『天使の玉ちゃん』のリレー漫画が、藤子不二雄ファンクラブのネオ・ユートピアさんのアカウントにて公開中です。
こちらは8月に発行されたネオ・ユートピア64号にも掲載されています。前号の藤子不二雄Ⓐ先生の追悼号に続いて、執筆を頼まれました。『天使の玉ちゃん』は、『まんが道』をお読みの方はご存知でしょうが、記念すべき藤子不二雄の初連載作品であり(当時なんと高校生!)、そして初の打ち切り、未完の作品でもあります。ネオ・ユートピアさんの方で、この作品の続きをを複数人でのリレー漫画形式で描いていこうという企画があり、それに参加させていただきました。前回の寄稿はⒶ先生の話なのでまんが道やⒶ先生ネタを多用しましたが、今回のはFもⒶも入り乱れたネタの作品になりました。以下にそのメイキングを掲載していきます。
さて、まずは原作の天使の玉ちゃん、および既に描かれている他のリレー作者の方々の絵をスケッチして、作風を掴む作業から入ります。何事もとにかく、1回自分で描いてみることが大事です。
『天使の玉ちゃん』原作では、メインキャラクターとして玉ちゃんと少年(名前ナシ)、あとは打ち切り直前に登場した漁師の少年、金太くらいしか登場しませんが、リレー漫画が何本か進んだ結果、玉ちゃんはタマコとタマオの二人に増え、切玉ちゃんだのウラミ玉ロウだのオリジナルキャラクターがどんどん増えて、収拾がつかない様相を呈して来ています。リレー漫画の醍醐味ですね。
余談ですが、その昔『美容院坂の罪つくりの馬』という漫画があって、これは小説家の京極夏彦氏ととり・みき氏の合作リレー漫画(お互い1ページずつネームを描いては相手に送って話を進める)なんですが、お互いがお互いに展開をぶん投げたりメチャクチャにしてやろうとして、ものすごい作品になってます。京極氏なんか、自分は小説家だからって最初は文章しか書いてないし(そして実は絵が達者)。
閑話休題。他に、藤子まんが本編からも、印象に残っている、今回のリレー漫画に使えそうなコマを模写していきます。
みんな大好きUSDマン。『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』の方しか読んだことなかったんですが、このあいだ全集の一冊を買って、前身と言われる『カイケツ小池さん』の方も読みました。この2作の作り方が上手くて、主人公名は違えど、『カイケツ小池さん』の続編がそのまま『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』になるように構成されている。そのうえ『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』単品だけ読んでもきっちり内容がわかるように出来ているのがすごい。『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』のオチは見事すぎて、何回読んでも唸ります。
藤子まんがのポーズの練習。
こういう頭身は、自分ではほとんど描かないので勉強になりますね。
表情やキャラクターの練習も。初期ドラ(左上)は表情がイカれてていいですね。
藤子まんがの「イカれた大人」というと、どのへんを想像するでしょうか。まあ色々あると思うんですけど、自分が印象に残っているのは『エスパー魔美』に登場する巨匠、竜王寺監督です。映画のために自腹で30億円のセットを組んだうえに、炎の中で若い娘が焼死するシーンをリアルに撮るために、本当に自分が連れてきた若い娘を燃やして殺そうとする、完璧主義者の異常監督ですね。もうひとり、口元のホクロが特徴なのは、『北京填鴨式(ペキンダックしき)』に登場する香港の観光ガイド、仁さんです。異常度は、まあ平均的(大人向け藤子まんがの中では)なんですが、とにかくビジュアルがいいですね。喪黒福造にも通じる、一度見たら忘れられない強いインパクトがあります。この二人のキャラを登場させるために、スケッチをしてみたわけです。
また余談ですが、その『北京填鴨式』が載っているのを含めたⒶ先生の短編集を何冊か読んだら、とにかく外国でカジノに行ってギャンブルに負ける、というネタが何本も何本もあってビックリしました。これⒶ先生の実体験なんでしょうけど、F先生の『自分会議』でも「ドボンにこってピイピイしとるくせに。」というセリフがあって、昔は意味がわからなかったんですが、「ドボン」っていわゆる「ブラックジャック」のことだったんですね。F先生、Ⓐ先生からギャンブルの話をよく聞いていたのかもしれない。
さて、スケッチをして作風を掴んだあとは、実際のリレー漫画のラフを描いていきます。4コマ2本、1ページぶんのラフを、実際のサイズで描きます。
入れたいネタがギュウギュウだったのでヒヤヒヤしましたが、なんとか無事におさまった。このラフをもとに、続いて下描きをしていきます。
下描きがこちら。
グッと漫画っぽくなりましたね。本筋のストーリーとは別に、1コマごとにそれぞれ藤子ネタをいろいろ仕込んであります。右上から、1コマ目は看板に「塩コーヒー」(『定年退食』より)。塩基カフェロイドが形成されて老化防止効果があります。2コマ目はセリフが書いてないんですが、「ふけいきもここまできたか。」というセリフがあります(元ネタは『換身』の「女上位もここまできたか。」)。『換身』は、「私たち、入れ替わってる〜!?」というネタの1本で、F先生の短編としては普通な部類なんですが、ラストの唐突なこのセリフがいいんですよね。
3コマ目の飛び上がる「五十億円!」というのは『エスパー魔美』の「ここ掘れフヤンフヤン」より。札束には『ウメ星デンカ』の肖像が。4コマ目、左のキャラクター(タマコ)が着替えているポーズが、『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』の終盤で、句楽兼人(くらく・けんと)が変身するシーンそのままです。
5、6コマ目は言わずもがな『ミノタウロスの皿』の名シーンのパロディなんですが、その中に藤子まんがの擬音をたくさん盛り込んでいます。「ギニャー」はおなじみA先生の伝家の宝刀ですが、「ヒョンヒョロ」はもちろん同タイトルの『ヒョンヒョロ』から。えっ、宇宙最高最大の価値あるヒョンヒョロをご存知ない? 「ラッキョ〜」「オーデン」は『ボノム=底抜けさん=』での宗教誕生シーン。「キャバキャバ」は『まんが道』の森安なおやさんの笑い声から。
7コマ目は前述した「仁さん」と「竜王寺監督」の藤子悪役キャラコンビ。藤子まんがではロングのキャラをベタで潰してシルエットにすることが多いので、ここでも奥のタマコ・タマオをベタで潰しています。8コマ目は『愛…しりそめし頃に…』で満賀道雄が連載決定してビックリするシーンの顔が衝撃的すぎて、そのまんま描きました。
藤子ネタだらけで、文章を書いていてもお腹いっぱいになりましたが、掲載されるのはコアな藤子ファンばかりが読者のファンクラブ会報なので、これでも足りないくらいです。ともあれ下描きも無事固まったので、次のペン入れに進みます。
ペン入れは完全にアナログで行います。藤子先生はカブラペンを使っていたそうなんですが、自分がカブラを使うと、線が細くなりすぎるんですよね。とりあえず描きやすい画材でなんとか間に合わせます。サジニュームと筆ペンが、太い線が引きやすいので、この2つをメインに使いました。
左上、「ミノタウロスの皿」のシーンは、さすがに大変なのでビビって、後回しにしてますね。
でもやるしかない。
何とかなりました。
実際にペン入れまで進めた原稿が、こちら。
一部、手描きでセリフが入っていますが、これは元々の『天使の玉ちゃん』のセリフが手描きだったため。リレー漫画のほうでも、作者さんによってセリフが手描きだったりフォントだったりとマチマチです。自分の漫画では、玉ちゃんたちのセリフは手描きで、そうではない、他のキャラクターたち(大人漫画の登場人物)は写植にして、ちょっとした違和感を演出してみました。
いちばん苦労したのは、やっぱり『ミノタウロスの皿』のパロディ。原作も大好きだし、ちょうど少し前に藤子・F・不二雄ミュージアムで原画を見てきたので(白く輝いていて美しかった)、緊張もひとしおです。F先生、ある時期から裸体ネタがけっこう多くなるんですが(『エスパー魔美』『未来の想い出』など)、当時SMクラブに通っては、プレイをせずに、SM嬢のヌードをデッサンして裸体を勉強していたそうです。(藤子スタジオのアシスタントだったえびはら武司氏のインタビューより)女の子も、プレイをするより楽で、しかも描いた絵を気前よくくれるので、喜んでいたとか。鑑定団とかに出てこないかな、その絵。
ちなみに玉ちゃんは天使なんですが、フランス語で「天使の性別について議論する」=「時間の無駄」「無益な議論」ということわざがあるくらい、天使の性別というのは神学者でも意見が分かれるところだそうです。なので今回の裸体も、どちらともとれるような感じを目指しました。
あとは、仁さんの着ている背広。これ普通のアミ点トーンだと思って、同じようにアミ点を貼ったんですが、後から確認してみたら、ぐねぐねした線の集合体という、ちょっと特殊なトーンを貼っていたことに気づき、あわてて似た柄を自作して貼っつけました。よっぽどアップにしないと見えませんが、まあそのくらいは合わせていますよということで。
そんなこんなで完成した『天使の玉ちゃん』リレー漫画、自分の分も含めて50本以上が、今回のネオ・ユートピア第64号に一挙に掲載されています。
リレー漫画ならではのハチャメチャな展開が楽しく、また自分の無茶振りを後の描き手の方がしっかり回収していたり、最後は泣けるいいオチがついていたりと、読み応えがあります。またスタジオゼロ特集ということで、「トキワ荘の青春をもう一度」と立ち上がったアニメ制作会社「スタジオゼロ」の貴重な歴史が盛りだくさん。あと『大長編ドラえもん のび太と鉄人兵団』の、雑誌掲載時と単行本との修正比較が「こんなに修正しているのか!」の嵐ですごかった。
ネオ・ユートピア64号はこちらのサイトで通販を行っているそうです。
何度か書いていますが、小学校の近所にあった公民館の図書館には、漫画本もたくさん置いてあったので足繁く通っていたのですが、そこにあったのが愛蔵版の『藤子・F・不二雄 SF全短編』と『まんが道』でした。繰り返し繰り返し何度も借りて読みましたね。なので、だいぶ気負いましたが、まあリレー漫画のにぎやかしの一本として、お楽しみいただければ幸いです。では、また次回で。