本記事は、「冒色の性夢-10」の下書き段階の文章をそのまま投下したものになります。そのため、完成品とは内容が異なる場合がございます。
その点を理解した上でそれでも読みたいという方は、どうぞご覧になってください。
ここまで、長かった。
我ながらよく今まで生き残れたものだ。
クイーンサキュバスの最期の手紙を読み終えて数分の休憩を挟み、いよいよ僕は白い部屋の出口ドアの前に立った。
感慨深くなり、今までの経緯に思いを馳せる。
一度でも射精したら理性をなくし、現実世界に帰れなくなる。そんな淫夢の世界にハダカで招かれてから、ずっと苦難の連続だった。
思春期男子の僕にはあまりに刺激が強すぎる、豊満な美女からの誘惑攻撃を何度も何度もはねのけて。
そしてついに、残りの誘惑美女があと四人という所まできた。
四捨五入すれば十ではなくゼロになる所まできた。
目の前のドアを開けて白い部屋から外に出たら、次は学校ステージが待っている。
学校ステージにおける三人分の誘惑を乗り切れば、残りの誘惑美女は一人になる。
よって次のステージは事実上、ラスボス前のラストダンジョンに等しいということになるわけだ。
「……大丈夫だ。僕ならいける。やれる」
不安を自信で塗り替えるため、僕はぶつぶつ呟いた。
無根拠の自信じゃない。今までの修羅場を乗り越えた経験がある。強敵を乗り越えてきた実績がある。
大丈夫だ……僕ならきっと、この先の誘惑も乗り越えて、現実世界に帰れる。
自分自身に語りかけてメンタルを調律すること、数十秒の後。
「よし」
覚悟を決めた僕は、息を止めてドアノブを回した。
* * *
ぷしゅううぅぅ!!
ピンクのガスが噴出音をたてて、視界一面を染め上げる。
ステージ開始時のお約束、媚薬ガスの洗礼だ。
過去三度この洗礼を受けていた僕はもう慣れたものだ。ドアを開ける前に息を止めたのは、このガスを直接吸わないためだ。
ただ、心なしか過去三度に比べて媚薬ガスのピンクが濃いような。ハダカの皮膚にしみるガスは防げないだけに、悪影響が気になる。
とはいえ、僕のやることは変わらない。この場から媚薬ガスが晴れるまで、息を止めて待つ。
そして、ピンクのガスが無くなり、視界が晴れてくると――
「……扉だ」
僕の目の前には、大きな扉があった。
左右に開くタイプの両開き扉だ。開けたら大人三人が横並びでギリギリ通れるくらいの横幅がある。塗装が所々はがれている、使い古されたシャトルドア。
ドアの上には、このドアの先にある部屋がなにかを表しているのだろう、施設名表示プレートがあって、こう書かれていた。
――第一体育館
「やっぱり、このステージは学校と考えてよさそうだ」
前回の誘惑美女の部屋で知った、『LV.4 学園校舎』の情報通りだ。
今後、体育館の他にも、図書室や職員室や教室といった、学校ならではの部屋も見つかることだろう。
ただし、僕の目の前にある体育館については、淫夢の世界の改変がなされた特別仕様なようだが。
「鍵穴が三つある……」
鍵穴がドアにあるとして、普通ならその数は一つ。
しかるに目の前の両開き扉にある三つの鍵穴は明らかに異常だ。
大金をつんだ金庫ならまだしも、たかが学校設備にこんな厳重な、それでいて鍵なんてアナログなセキュリティを重ねる意味がわからない。
淫夢の世界が、関与でもしていない限りは。
「これって、三つの鍵を探せってことだよな」
この第一体育館の鍵を三つすべて開けることで、最後の誘惑美女――すなわちラスボスへの道が開かれると僕は解釈した。
無論、僕が鍵を手に入れる過程を、敵が悠長に待つはずもなし。
途中で誘惑美女の妨害が入るのは間違いないだろう。
「……よし」
僕は決意を新たにした。とりあえず、やるべきことは決まった。
後ろに振り返ると、来たときに通ったドアが無くなっていた。廊下の壁があるのみだ。
なにもない白い部屋という安全地帯には、もう戻れない。
もとより戻るつもりもない。この淫夢の世界に甘えは期待できない。
「行こう」
僕は裸足の足を進めて、第一体育館の入り口を後にした。
三つの鍵を必ず手に入れて、ここに戻るという目標を胸に。
* * *
『ワタクシとは違う世界の出身であるあなたが淫夢に来た影響なのか、誘惑美女の力が強くなっているのよ』
『ステージ4と最終ステージの様子を見てきたら驚いたわ。気配が明らかに誘惑美女の人数分より多くあるから変だとは思ってたけど……まさか、本当に増えてるなんて』
クイーンサキュバスが最期に残した置き手紙の情報。
増えてる、の部分を素直に解釈すると「誘惑美女の人数が増えている」と捉えられる。
当初、僕はその危険性をまさかと思いつつも想定していた。考えたくない可能性だが、ありえるかもしれないと。
だけど今、僕は誘惑美女の追加を想定から除外している。
第一体育館の鍵穴が三つだったことが除外の根拠だ。
満員電車・プールサイド・ホテルと過去に突破したステージでは、慣例として三回の誘惑に耐えればステージクリアだった。
誘惑美女三人に、鍵穴は三つ。ほら、今まで通り三つではないか。
クイーンサキュバスが誘惑美女について「増えた」と手紙で言っていたのは、魔力が増えたとか、戦闘力が増えたとか、おそらくそういった感じのものだ。
この学校ステージの課題は、三人の美女の誘惑に耐えつつ彼女らの鍵を奪うこと。人数そのものに変更は無いと見ていいだろう。
第一体育館の入り口を後にして校内の探索を始めてから、僕の体感的に十分前後ほど経っていた。
見回ってみてわかったが、校内は無人だ。静かすぎる。
空は明るく晴れた日中なのに、生徒も教師も見当たらない。教室も職員室も、机や椅子が並ぶのみで人の形跡が無い。
おそらくこの淫夢の世界が形作る学校では、僕と誘惑美女以外に人がいないのだろう。
「まるで勤労感謝の日みたいだな」
現実世界にいたころ、休日と平日を間違えて学校に来て、人のいない殺風景な校舎を見たことを僕は思い出した。
あのときは校門が閉じていて学校に入りたくても入れなかったが、今は違う。
無人の学校を歩いていると、イケナイことをしているようでちょっとワクワクする。
階段をのぼって六階に上がり、廊下、教室、放送室、資料室、六階から屋上への階段と、アテもなく漠然と見回っていく。
途中、なにかに導かれているような嫌な予感を覚えた。
そろそろ誘惑美女と出会う頃合いなのだろうか。
「でも、根拠は無い。ただの僕の気にし過ぎ……の、はずだ」
探索を続けるべく、僕は屋上のドアに手を伸ばす。
扉についている窓ガラス。それにうっすらと反射する僕の姿に、
「ん?」
僕の瞳に、異変が起きた。
瞳の中に映っている忌々しいハートマークが、陽炎のように揺れたかと思うと、溶けるようにスーッと消えてしまった。
媚薬ガスの副作用の証である、瞳のハートマークが消えた。
「あ、あれ? ……あれぇ」
ホテルステージでさんざん手こずった副作用の突然の消失に、僕はあっけにとられる。
たしかクイーンサキュバスの最期の手紙では、副作用が切れるまであと一回分の誘惑を耐えるまでかかるとあったはず。
体調の話だ。僕の回復力によって時間は多少ずれるかもしれないが……それでもまさか、次の誘惑が始まる前に副作用が切れるとは!
「……ラッキーだと思おう」
ちょっと好都合すぎて怖いが、運が味方したと素直に捉えておく。
気分を良くしながら、でも過剰に喜んで油断しないよう気をつけつつ、僕はドアノブを回して屋上への扉を開いた。