【自縛趣味の女の子と拘束されちゃうあたし】後編
Added 2021-05-09 04:46:44 +0000 UTC「嵌めていきますね」 ギュッ、ギュッ。 「……っぅ」 ——本革製の首輪。 手のひらほどの幅の革の帯が首に巻きつけられる。 それは先ほどまで、シホリの首に嵌っていたものだ。肌に触れる拘束帯から、ほんのり、とシホリの温もりが伝わってくる。 ギュッ。 大型犬に使われるものとほぼ同じ大きさの首輪は、重厚で、堅牢。 人の首に嵌めるために作られたとは思えないほど、頑丈な作りをしている。 拘束帯の上を這うベルトを、バックルに差しこんで、ピンで留めてしまうから、太い肉厚の本革を緩めるにはベルトを緩める必要がある作りになっている。 「首輪、嵌まりましたね」 その首輪をいとも容易く、コヨミの華奢な首へ装着してしまうのだから、恐ろしい。 「……うわ」 指先で首を圧迫する首輪を突いてみる。 ——カツッ、カツッ。 本当に嵌ってる。自分の首に、首輪が嵌ってる。 ペットが着けるものよりも、頑丈に作られた首輪を、公園のベンチで、女の子に嵌められるなんて、誰が想像しようものか。 「……ぅぅ、ッ」 呼吸がしづらい。 喉が圧迫されている。 息をするだけで変に首輪を意識してしまう。 首輪のせいで、首が窮屈になったからだ。 こんなことをして気持ちいいなんて、やっぱりシホリはどうかしてる。 どう考えたって、不便になるだけだし、肌を締めつけるように残り続ける窮屈さが不快で仕方がない。 それに、革の匂いもすごい。 学校の体育の授業のとき、ソフトボールのグローブを左手に嵌めたことがあるけれども、あれと似たような匂いが常に鼻腔を刺激してくる。 「次は手枷ですね」 「あ、うん」 にっこりと微笑むシホリの手に用意されていたのは手枷だ。 手を出すように言われ、右手をシホリに預ける。 首輪とほぼ同じ。肉厚な革の帯をコヨミの手首に合わせ。 ――ギュッ。ギュギュッ。 拘束帯の上を這う細いベルトを、バックルに通し、そのまま細いベルトを丁寧に締めあげてしまう。 革枷が手首からずれないように、“もっとも深い位置”で、ベルトの穴へピンを通して固定し、最後に余った細いベルトの先端部をポケットに差しこめば、一風変わったブレスレットのように、右手首に革枷が飾りつけられていた。 「――――」 シホリの手が離れても、ずっしりとした圧迫感を維持したまま、緩むことなく手首に残り続ける存在感に頬がひきつる。 試しに手首を軽く振ってみるけれども、軽く振った程度で、ズレる気配はない。コヨミの手首にピッタリ嵌りこんで、艶めかしい色合いを手首に残していた。 この革枷を外すにも、拘束帯を締めあげている細いベルトをバックルから外さなければいけないようだ。 「手枷って、すごい分厚いんだね、それにすごい硬そうに見える……気がする」 「本革製ですから、ちょっとやそっとじゃ壊れないくらい頑丈に作られてるはずです。硬そうなのは、まだ買ったばかりでして……ほとんど使ってないんです。なので、使っているうちに肌に馴染んでいくと思いますよ」 「へぇー、そうなんだ……」 「左も終わりましたし、次は腕枷も嵌めちゃいますよ」 「あ、どうぞ……っ?」 いったい自分は何の話をしているのだろう。 気を紛らわすために話題を振ったつもりが、全然気を紛らわせていない。逆に、余分な情報をもらってしまって、切り返し方が何も浮かばなかった。 本革製の枷? 頑丈に作られてる? 硬いのは新品だからで……使っているうちに肌に馴染む? どこをとってもコヨミを不安にさせる材料でしかなかった。 シホリが持参している拘束具が本格的なプレイに使用される“本物である”という事実を突きつけられただけである。 「できました。手首や腕が締まりすぎて痛い感じはないですか?」 考え事をしているうちに二の腕にも枷が嵌められていた。シホリからいらない情報を聞いたせいで、意識が別に向いちゃってた。 「え……っ? あ、ちょっと待って」 とりあえず、痛みがないかだけ、両腕を動かして確認してみる。 ギュッ。 動かすたびに革枷の窮屈さが強まってる感じはするけれども、痛いというほどではない。 たぶん、手首と違って、二の腕は大きい筋肉がある。筋肉が動いて膨張と伸縮を繰り返すから、拘束帯が腕を圧迫して、締めつけてくるのだ。 それ以外にはこれといって違和感はない。 「うん、痛くはないよ?」 「じゃあ、足枷も嵌めていいですか?」 シホリは目をキラキラさせて、獲物の足に食らいつこうとする肉食獣のように、コヨミの足首に狙いを定めている。 その手には革枷が握られていた。 「全部嵌めるつもりなんでしょ?」 「も、もちろんですっ!」 「だと思ってた」 苦笑い。でも、証明すると宣言したのはコヨミ自身だ。 シホリが足の革枷を嵌めやすいように、ベンチに腰掛ける。 地面に着地している足よりも少し浮かせたほうが嵌めやすいだろうと思っての行動だ。 「はい、嵌めていいよ」 「じゃあ、嵌めていきますね」 片足ずつ浮かせて、シホリに足を預ける。手枷どうように足にも革枷が嵌められていく。 ソックス越しに本革の帯が巻きついて、ベルトで締められてしまう。 装着の手順は今までどおり、変化はない。 ――あたし、なにやってんだろう。 ベンチの上で腕を組むとコツンッ、と手首の枷と腕の枷がぶつかり合う。 左右の二の腕に嵌められた革枷が、白いブラウスに黒いシルエットを刻みつけている。 この革枷は、いちど嵌められたが最後。ベルトを外さない限り、装着した部位に残り続ける。この異質な存在感がじわじわ、と胸の奥にモヤモヤしたものを作り出してくる。 「……っ」 そのモヤモヤの正体がわからなくて、革枷を触ってみる。表面はすごいなめらかで、高級感があふれているアクセサリーに見えるのに、ずっしりとした重みが確かにそこを締めつけていて、強靭な頑丈さをかもしだす本革は刃物を通すようには見えない。 なによりも、自分が“誰かの所有物”になるみたいに、装飾されているような気がして、すごく嫌な気持ちだ。 ――これ、外れるよね? 急に不安に襲われる。もし、外せなかったらどうしよう。 まさか、ここまで本格的な拘束具を自分が身に着けることになるなんて想像していなかったのだ。 シホリが足枷を嵌めているうちにベルトを緩めようとしてみる。 ギッ。 ――硬いッ。 細いベルトに指を掛けただけでわかる。 ベルトを緩めるどころか、ポケットからはずすのさえ難しい。 これは、片手だけじゃ無理がある。そもそも、自ら嵌めるのさえ、苦労するはずだ。 シホリはこの革枷を、自分の身体に、自ら嵌め込んでいた。それを成し遂げるには相当無理をしないと嵌めこめるはずがない。 ――ギッ。 もう一度、試してみるけれども、やはり硬い。 口も使用すれば、なんとか外すことはできそうかもしれないが、やってみなくちゃわからない。 「————」 恐い。すごく怖くなってきた。 「コヨミさん、足枷は連結しちゃいますね?」 そんなコヨミの気も知らずに、シホリは足枷に鎖を繋げていく。 ――カチッ。 「……れ、れんけつ?」 ――カチッ。 コヨミが問いを返したころには、足枷同士をつなぐ鎖が足もとに転がっていた。 鎖の長さは肩幅ほどしかない。 試しに両足を動かしてみる。 ――ガチャッ。ガチャッ。 鎖が邪魔をして、肩幅以上開けないし、これじゃ歩くのだって大変だ。 「連結は連結ですよ。鎖で足枷同士を繋ぎ合わせたんです。こうしないと拘束になりませんから」 「あ、あはは、あぁ~……うん、そうだよね。拘束されてるんだっけ、あたし」 ——あたし、なんで拘束されてるんだろう。 「コヨミさん……? どうしました……?」 シホリの顔が目の前にあった。ベンチに座るコヨミに覆いかぶさるように、顔を覗き込んでいる。 「へ……っ? いや、その……」 つい、顔をそらしてしまう。 人気のない公園で、出会ったばかりの女の子と二人きり。よくわからないけれども、コヨミはシホリが施す拘束を、一方的に受けいれていってる。 第三者から見れば、明らかに不自然な行為だ。夜の公園で辺りが静まり返っているといっても、コヨミとシホリの行為は、公共の場で行うには、断じて許されるようなものではない。 ――やってはいけないことをしてる。 指先に触れるなめらかな革枷は、今も変わらずコヨミの身体の各部位に嵌っている。爪でひっかいたくらいじゃ絶対に外せない拘束具を、心なしか爪で引っ掻いていた。 「あ、あのさ……」 唇が震える。 本当はこんなことしたくない。とシホリに本心を伝えるべきだろうか。 シホリに『証明してください』と言われた手前、勢いで話に乗ってしまった。 シホリに強く正論をぶつけてしまったのは紛れもない事実だし、そのことについては言いすぎた。とコヨミも反省している。謝ろう。とも思っている。 シホリの言い分が間違っていることを証明しようとしている自分が、今さら謝るのもおかしい気がするけれども、これ以上意固地になって本当に拘束されてしまうのは、やっぱりイヤだった。 まだ、上半身の枷同士が連結されていない今なら、引き返せるのではないだろうか。 「“コヨミさん!!”」 「な、なにっ!?」 突然大きな声で名前を呼ばれて気持ちが乱れた。考えごとをしてた頭がパニックになる。 「背中をこちらに向けて、両手を背中へ回してください!」 「え、いや……な、なんで……っ?」 「いいから早くしてください!」 「は、はいっ!」 とりあえず、言われたままに、指示に従っていた。 ——カチ。 首輪が引っ張られて、喉が絞まる。 ——カチッ。 そして、両手が背中へ高く、吊り上がって、 ——カチッ、カチッ。 腕が背中に引き寄せられた。 「はい、できました」 「——へ?」 胸を張る姿勢。 両手が背中で吊り上がったままガチャガチャと音を鳴らす。 「あ、あぁっ!?」 自分の身に起こったことが信じられなくて、ベンチから立ち上がる。 足首にも違和感がある。 足がぜんぜん開けなくて、歩きづらい。 そうだ。足は鎖で連結されてるんだ。 「こ、これ……こんな……ッ!?」 シホリのほうへ振り返ると、にっこりと笑みを浮かべてた。 「ぼーっとしてるので、上半身も連結しちゃいました」 ガチャ。 ガチャッ。 「——ッ!?」 やっぱりそうだ。手が背中に固定されている。 わずかに吊り上がる両手を動かすたびに、手枷と連結された首輪が喉に食いこんできて、首が締めつけられてしまう。 「う、うあッ、んわ!」 手首も、腕も、肩も、全部動かして、縛めから抜け出そうとする。でも、背中で連結された金具がガチャガチャ音を鳴らすだけだ。 ――ガチャ、ガチャガチャッ、チャッ。 「な、んな……っ、は、外れないっ、外れないんだけれど!?」 もう、パニックだった。少し前まで、自由に動かせたのに。シホリが背中で何かをした途端、手首が背中に吊り上げられて、固定された。 意味がわかんないし、外れない。 「ど、どうしよっ!? どうしたら……っ!?」 ――そうだ。ナスカンだ。 ナスカンのホックを外せば、外れるっ! ――ガチャ、ガチャガチャッ。 「……あ、ッ……あれ? なんで……っ? なにこれ、どうなってるの?」 指先で背中の金具を触ろうとするけど、手がどこを向いて、何を触っているのか、わからない。 たしかに硬い金具に指が触れるけれども、それが一体どの部分なのか全然わからない。 「し、シホリ……! これ、ど、どど、どうなってるのっ!? てか、一回外して! これ、ヤバいのっ! 外れないの!」 何もわかっていない。現状を理解してない。 とにかく、背中のこれを外すことしか頭になかった。 「ちょっと待ってくださいね」 「え、いや……っ、シホリっ? そこ、スカートの中……っ!?」 コヨミのスカートをたくし上げたシホリは、何かを腰に巻き付けてきた。 細長い質感のそれを股の下に通し、そして――。 ――ギュッ。 「――ひゃッ!?」 コヨミの大事な場所を、縦に割くように食い込ませ、固定してしまった。 股をよじっても、それがズレる気配はなくて、それどころか股をよじるたびに、さらに食い込んでくる感じがする。 ――擦れて気持ち悪いっ。 最悪だった。 両手は背中で連結されて、そこから動かせないのに。 シホリによくわからないものをアソコ――おしっこするところ――に擦れるように食いこませられてしまった。 ――ガチャッガチャガチャッ。 両手が自由なら、股を割く不快なものを外すこともできた。 でも、連結部位を外そうにも、指先は金具のどの部位に触れているのかわからず、限られた範囲を指で撫でることしかできない。 そう、指先が金具に触れても、掴むことはできず、金具の表面を撫でるだけなのだ。 それだけ高く、背中に両手が吊り上げられてしまってる。 こんなの、仕組みが分かっていても、外すなんて不可能だ。 「コヨミさん、落ち着いてください。まだ終わってないです」 「な、なにが……っ!?」 落ち着けるはずがない。今すぐにでもこの拘束を外してもらわないとどうにかなりそうだった。 心臓は激しく脈打って、心拍数がとんでもないことになっていそうなほど呼吸が荒くなっている。 激しい運動をしたわけじゃないのに。 ここまで身体が動揺して、異常に反応するなんておかしい。 今までの人生で一度も経験したことがない身体の反応がものすごく怖いかった。 「これも、咥えてください」 なのに、口に黒いボールが添えられる。 「な、なんで……? なんで咥えるの……?」 唇に触れる無機質なゴムの塊の感触は重くて冷たい。 「証明。してくれるんですよね? コヨミさんが言ったんですよ? “あたしが証明してあげる”って」 そうだった。コヨミは証明するのだ。 こんなことをして、気持ちいいはずがないということ。 それをシホリに証明する。 「さぁ、咥えてください」 「……ッ」 唇に黒いボールがまた触れる。 このボールを咥えたら、自分がどうなるのか理解している。 咥えたら、戻れなくなる。 咥えたらダメ。咥えたらお終い。 自ら身体のコントロールを、自由を手放してしまうようなものだ。 だって、見ていたのだ。唾液を零し、服を汚し、喋ることもできず、他人の言いなりになるしかないシホリのことを。 「いつまでボールギャグを見つめてるんですか? もしかして……拘束されて“気持ちいい”んですか?」 「ち、ちがっ!? き、気持ちいいわけないっ! そうじゃなくて……っ! そ、そんなんじゃなくて……っ」 声音が弱弱しくなって、消えていく。 心臓が飛び出しそうなほど胸の中で跳ね回ってる。ガチャガチャと背中で金具が鳴る。 呼吸をするだけでも苦しい。ましてや、手を動かすと首が首輪で締めつけられちゃうのだ。苦しくないはずがない。 「そうですよね? コヨミさんは、拘束されて気持ちよくなるわたしとは違って、変態じゃないんですから」 突然拘束されて、人がこんなにも焦っているのに。 にっこりと微笑んでいるシホリの表情が、ムカついた。 コヨミがこれほどまでに混乱しているのは誰のせいなのか理由は明白なのだ。 シホリに挑発されてるのはわかってる。 シホリは最初から、コヨミがこうなることを知っていた。 知っていたから、今も自信満々ににっこりと微笑んでいるのだ。 「こ、こんな球くらい咥えても、なんとも……っ、なんともないしっ!?」 出ていた言葉は反抗心むき出しの言葉。 そう、気持ちいいわけがない。ないのだ。 口に球を咥えるだけ。ただ、それだけのこと。 人間とキャッチボールをする犬でもできる。犬でもできることが、コヨミにできないはずがない。 何も怖くない。大丈夫だ。 咥えるからにはなんとしても証明してやるのだ。 「ほら、コヨミさん。口を大きく開けて、あ~~~んって、奥歯で噛みしめるように咥えるんですよ?」 「――んぁッ……あ~~ッんっ、あぅ、んむ”っ!?」 シホリのいうとおりに口を大きく開いて、黒いボールを咥えこんだ。 想像よりも大きくて、口の中が簡単にシリコンの塊で埋め尽くされてしまう。 「よくできました」 「んむ”っ、ん……ぅ、……んぅ、っ」 まだ自分で口に咥えているだけだから、舌でボールを押し出そうとすれば、吐き出すこともできる。 「そのまま舌で押し出さずに、もっと深く咥えこんでくださいね、後ろでベルトを留めますから」 でも、すぐにシホリが頬を割く左右のベルトを頭の後ろへ回してしまう。 「……んっ、ひゃぁ!?」 頭の後ろで金具が擦れる音が鳴ると、左右に伸びるベルトが頬に食い込んでくる。 シホリがボールギャグのベルトを調節してるんだ。 「かはッ——!?」 舌で押し出して浅く咥えこんでいた塊が、舌を押しつぶしながら、口の中を埋め尽くしてきた。 歯をむき出すように、奥歯を使ってボールを咥えこんでしまう。 「ベルト、留めますね」 カチッ。 「んぁっ……ん、あぅぅ……っ!?」 舌がボールに圧迫されたまま、行き場を失ってしまう。 ボールを押し出そうにも、頬に食い込むベルトが許してくれない。 頭の後ろで留められたベルトを緩めないと、口に咥えたボールを吐き出すことができなくなった。 「これでコヨミさんは、手も、足も、口も、全部拘束されちゃって……身体の自由を失っちゃいましたね……? どうですか? 拘束されて嬉しいですか? 気持ちいいですか?」 「――ひょんぁはへ、ふぁいっ!」 そんなわけないっ。と抗議したつもりだった。 でも、自分が発した声音が意味を持っていたように聞こえなかった。 ――それが酷く恥ずかしいッ。 「そんなに俯かなくても……いまのコヨミさん、とってもかわいいですよ? 拘束具を身に着けた女子高生なんてめったに拝めないですもん」 「……ッ」 冷静にならなくちゃ。シホリの思惑に乗ってはいけない。コヨミをからかって遊んでいるのだ。 まずは呼吸をゆっくりして、心臓の音を抑えないと。 吸って。 吐いて。 吸って。 吐いて。 「——んむ”ッ!?」 突如、口から唾液が溢れてきた。 「あ、ほら……俯いたりするから、唾液がすぐに溢れちゃうんですよ? ちゃんと顔をあげましょうよ。まだ始まったばかりなんですから」 溢すつもりはなかったのに。顎を伝ってブラウスに滴る。最悪だ。まさか、こんなにも早く溢れてくるなんて。 急いで顎を上に向けて、唾液が溢れないように姿勢を変える。 ——カチッ。 首もとで金具が連結される音が鳴った。 「——ングッッ!?」 それがなんなのか理解する前に、首がガクンッ、と引っ張られた。 ——ガチャガチャッ。 肩幅しか開けない足が前に進む。 「では、コヨミさん。拘束されても気持ちよくならないってこと。証明してくださいね?」 「ンムぅぅむううッッ!!?」 首を左右に振って、嫌がっても、シホリが握っているリードがグイッ、と引かれるたびに、足が前に進んでしまう。 「お散歩です、お・さ・ん・ぽ!」 にっこりと微笑むシホリの表情は実に楽しそうで、この瞬間を待ちわびていたかのようだった。 「ンムッ!? ングッ……ッ、ぅぅ、んぐぅ!?」 背中で吊り上がる両手に力を込めても、拘束は緩んでくれない。 ガチャッ。 ガチャッ、ガチャッ。 指が金具に触れても、首輪が引かれるたびに喉が締まって、拘束具の金具を外すことさえかなわない。 「ほら、抵抗しないで、ちゃんと歩いてください! コヨミさんが拘束されても気持ちよくならないってことを他の人にも証明していくんですから」 「——ッ!!」 こんな拘束されてる姿を、他人になんてみられたくないっ。 絶対嫌だ。 「ほら、行きますよ?」 「んむぅうううう””っ!!?」 しかし、リードがグイッと引かれるたびに、足が前に進んでしまう。 一歩ずつ。 確実に。 ベンチから遠ざかっていく。 「……ッぐ!?」 その歩みの重たさを知らせるように、股を割く異物がさらに食いこみ、大事な場所を刺激してくる。 「ンムッ……ッ、ぅぅ、ッ……ん!」 息が熱くて、呼吸が乱れてる。 ボールギャグから唾液が溢れて、地面に落ちていく。 妙に疼いている下腹部の奥が、ヒクヒクとせつなげに声を上げて、思考を掻き乱す。 「……ングッ、ん……ッ、ぅぅ!」 経験したことのない感覚が、全身を包み込むように、コヨミの身体を蝕んでいた。 「んふッ、……ぅぅ」 気持ちいいわけがない。 拘束されて、無理やりリードで連れ回されて、こんなことで感じるはずがない。 ――ガチャガチャッ。 背中に吊り上がる両手が無様に足掻く。 否定すれば、否定するほど、身体は熱をもち、心臓は激しく鼓動する。 ――あたし、なにやってるんだろう。 こんな風に拘束されると最初から知っていた。 自由を失って、拘束された姿のまま、シホリに好き勝手に弄ばれてしまうこともわかっていたはずだ。 わかっていたのに、どうして受け入れちゃったんだろう。 「……ッ」 ――逃げなくちゃ。 今すぐに、逃げなくちゃ。 このままシホリのいうとおりにしていたら、ダメだッ――。 ドンッ。 「――あッ、コヨミさん!?」 背中からの不意打ちで、シホリが姿勢を崩して前のめりに転ぶ。 リードを手放したのを確認して、咄嗟に駆けて逃げた。 後は見ない。とにかく、走ることにだけを集中した。 「ンムッ……ッ、ぅぅ、ッ……んッ!」 肩幅しか開けない歩幅でどこまで逃げられるかわからない。 わからないけれども、駆けた。 こんな拘束された姿のまま、シホリの好き勝手弄ばれるのは嫌だったから。 「ングッ……!?」 たどり着いたのは、妙に明るい場所だった。 街灯が密集していて、水が流れる音がせわしなくなっていた。 「おいおい、まじかよ……女の子が……!?」 誰かが大きな声を上げた。 特定の一人に対して、注意を向けるには十分すぎる大きな声。 「なにあれ……? ちょっと、ヤバいんだけど……!?」 その声に気づいた別の人がさらに大きな声を上げて、広場全体に木霊するように情報が伝染していく。 「AVの撮影とか? でも、学生にしかみえねぇ~、最近のAVってすげぇーんだな!」 気が付けば、周囲に野次馬ができていた。 男女関係なく連なる人の束。 ここは、この公園でもっとも一通りが多い場所。 噴水広場だった。 ――見られた。 人に見られた。 こんな恥ずかしい姿を。 拘束されて、涎を垂らしてる姿を、人に見られてしまった。 「――――ッ」 身体の淵から、何かが這いあがってきた。 ――ガチャッ、ガチャガチャガチャッ。 拘束された両手が暴れまわる。 無意味だとわかっているのに、暴れまわる。 「――ひ、ひはッ……!?」 説明しようとした。 でも、口に咥えたボールが邪魔をした。 まともな言葉が喋れない。 ――ここにいたらダメだ。 理由なんてない。 とにかく、人の視線から逃げようと足を動かした。 「――ンがッ!?」 首が締まる。 誰かにリードが掴まれた。 抵抗しようにも、拘束されてるから何もできない。 きっと、シホリだ。 シホリがコヨミを逃がすまいとリードを掴んだのだろう。 逃げられなかった。 このままシホリに好き勝手に弄ばれる。 コヨミはそう思って、振り返った。 「はは、まじかよ。コヨミちゃんじゃん! 何してんの?」 リードを握っているのは、金髪の男だった。 ニヤニヤと八重歯をむき出しにして、おもちゃを見つけた子どものように嬉しがっていた。 その男の顔には見覚えがある。いつもバイト先で絡んでくるあの男だ。 「ひがっ!? ――んぐッ!! んむぅぅうう””ッッ!!!」 周囲の人に助けを求めようとした。なのにリードで首を振り回されて、妨害されてしまう。 「ほら! 嫌がってんでしょ!? 見世物じゃないですよーー? 野次はさっさと帰ってくださーい!」 男の威嚇するような言葉。コヨミの事情を知っているかのような親しげな様子。 どこからどうみても関係者にしか見えない金髪の男の登場に、野次馬が早々に散っていく。 こんな夜の公園で、枷で身体を拘束されて、ましてや首輪にリードを垂らしてる女の子に関わろうと思う人なんて、まともな生活をしていたら、まずいない。 「まさか、コヨミちゃんにこんな趣味があるなんてねぇ……知らなかったわ」 「ひ、ひがぅほッ! ほへはッ――んぐッ!?」 「はは、首輪にリードとか、ペットじゃん」 「――ッ!」 「まぁ、いいや。一緒においでよ。もっと楽しいことしてあげるから」 「――んぐッ!? ひゃめッ、っ……ンがッ!?」 リードが強引に引かれる。 シホリのときとは比べ物にならない力だった。 とても、抵抗できるような力じゃない。 周囲には男の取り巻きがいて、コヨミを取り囲んで逃げ場を封じてた。 ――怖い。 足がすくむ。 ただただ怖いだけで、足が前に出ない。 これから何をされるんだろう。 このまま男たちに連れていかれたら、何もかもがお終いだ。 わかっている、わかっているのに。 歩かされる。歩くしかない。 男たちに従順についていくことしか今のコヨミにできることはなかった。 ―――――――――――― 「んぁッ、……っッ! ひゃめぇッ……!! ンァっ、アぁッ……ッんん”ッ!?」 連れてこられたのは公衆トイレ。 男性用トイレの奥にまで連れていかれて、洋式トイレの便器に座らせられる。 「ここなら、だれも助けにこないよ」 男の手にはコンビニの袋から取り出された銀色のガムテープが握られていた。 海外映画などで女性が悪者に捕まった時に使用されていたものとそっくりなガムテープ。 取り巻きの一人が急いで買ってきたものだ。 「ひゃぇへッ!! はあひえッ!!」 ――ビリッ、ビリビリッ。 ガムテープが肌に触れる。 吸着してくる粘着性の質感が不快でたまらない。 それだけじゃない。 乱雑に巻きついてくるガムテープが限られたコヨミの自由を奪っていく。 「んむぅううう”っ、むぅぅぅぅぅううう”ッッ!!」 いまさら抵抗したところで無意味なのは知っている。 それでも、必死に声を出して叫んだ。 声を出して叫ぶことしか、抵抗できないのだ。 その間もガムテープでトイレに固定されていく。 「ングぅぅうう!!」 胸の上下を締めつけるガムテープがコヨミの動きを完全に奪いさる。 もう、トイレから立ち上がることもできない。 ――ビリッ、ビリッ。 それなのに、男の手は止まらない。 男はさらにガムテープをコヨミの足にも巻きつけていく。 無理やり膝を折り曲げさせて、股を晒すように、ぐるぐる巻きにして、固定していく。 連結された足枷が邪魔だったらしく、ガチャガチャ音を鳴らしていた金具だけ外された。 ぐるぐる巻きに、銀色に染められた足では、もう歩くことさえ叶わない。 完全に逃げる手段を失ってしまった。 「こんなところに縄も食いこませて、パンツも濡らして……コヨミちゃんは、ずっとこういうの望んでたんでしょ?」 男にめくられたスカートの中では、白いショーツに黒い染みができていた。 そこには男の言うおり縄が食い込んでいた。 シホリがあのときに施した縄だ。 コヨミが望んでそうしたわけじゃない。 無理やり施された縄だ。 「ん”ッッ!? ひはふッ!! ひはふほッッ!!」 首を横に振る。 否定する。違うのだ。コヨミではない。 それは本当だ。嘘じゃない。 「お望みどおりに、いじめてあげる」 なのに男の手は縄を掴んで、そして―― ――ギュッ。 「――ンガッ!!?」 縄が、深く、深く、奥に食い込む。 痛みとは違う。 閃光のような刺激が一か所に集まる。 逃げ場のない責めが襲ってくる。 「んはぁッ……はぁッ、ひゃめッ!?」 ――ギギュッ。 「んはぁッ、あんッ……ンン”ッッ!!」 ――ギュッ。 「ひゃめへえッッ!!」 縄が引かれるたびに腰が跳ねる。 求めていない刺激が、何度も何度もコヨミの一部分だけを虐めてくる。 ――ガチャッ、ガチャッ。 指先に虚しく触れるのは連結された金具だけ。 全部、これのせいだ。 シホリに拘束されてなかったら。 こんな革枷さえ嵌めてなければ。 口にボールギャグを咥えてなければ。 逃げることだって、助けを求めることだって、できたのに――。 「ングぅぅうううううッッ!!?」 激しい波が下腹部を襲った。 下腹部が勝手に動いて、腰が跳ねる。 自分の意思とは別の何か。 本能が叫ぶように身体は熱を発していた。 「こんだけ濡らせば十分だろ」 「ングッ、ぅぅッ!? ンム”ゥ”ッ!?」 男が自分のズボンを下げる。 ボロンッ。と出てきたのは肉棒だ。 大きく反り立つソレが、淫臭を振りまきながら、目の前でブラブラゆれる。 ――犯される。 こんなことになるんなら、最初からシホリなんか助けなければよかった。 そうすればこんなことにはならなかったんだ。 男たちにいいように弄ばれることも、犯されることもなかったはずだ。 ――あぁ、家に帰りたい。 「――――ッ」 目を閉じた。 閉じることしかできなかった。 男に犯される瞬間を見たくなかった。 周囲の音も何もかも聞きたくない。 自分の意識が消えてしまえと強く願う。 「……………」 静かだった。 男たちの声が消えて、気配も感じなくなった。 「コヨミさん。こんなところにいたんですね」 なぜか、シホリの声が聞こえた。 さっきまで男たちしかいなかったはずなのに、ここにはいないはずのシホリの声が聞こえるなんて、コヨミも、とうとうおかしくなったらしい。 「勝手に一人で逃げ出すから、こんなことになるんですよ? なんだかすごく怖い思いをしたみたいですし、次からは離れないでくださいね?」 いつになっても男に犯されず、シホリの声が続く。 「あーあ、こんなにガムテープを巻きつけられちゃって……。外すことも考えてからまいてくださいよ……。ホント……嫌な人たちですね」 「——ひほひッ!?」 目を開けるとシホリがいた。 足もとには、男たちが転がってる。 「なんですかその顔は? わたしじゃ不満ですか?」 不満といえば不満だ。 そもそも“誰のせい”で“こうなった”と思っているのだろう。 「——ンンッ! ンン“っ!!」 しかし、首を横に振る。 床に転がってる奴らよりも、シホリのほうが何倍も、何百倍もマシだし、シホリしか助けてくれる人がこの場所にいなかった。 シホリの機嫌を悪くさせたら、コヨミがどのような仕打ちを受けるのか想像できない。 「まぁ……? わたしのこと突き飛ばして逃げたコヨミさんが、あのまま犯されてしまうのを見ているのも良かったんですけれど……。さすがにそれはわたしの趣味ではないのでやめておきました」 助けてくれたのは気まぐれで、突き飛ばしたことは根にもってるらしい。 でも、コヨミだって同じだ。 困ってるシホリを助けたつもりだったのに、なんだかんだで、今はこんな目にあっている。 シホリに拘束されていなければ、ここまで酷いことにはならなかったはずなのだ。 「それと、どうやらコヨミさんは拘束されることに喜びを感じる変態のマゾってことも判明したので、賭けはわたしの勝ちでいいですよね?」 「——ひはふッッ!!」 それだけは違う。 拘束されて気持ちよくなってなんかいない。 「でも、コヨミさんのここ、ぐちょぐちょですよ? ほら、ショーツが透けて、おまんこに縄が食いこんでいて、すごくいやらしい臭いをぷんぷんさせてます。こんなの、男が見たら犯したいって思うのも無理はないですよ?」 違う。コレは男に無理やり縄を擦られたからであって、拘束されたからじゃない。 「苦しそうにヒクヒクさせて、今にも犯してくださいって鳴いてるようにも見えますし、コレは“お仕置き”が必要ですよね?」 「——ングッ! ンムぅゔ!」 「コレ何かわかります?」 ピンク色の小さな卵型の物体を見せつけられる。プラスチック製に見えるソレがなんだというのだろう。 「コレをコヨミさんのココに押しつけると……」 「——ッン!?」 「ふふ、簡単に入っちゃいましたね」 ひんやりとした塊がお腹の中に入ってきた。 どこの穴からお腹の中に入ってきたのか一目瞭然だった。 「あとは、このスイッチを押すと……」 ——ヴィぃぃぃッッッ。 「————ンァッ!?」 お腹の中から激しい振動が全身に広がってくる。 これ、ヤバイやつだ。 本当に、ヤバイやつだ。 「さぁ、コヨミさん行きますよ」 足枷の連結が完了すると、シホリに首輪のリードが引かれた。 ガチャ、ガチャガチャッ。 背中で変わらず鳴り響く金具の音がいやらしく感じた。いつまでコヨミを拘束しているつもりなのだろう。 はやく、はやくこの拘束から抜け出さないと。 「お仕置きですから、ベンチまではそのまま帰りましょう」 「——ッ」 男たちから解放されたのに、結局、シホリに拘束されたまま、弄ばれている。 「ベンチまでしっかり歩いてくださいね? そしたら、外してあげますから」 ——グィッ。 「——ンぁッ」 リードに合わせて足を運ぶ。 そのたびに縄が股に擦れて、不快感が全身に広がっていく。 違う。不快感だけじゃない。 お腹の中の振動と一緒に何かよくわからないものまで湧き上がってくる。 「ンァッ……んっ、んふ……っ、ぅぅ!!」 声が勝手に溢れる。 ボールギャグを強く噛み締めて、足を前に進める。 一歩。 二歩。 三歩。 少しずつ前に。前に進んでいく。 「——ッ、ンンっ……ッ、んふぅッ……ぅぅ、っ」 公衆トイレを抜けて、外に出た。 そこで足に力が入らなくなる。 今にも崩れ落ちそうな足取りで空を見上げる。 ——あたし、なにやってるんだろう。 空は暗くて、星さえ見えない。 騒がしく鳴り響く玩具の音が止まったのは、空が白く染まり始めた頃だった。 END