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【支援者限定】『あのエロい映画なんだっけ?』メイキング(ペン入れ編)


月刊アクションの2023年7月号にて、読み切り『あのエロい映画なんだっけ?』が掲載されました。もともと月刊アクションの創刊10周年記念の読み切りとして依頼されていたもので、雑誌のほか、(Webサイト)の方でも掲載されています。


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メイキング記事も今回で3回目ということで、いよいよ「ペン入れ編」に入っていきます。実際のペン入れ時の写真などを交えながら、作品について解説していきます。



※※※※※※※※ここから先の記事は『あのエロい映画なんだっけ?』のネタバレを多大に含みます。必ず漫画の方を読了してから、先に進んでください!※※※※※※※※




さて、ペン入れです。ネーム→下描きの時と同じように、今度は下描きをスキャン→水色に変更して、原稿用紙にプリントアウトします。この水色は最後にデジタル作業をする時に簡単に消せますし、アナログ原稿で入稿した場合でも製版で飛ぶので印刷には出ません。下描きを水色で印刷するメリットは、なんといっても消しゴムかけが必要ないこと! 消しゴムかけは力の要る作業ですし、間違えるとインクをこすったり原稿を折ってしまったりとトラブルも多く、何よりペン入れした線画が薄くなるのが非常に残念です。


消しゴムかけを無くす方法として、他にトレース台を使って下描きをトレスする方法もありますが、こちらは紙の厚み等の影響でちょっとしたズレが出るのと、やはり目が疲れるので、現在は水色線画のほうを採用しています。

まずは枠線とフキダシを最初に全部入れたあと、ペン入れしやすい箇所からペンを入れていきます。やはり56さんは描きやすいですね。



あとは、ちょっとしか出番のない人たちも、整合性を気にしなくていいので気楽に描けます。

服の模様とかも適当に描き込んでOK。ベタもこの時点で、アナログで塗ってしまっています。ベタは当然ながら、デジタルのバケツツールで一気に塗るのが一番早いんですが、今回は全部アナログで手塗りしました。理由はいくつかあるんですが、作画してる段階でベタを置いてみて、明暗や画面の構成をコントロールできるのがひとつ。ちょっと影が足りないと思ったら塗り足したり、逆に修正したりとか。もうひとつは、単純にアナログでベタを塗るのが楽しいからですね。少し手間のかかることでも、自分が楽しいとモチベーションがあがってやる気が出るし、逆に簡単なことでもやる気がないと全然進められなかったりするので、原稿作業ではなるべく「時間がかかっても楽しい方」を選ぶようにしています。



爆発のコマ。爆発はきちんと描くのが難しく、出来が心配なので、キャラを描いている段階でも手を入れて、様子を見ながら進めていました。

話の流れ上、ここの爆発がテキトーな作画だと、説得力が出ないんですよね。小さいコマなんですが、爆丸親方さんのセリフにあるように、爆炎が綺麗な作画を目指しました。



乳鼠くんの仕事場に飾られている、AV女優のポスター。小さな部分なので、丸ペンでカリカリと描いていきます。

昔のアナログ原稿ですと、Gペンやカブラで主線を描き、細かい部分を丸ペンで描き込んでいましたが、今回は新たな試みとして、筆ペンでほとんどの主線を引いています。もともとGペンの筆圧でガッと太く描くやり方、あるいはミリペンや丸ペンでの細い線を重ねて主線を引くやり方が、どちらも非常に苦手でした。だからインクを使わない鉛筆での作業にシフトしていったのですが、今回は同業者の友人から教えてもらった筆ペンが非常に使い心地がよく、気持ちよく太い主線が弾けるので、これを主戦力として導入しました。


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呉竹の「くれ竹筆ぺん 二本立かぶら 55号」です。けっこう色んなところで普通に売っている、一般的なものです。正直なところ使っている顔料インクの質が低く、にじむ、乾燥が遅い(速乾性というバージョンもあるんですが、こちらは更ににじみが酷い)、ホワイトと反応して変色する(ドクターマーチンのペンホワイトの場合)と散々なんですが、そのデメリットを踏まえても、硬筆の描き心地がすばらしい。固くてコントロールしやすく、思い通りの線がスピーディーにストレスなく引けます。この筆ペンで太く存在感のある線を先にカッチリ引いて、丸ペンで細部を描き込む、というスタイルが非常にやりやすく自分にハマりました。今後もモノクロ原稿では主戦力に使っていきたい一本ですね。



そんなわけで筆ペンを中心にざくざくと作画を進めていきます。

右上のサングラス・タンクローリーの反射2コマは、前述した爆発のコマ同様、作画でしっかりとぬらぬら反射していないとお話になりません。ミラーサングラスなり、タンクローリーなり、いろいろと資料を見て反射を描くコツを考えた結果、「反射しているものを愚直にしっかりと描く」ことが、一番反射っぽく描けることに気がつきました。なので両方とも反射している風景をしっかり描くことで、ぬらぬらした反射を表現できたと思います。もう少しコツがあるとすれば、上方を光源+空グラデにして(屋外の場合)、水平線付近にベタを集めると、それっぽくなります。


適当に描いてササッと誤魔化そうとすると、結局じぶんを誤魔化しきれず、修正に修正を重ねて、かえって時間がかかることが多々あります。修正というのは「1、それまで描いた時間が無ムダになる」「2、新しく描きなおす時間がムダにかかる」という、一番時間のかかる行為です。できるだけ避けた方がいいでしょう。(※ここ、後からまた出てくるのでよく覚えておいてください)


故・今 敏監督はレイアウトの名手としても知られますが、監督のエッセイのなかで「建物を描くコツは、とにかく地道に時間をかけるほかない」というような言葉がありました。また五十嵐大介さんの漫画「すなかけ」の中での「結局はていねいな仕事につきる」という言葉も、たびたび思い出します。


あと、人が溶けるカット、これも1コマだけで整合性とか考える必要がないので、好きに溶かして描けて楽しかったです。最後のコマの背景、水面のベタなんかは、下描きなし、筆ペンでササッと描いてちょっと整えて…、という感じでスピーディーに描いています。「漫勉」で星野之宣さんが使っていたテクニックをマネしました。



merahちゃん。髪は適当に入りとヌキで省略しようと思っていたんですが、結局ギャル子と同じ描き方で全部描いちゃいましたね。ただ、この描き方はセンスが問われないのと、手間をかけたぶん画面がリッチになるので、結果的には良かったと思います。

口元に2コあるホクロと、乱れた歯並びがチャームポイント。口元のホクロってとても良いと思うんですが、女優さんとかだと写真のレタッチでわざわざ消しているケースをよく見かけて、かわいいのに勿体ないなぁと思っています。ちなみに着ている服の「SWOLE」とは、ムキムキマッチョのスラングです。



ある程度キャラを入れたのち、背景も進めていきます。背景は主にミリペンと定規で主線を描き、丸ペンで細かいタッチをつけます。

定規は一般的な固い定規ではなく、楕円を描く用のテンプレート(写真左の水色のやつ)を使っています。薄くて粘りがきいて使いやすいからです。定規にインクが付くとミスが起こりやすいので、定規を使う際はつけペンではなくミリペンを使います。



cぉlv8yさんの部屋のシーン。調度品や、窓辺の水仙の球根などを、丸ペンで丁寧に描き込みます。

cぉlv8yさんのピアノ教室の先生という職業や、住んでいる家、部屋の雰囲気などは、実際に自分が小さい頃に通っていたピアノ教室の先生をモデルにしています。外見や、それこそ金玉云々についてはもちろん創作なんですが、緑の奥に玄関のある素敵な家に住んでいて、度々外国に行くせいか部屋には様々な外国の丁度品があって、すごくセンスが良い老婦人だったことを子供ながらに覚えています。特に冬から春にかけて水栽培の水仙を育てていて、毎週教室に行くたびに、それが育っているのを見るのが楽しかったですね。こういうふうに漫画に描くものは、全く自分と関係のないものではなく、どこか自分の記憶や体験、あるいは単純に好きなものと結びついていると、描くのが楽しく、また確信を持って堂々と描けると思います。



cぉlv8yさんは革ジャンの似合う女です。これも確信を持って言えます。革ジャンはやっぱりベタをきかせて描きたいですよね。

右のコマは顔がイマイチだったので、後から描き直してます。重要なコマですから。



さて、間違いなくこの原稿の一番の山場、馬上の花嫁のシーンのペン入れです。下描きも大変でしたが、ペン入れも非常に大変でした。短編集の後書きでも似たようなことを書きましたが、漫画の作中に出てくる「すごいシーン」を、自分で描かなければいけないのはとても大変です。読者に「なるほど確かにこのシーンはすごい」と思わせることができなければ、漫画として成立しないからです。今回はこの呪われた花嫁を、いかに説得力を持って描けるかが肝でした。

手前、一番大きな裸体がまあまあ上手く描けたので、ほっと一息。よく見ると頭上のベールの部分を、切り貼りして全修正してます。切り貼りの作業自体は好きなので、切り貼りで修正できるのであれば躊躇なく直します。



肌と陰毛のアップ。

肋骨のうすく浮き出たラインを表現するのに、丸ペンの線ではまだ強すぎるので、上からドクターマーチンのペンホワイトで白い斜線を入れて、線の強さを弱めています。また陰毛も、丸ペンで毛並みを描き込むだけでなく、ところどころ反射して光っている毛をホワイトで入れることにより、生々しさが出ます。


ストッキングの模様の描き込みは、一見めんどくさそうに見えますが、これはもう慣れたものなので、かんたんに苦労なく描けます。よく見るとこのくらい荒い方が、離れて見たときに自然に見えます。寺田克也さんが漫勉で、クリーチャーの作画に関して「これはもう、私の『たつきの道』ですから、息をするように何の苦もなく描けますね」とおっしゃってました。たつきとは生計のことで、『たつきの道』とは『生計の手段』のこと。自分にとっては、こういう模様の細かい描き込みなんかが『たつきの道』にあたるのかもしれません。



さて、何とかかんとか馬上の花嫁のキャラクターのペン入れが終わったので、次は背景を描いていきます。下描きは前回掲載しましたが、軽くラフがあるのみ。時間もないし、体力的にそろそろ疲れてきたし、他のページと差別化もしたいので、ベタを中心にした黒い森の背景を描くことにします。

うん、いい感じだ。これなら筆ペンだけでササッと適当に描けるぞ。



調子に乗って描き進めた結果がこちら。

背景がうるさくなりすぎて、何がなんだかわかんなくなりましたね。せっかくの馬のシルエットも台無し。このシーンでは「馬に乗った花嫁」をきちんと読者に見せたいのだから、こんなにベタのうるさい背景は邪魔なだけです。きちんと計画的に画面構成を考えないからこうなります。これは修正しないといけません。適当に描いてササッと誤魔化そうとすると、結局じぶんを誤魔化しきれず、修正に修正を重ねて、かえって時間がかかることが多々あります。はい、前述した言葉が、見事自分に帰ってきました。



はぁ〜、やるしかねえか。花嫁と馬のまわりにホワイトを思いっきり乗せて、画面をスッキリさせます。

だいぶ見やすくなりましたね。



これに枝葉を加筆して、それっぽく、雰囲気のある画面に修正していきます。

なんとかなった気がする。これを描くちょっと前くらいに「シン・仮面ライダー」のメイキングか何かをちょろっと見たんですが(映画自体は未見)、敵のアジトの背景に流木を組み合わせたオブジェが飾ってあり、それをヒントにして枝を伸ばした画面にしました。いい感じになりましたが、もしあのメイキングを見てなかったら、また別な画面になっていたわけで、どうなっていたのかちょっと気になりますね。



16−17ページの見せ場のシーンを並べてみるとこんな感じ。

左上、こんもりと盛ったホワイトの跡が反射していますね。実は今回、こんなにホワイトを盛り盛りで大胆に修正できたのは、理由があります。近所のホームセンターで見かけたコレを使ってみたからです。



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漫画の修正といえばミスノンが有名です。また細かい部分の修正にはドクターマーチンのペンホワイトなどが、ペン先に直接つけて使えて重宝します。ほか、ゼブラのケスティックなんかも手軽なので使っていたのですが、今回はじめてこの「ぺんてる ペン修正液 極細」を使ってみたら、もうダントツで便利でした。インクがすぐ出る、小回りが効く、そして何と言ってもホワイトインクの質が良い! ミスノンやドクターマーチンなんかは、インクや顔料によっては変に反応しちゃって変色して、修正どころじゃなくなることがあるのですが、このぺんてるのインクは非常に強く、どんな黒インクの上でも反応せず、強い白で覆い隠してくれます。おまけに乾燥がびっくりするほど早い! ちょっと一呼吸置いたら、すぐに上から描き直しができる! ペン入れの途中から使い出したんですが、後半はもうこれ一本で、何かあったらガリガリ修正を入れていましたね。間違いなく今回のMVP画材です。



最終ページの4人も、きちんとペン入れをしてベタを入れていきます。

このページはネームの時から非常にしっかりしていたので、危なげなく、修正もほとんど無しでペン入れすることができました。



いよいよ原稿も終わりが見えてきたころの机。

修羅場ですね。



最後の最後まで残していた、表紙もペン入れをしていきます。

表紙はキッチリと下描きが入っているので、あとは髪の毛とか、セーターのラインだとかを丁寧にペン入れしていくだけです。ただ、背景の爆発に関しては、キャラクターの邪魔にならず、かつ爆発の良さもきちんと描きたいということで、綺麗に入るよう注意しました。



わりとうまくいったのでは。

筆ペンでざっくりベタを塗ったあと、丸ペンで整えています。ちょっとエロいB級映画のダサいポスターみたいな感じが出て、それでいて、漫画本編を読んだあとに読み直すと意味が変わる(わかる)ようになる、そんな表紙を狙いました。



今回の原稿で、一番最後まで後回しにした(描きたくなかった)のは、乳鼠くんの仕事場、レンタルビデオショップの背景ですね。

レンタルビデオ店は、それこそ短編の「友達だなんて思ってないんだ」「少女というより痴女だった」でも描きましたし、ギャル子本編や映画紹介でもさんざん描いてきたんですが、何回描いても大変だなあという印象しかないです。ソフトが見やすいように傾いて並んでいるのと、ケースの上からレンタルケースがはみ出ているのが良くないですね。


ただ、昔ならビデオのタイトルだのパッケージだのを色々描き込んでゴチャゴチャにしちゃっていたところを、今回は「レンタル用に貼られたシールなど、レンタルビデオショップとしての特徴だけを描いて、他は省略する」という手法を取りました。並んでいるビデオを見ても、どれもタイトルやパッケージは描いていませんが、管理用のシール等はしっかり描いてあります。これによりうまく情報量のコントロールができ、ゴチャゴチャしすぎずに「レンタルビデオショップ」という情報をダイレクトに伝えることができたと思います。



あと今回の背景で好きなコマはここかなー。

河原で映画を撮影しているシーンの背景。手前の河川敷は定規を使って描いていますが、奥の橋(正確には水道橋と、その奥にある鉄道橋が重なっている)はミリペンの細い線で、フリーハンドで描いています。よく見ると橋タテの線とか、ヘロヘロですね。これは奥にある風景ほどラフに描くことによって遠近感を出すという手法で、蝋燭姫なんかでも使っていますが、このコマは特にそれがうまく作用して、空間を感じられるコマになったかと思います。



さて、大変だった下描き、ペン入れも無事に終わりましたので、あとはスキャンしてデジタルでのトーン貼り作業だけです。自分の絵は完全に線が閉じているし、トーンもたくさん貼るタイプではなく、何よりキャラクターの影トーンを貼らないので、2日もあればスキャン・2値化・ゴミ取り・トーン貼りといったデジタル工程が全て終わります。あまり解説するような内容もないのですが、せっかくなのであと1回使って、トーン処理と、ほか、気になるポイントの解説などをちょろっと書いて終わりにしようかと思います。それではペン入れ編、長々とお付き合いいただきありがとうございました。



例のテロップ、実は手描きなんですよね。そのへんの解説も、また次回で。

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