【体育教師として働く虎獣人:喜介さんの番外編】
「なあ、キミはどう思うんだ」
ピンッと尻尾をフリフリしながら机に顎をつけているのは――体育教師の喜介さんである。今日も真っ赤な赤ジャージが眩しいぐらいにカッコいい。だけど、とってもご機嫌斜めなご様子。何があったかと言うと――
「おい、聞いてるのか」
「あ……すんません、ちょっとボーッとしてました」
四月から新しい教師が何人か来たようで、面倒見のいい喜介さんは大喜びだったとか何とか。そこまでは良かったのだけど、ちょうど桜の咲く今の季節にお花見で新歓みたいなものを開こうと思ったらしい。だが最近の若者はそういう付き合いが悪いらしく、結局誰一人として参加してくれそうな人はいないんだってさ。
どちらかというと僕もそういうの行かないタイプなんだけど、あの喜介さんですよ? 虎獣人で体育教師で顎髭生やしたガチムチ体型というハイスペックの方のお誘いを断るなんて、とんでもない!
「今の時代、花見なんてもんは時代遅れなのか……はあぁ……」
不機嫌ながらブンブン振られていた尻尾は、今は力なく垂れ下がってしまった。そんなことないですから元気出してください先生。
「あの……僕で良」
「本当か⁉︎ 本当なんだな⁉︎ キミがお花見に参加してくれるんだな
⁉︎」
まだ良いとすら言ってないのにその食いつき様、相当行きたかったんだな。さっきまで体育職員室の椅子に座っていたのに、一瞬で僕の座るお客用のソファの隣にまでやってきて握手を求められた。ガッシリと掴まれたその手の体温は高く、じんわりと汗が滲み出てくる。……あっ、この手、もう洗えない。今夜はこの手の温もりを思い出しながら……うへへへ。ダメだ、僕の本当のきもちを……抑えられないっ。
「何が食べたい? 酒は? そうだ、つまみは何がいい? 何時から見に行く? なんだって、早朝から? 俺は大歓迎だぞ!」
勢いがすごい。何だろう、喜介さんはイベント事が好きなのかな。ああっそんな肩を揺すらない……でっ、ああっ。気持ち悪くなっちゃう。
「今週末、駅前の公園に集合な! 俺、朝から場所取りしてるから、起きたらゆっくり来てくれて構わんぞ。週末は花見か……一年ぶりの……ああ、いいもんだ……」
もはやこの後の業務のことなど全く頭にないこの虎体育教師は、週末の花見に向けてあれを準備せねばとか、酒はどれがいいかとか、紙に書き出して一人浮かれているのであった。
*
というのが先週の話。ところがどっこい、事件は起きたのである。喜介さんも僕も、別に唐突に用事が入ったとかそういうのではない。そうではないのだが……。
「あらま……」
見事なまでの土砂降り、天気予報では降水確率30%ぐらいだったはずなのにな。これではお花見どころか、外に出ようとする人すらいないかもしれない。外に出ているのは僕と……木の下で大荷物を抱え傘をさした喜介さんぐらいか。
「ううっ……俺は……俺は……」
このままでは喜介さんが鬱病になってしまうかもしれない、たぶんそこまでではないのだろうけど物凄く楽しみにしていただろうしな。……いいことを思いついた、そうだアレがあるじゃないか。
「喜介さん、とりあえず雨宿りしませんか」
僕が人差し指をさしながら示した場所は小山の上の小さな屋根付きの休憩所だ。今日はこんな天気だから誰もいやしない。普段なら少し標高の高いあの場所は人気スポットなのだが、こういう時こそチャンスなのである。
「ほらほら、どうしたんですか。早く行きますよ!」
「お……おう」
快晴、満開、そんな絶好の条件で桜を見たがっていた喜介さん。既にやる気ゲージがマイナスに振り切っているが、そんな縞模様の腕を強引に引っ張って階段を登っていく。といってもやはり階段を登るペースが遅いので、体育教師なのに体力に自信ないんですか? と煽ってみたら見事に全力ダッシュで丘まで駆け上がってしまった。中々にやりおる。
傘を畳んで小さな屋根の下に入ると、そこは意外にもちゃんとテーブルと椅子が用意されている快適スペースであった。今なら周りに誰もいないし、自由にやり放題だ。
「喜介さん、お腹が空きましたよ。食べましょう!」
「……ん」
「それ、お弁当なんですよね? せっかくだし食べましょうよ」
「……ん」
ついに表情が真顔のまま変わらないモードになってしまった、これはマズいぞ。何とかして機嫌を良くさせてやらないと。幸いにも今日は朝ごはんを食べていないのだ、今の僕はたくさん食べられるスーパーモードだぞ。
ドスンッと目の前に置かれたのは重箱、それも五段あるタイプのやつ。……今日って二人っきりですよね。僕の胃袋はそこら辺の一般男性よりちょっと大きいぐらいだけど、そんでこれ誰が食べるんです? ……あ、僕? え、僕?
「……ふー……」
ついに言葉という言葉を喋らなくなってしまった喜介さん。あれ、今僕はイヤそうな顔してかな? そんなことないよ、お腹めっちゃ空いてる。……空いてるんだけど、流石にこんな高い重箱見たら誰でも言葉失うよ。
蓋を開けてみればまぁかわいい、おにぎりの山! えっかわいすぎじゃないですか? どのおにぎりも動物を模したやつなんですけど。丸いおにぎりに海苔で顔とか模様を描いて、なんと小さな丸いおにぎりで耳までつけてらっしゃる。喜介さん、こんなに料理できたんですか? 普段めっちゃカップラーメン食べてそうって思ってしまってごめんなさい。
でも一つ問題がありますね、この動物おにぎり。そう、サイズですよサイズ。なんで耳を模した小さめのおにぎりが、僕たち人間の食べる普通のサイズのおにぎりと同じサイズなんですか? 顔の部分はもう巨大おにぎりすぎて、これ一口じゃ食べきれない。大食い選手権用のおにぎりですねこれ。そんなドデカいおにぎりが一段目の重箱に二つも入ってました。
「す、すっごくかわいいおにぎりですね。虎ちゃんの模様を海苔で表したんですね、すごい!」
「……へへっ」
おっと、満更でもなさそうな顔だ。もちろん本心から言っている事だからスラスラ言葉が出てくるんだけど、でもこれ最終的には食べきらなきゃならないんですよね。おにぎりだけお腹いっぱいになりそう。これが一段目なのだから、二段目以降はもっとすごい力作が入っているのでは?
「食べてもいいですか?」
「……おう」
まずは虎ちゃんの耳の部分から。……おっ、これは僕の大好きなツナマヨ! 最初からこんな好みの味で僕の心を掴んじゃって……やりおる。反対側の耳はどうだ? ……なんと、こっちはたらこちゃん。こいつもおにぎりには欠かせない存在ですよね。んぐっ、んぐ……げふっ。やばい、耳を食べている時点で普通のおにぎり二つも食べてる事になるんだよな。残すはこのメインの顔の部分、ここには一体何が入っているんだろう。いただきます。
「んっ……ん⁉︎」
超絶自信あり気なドヤ顔を決めながら腕組みをしている喜介さんの顔を見ながら、僕はモゴモゴと必死に米を口に放り込む。中から黄色い黄身がこんにちは
……ってこれ、半熟茹で卵⁉︎
「俺の自信作、自家製半熟卵おにぎりだ! どうだ、中々珍しいだろ? とあるラーメン屋の店長から伝授してもらった、秘伝の技で作った卵だ」
まるで少年のように目を輝かせながら僕を見つめる喜介さん、まっ眩しい、視線が眩しい! 目から何だかキラキラビームが出ているような気がする。うん、確かにこの卵とってもおいしい。こいつは早めに倒しておかないとな、んぐっ……よし、あとは米だけかき込めば――
「安心しろ、奮発大サービスで三つも卵入れといたからな。たっぷり食べてくれよ!」
「ゲホッゲホッ‼︎」
「そんながっつかんでも、おにぎりは逃げないぞ。ほらほら、茶でも飲め」
今噎せたのは、あと二つも半熟卵を食べなきゃならないという事実のせいですよ。そんな事言うとまた落ち込みモード入っちゃうから絶対に言えないけど……。差し出された水筒のコップに注がれた緑茶、ご飯に合うなあ。これは
交互に飲んで楽しめるタイプだ。聞くところによると、茶もこの日のためにお茶屋さんで厳選したものらしい。僕と気合の入り方が違う。
おにぎりを食べ終わってふぅ……と休憩していると、目の前の虎おっちゃんはソワソワして落ち着かないご様子。何だろうトイレでも行きたいのかなって最初は思ってたんだけど、もしかして二段目の重箱を見て欲しそうにこちらを見ている?
「まだいっぱいあるからな。ガンガン行こうぜ!」
……ゲフッ。まずい、朝ごはん抜いてきたのにこの仕打ち、あとこれが四段もある……? だ、誰か助けてください。
「二段目は……じゃじゃーん。野菜もしっかり食べなきゃいかんぞお」
助かった、次はサラダゾーンでした。ツナサラダ、マカロニサラダ、ポテトサラダにワカメサラダ、それから……まてまて、二段目は九種類のサラダゾーンだって? 聞いてませんよこんなの。
「先に野菜を食べる事によって、血糖値の急上昇を防ぐんだ。いっぱい食べて大きくなれ!」
僕は――悟った。これ、無理だわ、と。いやいやいや、無理よ無理。キツすぎます先生。というか喜介さん全然食べてないじゃないですか、どうしたんですか。
「喜介さんも食べてくれていいんですよ」
「それはできない頼みだな」
いやいやおかしい! これ本当に僕が全部食べると思っているのか? この小さな体のどこに五段分のおかずが入るとお思いで?
「まずは客を腹一杯食わしてやるのが礼儀だ。俺はそのあとでいい」
一見カッコ良さそうなセリフなのに、すごく残念なセリフでもある。なんでそんなお弁当にこだわりが強いんですか喜介先生!
「僕、二人で一緒にワイワイ食べたいなーって思うんですけど……ね、一緒に食べませんか?」
「うっ……そ、そりゃあ二人で食べたいがな。こういうのが順番ってもんがあるんだ」
「いやいや、喜介さんお腹空いてますよね? こんなおいしいの、僕だけじゃ勿体無いですよ。食べてください」
「いやいや、俺はキミのおいしそうに食べてる所さえ見られれば腹いっぱいだ。だから気の済むまで食ってくれ、俺からのお願いだ」
喜介さん全然譲ってくれなさすぎて頭が痛くなってきた。こうなったら奥の手を使ってやる。こんなの、恋人同士がするような事だけど……でも、背に腹は代えられないだろう。恥ずかしいけど、勇気を出して――
「喜介さん、あーん」
箸でとりあえず摘んだのはシーザーサラダ……って、唐揚げとかだったらわかるけどサラダであーんする人ってこの世に何人いるだろうかってぐらい希少な存在であろう。レタスを五枚ぐらい掴んでやって、喜介さんを誘ってやる。頼む、食べてくれ……!
「……んっ」
へぇ、虎獣人のマズルの中ってこうなっているのか、と感心しながら草を放り込む。ムシャムシャとおいしそうに咀嚼されたその草は胃袋へと吸い込まれていった。
「んん……うまいな」
「そりゃ喜介さんの料理ですから」
「……ぶっ。ククク……グワハハハ! やめだやめ。俺も我慢の限界だ、食わせてもらうとするか」
あぁ良かった――そんな一言じゃ言い表せない程今の僕の気持ちは晴れやかである。周りがいくら土砂降りになっていようと、僕の心は快晴そのもの。この嬉しいようで辛い一人大食い地獄から脱出したわけだし、この調子でどんどんお弁当を片付けていきますか。
そう意気込んだ時だった。
「ほれ、口開けろ。人間のマズルは小さいからな、目一杯開いとくんだぞお」
「……あの」
「何遠慮しとるんだ、ほれほれ」
ちょっと目を離した隙に喜介さんの箸に挟まれていたのは二つの唐揚げ。まて、その唐揚げはどこからとってきたんだ。サラダゾーンにそんな禍々しい茶色の揚げ物なんてなかったはずだぞ。
「……俺の一番の自信作だからな。うまいぞ」
うん、おいしそ……おいしそうなんだけどさ。なんで箸に二つも挟んだの? 僕のマズル、そんなに大きく見えるかなあ?
「あー……んぐっ、んっ‼︎」
「あんな太ぇ俺のを咥えられるんだ、キミなら唐揚げ二個ぐらい余裕だろう」
……それ以上言われたらとっても恥ずかしい気持ちでいっぱいになるのでやめてくださいね。モゴモゴと頬をハムスターのように膨らませながら必死に咀嚼すると、中からなんととんでもないものが出てきた。これ、チーズ入ってるじゃん! もう片方には……何だこれ、ちょっとピリッとする。
「キムチ味の唐揚げ、うまいだろ。普通の唐揚げばかりじゃつまらんからな」
「モゴモゴ……」
できたら是非一つずつ味わいたいと思う僕なのであった。キムチの辛さをチーズが打ち消してくれているのは良いのだけど、それよりも量が問題で……そろそろ胃袋が限界なのですが先生。喜介先生ーー‼︎
「まだまだたっくさんあるからな、こっちは海苔が巻いてある唐揚げだ」
「モゴ……」
既に次の唐揚げを掴んで持ち上げている喜介さん。流石に二個掴むのはやめてくれたようだが、それでも僕の口は満員電車並の混雑状況です。お願いだからやめ……やめて!
「なあ、四段目。気になるか? 気になるよなあ?」
もはや一段ずつ全部食べていると時間がかかりすぎるので、痺れを切らした喜介さんは唐揚げゾーンをクリアする前に四段目と五段目を見せてくる。四段目は鮭、ししゃも、かまぼこ、サバの塩焼き……ってこれ何ゾーンだ? お魚ゾーン? 四段目もテーブルに披露され、残すはあと一段。ここは一体何が入っているんだろう、正直もう何も考えたくはない。揚げ物は勘弁してくださいね先生?
「ここまで来りゃ、甘いものが食べたくなるだろうよ」
「ま……まさか」
デンッと効果音が出そうな五段目の演出、そこには白と茶色のスポンジが交互に敷き詰められていた。見た目は何とも美しい、美しいのだが……うっぷ。
「口直しには丁度いいだろ、バニラロールとチョコロールだ。クリームもスポンジも、全部俺が作ったんだぞ?」
地獄行き決定の巻。もはや全部食べようとも思えないほどに僕の顎と胃袋が疲弊しております。
「な、まずは一口食べてくれよ。甘さ控えめで食べやすいぞ」
僕は喜介さんの自信作であるロールケーキを片方ずつ食べた結果、傘を持って唐突にこの休憩所を抜け出すのであった。目指すはただ一つ――トイレ。
ポツンと残された喜介さんは、状況が全然わからんと言った感じでロールケーキをつまむ。うめえうめえと一人頷きながら二個目、三個目と手を出していくのであった。
*
「グワハハハ! いやあすまんすまん。最初に言ってくれりゃいいのに、キミは優しい子だ」
「はぁっ……死ぬかと思った……」
我慢できずに悲鳴を上げたお腹の事情を説明すると、喜介さんは残った弁当のオカズを次々にマズルへと投げ込んでいく。あれっ気がつけばもう重箱の中身も半分以下……一体誰がこれを食べ……えっ? まさか、喜介さん?
「ありがとな。俺のこと、気を遣ってくれたんだろ。すまんなあ、花見楽しみにしてたからつい……はっちゃけちまったな」
僕は只々この大食いワンコそば状態を抜け出せた事に今感謝している所です。それにしてもおいしそうに食べるなあ。僕も喜介さんがごはん食べている所を見るのが好きかもしれない。そんな顔をジッと見ていると、何見てんだとデコピンされてしまった。いてて、でも……嫌いじゃない。
「こんな雨の日でも、ここから見る景色はいいもんだ」
少し上から見下ろす景色、雨は降っているものの桜は満開だ。いつもとちょっと違う風景を見ながら、僕たちは雨の日のお花見というものを楽しんでいく。土砂降り状態からシトシトと降る雨に変わってから、目でも耳でも楽しめるちょっとお得なイベントへと早変わりである。
「雨、いいな。知らなかったぜ。雨の日の桜も悪くねえ」
持ってきた缶ビールをグイッと男らしく飲む喜介さんは、既に大分出来上がっているようだ。あれから話も弾ませながら次々に重箱のオカズを吸い込んでいき、今では持ってきたお菓子をボリボリと食い荒らしながら酒を飲みまくっている。まさに宴会状態。僕はチューハイを少し飲んだらもうフラフラしてきた。ううむ、お酒って中々強くなるのは難しい。
「来年も、見にいこうぜ。桜」
「はい、また行きましょうね!」
来年また喜介さんは後輩達や先輩方を誘って花見の計画をするのだろう。でもそれより先に僕との花見計画を立てて欲しいな、なんて。ちょっとそう思うようになってしまった。……全部喜介さんのせいだからな。くそっ、僕のためにたくさんお弁当作ってきてくれて、僕のためにあんま強いお酒持ってこないようにして、全部……僕のために色々やってくれるなんて。誰がそんな事予想するだろうか。喜介さんは自分より他人を優先してくれる人なんだという事、今この場でしっかりと教えてもらったよ。
「なあ、このあと――どうよ」
……こういう、酒を飲むとスケベ親父感が出てくる所も魅力的なんだろうな。手をグーにして、人差し指と中指の間に親指を差し込むジェスチャーを見せつける。これが表している事と言えばもう一つしかない。
「今日はたっぷり世話になったからな、今度は俺が接待してやる番だ」
右手はやらしくそんなジェスチャーをするくせに、左手は僕の頭をフワッと優しく撫でてくれる。こんな状態で断る人なんていないだろうに。
僕はそんな甘い誘いに乗り、雨の降る桜並木の道を歩きながらとある場所へと向かうのであった。
*
「あ……んっ、ぐっ……」
ジュプッジュプッと音がするのは僕の下半身部分からだ。あれから前に行ったことのあるラブホという場所に連れ込まれた僕は、風呂に入る間もなく肌着を脱がされキングサイズのベッドへと押し倒された。いいおもちゃを見つけた子供のような仕草で僕の逸物を両手で弄び、そして大きなマズルに咥えられる。僕ぐらいの逸物なら奥まで余裕で飲み込めるので、それをいいことに喜介さんは大胆な動きでしゃぶってくれるのであった。
「そのっザラザラは、やばい、からっ」
喜介さんのモノをしゃぶった時と同じように、決して僕が離そうとしてもそれを許してくれない。耳を掴もうとすれば、キミはそんな獣人の大事な耳を掴むのかと目で語られるし、一体僕はどうすれば……。あっ、また一段と舌の動きが激しくなって……ああっ‼︎
一滴も外に溢すことなく、喜介さんは喉仏を上下に動かしながらじっくりとザーメンを飲み干す。まるで甘いミルクか何かと勘違いしているような、でも舌にたっぷりと僕のザーメンを溜め込んだ様子を見せつけられた時に、ウッとくるような独特の臭いが現実を物語っている。苦くて喉に絡みついて、決しておいしくないそれを、どうしてこうも美味しそうに飲み干せるのだろうか。
「三発目ともなれば、やっぱ多少は薄くなるもんだな」
少し残念そうに僕の逸物から目線を外した喜介さんは、次のターゲットを見つけたと言わんばかりに僕にジリジリと迫り寄ってくる。正直性欲がそこまでない僕にとってはもう終わりにしても何ら問題ない状態なのですけど。喜介さんはまだまだ物足りないご様子だ。
「そういえばキミは相当な臭いフェチだった記憶があるんだが……俺の記憶、間違ってるか?」
「い……いえ……その……合って……ます、はい」
そんな真顔で聞いてくる内容じゃないだろ、恥ずかしいでしょうが。了承を得た喜介さんが次に取った行動は肩に腕を回すこと。グッと隣へ抱き寄せると耳元でこう囁く。
「今日はキミの嗅ぎたいとこ、どこでも嗅がせてやろう」
「っ‼︎」
「なあに、今日の礼ってやつだ。……いいか、今日限りだぞ、本当は俺だって匂いを嗅がれるっつうのは恥ずかしいんだからな。最初で最後だと思って、悔いのないよう存分に嗅いでくれ」
好きなだけ嗅いでくれって言ってるような気がしましたが、本当は嗅がれたいんですか? いいんですか、僕すっごいですよ? 某掃除機みたいに、そりゃあもう一度スイッチ入れたら止まりませんよ、いいんですね?
「んっ……すぅっ……」
「ほお、まずは前菜に首筋からというわけか。そんじゃキミが楽しんでる間、俺もたっぷり楽しませてもらおうとするか」
ほんのりと汗の香り、そのあとから喜介さん独特の体臭をしっかりと感じとる。そんな僕が遠慮がちに嗅いでいる所を喜介さんは何しているのかと言うと、僕の背中に両腕を回してギュッと抱きしめていた。しかも左右の手で指が交互に重なり合うようにギュッとしているから、絶対に離さないという意思表示をしているようだ。……やばっ、また息子が勃ってきたじゃないか。
「ん、そうかそうか。キミはこんな所も嗅ぎたいのか。普段おっさんの腋なんて中々嗅げねえだろうからサービスしとくぜ?」
「ン゛ンーッ‼︎」
「なんだ、そりゃ喜んでるのか嫌がってるのかどっちなんだ? 俺に伝わるように言ってくれねえとわからんぞ」
本当はわかってるくせにと言いたいが、そこで言ってしまうとこの腋サウナから解放されてしまいそうなので黙っておく。こんなとこの臭いなんて常人が嗅げたものではないのだけど、喜介さんのなら全てがいい匂いに感じるのだ。ツンとくる刺激臭が何とも堪らない、オスのフェロモンをたっぷり含んだこの臭いに僕はいつしか酔い痴れてフラフラになるのである。これで最後、ああでももう一回、なんてそんな動きを何度も何度も繰り返してしまう。最後の最後では腋を一舐めした後、存分に楽しませてもらった腋に別れを告げる。
「ん、随分楽しそうだったな。なあ?」
「……ゲホッ」
「そんなキッツいとこ嗅いでたのに、チンポはギンギンじゃねえか」
さっきまで萎えていたのが嘘のように、僕の逸物は大きく上に口を向けてヨダレを垂れ流していた。あんな濃いフェロモンなんて嗅がされて無事な人がいるわけないじゃないか。
「反対、まだ空いてるぞ」
先程とは逆の腕を頭の後ろに来るように持ち上げ、適格に僕の性癖を刺激してくる。丸見えになった腋は体毛の縞模様よりも濃くて頑丈そうな毛に覆われていて、あそこに鼻を突っ込んでしまえば一体どうなってしまうのか、僕はそれがとても気になるのであった。
ハエトリソウじゃないけど、食虫植物のように腋を広げて待ち構えるその場所へ、僕はフラフラと釣られて鼻を押し当てた。その瞬間挟み込むように降ろされたその腕で、僕は完全に腋檻から抜け出せなくなる。さっきよりも鼻にくるキツい臭いを嗅ぎながらもがいても、喜介さんは何食わぬ顔で僕をただ拘束し続ける。まるでその様子を楽しんでいるようだ。最初は刺激的な臭いで暴れまわっていたが、落ち着いて抵抗しなくなったのを見ると今度は拘束を解いて僕を自由に泳がす。退きたければ退けばいい、ただ嗅ぎたいのならそのまま嗅いでくれ。そんなメッセージを言葉を交わさずとも受け取った僕は、鼻が腋汗でしっとりと濡れるまで存分に嗅がせてもらうのだった。
「こんなに嗅がれると……恥ずかしいだろうが。も、もういいだろ」
最後には我慢できずに喜介さんから距離を置かれてしまったが、それもそうだ。一体何十分嗅いだだろうか。ごちそうさまでした。
「おっと、ここはまだだ。お楽しみは最後にとっておくもんだぞ」
さあて股座を……と顔を近づけようと思ったところで、待ったがかかる。すみません、欲望に忠実なのでこういうとこで性格が出てしまいますね。失礼致しました。
「うおっ……そんなとこまで嗅がれちまうと、なんか奴隷でも飼ってる気分になるじゃねえか」
黒いソックスを口で脱がしてやれば、そこは学校で普段から履いているスポーツ用の靴でたっぷりと蒸らされた足が姿を現した。ムワッという効果音が一番合いそうなその足に、僕は恐る恐る顔を近づける。蒸らした靴下を咥える事に何の躊躇もしないくせに、いざご馳走を目の前にすれば本当にいいんですか? という感じに遠慮してしまう僕の悪い癖である。
「ふーっ、ふーっ……」
「んな無理に嗅がなくっていいんだぞ……って、キミはスケベだなあ。我慢汁もだらっだらじゃねえか」
親指と人差し指の間に鼻を差し込めば少し涙が出そうになるほどのオスフェロモンが凝縮されていて、僕はガッつくようにフガフガと鼻穴を広げる。何回息を吸っても同じように香るこの饐えた臭いを楽しめる人はかなりの上級者である。ひとしきり嗅いだあとはしっかりと一本一本掃除してやり、清潔にしてあげねば。奴隷は毎日ご主人様であるケモおっさんにこんな事をしているのかと思うと少し羨ましいが、流石に毎日自由を縛られるのはやだな。……ワガママな奴隷である。
「ぐおっ、ひっ、ひひひひ‼︎ ちょ、ちょいたんま! くすぐってえなくっそ‼︎」
せっかく念入りに舐ってあげたのに、喜介さんは足指を舐められるのに慣れていないようだ。いや、慣れている方が問題ですね。
「悪ぃ悪ぃ、ま、まあ足はまた今度な。それよりも――仰向けになれ。なあに、キミが望んでるような事、もっとしてやろうじゃないか」
仰向けになる僕の真上で股を広げ、仁王立ちの体制になる。ここからよくケツ穴が見え……ってこれ、まさか。
「ぶえっ‼︎」
豊満な尻が口元に来るこの体勢、顔面騎乗というやつだ。だが僕の顔面が尻に埋もれているわけではなく、ゆらゆら揺れた縞模様の尻尾が視界に入る。
「知ってるか? ネコ科の尻尾にはな、臭腺っていうフェロモンを出す器官があるんだ。……どうだ、そそるだろ」
上に伸びていた尻尾が、だんだん下へと垂れ下がる。その前からわかっていた、ここから喜介さんの濃い臭いがたっぷりと出ていることなんて。ピトッと尻尾の根元が僕の鼻を覆った時、あまりの体臭の強さに僕は手足をガムシャラに動かして喜介さんに訴える。
「腋も足もいけるキミなら、ここも相当なご馳走になると思うんだがなあ。何だ、意外と受け付けないってか? ……ん、へへへ……チンポは正直だなあほんと」
僕の顔に尻尾を存分に擦り付けて遊んでいる喜介さんは、すぐ目の前に生えている人間サイズのチンポを手に取りグチュッグチュッと扱き始める。そんな事されなくても尻尾の体臭は強烈すぎて我慢汁が止まらない状態になるわけだ、刺激が加われば白濁液を吐き出すほかなく――僕は三発目の射精を迎えた。その間も尻尾による臭い責めは止まることなく、僕が息継ぎに左右に顔を振ってもその尻尾は追従してくる。新鮮な空気を吸う事もできず、顔全体をしっかりと尻尾の臭腺で臭い付けされていくのだ。
「こんだけ好きにやらせたんだ、最後は俺を楽しませてくれよ」
「はぁっはぁっ……んぶっ‼︎」
「キミの顔はスベスベでデコボコがあって気持ちいなあ。おらっ、我慢汁たっぷりチンポで顔中マーキングしてやる」
仕上げと言わんばかりの我慢汁ベトベトチンポを、まるで床オナをするかのように上からグイングインと擦り付けられた。鼻穴まで我慢汁が入り込んで息が苦しい。鼻から口までの一本道を丁寧にチンポで擦り付けて臭いづけするマーキングは、もう他のオスが手を出したくないほどにたっぷりと擦り込まれる。顔から喜介さんのチンポの臭いがするようになるなんて、そんな事想像したらもう嬉しいやら恥ずかしいやら……。
「随分溜めとったからなあ、最後はキミの顔にたっぷり出してやるからな。ふんっ、ふんっ」
「っ、んぶっ‼︎ んっ‼︎」
少し汗ばんできた毛皮が僕の肌と密着し、僕も全身が汗だくになってくる。その汗と我慢汁をしっかりと塗り込む喜介さんのチンポ、僕が今日一番求めていたものだ。体のどの部分の臭いよりも強烈で、それでいて中毒性のある。やっぱりおっさんのチンポには敵わないのだとしっかりと体に教え込まれてしまった。
「お゛おっ、今日も黄ばんだ濃いやつ、出してやるからなあっ! おっおっおっ……ぐううっ、これがオスのマーキングってやつだ、しかとその目で見とけよ。……がああああっ‼︎」
そんな喜介さんの言葉に僕は目を開けそうになるものの、チンポが顔に激しく擦り付けられ我慢汁を塗りたくられる状態で開けられるはずもなく。僕は顔でたっぷりザーメンシャワーを浴び、白毛の獣人に生まれ変わった。少しゲル状になって黄ばんでいるその精子は老いを感じさせるものの、貫禄があっていい味を出している。そんなザーメンを、僕は手にとって舐めていく。……苦い、やっぱこの味に慣れるのは難しいのだな。でも喜介さんのだと思えば――全部飲めそうな気がする。
「はぁっはぁっ……あー……すまねえ……出し過ぎたな。どれ、楽にしてろ。
俺が掃除してやるから」
「……ひっ!」
「ん? なんだ、ネコ科の舌で顔舐められて興奮してるのか? へへへ……なら俺がもっとムラムラするようにたっぷり舐めてやるからなあ」
ザリッザリッと音を立てながら、僕のザーメン塗れになった顔はどんどんキレイになっていく。だがしかし、ネコ科の舌は骨についた肉を削ぎ落とすおろし金のような舌をしているのだ。そんなのが、肌の薄い僕の頬を舐めたら……。
結局ザーメンが一滴もなくなるまで舐められ続けた僕は、あちこちに切り傷を作ってしまい喜介さんが土下座するという事態に。ちんちんをしゃぶる時は気をつけていたんだが……とは喜介さんの言い分である。結局ひとしきりスケベを楽しんだあと、僕は喜介さんの家で手厚い消毒と手当てを受けるのであった。すると今度は、さっきつけた臭いが消えちまったと喚き始め、後でまたやろうなと誘いを受けてしまう。何だかんだで楽しんでるじゃないですか、と茶々を入れたら鼻にデコピンを喰らってしまった。いってぇ!
喜介さんは何だかんだで優しい。やっぱ、女子生徒に告白されるだけはある。そんな僕も……喜介さんに惚れてしまった一人なのかもしれない。いつか気持ちを伝えてみたら、喜介さんは何て言うかな。……うっ、い、今はやめておこう、断られた時のことを考えると悲しい気持ちになってしまうから。今はこの、あたたかい余韻に浸らせてくれ。
来年は晴れるといいですね、お花見。
*
男虎 喜介(おのとら きすけ)
種族:虎
主人公の呼び方:キミ
好きなもの:酒、イベント
テーマ:女子にモテるタイプの体育教師
とある高校の体育教師。同じ学校に獅子獣人の体育教師がいるが、そちらとは正反対の性格。少しガサツな部分もあるが基本は生徒を第一に行動する優しきおっちゃんで、女子生徒から絶大な人気を誇る。
お酒が大好きで、飲むとかなり大胆な行動に出る。それも二人きりだと、大体話がスケベな方向へといってしまうので、多少自制はしているらしい。
お酒と同じぐらい、いやそれ以上に好きなものがイベント事である。正月、節分、雛祭り、花見、夏の合宿、秋の旅行、ハロウィン、クリスマス……と、とにかく一年を通して行われるイベントに全力を注ぐタイプ。一番楽しみにしているのは体育祭と文化祭。喜介さんは今現在特にクラスを請け負っているわけではないが、担任として活動している年はそれはもう大変なんだとか。毎度毎度気合が入りすぎて保護者から若干引かれ気味らしい。自分の休みよりも生徒を優先するタイプなので、そういう点でも生徒からの人気が高い。
一人で致す時に、たまにであるがマタタビを使っている。別に違法の麻薬ではないので問題はないものの、使い過ぎると気持ち良すぎてしばらく立てなくなってしまうので、そう言った意味でもここぞという時にしか使わないとは本人の談である。
リクエストしてくれた支援者に一言:
「なんだなんだ、キミも俺の匂いを嗅ぎにきたのか。んん……先生な、ちょっと人に匂いを嗅がれるってのはあんまし好きじゃ……え、何だこれ。マタタビ酒? これを俺に? ほお、話がわかるヤツじゃないか。……すまん、一口だけ、な。飲ませてくれ」
*
「んあ〜? 俺の匂いが嗅ぎてえ? グワハハハ! 俺に任せろ、好きなだけ嗅げばいい。で、どこがいいんだ? お? 随分とまたいいとこ狙ってくるじゃねえか……へへへ。おらっ尻尾マフラーだ、俺の臭いが堪らねえって顔しやがってコイツめ。こっコラ、くすぐってえぞ。そんな悪い子は先生がお仕置きしてやらねえとなあ。どうだ、これで動けねえだろ。お゛おっ……玉裏そんな嗅がれちまったら興奮するじゃねえか……ヒック」