7月13日から28日まで、表参道のビリケンギャラリーさんにて開催された、髪の長い長い女性たちのイラストを集めた個展『LONG LONG HAIR GIRLS』、そのメイキング記事も今回の後編でラストです。現状、イラストの進行と日程を確認すると、
※展示用イラスト17枚のうち、14枚が未完成。
7月2日、14枚のペン入れが終わり。
7月13日の個展当日までに、残り14枚の彩色を終わらせる。
以上です。ペン入れの記事でも書きましたが、残り10日、1日1枚色塗りをしても終わらないペースです。果たして個展に間に合うのか……額縁は既に発注済みで、手元に届いているんですが、個展当日に中身が空っぽの額縁だけ飾ってあったら恥ずかしすぎる。
ともあれ、やらなければ絶対に終わらないので、どんなにゆっくりでも、少しずつでもやっていくしかありません。ペン入れが終わった7月2日のうちに、14枚全てを【線画スキャン→ゴミ取り→コピー機で出力→水彩紙に貼り付け】という作業を行なってから、『入学式』の着彩をはじめます。
制服や髪の毛など、色彩があらかじめ決まっているものから塗っていきます。
できあがり。
『入学式』は背景もなく、服装も白を基調とした制服なので、実際に色を塗る面積が少なく、あまり時間をかけずに塗り終えることができました。
ちょうど額も届いていたので、仮の額装をしてみます。
やっぱり額に入ると絵が締まりますね。マットの濃い緑色も効いています。この額装は、下描きの時点で濃い緑色のマットを発注していたので、実際の絵の色塗りでもカバンを緑色に塗ったり、制服の黒にちょっと青系統の色を混ぜたりして、絵とマットとが馴染むよう心がけました。
翌7月3日。今日から本格的に色塗り作業に入ります。ただ、前述した通り1日1枚仕上げるような進め方では絶対に終わらないため、まず今日と明日は、全ての絵の髪の毛を一気に塗ってしまうことにします。
『観光部族(I)』の髪の毛。一見モノクロ原稿と似た塗り方ですが、ハイライト付近に何段階か色の幅を持たせてあります。
同じく『観光部族(II)』の髪の毛も、同時に塗ってしまいます。
『観光部族』の(I)と(II)は、シチュエーションは違えど同じキャラクターなので、髪の毛も同じ画材で同じように塗ります。わかりきった話ではありますが、同じ作業はまとめてやってしまった方が、いちいち画材の出し入れとかしなくていいぶん、効率が良いわけです。
『JAPONISM』人形の髪の毛も黒なので、同じ感じで塗ります。加えて、金髪のキャラクターの髪のほうも塗っていきます。
『退屈な入院』の髪の毛を塗ると同時に、既に色の決まっているような部分は、アルコールマーカーでざっと下塗りしていきます。
『退屈な入院』は、額装のマットをピンク色で注文したので、イラスト自体もピンクを基調として明るい色彩を多く使っていきます。
『酒カス姫』の髪の毛を塗ります。今回の展示の中でも、最も髪の毛の面積が多いであろう絵のひとつですね。
まず髪の毛の色のうち、最も濃い影が溜まった部分を、S字を描くように塗っていきます。このS字が自然かつ美しい流れになっていると、美しい金髪になる……ような気がします。これは誰かに教わったわけではなく、独学で掴んだコツです。
次にS字のまわりを、ハイライトを意識しながら金髪のベース色で塗っていきます。
最後に、明るい部分を明るい黄色で塗ると、こんな感じで光り輝く金髪になります。
酒カス姫の金髪は色鉛筆で塗っていますが、対になる辛キチ姫の銀髪は、アルコールマーカーで塗っています。
これは単純に、手持ちの色鉛筆の中に、銀髪を塗り分けられるような色のバリエーションが無いからなのですが、金髪銀髪に関わらず、絵によって色鉛筆で塗る場合とアルコールマーカーで塗る場合を使い分けています。
左側の絵の金髪はアルコールマーカーで、右側の金髪は色鉛筆で塗っています。
微妙な質感の違いが出ていますね。
『VACATION!』の4人も、それぞれ違う画材で髪の毛を塗っていきます。
双子は色鉛筆で塗り、左側の子はアルコールマーカー、黒髪の子はその両方の画材の併用です。
とにかく髪の毛だらけ!の『秘密の信仰』の髪の毛も、一気に塗っていきます。
金髪、黒髪、茶髪など、さまざまな色の髪を塗りました。黒髪の子は左右で塗り方をちょっと変えています。
ただ、同じ金髪を塗っていても、メインである中央の双子の金髪が一番光り輝くよう、他のキャラクターの金髪はやや鈍く塗りました。
ここまで、7月3日〜4日の二日間で、14枚すべての絵の髪の毛を塗り終えます。
さらに次の、7月5日〜6日の二日間で、14枚すべての絵の肌色を塗ってしまうことにします。肌色は基本的に、アルコールマーカーで下塗りをしたあと、アクリル絵の具を混色して塗るため、いちどに色を作って一気に全部塗ってしまうのが効率的なのです。
まずは上の絵のように、アルコールマーカーを3色くらい使って、肌の下塗りをします。特に色の濃い部分、線のキワの部分なんかを赤で塗ります。
アクリル絵の具で、パステルピンクという不透明な色を基調として、下塗りをした上から肌色をどんどん塗っていきます。
さきほどの『VACATION!』も、上からアクリル絵の具を塗るとこんな感じに。
肌に色がつくと、一気に絵が生っぽくなりますね。
黒人のキャラクターも、基本的に塗り方は同じなのですが、下地に使う色と上から塗る肌色の調合が、それぞれ異なります。
『観光部族(II)』を、こうして下塗りしたあと、
上から不透明なアクリル絵の具で塗って、肌の質感を出していきます。
ただ、黒い肌を塗るのは思った以上に難しく、綺麗に塗ろうとしてもすぐにムラになってしまいます。このへん絵の具の調合とかの問題でもあるんですが、かなり何回も塗り重ねないと「いい感じ」の肌にならず、苦戦しました。
だいぶしつこく塗り直した結果、なんとかキレイな黒肌になりました。
同じやり方で『VACATION!』の黒髪の女の子も塗ります。先の2枚で慣れていたため、今度はすんなりと塗ることができました。こういうのが同じ作業をまとめてやる場合の利点ですね。
『Papular Beautie』は、全身に湿疹が出ている女の子の絵です。下地の段階でアルコールマーカーで湿疹をひとつひとつ描いておき、アクリル絵の具を上から塗って、
最後に色鉛筆で、湿疹をはっきりと描き加えます。こうすることで、湿疹が肌に広がるじっとりとした感じ、表面の乾いたざらつきなどが表現できます。
この2枚のイラストは対になっているので、一緒に塗り進めていきます。
『Chubbily Venus』の陰毛は、髪の毛と質感の違いを出すため、筆で描いています。
すごく細いハイライトは、ドクターマーチンのペンホワイトを丸ペンにつけて描いています。ハート型に整えられているのが可愛いですね。
さて、ここまでの4日間で、髪の毛と肌という、特に今回の展示のイラストで最も大事な部分の彩色が終わりました。ここからはもう、とにかく残りの部分を塗っていって、どんどんイラストを仕上げていくほかありません。もちろん髪の毛や肌も塗りっぱなしというわけではなく、他の部分を塗ったうえで最終的に調整を入れます。
まずは小さい絵から仕上げていきます。作業的にも気分的にも楽だから。
『リトルサマー』の水着の、ピンクと緑色という組み合わせは個人的に【桜餅】と呼んでいます。今回のイラストでは、この他にもよく使われているパターンです。
7月7日、『リトルサマー』『ジャポニズム』『初聖体拝領』の3枚終わり。
どれも小さめの絵ですが、とにかく完成したイラストが出ると少し安心します。『初聖体拝領』の背景は、キャラクターの邪魔にならないようにと奥行きを出すため、薄いグレーの色鉛筆で描いています。
7月8日、『Papular Beautie』と『Chubbily Venus』の背景を仕上げていきます。
アルコールマーカーでぼんやりと壁面の模様を描き、同系色の水彩で塗っていきます。水彩を塗り重ねることで壁のピタっという感じを出したいと思ったんですが、
うーん、左側の背景の水色、ちょっと濃く塗りすぎたかもしれない。あと写真だと補正されてて見えないんですが、ちょっとムラが出てしまい、あんまり綺麗じゃない。もうちょっと薄くしたいな〜と思って、
上から不透明な白絵の具をうす〜く塗ったあと、600番や1000番のヤスリをかけて整えると、このように色が少し薄くなり、ピタっとした壁面になります。
超めんどくさいですけどね。
この日は上記二枚の背景に時間を取られてしまい、あとは『観光部族(I)』を仕上げて終わります。黒い髪と肌の色、ピンクの部分は塗ってあったので、その他の部分を、他の色とぶつからないように塗って完成です。
ピンクに加えて青が効いて、かわいい感じに塗れました。やったぜ。
7月9日。個展4日前、もうケツに火がついているどころか下半身が炎上している状況なので、とにかくどんどん白い部分を塗って、絵を仕上げていきます。
昨日の(I)に続いて『観光部族(II)』も完成。後ろの建物が前述した【桜餅】のパターンで塗ってあります。明るく健康的な絵になりましたね。
額装テストした写真がこちら。
この額装もマットを濃い緑色で発注してあったので、絵の随所に緑色を入れて、イラストと額装が馴染むようにしてあります。
『酒カス姫』『辛キチ姫』も塗っていきます。この二人は以前に描いたことがあるので、服装の色設定がおおむね決まっているのがありがたい。設定の通りにどんどん塗っていきます。
『二国間会談』も同じキャラなので一緒に塗っちゃいます。
この時点で完成した絵が8枚。残り6枚。
峠は越えたって感じでしょうか。定期的に完成した絵の枚数を数えることで、自己肯定感、俺はやれるぞ感を高めていきます。大事な儀式です。
7月10日、『酒カス姫』『辛キチ姫』完成!
うまく対になる感じで塗れました。このあと『極』の文字が間違っているとの指摘をうけて、修正することになるんですが……。
『二国間会議』の、テーブルの上に大量に積み重ねられた飲食物のパッケージも、ひとつひとつ塗っていきます。
こういうとこで手を抜くと全体のクオリティに影響するので、ひとつずつしっかり塗ることで『物量感』を出していきます。
『なんだかたくさん乗っかってるぞ感』とも言います。
『二国間会談』終わり!
大変でしたが、この物量感、『なんだかたくさん乗っかってるぞ感』がキモの絵なので、しっかりそれが出て良かったです。ちなみにパッケージを全部描き込んだあと、ホワイトで輪郭線を描いて、ゴチャゴチャした画面を見やすく調整してあります。
『退屈な入院』の方も仕上げていきます。服に縦縞の模様を描き込みます。
お嬢さまっぽい服装と、入院服らしさと、両方のニュアンスが出るよう心がけます。
『退屈な入院』終わり!
後ろのお母さんの上着、下描きの段階では縞模様にしようかと思ってたんですが、時間がないのと、変に目立って絵のバランスが崩れるのを防ぐために、あえてあっさりとした塗りにしました。この判断は正解だったと思う。
さらに『VACATION!』も仕上げていきますが、これがなかなか難航します。
特に画面下方、キャラクターの手前の波が難しく、何度も何度も塗り直すことになります。そんなこんなで絵が終わらぬまま、とうとう7月11日になってしまいます。
7月11日、個展開催の前々日であり、前から設定されていた設営日です。この日は個展会場であるビリケンギャラリーさんに直接出向き、展示の設営作業をしなければいけません。絵がまだ2枚、出来上がっていないというのに……。
ともあれ設営も大事な仕事なので、しっかり行わなければ。(あと2枚あと2枚あと2枚、どうしよう終わるかな……)と脳内で反芻しながら電車に揺られ、表参道に到着します。この展示はイラストの他にも、これまでの漫画原稿、蔵書、スケッチブック、古写真のコレクションなど、かなり幅広い展示物を置くことになるため、責任者=自分のディレクションが必須なので、行かないわけにはいかないわけで……。
ちなみに額縁など重量のある諸々は先にギャラリーの方に発送しており、描き上がった絵だけを持参して、ギャラリーその場で額装していきます。
わりと思ったとおりに、色がバチっとハマってくれて良かった。
完成していない絵は、コピーをかわりに入れておきます。右端のギャル子の隣にある絵(『秘密の信仰』)、上半分が真っ白なのがおわかりになるでしょうか……。
未完成品の、それもコピー。完成しなければ、個展初日にこれが展示されることになる。吐きそう。
さて。ある程度、設営準備を終えたうえで帰宅し、夜から朝にかけて怒涛の勢いで最後の2枚を仕上げていきます。
『VACATION!』完成! 手前の波しぶきも迫力が出て、いい感じになりました。キャラクターごとの色や水着のデザインもかぶることなく、差別化できたと思います。波しぶきは当初、輪郭線で描いていたんですが、最終的にホワイトでべったり潰して消しました。こうした自然物はきっちりとした輪郭線でなく、ある程度あそびの出る筆先で描いた方がいいですね。教訓を得ました。
最後の一枚、この展示の〆のイラストでもある『秘密の信仰』です。
夜の空を塗ったら、なんか思ったよりめちゃくちゃムラになってしまった。これどうにかなるのか?
どうにかなった。空を整えて、キャラクターの服飾をそれぞれ塗って、『秘密の信仰』完成!
髪の長い女の子たちが夜中に集まっているという、他の絵とくらべてちょっと不思議な作品ですが、いい感じに仕上がってよかった。キャラが小さく、アクリル絵の具で塗るのが不向きなため、肌は色鉛筆で塗ろうかとも思ったんですが、やっぱりアクリルで塗った方が生っぽい質感が出ますね。
さて、明けて7月12日。個展前日、ついに全ての絵が揃ったので、設営作業も大詰めです。
『LONG LONG HAIR GIRLS』が、どんな個展になったのか、既に展示を訪れて下さった皆さまはよくご存知かと思いますが、会場に行けなかった方のために、次回は展示会場の様子を再現した記事にしたいと思います。ひょっとしたら会場に行った人も、新たな発見に気づくかも。では、また次回で。
Whititll Rose
2024-08-10 03:18:29 +0000 UTC