憧れのイケメン女子に無理やり襲われて童貞を貰われてしまった話 プロローグ
Added 2024-04-30 11:00:00 +0000 UTC人間誰しも、憧れというものを抱いたことがあると思う。それは、幼い頃にテレビ越しに見たスポーツ選手であったり、あるいは自分のことを救ってくれたお医者さんであったりと、人によって対象は様々だろう。かくいう僕も、そんな憧れを抱える人間の一人である。もっとも、その対象はとても身近な人物なのだが。
「大宮さん! この間は助っ人ありがとう! おかげさまで地区大会優勝できたよ!」
「どういたしまして。こんな私の力でも役に立てたのなら幸いだね」
「千賢様! これ、よかったら受け取ってくださいっ!」
「ありがとう。あとでゆっくり読ませてもらうね」
「流石千賢様だわ……♡ 対応もスマートでかっこいい」
放課後の学校、視界の先の廊下では、大勢の女子に囲まれてなお、その余裕のある表情を崩さずに一人一人対応している人物は大宮千賢(おおみや ちさと)。170センチはある高い身長、凛々しく整った顔、そして、女子にしては低いその声色から、特に女子から圧倒的な支持を集める学年の人気者である。
「お〜い、昇。また大宮のこと目で追ってるぞ」
「そんなことないってっ!」
「いいっていいって、隠さなくていいから。お前が大宮のこと好きなのはちゃんとわかってるからさ」
「だーかーらっ! それはっ、お前らの考えてる意味じゃなくてだな……」
「はいはい。分倍河原くんは、大宮に憧れてるんでちゅもんね〜」
「っこのっ!」
「おっと、危ない危ない」
そんな彼女の様子を遠巻きに眺めていたら、それに気がついたクラスメイトが横から茶々を入れてきた。こいつは普段はとても頼りになるやつなのだが、時たまこうしてちょっかいをかけてくるところが玉に瑕だ。僕が本当に嫌がるところまではいじってこないので抵抗するだけに留めているのだが、一回お灸を据えなければいけないかもしれない。
閑話休題。こいつが言っていることは本当のことである。つまり、僕こと分倍河原 昇(ぶばいがわら のぼる)は大宮千賢に憧れの気持ちを抱いているということだ。きっかけは僕のコンプレックスにある。分倍河原昇だなんて大層な名前をつけられた僕であるが、その実、身長は平均を大きく下回る140センチほどしかなく、さらに顔つきも女の子と間違えられるほど可愛らしいものであり、いわゆる「名前負け」をしている状態なのである。
こんな容姿をしているせいで、小さい頃から周りのやつからたくさん揶揄われてきて嫌だったし、自分でももっと名前に見合う男になりたいと筋トレをしたり、食べ物に気をつけたりといろんなことを試したが、結果はひげの一本も生えず終わりを迎えてしまった。
見た目は変わらないと悟り、せめて中身だけでも男らしくなろうと心持ちを新たにした時に出会ったのが大宮さんであった。初めはかっこいい人がいるなぁくらいの気持ちであったが、クラスメイトとして彼女を見ているうちに、僕が理想とする立ち振る舞いをしていることに気がついた。関わる女の子を尊重し、それでいて鼻につかないその振る舞いは、まさに僕が考えていたイケメンムーブそのものだった。
そこからは、こっそり目で追って、勉強をさせてもらう日々だった。そうして観察しているうちに友人たちにはあらぬことを言われてしまうようになってしまったのだが、それは別の話だ。
「ってやばっ! もうこんな時間だ! わりぃ俺帰るわ!」
「あっ、ちょっ、逃げるな!」
「文句なら明日聞いてやるよ! じゃあなっ!」
「は〜っ、逃げ足だけは一丁前だなあいつは」
廊下を高速で駆け抜けていく友人の背を眺めながら、僕は一つため息をつく。確かに大宮さんのことはかっこいいとは思っているが、それと恋愛感情は全くの別物だろう。いないやつへの文句を考えながら自分の席へと戻る。
放課後の喧騒も10分もすれば落ち着いて、教室には外から聞こえる野球部の掛け声が響いていた。僕は傾いた陽が差し込む中で勉強をするのが好きだった。個人的に一番捗る気がする。さてと、今日は明日の小テストの対策をするとしますか。
「分倍河原君、ちょっといいかな」
勉強を始めようとノートに向き合った瞬間、頭上から声がかかる。そちらの方へ目線をやると、なんとそこには先ほどまで女子たちに囲まれていたはずの大宮千賢が立っていた。
「お、大宮さんっ!?」
「おいおい、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。私たちはクラスメイトなんだからさ。もっと気兼ねなくお話ししてほしいな」
Q:突然憧れている人から話しかけられたらどうなるか?
A:ものすごく挙動不審になる
「あ、あのあの、こんな小童めに何用でしょうか……?」
「大丈夫かい? それとも、何かタイミングが悪かったかな?」
「い、いえ、そういうわけではなく……」
「とにかく、一回深呼吸してみようか。私の合図に合わせて、はい、吸って、吐いて、吸って、吐いて」
思わず声がどもり、不可思議な敬語から口から飛び出す。恥ずかしさを感じることすらなく、ひたすらに頭の中がパニック状態になっていた。そんな様子を見られて、大宮さんに落ち着くように促されてしまった。
「落ち着いた?」
「う、うん。ごめんね」
「いや、いいんだ。君の方に問題がなければそれで大丈夫だ」
「ほんとごめん……」
僕が100%悪いのに、大宮さんは一切僕のことを糾弾せず、僕の無事を心配してくれていた。そのことに申し訳なさを感じながらも、話題を変えるために彼女に質問を投げかける。
「それで、僕に何か用事があったんだよね。どうしたの?」
「おっと、そうだったそうだった。忘れるところだったよ。えっとね、単刀直入に言うと、私に勉強を教えてほしいんだ」
「えっ」
「実は、あまり成績が芳しくなくてね。毎回テストも赤点をギリギリ回避するくらいの点数でさ。親から『次のテストで全教科60点は取らないと、部活の助っ人を禁止する』と言われてしまったんだ』
「はあ、なるほど……」
「それで、一人で勉強していたのだが、なかなかどうして捗らなくてね。わからないところもたくさんあるし、こうして君に聞きにきたというわけだ。それで、どうかな?」
「ああ、うん。僕で良ければ」
大宮さんのお願いを二つ返事で了承する。それにしても、あの完璧超人に見える大宮さんにも普通の学生と同じような悩みがあるとは思いもしなかった。勉強に悩むその姿が昔の自分と重なって、一気に親近感が湧いてくる。それに、憧れの大宮さんに頼られて、素直に嬉しい。自分磨きの一端でたくさん勉強しておいてよかった。
「本当かい!? ありがとう! では早速で申し訳ないが、数学のここなんだけどね……」
「ああ、これは……」
こうして、僕と大宮さんの奇妙な関係が始まった。彼女は頭が悪いというよりはやっていないだけと言えるタイプだったようで、飛んでくる質問の鋭さに冷や汗をかくことも少なくなかった。
彼女の勉強に付き合うこの時間は、僕にとっても有意義な復習時間であるとともに、勉強の合間に挟まる雑談の時間が大変楽しいものであった。話す内容はお互いの最近あったことや、好きな食べ物などのパーソナルな話題など、ともすれば彼女のファンに刺されてしまうと感じてしまうくらいのものだった。
「あっ、そうだ。良ければなんだけど、明日ウチに来ないかい? テスト前で部活の助っ人もないし、せっかくの休日だからがっつり勉強したいんだけれど、どうかな?」
「ぶっ! ごほっ!ごほっ! びっくりした……!」
「大丈夫か!? ほらっ、このハンカチ使って!」
そうして、彼女との勉強を始めて数日が経ったある金曜日、彼女からの提案につい飲んでいたお茶を吹き出してしまった。それくらい、彼女の提案は衝撃的で、自分の聞き間違いを疑ってしまう。
「僕が、大宮さんの家に……?」
「ああ、君に教えてもらう以上、図書館とかでやるわけにも行けないだろう? 明日両親も出かけているし、ちょうどいいと思ったんだ」
「誘ってくれたのは嬉しいけど、いいの?」
「いい、とは?」
「その……ファンの人たちとかに何か言われない……?」
「そのことなら心配いらないさ。何かあったら私が対処しておくから。それで、予定とかは問題なさそうかな?」
「うん、明日は何にもないから、大丈夫だよ」
「決まりだね。それじゃあ明日、学校前に10時集合ね」
とんとん拍子で埋まっていく明日の予定。流れに任せて了承してしまったが、もしかしてかなりやばいことをしてしまっているのではないかと、今更ながらに気がついてしまった。しかし、僕との勉強会の予定を楽しそうに話す大宮さんを見ていると、とてもそんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。「最悪、この関係がバレたら腹を括ろう」と内心で覚悟を決めて、彼女と予定のすり合わせをするのであった。