『ううぅ、鳴らない…!だめだ、六葉!こっちの妖術は完全に封じられた!』 木々が重なり、うっすらと日の光が照る森の中で、一つのリンゴが揺れていた。 『こっちもにゃ!手も、足も無い…。抜け出そうにも、粘土に変えれないのにゃ…!!』 その横で、もう一個のリンゴが揺れている。 二つのリンゴは、手のひらほどのサイズでありながらも、その表面は実に異様。 一方は猫耳少女の裸体を模していて、ピンと伸びた二本の出っ張りと、たわやかな女体を晒している。 もう一方も、鈴らしいものを付けたトナカイ角をもっており、片方に負けないほどの、本来なら柔らかいだろう大きな胸を持っていた。 『リンリー。今回は…恥ずかしいけど負けにゃ…。向こうのコンビを、甘く見てたのにゃ』 『あうぁ…負け、かぁ…』 「玄関鈴の妖怪、リンリー=ベル。喫茶店の皿の付喪神猫、彼岸六葉。だっけ…。今回は、私達の勝利ね」 揺れながら声を掛け合うリンゴ達の、木の根元に一人の少女が現れた。 その手からは、地中に向かって木の根が伸びている。 それはどうやら、地面に潜ってそのまま、リンゴたちが生えている大木に繋がっているようだ。 『うにゃっ!桜安姫…!』 「桜の妖怪、桜安姫…。なんて名前だから、操れるのは桜だけとか思ったでしょ?」 桜安姫は、静かながらに勝ち誇った顔をする。 「ざーんねん、意外と植物全般は得意なのよ」 「そのとーり。ろきはスペシャリストだぞ、ナハハ」 ザッ、と。木々の葉の影からもう一人の妖怪が飛び出してきた。 親し気に桜安姫の肩へ、腕を回して頬を摺り寄せるのは、廃村の妖怪パスト=ソンだ。 そう、今回の化かし合いはリンリー&六葉と、パスト&桜安姫コンビの2対2の対決だったのだ。 結果は見ての通り、桜安姫の召喚した大木に飲みこまれ、二人がリンゴに変えられてしまったことで決着がついたのだった。 『ぐぅ…次は、そっちのピンクに注意だにゃぁ…』 『うん…ひうっ!!この体、木から何か流し込まれて、変な感じするぅ!!』 「へー…なに流してるんだ?ろき」 「そりゃ栄養よ。妖力は吸わせてもらうけど…。私の傘下の植物である以上、育てないといけないなぁって…」 「化かし合いで負けた相手を、植物として育てるってか…ざんしーん」 目の前で揺れつづけるリンゴ二つ、それを見つつも桜安姫は首を傾げる。 「そう?マシュネスのやつは、キノコに変えた私達を、かなり育ててたけど…」 「うっ……あ、あの時の話はしないでくれよ、なはは…。 ああいうの、思い出すと。自分がキノコであるとか、錯覚しそうになる…」 「あぅっ、ま、まあね!うん…恐ろしい事に、気持ちよかったし…」 そう言って、二人は胸を腕で隠すような形に身を細め、少しよじった。 化かし合いで何かに変えられていた時の感覚は、ある意味禁忌だ。 呪わしき事なのに、精神はそれに惚れ込むような魔性の浸食があるからだ。 「…しかし、まぁ…」 ちらっと、もう一度リンゴの二人を、桜安姫は見る。 「物に変えた相手を、育てる事の楽しさは……ちょっと、分かるような気も…」 「え、ろき?今なんて?」 「い、いえなんでも」 桜安姫は、変化の感覚に少し戸惑った。
のなめ
2019-03-24 16:14:20 +0000 UTC