は準備スケッチからネームまでの工程を紹介しましたが、後編ではそれらを元に、下描きの作業に入っていきます。
こちらが1ページ目の下描きです。薄い方眼線が入った、オリジナルの下描き用紙に、色鉛筆で描いていきます。
背景に「ついたて」「トケイ」などメモ書きがありますが、特にアシスタントに指定するためのものではなく、単純に下描き→ペン入れの期間の間に、「この背景なに描いたっけ?」と忘れることがあるためです。
フキダシの中に作品タイトルやその端的な内容を、描き文字で描くというコマが1〜2ページ目に登場するのですが、このへん下描きの段階でしっかり描いておきます。
タイトルの文字は、なるべく元の作品のオリジナルのものに近づけています。手塚治虫であれば手塚作品のポータルサイトに全作品のタイトルロゴが載っており、また藤子・F・不二雄作品も調べればわかるものがほとんどです。ただ、このロゴをあまりに正確に描きすぎてしまうと、コラ感というか、なんか貼っただけに見えてしまって、逆に情報量が減ってしまいます。
そのため、ちょっとラフというか、あえてそこまで正確ではなく、手描き感・ズレがあるように描いています。写植とかがあまり使えなかった時代の同人誌の描き文字って、なんか迫力がありますよね。そういうのをイメージしました。
そうして出来た2ページ目の下描きがこちら。コマ数は少なく、背景もないんですが、一番大変なページだったかもしれません。
3ページ目、手塚&藤子Fのエロスの奔流をイメージした、今回の漫画のメインビジュアルのコマの下描きも進めていきます。
まずこの二人のキャラが、なんとなくでも手塚・藤子Fの絵柄に見えるかどうか。見えれば御の字。人の絵柄をマネするのは本当に難しいです。
三つ編みの生首少女。
これすごい大変だった。皿から垂れている三つ編みをどう描くかで、何度も消して直した跡があります。例の『ペーター・キュルテンの日記』をリスペクトしつつ、かつ元ネタと同じものを描いては芸がないので、こういう形になりました。
よしよし、なんとかなってきたぞ。
これに背景を足して……
背景の扇に、図柄をさらに描き足して……完成!
いい感じに、派手なビジュアルになりました。やはり背景の集中線は全てを解決する。モチーフなどを解説すると、左側の手塚絵の女性は『女神アルテミス』です。ギリシア神話に登場する女神ですが、一部では「複数の乳房をつけた豊穣の女神」として崇められています。手塚治虫といえばやっぱりおっぱいなんですが、加えてその作品量の多さ、多産な作家性を表してもいます。あと単純に、多乳キャラって一度描いてみたいな〜と個人的に思っていたのもありますが。
いっぽうの右側、藤子F絵の女性は、キリスト教絵画の題材としてしばしば描かれてきた『洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ』をモチーフにしています。作品の中で残酷さと美しさとイノセントさを併存させているF先生を表すのに相応しいと思ったからです。またその裸体も、デッサンを学んだF先生らしく、なるべく骨格や筋肉を感じられるものにしています。
そんなこんなで、3ページ目の下描きも出来ました。
最後の最後にオチとして、幼稚園の頃に大量に描いていたイラストの再現が出てきます。
おっぱいでかくて、ちんちんのついている女性のイラスト。なぜこんなものを大量に描いていたのかは、ぜひ漫画本編をお読みいただければ幸いです。
下描きも終わったので、それを元にペン入れの作業を進めていきます。
主線は筆ペン(COCOIRO)でスピーディーに引いていきます。
背景の線なども、フリーハンドで描いてます。定規で正確に引くと、かえってちょっとしたズレが目立って、変に見えちゃうんですよね。
生首の女の子の髪を、筆ペンでザッと処理する。ここはけっこう手塚先生風にできました。
ベタや髪の毛を塗ると、いっきに画面が締まります。
やっぱりF先生のキャラの髪色は、縦線じゃないとね。
背景の扇の中に、性交断面図を描いていきます。
断面図の元ネタは、もちろんF先生が原作の『宇宙人レポート サンプルAとB』です。これは地球に訪れた宇宙人が、ロミオとジュリエット(創作ではなく実際に起こった出来事として描かれています)を観察するという話なんですが、ふたりが結ばれる=セックスするシーンで、直接的なセックスシーンを描かないかわりに、この『性交断面図』を出すわけですよ。すごすぎる。本当にすごい。これも大好きな短編です。
ちなみに現在だとMRIで撮ったものとかがあり、断面図の情報もアップデートされているので、いろいろ資料を見ながら、短編に描かれていた断面図よりも詳細なものを描いています。
2ページ目の、タイトルロゴがたくさん出てくるフキダシのペン入れ。物量でドン!とするシーンなので、物量が必要で、物量を描くのはとにかくコツコツ時間をかけて頑張るしかないです。
コツコツがんばりました。
また、3コマ目の背景は、当初から想定していたとおり『まんが道宇宙』にします。
『まんが道宇宙』とは、藤子不二雄A先生の『まんが道』に出てくる処理で、「手塚治虫」や「寺田ヒロオ」など、作中で偉人が登場した時の背景に描かれる宇宙です。好きな処理なんで以前にもマネしたことがあったんですが、今回もマネさせていただきました。これ、すごく簡単に描けるわりに、画面がビシっと締まるし情報量も多いので、めっちゃコスパいいんですよ。さすがA先生。
さて、そんなこんなでペン入れも、3ページぶん全て終わりました。
1ページ目
2ページ目
そして3ページ目。
あとはパソコンに取り込んで、トーンを貼ったりしてデジタル処理をして完成です。作風的にそんなにトーンをいっぱい貼るタイプでもないので、このへんの作業はすぐ終わります。ただ、メインビジュアルの多乳アルテミス手塚神の乳輪については、複数の濃度のトーンを張り分け、乳輪の大小にもちょっとこだわっているので、ぜひ雑誌の方で完成原稿を見ていただけると有難いです。また、企画担当の稀見理都さんの解説コラムも併載されているので、そちらも読むとより面白さが増すと思います。
ヤングコミック2025年1月号(kindle)
3ページのエッセイ漫画なので、ま〜簡単やろと思って気楽に引き受けたんですが、いつもの通りめんどくさい原稿になりました。ただまあ、自分の子供の頃に触れた作品の原点みたいなのを紹介するとなれば、やっぱりかなり力が入ってしまいましたが、反面非常に楽しい原稿でもありました。両先生の作品をあらためてしっかり読み直したくなったし。ともあれ、前編・後編と長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。では、また次回で。