NokiMo
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かけた汗は体に流せ、受けたニオイは鼻に刻め(追加SS付き)

こんにちはー!ぱぱを🐼🐾です。


今月はたくさんskebのご依頼をいただいておりまして、何とお礼申し上げたら良いのだろうか……。ありがとうございますありがとうございます!


たくさんご依頼いただいている為、一旦pixivリクエストとskebでの新規リクエスト受付は停止させていただきました。落ち着いてきましたらまた再開しますので、少々お待ちください。


……それからご依頼くださった方々、ブーストまでしてくださり本当にありがとうございます。あれ、全然義務じゃないしむしろ50円でメッセージ送ってくださるだけで全然嬉しいのに、なんかたくさんしていただいちゃったりもしたのでこの場でお礼申し上げます。ほんと、無理のない範囲でいいんですからね⁉︎ 生活苦しいのにやらないでくださいね⁉︎ おかげさまでちょっとだけおいしいご飯を食べたりしました。しゃぶ葉ってとこにも行ってきました(ランチの時間に安価でしゃぶしゃぶ食べ放題できるお店)。すんげぇ幸せでした。 



というわけで今回は、skebに納品した「突然身体が小さくなった主人公が、よく顔を合わせる近所の熊おじさんに拾われて、そのまま一緒に暮らすようになる話」の加筆バージョンです。……すんごいマニアックな話ですよね、ええ。小人になってケモおっさんの体に挟まれたりする、すんげぇマニアックな話です(2回目)。こんなものを世に流行らせていいのだろうか……と心配になりながらも、作者はこういうやつでも美味しくいけちゃう人です。


そう、加筆バージョンなんですよ。FANBOX支援者向けに「skebで納品されているものから+α」で書かせていただいております。加筆の部分だけ読みたい方は下記のように書いてありますので、記事内をワード検索していただければと思います。

【↓検索ワード】

**ここから下、FANBOX限定追記ver**


最初から全部読みたい人は、そのまま上からお楽しみください。小人となってケモおっさんに飼われたら、人はどうなってしまうんでしょうね……? ぐふふ。褌の中で飼われる? それとも靴下の中で? 色々やらかしているので、ケモおっさんに対してマニアックな趣味をお持ちの方はお楽しみください。全体の文章量は約1万9000字ほどです。



……それからですね、今回からリクエストやskebで依頼されたものについては専用のタグをつけております。こちらpixivに公開予定はないので、もしよろしければこのタグの付いた記事で気に入ったものがありましたら是非メモ帳なんかにコピペしてお持ち帰りください。


投稿タブを押すと、タグ一覧が出てきまっせ。



今日はなんか雷がすごいですね。埼玉の方はとてつもなくデケェ雷が落ちました。びびった、おしっこちびりそうだった。家電製品は今のところ無事です。皆様も夏の豪雨にはお気をつけください。



ぱぱを🐼🐾




※以下、本編。


*****


 気づける場面は何度もあったはずなんだ。それなのに僕ときたら、注意力がまるでないダメ人間であるから。事あるごとに全無視を決めていたらしい。



「あれ……? んんっ……おっ……よっと……ふぅ、取れた取れた」



 重たい瞼を擦りながら上の棚にある皿を取ろうとした朝。この前までは背伸びでギリギリ届いたほどの身長だと思っていたのに、毎日夜遅くまで仕事をしていたせいか、すこぶる身長が縮んでいたらしい。まだ二十代のこの歳で背が縮むなんて考えたくはなかったが、よくよく考えてみれば夜更かし、酒飲み、運動不足、そんな“生活習慣病になるためのリアルタイムアタック”でもしているかのような不規則な生活を続けていたので、正直自分に原因があるとしかこの時は考えられなかったのである。


 結局椅子の上に乗ることで本件は解消したのだが、次に違和感に気づいたのは着替えの時だった。ワイシャツの袖がえらく長くなってしまったような気がして、あれ……と疑問に思いつつも袖を捲りながらネクタイを締める。もしかして糖尿病になって急激に痩せたのではなかろうかと心配になるも、まぁこの繁忙期に病院に行って休むわけにもいかないのであまり気にしないことにした。


 くたびれた革靴も心なしかブカブカになっていたが、単純に履き潰しすぎただけだと思っていたのに。お金がなくて三年ほど同じ靴を履いていたというのもあるし、ここまでの状況でまさか“体全体が縮んでいた”ことに気がつく者は中々いないであろう。普通に考えてあり得ない、こんなことは夢の中でしか起こり得ないと感じるのが大半なのだから。




 ボロアパートを出て、階段を降り、敷地内から出ようとした時。事件は起きた。ゆっくり、ゆっくりではあるものの、目に見える景色がどんどん下に下がっていって。ズボンはダボダボ、手に持ってる鞄はコンクリートを持ち上げているのかというほどに重い。そう、周りの景色が明らかに巨大化していって――。



「ちっ、縮んでる……⁉︎」



 流石にこの時、ようやく生命の危機を感じ取ったのだろう。服を脱ぎ捨て、鞄は置き去りにし、僕は体力の続く限り全力で走り続けたんだ。幸い早朝である事と、近所は人っ子一人外に出ていない。全裸姿を見られることはなかったが、それでも危機的状況に変わりはない。通勤ラッシュ前になれば辺りはスーツの人間や獣人で溢れかえる、そんな中で全裸の姿を見られたら社会的にも死んでしまう。


 誰か、誰かに助けを求めなければ。こんな姿で誰にも会いたくはないけれども、お母さん、お父さん、ああ……今だけ来てくれないかな。……都会に上京してるんだ、田舎から家族が迎えにくるわけないだろう。恋人もいない、独り身の僕が頼れる人は誰も――。




「くあぁあ……さて、仕事すんべぇ」




 ――居た、そこに居るじゃないか。


 肉食動物らしく大きなマズルで盛大なあくびをかます熊のおっさんが一匹。いつも通勤前に見かけるように、麦わら帽子とこの時期には合わない長袖長ズボンを携えた熊がそこに居たのだ。


 顔は知っているが、名前は知らない。その程度の知り合いのようで知り合いじゃない、近所の米農家熊おっさん。僕の出勤時間に合わせていつも一軒家から出てくる、その姿を横目に見ながら僕は駅へと歩いて行くのがいつものルーティン。……この距離感は知り合いと言えるのだろうか。



 だが今は、そのように躊躇している場合ではない。自体は一刻を争う。



「おっおじさん、あのっ――」




「はぁ、ほぉ、ふぅん。しっかし不思議な事もあるんもんだべな」


 子供ほどの大きさになっていた僕、それはおっさんに……いや、命の恩人におっさん呼ばわりは失礼であろう。先ほど聞いた名前はええと……そう、“稲田(いなだ)さん“だ。稲田さんにすがりついたあの時から、僕は何十センチ縮んだだろうか。そうそう、さっき定規を借りて僕を測ってもらったところ”5センチメートル“だそうだ。170センチはあったかと思う僕の身長が、今や34分の1。正直今でも信じられない、本当に夢で起こった出来事ではないのだろうか。何度ほっぺや体をつねっても、結果は変わらず。僕は現実世界で5センチというサイズにまで縮んでしまったようだった。


「……んだぁ? 何言ってるかさっぱりわがんね。……おお、そういやアレがあったな……ちと待ってろな」


 机に乗せられている僕からすれば、稲田さんは怪獣のようにバカでかくて見るのも恐ろしい。それに僕が小さすぎるのと、稲田さんが結構年配の熊おっさんなので僕の小声が聞き取りづらいようだ。自分で言うのも何だが、かなり大声で喋っているつもりではあるのだが……。何かを思い出した様子を見せた稲田さん、それからすぐに戻ってきたかと思えば両手に何かを抱えている。ええとあれは……なんだっけか。


「あったべあったべ。いやぁ、まさか前買っとったコイツを使う日が来るたぁ、オラの日頃の行いが良かったってことだべや。よっしゃ兄ちゃん、こっちに向けて喋ってくれっか」


 うわぁっ! と思わず叫んでしまいそうな地響きが。と言ってもテーブルに乗せられた巨大な装置のせいで、僕の体がほんの一瞬だけ浮かんだだけなんだけど。体が一瞬浮遊するなんて、そんなの今まで三十年近く生きてきて経験したことないから驚くの無理はないだろう。そしてこの巨大装置は一体……?


「あーあー……もしもし、聞こえますか」


「おおっ、オラもイヤホンから兄ちゃんの声がよく聞こえるべ。流石小型用の……」


「小型?」


「いんや、大型スピーカーのおかげだぁ」


 そうか、これは声帯に反応するスピーカーという機械か。何でも稲田さんが言うには雑音はシャットアウトして人の声だけを判別して取り込み、イヤホンから出力するという仕様らしい。そんなすごい機会がまさかこんな昔話に出てくるようなボロ家から出てくるとは思ってもみなかった。……と言うと失礼なので、絶対言わないようにしよう。いや、だって普段手で田植えをやってるおっさんが機械を使いこなせるなんて思わないだろう?


 ひとまずまともに日常会話が出来るようになって一安心したので、僕らはこれから先どうするべきかを考えることにした。スーツや鞄は稲田さんが回収してくれてたので、クレジットカードや保険証などの命の次に大事な物たちは一旦彼に預かってもらうとしよう。それよりも僕の衣食住はどうなるのやら……このまま一人で帰っても扉は開けられないし、というかそもそも潰されてしまうから道を堂々と歩けないし。何なら蟻に運ばれてしまう展開も想像できる、そんな虫に捕食される趣味は持ち合わせていないぞ。当たり前だがこのサイズで着られる服なんて物もないから真っ裸だし、今でさえも稲田さんに珍しそうな顔でジロジロ見られている。……恥ずかしい、いくらおっさんと言えども見られるのに慣れていないんだ。直視しないでくれ。


「なぁ兄ちゃん、体が戻るまでオラんちで寝泊まりするべか?」


「でも……」


「いーからいーから。困った時はお互い様っつう昔っからの文化があるべ? オラも今後困ったら兄ちゃんに助けてもらうとすっかねぇ。ガハハハ!」


「稲田さん……ありがとうございます」



 こうして突然ではあったものの、大型熊獣人と小型化した人間の奇妙な同棲生活が始まることとなる。一体いつまでこんな生活を続ければいいのか、そもそも僕の体はちゃんと戻るのか、保証なんてどこにもない。



 ただ、今は生きるしかない。生きていれば、いつか必ず戻れると信じて。





 なんだろう、この気持ち。んん……昔を思い出す。そうか、こんな場所に入れられたら……何とも言えない気持ちになるんだな……。



「いやぁ、昔飼ってたハムスターの水槽が余ってて助かったべぇ。捨てずに倉庫へ放っといたのがまさかここで役立つたぁ思いもせんかった」



 辺り一面ガラス張りの長方形水槽、そこで僕は小動物のように歩き回りながら不思議な気持ちを味わっていた。水槽の壁に透けて映りこむ稲田さんの顔がデカすぎて怖い、気を抜けば食べられてしまうかもしれないし。そんなことはないだろうけど、でも大きさ的にその恐怖感は拭えなくて。


「さて、飲み水は……これで好きなだけ飲めばええ」


「……」


 昔ハムスターを飼っていたということは……と予想していたが、やはり出てきたか。給水機と呼ばれる、棒の先っぽにあるボールを舌でグイッと押すことで水が出てくる仕組みのアレ。成人男性がそんなものを使って水を飲むことになるとは、誰が予想できただろうか。テレビ番組でもこんなモノで水を飲んだことがあるヤツはいないであろう。


「皿にたっぷり水を入れて置いとくとな、ハムスターだったら溺れる可能性もあっからな。まぁ我慢してくれ兄ちゃん、これもにいちゃんの為だべ」


「……はい」


 覚悟を決めるしかない、か。冷や汗をかきまくって喉がカラカラの僕はハムスターのような気持ちを味わいながら棒の中の丸っこい金属玉をグリグリ刺激し、水分補給をすることにした。んん……うまい、やっぱ人間生きるためには水が必要だということがよくわかる。働いたあとの水はうめぇ。そう言いつつ、給料が貰える本来の会社員の仕事は何一つやっていないのだが。僕にとっては稲田さんに助けを求めて、こうして水槽の中で飼ってもらえるよう交渉するまでが大仕事だったのだ。許しておくれ。



「オラ、これから田植えがあっからよぉ。なんかあったらこのスピーカーに喋ってくれっか?」


「えっ、でも部屋から出るんですよね……?」


「大丈夫だべ。このスピーカーは半径1キロメートル離れても繋がるって教わってっから心配すんでねぇ」



 相変わらず稲田さんがどこからか持ってきてくれたこのスピーカーの高性能さには驚かされる。無線でイヤホンに繋がってるし……というかこんなに良いものなら値段的にはめちゃくちゃ高いものではなかろうか。そんな心配をしつつも、助けてくれた稲田さんには感謝の気持ちしかない。ありがとう稲田さん。お金はないけれども、何か手伝えることがあれば良いのだけど。



「あー……今日の仕事の会議……まぁいいか。どうせ出ても不毛な議論に時間を取られるだけだし」


 田植えに出てしまった稲田さん、部屋にポツンと取り残された僕。春の暖かさがちょうど良いこの時期、今日は日差しが強くて若干ムシムシするのだが熱中症にならないか心配だ。いざとなったら飲み水を全身に浴びて水浴びしても良いかもしれない。そう考えたらなんだか小人になったのも楽しくなってきた。食べ物も少量で腹一杯食べられるし、働かなくて済むし。あれ、もしや理解のある獣人や人間に飼ってもらった方がよほど有意義に過ごせるのではなかろうか。


 ……いや待てよ、今月発売予定のグラビアアイドル雑誌とか、友達と観に行く予定だった映画とか、そうだ五年ぶりにあのパズルゲームシリーズの新作が出るんだっけか。ううむ、小人でいるのもやっぱり不便なのかもしれない。自分の意思で大きく出来たり小さく出来たり、調整できればもっと良かったのにな。ああ、小人用のゲーム機を誰か作ってくれないだろうか。コントローラ付きで。今なら買うぞ、最近残業代でたっぷり稼いでるんだ、一人暮らし社会人の特権で買い取ってやる、なんて。




「なにすっかなぁ」



 アレをやりたいと思い出しては小人じゃ無理だと、何度も何度も暇潰しの遊びを考える。だが出てくるのは普通の人間サイズだったら出来ることばかり。いつしか考えるのをやめた僕は、稲田さんに用意してもらった綿の上で横になりながらスゥスゥ寝息を立て始めていた。



 何度も目が覚めたような気がしたが、やることがないので結局綿の上でゴロゴロ。ひたすらにゴロゴロ。人はボーッとしているとこんなにも時間が経ってしまうのか。気がつけば外が暗くなりかけていて――稲田さんの迫力ある元気な歌声も聴こえてきた。そうだ、あのおっさんは機嫌が良い日はよく演歌を歌いながらそこら辺を散歩してたっけ。少しだけ離れた僕が住居にしているアパートまで聞こえてくるもんだから、近所の人なら全員知っているのではなかろうか。幸い騒音レベルではないし、結構お上手だったりするので困ってはいないのだけど。最悪イヤホンで動画を見ていれば全然気にならないし。



「けぇったぞぉ! メシだメシ! 兄ちゃん生きてっか、メシにすっぞ!」



 帰宅早々バカでかい声で僕のいる水槽までドタドタと走ってくる稲田さんは、まるで猪のような突進力だった。重量級であるからか、家がちょっとボロいからか、ミシミシと地響きを立てながら近づいてくる稲田さんはやっぱり怪獣に近い存在かもしれない。水槽へ覗き込む彼の顔は、子供が見せるようなニンマリとした笑顔だ。あんなおっさんが、こんな子供っぽい顔するんだなぁと少しだけ関心してしまった。


 今日は考えても仕方ないことを悩み続けて、水をたまに飲んで、昼寝して。そんでもって夕方にはおやつのおにぎりと言われて米粒を分けてもらい、なんとか胃袋に押し込めながら食事を済ませたという暇な一日だった。稲田さんは夕方に帰宅早々おやつを食べ、夜にまた夕飯を食べる生活をしているらしい。だからそんなに腹が出て……と、これ以上はスピーカーが音を拾ってしまうので言わないでおく。



 こうして、初めての夜が来た。






「兄ちゃんにいいモンがあんだ。ほれ」


「……うわっ!」


 ドスンッと地響きを鳴らしながら置かれたもの、それは木製のデカい一軒家。……いや、それは僕から見たらそう見えるだけで、この形は……あれだ、鳥の巣箱みたいな家じゃないか。


「今日からここで寝るといい。どうだべ、サイズは合うか? まぁ入ってみぃ」


 ガラス張りの部屋で過ごしていたからか、外から中が見えない構造の家は大変助かる。僕のプライバシーというものが一切守られていない水槽はどうにも落ち着かなくてな。……おお、かなり広い、僕の体のサイズにピッタリだ。これはいい、だが木製というだけあってそのまま床で寝るのは少々寝心地が悪いというもの。そうだ、お昼寝に使っていた綿を持ってくるか。そう巣箱を脱出しようとした、その時であった。


「お? ああすまねぇ、布団がねぇべか。でもよぉ、そんなチンケな綿なんかよりもっといいのがあるべ。ちと待ってろな」


「……え?」


 稲田さんの手に握られているのは何だろう、黄色のちょっと長い帯みたいな……色付きの綿だろうか。それにしては大分しっかりした造りだし、ううむ。その黄色いモノをグッと近づけさせられた時、僕は思わず顔面を覆いたくなるような衝動に駆られていて。なんだこれは、目が、鼻が、痛くなる。げぇっ、この独特な臭気は……嗅いだことのあるニオイに思わず脳内で検索した結果、そうだ、よくある公園のトイレみたいな臭いがする。



「オラが丹精込めて履き回した褌だ。いいニオイだべ?」


「え゛っ、ええっ⁉︎」


「遠慮すんでねぇ。ほれ、今全部中に入れてやっから。フカフカで気持ちいいぞぉ」


「ちょ、あっ、やめっ‼︎」


 小屋から顔を出していた僕を人差し指でぐいぐい押し込めたあと、なんと稲田さんはそのツンとくるような褌を無理矢理巣箱へねじ込んできたのだ。中ではアンモニア臭が充満し、何度も吐き気を催すほどにキツい。一瞬で公衆トイレのようなニオイで充満した部屋の中、僕は全身から冷や汗のようなものをかいてしまい思わず光のある出口を目指して暴れ回った。まるで毒ガスを注入されているようにも感じて、苦しい、鼻が汚染されるような感触だ。何度も嗚咽しそうになりながら、褌の海を泳ぎながら一目散に出口へと向かってゆく。奇跡的にもう一度顔が出せたところで再び稲田さんの指で押し戻されて――。



「んだぁ、オラの褌が気に入らねぇべか。せっかく三日も履き回したニオイ付きの特注品だべ?」


「いっ稲田さん、何やって……げぇっ‼︎」


 何度指で押し返されようとも、僕はこの小屋から出たい一心で必死に抵抗を試みる。だが次に押し付けられた真っ黒い布地に、僕は咳き込みながら嗚咽することしか出来なかった。



「家の蓋なんて用意してねぇべ……しゃーねぇ、コイツにするべか。どうせ後で嗅がせる予定だぁ、時期が早まったと思えばええ」


「げぇっ、ゲホッゲホッ! 稲田さんっ! げほっ、出し……」


「靴下はな、今育てとるヤツがあっからよぉ。今日は一日モンで我慢しろい」


 巨大な黒い球体――後にわかったことだが、稲田さんが今日一日履いて蒸らした靴下を丸めて詰め込んだらしい。外からこんなおっさんの不潔なもので塞がれ、中の床材は稲田さんの三日履き回したという小便臭い褌でまみれ、僕は生まれてきたことを後悔するぐらいに苦しみながら稲田さんの名前を呼び続けた。助けて、出してくれ、僕が何をしたんだ、と。声が枯れるまで、何度も、何度も。



 スピーカーが近くにあるはずなのに、どうして反応がないんだ。おっさん、稲田のおっさん――。




「じゃ、また明日なぁ兄ちゃん。ふあぁ……」




 水槽の横にゴトン、と置かれた小さな機械。そこには熊の耳にピッタリハマるサイズのイヤホンが二つ。




 助けてくれる救世主なんてものは、この世のどこにも居やしない。



「ぐううっ、うっ、ううっ……」



 公衆トイレのような場所で寝られる人間がどれだけいるだろうか、少なくとも僕には無理だ。あのいかにも男のおっさん感満載の熊獣人、稲田さんが田植えをしながらぐっしょりと股座の汗を染み込ませた褌。全体が酷く湿っていて、さっき間違えて触れてしまった部分からは糸を引くようなネバっとした感触を肌で感じてしまい、全身に鳥肌が立ってしまうほどのおぞましい逸品だ。


 嫌悪感を感じながらも更に気分が悪くなるのは、この小屋の入口に無理矢理詰め込まれた黒靴下のせいだろう。足から香る独特のあのニオイ、自分の仕事終わりに脱ぎ捨てたやつを嗅いでもう゛っとくるような臭気。そんなものが空気を通す穴に立ち塞がっていれば、中に入る酸素は全てこの靴下に汚染されてしまう。小屋の中のどこで呼吸をしても、稲田さんの汗のニオイしかしない拷問小屋。僕は一睡もすることなく、この空間でただ悶え苦しむことしかできなかった。



 僕の姿を側から見れば、部屋によく出るあの“茶色い虫“が毒ガスを吸ってひっくり返りながら足をバタバタさせるのと同じような状態だろう。右へ寝転んでも褌が、左へ寝転んでも褌が、暗闇から出ようとがむしゃらに突き進めば靴下が邪魔をする。


 生かすも殺すも、あの熊おっさんの自由。僕の命は、昨日まで名前も知らなかった近所の熊おっさんに握られているらしい。


 弱肉強食の世界、強者が弱者を弄ぶことは決して珍しいことではないが……今まで僕が飼ってきたペットのことを思い出しながら、これからどうすればいいのかと途方に暮れてしまう。



 小人化してしまった人間の立場が想像以上に低いモノだと言う事実に、僕はたった一日で気付かされてしまったのだった。





 一日もあんなおぞましい小屋に監禁され、体は不快なニオイがびっしりこびり付いてしまったらしい。朝の家を出る前に靴下の栓は抜いてもらえたものの、外に出ても鼻を突つくあのアンモニア臭は消えないまま。水槽の中で息切れさせながら自分の体を嗅いでみると、う゛っと声が出てしまいそうなオスの臭いがする。右腕も、左腕も、太ももの部分も、どこもかもが熊臭い。小便とはまた違った、独特の獣臭がする。これだから獣人はイヤなんだ、それに僕が何をしたって言うんだ。稲田さんは僕を……どうするつもりなんだ。助けてもらったあの時の笑顔は嘘だったのだろうか、いやだ……怖い……。



 二日目の昼下がり、昨日までのワクワク感は一切感じることができなくて。僕はただ、元々置かれていた無臭の綿に身を包みながらビクビクと震えることしかできなかった。あと何時間すれば稲田さんが帰ってくるのだろうか、あとどのぐらいで僕の体が戻るのだろうか。怖い、時間が経つのが怖い。


 神様は僕のことを何も見てくれてはいないようだった。今日は天候が優れないらしく、ご機嫌な演歌の歌声が聴こえてきたのは午後三時前。部屋に超巨大な丸時計が置いてあることに、これほどまで怒りを感じたことはないだろう。あと何時巻も、稲田さんの相手をいなければならないかもしれない。そうわかってしまう自分がとてもイヤだった。



「けぇったべぇ。ゲヘヘヘ、兄ちゃん元気にしてたべか? 今日も日が変わるまで、オラと遊ぶべ」


「い……いや……だ」


「そんな怖がんなくてもいいべ? それともなんだべか、初日の調教が足りなかったかぁ。んん……確か本では一日でいいって書いてたはずだべが……まぁ個体差もあっからなぁ。よしよし、おい……逃げるでねぇ、おいったら」



 巨大な腕が伸ばされた瞬間、僕は本能的に避けるようにして走り回って。最終的に角に追いやられて捕まってしまったのだが、稲田さんは昨日とはまた違った表情で僕のことをジッと見てくる。いやだ、やめてくれ、出せる限りの声量でそう言っても今の稲田さんの耳に届きはしない。



「夕飯まで水槽と部屋の掃除でもするべかぁ。間違えて兄ちゃん潰しちまったら大変だからよぉ、しばらくここで大人しくしとくれ」


「……え゛っ、うわああっ‼︎ たすけっ‼︎」



 下から一気にムワァ……と熱気が立ち込めたと思えば、バンジージャンプをしたかのように股座がヒュンッとなって。見覚えのある巨大な柱と球体が押し付けられたかと思えば、昨夜苦痛の記憶を与えてきたニオイが鮮明に蘇ってくるような酷いオス臭さが全身を包み込んだ。



「いいか、兄ちゃんはオラのペットだべ? 獣人は自分の持ち物に”ニオイ“をつけるのが一般常識、他の誰かに拾われてもわかるように飼い主が責任を持ってマーキングしなきゃなんねぇ」


「げぇっ、ゲホッ‼︎」


「んほぉお……こしょべぇ、おいおい、暴れたらオラ……ゲヘヘヘ……興奮しちまうべよ」



 全身が汗でない、あのネバネバの粘液によって汚染される感触。褌にこびり付いていた粘液の正体、それが今ハッキリとわかってしまった。稲田さんの、興奮して出てしまった透明な汁――我慢汁だ。褌の中で僕が暴れたことに対して、この熊おっさんは興奮している。こっちは生命の危機を感じて全力で暴れまわっているというのに。



 稲田さんはただ、僕のことをペットや玩具のようにしか見ていない。



 黄ばみ褌の中で数時間、それは水槽の中で過ごすよりも何倍もキツい生活。夜風呂に入る前には抜け出せるだろうとぶっ飛びそうな意識の中で考えていたのに、聞こえてきたのは大きなイビキと寝息だけ。劣悪なムシムシする湿度90%超えの環境の中で、僕は全身がベトベトになるまで一晩マーキングされたまま稲田さんの股座で過ごすほかなかった。


 肺の中の空気まで、熊臭さが覆って上書きされたような。吐く息が全てあの熊のアンモニア臭にすり替わるまで、そう時間はかからなかった。




 この国では一週間を通して天候が雨となるような、特殊な時期がある。夏前で暑く、それでいて湿度が高くてすぐに顔から体から滝のような汗が流れる地獄の季節。いつもなら通勤がダルい、傘をパクられた、そんな気分が沈みがちの時期であるが、今年は生きてきて最も苦痛な梅雨であった。起きている時間も寝ている時間もほとんどはこの稲田さんの褌ハウスで過ごすこととなり、メシの時間以外で外へ出ることはほぼ無かったと言っても良いだろう。たとえ出ようとしても褌の隙間はみっちりと蓋をされているし、腕が頭が出たところで土まみれの人差し指で押し込まれるだけ。


 人は何度も何度も叩かれ、蹴落とされ、否定的な行動をとられるとすごくイヤな気持ちになる。そして絶望する。何度よじ登っても、何度問いかけても、稲田さんがここから出させてくれることはなかった。三日に一度気分が乗らないとやらない湯浴みも、ろくに洗わず何日も汗や小便でニオイを上書きして黄ばみが濃くなっていく褌も、今の僕にとっては何とも思わない程度には鼻が麻痺している。拒絶すれば、また酷いお仕置きをされるであろうと体がわかっているからなのか。それとも熊のフェロモンが強烈すぎて、体の気管がぶっ壊れてしまったのか。それを確かめる術はなかった。



 たまたま朝のテレビ音で聞いた話だが、ついさっき梅雨が明けたとの発表があった。梅雨明け、それが意味するのはうだるような暑さが続く灼熱地獄の毎日。未だ僕の体は元の大きさに戻らない。今日も米粒をおにぎりのように両手で持って食べている僕、ヤニで黄ばんだ歯を見せながらニヤニヤする稲田さん。殺されなければ、痛い想いをしなくて済むならばそれでいい。反抗しないから、だから優しく扱ってくれ。ただそんな気持ちしか湧いてこない。


 僕は生きる希望を失いつつあった。



「そうだ、すっかり忘れてたべ。人間を飼う時はしっかり性欲も発散させとかねぇとな。もうここ一ヶ月、ずっと抜いてなかっただろ。待ってろなぁ、今いいモン持ってきてやっから」


 性欲……性欲だって? そういやこの水槽で暮らすようになってから一ヶ月、全くムラムラした気持ちが湧いてこなかった。ああ、自慰をすることさえ忘れていたというのか。いつも見るグラビア雑誌の姉ちゃんの、あの谷間を見てシコシコするのが僕の楽しみだったというのに。猿みたいに抜きまくってたあの頃が懐かしい。



「……んぎいいっ‼︎ あ゛っ⁉︎」


「ほぉれ動くでねぇ。気持ちいいとこ当ててやってんだから動くなってのに」



 巨大な棒のようなものを押し当てられた瞬間、僕はセンズリをしていた時のあの快感をふと思い出した。少しズッシリとくるような巨大な棒、そいつに押し倒された僕は抵抗を試みるが力が入らない。


「ぎもっ、あっ、気持ちいっ、あっ、あっ、いぎぃっ」


「おお、まだ使えてよかったべ。電動歯ブラシは小人用の性欲発散にいいって聞いてたからよぉ、へへへ。そぉれ、どこがいいんだべ? オラに聞かせてみっぺ。ここか? ここがいいんだべ? お? ゲヘヘヘ」


「ああああああああっ‼︎」


 全裸で、それも容赦なくグリグリと亀頭を振動された僕は呆気なく天井にまで届きそうな噴水のようなザーメンを打ち上げた。それは元のサイズの時の話で、今は水槽の中だから決して上まで届くはずはないのだが。全身から一気に汗が流れ出てくるほどに気持ちよく、体験してしまえば元に戻れないような気さえする。なのに、電動歯ブラシの肢に足を巻きつけて離す事ができない。生き甲斐、僕の生き甲斐だ、気持ちいいことは元々好きだったのだからこうなる事は予想できたはずなのに。本能に抗えない自分がイヤになる。気持ちい、いやだ、怖いぐらいにビクンビクンする、ああっ……。



「そうかそうか、ゲヘヘヘ。これならいい感じに……ぐひひ」


「あひっ、あっ、ああっ、あっ」


 僕が喘いでいる間に稲田さんは電動歯ブラシとは違った、とても細い棒――綿棒を顔に向けてきた。見た目がもう清潔の白とはかけ離れた茶色をしていて、おぞましいと感じるような熱気がまとわりついているのがよくわかる。何か、何かがあの綿棒の先につけられているのは明白であった。逃げなければならないのに、下半身は電動歯ブラシの振動に喜んでしまっていて。プールの中で走り回るような重さを感じる。


「んん……靴下ん中に土でも入ってたべか、まぁいい。コイツを嗅ぎながらの射精は気持ちいいべ。さ、存分に嗅ぐべぇ」


「ふぐぅっ、う゛っ⁉︎」


「このニオイは、兄ちゃんを絶頂に導いてくれるオカズだぁ。鼻塞ぐんじゃねぇぞ。オラのフェロモンたっぷりの足汗がたっぷりついた綿棒だ、時期にコイツを求めて止まない体になるはずだべ」


 止まらない、射精が、止まらない。股座で嗅いでいたものよりも比べ物にならないぐらいに饐えた臭い、一日や二日でこのニオイが生成されるとは到底思えないような年代を感じる臭いだ。どうしてこんな他人の不快な汗の臭いを分析するような思考になっているのか、ああ、いやだ、一度濃いのを嗅がせられたらまた鼻が慣れてしまう。やめ、やめてくれ。


「兄ちゃん、知ってるべか。獣人のフェロモンを取り込みすぎた人間は、オスでもメスでも年中発情した猿みてぇになるってなぁ」



 顔から少し離れた位置で綿棒を静止する稲田さん、無理矢理嗅がされずに助かったと思う前に“もっと嗅がせてくれ”という気持ちの方が強く心の中で表れている。顔を背けたくなるような蒸れたオスの臭い、それなのにどうにも嗅ぐのをやめられない中毒性。どうした、僕の体は一体何がどうなって――。




「ようやく叶うべかぁ……ゲヘ、ゲヘヘヘ。このニオイを嗅ぎながら一日中メスイキしとる人間を、靴下の中で飼うのがオラの夢だったんだべ。くひひひ、ひひ」


「ん゛んんっ、んんっ‼︎」



 顔では拒絶している。下半身は、もう僕の脳から出す命令を聞きやしない。鼻はずっとヒクヒク鳴っていて、綿棒から香る激臭を絶え間なく吸い込んでいるらしい。饐えた臭いで鼻の奥がツンと痛くなろうが、咳き込もうが、オフにすることの出来ない壊れた掃除機のように。僕は息を吸い続けて射精を繰り返す。



「しかしなっかなか兄ちゃんの体は戻らねぇなぁ。まぁ安心するべぇ、明日からもオラと楽しく暮らすべな。兄ちゃんも嬉しいべ? オラは……ゲヘヘ、死ぬまでの楽しみがまた一つ増えて幸せだぁ」





 あの日以来、僕のメイン住居である水槽は取り払われ、代わりに毎日真っ暗闇の中での生活を強いられていた。奇跡的、と言ってもいいだろう。今生きていること自体が正直信じられない事実である。あんな劣悪な環境の中で、どうして僕は生きているのだろうか。四六時中喫えた臭いがするあの中で、どうして。



 夏本番を迎えようとした時期から、僕は毎日稲田さんの足裏に固定されるようにしてロープで縛られ、上から靴下で覆いながら蒸らされていた。初日に小屋へねじ込まれた黒靴下とは比にならない、肺の中へ取り込むと焼けつくような強い刺激を感じるほどに濃厚でドロッとしたような臭気が、黒い布地の至る所にこびり付いている。その靴下の中で何日も汗をかいては乾きを繰り返した熊足、その親指と人差し指の中で僕は日々生活をしているのだ。サウナのように下からムワァと立ち込める饐えた臭いの渦の中で、呼吸しながら連続射精を繰り返すことしか出来ないような拷問的監獄。だけどニオイを嗅ぎながら軽く潰されればとてつもない快感が全身を駆け巡る。イってもイってもキンタマから無限にザーメンが湧き出てくる気さえしてしまうのだ。


 獣人のフェロモンの効果は、未だ解明されていない部分もある。この数ヶ月一緒に生活してわかったのは、嗅ぎ続けることによって絶倫持ちの体質になってしまうということだ。抜いても抜いても収まらないし、頭の中では稲田さんの顔しか浮かび上がらない。それほどまでにニオイの洗脳は強烈で、今の僕は“夏場蒸れた靴下と生熊足で挟まれている“限られた環境の中でしか生きられないようになっているはずだ。一度僕を足裏に固定する縄が千切れて机の上に避難させられたことがあり、その時酷く中毒症状が出てしまい過呼吸になったことがある。普通の空気のニオイが薄いと感じる、それはある意味体からSOSの信号が出ているという事と同意だろう。なのに僕は、早く靴下の中に入れてくれと暴れ回る始末。もう手遅れと言わざるを得ないだろう。



 その様子を見た稲田さんが、また悪そうな顔をしてニコニコしていたのをよく覚えている。



「今日もオラの足に挟まれて、兄ちゃんは嬉しそうだべなぁ。ひひっ」


「ああああっ、あっ、すっげ、ああっ」



 農作業が終わると、稲田さんはいつも胡座を掻きながら生足で体をプレスするように挟み込んでくれる。顔は必ず足の親指と人差し指に挟まるように調整され、汗をすり込むように何度も何度も僕を潰すのだ。それが今まで感じたどの快感をも凌駕するほどに気持ち良くて、真っ黒い熊足の肉球が僕のザーメンで真っ白になるまで続けられる。


「いつか足指に四人の小人を挟み込んで、誰が一番メスイキするかダチと賭けながら酒飲むってのも面白そうだべ。ガハハハ! あー……他にいい人間いねぇべかなぁ。なぁ兄ちゃん、もし人間に当てがあったらオラに教えてくれな」



 足の指の間からうっすら見えた稲田さんの手元には、僕がすっぽり入りそうなサイズの小瓶が握られていて。カラカラと音を立てて中で飛び跳ねているのは……ああ、思い出した。あの薬の形、そうか、稲田さんもビタミン剤を飲むのか。そこから物事を深く考えることができず、結局すぐに稲田さんの蒸れ足のニオイを嗅ぐことに意識を集中させてしまう。体全体はビショビショのぬちょぬちょで、自分のザーメンなのか熊の足汗なのかもはやよくわからない。


「い゛っ、いぎいいっ‼︎」


「おぉ……くすぐってぇ、兄ちゃんの射精は面白いべなぁ。そんなに肉球でグリグリ潰されるのが好きなんか。お? なら遠慮なしに挟んで嗅がせちゃろ。おらっ、農作業のブーツで蒸らしたオラの足サウナでイクべや」


「あがあああっ‼︎」




 こうした遊びが、毎日飽きもせずに続けられる稲田さんの家。遊び終えれば農作業用のブーツに放り投げられ、自力で抜け出せないとわかっていても上から蒸れ靴下で蓋をする。それも一足分ではない、今までずっとブーツの中で蒸らしてきた穴空き靴下を何足も、何足も、まるで詰め放題のビニールに詰め込んでいるようなほどに押し込まれて。僕は稲田さんの靴下の中で湿気を帯びながら眠りにつく。


 来る日も来る日も熊足で潰される。何度も心の中で思っていた“元の大きさへと戻りたい”という願いは、何度も思い浮かんではシャボン玉のようにすぐ消えてしまっていた。今の僕の本拠地は、稲田さんの靴下の中だけ。ここで一生を終えるのも、悪くない。この気持ちをスピーカー越しに稲田さんへと伝えたらそうかと短く返事されたが、彼はどう思っているのだろうか。こんな熊のおぞましい体臭を嗅ぎたいと発言する人間のことを、軽蔑しているだろうか。


 脳みそが若干縮んでしまった僕には考察する力は残されていなかった。





 人間から預かった家の鍵、それを鍵穴に差し込んでぐるりと回せば最後に人が立ち入ってから三ヶ月以上が経過している”無人の部屋“へとたどり着く。


 机の上には、”寝る前一錠、必ず!“とポストイットが貼ってある小さな小瓶がポツンと置かれていた。まだ買ったばかりで中身がパンパンの新品。手にとって軽くグルリと回してみれば、成分や服用方法などが記されたラベルがシワひとつなく貼られている。




 ”小型化医薬製品 第一類“




 虫眼鏡で見てみないとわからないほどに小文字で書かれていた、薬の分類。玄関の近くに置かれていた空き瓶と瓜二つの出来栄え。おそらく次の燃えないゴミで捨てる予定だったのだろう。その瓶と見比べながら、己の汗臭さに軽くうっ……と唸る熊獣人はこう言った。



「こういうのに詳しいダチが居て助かったべ。ゲヘヘへ。あの兄ちゃんがサプリメントを定期便で注文しとることさえわかっちまえば、こっちのものってな。へへへ……。今度いい獲物がいたら、またアイツに頼むべや。オラはただ金さえ払ってりゃ、向こうからペットがやって来るかんなぁ」




 小さくなる薬があるということは、大きくする薬もあるということ。それなのに獣人の間では”小さくなる薬“だけが流通していて、戻す術はないと噂されている。


 このように、突然人間が家賃を滞納して姿を消す事例が後を絶たない。特に一人暮らしの、近所に獣人が住んでいる地域では警戒を怠らないようにすること。それが小型化されない唯一の対策である。




**ここから下、FANBOX限定追記ver**




 あれから何ヶ月という月日が経っただろうか。僕の体は未だ元のサイズに戻ることはなく、鼻は完全に獣と汗の臭いに慣れて麻痺したまま。稲田さんという飼い主がいることに幸福さえも感じてしまうと言ったら、周りの人たちにどう思われるだろうか。そんなことはどうでもいい。だって僕にはこのサイズの知り合いなんて一人もいないのだから。



 そう、一人もいない――はずだった。



「稲田ぁ、コイツは……へへっ、いいな」


「だべ? オラが毎日世話して育てたんだぁ、初めてにしちゃ上手くいってよかったべな」


「おう、ワシから見ても十分すぎるほどに調教されている。この股座んところで暴れ回りながら奉仕も忘れない、熱心な小人は非常に興味深い。……なぁ、買い取らせてもい――」


「だめに決まってんだろが、こんな上玉いくら積まれようがアンタにゃ譲らねぇ」


「……ううむ、残念だ。なら今だけ楽しませてもらうことにしよう」



 今日は透明な瓶にねじ込まれ、どこかへ連れて行かれたかと思えばすぐに股座へと放り込まれて。しかも嗅いだことのない悪臭が全身を包み込み、思わずゲェゲェと嘔吐いて暴れれば逆に喜ばれる始末。なんとかこの目にくるようなニオイがする空間から抜け出そうと頑張ってよじ登れば、フゴフゴと鼻を鳴らす汚そうな生き物がそこにはいた。


 猪、だ。それも茶色い毛皮が所々白毛になっているおじさん、僕以外の巨人に引き渡されたのは初めてだし、それになんだかこの空間は非常にゾワゾワするというか何というか。その恐怖を感じる正体は、ブリーフパンツの上から外を見下ろすと――。


「へぇ、いっぱいいるべ。それにそれぞれの水槽に下着が置いてあんだなぁ」


「人間にも向き不向きってのがあるからな、ワシは部位毎に分けている。そこにちゃんと用途別に値札が書いてあるだろ?」


「ふぅん、腋用、股座用、しゃぶる用、足用……オラぁ足指に挟み込む用の小人があと三人欲しいんだべがなぁ」


「ならそこから適当に選ぶといい。何なら今日はまだ一回も世話してねぇから、試してもいいぞ」


「……ゲヘ、ゲヘヘ。じゃあよ、この八人全員オラの足指に挟んでタイムつけるべ。メスイキの早ぇ上位三人は買いとるかぁ。……へへへ、順位予想が当たったらコイツら半額にしてくれよ、なぁ」


「ならワシの順位予想の方が的中しておったら、三割り増しで買い取ってもらうことになるがいいんだな?」


「その賭け、乗ったべ!」


 熊と猪の会話が聞こえていたのだろう、水槽の端の方でうずくまっていた小人たちが一斉に慌てふためき、忙しなく走り回る。中央に置かれていた年季の入った靴下にはただ一人の人間しかくっついていなくて、相当にニオイがキツいのだろう。逃げ回る人たちはまだ新人というか、小人になってから間もなさそうな感じが見て取れる。僕も今あそこに放り込まれれば、間違いなく靴下の置かれた辺りで丸くなって寝ているだろうと思ったからだ。


「どれも活きのいい元気な人間だぁ、挟み甲斐があるべ」


「……――、――――っ‼︎」


「あん? 何か言いたげな顔してるべ。すまねぇがオラ、耳が遠くてよく聞こえねぇんだ。わりぃな」


 ああ、最初の小人が叫ぶようにして助けを求めていたというのに。僕にはちゃんと聞こえたよ。だけど……どうすることもできない。ごめんな。僕と同じような若々しいオスの人間は、熊の親指と人差し指の間に押し付けられてグッと左右を固定されていた。すぐさまストップウォッチが押され、メスイキするまであの指の間から解放されることはないのだろう。続いても水槽で逃げ回っていた小人たちをひょい、ひょいと簡単にすくっては足指に挟み固定していく。二人目に挟み込んだ小人はものの数十秒で射精してしまったらしく、床に置かれたチラシのような紙にタイムが書かれていた。


「なぬ……? こんな早くメスイキする個体がいたべかぁ、こりゃ驚きだべ」


「っしゃ、予想的中っと! へへへ、こちとら数年は小人ショップのオーナーやってんだ、簡単に負けるわけにゃいかねぇな」


「ならオラも本気出してさっさとイかせるべか。ゲヘヘヘ。ほぉれ、そこは暑くて臭くてキツいべ? オラが今から水、かけてやっからなぁ」


「――――――っ‼︎」



 先ほど脱いだばかりの靴下を、稲田さんはぶっとい両腕でギュッと雑巾のように絞り始めて。ぼたぼたと垂れ落ちた汗は指の間に挟まっている小人たちに容赦なくふりかけられる。するとどうだ、一番ぶっかけられた小人の様子がおかしいぞ。虫が苦しんで死ぬ直前のように全身を目一杯動かし、全力で拒絶する。するとおびただしい量の白濁液が股座からびゅううっと出て、稲田さんの足裏を汚していった。


 苦しそうにも見えたその行動は、後に“気持ち良すぎて昇天しかけた”ということがわかった。足指から解放された小人の顔は、とても狂ったような笑顔をしていたのだ。



「くっ、コイツはうちの店の中でもかなり遅漏な小人なのに、のやろう……」


「ゲヘヘヘ、オラの汗に混じったフェロモンには耐えられんかったかぁ。これで勝負はわからなくなったべ、さぁて次はどいつがイクべか? ん? 出来ればそろそろこの中指と薬指で挟んどる子がイッてくれたらオラの予想が的中するんだがなぁ」


「ダメだ、イくんじゃねぇ。そうだ、いつもならもっとキツい仕置きを受けて耐えてるだろ? な? これ耐えられたらもっといいエサやるから、頑張るんだ。そうだ、いいぞ」


 二人の獣人にメスイキしろ、するなと交互に応援された小人はたまったものではないだろう。そして次々に足指に挟まれてはメスイキしていく小人たち、獣人の持つ濃い目のフェロモンにはやはり耐えられないらしい。次々にタイムが記入され、後半戦となる残りの小人たちのメスイキレースが再び開催される。





『あ』




 二人の声が、同時に部屋で鳴り響いたその時だ。水槽からかなり離れた、部屋のドア付近に一人ポツンと逃げるように走っている小人を見つけたのは。脱走だ、脱走したんだ。ああ、もう少しだったのに。もう少しで逃げられたのに。声がしたと思えば、猪の体がぐわんっと大きく揺れ動いて――その小人はいとも簡単に捕らえられてしまった。僕はその様子をずっとおじさんのブリーフパンツから見ていて、どうにも胸が苦しくなる。出来れば逃げて欲しかった。だが現実は非情、彼らから逃げることはほぼ不可能なのだから。



「お前、どっから逃げたんだ! 逃げたらどうなるか、言ったよな。ワシが本当にやらないとでも思ったか? ……今晩はメシ抜きだ。そして今からお前は罰をキツいお仕置きを受けなきゃなんねぇ。それがこの店のルールだ」



 小人の悲痛な叫び声、それは僕だけに聞こえてしまう。稲田さんの家でならスピーカーがあるから会話出来るだろうに、それでも罰を受けることには変わりなさそうだが。


「稲田ぁ、手伝え。お前もここにザーメン注いでくれ。三発ほどでいい」


 逸物の太さほどはありそうな瓶に投げ込まれた小人、それも鉛筆のような細長い棒に両手脚を括り付けられているではないか。上から二人の獣人が覗き込み、それぞれ自慢の逸物をニチャニチャ抜き上げながら射精の準備に入っていた。


「んぶっ、ぶっ、ぐぇっ」


 僕もとばっちりを喰らって、猪のおじさんの手の中でちんぽを塗りたくられている最中だ。さっきまでブリーフパンツにただ押し込められていた存在だったのに。逃げ出した小人がいたから僕はこんなことになってしまったのだ。まったく……許せない。


 だが手淫でちんぽと一緒に握られようが、僕はもう嫌悪感すら感じない小人の一人。だからそれぐらいは許してやることにしよう。それにしても稲田さんもちんぽ臭も相当キツいというのに、この猪のちんぽはとても生臭くて息が出来ない。ヌルヌルした我慢汁を体全体に塗られ、乾いた所がなくなるまで僕は猪ちんぽの臭いに染め上げられる。


「お゛っ、おおっ、出すぞ、お前は一晩ザーメン漬けの刑だっ、ぐおっ、おおおっ!」


「ふっ、ふうっ、オラも出すべ、全部この瓶にっ、ぐうっ、うっ、うおおおっ、お゛っ‼︎」


 一回の射精量とは思えないほどの、大量射精。こぼさぬよう狙いを瓶に定めているというのに、二人の命中率はとてつもなく低いらしい。一番濃そうな液体は瓶の中へと直で注がれているようだが、ほとんどは周りの畳を汚すようにあちこちへ撒き散らされている。マトである瓶から遠く離れた畳の上にボトボトと垂れ落ちたザーメンはあっという間に染みになり、イカ臭いニオイが部屋中を染め上げていく。瓶の中の小人は頭から少量のザーメンを被ったのか、黄ばみと白濁でグチョグチョになっていた。そういう生き物がいるのかと思ってしまうような、スライムを彷彿とさせるシルエット。間も無くしてザーメンが瓶の底へ垂れ落ちれば、呆然とした表情の小人の顔が浮かびあがってきた。


「ふーっ、ふっ……ぐっ、狙いが定まらん、悪い、ぶっかけちまった」


「うげぇっ、猪クセェザーメンきったね! こんなもんぶっかけんじゃねぇべ!」


 そんなやりとりを幾度となく行ったあと、小人を入れた瓶はあっという間にドロッドロのザーメンで満たされていく。かろうじて顔だけが出ている状態だ、暴れればすぐさま縄が解けてザーメンプールへの入水を余儀なくされるだろう。だが一度入ってしまえばそこには幸せな感情しか湧いてこないだろう事を、僕は知っている。早く楽になってしまえばいいんだ。猪のザーメンも、熊のザーメンも、とってもいいニオイなんだから。早くザーメンプールに入って、こちら側へおいでよ。……そんな言葉を今投げかけたとしても、あの小人には聞こえないだろうな。



「あ、そうだべ。ついでに薬がもうなくなっちまってよぉ、おまけでつけてくれ」


「あん? あの薬、高ぇんだぞ。タダでやるわけにはいかねぇっての」


「……この前はサンプルって言って、結構おまけしてくれたべ?」


「そりゃ初回サービス特典ってやつだ、小人ブームを巻き起こすための起爆剤と言やぁいいか。お前はもう対象外! だめ! 絶対!」


「……ケチくせぇ猪だべ。まぁいい、小人は半額で貰うかんな」



 このあと賭けに勝った稲田さんは定価の半額で三人の小人を入手し、僕たちは靴下の小屋に入れられて家へと持ち帰られる事となった。後に待っていたのは全員で稲田さんの蒸れ足指に挟まりながら掃除というご奉仕を続ける、ただの“掃除道具”扱いの奴隷という人生だ。今では四人全員が、稲田さんの靴下の中で生活することに何の疑問も抱かない生き物となっている。次に外の空気が吸えるのはいつだろうか、そんなことを話題に出す者は一人もいない。


 皆、稲田さんに飼われてとても幸せそうな笑顔をしていた。

かけた汗は体に流せ、受けたニオイは鼻に刻め(追加SS付き) かけた汗は体に流せ、受けたニオイは鼻に刻め(追加SS付き)

Comments

褌ハウスはそれはもうキツいですよ……夏場外気に触れず股座のみを覆っていたケモおっさんの黄ばみ褌なんて家に入れられたら、部屋中がケモおっさんのニオイになりますので……。 なるほど、そういった熊おっさんはおそらく募集すればやってくるはずなので、少々お待ちくださ……あっ小型化する薬がもうないので紹介できない……すみませぬ……。

ぱぱぱんだ🐼🐾ぱぱを

僕も熊おっさんに飼われたい!そして、褌ハウスで飼われたい。゚(゚´Д`゚)゚。 自分で言うのもなんですが、めっちゃ人懐っこいですし、毎日にご奉仕しますので、ぱぱぱんださん誰か小人を飼いたい熊おっさんいませんか?めっちゃ絶倫でチンカスだらけの包茎の方が好みです。・・・・鬼頭と包皮の間に包まれたいとらまるです。

とらまる

(早い) お読みくださりありがとです!これからどんどん増えていく小人飼育に、猪おっさんはウハウハになるわけですな。そして世界では突然行方不明になる人間が増えたとか何とか……。 そして一番薬を渡しちゃいけない人物はあきたいぬさんではなかろうかと、ふと心配になるぱぱをでした。

ぱぱぱんだ🐼🐾ぱぱを

追加分も最高でした……! 新人小人達の新鮮な恐怖描写はやはり良い…… そして猪おっちゃん、なんと素晴らしい活動を……全面的に支持させていただきます! なんなら縮めてもらえれば親善大使に(ry 非常に美味しくいただきました!ありがとうございます!

あきたゐぬ


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