鶏ムネ肉が苦手だった。
パサパサしてて美味しくないと思っていた。お店で唐揚げなんかを頼んで、それがムネ肉の唐揚げだったりすると、もう本当にがっかりしていた。──こうした鶏ムネ肉へのイメージは、数年前までの話である。いや、10年くらい前まで遡るかもしれない。
自分の体感だと、まず炊飯器やジップロックを使った鶏ムネ肉の低温調理ブームがきて、そのあとにダイエット&筋トレブームにより一気に鶏ムネ肉の需要が爆発し、コンビニでもサラダチキンが何種類も取り扱われるようになった──そういうイメージだ。実際の流行の推移はもうちょっと複雑だろうと思うけど。ジップロック鶏ムネ肉(ジップロックに鶏ムネ肉を密閉して、80度くらいのお湯に1時間入れて低温調理する)が流行った時は、自分でも作ってみたし、確かにムネ肉にしては美味しくなったが、それ以上のものではなかったので、2〜3回作ってやめてしまった。
いまやコンビニやスーパーで普通に見るようになった市販のサラダチキンも、ちょくちょく買っているがなかなか美味しい。当初はプレーンな塊のもの一種類だけだったが、みるみるうちに種類が増えてきた。棒棒鶏(バンバンジー)のようにほぐしたものや、燻製にしたスモークチキンなどがお気に入りだ。また、鶏ムネ肉自体が安価に売っているため、ネットの記事などでも様々にアレンジしたサラダチキンレシピを見かけ、いくつか試してみたりもした。今回紹介するのは、そういった中で自分でいろいろ改良して、市販のものやレシピ記事よりもひと味ちがう、だいぶ美味しいのではないか──と思えるサラダチキンのレシピである。
ただし、ちょっと手間はかかる。具体的には2工程に分かれるので、すぐには出来ない。「仕込み」と「加熱」が分かれており、それぞれ時間が必要になる(何時間も作業が必要、というわけではないが)レシピだ。では、具体的な手順に入っていこう。ちなみに最後のページにレシピのみ簡潔にまとめてあるので、わざわざ文章を読まずにさっさとレシピだけ見たい人はスクロールして一気に下まで行くとよい。
まず用意するのは鶏ムネ肉、ひとかたまり(写真では3かたまりほどあるが、まとめて作ると楽なので)。これがないと始まらない。スーパーでグラム60〜80円前後で売っており、トンやギュウ、あるいは同じトリのモモニクと比べてもずいぶん安い。こいつをまな板の上に載せ、フォークでぶすぶすと穴をあける。表も裏も、それぞれ数回刺す。次に、砂糖を鶏ムネ肉ひとかたまりに対し小さじ1、上からまぶして軽くスリ込む。表も裏も、まんべんなく。そして、砂糖の次に塩をこれまた小さじ1、同じように表裏にまぶしてスリ込む。砂糖が先で塩が後なのは、味付けの「さしすせそ」の順番で、きちんと理由がある(塩の方が浸透圧が高いため、砂糖より先に入れると砂糖の甘みが浸透しづらくなるため)。砂糖と塩、両方スリ込んだら、キッチンペーパーで鶏ムネ肉を全面包みこんで、お皿に載せてラップをし、そのまま冷蔵庫で2晩寝かせる。これが第一の工程だ。
第一の工程は、作業じたいは単純で簡単だが、そのあと2晩寝かせる必要があるので、時間がかかるというわけだ。補足すると、砂糖は黒糖を使うとちょっとだけコクが増す(…ような気がする)。サラダチキンは脂質を避けるため皮を剥いで作る場合が多いが、まあ本格的なダイエットや筋トレ目的でないならば、皮の部分もおいしく出来るので、つけたままでも問題ない。塩をスリ込む工程で毎回、ビスケット・オリバの「粗塩を肌にスリ込んである」というくだりを思い出してフフっとなる(頭の中には常にグラップラー刃牙が棲んでいる)。
さて、こうして鶏ムネ肉を冷蔵庫で2晩寝かせたあと、第二の工程に入る。まず大きな鍋に水をはり、火にかけてフタをし沸騰させる。沸騰を待っている間に冷蔵庫から鶏ムネ肉を取り出し、余分な水気(ドリップ)を吸ったキッチンペーパーをはがす。寝かせた鶏ムネ肉はだいぶ引き締まっており、スモークしたように固く変色している部分もある。キッチンペーパーがしっかりムネ肉(特に皮部分)に張り付いて剥がれなくなっている箇所があったりもするが、これは水洗いしてペーパーを溶かして落とせば問題ない。せっかく水気を抜いたのに水洗いなんて…と思うかもしれないが、このあと調味液に漬けるので、このくらいの水分は問題ない。食べるときにキッチンペーパーが混ざってるほうが落ち込むので、きちんとここで洗い落とす。
第二の工程で用意するのは調理用のポリ袋。ジップロックでも構わないが、アイラップという調理用ポリ袋が耐熱性もあり安価、ティッシュみたいに取り出せるので便利で重宝している。このポリ袋に「創味シャンタン小さじ1」「レモン汁大さじ半分」「にんにくチューブ小さじ1」「黒コショウ少々」を入れて、よく混ぜる。味付けの調味料だ。他のレシピでは「コンソメ」や「粉末の鶏がらスープ」を使うものが多いのだが、様々な粉末スープを試してみた結果、もーどーやっても創味シャンタンの勝ちなので、創味シャンタンを使うのがおすすめ。ベーシックなペースト状のものやチューブでもいいんだけど、粉末タイプのが特に便利。レモン汁は酸っぱいのが好きな人なら大さじ1でもいいけど、まあ基本は半分が丁度いいかと思う。そうして調味料の混ざったポリ袋に、キッチンペーパーを取り外した鶏ムネ肉を入れ、軽く揉み込んだあと空気を抜いて、しっかりと口を結ぶ。2〜3回、固結びにしておくとよい。
そうこうしているうちに、最初に火にかけた鍋の水が沸騰しているので、火を止めて、ポリ袋に入れた鶏ムネ肉をそのまま放り込む。あとは上からフタをして、火はつけずに、沸騰したお湯の余熱で8時間放置すれば完成だ。8時間、というのにそれほど根拠はないし、熱を通すだけなら1時間でもいい、6時間でも十分だと思うが、なんとなく8時間にしている。放置するだけでいいが長時間なので、寝る前に仕込んで放り込むのが一番楽だ。朝起きたらサラダチキンが出来ているという寸法。すっかり冷めた鍋の中からポリ袋を取り出し、キッチンばさみで袋を切ると、中からびっくりするほど油が出てくる。この油、何か料理に使えないかな、と思いながら毎回そのまま捨てている。あまり放置して温度を下げすぎると油が固まって取り除きにくくなるので、やっぱり6時間くらいが丁度いいのかもしれない。冷めすぎ注意。で、鶏ムネ肉の本体表面からも、キッチンペーパーでよく油を拭き取れば出来上がりだ。
本当に、びっくりするほど油が出る。
試しに包丁で一切れ取って、すぐに食べてみる。思ったより弾力があり、身が締まっている。口に入れると噛みごたえがあり、美味い。しっかりと味がついているので、単品でもバクバク食べられるかんじ。5mmくらいにスライスするとじっくり噛めて美味しいが、より薄切りにしてラーメンのチャーシューにするのもオススメだ。厚切りでも薄切りでもお好みで、軽くマヨネーズとマスタードを塗ったサンドイッチに挟むのもアリ。他にも色々なレシピに応用できるポテンシャルがありそうなのだが、いかんせんそのまま食うだけで十分美味いので、5mm幅に数切れ切って、がつがつと食べてしまう。日持ちはする方だが、きちんと密閉した容器に入れて冷蔵庫に保存して、1週間くらいを目安に食べ切ること。ただ、作るのに確実に2日かかるので、食べ切る前には次の仕込みをしておかないといけない。大きな鍋に十分な水を張って作るなら、このように2〜3塊くらいは同時に作れるので、慣れたら一度に複数個作るのが良いだろう。なにしろ、1塊くらいなら余裕で食い切れてしまうのだから。
ちなみに安い鶏ムネ肉で作っても十分に美味しいが、近所の信頼できるスーパーで取り扱っている、ちょっと高い(といってもグラム80円台)日南どりのムネ肉で作ってみたところ、明らかに味がランクアップしていたので、できれば自分の手に入る範囲内で、いい鶏肉を使うと良いだろう。
では、いただきます。
(※追記。できあがったサラダチキンを、さらに1日ぬか床に漬け込んでぬか漬けにすると、味が濃くなり風味が増す。そのまま酒のつまみにも良いが、これを手でほぐすと白飯の最高の相棒になる。ぬか漬けはちょっとハードルが高いという人もいるかと思うが、最近はスーパー等で冷蔵庫に入れておくだけの簡単なぬか漬けキットも販売しているので、ぜひ試してみてほしい)
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鶏ムネ肉のサラダチキン
材料A/鶏ムネ肉……ひとかたまり レシピ/
砂糖……小さじ1 ①鶏ムネ肉に、フォークで数カ所穴をあけ
塩……小さじ1 る。
材料B/創味シャンタン……小さじ1
レモン汁……大さじ半分 ②砂糖、塩の順に調味料をスリ込む。
にんにくチューブ……小さじ1 ③キッチンペーパーで全体をしっかり包
黒コショウ……少々 み、冷蔵庫で2晩寝かせる。
④ポリ袋に材料Bを全て混ぜ、冷蔵庫から
取り出してキッチンペーパーを剥がした
鶏ムネ肉を入れ、軽く揉む。空気を抜い
て袋の口を縛ったら、沸騰させてから火
を止めたお湯に入れて、フタをしたまま
8時間放置する。
⑤8時間後、取り出して袋を破り、余分な
油を捨てたら完成。
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