現在、コミプレに読み切りまんが『ひと殺しメシ』が掲載されています。今回はその読み切りのメイキング、ということで、実際のネームを見ながら内容を解説していきたいと思います。漫画本編のネタバレを多分に含みますので、必ず漫画本編をお楽しみいただいた後からお読みください。
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※※※ここから先の内容は「ひと殺しメシ」のネタバレを含んでいます。必ず本編を読んでからご覧ください※※※
さて、ちょいちょいショートはアンソロやら何やらで描いてきましたが、10ページを超える読み切りを描いたのは「大きな森 小さな園」以来じゃないでしょうか。8年ぶりになります。わりと攻めた悪趣味な内容なんですが、幸いなことに公開後は各所からご好評をいただいており、ありがたい限りです。
本題である「ひと殺しメシ」自体のアイディアについては、リツイートしましたが実は4年前に、既に出てきています。
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人を殺してしまった後でも、腹は減る。
さまざまな人物たちが、さまざまな理由で人を殺してしまった後、最初に食べる食事の話……同業者からは却下されたんですが、自分では気に入っていたので、その後テキストファイルにネタを思いつくたびにストックしていました。例えば、
自然派ママに育てられ、ジャンクフードや炭酸水の類を一切禁止されて育った少年。教育も厳しくストレスがたまる。どうしてもジャンクフードを食べたい、他の皆のようにジャンクな暮らしがしたいと思った少年は、母親を殺し自由になり、はじめてジャンクフードを食べる。
「うわっ、なにこれ、全然おいしくない…」
横たわる母親の死体、冷蔵庫には産地を厳選した高級食材、本棚に並ぶレシピ本、壁に飾られた調理師免許。
「うちの母親って、料理上手かったんだなぁ…」
本編では1コマのダイジェストで済ませたエピソードですが、オチまできちんと考えてありました。そんな感じでネタをストックしてあったんですが、コミプレの編集さんから読み切りの依頼を受けて、こうして引っ張り出してくることに。ただ、どうせ読み切り単発の仕事なら、とことん捻っていじくり回した内容にしようと思いました。「ひと殺しメシ」という連載向けの題材に対して、短編1本で全てをやり切った内容。というわけで、漫画家が主人公のメタな始まり方をするプロットとなりました。
それでは以下、実際のネームを見ながら、軽く解説していきます
自作のネーム用紙です。ギャル子原稿にはフォーマットが違うんで使わないんですが、一般原稿用紙の半分のサイズに方眼を足したもの。ネームの段階である程度描き込んでおけば、そのまま拡大コピーして下描きの下描きに流用できます。セリフはなんとなく考えておいて、後からパソコンで打ち込むのでこの時点では書きません。パソコンで打った方が改行やセリフのテンポが調整しやすいし、誤植もある程度避けられるので。
冒頭は漫画家と編集者の会話劇から始まります。漫画読む人は、だいたいみんな漫画の話が好き。メシ漫画の趨勢についてはだいぶ雑だし、美味しんぼだって別に高級グルメばかりの漫画ではないのですが、まあ短くそれっぽくまとめてみました。美味しんぼは友達が全巻持ってたんで(当時)全巻読んだんですが、まあめちゃくちゃ面白いです。とくに初期、話の(読んでる読者の思考の)誘導がめちゃくちゃ上手い。
いっぽうの孤独のグルメとか、あと今回名前は出さなかったんですが「刑務所の中」が自分の中では同じタイプの漫画になっていて、話の筋は覚えているし特に意外なオチがあるわけでもないのに、何度読んでも面白いというのは、いったいどういう現象が読者の脳の中で起きているのか……これについての仮説として、「主人公のごく個人的な体験を追体験できる面白さ」なのではないかと考え、それを端的にあらわす言葉として「ナラティブ」を用いました。意味的には「個人的な物語」みたいなとこでしょうか。
会話劇からインパクトのある表紙、ということで、バイオレンスな題材なことを印象付けます。表紙であり、そのあと作中の「鈴木先生」が描くのに苦労したカットです。本編と見比べるとわかりますが、コマ割りやレイアウトはネームの時点でかなり固めてしまっているので、原稿でもだいたいそのままです。いっぽうで細かい変更もあって、たとえば表紙の女子高生の制服がブレザーから「セーラーブレザー」というちょっと凝ったやつになったりとか、左ページの鈴木先生の服がパンツからロングスカートに変わったりとか。
「ひと殺しメシ」の例として出す話は、できるだけわかりやすいものを選びました。フキダシ2つと1枚絵だけで読者に「へえ、面白そうじゃん」と思わせる内容。あと編集長は出番が少なくても覚えてもらえるよう、濃いめの顔にデザインしました。実際にああいう容貌の編集長に会ったことはないですけど、言われた言葉は実際言われたやつです。やっぱり実体験をベースに描くと筆が乗るし、実感(怨念)の込められた、重みのあるネームになりますね。
方言。ギャル子102話でもお世話になった、秋田在住の親戚の方に方言監修をお願いしています。秋田、特に秋田市などの都市部に住んでいる若い女性は、もう秋田弁を全然喋らないそうなんですが、強めの方言が欲しかったので強めに監修していただきました。「ひとじに」というのは「一緒に」という意味なんですが、図らずも「人死に」と重なって妙な面白さが出ました。
中盤、時間が省略されて展開がグッと進みます。こういうページをめくったり、あるいはコマとコマをまたぐと時間がギュッと飛ぶのが漫画の原始的な面白さだと思います。短編を描くときにいつも「セカンドアタック」というのを意識しているのですが、「中盤に、序盤とは別方向のアプローチで物語がグッと動く展開を持ってくる」みたいなニュアンスでしょうか。起承転結の「転」と言えばそれまでですが、自分の中では「転」とはまた違うんですよね。うまく言語化できないんですが。
編集さんは同キャラなんですがガラッと印象が変わるよう、服装や髪型を変えています。前半で出てきたのは仕事用・打ち合わせ用の服装で、後半は私服ですね。デートか何か用事があったのに進捗が怪しくて急行してきた、という感じです。細かいですがメガネ(伊達)も違います。いっぽう鈴木先生は普段はメガネ(近視)なんですが、編集さんが来るのでちょっとだけ着替えてコンタクトも入れてます。原稿しろ。
そうそう、今回の舞台なんですが、前半の喫茶店は見る人が見れば「まんまじゃん」と思うほど「まんま」な場所です。デビュー作からギャル子の最初の打ち合わせから何から、だいたい全部あの喫茶店で打ち合わせをしている、そういう場所です。駅近で、いつ行っても適度に席が空いてて、長居できるので打ち合わせするのに最適なんですよね。
後半の舞台の鈴木先生宅は、自分の部屋と、編集さんが用意してくれた部屋の資料などをいい感じに組み合わせています。本棚を描くのがけっこう大変でしたが、鈴木先生の「めんどくさい人だけど漫画にだけは本気」というキャラクターを補強する一因として「漫画だらけの本棚」は必須だったのです。
ラスト。最後の1ページでひっくり返すというか、ひっくり返すために、それまでのページで読者に「鈴木先生が編集者を殺すんだな」と想像させます。鈴木先生が「殺す」とか実際に殺意をセリフで言うんじゃなくて、読者の脳内で「鈴木先生の、編集者への殺意」を作ってもらうんですね。で、その脳内の想像をひっくり返すわけです。紙の上に描かれているものではなく、脳みその中に作り上げられたものがひっくり返ると、そこに人間は快感を得るんだと思います。
おまけのメニュー紹介ページは「読み飛ばしてもいいけど、読み込むともっと面白い」感じです。実際メシ漫画のメニューとかレシピとかって大体読み飛ばされちゃう気がする。なのでまあ「おまけ」相応の扱いにしています。ナッツチーズケーキは実際にいろいろ調べて、山田牧場さんの濃厚チーズケーキ(ナッツ&フルーツ)をお取り寄せして参考にしました。漫画の内容が内容なんで、見た目とかいろいろ別にしていますけど、味は非常に美味しかったのでオススメです。
そんな感じで「ひと殺しメシ」、ネームを見ながら解説してきました。ネーム自体は絵を入れるのに1日、そのあとスキャンしてセリフを入れて調整するのに1日くらいですが、加えて事前にシナリオとして書き起こしたりキャラクターデザイン用のスケッチをしたり、あるいはネーム後も喫茶店や室内の資料を集めたりと色々時間がかかりました。作画は少しでも時間が短縮できるよう、最近ご無沙汰しているモノクロ原稿ではなく、ネームや下描きに使って慣れているダークグリーンの色鉛筆をベースにしたカラーにしましたが、結果的に血の赤が映えて良い塩梅になったと思います。繰り返しになりますが、ずいぶん攻めた内容の漫画のわりにご好評をいただき、とてもありがたかったです。皆様ありがとうございました。引き続き、面白いまんがを描いていけるといいですね。では、また次回で。