NokiMo
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fanbox


最後の夜

こんにちはこんばんは、ぱぱを🐼🐾です。


300円プラン(以上)支援者の皆さん、お待たせしました。今月も上質なオカズをお届けいたします。


今回は会社員ノンケの猪おっさんと、その後輩の犬獣人くんのお話。読み切り短編ですので、誰でもお読みいただけます。約1万8000文字ほどあるので、どうぞお楽しみください。


……なんか昔似たようなものを書いた覚えがありますが、度々こういうの書きたくなるのでお許しいただきたく🐼ノンケのおっさんと禁断の……みたいなの、好きなんですよね。甘くて切ないような、そんなテイストになっております。

・簡単なアンケート(30秒ぐらい)のお願い

10月のけもケットや1月の新春けもケットに向けて執筆するにあたり、どうしてもFANBOXの投稿頻度が落ち気味になっていて……。今のところ毎月300円プランで1作品(2万字前後)、500円プランで2作品(合計3.5~4万字前後)という運用でいきたいなと考えておりますが、実際支援者の皆様的にはこの投稿頻度や文字量ってどう感じているんだろうとまた気になってしまい。よろしければこちらでポチッとご回答いただけますとめちゃくちゃ嬉しいです!!


前にも一度こういったアンケートは実施はしているのですが、やはり支援してくださる方も入れ替わったりするので定期的にやらねばいかんなという気持ちになりました。よりよりFANBOXを作っていくため、どうぞよろしくお願いいたします🐼



……自分で選択肢作っておいてアレなんですが、「文字量が増えたら嬉しい」にいっぱい票が入ったらどうするんだろうか。私、死んでしまう……?


ではではこの辺で。ノンケ猪おっさんのオカズ、楽しんできてください〜〜🐗


※以下、本編。

****


 次から次へとカウンターのテーブルへ運ばれるご馳走たち。先輩にとっては見慣れた光景だろうが、低賃金で働く僕にとっては見ただけでヨダレが出てしまうほどに体が反応していた。体の後ろに生えたフサフサの尾が忙しなく動いていたのだろう、軽く落ち着かせるようにして汗ばんだ手が包み込んできた。誰かに尻尾を握られる、それがどれだけ不快な行為か獣人ならば理解している者も多いだろう。だが先輩は力加減をちゃんとわかっていて、握られても痛くないし不快にならない。


「なんや、エラい激しく尻尾ブンブン振ってからに。この前尻尾のトレーニングは終わったんとちゃうか?」


「あ……えっと、ははは。まだダメみたいです」


「ホンマ頼むで。来月から指導係のワイはおらんのやからな。……ま、お前さんはなんやかんやでしっかり者やさかい、大丈夫やろ」



 先輩の言葉を一つ一つ噛み締めるようにして聞いていると、僕はふと会社に入ったばかりの頃を何気なく思い出した。縦にも横にも大きな体格、それに声もデカくてちょっと怖い。顔の掘りが深く太眉で、顎髭がこれまた厳つくて。最初はビクビクしながら接したものだが、先輩が事あるごとにガハハと笑うたびなぜか僕までつられて笑ってしまったっけ。豚鼻とヤニで少し黄ばんだ牙が特徴の先輩は、今日もカッコ良くキメ顔で僕の顔を見つめてくる。曇りのない真っ直ぐな眼差しを見るたび、僕の心はいつもより鼓動を早め力強く脈を打った。



“ダハハハ! 犬は喜ぶとすぐ尻尾振るさかい、わかりやすくて助かるわぁ。……あ、別にバカにしとるわけやないで?”


“感情をコントロール出来るようになったら、仕事でも大いに役立つと思うんやけどな。せや、ワイが今日からトレーニングに付き合うたろ! ……なに? イヤやって? ふぅん……“


”これで今日から犬田(けんた)くんも一人前の大人になったっちゅうことや。って気ぃ抜いたらあかんやろ! また尻尾ブンブン揺れとるやないかい!“




 もう、一人前の大人になったと。そう思っていた。なのに先輩の前ではどうにも我慢が利かない。嬉しいと思えば激しく左右へブンブン振ってしまうし、叱られればあからさまにだらんと下へ垂らしてしまうし。僕にはまだ、先輩の指導が必要だ。


 それなのに。……それなのに。



 先輩は、来月に別部署への異動が決定した。



「……ん、どしたん? ビールもつまみも来たんやし、いつものヤツやろうや。ほな、かんぱーい!」


「あっ……」


 ガツン、と。心地よい音がする。先輩から一方的にグラス押し付けられ、始まる宴会。と言っても参加者は僕と先輩の二人だけ。ほんの少し黄金色の液体がテーブルに飛び散ったが、いつものことだ。僕はおしぼりで軽く拭き取りながら、最初の一杯を堪能する。


「んぐ……ん……ぷはっ」


「カァ〜〜〜〜ッ、生きてんなぁ〜〜‼︎」


「もう、大袈裟なんですから」


「知らんの? 生ビールっちゅうんは生きとるモンの特権や、死んでもうたらもう二度と飲めん代物やで。この感動は全身で感じなもったいないやろ!」


 何事もなく……いや、いつも以上にニヤケ顔が止まらない上機嫌の先輩は、自分のこれからの人生が楽しみで楽しみで仕方ないといった様子で。そりゃあそうだろう。昇進が決まったが故の本社異動だし、何より先輩は……明日……。


「はぐ……んぐ……んん、今日も火加減バッチしでええやんけ。んほぉ……肉柔らかぁ……ってお前さん、食っとるか? はよせんとワイがぜーんぶ食べてまうで」


「……」


 どうにも食事が喉を通らない。先輩が言うように、今日の焼き鳥はここ最近食べた中でもかなり良い出来だと言えるだろう。敏感な犬獣人の鼻を突くこの香ばしい匂い、グウゥ……と元気良く返事するように鳴る腹の虫。それでも僕は肉がぶっ刺さった串を手に取る気にはなれなかった。


「……先輩」


「んー?」


「先輩は……今日で、終わりなんですよね。独身生活」


「おう。ようやっとワイにも春が来たってなぁ。このむちむちボデーの魅力がわかるオナゴは今の嫁さん意外そうおらんで。むふふふ……」


「なんかまた……ひとまわり肥えました?」


「なっ、余計なお世話や! 先輩のことを平然とバカにしてくる後輩に奢るモンはもうあらへんわ。ほな、今日はもう解散にしよか」


「あっすみません! すみませんってば!」


 慌てて先輩に謝罪すれば、次はないでと言いながら焼き鳥の皿を返してくれる。こんなやり取り、もう何回やったかわからない。入社してから毎年体重が増え続けているらしい先輩のことは心配だが、これからは嫁さんが食生活改善に貢献してくれるだろう。昼飯にカップ麺ばっか食べていた時期もあったが、今や時折愛妻弁当とやらを持ってくるようになっていたし。……徐々にであるが、僕というお母さん的存在は不必要になっているらしい。これでメタボも改善されると良いのだけど。


「嫁さんちで夕飯も何回か食べさせてもろたんやけど、どれもワイの豚鼻が勝手にフゴフゴ鳴ってまうぐらいにはウマいで。今度新居へお引越しもするさかい、そん時は犬田くんも招待して食べさせたろな」


「お引越し、ですか。はぁ」


「明日の結婚式終わったら本格的に荷造りするからな、そん時は強制的にお前さんも手伝ってもらおか。用事あるっちゅうて逃げても、ワイが世界の果てまで追いかけたるから覚悟しとき!」


「ははは、逃げないですよ。先輩、ガサツだから荷造りヘタクソそうですし」


「……それ褒めとるん?」


「事実じゃないすか」


「はー……まったく、こういう時は先輩を立てなあかんって前も言うたやろ。ワイのことはまぁ、ええねんけど。それが社会の中を生き抜くっちゅうことやで」


 こうやって思ったことを直接言えるような仲になってから、僕と先輩は事あるごとに居酒屋へ通うようになっていた。それも大体は先輩からの誘いで、奢りで。流石に毎度毎度申し訳ないなと後頭部を手で摩ってはペコペコ礼をしていたが、彼はイヤな顔ひとつ見せずに伝票を持ち去る。こんないい先輩、他にいないだろうに。


 ……こんなガサツで、よくしゃべってはガハハ笑いするカッコいい猪は、他にいない。


「せっ……」


「セックス?」


「…………」


「いきなりどしたんかと思ったわ。で、なんや。嫁さんとセックスしとんのって話か? 犬田くんも隅に置けないやっちゃな。……ぐふふふ、ええとな、その、まだ三回ぐらいやねんけど……」


「そ! そうじゃなくて……」


 いつもなら一言話せばすぐ相手に伝わる、はずなのに。今日はどうにも僕の意思が伝わらない。もどかしくて、苦しくなる。でも諦めない。今日は先輩との関係に区切りを付けるため、ここへ来たのだから。変な形で離れ離れになるのが一番イヤだ。深く息を吸い込み、自分を落ち着かせる。……隣から猪の雄臭いニオイが漂ってきた。やっぱダメだ、心臓のバクバクも止まりやしない。


「先輩、僕の悩み。聞いてくれますか」


「おう、なんや。犬田くんのお悩みを少なくとも百は解決した実績のあるワイが話聞いたろ」


「……先輩」


 声に出して言うのが、怖い。だけど今日言わないと。でも怖い。葛藤の中で苦しみ続ける中、僕の体は飛び出すようにして先輩の体へと飛びついていた。


「わっ! ど、どしたん急に。ちょ、ワイ今日は汗くっさーやから離れてもろた方が……ほら、加齢臭っちゅうんかな。いやワイの場合は獣臭の方がキツいかもしれんし…。」


 ワイシャツの上から鼻を埋め、軽くニオイを嗅ぐ。ああ、先輩だ。男らしいフェロモンを放つ、猪野塚先輩のニオイ。鼻がウッとなることもあるけど、でもずっと嗅いでいたい不思議な香り。落ち着く。それに温かくて、腕を回しても回りきらない。ちょっと湿っているのが気になるけど。


「…………先輩、好き。好き、でした。気持ち悪いかもしれないですけど、だから今日だけ……」


「ほあ? そうかそうか! ワイも好きやで。こないに人懐っこくて仕事熱心でいっつもニコニコしとる後輩、他におらんからな。異動で離れてしまうんはちいとばかし寂しい気もす……」


「そうじゃなくて! その……」


「んおお……ちょ、なんやエラい積極的やな、ホンマどしたん? なんかイヤなことでもあったん?」


 イヤなこと。そう言われて体がピキッと硬くなったような、そんな気がした。なかったわけではない、いや彼らにとって良いことだと言える出来事はあった。先輩の結婚、本社異動、それらは当人にとって喜ぶべき内容であるのは間違いない。


 だが僕にとってはどうだろう。ずっと想いを寄せては胸の中にしまっていた、本当の気持ち。言えぬまま一年が過ぎようとし、気がつけば話はどんどん進んでいて。このままじゃ、絶対後悔すると。そう思った。だから僕は――。



「……僕はっ、猪野塚先輩のことが。世界中に生きる男の中で誰よりも……好きです」


「…………」



 ガヤガヤと騒がしい居酒屋で、僕はハッキリと先輩に聞こえる音量でそう伝えた。正面から抱きついて、上でちょっと困ったような顔をする先輩をジッと見て。視線を外さず、僕は逃げないという一心で想いを伝えたのだ。



 怖かった。このあと、彼の返答を聞くのが。とても。


 

「……キミに泣き顔は似合わへん。ほら、いっつも朝見せるあのニコニコ顔でこっち見てや」


「あ……」


 ひんやりとしたおしぼりを当てられ、僕の目から何か熱い液体が流れ落ちていたことに気がつく。恥ずかしくなって、慌てて先輩の手からタオルを奪い取って、僕は顔面の毛に付着した汚れを落とすようにして拭き回した。ほんの少しだけ、冷静になれたような。そんな気がする。


「そうかそうか……あー、ホンマあかんなぁ。先輩失格や。そないなこと、考えたらすぐわかるっちゅうんに。……飲み直しやな。おおい店員さん、生二丁頼むわ!」


 まだ半分ほど残っていたジョッキを、先輩は一気に喉へと流し込んだ。僕もそれに釣られて、何とはなしにジョッキを空にした。今飲まないと、ちょっと頭がおかしくなりそうだったから。たくさん酔って、忘れてしまいたい。そして明日の結婚式を、先輩の新しい門出を笑顔で祝うんだ。


「気付いとらんと言ったら嘘になんねんけど。お前さんの目ぇ見とったら、なんとなーくそうなんかなって思ってた時期もあったんよな」


「目……ですか。いやでも先輩の股間とかなるべく見ないようにしてたんで、そう言われたのは結構意外でした」


「……ぶふっ」


 何かがツボに入ったらしく、先輩は太鼓腹を摩ってはぐふふふと変な笑いを浮かべていた。何が面白かったのかはわからないが、怒ったり、気持ち悪そうにしているわけではないらしい。同性愛者である僕の告白を受けてもこの反応だ。少しは理解があると考えても良いのだろうか。未だドクンドクンと強く脈打つ心臓の鼓動はおさまらない。 


「くくく……いや何もワイのおちんちん見たがってたからとか言いたいわけやないで。いっつもワイの顔見るときの目がな、ハートマークになっとったでっちゅう話や」


「はっ、ハート⁉︎」


「せやで。なんちゅうかなぁ、好きな人を見る目っちゅうか。ワイもそういう時期があったからわかんねんけど。どんな些細なことで呼び出しても尻尾ブンブンしながら机のとこ来ては、今日はヒゲがいい感じですねとか牙がツヤツヤですねとか褒めてくれとったし」


 そういえば毎日の日課が、先輩のいいところをたくさん褒めることだったっけ。だってオシャレに気を遣わない先輩が、自分のアドバイスであれやこれやしてくれるのがすごく嬉しくって。何なら最近は自分でちょっと身なりに気を遣うようになってくれたし、少しずつ変化していく猪を見るのがとても楽しかったんだ。


「嫁さんでも中々気づかんワイのオシャレとか、全部キミにはバレてまうんよな。最初は他の上司にも同じようにしとるんかなーって見とったんやけど、あの怒らせたら別部署へ飛ばされるっちゅうほど怖いと噂の部長さんには一切そういうことしとらんようやったし。アイツが珍しく体毛散髪してサッパリした時も、お前さん何も言わんかったやろ?」


「ああ……あれはその、本当に気づかなくて……」


「ホンマに⁉︎ え、あんな見た目全然違うんに。毛を整えた分、結構細身になってまうんよな」


「へぇ……いや全然部長に興味ないので……」


「ほぉん」


 興味がないものは観察する時間も惜しい、と。自分の体はそうプログラムされているようだった。部長も僕の大好きな大型獣人種であるものの、先輩のようなトキメキをまるで感じない。その理由が何なのかはわからないが、先輩を見たときに僕は一目惚れというヤツをしてしまった。そう、ガツンとくる衝撃が来たというか。電気みたいなのが全身を走ったというか。それから毎日のように先輩を観察しては、ニヤニヤして……。ちょっと自分、ヤバいヤツだなって。今ようやく気がついた。


「そういうとこやで。好きな人には一直線っちゅうか、まさに猪突猛進ってな。ガハハハ!」


「……そ、その。すみませんでした」


「ええねん。別にイヤとか思っとるわけやないし。……あー、オモロかった。ホンマ、ワイは幸せモンやなぁ。また今度、飲みに行こうや。な?」


 ぽんぽんと腹を太鼓のように叩いたあと、テーブルにあった焼き鳥やらを急いで胃袋にしまいこむ先輩。何を急いでいるのか、僕には全くわからなかったけれど。次に彼が発した言葉に、僕は思わず目を丸くしていたんだ。



「……な、ちょっとこの後。うち来て飲み直さへん? ここやとうるさくてかなわんわ」



 いつもならガヤガヤとした空間で一緒になって騒ぐのが大好きな先輩。だけど今日は違うようだった。おいしい酒とツマミを貪るなら間違いなく居酒屋が上。それなのに先輩は宅飲みという選択肢を選び、僕を人気のない道へと連れ出して――。


 少しフラつきながら歩くこと数分。築四十年ほどは経っていそうな、あちこち塗装の剥げた二階建てアパート。その一階へ、僕らは足を運んだのであった。




「テキトーに座ってや。あ、ビールでええよな? ツマミはテーブルの上にあるやろ。ワイはおてて洗ってくるわ」


 布団は敷きっぱなし、ゴミ出し用のビニール袋にはカップ麺の空箱が大量に。まぁ床に置いてるゴミがないのは成長した証だと言えるが、脱ぎっぱなしの靴下が部屋の角に転がっているのはいただけない。こんな人が明日、結婚するのかと思うと少し心配になる。嫁さんがどういう人かはまだわからないが、こういう些細な問題から夫婦喧嘩に発展することも多いのだと忠告しておく必要があるかもな。


「……い゛っ⁉︎ せ、先輩」


「んー? なんや、目に毒って言いたいん? まぁまぁ。今日まで一人暮らしなんやから、ええやんか」


 先輩の股座には、少し色のくすんだ布が巻きつけられていた。褌と呼ばれる布は獣人にとって特に締め心地が良く、他のパンツと違って尻尾が圧迫されにくいと評判だ。僕も締めたいと思ったことはあるけど、こういうのは男らしい獣人が締めるものだと勝手に思っていたから避けていた。どちらかというと僕は背丈も低くて腕っぷしもない、成人した人間男性とあまり代わりない見た目だし……。


「ふぅん。やっぱ犬田くんはワイのこと、ホンマに好きなんやなぁ。よおわかるわ。へへへ……」


「…………」


「黙っててもわかるで。ちょっとエロい格好してみたらすぐこれやもん。ほれ」


「あ゛っ、んっ!」


 自分でも驚かずにはいられない。だって先輩の男らしさ満載の格好を見ただけで、股座のモノがギンギンにそそり勃ってスーツのズボンへテントを張らせていたのだから。そこを的確に指摘され、軽く握られる。その行為にどれだけの罪があるのか、先輩は理解しているのだろうか。


「脱いだ方が楽なんとちゃう?」


「…………イエ、ダイジョウブです」


「ええからええから。ほれ、脱ぎや。洗濯はあとでワイがしといたるから、テキトーにその辺投げてええで」


「いや本当に大丈夫ですから! 大丈夫ですってば!」


「ふぅん」


 そんなことされればどうなるか、僕は全てを拒絶するようにブンブンと首を振りながら腕も振る。一瞬諦めたかと思ったその時、僕と先輩の距離は逆に密着するほどにまで近づいていて――。


「ほんなら、脱がされるのが好きなんかな? お? ええで、おっちゃん脱がすんは得意やから。セックスはまだまだ初心者やねんけどな。ガハハハ!」


「ちょっ、ああっ‼︎」


「ほれ、これでワイとおんなじ! ま、靴下も脱ぎたかったら好きに脱いでもろてええで」


 一度ワイシャツのボタンに手をかけられたが最後、僕は何も抵抗できずに先輩の言いなりとなってしまって。結局ダサいデザインの安物トランクスと黒い靴下という、先輩とほぼ何も変わらない状態に。男同士、ええやんかとゴリ押してくる先輩に僕はなす術なく衣服をひん剥かれ、少しばかり肩の力が抜けてしまった。裸体の先輩を拝めるのはとても嬉しいが、これ以上体を強張らせていたら身がもたないだろう。僕は丸くて小さなテーブルに置かれたビールの缶を開け、一気にごくごくと喉を鳴らして飲み進める。飲まずにやってられないような気がしたから。先輩が慌てて止めようとしているが、その前に全部飲み干してやる。


「ちょ、あかんって! なに一気飲みしとるんや! ダメやって!」


「んぐ……ぐう……ぷはっ、ふー……」


 飲めば、全て無かったことになると。体がそう訴えかけてきた。なら飲むしかないじゃないか。飲んで、酔っ払って、先輩に嫌われてから未練を断ち切る。それもいいかも、なんて。少しでも思ってしまったのが運の尽きというやつだ。


「ほら言うたやろ、お酒はそない乱暴に飲んだらあかんって! まったく、ちょっと気ぃ抜いたら危ないことばっかしよる。やっぱ本社行きの話、なかったことにしてもらうべきやろか……はぁ」


「先輩……あー……先輩。猪野塚、せんぱい」


 また一段と、頭の中がふわふわしてきた。先輩のニオイが漂うお部屋で、先輩に抱かれて。幸せな最期だ。ふへへ……と笑いながらも、視界にはうっすら先輩の顔が映り込んでいた。ちょっと心配そうに見ながら、鼻をフゴフゴ鳴らしている猪の顔が。


「なぁ犬田くん。イヤやなかったらその、な。ちょっとワイとええことせん?」


「いいこと……はー……いいことってなんすか。先輩のことを好いてる僕と、エッチでもしてくれるんですか? 先輩は明日結婚を控えてるんですよ。それに男同士でそんな、気持ち悪いでしょう」


「……ああ、せやな。男同士んとこについてはまぁ否定せぇへんけど。むさ苦しい男と体を重ねるんは別に好きやないし、興味もないわ」


 そうだ、そう言ってくれればそれでいい。明日の結婚式をきっかけに、僕は先輩との未練を断ち切ることができるのだから。


「せやけど、犬田くんとならええで」


「……は?」


「だから言うたやろ。犬田ぁ、ワイはお前さんとスケベしたいんや」


「酔ってる、んですか。先輩も。……後悔しますよ」


「それに言うたやろ。ワイは明日、好いとる一人の女性とつがいになんねん。せやけど今日、ワイはまだ独身やで! 独り身の男が、ワイのこと好いてくれて告白までしてくれた子とエッチして何が悪いんや!」


「でも! ……でも、先輩は……んひっ⁉︎」


 一瞬、首のあたりにナメクジが這ったような感触。ねっとりヌメッとしていて、それに生温かくてちょっと気持ち悪い。だがそのナメクジの正体が猪野塚先輩のだとわかった瞬間――僕の体温はいつもより二度以上、上昇を始める。


「ホンマうるさい口やな。ワイのディープキスで骨抜きにしたってもええねんけど、このマズルは奥さんのモンやからダメや。せやけど――」


「はっ、ああっ、やん……」


「ワイがお前さんの体へ一方的にキスマークつけるんは、ええやろ。んん……」


 何が起きたのだろうか、僕は先輩に抱き寄せられて胡座の上へ乗せられていた。背中に当たる太鼓腹がいい感じにボヨンボヨンしていて、何より温かい。両側から回されるようにして包み込んでくる先輩の腕は、デスクワークに似合わず太く逞しい。学生の頃に柔道をやっていたとか言ってたような。こんなぶっとい腕で掴まれながら寝技をかけられたいと、何度も妄想したことだってある。


「せんぱ、あっ……」


 唾をたっぷりまぶされた舌で、首も、肩も、横から乳首まで舐め回される。猪の唾液は一度こびり付けば洗い落とすのも大変そうなほどにネバネバで、僕はたまらなく興奮していた。自分のトランクスの中で小ぶりなサイズのモノが、別の粘液でまみれているに違いない。さっきからずっとお漏らしをしているような感覚さえする。


「一晩や。独身前夜、この夜だけは犬田くんに付き合うたろ」


 先輩のお誘いに、誘惑に乗ってしまってもいいのだろうか。願ってはいけない恋だと知っているからこそ、躊躇せざるを得ない。なのに、体は正直だ。この体は、猪野塚先輩のことを欲してメスになっている。


「本気でイヤやと思っとったら、硬くならんやろ。ほれ、わかるか」


「あっ……」


「なんやお前さん見てると、ムラムラしてきたわ。こりゃ責任取ってもらわなあかんよなぁ」


 手首を掴まれ誘導され先、それは太鼓腹の下で今か今かと出番を待ち望んでいた先輩の股座。かなり蒸れているのか、褌越しに握っただけで手のひらの毛が湿ってしまう。興味本位でマズルに近づけたら、思わずゲホゲホ咳き込んでしまった上に目から涙が出てしまった。


「これが雄猪のフェロモンや。犬田くんはこういうんも好きなんやなぁ……そんなら男らしいセックス、しよか」


「男、らしい?」


「嫁さんとヤる時は交尾前に風呂入らんと怒られてまうからなぁ。せやけどワイ、こう野生的で男らしいセックスが好きやねん。わかるか? お互い汗かきながら、欲望をぶつけ合って気持ちよぉなるセックスや。スポーツみたいなモンって言ったら伝わる?」


「あ……」


「犬田くんはそっちの方が好きそうやんなぁ。へへ、体の相性バッチしで助かるわ」


 胡座の上で向き合った瞬間、鼻をつく猪のニオイに僕は尻尾をブンブンと振り回す。猪獣人の広がった豚鼻の穴を見るたび、男らしさがより一層際立つような気がしてならない。首もとへ鼻を埋めて、スウッと深呼吸するように肺へと空気を送り込む。先輩のニオイ、好き。もっと嗅いでいたい。ほんのり湿ってるのも、好き。自然と両腕が、両脚が、先輩の胴体へと巻き付けられる。


「……対面座位がええのん?」


「……」


「ぐふふ、ええってええって。ワイもこの対位、好きやで。お互いギュッと抱き合いながら密着できるし、相手の顔見ながら気持ちよおなれるしな。せやけど」


 先輩が愛用しているらしい敷布団へと抱き抱えられ、僕はとんでもないモノを目にする事となる。布の膨らみでも相当ヤバいほどデカいというのは伝わっていたが、僅かな横の穴から見た猪のブツは想像を遥かに超えるほどに太ましい。雄として、種としての強さを嫌というほどに自慢された気分だ。悪い気はしない。なぜなら僕はもう、この雄の虜となっていたから。


「まずは前戯っちゅうモンが、あるやんなぁ」


「ぐっ……」


 褌横からブツを取り出した瞬間、空気中へと雄の臭気が飛散する。これで仮性包茎なのか、信じられない。指も回りきらぬ太さのモノで、僕と同じ皮を被ったちんぽだということがあって良いのだろうか。それに何ておいしそうなソーセージなのだろう、肉汁がさっきからずっと鈴口から垂れ落ちていて、塩味も凄まじそう。僕はマズルを限界まで広げてから、先っちょを咥えて……。


「んごぉっ、お゛ごっ……お゛っ……」


「無理したらあかんで。結構ワイのはその、オンナ泣かせっちゅうか……ああっだからそんなに咥えたら苦しくてキツいやろって言うとるやんけ!」


 夢中だった。こんなおいしいちんぽがあったなんて、知らなかった。ニオイも味もキツいという感想しか出てこないのに、しゃぶりたくてたまらない。奥までしゃぶれば陰毛の部分に溜まった先輩のフェロモンが嗅げるんだ。もっと頑張って咥え込まないと。目から涙が出そうになっても、止められない。やがて先端が喉を突つき、更にはその奥まで竿の侵入を許した頃。僕は先輩のごんぶとちんぽを根元近くまで咥え込むことに成功したのだった。


「おほぉ……おお、キッツキツやけど……ええやん。苦しいやろ、ホンマに無理なら手で叩いてな」


「ぐっ、んぶっ、んっ……」


 仰向けで鼻息を荒らげている先輩に、僕は覆い被さるようにしてちんぽへむしゃぶりつく。上下へ激しく揺らし、念入りな舌遣いも忘れない。じゅぽっじゅぽっとエゲツない粘液の音が、今まさに自分の口から発せられているのがよくわかる。喉に絡みつく我慢汁の違和感が凄まじい。これが猪の特濃我慢汁、手のひらに付着した布越しの粘液でさえ未だ拭い切れていないのだから。喉に絡みつけば、うがいをしたところで取れやしないだろう。


「あかん……あかんで犬田くん。やっば、おほぉ……すまん、すまんなっ、ワイ、無理や。我慢できん」


「……ん゛ぶっ⁉︎」


「お゛〜〜っ……締まりのええ穴やな、ホンマッ、犬田くん、かわええ顔してグロテスクなちんぽしゃぶって、好きや。好きやからな゛っ、全部、全部飲んでもろてもええかっ、なぁっ、頼むわっ、うぐっ……うおおおおっ、お゛〜〜っ‼︎」


 先輩が一際大きくしゃくりあげた、その時だ。マズルの中に、青臭くて苦味の強い体液が湯水の如く溢れ出してきたのは。一気に中を侵食し、何なら胃袋へ、鼻の中にまで広がりを見せ続ける雄の臭い。ザーメン特有の栗の花のニオイは僕の体内を順々に汚していき、好きなように暴れ回る。


「お゛ごぉっ、おげっ‼︎」


「すまんっ、ホンマにごめんな犬田くん、やっばいわ……腰、止まらん、ふーっふぅっ……」


 下から突き上げ、僕の口をオナホか何かと勘違いしているのかもしれない。鼻が密林地帯に激しく当てられる苦しさと、それから呼吸のし辛さが僕を襲う。今すぐこのちんぽからマズルを離したいと、そう思うのに。まだしゃぶっていたいという気持ちが強く、それに後頭部には先輩のゴツい手のひらが掴みかかるようにして当てられていて。今夜限りではあるが、僕は先輩のオンナとして扱われているのが嬉しかった。嬉しくて、たまらない。尻尾を揺らしながら、これでもかと限界までしゃぶることが僕にとっての幸せそのものだ。


「……あ、だ、大丈夫か。犬田くん、ホンマにすまん……」


「かはぁっ! ……あ……んげぇ、んん……喉がイガイガする……」


 口の中へ直接マーキング。僕はこのエッチでたまらない行為によって気分は最高潮となっていた。息苦しくても、またしゃぶりたくなる。魅力的な雄のちんぽというのは、まさにこのような事を言うのだと知った。


「でもその、すっごくおいしかったです。先輩のザーメン」


「……恥ずかし。そんな面と向かって言うの、やめてくれん? 嫁さんにも言われたことないんに……」


 一回出したというのに、先輩のモノは萎えることなく元気いっぱいだ。前戯が終われば、あとヤることなんて一つだろう。声に出しては言わないけれども、僕はそれとはなしに先輩へとまたがり尻タブに挟み込んでアピールを繰り返す。酔ってなければこんな大胆なこと、出来なかっただろう。最初で最後、その言葉が今の僕を突き動かしている。


「ナマで、いいですよ」


「……いやいや、流石にこういうんはな。避妊せな子供がデキて……あっ」


「そう、僕は雄。ですから。種族が違えば病気も移らないって言われてますし、何より……ちゃんと洗って準備もしましたし……」


「ほぉ……」


 先輩に家へと連れられる前に服用しておいて良かった。あわよくばこんな事が出来たらいいなと、そう願って。僕は短時間で腸内を洗浄してくれる、雄同士の交尾の強い味方――洗浄薬で準備万全な受け入れ体制を整えていたのだ。先輩もこの薬の存在は知っていたらしく、次第に表情がニヤケ顔へと変貌していく。ヤりたいんだ、先輩も。気持ちよくなりたいんだ。雄である自分の体を見て発情してくれている、それがとても嬉しい。スケベな顔した猪野塚さんの表情、無意識にフゴフゴと鳴らしてしまう鼻、全部全部、好き。


「ワイに掘られてもうたら、そりゃもう朝までガッツリ腰振って、アンアンよがらせて、寝かさへんで。それでもええのん? 腰、抜けてまうかもしれへんけど。ワイ、結構激しいねん」


「この前まで童貞だった人がよくそんなこと言えますね……」


「……あー、怒った。ワイ、もうカチンときたわ。ほな、その三回の貴重な交尾で学んだテクでも使って、犬田くんを存分に鳴かせたろやないかい」


 もう後戻りできんで。そう最後に耳元で言い残したあと、先輩は自前の竿を握り締めて僕の秘部へと亀頭を当てがう。こちらにまでずぶ、ぬぷぷ……と音が聞こえてきて、やらしくてたまらない。僕は今日、独身の先輩と体を重ね合わせ一つになる。一度きりの貴重な交尾、始めてしまえばさぞかし気持ちがいいだろう。だけど始まりがあるということは、終わりもあるということ。終わりの瞬間、僕は絶望の海に呑まれて溶けてなくなるかもしれない。


 それでも僕は、先輩とまぐわう事を止められなかった。



「あっ、ぐっ……でっか……ああ……」


「ええで、もっと力抜き。奥まで挿れられたら、極楽見せたるからな」


 僕の唾液で、先輩の我慢汁でたっぷりと濡れたペットボトルよりも太いちんぽ。それがゆっくり、上から体重だけの力で入っていく。ちんぽが肉壁にまとわりつくたび、先輩はニヤッとしながら僕の背中を撫でてくれた。気持ちよさと同時に、温かい気持ちが心の中へと流れ込む。冬場に飲むあっつあつのスープのように、僕の体を満たしてくれる猪の彼。僕はやっぱり、あなたの事が――。


「あ゛がぁっ、あっ……入った、あ……んん……」


「大丈夫か? 痛ない?」


「んん……たぶん、うん……」


「よおしよし。ガチガチに凝り固まった緊張を、ワイがほぐしたろ」


 毛皮から滲み出たお互いの汗が今、ゆっくりと混ざっていく。猪と犬のブレンドは程よく鼻を犯すいいニオイで、僕らは下品に鼻を鳴らしながら互いの体を抱きしめ合った。僕では彼の全てを抱きしめられないが、先輩は僕の体を余す事なくギュッと抱いてくれる。心臓の鼓動がモロに胸元で感じられ、心なしか彼の吐息も熱い。フゴフゴ鳴らす鼻をジッと見ていると、今度は少し恥ずかしそうに僕の顔から視線を外された。


「……なんや、小っ恥ずかしいわぁ。お前さんの顔、こんな間近で見とったらなんやドキドキしてまう。こんな顔やったっけ? ここ一時間ぐらいでメスの顔になっとらん?」


「メスの顔ってどんな顔かわからないですけど、たぶん……いつもの僕ですよ」


「ほな今からメスの顔、見せてもらおうやないかい。おらっ」


「ひぎっ、い゛っ、んああっ!」


 重量級のくせして、下からの突き上げは激しく小刻みに行われる。一瞬ふわっと体が浮いて、それから重力に従ってちんぽを根元まで咥えを繰り返す。中で皮が剥けたのだろう、エラの張った亀頭が腸壁のあちこちを引っ掻き回すようにして暴れていた。幾分か粘液で刺激が弱まっているものの、それでも体の中でぶっとい釘を打たれたかのように熱くてたまらない。


「ワイの見とらん間に、どこで開発しとったんかなぁこの穴は。それともあれか、誰かにヤられたんか。こういうんは上司に報告義務があるって前も言うたと思うんやけど、聞いとらんかった?」


「ぎっ、ああっ、ま゛って、あ、はげし、あっ!」


「ワイのいっちゃん好きな犬の後輩くんを淫乱にした子は、あとでお仕置きしとかなあかんわ。ほんで誰なん? 犬田くんの穴ぁおっ拡げて気持ちよおなれるよう調教してきたヤツは」


「これっはぁ、じっ、自分でっ」


「へぇ……犬田くん、ワイに隠れてこんなとこ拡張しとったんか。はぁん」


「あ゛っいいいっ‼︎」


 互いに互いの方へ向き合って、抱き合う対位。それが先輩の手によって僕が下となるよう組み敷かれ、再びケツの中をちんぽで抉るようにして腰を打ち付け始めた。額から、体から、滝のような汗は全て僕の方へと降り注ぐ。腰の振り方も野生のケダモノそのもので、太鼓腹を伝う汗が輝いて見えるほどだ。雄が臭い立たせる臭気に僕は夢中で鼻を鳴らしていて、肺がいっぱいになるまで吸い込もうと躍起になる。好きな人のモノは全部、一つ残らず体に刻んでおきたい。猪のニオイに、僕は強制的に発情期を迎えさせられていた。


「ほな、上司としてええこと教えたろ。尻ん下に枕でも敷いとくとな、ちょうどええ角度に穴がくんねん。そこを上からズッポシ、白い泡が立つまで腰を振って掻き回しちゃるとなぁ。めっちゃ気持ちええねんて」


「そこはあぁっ、気持ちよすぎてっ‼︎」


「気持ちよくなりたいからってワイとハメハメしとったんに。何も心配いらんやろ、ワイかて犬田くん中で果てて気持ちよおなりたいもん」


「待って、まだ早ぁっ‼︎」


「重量級やからって気い抜いとったんとちゃうか。ワイなぁ、腰振るんはめっちゃ早いねん。何ならこれがイく直前にやる腰振りやなくて、普段からやっとる打ち付けやで」


 巨体が容赦なくのしかかり、僕は猪の太鼓腹に押されて身動きが取れなくなっていた。肩幅の広い猪の体から外へ出ているのは、手足のほんの先っちょだけ。前立腺が変形するほどに亀頭で竿で押しつけられたせいで、今にもちんぽからは子作り汁が出てしまいそう。一旦止めてと言っても、むしろエスカレートしていくように先輩は腰を激しく上下に振り続けた。前後運動や上下運動だけでなく、円運動のように掻き回すのも忘れない。ナマのセックスがこんなに気持ちがいいと、事前に教えて欲しかった。マズルから舌がだらしなく垂れ出ていて、自分ではしまうことすらできやしない。薬物中毒者はこんな気持ちでアヘッていたのだろうか、わかりたくないのに体がこの味を覚えてしまう。


 一晩限りで終える関係だなんて、到底無理な話だ。僕はやっぱり、先輩のことを諦め切れない。


「好きっ、先輩、あっ、好きっ‼︎」


「先輩、やって? 名前で呼ばんかい名前で! ワイの名前、忘れてもうたんか!」


「い゛〜〜〜っ、いぎぃっ! せんぱ……い、猪野塚、さん、あがぁっ‼︎」


「猪野塚なんてよそよそしい呼び方やん。一年も一緒やんに、もう名前忘れてもうたんか。体に直接聞いてみるさかい、その名呼ぶまで死ぬほどエエとこほじくり回したるからな!」


 猪野塚先輩――そう呼んで、最初の一度だけ複雑な顔をされた記憶がある。激しくセックスをしている最中に思い出すような内容ではないのに、脳みそはこの記憶が今必要だと僕に教えてくれたのだろうか。下半身から汁がビュッビュッと打ち上げられ、先輩の腹をベトベトにしているこの最中で。僕は先輩の胸板から香る男らしい汗のニオイを嗅ぎながら、より鮮明な内容を思い出した。




“猪野塚先輩、かぁ。……ま、ええねんけど。ちょっとよそよそしいんとちゃう? 何なら……へへ、下の名前で気軽に陽助(ようすけ)先輩って呼んでくれてもええで”


“…………わかりました、猪野塚先輩”


“えっ、ワイの今の話、聞いとった? ……ま、ええか。これからよろしゅう! ビシバシ鍛えたるから覚悟しいや。ガハハハ!“




「陽助っさん、あっ、陽助、先輩、好き。好きですっ、あっ、んあっ」


「……犬田ぁ、ワイも好きやで。めっちゃ好きや。もうメスイキしとるみたいやけど、極楽見せたるからな。そろそろ限界やねん。犬田っ、犬田ぁっ」


 愛する相手との激しいセックス。僕はこの良さを一生忘れることはできないだろう。猪野塚先輩、いや陽助先輩のことも。彼から学び吸収した知識や経験の素晴らしさは計り知れないほどであることを僕は理解している。全てを無にすることなんて、できやしない。最初からわかっていたのかも。でも無理だとわかっていても、やらざるを得なかった。こうでもしないと、失恋した傷は癒そうになかったから。


「出てまうでっ、犬田くんの中に全部、全部出てまう。ワイのザーメン、めっちゃ多いから覚悟しとき。はっ、ぐうっ、いっちゃんええとこ擦りながら奥の奥に中出ししたるわ、指で掻き出そうたってそうはいかんで。着床させて、子供孕ませたるからな!」


「欲しいっ、先輩の、陽助さんのくださいっ、はあっ、ああっ!」


「ええで、しこたまここに仕込んだろうやないかい。ワイのは濃くてドロッドロで、最高やぞ! 極上の猪ザーメン、今日は下のお口でじっくり味わせたるからなっ、イクで、妊娠確実のめっちゃ濃いやつっ、お゛ほっ、お゛〜〜〜っ、出るっ、大好きな犬田の為に出した汁や、全部飲みや‼︎ ぐお゛おおおおっ、お゛〜〜っお゛っ‼︎」


 好き、大好き。種を付けられてからちんぽを引き抜かれるまでの間、愛を伝える言葉が止むことはなかった。腰の動きが止まったというのに、ビュルッ、ビュルルッと腸壁を打ち付けるザーメンは断続的に射出されている。さっきのお返しだというつもりで、僕は陽助先輩の首に向けてキスを落とした。熱いディープキス、体毛の下にある肉にキスマークをつける勢いで、激しく、何度も。先輩は嫌がることなく、ただニッコリと笑いながら僕のキスを受け入れてくれた。


 それがたまらなく、嬉しかった。


「先輩……先輩っ、あっ、ひぐっ」


「うおっ⁉︎ びっくりしたぁ、え、そんなに痛かったん⁉︎ もっと早くに言ってもらわんと困るって! ああっ、あー、どないしよ……あ、えと」


 痛くなかったと言えば嘘になる。だけどこの痛みは、心地の良い痛み。僕にとっては気持ちのいい感覚に過ぎない。陽助先輩の愛を、僕は存分に受け取ることができた。お互いに好きという感情をぶつけ合う、甘くて激しい男同士の交尾。こんなにも良いものだと、神様はどうしてもっと早く教えてくれなかったのだろう。身体中の膿や汚れが浄化された、そう言えるほどに僕は今清々しい気持ちとなっていた。


「へへへ……ごめんなさい。先輩のセックスが気持ち良すぎて。泣いちゃいました」


 もう大丈夫だ。僕は明日の結婚式も、それから一ヶ月後の異動も。大丈夫。乗り切れると、なぜか自信に満ち溢れている。勇気をくれたのは、目の前でニィッと笑う猪のおっさんだ。結局僕は、このおっさん先輩に助けられてしまったらしい。まったく敵わないなと、いつもそういう気持ちにさせられる。


「ゲヘヘ……なんや、心配かけよってからに。犬田くんにゃ涙は似合わへんで。……ほな落ち着いたところで第二ラウンド。いこか」


「へ?」



 先輩がオンナ泣かせだという言葉、あながち嘘ではなかったのだろう。激しすぎてヤバかった。なんでこんなにタフなんだ、それにあのザーメン量はどこから湧き上がってきたんだ。確かに玉袋は僕より遥かにズッシリと重みを感じるほどにデカいのを見たけれども、それでもあの量はおかしいだろ。現に今トイレに篭ってから一時間ぐらい経ってるし……。


「……おお、やっと戻ってきたか。はよ、こっちこっち」


「うう……先輩、こんなに出すなら最初に言ってくださいよ……うう……まだお腹がゆるい……」


「んん? まぁ猪獣人の中やと性欲は並ぐらいやし、そんな言うほどの事でもないと思ってなぁ」


「言ってくださいよ‼︎ それにあんなモノで栓までするって聞いてないですし!」


 第二ラウンド、だけで終わるはずもなく。ありとあらゆる対位でしっぽりとまぐわった僕たちに訪れた、最後の試練。いや、僕だけに訪れたと言った方が正しい。バックで奥の奥へと種付けを開始した猪に、僕は股を広げながら狂ったように喘ぎ悦んでいたのだけども。問題はそこからだ。急に腹が重たくなったかと思えば、なんか下品な音と共に僕の中へ粘液を射出し始める猪がいた。今までのザーメンとは比にならないほどネバネバのドロドロで、これがまさか猪獣人の出すゲル状栓ザーメンだなんて誰が知るかってんだ。指で掻き出しても全く出てくる気配がなかったし、栓を抜いたら抜いたで奥から黄ばんでドロドロの子作り汁が止まらなくなるし。本当に大変だった。今も腹に残った粘液の感触がちょっとだけ気持ちが悪い。


「言っとらんかった? タハハ……こりゃすまん。せやけど危機は脱したんやろ? ええやん。大丈夫大丈夫、死ぬことはないしそれにワイの遺伝子を体に残せて嬉しいやろ」


「よくない‼︎」


「まぁまぁ。はよここ来てくれん? せっかく一人隣で寝られるようにスペース空けとるんやけど」


「……」


 少しだけムッとしたけれども。僕は素直に先輩の言うことに従い、隣で寝転がる。顔の向きは先輩とは真逆の方向、だけども先輩は背後から抱きつくようにして僕に体を寄せてきた。添い寝、と言う状況なのだろうか。そこまではいかないだろうが、未だに体を寄せられたら心臓がバックンバックン鳴ってしまう。表情を悟られぬよう注意をしてから目を瞑っていると、耳元で先輩の野太い声が聞こえてきて……。


「で、犬田くんはどんなんが好みなん?」


「……どんなんって、何の話ですか」


「そりゃ一つやろ。独身男二人でやるトークなんて、一つしかないやろ? 好みのタイプ、つまるところんん……犬田くんにとって好きな男ってのはどんな人なんやろって話。ああ、ワイのことはなしやで。ワイのこと、めっちゃ好いとってくれるのは知っとるし。それ以外で、や!」


「……」


 陽助先輩以外に好きなタイプ、ねぇ。その場で思いつくはずないじゃないですか。猪ってどちらかというとブサイクというか、あまり人気のない種族であるはずなのに。先輩だけはすっごく男らしくて、カッコよく見えた。こんな素敵な人、もう二度と巡り会えないとさえ思う。だから僕の好みの人は、先輩以外に居ないというのが正しい。


「やっぱ髭とか生えとるダンディなおっさんがええのん?」


「それは……まぁ」


「ちんぽの形は?」


「……は?」


「せやから、雄としてはやっぱりその辺りも気になるやん。ちんぽ、好きなんやろ? ワイのあんなぶっといモンを嘔吐きながら根元まで咥えたがるんやし、相当なちんぽ狂いやなと思って……」


「……」


 これ以上このおっさんに話をしても無駄だなと、そう思った時には意識が飛びそうになっていて。もういいや、早く寝ないと明日の結婚式に響くし。先輩の結婚式、それもなぜか僕なんかがスピーチを任されていて。普通は会社の上司とかにやってもらうべきモノだと思うのだけど、僕なんかがやっていいんだろうか。


「せっかくこうして二人きりなんやし、それぐらい教えてもらわんと。……意地でも教えんのなら、ワイにも考えがあるで」


「……え」


「ぐふふふ。言わんとこって思ったんやけど、やっぱワイの息子が元気いっぱいでなぁ。収まりがつかんのや」


 背後から抱かれながら太ももに当てられたのは、先輩のごんぶとちんぽ。それもまた粘液を纏ったヌルヌルの、臨戦態勢で。それだけは無理、今は本当に無理だと首を振るも、先輩はなんで? と言いたげな表情で僕の顔を覗き込んできた。


「……ほんならこうしよ! ワイは犬田くんに明日の結婚式のスピーチを任せたんや。今度は犬田くんがワイにスピーチ任せる番やで」


「……はい?」


「ええ人見つけたら、ワイに絶対報告や。ええか、拒否権はないで。上司への連絡報告相談は絶対やって、会社の方針にもあったやろ」


 ありがた迷惑な話だ。こう言う時に仕事のルールを持ち込んでくる辺り、非常に厄介というか何というか。テキトーにはぐらかしてもう寝るに限る。


「そんな人いな……」


「できる! 犬田くん、めっちゃええ子やから大丈夫や。何ならワイが色んなところへ宣伝しに行ったろ。好みそうなおっちゃん見つけたら片っ端から名刺渡して……」


「それはとんでもない迷惑行為なんで……やめてほしい」


「そうなん? ま、犬田くんがそう言うならええねんけど」


 男好きがバレたところで、先輩から僕に対する態度は何一つ変わっていない。いやむしろスキンシップが激しくなったような気もするが、根本的な部分は変わりないはず。気まずい空気はもうどこにも残っちゃいなくて。何なら昨晩あまり食べられなかった居酒屋のつまみを食べたいぐらい、食欲が戻っていた。交尾は消費カロリーが激しいと聞くが、まさにスポーツのようなものだろう。運動を終えた時のように、僕は腹の虫をグゥと鳴らす。その間も、先輩によるトークは止まらない。


「なんや、もっともっと褒めたらなあかんかな。せやな、例えば……ケツの締まり、最高やったで。オンナの穴もぴったりフィットでええ感じやねんけど、犬田くんのは中でキュウキュウ締め付けながら粘液もたっぷり出してくれるし、上の口ではワイのぶっといモン咥えて舌まで這わせてくれるからクセになる気持ちよさで……」


「え、あの、ちょ、それ以上は」


「ん? ならもっと感想言ったろか。嫁さんには聞かせられん、淫語たっぷりの感想を耳元で朝まで囁いたろな」


「やっ……やめ……やめて‼︎」



 昔の思い出、それからエッチな話、次から次へと挙がる話題に僕らは寝る暇もなく語り合う始末。それから結婚式の集合時間直前に布団から脱出した僕らは、汗だくになりながら家を出るハメになったのだった。幸いにも中止は免れたものの、その日は生きた心地がしなかった。



 猪野塚陽助さん、僕の初恋の人。どうか末長くお幸せに。



 この日を栄に、僕もまた新たな道を踏み出す。一人じゃない。陽助さんが応援してくれるから。大丈夫、自信を持って。


 そして連れて行くんだ。いつか、陽助さんの元へ。僕の自慢の恋人ですって、紹介しながら。



最後の夜

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