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ヒーローに憧れてる女の子が助けたヴィランの女の子に誘拐されちゃうお話し(前編)


 〜〜はじめに〜〜


 こちらの作品は、去年リクエストを募集した際に受けたけれど、書くことができなかった「ヒーローに憧れてる女の子が助けた人に騙されて捕まっちゃうお話し」です。

 

 当時の構想から少し変更(メモ喪失しちゃった笑)していますが、脳内保管の記録で完成させるつもりなのでよろしくお願いしますです!


 ではでは、まずは前編のみですがお楽しみください!


—————以下本文——————


 幼いころから、白姫透花(しらひめとうか)はヒーローに憧れていた。

 ヒーローはカッコよくて、みんなの頼りになる存在だから。

 そういった強い象徴に自分がなりたくて、憧れた。

 だって、ヒーローは諦めないのだ。

 どんなピンチに陥っても、諦めることをしない。

 夢を追うことも、理想を叶えることも、投げ出すことも、しない。

 目の前にどんな試練が待っていようとも、己の信念を貫き通す強い魂を持っている。

 

 なのに、透花は「ギフト」に恵まれなかった。


 何故か「持たざる者」として、この世に生まれてきてしまったのだ。


 ギフトは親の遺伝を色濃く受けるもので。人類に与えられた特別な能力である。

 強弱はあれど、この世に生まれてくる人間は、何かしらのギフトを授かるのが当たり前の摂理だった。

 透花の身の回りの誰もかれも、常日頃から己のギフトを自由に使いながら、不便な生活を彩のあるものへと変えている。


 にもかかわらず、透花にはそれがない。


 どんな最新医療をもって検査を繰り返しても、「全くもって」と言っていいほど、ギフトを所有している可能性はゼロだった。


 透花が生まれながらに両親に捨てられたのは、それが理由なのかもしれない。


 物心がついてそのことを知ったとき、透花はあまりの現実に絶望してしまった。

 来る日も来る日も、自分の価値のなさに嫌気がさして、消えてしまいたくなった。


 ——けれども。


 それでも透花は、ヒーローに憧れた。

 心の底から、誰かの力になりたくて、困っている人の力になりたくて、憧れた。

 たとえ、みんなから否定されても。

 この世界から爪弾きにされても。

 それは誰にも譲れない透花だけの想いだから、憧れ続けた。

 

 だから、透花は孤児院での暮らしを続けながら、困ってる人には積極的に関わるようにしてきた。

 泣いてる人。悩んでる人。怒ってる人。

 そういった不安な感情が溢れ出してる理由は人それぞれだったけれど、みんなに共通して言えることは、抑えきれなくなった感情を理解してもらいたい。誰かに自分の苦しさを、辛さを、悲しさを、努力してきた想いを、少しでも知って欲しい。という願いを、胸の内に持っていることだった。

 そして、それとは別に、どこにもぶつけられない憤りみたいなものが、助けを求める人たちの根っこにあるように思えた。


 みんな、結局のところは孤独で、寂しいのだ。


 そのことを持たざるものである透花が知ったからと言って、何かがどうなるというわけではないけれども。

 少なくとも透花は、困っている人たちの理解者になりたいと思った。

 例えそれが「独りよがりの偽善だ」「本当に理解なんてできるはずがない」と周囲から否定され、嘲笑されたとしても。

 透花は、白姫透花だけは「誰かの理解者」に「その人のヒーローになってあげたい」と心の底から思っていた。


「今日のボランティアはこれを頼みたいんだが、お願いできるかい?」


「はい! 私に任せてください!」


 学校が終わった放課後。

 透花は孤児院に帰ることはせず、ボランティア活動という名の奉仕活動をおこなっていた。


 それは、透花にとってはいつもと変わらない日常。


 学校指定の制服姿のまま、持たざる者特有のアルビノ色に染まった白い髪の毛をなびかせて、街中を散策し、困っている人を見かけたらその人のお手伝いをする。

 日によっては、学校を通して依頼もあり、ゴミ拾いのお手伝いだったり、公園の雑草取りだったり、駅周辺の清掃だったり、と公共的なボランティアが多いけれども、それはそれでやりがいがあって透花は好きだった。


 だから、今日も学校を通して依頼されたボランティアを脇目も降らず一生懸命にこなしていく。


 そんなときだった。


「——————ッ!?」


 砂塵が舞う強烈な爆風が当たりを包み込んだかと思えば、目の前には悲惨な光景が広がっていた。

 建物は崩れ、崩落した瓦礫が道行く人々を襲い、辺り一面パニック状態。


 その現状から考えられる要因は一つ。

 ヒーローに仇なすものであるヴィランが街を襲ったのだ。


 ヒーローは、己の信念のもと人助けのためにギフトを使うけど、――ヴィランは違う。

 ヴィランは、己の欲望に忠実で、他人を傷つけるために力を使う。

 周囲のことなど考えず、裁量なしに力をふるうから、大きなギフトに恵まれているヴィランであればあるほど、その被害は大きくなってしまう。


 今回のヴィランはよほど強いギフトを授かって生まれてきたのだろう。


 その被害はあまりにも甚大だった。


「だ、大丈夫ですか!? 今助けます!」


 道行く人たちは災害に巻き込まれないように一目散にその場から逃げ去り、取り残された人たちは大小かかわらず怪我を負っているようだった。


 それが、今もなお繰り返され。


 ヴィランのギフトによって、建物が次々と崩壊し、瓦礫の山が築かれていく。

 なのに、周囲にヒーローの姿はない。

 ヴィランが力をふるってから間もないせいなのか、まだ誰もヒーローは到着していないようだった。


「こっち! こっちに避難してください!」


 だから、透花は必死になって、逃げ遅れた人々に手を差し伸べていく。

 たとえ、持たざるものであっても、自分の目の前で起きている悲惨な現状から目をそらしたくないから、全力で自分にできる力を注いで人々を助けていく。

 ヴィランと戦うことはできないが、避難誘導をするだけなら透花にもできる。だから、迷いはなかった。


「すまない……っ! 助かった……!」


「無事でなによりです! でも、ここはまだ危険なので安全なところへ早く逃げてください!」


 その甲斐もあってか、ヒーローが到着したころには、動ける人の避難誘導はほとんど終わっていた。

 透花の迅速な対応が、人身被害を大きく防いだのだ。

 とはいえ、まだ逃げ遅れている人もいる。

 その人たちも早く助けないといけない。


「————」


 重症を負っている怪我人の対応に追われるヒーローたちを横目に、透花は瓦礫の散らばる街へと向かおうとする。


「すまないが、ここはキミのような一般人には危ない場所だ。あとは僕らに任せてキミは避難してくれないか?」


 だが、そこへ声をかけてくる一人のヒーローがいた。

 透花はヒーローではないから、たしかに危険だということはわかる。

 でも、今は僅かな時間でもほしい。

 そこで重傷を負っている人たちのように、急がないと手遅れになる人がいるかもしれないのだ。


「でも、まだ避難できてない人が大勢います! 私は大丈夫なので! 他の人を助けてあげてくださいっ!」


「――おい!? なにをいってる!? キミはヒーローじゃないんだぞ! 早く戻りなさい!」


 自分を呼び止めるヒーローの言葉に耳を傾けることもなく、透花はまたも危険な場所へと足を向ける。

 自分がヒーローになれないことは痛いほどわかっている。

 けど、そんなこと透花には関係ない。

 だって、透花の知っているヒーローはどんな試練にも立ち向かう。

 たとえ、力がなくても。

 ギフトを授かることのなかった持たざるものであったとしても。

 それが無謀だと嘲笑されても。

 透花は、人を助けることをやめない。

 やめてはいけない。

 それが、白姫透花の、誰にも譲れない――信念だから。


「あれって、女の子……!?」


 ヒーローたちが駆けつけている大きな瓦礫が積み重なる表通りとは別にある比較的被害の少ない路地裏のほう。

 先ほど通ることがなかった通りで、透花は倒れている女の子を見つけて、一目散に駆け寄る。


「大丈夫!? 怪我は……ッ!? ——ッ、この子気を失ってる……?」


 女の子に意識がないことを悟り、透花はすぐさま女の子の外傷を確認するが、めだった怪我はない。

 呼吸や脈も乱れている様子はなく、穏やかだ。

 これなら、命に別状はないだろう。

 けれども、なにか違和感がある。


 それは、女の子が身に着けているものだ。


 一見したところ、女の子の服装は白いブラウスと淡いピンク色のフレアスカートに見えるけど。

 なんだろうこの服は。

 普通の布じゃない。

 あどけない清爽な少女らしい雰囲気とはかけ離れたゴムみたいにギュチギュチとした肌触りがするアダルトチックな大人の妖艶さが垣間見える繊維を纏っているのだ。

 それに女の子の首もとには、チョーカーと表現するには難しすぎるほど幅広な首輪のようなものまで嵌められて、そこから気性の荒い大型犬に繋ぐような野太いリードが垂れ下がっている。

 10歳前後の女の子が、おかしな衣服に首輪とリードなんかつけて、こんな場所で何をしていたんだろう。

 

「って、早く避難させなくちゃ!」

 

 だが、今は細かいことを気にしている場合じゃない。

 女の子を一刻も早く安全な場所へ連れていくのが優先だ。

 

「大丈夫だよ。いま、安全なところへ連れて行ってあげるからね」


 透花は、力なくうだれている女の子をどうにかして背中に背負う。

 そして、すぐにその場から離れようとした。

 のに――


「あ、あれ……? なん、で?」


 足が何故か動かせない。

 地面に両膝が引っ付いたまま微動だにしなくて、立ち上がれなかった。


「あはは……っ! お姉ちゃん、捕まえちゃったぁっ!」


「え? なに言って――」


 その理由を透花が確かめる前に、女の子の無邪気な声が耳元に響いてきて――


「——んぶッ!?」


 ――口が淡いピンク色の何かに覆われると同時に、視界がブラックアウトする。

 

「ンぶッ、んごおぉおおぁあッ!?」


 両手は背中に背負う少女を支えるのに使っているから、首から上の顔だけを前後左右に振って、抵抗するけど、分厚くて重たい何かが透花の頭に被さるように、目や鼻、口と耳の中に至る頭のすべてにへばりついて離れてくれない。

 それは、ゴムのような弾力があって、収縮性を兼ね備え、それでいて、変幻自在に形を変えられる液体のような何かだった。


「ン、んぉおおッ、お、おぉ……ッ!?」


 声を上げようとする口の中が完全にその弾力に埋め尽くされ、硬化が始まったのか、次第に舌の僅かな動きや顎の些細な可動域までもほとんど動かせなくなる。

 耳の中は耳栓をしているときのような、異物の詰まった感覚に支配されていて、ぐちゅぐちゅと響いていた液体の動きが静まれば、自分の心臓の音が激しく鳴り響く音だけが聞こえるようになった。


「オごッ、おぉお……ッ! んぉおおッ……っ!?」


 こんな状態でも唯一救いなのは、鼻の中もそれに浸食されているはずなのに、顔を覆っている液体だったものが硬化したあとも、鼻での呼吸が確保されているということだけ。


「~~~~~~ッ」


 最終的に透花の顔の輪郭は、淡いピンク色の塊になるように真っさらにコーティングされ、完全にゴムのような膜で圧縮されてしまっていた。

 その顔はまるで、店頭に飾られたマネキンのように無個性な姿だった。


「えへへ、苦しい? 辛い? でも、お姉ちゃんはね。あたしのお人形さんになるしかないの。だって、お姉ちゃんはもうあたしから逃げられないんだから!」


「ンッ、んぐッ!? んむうううっ!?」


 あははっ、と無邪気に笑いながら、透花の首元を両腕でホールドしてくる女の子から告げられた言葉を聞いて、透花はやっと理解する。

 これは透花が助けようとした女の子のギフトだ。

 女の子が身に着けていた服がゴムみたいだったのは、それが女の子自身のギフトで作り上げたものだったからだ。

 かなり珍しいタイプだが。たぶん、物質を形成するタイプのギフトに違いない。

 でも、それがわかったところで、今の透花には何かができるわけじゃない。

 ただひたすらにこの試練を耐えることしか透花には許されていなかった。


「ふふ、これからあたしのコレクションになるお姉ちゃんには、新しい服をプレゼントしてあげるね?」


「ンんッ!? んん、ん~~~ッ!?」


 理不尽な言葉と一緒に、首元から離れる女の子が透花の制服に触れた瞬間。

 透花が身に着けている制服が、一瞬にして――ドロリ、と溶けた。

 お気に入りの下着も、スカートも、身に着けていた何もかもが溶け落ちて、持たざる者特有の真っ白に透き通る肌が、溶けた繊維の隙間から露出する。


「拘束衣っていうんだけれど、お姉ちゃんは知ってるかなぁ?」


 けどそれも、つかの間の出来ごと。

 溶けた繊維がゴムのような弾力を兼ね備えた淡いピンク色の液体に生まれ変わると、それはクモの糸が編み込まれていくように透花の育ち盛りの胸や、肩、下腹部の周りから股下。さらには細い二の腕の先にある指先までも包み込み、異様なほど袖の長い衣服を形成していく。

 

「ンんーーーッ!?」


 透花は、その忌まわしき液体からなんとか逃げ出そうと両手を振り回して抵抗するが、それは何の意味も持っていない。

 クモの糸のように絡まり合う繊維は、ミチミチと透花の白い柔肌を締め付けながら、確実にゴムのような衣服を縫合してしまう。


 ——ギチチッ、ミチッ。


 ものの数秒で、毎日欠かさず絞り込んでいた透花の美しい身体の曲線が、淡いピンク色をしたゴムのスーツの上に露になっていく。

 育ち盛りの張りのある胸は、アンダーバストから乳首の先端までが浮き彫りになるほどぴっちりと強調され。

 長い袖に閉じ込められた両手の指先はゴムの繊維に一纏めに固められ、手のひらを開くこともできなくなる。

 でも、それは衣服が形成されたまでに過ぎない。


「ン、んんッ!? んぐっ!? んむぅうッ!?」


 次の瞬間には、淡いピンク色をしたゴムの衣服の各所に垂れ下がるさらに色濃いピンク色のベルトが、意思を持った生き物のように一斉に動き出し、透花の上半身を瞬く間に拘束していく。

 まず最初に施されたのは、コルセットのように腹部を覆う数多のベルトが織りなす装飾だった。

 ただでさえ淡いピンク色の繊維に引き締めつけられている透花のウエストを、それらの色濃いピンク色のベルトが覆いつくし、アンダーバストを強調するかの如く、腹部を反らせるほど締め付け、さらにはレオタード状に淡いピンク色の繊維が覆っている股間にさえも、三点の色濃いピンク色のベルトが走り込み、股間のスジがきっちり見えるほどミチミチに締めあげてしまう。

 

「ン!? ンんッ!? ンん~~~~ッ!?」


 そのなんとも言えない刺激に透花が声を漏らしてるうちに、両腕が胸の下で組むように勝手に交差して、袖の先から伸びるベルトが背面で強引に結ばれていく。

 二の腕には、胸の上から乳房を抑え込むように真横にまとわりつく幅広なベルトが締めつけられ。

 挙句、交差した腕が上下に動かないよう胸の間を縦一直線に這う一筋のベルトも添えられてしまうから、透花の上半身の自由は完膚なきまでに封印されてしまっていた。

 

「ンぉッ、おぉぉッ……ぉぉッ!」


 これだけでも十分なほど、透花の自由はないに等しい。

 だが、ドロリ、と溶けた制服の繊維は、透花の知らぬ間に、下半身にある両足にも影響を及ぼしていた。


「ンむうううッ!?」


 透花の両足は、地面に膝をつくどころではなく。ミチミチと収縮する淡いピンク色のゴムの膜に包まれて、その上から幾重にも幅広のベルトがかさばり、正座をするように折り曲げる形で無理やり束縛されていたのだ。

 これでは、走って逃げることも不可能だ。

 

「あは! あたしの思った通り! その服とっても似合ってて可愛いよ! お姉ちゃん!」


「ンん~~~ッ!?」


 淡いピンク色の繊維によって、つま先から頭のすべてを完全に拘束されている透花に抱き着いて、無邪気にしゃべる女の子に狂気を覚える。

 この女の子は、常軌を逸脱してる。

 そんなの、一番最初の言葉からわかっていた。

 わかっていたのに、透花は何一つ抵抗する暇もなく、捕らえられてしまった。

 ただ、理不尽に自由を奪われてしまった。

 その一方的なギフトの使い方は、ヴィランの悪意そのものでしかない。


 そう、この女の子はヴィラン。

 ヴィランだったのだ。


 ――逃げなくちゃ。

 ――今すぐ逃げないと。

 ――これ以上何をされるのか、わからない。


「んぐぅううッ、んぐっ! うぅううッ!」


 透花は、女の子を振りほどくように拘束衣を纏わされた上半身を左右に振って、暴れる。

 だって、透花はこんなこと望んでいない。

 こんな意味も分からず拘束されたいなんて思っていなかった。

 透花はただ、女の子を助けようとしただけだ。

 こんな訳のわからない拘束衣なんて脱ぎ去ってやりたい。


「なになに? もしかして、お姉ちゃん、あたしから逃げようとしてるの?」


 その惨めな抵抗を見かねてか、女の子は透花から一歩離れて、残念そうに様子をうかがう。


「んむぅうううッ!? ん、んぐッ! ンんんん~~~ッ!」


 女の子の問いかけも無視して、透花は続けざまに身体を激しく暴れさせ、拘束から抜け出そうと手足に力を込める。


 ミチチチッ。


 ギチッ。


 ギチチチチッ。


 しかし、そんな軟な抵抗では透花に着せられた淡いピンク色の繊維はビクともしない。

 女の子の作り出した繊維の強度は、クモの糸よりも硬く、ゴムよりもしなやかで柔軟。それでいて、人智では計り知れないギフト特有の収縮性を兼ね備えた特別なものだ。


「んぉ、おぉおッ! おッ、ンぉおおおッ!」


 ただの少女と変わらない。持たざるものである透花が全身に力を入れたところで、ただ、ミチミチッ、とゴムの軋む音が響くだけ。

 何一つそれに変化はなく、透花の柔肌に密着したそれの繊維に傷がつくことはない。


 いや、それどころか。


 透花が動けば動くほど、繊維は透花の身体の形をさらに覚え、常に最新の形状へその姿を更新し、計り知れない密着性を発揮していく。

 それは、透花の上半身を拘束している拘束衣だけではない。

 透花の顔や両足を拘束している繊維も同じだった。


「んぐ、うぅううッ、んむうううううッ!」


 それでも、透花は諦めず何も見えない視界の中。抵抗を続ける。


 ミチチチッ。


 ミシッ。


 ギギギギッ、ギシッ。


 その甲斐もあって、淡いピンクの繊維は透花の柔肌に完全に馴染み、一種の癒着のような症状まで引き起こしていく。


 それはスーツと肌の一体化。

 

 透花の柔肌の一部になるかのごとくゴムの繊維が細胞レベルで密着し、透花の身体とスーツとの境目を限りなくゼロに近づけてしまってるのだ。

 このままそれが続いてしまえば、透花の

肌からスーツを引き剥がすこともできなくなるのも時間の問題だった。

 でも、透花はそんなことは知らない。

 ただ必死に、自分の身体を束縛している繊維から逃げ出すために全力をあげる。


 ミチチッ、ミシッ。


 ギシッ、ミシシシッ。


 何度も、何度も、諦めずに。


 ギチッ、ギチチチッ。


 ミシッ、ミチチチチチッ。


 スーツの拘束から抜け出そうと頑張る。


「〜〜〜〜ッ、っ」


 しばらくして、それが無意味な抵抗なのだと透花はやっと理解する。


 どう頑張っても、この繊維は透花には破けない。

 この拘束から、自力で抜け出すのは不可能だ。


 だから、透花は戦略を変える。


 今度はウジ虫のように地面を張って、この場から逃げようと全力を尽くす。


 脱出するのが困難なら、近くにいるヒーローに助けを求めるしかない。

 それしか、透花が助かる手段は残されていない。


「ンぶぅッ……ッ! んぐぅうううッ!! うぅううッ!」


 そう思って透花は無様な声をあげながら、地面を張って動く。

 自分が今、どこに向かっているのか。どんな姿をしているのか。誰に助けを求めようとしているのか。それさえも透花には視認することができないけれども。


 透花はまだ、諦めたくなかった。

 透花はヒーローになりかたったから。

 こんな場所で終わりたくなかったから。


 全力で、助けを求めて地面を這う。


 だが、それが良くなかったのだろう。


「あはは! やばっ! お姉ちゃんめっちゃ可愛い! こんな状態でもまだ諦めないとかマジやばい! あ~、どうしよ、お姉ちゃんのこと大好きになっちゃった。お姉ちゃんのこといっぱい可愛がって遊びあげたい!」


 ヴィランの女の子には、何もできないのに諦めない透花のその姿があまりにも魅力的に見えてしまったらしい。

 先ほど以上の執着的な視線を透花に向けて、ウジ虫のように地面を張っている透花を視界の中心にとどめてしまう。


「ンんッ! ん、ン~~~ッ! んむぅうううううッ!?」


 それが嫌で。怖くて。透花は先ほどよりもさらに全力を挙げて、この場から逃げようと必死になる。

 ビクビク、と小刻みに震えるように。

 ただ、助かりたい一心で、無様に身体を動かす。


「う~ん、本当はこのままお姉ちゃんといいことして遊びたいんだけれどぉ〜? この辺はなんか危ないし、ちゃんとおうちに帰ってから、じっくり遊んであげたほうがいいんだよね? だから、ちょっと狭いけどお姉ちゃんを運ぶための入れ物用意してあげる」


「ン……ッ!? ンんッ!?」


 しかし、女の子は無情にも透花が膝をついている地面に触れ、ギフトを発現する。

 ——ドロリっ、と地面が一瞬で溶けだし、淡いピンク色の液体状になったソレが、


「ンンんんんんんッ!?」


 透花を瞬く間に包み込んでいく。

 それは、外部に形成されていく四角い箱に収まるように、拘束された透花の身体をコンパクトな形状に折り曲げ、両膝を胸に抱え込むような姿勢になるまで透花を強引に圧迫してきた。


「~~~~~~ッ!?」


 母のおなかの中にいる胎児のような姿勢のまま、何一つ動けないことに、透花はパニックを起こして叫ぶ。

 ありとあらゆる方向から身体が押し潰されて、呼吸をすることもままならないのだ。

 パニックにならないほうがおかしい。


「〜〜〜〜〜ッ、〜〜〜〜〜っ」


 だが、その声は外まで届かない。


 そこには、淡いピンク色のキャリーケースがちょこんと存在しているだけだった。


「おうちに帰ったらいっぱい楽しいことして遊ぼうね、お姉ちゃん!」


 女の子はそのキャリーケースの持ち手に手をかけると、当たり前のように歩き出す。


「~~~~~~~~~ッ! ~~~~~っ!」


 自分の身体がどこかへ持ち運ばれている感覚を覚えて、透花は何も見えない視界の中、何度も声をあげる。


 けれども、その声はどこにも届かない。


 ただ、キャリーケースを携えた女の子が街の中へと消えていくだけだった。

 


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