弓道部のアイドル系美少女と僕と韓国人⑦
Added 2021-07-07 15:59:01 +0000 UTC奈緒は帰宅後すぐにシャワーを浴びた。奈緒には、ライブストリーミングの2時間があっという間に感じられた。一人で観る時よりも熱狂できたのは、隣に亜里沙、佐々木、そして何より春人がいたからかもしれないと奈緒は思った。 その容姿の淡麗さから、幼い頃から恵まれた環境で育ってきたと周囲から思われがちの奈緒だが、中学校までは教室の隅で絵を描いているような目立たない女子だった。友達といえば、美術部や帰宅部のオタク系の女子ばかり。当然、男子たちはそんな奈緒には目もくれず、ちやほやされるのはいつも運動部やダンス部の女子たちだった。 奈緒に転機が訪れたのは中学3年生の夏だ。当時、高校受験のために塾の夏期講習に通っていた奈緒は、前の席の女子二人組がスマホの画面を食い入るように見ているのに気づいた。何やら楽しそうに囁き合いながら見つめるその画面に映っていたのは、当時日本デビューしたばかりの女性KPOPグループ「LIZ」のダンス映像だった。その映像がなんとなく気になった奈緒は、家に帰ってから自分のスマホでLIZを検索して動画を観てみた。 一本観ると止まらなくなった。おすすめ欄に表示されるままに次から次へと時間を忘れて観た。こんなキラキラした美しい世界があるんだ、それも自分より少し上の年齢の子たちばかりだ。自分も殻に引きこもっているばかりでなく、こんな風にかわいく自分を表現できたらきっと楽しいだろう、と奈緒は思った。 見様見真似でLIZのメンバーのメイクを真似はじめた。中学生でメイクをする人はそれほど多くなかったから、周りの子たちはきっと驚いたことだろう。メガネも母親に頼み込んでコンタクトにし、制服の着こなし方も韓国風にした。そうして変わっていく自分に、奈緒自身とても満足していた。自分でもこんな風に可愛くなれるんだ。 変わっていく奈緒を見て、男子たちはにわかに色目を使い始めたが、外見だけですぐに態度を変えるような男子はどうしても好きになれなかった。だから、中学校から高校2年生の今まで、奈緒には付き合った男子はいない。モテなかった時の記憶があるから、どうしても自分の性格を好きになってくれる人と付き合いたいと思ってしまうのだ。 春人先輩は優しい、と奈緒は思っていた。弓道部に入部してからというもの、積極的に奈緒に話しかけてくれるというわけではないが、いつも視界の端で自分のことを気にかけてくれている気がする。奈緒が手持ち無沙汰になったり、先輩から頼まれごとをして困っていたりすると、どこからともなく現れて紳士的に助けてくれる。何かを要求するわけでもない。ただ、静かに奈緒の支えになってくれるのだ。 (春人先輩なら付き合っても良いかな。ううん、付き合いたい) そんな思いが芽生え始めてきた奈緒にとって、今日の集まりは春人と距離を縮めるチャンスでもあった。そして、その目的は概ね達成できたような気がする。奈緒は知るよしもないが、春人も全く同じ気持ちだったのである。 シャワーを浴びて部屋に戻ると、奈緒は壁に貼ってあるCCIのポスターを眺めた。LIZの弟分として1年前にデビューしたCCIはその歌唱力とダンスのテクニックで、瞬く間に日本のポップシーンを席巻した。奈緒は、最初こそ男性グループに興味がなかったが、LIZのメンバーの話の中に時折出てくるのが気になり、いくつか動画を観ているうちにすっかりハマってしまった。今ではLIZよりもCCIのファン活動に割く時間の方が多くなったくらいだ。 CCIの一番人気のメンバー、ジュンインはどことなく春人先輩に似ていると奈緒は思った。顔が似ているというわけではないのだけど、笑った時の柔和な雰囲気が似ていると思った。笑顔にはその人の性格が出る。ジュンインや春人の内から滲み出る性格の良さが奈緒は気に入ったのかも知れなかった。 「ジュンイン」 ベッドに横になり、天井に向かってつぶやいてみる。 もし、今、春人とジュンインが両方とも隣にいたら自分はどちらを選ぶだろうか。年も同じ。性格はきっと二人ともとても優しい。そうなった時に自分は何を基準に二人を判断するのだろうか。恋愛経験がろくにない奈緒には、恋愛の機微や、自分の心のゆらめきを捉えるにはあまりにも幼かった。