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弓道部のアイドル系美少女と僕と韓国人①

弓道部の部室には誰もいなかった。若干6畳程度の小さな部室は、弓道場に行く前に部員たちが着替えをするために使う。男子は弓道場の脇で着替えるので、この部室は普段女子しか使わない。春人は練習中の怪我で擦りむいた指に絆創膏を貼るため、救急箱を取りにきたのだった。 部室に入ると女の子の匂いがした。化粧品や制汗剤や湿布が混ざった独特な匂いだ。しかし、嫌な匂いではない。ずっと嗅いでいたくなるような思春期の女の子の匂いだ。せっかく練習を中断してきたのだからと、春人は置いてあるパイプ椅子に腰掛け、休憩がてら部屋を眺めやった。 壁には大会でもらった団体戦の賞状が何枚か飾ってあるほか、遠征で行った長野県で撮った集合写真や、歴代の先輩が残していった寄せ書きが貼られている。長年存続してきた弓道部の濃密な歴史がこの一つの部室に凝縮されているようだった。 春人の視線は、集合写真の中の一つの顔に吸い寄せられる。小倉奈緒。春人の一つ下で、今2年生だ。春人は奈緒を初めて見たときの衝撃を今でも覚えている。それは、新入生への部活紹介期間の最中で、新入生は4月いっぱいをかけて様々な部活の普段の活動を見学したり、体験したりすることになっていた。その時に何人かの友達と一緒に来たのが奈緒だった。 奈緒はそのグループの中では一番背が高く、と言っても165センチ程度だったが、目は好奇心の塊のようにキラキラと丸く輝いていて、春人はその可愛さに一目惚れしてしまった。見学をしている間、ずっと口元に微笑を浮かべていて、時折友達と小突き合いながら何かを言ってくすくすと笑う姿が愛しかった。 奈緒に(その時はまだ名前は知らなかったが)見られていると思うと春人の動きにも緊張の気が見られた。普段はルーティンとして引く弓も、いつになく重く感じ、一つの動作を終わるまでに呼吸が上がってしまった。気取られぬようにちらと奈緒の方を見ると、奈緒は全然別の方を向いていた。自分が決してかっこいい顔ではないと物心ついた頃から理解はしているものの、こうして一目惚れした女の子に少しも見てもらえないというのはショックだった。春人の目からは、奈緒は、春人と同学年のイケメン男子生徒の方を見ているように思えたのだ。 それでも、その後の対面での部活紹介の際には、春人は奈緒(とそのグループの女の子たち)に熱烈に弓道部をアピールした。とりあえず入ってくれさえすれば自分にチャンスがないとも限らない。春人が説明している間中、奈緒は真剣な顔をしてその説明を聞いてくれた。時折、その大きな瞳で春人の目を覗き込むようにして、「土日も練習することがあるんですか?」とか、「道着は最初は借りることもできますか?」とか、いくつかの具体的な質問をした。そうした質問が、奈緒の弓道部への興味を示しているようで春人は嬉しかった。 かくして、無事奈緒は弓道部に入った。新入生紹介の初日に、奈緒がその列に立っているのを見て春人が狂喜乱舞したことは言うまでもない。 それから1年経ったが、その間にも、奈緒は日増しに女性らしい色気を身につけ綺麗になっていった。春人の方からは、積極的な行動を何一つ起すことができなかったが、先輩として親しい関係を築くことはできていると思っていた。奈緒は、クラスや学年や、部活内の男子から一目置かれる存在だったが、校内の誰かと付き合っているという噂は聞かなかった。一度、奈緒と同じクラスの男子生徒が告白をしたことがあったというが、「今は付き合う気になれない」という理由で断られたという話も聞いた。だからこそ、春人は奈緒へ思いを伝えるのは急がなくても良いと思っていた。今はただ、奈緒と穏やかで親密な関係を築くための準備ができれば良い。春人が卒業するまで、あと1年弱時間は残されているのだから。


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