本記事は、「冒色の性夢-11」の下書き段階の文章をそのまま投下したものになります。そのため、完成品とは内容が異なる場合がございます。
その点を理解した上でそれでも読みたいという方は、どうぞご覧になってください。
前回の下書きの続きとなります。
踊り場という言葉をご存知だろうか?
折り返し階段――上り下りするとき、上から見れば動線が∩の字を描く間取りの階段に存在する、階段途中の床のことだ。
建物の階段を登る途中で、幅の広い平らなスペースを歩いたことは無いだろうか? 踊り場という言葉はまさにそのスペースを意味するのだ。
学校校舎の踊り場では大きな鏡が、俗に言う姿見が飾られていることがあり、七不思議エピソードの題材になっていたりする。
閑話休題。
僕は今、その踊り場に来ていた。
貴族っ娘と一緒に歩いた末、三階から二階に降りる途中で止まった。
三階と二階の中間、いうなればここは二・五階だ。
僕から見て左には上り下りの階段があり、前の壁には姿見が飾られている。
鏡と僕の間には、ここまで案内役をつとめた貴族っ娘がたたずんでいた。
左手に持っていたラスボス行きの鍵は、今は手元に無い。
おそらく、いや十中八九、貴族っ娘は体のどこかに鍵を隠している。歩く途中、彼女が鍵を持つ手を自分の胸元にやったのを僕は見逃さなかった。
後ろから見たゆえ、貴族っ娘の背中が鍵を持つ手の陰になって、彼女が鍵を隠した正確な位置まではわからないが。
「色仕掛けなら、小物を隠す場所は胸の中ってのが定番だけど……」
指をあごに当てて僕が考えを巡らせた、その直後。
「ん?」
立ち止まったまま動かないでいた貴族っ娘が、動いた。
彼女は僕に背中を向けると、ワンピースジャケットのスカートを両手でつまんだ。
そして一歩前に進み、姿見に自分の姿を映すと、鏡越しに僕を艷やかな流し目で見つめながら、
「たくしあげ、か……!」
スカートを両手で上にゆっくりと上げて、僕に自分の下着と太ももを披露した。
令嬢然とした綺麗なデザインの薄いピンクのショーツが、形の良い尻と太ももを可愛らしく、かつ艷やかに彩る。
普通の男子高校生なら赤面しつつ目をそらすか、あるいはダメだと思いつつもショーツを凝視してしまうか。
どちらにせよ、僕は理性を乱されていただろう。……淫夢の世界で味わった淫らな体験が無かったら。
「なんというか、うん。普通の色仕掛けというものをようやく受けた気がする」
不可抗力の形でこちらに密着してきたり、寸止めの性技を味あわせたり、媚薬ガスの副作用で体が勝手に動いたり。
形は違えど、今までの誘惑は往々にしてスキンシップが激しすぎた。
それらに比して、貴族っ娘のスカートたくしあげという視覚だけに訴える誘惑は異端だ。
過去の経験に無いという新鮮味はある。
けど、艷やかなのは眺めだけで、スキンシップが無いのがもどかしい。
鏡越しに向けられる濡れたまなざしに挑発され、僕の中に彼女の背中を抱きしめたい欲が湧き上がる。
相手からしないならこちらからシタい――そんな劣情が、僕の体を疼かせてくる。
「って。本来それが誘惑のあるべき形なんだけど……ん?」
僕は訝しんだ。貴族っ娘が動かなくなっている。
スカートをたくし上げてショーツと太ももを露わにしたポーズで、僕に背を向けたまま、微動だにしなくなった。
動かない。ポーズを維持したまま動かない。
かろうじて動くのは呼吸による体の反応、そして視線と表情ぐらいだ。
その彼女の表情が鏡越しに、艷やかに僕に微笑みかけた。
まるで、私から魅せるのはここまでですわ、とでも言うように。
「えーと……。ここからは僕の方から君に触れてみろってこと? 鍵が欲しいなら身体検査して奪えってことでいい?」
僕の確認に貴族っ子は満足げにうなずいた。どうやら正解らしい。
だいぶ前の話だが、満員電車ステージで似たパターンがあった。
誘惑美女の体をまさぐり、彼女が隠し持つ鍵を奪う局面。
この誘惑攻撃の厄介なところは、耐えきるにせよ堕ちるにせよ、僕から能動的に女体に触れることが避けられない点にある。
肉欲が抜けきっていなくて異性との接触を避けたい所に、貴族っ娘は堅実に、僕が一番イヤな手を打ってきたというわけだ。
「厄介だなぁ」
一言だけ僕は愚痴をこぼしたが、誘いに乗らない選択肢は無い。
ぐずぐずしていると教室で僕を追い回したもう一人の誘惑美女が来る。ここで貴族っ娘の意向に不平を言って時間を浪費するのは悪手だ。
「それじゃあ、失礼……」
僕は貴族っ娘の背後に立つと、まず彼女の制服のポケットを探っていくところから身体検査を初めた。
「やっぱり、見える所のポケットには無いか。って、くっつこうとしないで!」
ワンピースジャケットの腰回りのポケットに手を突っ込んでみたが、鍵の金属質な手触りは無い。
その確認作業の間、貴族っ娘はスキあらば僕を籠絡しようと体を押し付けてきたり、尻を突き出して下半身を密着させようとしてくる。
今でも彼女は自身の太ももで僕の肉棒を挟んでしまおうと、内股を開いて腰の位置取りを調整し、ハサミのごとく脚を閉じて――
「ダメだったら!」
太ももが閉じる直前、僕は腰をひっこめて官能を伴う接触をかわした。
淫夢の世界の経験上、誘惑美女は立ち素股を行う傾向が強い。僕としては要警戒の性技だ。かわせるなら無論かわす。
鏡越しに見える貴族っ娘の表情は子供っぽく拗ねていて悔しそうだ。涙目になっていて、ちょっとかわいそう。
「……情けをかけるのは禁物だ」
自分に言い聞かせて、慎重に僕は貴族っ娘の身体検査を続ける。
一見、ここまで僕が貴族っ娘にイニシアチブを握っているように見えるかもしれないが、実のところいっぱいいっぱいだ。
キスによる『女の子は僕を能動的に射精させてはならない』ルールの解除を狙われないよう、僕は背後から貴族っ娘の身体に触れている。
当然ながら、位置関係ごときで貴族っ娘の躰の豊満さは変わらない。
ワンピースジャケットの繊維がこちらの肌にこすれるたび、服ごしに乳房や腰つきの豊かな気配が伝わってきて、気が狂いそうだ。
「ううぅ……!」
動物的な欲求を自制する過程で、僕の口からうめき声が漏れた。
貴族っ娘はスカートたくし上げのポーズのままおとなしくなっている。押してダメなら引いてみろ、の作戦だろうか。
ちなみに暴力の類はダメだ。淫夢の世界は本来なら僕のような平凡高校生ではなく、異世界の勇者を仮想敵としている。暴力に訴えて強引に鍵を奪おうとしたら最後、反撃が恐ろしくなることは想像がつく。
だから僕は……僕の欲情にニヤニヤ薄笑いを浮かべてマウントを取っている貴族っ娘に、非暴力で鍵を奪おうとしているわけだが。
「む。もう、服の外側はあらかた調べ終えちゃったか。となると……うへぇ」
避けられない次の方針が頭によぎって、僕は顔をしかめた。
服の外側のすべてのポケット、隠しポケットや二重ポケットの存在、あらゆる可能性を考慮して身体検査をした結果、服の外側に鍵は無いと判断。
外側に無いとなれば、内側を調べるしかなくなる。
今までずっと調べるのを避けていた――服の、内側を。
貴族っ娘は鏡越しに僕へ艷やかな笑みを贈りながら、片手でスカートをめくりつつ、もう片方の手で僕に手招きしている。
「そちらはいつでもウェルカムってか……ええい、ままよ!」
僕は前に腕をめいいっぱい伸ばした。
身体検査で貴族っ娘に触れる際、すこしでも体と体の距離を離すために。
伸びきった腕を貴族っ娘の脇の下から通して、背後からおそるおそる、僕は彼女の胸元に触れた。
「ううっ。思ったより大きい……!」
指先からたわわに実った感触が伝わってくる。華奢な体格ながら、乳房の存在感は常人のそれではない。
俗に言う、トランジスタグラマーというやつか。小柄かつ高性能を貴族っ娘の躰は体現していた。
このまま、なにもかも忘れて彼女にしがみついてしまいたい――そんな欲求を振り払い、僕は身体検査を続けていく。
調べるのは服の内側だ。貴族っ娘のワンピースジャケットの下襟を掴んで、おそるおそる外側に開けていく。まずは右側。
と、ここで予想外の眺めが僕に襲いかかる。
ジャケットの右側を開けて、ぶるんと揺れた貴族っ娘の乳房。
そこに、本来あるべきはずのものが無かった。
「の、ノーブラ!?」
あろうことか、ブラジャーがついていなかったのだ。
白い肌が描く綺麗な丸み。
桜色に輝く乳首の突起。
下着に守られていない、無防備な乙女の乳房。
ノーブラという官能の眺めを不意打ちで魅せつけられ、僕は理性がグラつく。鏡に映る自分の顔が真っ赤になっている。
あるいは、理性がグラつく程度で済んだとも言えるか。もし手触りのみならず体すべてで密着なんてしていたら今ので終わっていた。
欲情と緊張、両方の意味で心臓がドギマギする。
それでも鍵探しの身体検査をやめるわけにはいかず、ジャケットの右の次は左を脱がせようと、僕が貴族っ娘の左の襟元をまくりあげたとき。
「ん?」
一瞬、鏡に銀色の輝きが映った気がして、僕は再度見る。
貴族っ娘の左乳首あたり、ジャケットの下襟の陰に鍵が見切れていた。
ジャケット左側の下襟の裏側。そこが貴族っ娘が鍵を隠した場所だ!
「ああもう。結局、胸元か! 色仕掛けの定番通りかい!」
こんなことなら躊躇せず、最初からジャケットを脱がせればよかった。
必要以上のタイムロスを自覚して僕は歯噛みする。
とはいえ、鍵の隠し場所を暴いたことに変わりはない。これで僕は一気に貴族っ娘より有利になれた。
その証左に、貴族っ娘は左胸に隠した鍵が見つかったことに動じたのか、冷や汗たらして苦笑いしながら鏡越しに僕を見て――
「……えっ」
貴族っ娘は、僕を見ていなかった。
鏡に反射する視線が僕からわずかにズレている。
僕ではなく、僕の後ろにいる人物を見ていたのだ。
教室で僕を追い回した、もうひとりの誘惑美女。
知らぬ間に彼女は現着し、僕と貴族っ娘の後ろにいた。
肩を震わせながら向けられる悔しそうな眼光。その異様な威圧感に、僕も貴族っ娘も思わず固まってしまった――