月刊アクションの2023年7月号にて、読み切り『あのエロい映画なんだっけ?』が掲載されました。もともと月刊アクションの創刊10周年記念の読み切りとして依頼されていたもので、雑誌のほか、(Webサイト)の方でも掲載されています。
今回からの記事ではそれぞれ「ネーム編」「下描き編」「ペン入れ編」とわかれて、読み切り漫画のメイキングを解説していきます。初回はネーム編ということで、実際のネームを交えて見ていきましょう。
※※※※※※※※ここから先の記事は『あのエロい映画なんだっけ?』のネタバレを多大に含みます。必ず漫画の方を読了してから、先に進んでください!※※※※※※※※
某月某日、月刊アクションの編集さんから、10周年記念企画の読み切りの依頼を頂きます。打ち合わせで諸々雑談をした際に、お互い映画の話で盛り上がったので、映画ネタで1本作れないかな?と考えます。
短編を描く際は、まず文章でプロットを組み、セリフをつけたシナリオまで書いてしまうことが多いです。ギャル子とかの4ページ程度ならやらないんですが、16ページとかそれ以上の一般的な長さの短編となると、プロットを組んである程度の概観を先に掴んでおく必要があります。
もともと「モキュメンタリー(ドキュメンタリーふうに作ったフィクション作品)」みたいな感じで1本漫画作りたいな〜と考えていたんですが、今回ちょうど良く「エロい映画に関するサイトを扱ったドキュメンタリー番組」というフォーマットを思いつきました。登場人物はスタジオの番組レギュラー2人と、サイトのユーザーの老若男女4人です。
上の画像が実際のプロット&シナリオです。この時点で漫画自体の構造はかなり決まっており、プロットと完成品がほぼ一致しています。一方でシナリオの部分は「たたき台」として使うので、実際にコマを割ってネームを組み立てていく際に、尺や生理的なテンポにあわせて変更していきます。
上記の画像ですと、最後に出てくる「ウェズリー・スナイプスのスナイパー云々」というくだりが全カットされています。長くてテンポを削ぐからですね。スナイパーというタイトル作品はいくつかあり、ドルフ・ラングレンのやつなんか好きなんですが、ウェズリー・スナイプスのやつは人妻が脅迫されて公園で衆人環視の最中にドレスを脱いでストリップをさせられるシーンがあるので、えっちです。
ともあれ「スナイパー」のくだりはカットされましたが、より手軽にツカミを得ることができるセリフ/映画ネタとして「恋人がアナルにフルートを突き刺される映画」というセリフを代わりに配置しました。
プロット・シナリオが固まると、実際に絵を入れたネームの作業に入ります。ネームというのはかなり作家ごとに特色が出る部分で、本当にざっくりとしたラフなものしか描かない人から、下描きそっくりに描く人まで様々です。自分の場合は後者です。
冒頭、番組のスタジオトークから始まります。このネームの時点では、アナウンサーと解説者、両方が女性になっています。女性同士の会話の方が画面が華やかになるかと思って配置しましたが、どうにも会話がうまく噛み合いません。そのまま数ページネームを進めていきましたが、ちょっと良くないので一旦中断して、最初から描き直すことにします。
新しく1ページ目から描き直したのがこちら。
コマ割りや構図はほとんど一緒ですが、アナウンサーの女性に対して、中年男性を解説者に配置しました。この二人にイントロで「アナルにフルートを…」のやり取りをさせることにより、二人の関係性が生まれて、ピリッとした締まった空気になりました。スタジオのセットや椅子に座っている様子なども描いて、より具体的にイメージできていることがわかりますね。ここからは筆が進んで、2〜3日でネームの絵入れが出来上がりました。
6ページ目、乳鼠さんがおっぱいについて尋ねられるシーン。左が最初のネーム、右が描き直した方のネームです。
セリフ内容は同じですが、右の方がレイアウトも凝ってますし、何より仕事場のレンタルビデオ店だけでなく、彼の暮らしている部屋や私服姿が出てきたのがいいですね。これでキャラクターにぐっと「背骨」が入った感じがします。
4〜5ページのネーム。レンタルビデオ店をはじめとして、背景の負担が多いネームができました。後から自分で作画しなければいけないことなど考えてはいけません。
余談ですが、ネームの段階から背景には定規を使ってます。これは故・今 敏監督が絵コンテや漫画の下描きのようなラフな仕事でも、その段階からキッチリと定規を使って背景を描いていたのを見てマネしました。いずれにしろ自分で全ての作画をする以上、どこかの時点でレイアウトをきちんと決めなければいけないので、そんなら最初から定規を使ってレイアウトを固めておくと、後の作業が楽になります。
8〜9ページのネーム。merahちゃんの服装や家のレイアウトなんかも、ネームの時点で決め打ちしておきます。左5コマ目のキメのコマは、近場にあるホームセンターのフードコートをイメージして描いておいて、後から写真を撮りに行きました。
16〜17ページ目のネーム。本作の見せ場である「思い出せない、エロい映画のシーン」です。編集さんに「この映画は実在するんですか?」と聞かれましたが、架空の映画のシーンです。
ただイメージの源泉としてはいくつか元ネタがあって、「世にも奇妙な物語」の「視線の町」に出てくる馬上の花嫁や、もちろんみんな大好きゴダイヴァ夫人もそうでしょう。あとこれは本当に何の映画か思い出せないんですが、ビリー・ザ・キッドみたいな無法者が主人公の西部劇で、その恋人が終盤で裸で馬に乗せられたまま追放されるシーンがあって、ほんの一瞬なんですけどあれエロかったな〜でも何の映画か思い出せないな〜と、今でも思っています。ある意味この漫画の根源ともいえるイメージですね。
ところで原稿が全て終わったあとに、「漫勉neo」の寺田克也さんの回を見て思い出したんですが、「西遊奇伝 大猿王」の三蔵法師、あれなんかも意識してなかったんですがイメージのひとつにあったかもしれません。寺田さんの描いている姿は見ていて楽しくていいですね。
2ページ目の表紙は、ネームの最後に描きました。もともと1/3ページ空白にしておいて、まあ何が入ってもいいかと思っていたんですが、ネームを最後まで描いたあとに「なるほど、じゃあ表紙はこうだな」とアイディアが出て、すんなり決まりました。
描いてみると「この漫画にはこれしかないだろ!」と言えるような、ピッタリとハマった表紙になったと思います。ネームの時点ではご覧の通り、乳首まではっきり出ていましたが、ネームを回覧した編集者の方のひとりが「表紙で乳首が見えていないほうが、より多くの人に読んでもらえるのではないか?」と提案されて、なるほどそれはその通りだと思い、下描きでは乳飾り(tassel pasties)を付けました。エロい映画のB級感が増しましたし、表紙でいきなり乳首を出すより、後半(馬のシーン)でバーンと見せた方がありがたみが出たと思います。
ラストページ。ネームの段階ではっきりと立ち位置、表情まで全部決めています。
もとからラストは1ページ使ったひとコマでいくプランでしたが、序盤からしっかり絵を描いてきたので、最終ページにもなるとキャラクターのことはすっかり掴んでいて、このシーンでそれぞれがどういう表情をするのか、全く悩まずにスラスラ描けました。とても気に入っているラストシーンです。
さて、絵が全部入ったので、このあとスキャンして取り込み、パソコンでネームを写植していきます。絵を描いている時は「だいたいこのくらいのセリフが入るかな」というカンでフキダシを描いて、後からデジタルで写植する際にいろいろ調整します。入り切らなくてフキダシを増やす場合もまれにあります。デジタルではどうとでも直せるので、この時点でガンガンいじくり、セリフを固めておきます。
フキダシにセリフを入れ終わったら、データを編集さんに送って、再度打ち合わせをします。以下が実際のネームのデータです。
編集さんの方からは、大変面白いのでこれで問題ないと言われたあと、1、2点、読んでいて引っかかった部分を指摘されました。こちらも読者に余計な部分で違和感を持たれるのは好ましくないので、最初の読者である編集さんが読んでいてよくわからなかった部分を、わかりやすく修正します。
上記のネームですと、右ページの最後のコマが「読んでいてよくわからなかった」そうです。cぉlv8yさんがピアノ教室で生徒に教えているシーンなのですが、髪型を変えているせいで同一人物に見えず、何かの映画のシーンかと思ったとのこと。そこで以下のように絵を描き直します。
髪型や表情を変更して、上のコマと同一人物だとわかるようにしたところ、OKが出ました。
このシーンは実際の原稿ではさらに描き直して、構図を変えています。ピアノを教えているシーンなのに、ピアノの鍵盤が出ていないのが、個人的に「逃げ」の構図じゃないかなって思ったんですよね。やぱり鍵盤が見えてないとピアノっぽくないじゃん、と。なので、下描きの段階でピアノの鍵盤がよく見える構図に直しています。
ピアノを描くのは大変に難しいので、ここで描き直したことによって諸々手間がかかるようになりましたが、まあ漫画が少しでも良くなれば何より。
というわけで、無事ネームにOKが出ましたので、次は下描きを進めていくことになります。下描き編は明日公開しますが、同じように実際の写真などを掲載しながら解説していきますので、引き続きよろしくお願いします。
9ページ目の下描き。ちなみにmerahちゃんは「ひと殺しメシ」に出てきた女子高生と同じ制服を着ています。セーラーブレザーの制服、一度デザインして使い切るには勿体無いな〜と思ったので、ここで再利用しました。では、また次回で。
Whititll Rose
2023-05-27 04:01:43 +0000 UTCH.y.p.J.i.i
2023-05-27 03:51:32 +0000 UTC