NokiMo
にゃんす
にゃんす

fanbox


強制ログアウト もう一つ その10

「フユさーん、そんなモジモジしてないで行きますよー。」 「待ってくださいよ、まだなんとなく恥ずかしいんですから・・・」 ナツミさんに出かけようと誘われて、というよりは半ば強引に外に連れて来られた俺であるが、まだ女性物の服を着ているという自分の行為に慣れないでいる。 こんな時、女性が男性物の服を着ていてもあまり違和感は無いらしく、ナツミさんはむしろ俺の身体でどんな服を着るか楽しんでいるようだ。 ちなみにナツミさんが俺を呼ぶときの「フユ」というのは、女性の身体で「フユキ」というのはなんとなく似合わないから、らしい。逆に俺はナツミさんの事を「ナツ」と呼ぶように指示されている。 ナツミさんのこの一連の行動でわかるように、ナツミさんは身体が入れ替わったこの状況を相当楽しんでいる。まったく、俺の気も知らないで・・・ とにかく落ち着かない俺がナツミさんに手を引かれて辿り着いたのは近所のショッピングモール。俺の家の近所ではあるのだが、基本的にファミリー向け、もっと言うと女性向けの出店が多いために来ることは無かった。 辺りを見回しても基本的に家族連れやカップルばかりで、男性一人の客は見られない。 「あの・・・着きましたけど、何をするんです?」 「フユさんのお洋服を買うんですよ、向こうだとこんなに色んなお店を見て回れるところが無くて・・・しかもですよ、今日は客観的に私の姿を見て服を選べるんです、こんな便利な事はないですよ!」 つまり俺を着せ替え人形にするために連れて来たって言うのか。 冗談じゃないぞ、自分で見繕ってきた服でさえ恥ずかしいというのに、女性基準で服を選ばれたら俺は耐えきれる気がしない。 ナツミさんの手を振り切って逃げようとしたところ、腰に手を回されてグッと引き寄せられた。密着する俺とナツミさん、改めて体格の差を感じつつ逃げられないと悟る。 「ダメですって、しばらくこのままなんですから慣れておかないと。今日はその練習だと思って、ねぇ?」 「それに僕の意思は関係ないんですね・・・というか、ナツ・・・さんは慣れるの早すぎません?」 「ゲームだと男性キャラしてましたし・・・あ、口調も変えた方が良さそうだ、フユもやらない?」 「いきなり馴れ馴れしくなりましたね、僕は大丈夫です、気にしないで下さい。」 「うーん・・・僕っ子もそれはそれで・・・よし、じゃあ行こうか。」 これまでのどこか少し女性らしい話し方、イントネーションなのだろうか。それが無くなったナツミさんの姿からは違和感が無くなった、伊達に男性キャラでロールプレイをしていない。 だからと言って俺がそれらしい話し方にする必要はない、俺が考えるべきはいかに精神的なダメージを押さえるかだ。自我はいらない、あくまで着せ替え人形としてここに居ることを意識して、何事もなくこの時間を過ごすんだ。 ナツミさんに腰に手を回されたまま、流れに逆らわず足だけを動かす。この動作に慣れてしまうと意外に楽だという事が分かる。女性だからこそ注意が行き届くのかもしれない。 そういえば、ナツミさんはゲーム内では女性キャラクターに囲まれていたように思う。それも女性だからこそわかる気遣いなんかが理由なのだろうか。 そんな風にナツミさんの人間観察、分析をしているとナツミさんの足が止まる、気に入った店でも見つけたらしい。ナツミさんの視線の先を見ると、フリフリとした服の並ぶ店を見ている。ロリータというんだったか、確かナツミさんの家にも何着か置いてあったような服だ。 「あのー、ナツさん?」 「よし、ここにしよう、楽しみだ。」 「え、ま、ちょ・・・」 思っていた以上の衝撃に唖然としている間に、ナツミさんによって俺は店の中へと誘われた。 連れ歩かれる、というよりほとんど引きずられるようにして入った店内には入り口にあった以上に様々な種類の服が並ぶ。俺は特段詳しいわけではないが、確かにそれぞれに違った魅力があることはわかる。わかるが、それを着るかというのと話は別だ。 店員の一人と俺の泳ぐ視線が合った、その瞬間に店員は笑顔でこちらに寄ってくる。やめろ、来るな、そういうのが嫌だから俺は服を通販で買うんだ。 「あぁ店員さん、良いところに。全体的に見ていただけますか?」 ナツミさんが俺の腰をぐいと押す、ちょうど目の前には笑顔の店員。 あ、やられた。思った瞬間に店員は俺の手を掴んでいる。 「一日着ていてもらいたいので、少し大人締めな感じでお願いします。」 笑顔のまま頷く事で、店員はナツミさんに理解したことを伝えた。そして笑顔の割には強い力で引かれた俺は目にも止まらない速さで採寸され、そのまま試着室に押し込めらた。 それから一瞬だけ静かになったかと思えば、試着室に服を持った店員が入って来る。一連の出来事があまりにも突然すぎて固まってしまった俺は店員によって服をひん剥かれ、いつの間にか店員の持っていた服に着せ替えられていた。 店員によって身体をぐるりと回転させられる俺、目の前には鏡、映るのはフリフリの服の似合う俺、厳密に言うとナツミさんだが、の姿。 「い、意外と着てみるものですね・・・」 「お似合いですよ、彼氏さんもお喜びかと。」 「彼氏!?」 客観的に見た時にカップルに見えたという事か。確かに距離も近かったし勘違いする可能性もあっただろうが、いざ言われるとなんとも複雑な気持ちになってくる。 「あっ、失礼しました・・・」 「いえ、あの、あは、あはははは・・・」 悪い店員、俺には愛想笑いしかできない。 居心地の悪さにナツミさんにすがりたくなり、試着室から身を乗り出してその姿を探す。見つけたナツミさんは何か店員とやり取りをしている。 丁度やり取りを終えたナツミさんと目が合う。俺の頭の上から足の先まで一通り見たナツミさんの顔は満足そうだ。 「うん、似合ってる。それじゃあ行こうか。」 「待って、本当にこのまま行くんですか?」 「もちろん、似合ってるのに脱ぐなんてもったいない。元の服は包んでもらってるから心配しないで。」 さっきの店員とのやり取りは支払いだったようだ。それから少しして俺は着ていた服が入っている袋を渡され、ナツミさんには領収書を渡された。俺が着替えさせられていた短時間で済ませていたらしい。 怒涛の出来事に急に疲れてしまい、俺はナツミさんの思うままに歩く人形になっていた。しばらくはナツミさんの話も頭に入らず歩き続ける、その間俺は入れ替わったナツミさんの身体に慣れ始めていることを感じ、少しの楽しさと少しの恐怖とを感じていた。 どうか、どうか早く元に戻れる見通しを立ててもらいたいものだ。 「・・・ねぇ、フユ聞いてる?」 立ち止まったことでナツミさんの声が耳に入った。何事かと様子を伺うと、少し心配そうな顔で俺を見ている。 「あ、あぁ、いえ、少し考え事をしていて・・・」 「少し疲れちゃったかな、休もうか。そこで座ってて。」 いつの間にか休憩スペースのようなところの近くまで歩いてきていたようだ。俺は空いたベンチにストンと座らせられ、ナツミさんは自販機の方へ向かっていった。 後ろから見た歩き姿の男らしさと言ったらない、頼もしいとはこういう事だろう。 ・・・俺も歩き方に気を付けた方が良いか? 「お待たせ、お茶か水か、どっち?」 「あー・・・水を。」 俺が水を受け取るのと同時にナツミさんも隣に座る。 ペットボトルを開けて一口、まだ足りないともう一口。この喉の渇きは緊張のせいなのか、満足して口を離したペットボトルの中身は半分くらいになっていた。 「いやぁ・・・少しはしゃいじゃって・・・すみません。」 「別に・・・僕も意外と楽しかったので・・・」 「フフフ・・・うんうん、それは何より。」 ナツミさんの笑いは単なる愛想笑いか、それともたくらみが成功した喜びなのか。この時点では俺には判断がつかなかった。


Related Creators