ちょうど10年前に「寒くなると肩を寄せて」という短編集を出しました。主に月刊コミックビームにて発表した短編を集めたものでしたが、長らく電子書籍版が出ていませんでした。今回、新規に1本短編を収録して、正式な電子書籍版を出すことになり、kindleをはじめとした各電子書籍サイトで気軽に購入できるようになる予定です。リリースの際はどうぞよろしくお願いします。で、内容については特に描き下ろし等はないんですが、表紙くらいはと新たに描き下ろすことにしました。以下はそのメイキングです。
とか言いながら、まず最初に掲載するのは10年前の旧版用の表紙ラフです。当時、短編集の表紙を描くにあたり20本くらいラフを出しました。
重機とか、廃墟といったモチーフの中にジャージ姿の女の子がいる構図です。頭にツノがありますが、彼女は悪魔で、人間界で裏ビデオのチラシを配りながら働いています。詳しくは短編集に収録されている1本「少女というより痴女だった」をお読みください。重機も廃墟も本編には出てこないので、このへんの題材は完全に「趣味」になります。
同じく重機とか箱とかがイメージのラフ。上2枚は団地をモチーフにしたもので、それぞれの階に短編集のキャラクターたちがいるという設定。裏表紙(右上)は反対のベランダ側にしようと考えていました。
コタツとか、花畑に放置された戦車(収録された短編に一ミリも関係ない)とか。あと、右側の上下2枚は「ジゼルとエステル」という短編に登場する、結合双生児のふたりです。
左上、キャラクター本人の登場しない、服だけの案も考えていました。左下はバランス釜のお風呂、不幸っぽいのでモチーフに採用したり。あと右上の『顔アップでハートマークを作っている構図』は、「漫画の表紙なんて、キャラクターのかわいい顔をアップにしたのが結局のところ最適解なんじゃないか?」と思って描いたやつです。打ち合わせをした2010年当時、編集者やデザイナーさんからは全く理解を得られずボツになったのですが、その後の漫画業界を見るとそれほど間違ってなかったように思います。
コインランドリー、集合住宅のポスト、看板持ちのバイトなど、不幸っぽいモチーフをいろいろ用意してみました。この20案を編集者とデザイナーさんに見せて、打ち合わせをしました。結果として自分とデザイナーさんの2票を得た「部屋のコタツに突っ伏している悪魔の少女」という構図が採用されました。
実際に、10年前に使われた短編集の表紙がこちら。
自室でコタツにうずくまる悪魔の少女を中心に、不幸そうなモチーフを諸々配置しました。レンタルビデオのケース、食べ終わったカップ容器、くるまった靴下、アナログアンテナ、チラシで折った紙箱、短くてしかも割るのに失敗した割り箸とか。リアルな生活感(いわゆる汚部屋)というよりは模型、ミニチュアみたいな感じを目指しました。この表紙はとても好評で、「この装丁がすごい!」というランキングで2011年の8位に入ったり、持ち込みで門前払いされた時もこの表紙だけは褒められたりしました。
そんな短編集の表紙なんですが、前述のとおり電子書籍版を出すにあたって新しいものを描くことにしました。もちろん旧表紙もきちんと収録しますのでご安心ください。こういう融通が利くのも電書の良いところですね。
さて、それで新しい表紙は、10年前のラフ案から例の『顔アップでハートマークを作っている構図』を持ってきました。まあそのまんま描くわけではないのですが、同じ構図を意識しつつ、困り顔で笑顔をうかべている悪魔少女(ちなみに名前は『よしこ』といいます)のラフを描いていきます。
方眼が印刷された自作の下描き用紙に、水色の色鉛筆でラフを描きます。ざっくり構図が決まったら、それを薄くコピーして、上から深緑色の色鉛筆で加筆し、下描きをします。
ハートを作る手は注意が必要なポイントなので、鏡を見たり写真を撮ったりして参考にしますが、それ以外は特に難しいところのないシンプルなポーズです。
シャープペンシルでペン入れをします。0.7mmの紫シャーペン、0.5mmの赤シャーペン、0.3mmのシャーペンの三種類で、細さを使い分けながらペン入れ。下描きがしっかりしているので、特に注意するポイントはなく、丁寧になぞるだけです。
三色でペン入れしたものをスキャンして色を統一します。今回は線画を緑に寄せました。これを家のプリンタ、ではなく、より高性能なセブンイレブンのマルチコピー機で出力し、コピックや色鉛筆といったアナログ画材で下塗りをします。
下塗りした状態。ジャージの固有色、肌や服の影、瞳などはこの時点で下塗りをして、だいたい決定しておきます。いっぽう、髪の色は毛先が尖っているのでアナログで手塗りするのは面倒なので、デジタルに任せることにします。ここからスキャンして、Photoshop Elementsでの仕上げ作業に入ります。
髪は黒くベタ塗りをしているように見えますが、実は黒の中にも深みがあって、色んな色を混ぜてある自作のテクスチャを貼ってあります。モニターからだと単純な黒に見えるかもしれませんが、これが印刷すると全然違います。単純に黒をベタ塗りするより情報量が増えてリッチになります。キャラクターのまわりを明るい黄緑で縁取り、背景は星とドットで作ったテクスチャを貼り、ポップな感じを出します。
肌やジャージ部分は下塗りがしっかりしてあるので、ちょっと塗り足す程度で。
汗はやや輪郭線を薄くします。実際に汗をかいている人を見たとき、こんなにでっかい水滴が見えたりはしないのですが、これは「困っている」という記号表現なので、きちんと視認されるように大きく描きます。数や位置も重要です。眉間や鼻すじのあたりに汗をかいていると、真剣に困っている感じが出てきます。
顔はもちろん大事なポイントなので、特に瞳をしっかり描き込みます。下塗りの緑一色だった時に比べ、黄色や青色を足してカラフルに情報量を増やしています。頬には細かい斜線を入れて、うるさくない程度に「照れた頬の赤み」を出します。
完成。以前の短編集とは全然違う絵ですが、ダサいジャージとか、無理をして困り笑いをしている姿とかの「不幸っぽいエッセンス」は共通しているように思います。実際は上下左右をきちんとトリミングしてから、タイトル等を入れて使用します。電子書籍版がリリースされたらまたTwitter等で告知しますので、よろしくお願いします。ではまた次回に。
鈴木健也
2021-02-15 09:46:15 +0000 UTCはとたま
2021-02-14 17:49:35 +0000 UTC