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小説 『虎男の復讐』(前編)

【プロローグ】

きっかけは、Xでの呟きだった。

毎日毎日匿名で成長障害の悩みを吐露していた竹山昂輝のもとに、フォロー・フォロワーそれぞれ0人の捨てアカウントからDMが届いた。要約すると、それはざっと以下のような内容だった。

・普段は歯科医師で、まったく別の裏ルートの仕事も引き受けていること。

・十八歳という年齢でも非常に高い効果が見込める新薬の成長促進剤が存在すること。

・新薬の成長促進剤は臨床試験の段階で流通量が限られるため、とんでもなく高価だが、こまめなモニタリングと副作用のリスクを受け入れてくれるなら無償で提供できること。

DMを読み終えた昂輝はあまりに胡散臭い内容に頭を抱えた。

だが、次の日には藁にも縋る思いで「ぜひお願いします」と返信を書いていた。

副作用のリスクよりも、このまま地獄のような人生が続くことのほうが恐ろしかったからだ。効果があれば人生を逆転できる、甚大な副作用が起きれば自殺してしまえばいい――昂輝はそんなふうに思い詰めるほど精神の限界を感じていたのだった。

【第一章】

高校三年生の春だった。

下駄箱からローファーを取り出そうとした時、昂輝の背中にガンッと衝撃が走った。

投げつけられたのは、昨日失くしたはずの体育館シューズ。

振り返ると、クラスで一番背の高い柏原凌央がニヤニヤと卑しい笑みを浮かべていた。教師には「明るくて面倒見のいい子」と評判がよいが、クラスメイトの間ではいじめの主犯として有名だった。

その背後で、取り巻きの内田練と桐山隼也が「ハハッ」と乾いた笑い声を上げた。

三人とも同じ水泳部に所属しており、それぞれ引き締まった身体つきをしている。特に隼也は高校生と思えないほどがっちりしており、ベンチプレスで鍛えられた分厚い胸板が制服のシャツを押し上げていた。

「おい‟豆”、せっかく俺が見つけてやったのに、ありがとうすら言えないのかよ」凌央は鼻で笑った。

昂輝は泥だらけにされた体育館シューズを拾い上げ、急いで立ち去ろうとした。

その昂輝の背中にふたたびドンッと衝撃が走る。背後から不意に殴られて一瞬呼吸が出来なくなった。昂輝は「かはッ」と小さく叫んで昇降口のコンクリに倒れ込んだ。心臓がバクバクと激しく脈打つ音が間近に聞こえた。

「何だよ、お前、大袈裟に痛がるなよ。俺がいじめたみたいじゃん」と隼也の野太い声。

「おーい隼也、気をつけろって。‟豆”ヒョロヒョロなんだから殴ったら骨折れちまうだろ?」練はスマホを構えて動画を撮りながら半笑いの声で言った。

その時、昇降口の近くを担任教師の女が通り掛かった。

「あなたたち、テスト近いんだから、早く帰りなさいよー」

凌央と隼也と練の三人は「はーい、早百合ちゃん」とすっとぼけたような明るい調子で答える。

昂輝は昇降口のコンクリに倒れ込んでぜえぜえと肩で呼吸をしていた。早百合ちゃんと呼ばれた担任教師の女は、いじめの現場を目の当たりにして面倒臭そうな表情を浮かべ、そのまま何も言わずに職員室へと去っていった。

身長148cm

体重38kg

胸囲69cm

腕囲20cm

ペニス3cm(平常時)

【第二章】

昂輝は性腺機能低下症と成長ホルモン分泌不全を併発していた。

高校三年生の現在、昂輝の身長は148cm、体重は38kgしかなかった。

成長障害を抱えているせいで、陰茎と睾丸は小学生低学年の頃から何も変わっていなかった。骨格は華奢で、筋肉もなく、陰毛もなく、精通も経験しておらず、高校三年生の男子の一般的な身体つきからは程遠かった。それどころか、プライベートの私服の時は小学生の女子と間違えられることさえあった。

「はあッ、はあッ、はあッ、はあッ、」

放課後、昂輝は高校の階段を駆け下りて校内用の靴のまま昇降口を飛び出した。

「てめェ何逃げてんだよ、おいッ!!」校舎の三階から、凌央のドスの利いた声、それから練と隼也の笑い声が響き渡った。

昂輝は聞こえなかった振りをして必死に走り続けた。きっと明日になれば余計に酷いいじめに遭うだろう。普段だったら従順にいじめを受け続けるだけだったが、今日は違った。この後には人生を変えるための大事な予定が控えていた。

約束は十八時だった。

四駅離れた先、駅から十分ほど歩いたところに歯科クリニックがあった。

コンクリの外壁をしたごくごく平凡な建物、何の変哲もない「どこにでもある」歯科クリニック、玄関の自動扉には《定休日》の札が掛かっていた。

自動扉の向こうの診察室から人影が近づいてきた。そこに現れたのは二十代後半から三十代前半くらいの背の高い筋肉質な男だった。半袖Tシャツを押し上げる分厚い胸板、太い腕――あの隼也より、さらに一回り身体が大きいことは明白だった。

「よく来てくれたね」歯科医師の男、杉原は言った。「じゃあさっそく始めよう」

カーテンの閉め切られた診察室で、昂輝は杉原と向かい合って座った。

「まあ、一通りDMで説明したから分かってるとは思うけど、」杉原は事務机の上に誓約書を置き、昂輝の顔を覗き込むように言った。「今日から三カ月間ここに通い続けることはできるよね?」

「はい、もちろんです」昂輝は杉原の信頼を得るために真剣な表情で答えた。

「法的な拘束力はないけど、一応これにサインしてくれ。家族にも友達にも口外したら駄目だからな」と杉原は昂輝に誓約書とボールペンを差し出した。「住所と学校と連絡先と生年月日は知ってるから、名前のところにだけ書いてくれたらいい」

DMでは名前と年齢しか伝えていなかったはずだった。昂輝は杉原に対して疑念を抱いたが、目的を達成できるのであればどうでもいいよかった。デカくなって自分のことをいじめてくる凌央や練や隼也を見返してやりたい――昂輝はそんな復讐心を胸に秘めて誓約書にサインした。

 杉原は足元のリュックからガラス製のバイアルを取り出し、そこから注射器で淡いピンクのとろみのある液体を吸い上げ、針を交換してから昂輝のほうへ向き直った。

「ん、」昂輝はわずかに眉根を寄せた。アルコール綿で消毒されたほっそりとした上腕部に、ゆっくりと特殊な薬剤が注入される。それは一般的なアナボリックステロイドと同じ筋肉注射だった。

「あの……先生は、何で俺にここまでしてくれるんですか?」別れ際、昂輝は注射の後片付けをする杉原の横顔を見つめながら疑問を投げた。

「気になる?」杉原はふふっと小さく笑い、昂輝のほうをちらと見遣った。「君みたいな悩める子供の助けがしたいだけだよ、俺は」

昂輝は杉原の本気か冗談か読み取れない表情に戸惑い、「そう、なんですね……」と小声で答えた。

帰り道、昂輝は中学校のグラウンドの脇を通り掛かった。

陸上部だろう体操着姿の男子たちが走り込みをしている姿を見遣った瞬間、中学生の頃の苦々しい記憶がフラッシュバックした。

それは中学校の修学旅行、クラスメイトの男子たちと温泉に入った時のことだった。

「え? お前チンコなくね? 豆じゃん」隣に座った男子が昂輝の股間を覗き込み、ははっと嘲笑しながら性器を指差した。昂輝は顔を真っ赤にして、「はあ? 見んなよ」と慌てて股間を隠した。

豆みたいに小っちゃなイチモツ――。

その日から、中学校のクラスでの昂輝の渾名は‟豆”になった。

進学した先の高校にも中学校の時のクラスメイトがいたせいで、昂輝は高校生になっても‟豆”という屈辱極まりない渾名で呼ばれていた。

身長148.5cm

体重39kg

胸囲70cm

腕囲20cm

ペニス3cm(平常時)

【第三章】

成長促進剤の注射を打ち続け、一週間が経過した。

得体の知れない薬剤のおかげで昂輝の身長は0.5cm伸びていた。

だが、昂輝はその変化を素直に喜べないでいた。

もちろん、0.5cmでも身長が伸びた事実は、成長障害の治療の第一歩として大きな意味がある。このまま順調に進めば、三か月間のプロトコル終了時10cmほど背が伸びることだって期待できる。

でも、と昂輝は思うのだった。仮に10cm近く背が伸びたところで、何になる?

昂輝は杉原の白衣にパンパンに詰まった筋肉を見つめながら苛立ちを覚えた。148cmから160cmにまで背が伸びたところで、それは病的に小柄な男から世間一般によくいる小柄な男に変わるだけ。高校のカースト上位に君臨するいじめっ子たち、凌央と練と隼也を追い抜けないなら何の意味もなかった。

いつもどおり歯科クリニックの診察室で注射を受けた後、昂輝はぽつりと不安を洩らした。

「俺、どれくらいデカくなれるんですかね……」

杉原は事務机の広げたカルテから頭を上げ、「この薬は効果があらわれるのに時間が掛かるから。でもまあ、一か月後には俺よりデカくなってるだろうな」不敵な笑みを浮かべた。

杉原よりも俺のほうがデカくなる日が来るだって? 昂輝は耳を疑った。

「いや、それは――」さすがにありえないでしょう。昂輝は思わず反論しそうになったが、せっかく成長促進剤を無償で提供してくれる先生に対して失礼だろうと思い、言葉をぐっと呑み込んだ。

歯科クリニックから帰宅したのは22時過ぎだった。

村外れの田圃道にぽつんと佇む、父親の遺した二階建ての一軒家。

一年前から、昂輝はここで一人暮らしをしていた。

アルコール依存症の父親が末期の肝不全で死んだ後、母親は浮気相手に家に転がり込んで新しい家族をつくった。息子の存在を邪魔に思った母親は親権を拒否し、「あんた、もうすぐ大人なんだから一人で生活できるでしょ」と言い残して家を去ってしまった。

父親の死亡保険金、母親から振り込まれる養育費のおかげで、生活には何も問題はなかった。だが、誰もいない実家に帰宅するたび昂輝は胸を締め付けられるような孤独を感じるのだった。

「……あれ?」

昂輝は一人暮らしには広過ぎるリビングでカップ麺を食べながら、自分の身体の違和感に気づいた。やたらと喉が渇く。顔と手足が火照って仕方ない。脇や首筋に微熱の時のような汗がべたついている。それらはテストステロンと成長ホルモンが急激な上昇を始めたサインだった。

深夜、昂輝は生まれて初めて夢精を経験した。

目を覚ました時、股間がべったりと濡れているような不快感を覚えた。カーテンの隙間から洩れる電灯の明かりを頼りにボクサーパンツを覗き込むと、ぬるぬるとした透明な液体が滲んでいることに気づいた。

「何、これ……」昂輝はいつか保健の授業で習った「精通」の二文字を思い出しながら、興奮と不安の入り交ざった表情で言った。それは遅過ぎる第二次性徴の発現だった。下腹部の辺りにもやもやとした性衝動が兆していた。

翌朝、昂輝は洗面所の鏡の前で上半身裸になった。

頬と首と胸と腕と腋の下にうっすらと淡いピンクの血色があらわれていた。脂肪なのか筋肉なのか分からないが、いくらか肉づきが良くなっているような気がした。身体の変化を実感すると、昂輝は心の中に希望の光が射し込むような高揚感を覚えた。

放課後。

廊下を歩いていると、背後から靴の踵を引き摺るような足音が聞こえた。

凌央だった。

「おい、豆。ちょっと来いよ」

昂輝は背後を振り返る間もなく、凌央に腕を強く掴まれた。

凌央と練と隼也に背中を小突かれながら連れ込まれたのは、体育館の裏手の物置小屋だった。遠くからバスケ部のボールを床に叩きつける音が響いていたが、引き戸が閉め切られると薄暗い室内に緊張感を孕んだ静寂が訪れた。

「――ッッ!!」

昂輝は隼也の逞しい腕で胸倉を掴まれ、積み重なった段ボールにまで突き飛ばされた。

凌央は昂輝が肩に掛けていたスクールバッグを奪い、財布の中味を数え、「なあ、何で二千円しかねェんだよ。今日は二万持って来いって伝えてたよな?」と冷ややかな声で言った。

「す、すみま、せん」昂輝は舞い上がった砂埃に咳き込みながら途切れ途切れ言った。

「お前、謝る時はどうすればいいか分かってるよな? 土下座しろよ」凌央は地面に蹲っている昂輝の前にしゃがみ、顔を近づけ、ドスの利いた声で言った。

練と隼也のくくっと押し殺したような笑い声が続いた。

「すみません、でした。明日は、ちゃんと――」昂輝は言われるがまま地面に額を擦りつけて土下座した。

自分の身体の変化に気づいた時の昂揚感はすっかり萎んでしまっていた。いじめの恐怖が心の奥深くにまで染みついているせいで、いじめっ子たちを目の前にするだけで挫折感に囚われてしまうのだった。

凌央と練と隼也が物置小屋を出て行った後、昂輝の内面に変化が兆した。

「あいつら、ぶっ殺してやりてェ……」

昂輝は呟いた後、はっとした。

あれ? この感情、何なんだろう? 以前の自分の口からは絶対に出てこない台詞だった。凌央に土下座した時の悔しさが「絶対に許さない」という反抗心へと転じた。昂輝は今まで経験したことのないようなドス黒い復讐心が胸の奥に広がるのを感じた。

――闘争本能の芽生え。

それは得体の知れらない成長促進剤にとって体内のホルモンバランスに変化が生じた影響だった。

昂輝は地面に膝を突いて股間を押さえた。

ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッという心臓の力強い鼓動とともに、皮膚の下で何かが膨れ上がるような圧迫感が走る。腹の底から湧き上がった熱が下腹部にまで流れ込み、勃起したペニスが制服のスラックスを押し上げる。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ、」昂輝は腰のベルトを緩めて制服のスラックスを下ろし、左手をペニスの根元、右手をペニスのカリに添え、ひたすら扱いた。

次の瞬間、腰の奥からぐぐっと圧力の掛かるような衝撃が突き上げ、粘り気の強い白濁した液体が飛び散った。人生で初めて経験する自慰の快感に頭がぼうっとした。勃起はまるで収まらず、むしろ睾丸の疼くような感覚に駆られた。

「やべッ、まだ俺、イキたい……」昂輝はさらなる射精を求めた。背中がちくちくと痒く、胸や手足に筋肉痛と似た痛みが走り、関節のあちこちが熱を持った。小学生の女子と間違えられるほど貧弱だった昂輝は一回り大きくなり、小学校高学年~中学校一年生の男子に近い体型にまで成長した。

身長154cm

体重38kg

胸囲78cm

腕囲22cm

ペニス5cm(平常時)

【第四章】

「昂輝君、自慰の回数はどれくらい増えた?」

杉原は口許に笑みを滲ませ、診察室に顔を出した昂輝に質問した。

「えッ?」昂輝は目を丸くした。「何で……知ってるんですか?」

精通を迎えた当日、昂輝は三度も繰り返し自慰をしていた。物置小屋で射精の快感を経験した後、そのまま性欲に歯止めが利かなくなったのだった。だが、なぜそれを杉山が知っているのだろう。

「それくらい分かるよ、明らかに身体つきが違うから」杉原は満足げに目を細めた。

「そういうもの……なんですか?」昂輝は自分の中に抗いようのない力が芽生えていることに興奮を覚えた。

「いやァ、驚きだな」杉原は上機嫌な声で言った。「昂輝君のような勃起すら経験したことがなかったのに、注射を初めてたった一週間で自慰を覚えるようになるなんて」

実のところ、杉原の昂輝に投与している成長促進剤は生物兵器に近かった。

昂輝の脳下垂体と視床下部のフィードバック機構は、成長促進剤の作用によって大きく書き換えられていた。その結果、射精による疲労感は強制的に遮断され、代わりにテストステロンと黄体形成ホルモンの分泌が跳ね上がる。そして、昂輝の身体は絶頂を迎えるたび勃起と性衝動が強化されるサイクルに突入していた。

「じゃあ、今日から注射の量を増やしていこうか」杉原はガラス製のアンプルに注射器の針を刺し、普段の倍以上の薬剤を吸い上げた。

注射を終えるなり、昂輝の呼吸が速くなった。身体の芯から熱が込み上げるのを感じ、胸や腋の下にべっとりと汗が滲んだ。成長促進剤の量が増えたことに身体が驚いているようだった。

昂輝は喉に痰の絡みつくような不快感に咳をした。

「……先生、これ、副作用ですかね? 心臓がドキドキして苦しいです」昂輝は杉原に質問した自分の声がわずかに低くなっていることに驚いた。

「いい反応だ」杉原は愉快そうに言った。「君の身体は薬を受け入れるたびに形を変えていく。まだ入口に立ったばかりだが、すぐに誰の目にも分かるようになるだろう」

翌日の昼休み、昂輝がコンビニのおにぎりを食べている時だった。

凌央と練と隼也がふたたび財布の金を巻き上げにやってきた。

「豆、今日はちゃんと用意してきたんだろうな?」隼也が昂輝のシャツの首を掴んで持ち上げ、そのまま床に引き摺り下ろした。「あ……?」

「どうした?」凌央は隼也を横目で見遣った。

「いや……何でもない」隼也は昂輝がいくらか重く感じられたことに違和感を覚えたが、気のせいだろうとスルーした。

「今日はいくらかなー?」練は芝居がかったわざとらしい調子で言い、昂輝のスクールバンッグから財布を取り出した。「は? 一枚も入ってねェんだけど」

「何かお前、最近俺らのことナメてるよな?」凌央は舌打ちして昂輝の背中を蹴り飛ばした。「あーあ、俺ら今日遊ぼうと思ってたのに、お前が金持ってきてないせいで台無しだわ」

凌央に蹴り飛ばされた昂輝の無様な姿を見て、同じ教室で昼食を食べていたクラスメイトがくすくすと笑い声を上げた。

「おい、てめェ聞いてんのかよ」隼也が昂輝の頭を靴裏で床に押しつけ、苛立った声を上げた。

昂輝は何も答えなかった。いじめっ子たちから攻撃を受けても以前のように動じなくなっていた。

ふと、教室の椅子を振り上げて凌央と練と隼也をボコボコにする妄想がよぎり、ドクンッと心臓が跳ねるような興奮を覚えた。ぶッ殺してやりてェ、ぶッ殺してやりてェ、ぶッ殺してやりてェ、ぶッ殺してやりてェ、ぶッ殺してやりてェ、ぶッ殺してやりてェ――いじめを受けている間、昂輝の頭の中には絶えず殺意の怨嗟が犇めいていた。

初夏、ちょうど学校の制服が夏仕様に切り換わった時期だった。

成長促進剤の投与を始めた三週間後、とうとう昂輝は平均的な高校三年生の男子の体格を超えた。

その日、深夜の二時を過ぎても、昂輝は布団の上で眠れずに天井の暗闇を睨みつけていた。

身体中が暑かった。エアコンの冷房の温度設定を一番低くに設定しても暑くて暑くて仕方がなかった。

「うッ……くッ……」呼吸のたび胸郭が膨らんでいくような感覚、それから背骨の一つ一つが少しずつ膨らんでいくような感覚に襲われ、昂輝は呻き声を上げて敷布団を握り締めた。

呼吸が苦しかった。つい三週間前までゆとりのあったスウェットは、今や昂輝の身体に沿ってぴったりと張り付き、ぎゅうぎゅうと生地の引っ張られる音を立てていた。袖と裾が勝手に捲れ上がり、汗の粒の浮かんだ臍周りが露出した。

ペニスは根本が痛くなるほど硬く硬く勃起していた。昂輝は下腹部に沸き起こるもやもやとした性欲を鎮めたかったが、自慰をしようにも金縛りと似た感覚に支配されほとんど身動きができなかった。

息苦しさと身体の節々の痛みは一時間以上も続き、昂輝は疲れ果てて意識を失いように眠りに落ちた。

昂輝は夢を見た。それは枕許に立った一頭の虎が金褐色の獰猛な目でこちらを見下ろしている夢だった。喰われるかもしれないと思って逃げようとするが、布団に括りつけられたように身体を動かすことができない。

「――ッ、はあッ、はあッ、はあッ……」

悪夢から目覚めると、昂輝は布団から飛び起きて部屋を見回した。

朝だった。

「……え?……」昂輝は洗面所の鏡に映った自分の姿に茫然とした。

身長が10cm以上伸び、筋肉に幅と厚みが増し、別人のシルエットに変わっていた。Sサイズのスウェットはパンパンに生地が突っ張っていた。スウェットを脱ぎ捨てようと上半身を丸めるとビリビリッと生地の破れる音が鳴った。

昂輝は皮膚から引き剥がすようにスウェットを脱ぎ捨て、上半身裸になった。首は少し太くなり、肩幅が大きく広がり、二の腕には丸味を帯びた筋肉があらわれ、拡張された胸郭の土台に胸筋に厚みが載り、肋骨の浮き出ていた腋の下の辺りはうっすらと脂肪がついていた。

「やべェ、俺……‟男”じゃん……」昂輝は洗面所の鏡を見つめながら下腹部を熱くした。小さな影が落ちるほどはっきりと喉仏の膨らみがあらわれ、さらに声が一段低くなっているという事実がさらに昂輝を興奮させた。

「すげェッ、すげえッ、俺ッ、‟男”になってる……ッ!」昂輝は自分の思う雄のイメージに身体が近づいたことに快哉を叫んだ。その姿は、体育会系の部活動に励んでいるクラスメイトの男子たちの身体つきを連想させた。

昂輝はスウェットパンツとボクサーパンツも脱ぎ捨てて全裸になった。勃起したペニスを囲むように濃く太い陰毛が生え、それまで産毛しかなかった腕や脚にも体毛が揃っていた。片方の腕を上げると、腋の下にも陰毛と似た黒い茂みがあらわれていた。ペニスの先から透明な我慢汁が糸を垂らしていた。

「もっともっと……“男”に……ッ! ‟雄”になりてェ……ッ!!」昂輝は息を荒らげて長さと太さを増したペニスを扱いた。今回の勃起はまるで全身の変化と連動したように強烈だった。

ビュクッ、ビュクビュクッ――昂輝はすぐにイッた。そろそろ家を出なければ学校に間に合わない時間が迫っていたが、ペニスを扱く手を止められなかった。射精すれば射精するほど快感がますます強くなるのだった。

身長173cm

体重71kg

胸囲103cm

腕囲33cm

ペニス10cm(平常時)

【第五章】

その日、昂輝は初めて学校を遅刻した。

Sサイズのワイシャツは着れなくなってしまったため、学校に向かう途中でLサイズのワイシャツを買い直した。制服のスラックスはすぐに買い直すこともできず、丈の足りない裾から踝が覗いたままになっていた。

二時間目の授業が終わった頃、高校の教室にあらわれた昂輝を見て、クラスメイトの男女がどよめいた。

「はッ? えッ? マジで竹山?」

「ちょっと背、伸びすぎじゃね?」

「あいつ何かガタイよくなってね?」

クラスメイトの男女が囁き声を交わす中、凌央と練と隼也は眉を顰めて舌打ちした。彼らは今まで自分たちが“豆”と馬鹿にしてきた相手が大きく変化した姿を見て、現実を受け止められずにいた。

「豆にも成長期があるんだな」と、練はいつものような調子で昂輝を揶揄することで何とか平静を保とうとした。だが、ゆらゆらとした目の動きには明らかに動揺があらわれていた。

「太っただけじゃね?」隼也はちらちらと昂輝を振り返りながらぎこちない冷笑を浮かべた。

「あいつ、何なんだよ……」凌央だけは苛立ちをはっきりと露わにし、まだ幼さを引き摺っている昂輝の横顔を睨みつけた。

放課後、体育館の裏手の物置小屋。

「お前さ、ちょっとデカくなったくらいで調子乗ってるよな」凌央は出入り口の扉を叩きつけるように閉め、昂輝の顔に向かって唾を吐いた。「言っとくけど、お前は俺らと比べたら全ッ然チビだから調子乗ってんじゃねーぞ?」

昂輝は隼也に羽交い絞めにされていた。

「じゃあ、練、やっちまってくれ」凌央が片手を上げて合図をすると、その背後から金属バッドを持った練があらわれた。

「豆、覚悟しろよ?」練はふふんと鼻を鳴らして金属バットを構えた。本気でブン殴るつもりはなかった。それはいじめっ子たちにとって昂輝を服従させるための儀式だった。顔面ギリギリにまで金属バットを振り下ろしてビビらせてやるつもりだった。

「――ァァァァアアアアアッッ!!」

次の瞬間、昂輝ではなく、練が痛々しい悲鳴を上げた。

練が金属バットを振り下ろそうとした時、昂輝は凄まじい筋力を発揮して隼也の羽交い絞めから抜け出し、練の脇腹を蹴り飛ばしたのだった。いじめっ子たちの悪質な行為を受け手、昂輝の中に芽生えていた闘争本能が一気に覚醒したのだった。

今、俺、練を蹴り飛ばした……? 昂輝はほとんど無意識のうちに反撃したため、自分自身でも何が起こったのか把握できていなかった。闘争本能の覚醒は体内の血流を著しく増加させ、ボンッと、一回り身体が大きくなったように見えるほど全身の筋肉をパンプさせた。

「……ゥッ、ッ、ハアッ、……」練は物置小屋の壁際に倒れ込み、脇腹を押さえながら情けない呻き声を上げていた。

「フゥッ、フゥッ、フゥッ、フゥッ――」昂輝は獲物を狙うような血走った目で練を見下ろした。荒々しい呼吸とともに肩が大きく上下する。ワイシャツは今にもはち切れそうに身体に張りつき、その汗で濡れた生地にパンプした筋肉の輪郭が透けていた。

俺は、今、どうなって……? 昂輝は今の状況、それから自分の身体で起こっていることを把握しようとしたが、うまく考えをまとめられなかった。全身の血管を熱い血が駆け巡り、心臓の鼓動はどんどん速く、強くなっていく。パンプした全身の筋肉が「戦え」と叫んでいるかのように疼いていた。

「ぶッ殺す、ぶッ殺す、ぶッ殺す、ぶッ殺す、ぶッ殺す……」昂輝はぶつぶつと呟きながら練のほうへ近づいた。鎧を背負っているように身体が重く感じられ、一歩一歩足を踏み出すだけで大粒の汗が吹き出した。

「お、おい……何だよ、こいつ……」隼也は目を見開きながら小声で言った。昂輝が自分の腕から抜け出した時の瞬発力が信じられなかった。そこに立っているのはもう隼也の知っている“豆”ではなかった。

「お前――」凌央は何かを言い掛けて口を噤んだ。見開かれた目には動揺の色が滲んでいた。「隼也、練、もう行くぞ」

「お、おう」隼也は倒れ込んだ練を起こし、凌央に続いて物置小屋を出て行った。

いじめっ子たちが物置小屋を出て行った後、薄暗い空間には昂輝の荒々しい息遣いだけが響いていた。

「……くっ……あ……ッ」昂輝は地面に膝を突いて背中をビクビクと震わせた。

全身の血が逆流するような感覚。

腕も胸も脚も張り裂けそうに膨張するような感覚。胸の奥から、言葉で表現したがい力が突き上げてくる。昂輝の内面では、生き物としての根源的な衝動、性欲と食欲と破壊衝動がグチャグチャに混ざり合っていた。

腹の底から湧き上がる薄汚い欲望が、制服のスラックスの股間を激しく盛り上げる。ぎゅうッ、ぎゅうッ、と筋肉がパンプするのに合わせ、ペニスはヒクヒクと小刻みに動いた。

昂輝は拳を握り締めて耐えようとした。だが自分が何に耐えているのかすらよく分からなかった。

「ッッ……アッ! アアアアアアアアアアッッ!!」

視界が真っ白に飛んだ。昂輝は腰の奥に火花が散ったような衝撃を覚えた。地面に両手と両膝を突きながらガクガクと膝を震わせた。普通ならば絶頂とともに力が抜けるはずなのに、むしろ筋肉は硬直し、ペニスと睾丸に熱っぽい性欲の重みが加わった。もう下腹部には次の衝動が蠢いていた。

成長促進剤は昂輝の脳の報酬系にまで影響を及ぼし、射精の瞬間に凄まじい量のドーパミンを放出させた。それは昂輝に常人の感じる数十倍の快感を与え、全身の筋肉と骨格に成長シグナルを叩き込んだ。

「イ……グッッ!! 俺ッ、はァ……ッッ!!昂輝の身体の奥で、何かが弾けるような感覚が連鎖した。

骨の髄にまで熱が広がり、関節が軋む音が耳の奥で反響する。頚椎から胸椎、腰椎、仙骨、そして仙骨に向かってピキ、ピキ、ピキと骨が鳴り、それは全身の骨格へと波及していく。

昂輝の肩口の骨の位置は左右に広がり、鎖骨の両端がぐぐっと外側へ押し出される。骨格が変化するなり、肩と腕の筋肉が丸味を帯びて盛り上がった。

内側から圧が掛かるように胸郭がグンッと拡張され、そこに胸と背中の筋肉が分厚く迫り出す。ブチッ、ブチッ、ブチッ、とワイシャツの胸元のボタンが弾け飛び、肩の縫い目に綻びが生じ、腕の太さに耐え切れなくなって袖が裂けた。

昂輝は震える両腕を見下ろした。腕は脇を閉じられないほど筋肉が盛り上がり、胸筋と競い合うようにぎゅうぎゅうと音を立てる。腕の皮膚には蜘蛛の巣を思わせる血管が浮かび上がり、握った拳の中で骨格そのものが変化していくのが伝わってきた。

華奢だった腰回りはがっしりとした骨格に変わり、腹筋、腹斜筋、脊柱起立筋が発達する。そうしてウエストが太くなった結果、ベルトのバックルはガチッと音を立てて勝手に外れ、制服のスラックスの留め具が壊れ、その下からゴムと生地の引き伸ばされたボクサーパンツがあらわれた。

皮膚の下で筋繊維が一本一本浮き上がるように膨らみ、未知の力に引き延ばされるかのように体積を増していく。

昂輝は地面から手を離して片膝を立てた。すると太腿が爆ぜるように張り詰め、脹脛まで石のように膨れ上がった。制服のスラックスの生地は耐え切れずバツンッと音を立て、縫い目に沿って縦に真っ二つに破れ落ちた。生地の破れ落ちたところから、汗に濡れた赤みがかった肌、盛り上がった下半身の筋肉が露わになった。

「うおッ、おッ、おおおおおおおおおおッッ!!」昂輝は薄暗い天井を仰ぎ、両腕を広げた。喉仏がさらに前に迫り出し、声帯は厚みを増し、昂輝は別人のような野太い叫び声を上げるようになっていた。呼吸のたびかつてないほど肺が大きく膨らみ、取り込まれた酸素が全身に行き渡ると、パンプした筋肉をさらに昂らせた。

昂輝のペニスはボクサーパンツの布地越しに太さと長さと硬さを増し、形を変え、熱と衝動に突き動かされて粘り気の強い液体を噴き上げた。

骨格と筋肉の急激な成長は、本来であれば想像を絶する激痛を伴う。だが昂輝は痛みをまったく感じなかった。成長促進剤は昂輝の肉体を根本から造り替え、通常「痛み」と感じられる信号を「快楽」に変換するようになっていた。

「は……すげ、これが俺の身体か……?」昂輝は分厚く盛り上がった胸筋を揉みしだきながら呟いた。「……もっと……もっとデカく……強く……ッッ!!」

昂輝の足元には汗の水溜まりができていた。いっそう濃く茂った腋毛や陰毛から、以前と比べ物にならないほど雄臭くなった独特な体臭が発散される。

昂輝は破れかけたボクサーパンツを脱ぎ捨て、汗と精液にまみれた逞しいペニスを扱き、自分自身の体臭に酩酊したような恍惚とした表情を浮かべながら、何度も何度も繰り返し射精した。今までは射精の回数を意識的に抑えることがあったが、今の昂輝にそうした躊躇は一切なくなっていた。

俺、もう、あいつら余裕でぶっ殺せるんじゃね? 昂輝は口角を吊り上げてにやりとした。その考えは今までで一番昂輝を興奮させ、「イッ……グッ……」と歯の隙間から声を洩らしながら凄まじい量の精液を噴き上げた。

――闘争本能の覚醒によって、性欲と支配欲と肉体の進化が完全にリンクした瞬間だった。

身長185cm

体重95kg

胸囲115cm

腕囲42cm

ペニス16cm(平常時)

Comments

こちらこそありがとうございます〜!小説のイラスト化は賛否両論あるので、いつも迷うのですが、しばらく時間を置いてから主人公のイラストをアップするのはいいかもしれませんね!

サトー

久しぶりの小説もうれしいです! いつか昂輝くんのイラスト挿絵も少しでも出てきたらうれしいな…!! 愛してます、昂輝くん!愛してます、サトーさん!

ヘイン


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