【弓道部番外編】韓日スター共演
Added 2021-09-13 14:10:44 +0000 UTC浜崎実波は深夜まで続くはずだったCMの撮影を19時で切り上げさせた。撮影は順調に進み、予定よりも大分早く今日の分が撮り終わったのだ。それはひとえに、実波が休憩をスキップしてぶっ続けで撮影させたからに他ならなかった。実波はカメラの前で演技するだけだからまだ良いが、これに付き合わされるスタッフはたまったものではない。美術班も機材班もこの日は大忙しだった。 「実波ちゃん、今日またあれだぜ」 撮影を終えたスタッフの一人が別のスタッフに話しかける。 「今キャンペーンで来日してるから絶対それだな」 話しかけられたスタッフも納得がいったようにそう言った。 国民的スター浜崎実波。3年前、原宿でスカウトされてから、数々のドラマや映画の主演に抜擢され、今や同世代では並ぶ存在がいないほどの絶対的なスターとなった。透明感のある顔立ちと天真爛漫な性格から、バラエティ番組でも人気が高い。そんな彼女に不穏な噂が立つようになったのは1年ほど前のことだ。 ある週刊誌の記者が、韓国人アイドルグループCCIの一番人気のメンバーであるジュンインが浜崎実波の自宅マンションに訪れる写真を撮った。実波の住んでいるマンションはセキュリティこそしっかりしているものの都心からは少し離れているため芸能人御用達の物件ではない。そのため、ここに住んでいる芸能人は実波しかいないというのは週刊誌記者の間では常識だった。そんなマンションに大スタージュンインが来る理由。答えは小学生に聞いても明らかだった。 だが、この1件は結局紙面に載ることはなかった。ジュンイン、実波双方の事務所から発売前にストップがかかったのだ。記事差し止めのために動いた金額は1億円以上とも言われる。人の口に戸は立てられないもので、差し止めになった後、漏れ出るように真偽不明の噂だけが業界で広まっていった。 先程のスタッフたちの会話は当たっていた。今日はジュンインが実波の部屋に「遊びに」来る日だった。 ——— 実波は家に帰ると、すぐに化粧を落として顔を入念に洗い、その後シャワーを浴びた。シャワーから出ると再び化粧をする。普段テレビに出る時のような清楚なメイクではなく、アイラインを強めに引き、リップも扇情的な赤にする。最初にジュンインを部屋に入れた時、ジュンイン好みのメイクをたっぷりと教え込まれたのだ。それ以後、ジュンインと会う時は決まってこのメイクにする。こうして化粧をしていると、実波は自分が韓国人になった気がして嬉しかった。 1LDKのシンプルな間取りだが、50平米以上ある部屋にはあちこちにCCIの写真が貼り付けられている。ベッドに置いてある人形も、CCIの公式キャラクターグッズだ。実波は、もともとCCIの大ファンだった。Twitterで、本人とわからないようにCCIの情報を閲覧するための裏アカウントも持っているくらいである。一度ライブに行った時はさすがに周りの観客にバレていたようで、いくつかのファンアカウントで浜崎実波の目撃情報がつぶやかれた。いわゆる「ネトウヨ」にも目をつけられ、しばらくの間はネット上で言及する人もいたが、やがてそれも下火になった。 「こうしてジュンインに会えるなんて今でも夢みたいだなぁ」 実波は一人そう呟く。数多の日本人男子たちが実波と一夜を過ごしたがっているだろう。だが、実波が選んだのは自分がずっと憧れ続けていた韓国人だった。もし、この逢瀬が週刊誌にすっぱ抜かれでもしたら実波の女優生命は終わるだろう。だが、それで良いとすら実波は考えていた。そうなったら、芸能界を引退してでもジュンインと正式なカップルとなり、結婚すれば良いのだ。実波は自分がジュンインに遊ばれているだけだなどとはつゆほども考えはしなかった。 「ピンポーン」 チャイムが鳴る。お気に入りの下着をつけてソファでくつろいでいた実波は、うさぎのように飛び跳ねてインターホンに向かった。 カメラ越しでもジュンインはかっこいい。(あーあ、日本の芸能界も韓国の芸能界くらいレベルが高ければ良いのにな)実波はモニターの中のジュンインを見てそんなことを思った。 「はーい!今開けるね!」 気分は新婚の若妻だ。いつかジュンインと結婚できたら良いな。実波はオートロックを開け、玄関の前でジュンインを待ちながらそう思った。