弓道部のアイドル系美少女と僕と韓国人13
Added 2021-07-16 13:47:14 +0000 UTCライブの盛り上がり方は半端ではなかった。狭いライブハウスは、CCIのメンバーたちが登場した瞬間、文字通り揺れた。4人は耳をつんざくような歓声を前から後ろから聞いた。無理もない。5万人を収容するドームを毎回満員にするようなスーパースターが、手を伸ばせば届きそうな距離で見られるのだ。その非現実感は、4人にとっても凄まじいものがあった。 「ジュンインー!!!」 横で亜里沙が叫ぶのを、佐々木は嫉妬の混じった横目で眺めた。アイドルに対する好意と彼氏に対する好意は性質が異なると頭ではわかっていても、実際に目の前で別の男に熱狂する彼女をみるのは良い気はしない。もともと亜里沙に合わせるためにCCIやKPOPについて勉強した佐々木にとってはなおさらであった。 同じ感情は春人にも芽生えていた。奈緒は、亜里沙ほどには自分の感情を人目を気にせず表すタイプではないが、それでもジュンインを見つめる目はきらきらと輝いていて、そこには春人を見つめる優しい眼差しとはまた別の魅力があった。奈緒からの好意は十分に感じているものの、自分はついぞこのような視線を奈緒から受けることがなかったことに春人は思い至った。 男子二人のもやもやした感情を尻目に、女子二人の盛り上がり方は次第に周りの熱量に押され、春人や佐々木が見たこともない領域に突入し始めた。 メンバーが跳ねろと言えばその場の誰よりも高くジャンプし、メンバーが客席に向かって投げキッスをすると二人も投げキッスを返した。もう完全にCCIの虜だった。実際、CCIの前では春人のことも佐々木のことも彼女らの目には映っていなかった。 通例、ライブの最中のMCパートには通訳がつくが、今回は規模の小さいライブだからかそれもないようだ。最初に「今日は来てくれてありがとう」と舌足らずの日本語で言った後、メンバーたちはそれぞれ韓国語で話し始めた。 会場にいる大半の女子たちは韓国語を学んでいるのか、メンバーの話に対して、時折相槌を打ったり笑ったりしている。春人と佐々木、韓国語のわからない二人は、周りの反応に合わせてリアクションを取るしかなかった。 二人が驚いたのは奈緒と亜里沙の反応だ。なんと彼女たちは韓国語を理解しているらしく、周りのファンと同じタイミングでメンバーの話にリアクションしている。春人と佐々木のようにワンテンポ遅れてではない。 春人はメンバーの話を食い入るように聞いている奈緒に思わず聞いた。 「韓国語わかるの?」 「はい、少し勉強してたんです。KPOPグループを推すなら韓国語わかるのは基本だなと思って。メンバーの言ってること通訳通さずに聞きたいですしね」 そう言うと奈緒はそれ以上話しかけてくるなと言わんばかりにまたステージの方を向いた。 一方、佐々木も同じことを亜里沙に聞いていた。 「ちょっと待って、亜里沙韓国語話せるの?」 「え?そりゃ話せるって!てか話せないの?ほら、聞いて勉強して!」 亜里沙もまた、すぐにステージの方に向き直った。 こうして春人と佐々木にとっては何が行われているのかよくわからないままMCパートが過ぎ去っていこうとしていた。その時、春人の目と、ステージ上で喋るジュンインの目があった。ジュンインは一瞬目を離して今喋っていたことを喋り切ってしまうと、再び春人の方を向いて何かを言った。ジュンインが喋りを進めると、次第に会場の視線が春人たちの方に集まってきているのがわかった。 「え?なになに?」 こちらを見つめる奈緒と亜里沙に聞く。 「女性ばかりの会場に男性ファンも駆けつけてくれて嬉しいです。どこからきたんですか、だって!」 亜里沙が羨ましそうな目でこちらを見つめてそう言った。 「な、なるほど。これは俺が答えた方がいいのかな?」 「当たり前でしょ!」 亜里沙が言う。 奈緒も「先輩、がんばってください!」と言って春人の手を握る。 「か、かわさき。かわさきシティ。……あ、かわさきって言ってもわからないか。えっと、東京の左下の……」 しどろもどろで、声がどんどん小さくなっていくのがわかる。会場の目という目がこちらを見ている。ジュンインをはじめ、CCIのメンバーたちもだ。「えーっと……」仕切り直そうとしたところでジュンインが大きな声で遮った。 「ありがとう!!」 「え?」 「遠いところから来てくれたんだね!勇気を出して話してくれた彼に拍手!」 ジュンインが日本語でそう言うと、会場に拍手が巻き起こった。 「どうも、ハハ……」 すごすごと手をあげて拍手に応える春人だったが、もう誰も春人の方を見てはいなかった。亜里沙や、奈緒でさえも。春人は自分と同じ世代の男とこうまでも差を感じたのは初めてだった。向こうはイケメンで、世界的スターで、歌もダンスもうまくて、韓国語も英語も日本語も話せる。堂々とした態度で春人が微妙にしてしまった空気も一瞬で引き戻してしまうほど話術に長けている。率直に言って、自分が勝てるところは何一つないと思った。奈緒や亜里沙の顔を見ていればわかる。身近にいないから現実的に感じられないだけで、本当はこんな男が近くにいたら、奈緒だって自分のことを好きになるはずないのだ、と春人は思った。 次の曲に移ろうとする中、ジュンインが会場に向けて韓国語で何かを言った。その瞬間、またしても会場の視線が自分に集まるのを春人は感じた。それは先程のような好奇や興味といったポジティブな意味合いを持った視線ではなく、なんらかのネガティブなものであることは奈緒や亜里沙の気まずそうな視線からわかった。 「今なんて言ったの?」 奈緒や亜里沙にそう聞いてもはぐらかされるばかりで、結局春人はそのときジュンインが何を言ったのかわからなかった。
Comments
コメントありがとうございます。ようやく2つの物語が1つになりそうですw
2021-07-18 08:36:33 +0000 UTC続きが気になりすぎるw
カズミ
2021-07-17 14:03:19 +0000 UTC