「映画もおしえて! ギャル子ちゃん」という映画紹介まんがを連載している。隔月で、毎回1ページ。ギャル子単行本には4巻から収録されている、あれである。今回はその1ページの映画紹介まんががどのように作られるのか、実際のケースを追って紹介していこうと思う。
2ヶ月に1回の連載で、しかも1ページ。合間にちゃちゃっと出来る、気楽な仕事かというと、これがそうでもない。まず紹介する映画を探すところから始めるのだが、これが本当に、何よりも大変だ。というのも、紹介するのは何の映画でもいいというわけではない。「映画もおしえて! ギャル子ちゃん」の連載媒体は、隔月刊の「スケールアヴィエーション」という雑誌で、これは世にも珍しい「航空機模型の専門雑誌」なのである。そういうわけで紹介する映画には『作中に航空機が出てくること』という、非常に強い強い縛りがあるのだ。
では「航空機が出てくる映画」というと、具体的には何か。これは逆の「航空機が出てこない映画」を言っていったほうがわかりやすい。たとえば日本の時代劇。航空機がまだ歴史に登場していないので、まず作中にも出てこず、したがって紹介もできない。あるいは中世ヨーロッパや古代ローマを題材にした映画なども、ほぼダメだ。西部劇もダメ。三国志の時代を舞台にした英雄群像劇もダメ。大航海時代の海賊ものも、フランス革命の宮廷劇も、ヴィクトリア朝イギリスを舞台にした百合愛憎劇なんかもぜーんぶダメ。ようするに、航空機が発明されるそれより前の時代を舞台にした作品は、よっぽどの内容でないかぎり(たとえば最後にUFOが攻めてくるとか)紹介できない。これでだいぶ、紹介できる映画の枠が狭まってしまう。
残ったそれ以外の、航空機が発明された後の時代の現代劇やSFでも、だからといって必ずしも航空機が出てくるとは限らないので、また紹介するのが難しい。「下妻物語」や「間宮兄弟」といった日本の現代劇は、大好きで紹介したくてもフィルムのどこにも航空機が出てこない。「パーフェクトブルー」もそれで諦めた。いっぽうで近未来を扱ったSF作品などは、未来の航空機であったり宇宙船などが登場することが多く、比較的紹介しやすい。「宇宙船は航空機か?」と問われると航空機の定義の問題になってくるが、ここは「スケールアヴィエーションという誌面で取り扱っているかどうか」を基準とし、宇宙船やヘリコプター、あるいはマクロスのような未来の航空機も、誌面の中心ではないにせよキットを紹介したりもしている点から「OK」という扱いにした。あとは、たとえば第二次世界大戦が題材の作品などは、まず間違いなく航空機が出てくるので非常に紹介しやすい。あんまりそちらに偏るのも良くないと思うが、しかし助かることは助かるのだ。
さて、おおむね「紹介できる映画」の基準がわかっていただけたかと思うので、ここから具体的に、次号(6月発売号)紹介する映画を選ぶプロセスを追っていきたい。普段からテレビで放映された映画を録画しておいたり、定額配信サービスで良さそうな映画をウォッチリストに入れておいたり、もちろん新作を観に映画館に出かけたり、あるいは過去に観た映画作品をリストアップしておいたりと、常に候補作を用意している。ただ、作中に「航空機が出てくるかどうか」というのは、これは実際に観てみなければわからないことが多い。あからさまに航空機や空港なんかを題材にした映画であれば(「トップガン」とか「ターミナル」とか)問題がないのだが、そうではないケースのほうが多い。鑑賞してみて「めちゃくちゃ良い映画だったが、どこにも航空機が出てこなかった」ということも多々あるし、逆に「航空機は出てきたが、紹介に適した映画ではなかった(あまり面白くなかった)」ということもある。今回などは、実際に紹介する映画が決定するまで、合計6本の映画を観ることとなった。これは多いと思うだろうか? ひどい時は10本観ても決まらないこともあるし、これはと決め打ちで観た1本であっさり決まることもある。今回の6本というのは、まあいつもの平均的な数字だろう。以下がその6本のタイトルと、それぞれの作品への所感である。
(ちなみにどの映画も面白かったし、紹介を見送ったからといってイコール面白くない、と直結しているわけではない。その点はご理解いただければ幸いである)
1本目「悪いことしましョ!」
「ハムナプトラ」のブレンダン・フレイザーと、「オースティン・パワーズ」のエリザベス・ハーレイが主演のコメディ映画。リメイクだそうだが、オリジナルの方は未見。仕事仲間からバカにされ、恋もうまくいかない青年が、悪魔に取引を持ちかけられ、魂と引き換えに富や名声を得ようとするが…というオーソドックスな内容。エリザベス・ハーレイの七変化とも言うべきコスチューム・プレイが見目楽しく、ブレンダン・フレイザーのコメディ演技もいい。気楽に楽しく観れる1本だが、オチも予定調和なので新鮮味はないかもしれない。主人公が南米の麻薬王になったときに武装ヘリが出てきたので「航空機が出てくる」という条件はクリアしているのだが、積極的に紹介するほどではないかも…と思い、今回は見送った。ただ、オープニング映像のセンス、これは抜群に良いと感じた。
2本目「ファイナル・スコア」
元プロレスラーのデイヴ・バウティスタが主演のアクション映画。テロリストに占拠されたフットボールスタジアムを舞台に、亡き親友の娘を守るために元ネイビーシールズの主人公が孤軍奮闘する、という展開。物理的に非常に太い体格の主人公や、その相棒となるスタジアム警備員の若者のキャラクターの良さ、スリリングでスピーディーな展開、派手なアクション(スタジアムの廊下をバイクチェイスするシーンは迫力がある)、黒幕の目的などかなり見応えのある内容で、十分満足のいく面白さだった。反面「ダイ・ハードの焼き直し」という批判があるのもわからないでもない。個人的には、この手の映画はもはや「ダイ・ハード」というひとつのジャンルに属していると考えているので、そこはあまり気にならないし、テロリスト側の目的(大観衆のスタジアムからたった一人を探し出す)も妙味を感じられた。こちらも中盤で武装ヘリが出てくるので「航空機」の条件もクリアしている。ただ、これ以前にスティーヴン・セガール主演の「暴走特急」を紹介しており、「ファイナル・スコア」との類似が気になったので(映画じたいが似ていることは特に問題とは思わないが、映画紹介で続けて似た内容のものを紹介するのが気が引けた)、これも見送ることにする。
3本目「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」
「ブロークバック・マウンテン」のジェイク・ジレンホール主演、ヒューマンドラマ映画。妻を交通事故で無くしたバリバリの金融マンが、その妻の死を悲しむことができず、やがて冷蔵庫だの家屋だのを次々と分解することに興味を覚え、その中で彼の感情が再生していく…といった内容。妻を失った夫の再生の物語、というのがわかりやすい粗筋だが、主人公の夫が妻の死を悲しめない、それは何故なのかというのが捻りどころだ。終始ジェイク・ジレンホールの造形の良い顔が画面に写っているのも嬉しいが、主人公と交流することになる自販機の苦情係の女性(吹き替えの安藤麻吹がとてもいい)や、その息子といった脇のキャラクターも好印象。この息子が「15歳だけど外見は12歳で脳味噌は21歳」と言われるまんまの男の子で、手足が長く早熟な美少年で非常にいいのだ(内容に触れるので伏せるが、ある種の趣味の方に非常に刺さる属性をしている)。内容はぜんぜん、悪くないのだけど、航空機が出てくるのが本当に最初の冒頭の遠景にちょこっとくらいで、これを漫画内で紹介するのが難しい。うーん、惜しいが見送りということで、次の映画を探すことにする。
4本目「ブロンズ! 〜私の銅メダル人生〜」
「ビッグバン★セオリー」のメリッサ・ラウシュ主演。かつて女子体操の銅メダリストとなり、その感動的なエピソードから地元で英雄と讃えられたものの、それから12年後の現在はただの無職で、当時の栄光にすがりながら生きている女性が主人公。彼女のキャラクターを端的に表しているのがそのビジュアルで、アラサーになった現在でも体操選手の少女のような、カールがかった前髪ぱっつんポニーテールと選手ジャージの姿で街を闊歩している。そんな彼女に大金を得るチャンスが舞い込み、ふたたび体操に関わることになるのだが…といった展開で、良いところも多い映画なのだが、終盤の、あるキャラクターの行動に疑問が残ってしまった。それがキャラクターの決断なら納得もするのだが、どうにもシナリオ上の駒として、都合よく使われてしまったように見えた。まっとうなスクリプト・ドクターなら修正を促す部分ではないだろうか。そのあたりに得心がゆかず、そして肝心の航空機も出てこないので、これも惜しいが見送り。メリッサ・ラウシュは本当にとても可愛かった。
5本目「ボビー・フィッシャーを探して」
実は今回の本命だった1本。ボビー・フィッシャーとは冷戦時代のアメリカのチェス選手で、ソビエト連邦を破りアメリカ合衆国初の公式世界チャンピオンになったことで知られる。かの冷戦の頃に、チェスという競技でアメリカがソビエトを打ち負かすというのは、どれほどの政治的意味があったか想像に難くない。反面、奇行や失踪癖でも話題に事欠かない人物で、いかなる理由か当日の試合会場に現れなかったためにタイトルを失ったりもしたという。晩年は日本で隠遁していて、手紙でチェスのやり取りをしていたという逸話もある。だいぶ昔に新聞の特集でそんな記事を読んだことがあり、チェスにはまるで興味がないものの、この奇妙な人物自体の名前は覚えていた。この映画は、そんな彼を題材にしたというか、彼の再来と言われる7歳の天才チェス少年をめぐる物語である。
まず映画の冒頭から、ボビー・フィッシャーが飛行機から降り立つシーンが出てくるので「航空機」という条件はすぐにクリアした。内容も、天才的なチェスの才能を持つわずか7歳の少年を巡って、その能力に気づいた野良チェスの打ち手、天稟を育てようとする新聞記者の父、ボビー・フィッシャーを信奉する厳しいチェス教師、あくまで少年の意向を尊重する母親、そしてチェスだけで育てられた最強のライバル少年が絡み合う物語で、非常に面白かった。が、反面、物語として気になる描写も幾つかあり、鑑賞後に調べてみたところ、この天才少年はなんと実在の人物で、その父親が書いたノンフィクションをベースにしているとのこと。物語として綺麗に起伏をつけまとめられるところを、その実話であること、実際にあったエピソードらが少々足をひっぱっているような印象を受けた。加えて、その天才少年が今現在どうしているのかということを調べると、更に大きく首を傾げることとなり、1ページの紹介漫画の中でそれらを消化するのは難しいと判断。泣く泣く見送ることにする。ちなみに主人公の少年役の子はもうめちゃくちゃに美ショタです。
さて。と、いう感じで映画を5本観ても、題材が決まらない。これも仕事のうちだし、今回は題材にならなくても、そのうち他作品のアイディアとして昇華される場合もあるのだから、あまり気に病む必要はないのだが、それはそれとして締め切りが迫っているのに紹介する映画が決まらず、それを決めるためにはまた2時間ほど時間を使って別の映画を観なければいけないというのは、中々なプレッシャーだ。1ページの、お気楽に読める「映画紹介」なのだから、本来はそう気負う必要もないのだが…。
そうそう、内容についてたまに「映画評」のように捉えられてしまうのだが、やっていることはあくまで「映画紹介」である。「面白い映画があって、それを観る前にこのくらいの前情報があると、スムーズに楽しく観られるよ」そのくらいの内容を心がけている。批評めいたことを書くつもりはないし、他のタイトルと比べることもしない。レンタルビデオ屋で5本1000円のセットを借りようとするとき、4本目までは決まったけれども、あと1本をどうしようか…そんな時に思い出してもらえる「紹介」、それが理想だ。サブスクでの配信がメインの時代となったので、そういう借り方も見かけなくなっていくのだろうけど…。
ともあれ、そのあとに観た1本で、今回の題材は決まった。題材が「これだ!」と決まってしまえば、あとは割とすんなり行く。誰がその映画を語るか、どう語るか、オチはどうするかといった構成を決めるのは、そう時間のかかる事ではない。大雑把な内容を決めて、下描きをして、ネームを入れて、チェックしてもらったらペン入れをして色を塗る。今回もどうやら、そうして上手く進めていけそうだ。どんな映画をどのように紹介するのかは、次号の実際の誌面を見てほしい。こうした苦労の跡がなく、さらりと読める内容になっていれば幸いである。ではまた次回で。
おまけ:「悪魔のメムメムちゃん」が完結したので、作者の四谷啓太郎さんに送ったミニ色紙。四谷さん、お疲れさまでした。